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Episode.8 「三つの欠片、集う」

by:メリーさんのアモル 

キャラクター紹介

 

[ナガセ・タクミ]……軌道エレベータ「世界樹」に存在するメガサーバー「世界樹」の監視官カウンターハッカー
[電子の妖精]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。タクミの相棒。タクミだけが本名を知っている。

 

[スミス・マミヤ]……アドボラの戦闘員。

 

[フレイ・ローゾフィア]……連邦フィディラーツィア 出身のアジアゲームチャンプ。e-sportsチーム「クラン・カラティン」所属

 

[如月アンジェ]……電波犯罪対策課の一人。
[速水ミサ]……電波犯罪対策課の課長。

 

[ドライアドの少女]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。突然現れた緑の髪の女性。もう少女という年齢じゃないかもしれないけれど、彼女はこう呼ばれるべきだろう。

 

[空見鏡也]……管狐という使い魔ファミリア を連れている謎の青年。高校生程度の年齢に見えるが……?
[天使深雪]……剣を持つ美しい少女。空見と同じくらいの年齢に見えるが……?

 

[中島美琴]……e-sportsチーム「クラン・カラティン」のメンバーの一人にして討魔師。エターニアの血を受け継いでいるので、まだまだ若く見える。
[中島碧]……アンジェの高校時代の生徒会長。美琴の娘で討魔師。

 

 

用語紹介

 

[オーグギア]……AR技術を利用した小型のウェアラブル端末。
[メガサーバー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。ユグドラシルシティの軌道エレベータの内部に存在する地球全土と接続されている巨大なメガサーバー。
[“彼女〝の戦争]……3つ存在する”戦争〟の一つ。血の流れない、電子の世界で毎日起きている争い。その名前の意味はタクミと電子の妖精だけが知っている。

 

[アドボラ]……GUFの独立監査部隊。少数種族等への権利擁護アドボカシー を目的としている。
[フェアリースーツ]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。メインスラスタの光が妖精の羽に見えたことからそう名付けられた。
[研究コロニー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。アドボラが隠れ蓑にしていた研究用コロニー。多くの発電用プラントが側面へ枝を広げるように伸びているその見た目から名付けられた。
[サーミル動乱]……3つ存在する〝戦争〟の一つ。宇宙生物「サーミル」とそれによってもたらされるサーミル症候群に関わる、GUFやアドボラが関わった事件。

 

[電波犯罪対策課]……警視庁刑事部捜査五課のこと。電波感応者という特異体質者が引き起こす電波犯罪に対し、電波感応者を解決に当たらせるという発想から発足した。

 

[パシフィックツリー]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。太平洋の世界樹。この世界の安寧を願って建造された。
[文明大崩壊]……3つ存在する〝戦争〟の一つ。突如現れたパシフィックツリーと怪物たち(ドヴェルグ)によって引き起こされた。

 


 

「行きましたか……」
「碧、よそ見をしている暇はありませんよ。彼らが彼らの戦いを全うできるように、私達も全力で足止めせねば」
「はい、お母さま」
 二人の女性がそれぞれの武器を構える。
「元宮内庁の討魔師親子がそろい踏みか。特に美琴さん、あなたが今もまだ生きているのはひとえに神の加護があればこそ、それでもなお、俺と戦うと?」
 空見が管狐を展開したまま声をかける。
「もとより、神とは人に良きも悪きも為すもの。山人が信仰すればそれは荒ぶる神となるかもしれぬし、天津神と国津神は争う過程で人に仇を為すこともある。例え、天を照らす偉大なるお方であろうと、禍津神に身を落とすこともあるかもしれぬ。どうあれ、私達の仕事は人に仇為すものを押しとどめ、人々の暮らしを守ること」
 しゃらんと、美琴の持つ大麻おおぬさ が音を立てる。
「これまであらゆる恩を受けてきた、しかしそれでも死ねという恩返しには従えない」
「話にならない。もういいでしょ」
 美琴がまだ口を開こうとするのを待たず、天使はその剣を美琴に向ける。
「残念ですが、あなたの相手は私です」
 天使が上段に剣を構えたところに、碧が下段から刀を向ける。
「くっ」
 天使がそれに反応して、剣を刀に合わせようとする。碧は剣に刀がぶつかる前に刀を引き、そのまま肩でタックルをぶつける。天使はたまらず転倒する。
「何やってる、管狐」
 それを見た空見が管狐を碧にぶつけようとするが、三体の紙でできたヒトガタが管狐の突進を妨げる。
「式神か! 神の力を得てないものを使うとは……」
「あいにく、私は宮内庁の討魔師としてはプライドがない方でして……。それに、これはあなたが拒んだ道でもあるでしょう?」
「晴明! あいつが!!」
 管狐が空見の意思に反応して美琴に向き直る。美琴の周りには5つのヒトガタが身を護るように展開されていた。
「さぁ、次はどうします?」
 美琴が右手に符を構える。

 

▲ ▲ ▲

 

「ここが正解、だよな?」
 ぜぇぜぇと息を切らしていつものように正面から世界樹に入る。
「えぇ、そうだと思います」
 俺たちを先導して歩いてくれていた、電波犯罪対策課の二人のうち、如月と呼ばれている方が頷く。
「世界樹へ、太平洋樹じゃない天を突く……このあとは全く聞き取れませんでしたが、太平洋樹ではない世界樹といえば、ここくらいでしょう」
 如月が続ける。
『タクミ!』
 そこに、俺の相棒が駆けつけてきてくれる。
「よかった、大丈夫だったか」
『当然、そう簡単にへこたれないよ。それに、これもまた戦争なんだよね?』
 戦争。実際に血を流す戦争じゃない、電子の世界で起きるハッカー同士の戦い。〝彼女〟の口癖だ。
「それで、この後どうするの?」
 ある意味俺の命の恩人であるフレイが当然ともいえる疑問をぶつけてくる。
『えーっと、タクミ、この人たちは?』
「あ、えーっと……」
「初めまして、警視庁刑事部捜査五課課長、速水です」
「同じく、如月です」
「GUFアドボラ所属、スミス・マミヤです」
「……クラン・カラティン所属、フレイ・ローゾフィア」
『え、えー。最後の人はよく分からないけど、警視庁にGUF? タクミ……何やらかしたの?』
 全員の名乗りを聞いて、あきれ顔で俺の方を見る妖精。
「いや、あの蟻の化け物に対処するために有志で集ったとか、そんな感じだよ」
『そっか。あれ? みんな量子通信が切れちゃってるね。世界樹のローカルネットワークに接続してあげる』
 俺と、そしておそらくここにいる全員の視界に、世界樹のネットワークに接続したことを示すメッセージが出現する。
「何とか再接続できました。みなさん、ご無事ですか?」
 そこへ、さっきのドライアドが現れる。
「まさか人間たちの中にも、かの混血の神に与するものがいるとは、もはや一刻の猶予もありません、この世界が再び騒乱の世界に戻らぬように、全てを起こしている黒幕、かつ混血の神を止めてください」
 ドライアドはまくしたてるようにこちらに話しかけてきた。
「待ってくれ。そりゃ、協力はしたい。けど、説明してくれないとどうしようもない」
「そうですね、説明しましょう。全ての事件の元凶、それはアーシスと呼ばれる神族の出の神の一人です。彼は純粋なアーシスではないハーフで、もう一つの故郷にずっと思い焦がれていたのです。そして、その想いは全ての世界をもう一度一つに戻す、という形で実現しようとしています。しかし、それは願ってはならないことです。この世界に死霊と巨人と鬼と黒妖精と白妖精と小人と人間と神と精霊とが一緒に住むことはできないのです」 
 ドライアドの少女は説明する。つまり、その混血のアーシスは自分の欲望のために他の世界へ進出したい種族をそそのかして世界を一つにしようとしてるってことか。
「それで、どうやって止めるの?」
「はい。パシフィックツリーは一つの種族では稼働停止は不可能なように設定しました。しかし、混血のアーシスは、3つの世界樹を重ね合わせることで、それを無理やり可能としているのです」
「それって……」
 ドライアドの少女の説明を聞き、思い当たる節があるらしい、スミスがつぶやく。
「はい、星々の世界に浮かぶ〝世界樹〟です」
「やっぱり。私達アドボラが昔隠れ家にしていた世界樹のことだと思います。今はGUF管轄の研究用コロニーなんですが、最近いきなり凍結されたと聞きました」
「はい。重ね合わせた世界樹の機能を止めることで、パシフィックツリーの機能を停止させているのです」
 それを聞いて俺もひらめいた。
「そうか! 奴らがまずここを襲ったのも」
「そうです、この世界樹が機能を完全に停止すれば、パシフィックツリーも完全に機能を停止します」
「事情は分かったわ、それでどうやって止めればいいの?」
 速水が続きを促す。
「星々の世界の世界樹に乗り込み、混血のアーシスを止めてください」
「無茶です。今は時空歪曲妨害によってワープも封じられてる。いや、そもそもこの軌道エレベータも今は昇降を停止してるから、宇宙に行くことすら」
 宇宙の人、スミスが反論する。
「その心配はありません。3つの世界樹は重なり合っています。それはあなたたちが使っている量子操作による通信よりも確実で途切れることの無いつながりです」
「そうか! 朝、世界樹に侵入してきたときの経路をたどれば、奴らのコンピュータに侵入できる」
 俺は自分のひらめきを口にする。
「その通りです。あとは、その回線を通して、皆さんには星々の世界の世界樹へ行ってもらいます」
「それって……」
 嫌な予感がする、という表情の如月。
「はい、電子化し、星々の世界の世界樹の電脳世界で混血のアーシスを討ってください」

 

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