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Legend of Tipaland 第1章

 そこは、異次元。無重力であるかのごとく様々な物体が周囲を浮遊し、そして今、三人の男女が立っているそこもまた、浮遊している物体の一つでしかない。
 魔法、またあるいは外法などと呼ばれる技術で構成されたこの空間は、今終わりを迎えようとしていた。
「おい、どうするよ。このままじゃ三人まとめて死んじまう」
 槍使いは言う。
「そうよ、せめてあなただけでも、逃げないと」
 女剣士は言う。
「あぁ、大丈夫。考えてあるから」
 そして、〝勇者〟は二人に笑いかけてそう言った。

 

* * *

 

《2007/Gemini/4 北西州-最南端-世界の壁》

 

「うーん、特に綻びは見られないけどなぁ」
 一人の剣士が目の前に立ちふさがる巨大な真っ黒な壁を見上げながらつぶやく。
「といっても、綻びがあった方が喜ばしいんだろうけど」
「かつて神々の戦争を止めるために人々が召喚した邪神が作り出した〝世界の壁〟、か」
 剣士の横にもう一人クロスボウ使いが近寄ってくる。
「ライアー、そっちどうだった?」
「俺の範囲にも綻びはなかったよ。でも、元々この〝世界の壁"って、魔術適性が高い奴か、"魔女〟なら通り抜けられるんだろ? その時に一時的に綻びが生まれてすぐ修復されたとかじゃないのか?」
「報告書にその推測を書いたら、推測を報告するなって本部長に怒られるよ」
 ライアーと呼ばれたクロスボウ使いのいい加減な発言にあきれ顔で応じる剣士。
「『コンクエスターはただ事実のみを認識すべし』だっけ? 古くせぇよなぁ。だいたいコンクエスターがかつて初めて〝魔女〟と会った時……」
「とりあえず撤収しよう。何事もなかったならそれを報告して安心させてあげないと。それに、僕らコンクエスターを必要としている仕事はまだまだあるんだしね」
 ライアーの実のない話をこれ以上立ったまま聞く羽目にならないよう、剣士が口を挟む。
「いい子ちゃんだなぁ、アルは。ってか帰りも歩きか? お前、騎士なんだから早く馬買えよ。《騎乗》の訓練は終えたんだろ?」
「うん、まだ初歩だけだけどね。でもちゃんとした馬って高いから」
「早く馬を用意しないと、お前、傍から見てたら剣士にしか見えないぞ」
「移動が怠いのは分かったよ。宿場町まで行ったら馬を借りよう」
「そうこなくっちゃな!」
 そして、二人の男は森に消えていった。

 

 …………しかし、近くの茂みにまだ一人。
「行ったか」
 フードをかぶった〝人間〟が、二人を陰から見ていた。
「コンクエスターか。……〝世界の壁〟に綻び?」
 〝人間〟がアルと呼ばれた剣士……騎士がそうしていたように黒い壁を見上げる。
「あり得んな。……寄り道している場合ではないか。急がなくては」
 〝人間〟もまた、二人の男がいたのとは別の方向に消えていった。

 

◆ ◆ ◆

 

 ≪2007/Cancer/3 北西州-州都〝ルプス〟≫

 

「結局一か月かかっちまったな!」
「当然だろ。ルプスは中央より北よりの位置にあるし、最南端から最短距離で休みなく走っても半月はかかる。色々なものを迂回してるし、休憩は必要だし。でなきゃ、あんな数の宿場町はいらないだろ」
「でっかい山とかに全部トンネルとか掘っちまえばいいのにな!」
「それって得するのって僕らコンクエスターくらいじゃない?」
「なるほど、俺ら便利屋風情のためにお金出して、まして働いてくれる奴なんていないか」
「いや、そういう話じゃなくてさ……」
 にぎやかに街の入り口にやってきたのはアルとライアーだ。アルが馬を操り、ライアーはその後ろでアルに掴まっている。
「じゃあ、僕は馬を宿に返してくるから、ライアーは先に報告のために本部に戻っていて」
 そして、ライアーは馬から降りて、街へ駆け出していく。アルは馬を操って、街の関所前の宿に近づいていく。

 

 コンクエスター本部。ギルド本部長の前に二人はいた。
「報告は分かった。まぁ世界の壁については分からない事も多い。十分な報告とは言えないが、目をつぶるとしよう。さて、ライアー、アル、二人に依頼がある」
「マジかよ、今帰ってきたばっかりだぜ」
「ちょっとライアー」
 ギルド本部長の言葉に、不満を漏らすライアー、たしなめるアル。
「気持ちは分かる。だが、これを見たら少しは気も変わるのではないかな?」
 ギルド本部長が取り出したのは長方形の紙であった。
「列車のチケットか!」
「ライアー、アルそれぞれに来ている依頼は緊急を要するものらしくてな、先方からこれを渡すように、と」
「マジか! アル、見ろよ、列車のチケットだぜ! 今回は、馬にのってケツを傷めずに済むぜ」
「うん、いや僕は乗った事あるけど……」
 この世界における列車は非常に運賃が高い。少なくとも一般庶民にとってはとてもではないが縁のないものである。しかしその値段に見合ったメリットはある。粒子加速によって得られる高速性を利用した列車は非常にはやく、例えばアルとライアーが先ほど一か月かけて移動したような距離など、ほんの数時間で移動できてしまう。
「依頼は二つ。それぞれ違う依頼主からの仕事だが、列車を使った仕事なのは一緒だ。一つは南東州、もう一つは北東州だ。ほれ、好きな方を選べ」
「やった。じゃあ俺はこっちな」
「じゃあ、アルはこっちだな、依頼内容は記載されてない。現地で説明してくれるとのことだ」
「やったなー、じゃあさっさと行こうぜ、アル」
 テンションの高いライアーはさっさと駅に向かってしまう。

 

 駅の見た目は私たちの知るそれと大差ない。違いがあるとすれば、いわゆる線路がない事。そして列車の見た目がむしろバスのような見た目である事だ。これは列車の客が極端に少ない事に起因している。実際、たった一両の列車の中にはアルとライアー以外には一人か二人くらいしか見当たらない。
『本日は、フォトンライナー「ハシル」にご乗車いただき、誠にありがとうございます』
 アナウンスが響く。
「しかし、ハシルって変わった名前だな」
 座席に座りながら、そういうライアー。
「神聖語で高速で移動するって意味らしいよ」
「へぇ、そりゃ……、列車にぴったりだな。流石、名前に神聖語を使う家は知識が違う」
「やめてよ、そんなんじゃないから」
 アルの答えを笑うライアー。神聖語とは、かつて神が使っていたとされる言葉である。大陸共通語とは文法からして異なる言語で、今となっては一部の動詞が残っているだけである。
「んで、アルってどういう意味なんだっけ?」
 おふざけモードのライアーはさらに調子に乗ってアルに尋ねる。
「えーっとね、存在する、とかそういう意味らしいよ」
「へー、なんだ、お前もしかして体弱かったりしたのか?」
「そんな事はなかったと思うけどなぁ」
 そんな談笑に花を咲かせていると、ポーンと、音が響く。
『これより本車両は〝世界の壁〟を突破します。衝撃に備えてください』
「おぉ、噂には聞いてたけど本当なんだな」
「うん。〝 世界の壁〟 を突破できる唯一の乗り物」
 粒子加速により空間そのものを加速させて移動するチパランドの列車の最大のメリットは、チパランドを4つに分ける〝世界の壁”と呼ばれる黒い壁を突破できる事である。現状、普通の人間がこの”世界の壁〟を超えるには列車を使うしかない。
 一瞬すごい揺れが襲い、外の景色が一気に変化した。
「南西州は熱帯林が多いんだっけ? 同じ森でもルプスとはだいぶ感じが違うなぁ」
「こんな高速で景色が流れているのによくわかるね……」
「いや、木の色が違うくらいしか分かんねぇけど」
 なんて話していると、外の景色が少しずつ人間の目に普通に見えるくらいになっていく。
「お、もうすぐ南西州の駅か」
「列車は止まるのにすごく時間がかかるらしいから、もうちょっとあとじゃないかなぁ」
「そういえば、南西州にはドラゴニア平原っていうドラゴンがたくさん住んでる森があるらしいじゃんか。一度見てみたいぜ、ドラゴンかー」
「ドラゴニア平原は駅のある州都よりずっと南だからこの列車から見る機会はないんじゃないかな。それと、あそこにいるのは基本ワイバーン系ばっかりだし、平原とは名ばかりの熱帯雲霧林だから飛んでてもあんまりわからないよ」
「なんだ、詳しいな。お前南西州の生まれだっけ?」
「まぁね。僕も良くは知らないけど」
 南西州にはコンクエスターが少ない。南西州には基本的にハンターと言われる森での戦闘を得意とする者達がいるからである。アルは両親からの言い付けでコンクエスターになる事が決まっていた。南西州ではコンクエスターにはなれないから、北西州のコンクエスター養成学校に入る事になったのだ。
「おい、見ろよ、ここが南西州の州都か?」
 電車が駅の到着し、停車する。
「みたいだね。林業が盛んだって聞いてるけど」
「へぇ、南西州と言えば〝魔女〟が多く潜んでるって聞くが、見た感じそんな風でもないな」
「そんなの嘘に決まって……るとも限らないか」
「おお? なんか思い当たる節でもあるのか?」
 思わるアルの言葉に身を乗り出すライアー。
「うーん、そういうわけじゃないけど……」
 しまった、面倒な事を口走ったな、と口を噤むアル。
「なんだよ、歯切れの悪い。俺とお前の仲だろ。コンクエスターとしてはやっぱり〝魔女〟と戦うのに憧れるじゃないか」
「うーん、僕はそんなにかなぁ……」
 そんなライアーの追及を振り切りつつ、列車が駅から出発し、初期加速に入ろうという時、列車が突如大きく震えて、ズドン、と地面と接触する。
「なんだ!」
「外に出てみよう」
 慌てて外に出ると、そこには黒いローブを深くかぶった集団。前に二人、その後ろに三人といったところ。
「カミナリ、ハシレ」
 杖から雷が発生し、
「〝魔女〟か!」
「いや違う。さっきのはただの神聖語だったし、出る直前に一人が足元に展開してたのは、僕たちと変わらない魔法陣だ。だからあれは魔法じゃない。魔術だ」
 アルが腕を前へと突き出す、同時に足元に魔法陣が出現し、そして腕の先に透明な障壁を展開する。黒いローブの人間によって放たれた殺到する雷は、全てその透明な障壁によって防がれた。
「アンチマジックシールドか。助かった。単なる魔術師だってんなら怖くねぇ」
 ライアーがクロスボウを構える。
「いつも通り、僕が前に出るから、支援よろしく」
 アルが腰から剣を抜き両手で構える。
「おう、いつでも行けるぞ」
 その言葉が終わるより早く、アルが一気に駆けていく。
「カミ……ぐっ」
 杖を突きだして詠唱を行おうとしたローブの男の足に、突き刺さる。
「ファイア・ボルト」
 しかし、それを見越してもう一人が、炎の魔術を放つ。炎の塊がねじれるように蠢きながら、槍のようにアルに迫る。アルは、左手を剣から離し、前に突き出す。合わせて、魔法陣が足元に出現する。魔法陣はその魔法陣を綴った時に記録された〝想い〟を使用者に与え、想いが力となるこのチパランドでは、それこそが魔術として力になる。それは、先ほどと同じ、透明の障壁、アンチマジックシールド。それはやはり先ほどと同じように炎の魔術を打ち消した。
「それ、あと何枚だ!」
 クロスボウのハンドルを回して装填しながらライアーが聞く。
「あと、三枚」
「心もとないな!」
 魔法陣を使った魔術は確実に、一瞬で、かつ強力なものを使える為非常に便利だ。しかし、魔法陣は使ってしまえば消滅してしまう。敵の術者がやっているように詠唱して魔術を発動する方が時間も安定もしない代わりに、空間に魔力さえあれば何回でも使える。アルは詠唱してアンチマジックシールドを展開する事ができない。アンチマジックシールドが失われれば、敵の魔術師に敗北する事は避けられない。つまり、アルとライアーは短期決戦に持ち込むしかない事になる。
 三人目の魔術師が足元に魔法陣を出現させ、大きく蔦を伸ばす。アルとライアーを妨害するつもりだ。
「ファイア!」
 アルが再び左手を突き出す。その腕先から炎の塊が飛び出す。ファイア、人神契約語で「炎」を意味する言葉だ。その燃焼は先ほど敵が使った魔術とは比べ物にならないほど弱かったが、確かに一瞬、蔦の成長を押しとどめた。
 前衛の二人が剣を構える。アルの使っている剣よりやや小さい、いわゆる片手剣と言われる部類の剣だ。
「アル、あれを使って終わらせろ!」
「分かった!」
 アルの足元に魔法陣が出現する。次の瞬間、風が剣にまとわりつく。その剣を両手で構えて、敵の集団に横一文字に振る。明らかに踏み込みの足らない、敵には届かない一撃。しかし、剣にまとわりついていた風が一気に解放され、敵を転倒させた。
「これ一枚しか残ってなかったのに」
「投降しろ。魔術師だけでは何もできまい」
 アルの愚痴を聞き流し、投降を促すライアー。ところが、
 さっき魔法陣を使っていた魔術師が、再び魔法陣を出現させ、腕から鎖のような物を出現させて一気に、列車の天井に飛び乗った。
「させるかよ!」
 もっとも、装填を終えていたライアーに足を打ち抜かれて終わりだったのだが。
「街の警備隊が来るまで待機だってさ」
「こいつら、何だったんだ?」
「列車の屋根の上に飛び乗ってたし、多分、魔術結晶狙いじゃないかなぁ……」
 魔術結晶はチパランドの世界では主なエネルギー源である。一度魔術を教えると、起動時に自動的にその魔術を実行してくれる。チパランドに存在するあらゆる機械製品はこの魔術結晶で動いている。そして、南西州は魔術結晶の産出量が非常に少ない。おそらく、魔術結晶を盗んで売り払う目的だったのだろう。
 なんであれ、アルとライアーはしばらくここで待たされるらしい。

 

《2007/Cancer/3 南東州-フォトンライナー「ハシル」内》

 

 それからしばらくして、ようやく列車は動き出した。先ほど〝世界の壁〟を通り抜け、今、南東州に差し掛かった。
「おぉぉ、すげぇな、道が全部舗装されてる」
「南東州はルプスに負けないくらい大きな街になってる、それどころか工業力はチパランド1って聞いてたけど、本当みたいだね……」
「工場ってやつだろ、あれ。すげぇ」
「僕も初めて見たよ」
「お、依頼主あいつじゃないか? オレンジのコートって」
「あ、そうだね、そうかも」
「すげぇすげぇ、あれ自動車だぜ!! あれに乗って移動するのかー。ワクワクしてきた」
 自動車はチパランドで最近発明された馬車に代わる移動手段である。蒸気機関と呼ばれる仕組みで稼働し、馬四匹の大型馬車を越える馬力が出る。小さめの魔術結晶だけで十分な時間稼働する事と何より馬を使わないでいいのが利点である。ただ、車輪の都合などから舗装されていない場所は十分な速度が出せないか、そもそも走行できなかったり、馬車に代わる、と言うものの実際には二人乗れるくらいのものが多く、二人での移動なら走破性を考えると馬で充分であったり、という扱いが現在のところ多い。当然、馬車のような大規模な物資移動も望めない。
 南東州では道が舗装されている場所が多いためか、それなりに使われている事が、列車の窓からも伺える。
「よし、それじゃあな、アル」
 駅についたのを確認してライアーが列車から降りていく。
 そして、ふわりと列車が浮かび上がる。

 

《2007/Cancer/3 北東州-州都〝カナリア〟》

 

『カナリア、カナリアです。次はルプスに停まります』
 というアナウンスと共に扉が開く音がする。
「ここがカナリアかぁ。そして、あれが噂に聞く〝ザ・マウンテン〟」
 カナリアというのは神話の世界に登場する鉱山等で飼われている鳥の名前であるらしい。北東州は魔術結晶をはじめとする鉱石の産出量が多い。その極めつけが、駅を出てすぐの場所からでも遠くに見える巨大な山〝ザ・マウンテン〟だ。人神契約語で「山」という直球な名前であるその山はチパランドで最も大きく高い山であり、そして魔術結晶の一大産地でもある。
「依頼は、〝ザ・マウンテン〟で新しく開拓中の採掘場に現れた魔物への対処、か。なんで現地のコンクエスターじゃなくて僕なんだろ……」
 北東州はその性質上コンクエスターもそれなりに存在している。わざわざ北西州から人を呼ぶ必要があるとは思えない。よほどの強敵であれば別だが、それならアル一人というのはおかしい。中々奇妙な依頼だと言えた。

 

《2007/Cancer-5 北東州-“ザ・マウンテン”山麓宿場町》

 

「え、ここからは歩きなんですか?」
 馬を走らせて、宿で休んで、二日。登山道らしき場所へたどり着いた。
「えぇ。馬車での輸送はあるし、馬で移動できないわけじゃないんだけどねぇ。ここから先には宿場町がないから、馬を貸す事はできないのよー」
「なるほど……」
 チパランドは駅伝制を採用している。宿場町がぽつぽつと存在していてそこで馬を借りてまた別の宿場町でその馬を返すというわけだ。
 この先、〝ザ・マウンテン〟の採掘場の人々はほとんど住み込みで働いているため、馬でこちらに戻ってくる事がなかなかないのだろう。とアルも理解する。
「分かりました。登山道はこっちですね?」
「そうだよ。その道に沿って歩いていけば集積所がある。集積所からは各採掘場に動力トロッコか輸送用の馬車で接続されてるからねー」
「動力トロッコ?」
 聞きなれない言葉に首を傾げながら、登山道を登っていくアル。
 しばらく歩いていると、すごいスピードで馬車が下ってきた。
「どうしたんですか!!」
 馬車に向かって叫ぶ。
「魔物が出たんだよ! くそ、追ってきてる!」
「魔物!」
 馬車が駆け下りていくと同時、アルの視界に、三匹の大きな犬のような生物が目に入る。私達の世界に存在する犬との相違点は明らかな大きさと、オレンジに近い赤く鮮やかな毛色。「ハウンド」と呼ばれる魔物である。
 剣を抜いたアルを見て、標的と認定したらしく、ハウンドがグルルルと唸る。
「火を噴かれると面倒だな……」
 魔物は、一般的な生物とは全く別系統の存在である。空間を漂う魔力が何らの物を依り代に形を為したものを魔物と呼ぶ。とはいえ、魔物も生態系の一部である、というのが最近のチパランドの見解である。魔物というのは一般的に生態系内の「破壊者」であると言われている。「生産者」のように何かを作るわけでもなく、他の生物を喰らって「消費者」のように食事をするわけでもなく、「分解者」のように何らかの変換を行うわけでもない。彼らは明らかに人間だけを襲う。そして人間の構造物を明らかに狙って破壊する。
 学者の見解によれば、彼らは本来常に循環しているべき自然のエネルギー「サーキュレタリィリソース」を人間が不自然に滞らせるのを防ぐために存在していると言われている。アルはよく知らないが、サーキュレタリィリソースを意図的に多く滞らせると、巨大な魔物が現れたりする、という研究結果が出ていたりするらしい。彼らは破壊者などという不名誉な呼び名ではなく、「循環者」と呼ばれるべきだ。と主張する研究者も存在している。それ以来、チパランドでは、サーキュレタリィリソースが滞る事のないように気を使って都市開発などが行われるようになっている。偉い人間の考える事であって、アルにはよく分からない事であるが。
 剣を両手に構え、一気に前に進み出る。
「せいっ!」
 まずは一匹。ハウンドは群れる事での強さを大きく高める一匹一匹は弱い魔物だ。それなりにコンクエスターとして実力をつけているアルにとって、何も恐ろしい事は無い。
 中央のハウンドはリーダーであったらしく、二匹の動きが一瞬鈍り、明らかに統率の取れていない動きでこちらに攻撃してくる。通常ハウンドはリーダーの命令で連携を取って動く。ハウンドとの戦いにおいてリーダーをまず仕留めるのは常道と言えた。
 そしてやはりこの残された二匹のハウンドの動きは全く脅威ではない。もしリーダーが健在であればこの二匹がうまく同時に攻撃してその対処を非常に困難にしていただろうが、同時どころか、剣を二振りする余裕すらある。
「シャープ!!」
 呪文を詠唱し自分の中の気分を整える。詠唱魔術、と呼ばれる魔術体系の呪文とは、特定のスペルワードの事ではない。特定の魔術を放つために自らの想いを調律するそのための言葉に過ぎない。そしてこれは魔術を放つための詠唱ではない。想いが力になるチパランドにおいては、鎧にも、剣にも勝手に想いが力となってその力を強めるのだ。だから、詠唱は魔術を使うためだけに使うわけではなく、攻撃に向いた想いに自らの心を纏めるためにも使われる。
 そして、攻撃用に想いを調律したアルは、その剣で、襲い掛かるハウンドを順番に切り払った。
「ふぅ」
 倒されたハウンドと、そして剣にまとっていた魔力が役目を終えて、空中へと返っていく。残ったのは三つの黄金色のカケラ。
「お、ゴールド、結構大きいな」
 ゴールドは、今のチパランドの通貨ヨット(YoT)が出来るまでずっと使われていた通貨であり、倒された魔物が最後に残していく黄金色の物体の事である。現在のチパランドは銀行によってゴールド兌換性が成立していて、ゴールドも銀行に持っていくとヨットと交換してもらえる。とはいえ、ハンターやコンクエスターの間では当たり前に未だに使われている事もある。まぁ、ゴールドは嵩張るし形もそれぞれなので、持ち歩きにあまり向かない。そのため、アルはどちらかというとヨットの方が好きだ。
「さて、と」
 ゴールドを回収して立ち上がり、アルは再び歩き出す。

 

《2007/Cancer/-6 北東州-“ザ・マウンテン”物資集積所》

 

「兄ちゃん、起きたかい? そろそろ馬車が出るよ」
 その言葉にアルは目を覚ます。あの後集積所についたのは夜で、宿に泊めてもらったのだった。
「はい、今行きます!」
 体を起こして軽装の鎧を身にまとって、剣をチェックして準備完了。
 宿から出てみると、奇妙な光景が目に入った。トロッコがひとりでに動いて、鉱石を運んできて、またどこかへ移動していく。別に坂になっている訳では無いし、なってたとしても戻っていくはずがない。
「あれが動力トロッコ……」
 側面に魔術結晶と何らかの刻印が刻まれている。おそらくあれが何らかの方法でトロッコを動かしているのだろう……。
「おーい、兄ちゃん、この馬車だぞー」
「はい、今行きます」
 どういうわけか、彼はアルの事を「兄ちゃん」と呼んでいる。どうやらそういう風習らしいとアルにも分かったが、アルからすると変わった風習で、年上から兄呼ばわりは複雑というか、少し怖い。
「岩だらけだから少し揺れるしな、なんか捕まってろ」
 と、馬車に乗るなり警告される。
「……お前、コンクエスターか?」
 そこに先客が一人。
「そういうあなたは? 騎士の鎧に見えますけど」
「あぁ。一応コンクエスターとして騎士のライセンスは取った。コンクエスターじゃなくて、警備員をやってるけどな」
「僕はアルです」
「スペンスだ。よろしく」
 馬車が走り出す。
「スペンスさん、その武器は? 両手剣ともちょっと違うようですが」
「刀だ」
「刀? あの神話に時々出てくる?」
「そうだ。知らないのか? 北東州では伝統的に作られている」
「知らなかったなぁ。両手で構えるんですよね? 魔術は?」
「刀そのものが杖の役割を果たす。まぁ、といっても魔力を受け入れやすい、というだけで魔術が使えるわけでもないが」
「そうなんですね……」
 アルは始めて見る武器にとても興味が湧いた。もっと質問しようとした、その時。
 大きな炸裂音が鳴り、馬車が大きく揺れる。
「なんですか?」
「反対運動家だ」
 そう言うなり、スペンスは馬車から飛び降りる。やがて馬車も停止する。
「あ、待ってください」
 アルもそれに続く。
「この鉱山は、サーキュレタリィリソースの循環を滞らせている! 即刻、閉鎖すべきだ! 魔物に襲われるぞ!!」
 風属性の魔術で音声を増幅させているのか、大音量で声が聞こえてくる。
「道を塞いでる……これじゃ前に進めな……」
 またしても炸裂音。いや、それは爆発だった。反対運動家、とスペンスが読んだ男たちは何かを投げて、それが爆発したのだ。
「このままではこっちが危ない。鎮圧するぞ」
「え、しかし……」
 と言ってると、馬車の近くで爆発。ちょっとずつ狙いが正確になってきている。
「行くぞ」
 スペンスが刀を構える。アルの見た事の無い、刀に魔力を通すための特殊な構えだ。
「仕方ないか」
 アルも剣を片手で構える。アルの持つ剣は騎士剣と呼ばれる、チパランドで最も広く流通している剣である。片手剣より大きく、両手剣より小さい。両手でも片手でも持てる、というのが特徴だ。騎士は魔術を使いつつ戦闘するため、片手が空手の方が良いが、両手で武器を振るった方が有効な局面は多い。そうでなくても必要に応じてもう片手に盾を持つといった使い分けもでき、魔術が極めて一般的なチパランドにおいては片手剣や両手剣といった専用の剣より広く普及している。相手は少なくとも悪意から行動している訳ではない。殺すわけにはいかない以上、非殺傷の魔術でうまく黙らせる必要があった。
「ウィンド!」
 人神契約語で風を意味するその呪文を詠唱し、左手から風の弾丸を発射する。たかだか一言で調律して発生させた魔術など大した威力はなく、この距離では精々一瞬動きを止められる程度だ。そのまま駆けながら今度は足元に魔法陣を出現させる。腰につるしてあった丸い石が一瞬輝く。この石は魔法陣を記録しておくための石である。人間は多くても5つまでしか魔法陣を記録する事は出来ないためそれ以上の魔法陣を使うには石に魔法陣を記録しておく必要があるのだ。そして、魔法陣はアルに愛しさに似た感情を与え、その感情を元に魔術が発動する。それは自身の剣に触れたものを痺れるような効果を付与する魔術であった。
 アルが接敵するより前に、まだ間合いには遠いはずのスペンスが刀をひと振りする。すると、何人か男たちが倒れた。おそらく構えによって発生した刀身へのエンチャント効果と思われるが、よく分からない。アルがその時思ったのは、「死んでないといいな」という事だった。
「モエル!」
 男たちの内三人が一斉に唱えた。「燃焼する」という意味の神聖語。発動する魔術は当然、炎。横一列、火の玉が迫る。側面に回避する事はできない。
「なら」
 姿勢をさげて、スライディングするように火の玉の下をくぐる。
「ウィンド! ウィンド! ウィンド!」
 くぐり終えた直後に、風の魔術を連射、魔術を放った三人を転倒させる。
 二人が騎士剣を構えてアルに向かい合う。見れば向こうで、スペンスも剣持ち何人かと交戦している。
「来いっ!」
 相手はしょせん素人、二人いるとはいえ、騎士であるアルが後れを取る事はない。上段で切りかかってくる片方を軽く受け止め、起き上がろうとする先ほどの二人を風の魔術で牽制。それを隙と見て左側から切りかかるもう一人。鍔ぜりあいを演じていたのを振りきって、胴体を攻撃、麻痺させる。
「吹き飛べ! ウィンド」
 戦闘中に想いが強く募った事で、いつもより強力な風が生じて、先ほどまで鍔ぜりあっていた相手は一気に吹き飛んだ。
「よしこれで、」
 こっち側はあと一人……と言い切る前にその言葉は止まる。最後の一人は明らかに魔術的な効果のある装束を装備していた。その手には杖。そして、
「風、それは時に優しく人を癒し、時に激しく人を拒む。今こそその拒む力を私に。破壊を望むものよ、この拒絶の疾風を喰らえ!」
 その呪文は大陸共通語。しかし、先ほどから長く詠唱されていたらしく、それによって調律された想いの強さは計り知れない。アルが先ほどはなった全力の風よりも何十倍も強力風が吹き荒れる。
「けど、それでは……」
 アルの下に魔法陣が出現する。強い拒絶の感情がアルの中に芽生え、その想いが魔術となる。それは、透明な障壁、アンチマジックシールド。
(残り2枚……っ!)
 圧倒的過ぎる突風に、アンチマジックシールドも完全には防ぎきれず、アルも多少のけぞるが、しかし……。距離を詰めるために一気に走る。
「風よ! 暴れろ!!!」
「ウィンド・プロテクション!!」
 アルと魔術師の間で突風がぶつかり合う。僅かに魔術師の方が上だったが、しかし、アルの接近を止められない。
「風よ!」
 あと少し、しかし、もう一度魔術が……発動しなかった。
「なにっ」
「投降しろ!」
 対象を痺れさせる効果が消滅し文字通り相手を殺し傷つけるその剣が、魔術師の首につきつけられる。チパランドの魔術は空間を漂う魔力を使って戦う。強大な魔術がぶつかり合い、一時的に魔力が枯渇した空間で、魔術が発動する事は無い。
「これで全員か」
 魔術師が膝をついたのを見て、スペンスが呟く。
「安心しろ、殺してはいない。お前と同じだ。相手の動きを止める魔術を使った。それで、こいつらは……まぁ放っておけばそのうち目が覚めて一度引き返すだろうが。一応、拘束して然るべきところに突き出すか。とりあえず、俺達は目的地へ向かおう」
 スペンスが先に馬車に戻り、アルもそれに続く。
「そういえば、どうしてわかった」
「何がですか?」
 移動の途中、ずっと黙っていたスペンスがふいに口を開いた。
「あの魔術師に接近した時だ。魔力の枯渇くらいちゃんとした魔術師なら普通気付く。あの距離なら、最初に使っていた爆弾で自爆するような攻撃も考えられたはずだ。あの魔術師がそれができないくらい未熟だと見抜けたのはなぜだ?」
「あぁ、それは風ですよ」
「風?」
「風の魔術は魔術としては初歩中の初歩。僕は相手を無力化する必要があるという事で風を使いましたが、向こうはそうする理由はなかったはず。もっとほかの攻撃的な魔術でも良かったはずです。爆弾を使うくらいだからそこに躊躇する訳が無い。風の魔術が得意にしては、風のカッターとか、かまいたちじゃなくてあくまで突風でしたし。それにもしそれが本当に一番の魔術だったとしても接近されてなお風である必要は無いはずだから。例えば、雷などであれば相殺される危険もないはずでしたし。だから多分、風という初歩中の初歩を使えるだけで満足してしまったくずれ魔術師なんだろう、と思ったんです」
 最後は賭けですけどね、と笑うアル。
「なるほどな……。同じ騎士でも、やはり実際にちゃんと魔術を学んでいると違うものだな」
 感心するスペンス。
「よくわかった。お前になら、任せられそうだ。実は、採掘場に住み着いた魔物というのは竜種なんだ」
「竜種!?」
「あぁ。大人数で挑んでもやられるだけだからな。優秀なコンクエスターが多いと評判の北西州にできるだけ優秀な奴を、とお願いしたわけだ」
「なるほど……」
 竜種は魔物の中でもひときわ強力な存在だ。竜種ほどの大物がいるとなると、先ほどまでの抗議、「この鉱山は、サーキュレタリィリソースの循環を滞らせている」というのも信憑性が出てくる。戻ったら報告するべきか、などと考えていると、馬車が到着する。
「早速向かおう。こっちだ」
「あ、待ってください、竜種が相手なら、いま即席で作れる魔法陣だけでも用意しておきます」
「分かった。だができれば今日中に終わらせたい」
「大丈夫、一つだけですから」
 腰につるしていた石の一つを手に取る。しゃがんで、適当な木の枝を取って、地面に魔法陣を刻む。そして、石を手のひらに載せて、目をつぶって魔力の動きに集中する。魔法陣に流し込む。魔法陣が青く輝く。その光が手の上の石の中に吸い込まれていく。文字で書くと簡単だが、実に一時間もの時間を要した。
「大丈夫です。これで魔物の竜種に有効な魔術が使えるはず」
「よし、では向かおう」

 

《2007/Cancer-6 “ザ・マウンテン”第十三採掘場》

 

「この奥だ」
 スペンスは石で蓋された空間を指した。奇妙だ、とアルは思った。採掘場を先へ先へ伸ばしていく中、空洞に行きつきそこに竜種の魔物がいた、と。だがそれは妙だ。だって、それなら、まるでその竜種はそこに住んでいたみたいじゃないか。
 魔術を使って、石の扉を開ける。その先にいたのは、血のような赤いうろこを纏った竜。額の青いクリスタルが特徴的だ。
「スペンスさん、こいつ、魔物じゃないです。こいつ、ドラゴンですよ!!」
「なにっ!?」
 ドラゴンは魔物ではない。れっきとした「消費者」の生物である。種族として魔術への適性があり、ドラゴン語などとも呼ばれる唸り声で想いを調律し魔術を発動させる。
 このように。
「散って!」
 右へ駆け出しながら叫んだアルの声にスペンスが左に走る。直後、炎の奔流がそこを通過する。
 口から火を噴いたようにしか見えないがそうではない。魔術の力で、口から吐いたと息を炎に変換しているのだ。この「変換」は人間にはできない芸当で、一説にはドラゴンの額に必ずあるクリスタルが関係していると言われている。事実、ドラゴンは額のクリスタルを失うと、魔術を使えなくなるらしい。
「狙うはあのクリスタルです!」
「分かった。私が動きを封じるから、お前があのクリスタルを!」
 訳あってドラゴンに詳しいアルは早速、スペンスに今後の方針を伝える。するとすぐにスペンスから返事が返ってくる。先の戦いで、アルの事を信用して良いと決めたらしい。
「グアァァァァァァァァァァ!!」
 一瞬動きを止める効果のついた咆哮が放たれる。そして鋭い爪がスペンスに迫る。
「このっ!」
 咆哮を経験した事があったアルが素早く復帰し、剣を両手で構えてその爪を受け止める。
「助かった」
 復帰したスペンスは直ぐにその腕を攻撃するが、弾かれる。
「バカな!?」
「空気抵抗を出来るだけなくすための障壁です。ドラゴンは4つの魔術を使います。一つは口から放たれる物の変換、次にっ……」
 爪を回避する。
「次に、さっきの障壁、そして……飛……」
 ドラゴンが翼を広げて飛び上がる。あの翼ではドラゴンの巨体は支えられないはずだが、翼から放たれる力を魔術で変換し、飛び上がっているらしい。
「飛行です。最後の一つはドラゴンによって違うのでわかりません! この、ファイア!!」
 そして最後の一つも今明らかになった。牽制のつもりで発車した炎の魔術が、黒い何かに飲み込まれ、跳ね返ってきたのだ。
「闇の魔術か!?」
 スペンスの指摘通り、それは闇と呼ばれる属性の魔術であった。闇と呼ばれる魔術は「未知の何かを生み出す魔術」である。本来、周囲にある何かを使って魔術を使う魔術師の魔術と比べてあまりにも異端。とはいえ、
「ファイア!」
 その黒い何かはあっさり炎で迎撃される。その「何物でもない物質」は、いとも簡単に他の魔術で打ち消されてしまうものでしかない。そもそも物質は物質であり、炎のように燃えたり、雷のように痺れたりという副次効果もない。使い勝手も良くないし、あまり好まれない魔術だ。
「ブレスと咆哮にさえ気を付ければ、何とかなりそうです!」
「あぁ。こっちから斬撃を飛ばして、隙を作るから、そのうちになんとか!」
「分かりました!」
 スペンスが宣言通り、アルから離れつつ、またしても不思議な構えから、刀を振る。すると、言葉通り、斬撃が飛び、相手の翼に命中した。
 馬鹿な奴、翼を断ち切れば落ちてくると思ったか! と笑うように叫び、ブレスを吐く。
「飛べ、ウィンド!」
 その隙にアルが地面に向かって強力な風の魔術を放ち、一気に空中へ飛び上がる。しかし、まだ高度が足りない。
「ウィンド!!」
 目の前のドラゴンの足にもう一度、風の魔術を放って今度は土の壁に向かって斜め上に飛ぶ。風の魔術を闇に変換して跳ね返すドラゴン。魔法陣を使ってアンチマジックシールドを展開。それを受け止めて、その反動でさらに壁に接近。
(あと、一枚……)
「ウィンド!」
 そしてもう一度斜めに飛ぶ。ドラゴンは確実にアルの方を見ている。水平に目が合う。ドラゴンが息を吸う。放たれたのは咆哮。しかし、その直前にもう一度、魔法陣を使ってアンチマジックシールドでその咆哮を打ち消す。
「取った!!」
 剣をクリスタルに突き立てる。
「強く、強く、強く強く!」
 剣の強度を上げようと、せめて叫ぶ。魔力はその想いに応え、剣を強化し、クリスタルを弾き飛ばす。
「今です!」
「分かっている!」
 アルの号令にスペンスが構える。鞘に入れたままの刀の柄を握り、一瞬で抜いて再び納刀。一瞬遅れて、先ほどのブレスのエネルギーが斬撃となってドラゴンに襲い掛かる。
 戦う力を失ったドラゴンが、そのまま落下し、虫の息となる。
「助かるまい、せめて楽にしてやろう」
「……はい」
 スペンスの言葉にアルは頷くしかなかった。が、ふと、不思議なものが目に入った。それは先ほど弾き飛ばしたクリスタル。あれは魔力の塊のようなものであるらしく、ドラゴンから切り離されると即座に魔力となって消えてしまうのだが。それはまだ残っていた。
「これは貴重な資料だ。持ち帰ればドラゴンの研究が進む」
 アルはそれに近づき、手に取ろうとする。
「それに触れるなーーーーーーーーっ!」
 横から誰かが飛び出してくる。しかし、その時にはもうアルはそのクリスタルを手に取ってしまっていた。そして、そのクリスタルは紅く煌めいて、膨大な靄のような何かを空間中に展開し始めた。
「間に合わなかった…………」

 

 To be continued…

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