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Angel Dust -第4章-

[ルシフェル]……突如空から舞い降りた"巨人"。真っ白に翼の生えたその見た目、そして"ある特徴"からその名前が付けられた。人類に仇なす存在で街に降り立っては破壊しつくす。その巨大さゆえに通常兵器はあまり有効とは言えず、さらにコアを破壊しなければ様々な手段で破壊行動を続行するため、効率よく撃破するには、同じサイズの"巨人"、デウスエクスマキナが必須となる。

 

 私は今、スカーレットのコックピットブロックの中にいる。ヴァーミリオンにコックピットブロックをつける、と言われ、どんなものか分からない、と返すと、それならスカーレットに実際に乗ってみなさい、とメイヴさんが言ってくれたのだ。
 ひざまずいているスカーレットに近づくと、胸部が自動的に開き、紐がするすると降りてきた。見れば、滑車の反対側おもりの部分を何かが支えている。なるほど、と納得しながら紐の取っ手を手に取ると、おもりの支えが消え、重りが一気に落下し、反動で私は一気に浮き上がった。
「え、わ、わ、わ、わぁぁぁ」
 こうして私はコックピットブロックとやらの椅子に座っているわけだ。胸部が閉じられ、目の前と、左右にそれぞれ"窓"……モニターというらしい。に外の様子が映し出される。足元にペダル、手元にはレバーのようなもの、普通はどうやらこれを使ってデウスエクスマキナを動かすようだ。またもなるほど、と感心していると、右側のモニターにメイヴさんの顔が現れた。右上には「Live」の文字。通信、という奴だろうか。
「コックピットブロックがあれば、もちろんそのペダルや操縦桿を使ってデウスエクスマキナを動かせるけど、それ以上にこんな風に通信したり、備え付けられたスピーカーを通して外に声を発信したりすることができるってわけ。……あ、そうそう、コックピットブロックがある状態でも、直接動かせるか試してくれる?」
 メイヴさんが説明してくれる。よし、やってみよう。目をつぶると、外の風景が見える。よし、次は体を動かす。まずは右手を前につきだ……あ、その前に。
「よろしく、スカーレットさん」
《ん? あぁ、話しかけられるなんて何百年ぶりだろうか。私はスカア……いや、今はスカーレットか。よろしく、フレイ》
 声が返ってくるかは分からなかったが、とりあえず声をかけてみると、女の人の声が返ってきた。みんながみんなあんなおっさんじみた声と性格をしてるわけじゃなかったのね。
 改めて体を動かす。うん、問題なく動かせる。
「メイヴさん、問題なく動かせそうです。外の風景も見れました」
「あ、そう? それなら、モニターの表示は外の様子じゃなくてもいいかもしれないわね。こっちで少しいじるわよ」
 そう言うと、左側のモニターにモニター一杯の円が出現した。上に向けて、45°より少し狭いくらいの範囲を示す二本の斜め線が中央から伸びている。
「それはレーダーよ。デウスエクスマキナの反応、そしてルシフェルの反応を拾って相対的に表示してくれるわ。便利でしょ?」
 確かに。私は頷く。これがあれば、いちいちあたりをきょろきょろ見渡さなくても味方の配置なんかがわかる。
「この前、出撃した時は少し苦労したものね。あ、そういえばあのマラカイトのエンジェルとはまだ直接挨拶してなかったわね。あとで行きましょう」
「はい、お願いします」
 マラカイトは少し前に共闘したデウスエクスマキナの名前だ。緑色の美しいデウスエクスマキナだった。
「さて、と。右モニターは通信用でいいとして、中央モニターはどうしようかしら……まぁ、何らかの外部武器を使った時に備えてこのまま中央モニターはメインカメラと接続したままにしておきましょう。……それで、どう?」
「はい。モニターの内容を変えられるなら便利ですし、椅子と足と手を置く場所がそれぞれあるのは楽でいいです」
「そう、それならよかった。じゃあ、その感じでヴァーミリオンにも設置するわ、問題ないわね?」
「はい、お願いします」
「じゃ、降りてきて。ハッチはこちらから開けるから、あとは紐の取っ手をつかめばいいわ」
 そう聞こえたかと思うと、勝手にスカーレットがひざまずき、モニターが暗転する。そして胸部が開かれ……。意を決して紐の取っ手をつかんだ。
 シュルルルルと紐が伸びて私を地面に降ろしてくれる。……降りる分には少しいいかも。
「お疲れさま、じゃあ美琴……マラカイトのエンジェルと挨拶に行きましょう。それが終わったら今日は自由にしていいわよ」
「はい」

『美琴? メイヴだけど、今大丈夫かしら?』
『はい、ただいま開けますので』
 クラン・カラティンの宿舎(といっても地下なので舎と言っていいのかは分からないが)のとある部屋の前で立ち止まり、メイヴさんはノックをして英語で美琴さんというらしいその部屋の主を呼んだ。
『いらっしゃい、メイヴさん』
 和服だった。いや、巫女服というのか? ここ一か月いろいろ勉強したとはいえ、日本の文化には詳しくない……が、それが日本の民族衣装の類であるのは察することができた。
『美琴、この子がヴァーミリオンのエンジェルのフレイよ』
 メイヴさんが私を前に押し出しながら私を紹介する。
「フレイ、彼女がマラカイトのエンジェルの美琴よ」
 そして美琴さんを手で示してわざわざロシア語で紹介してくれる。
『は、はじめまして。フレイです』
 ぎこちなく習いたての英語で挨拶する。
『こちらこそはじめまして、宮内庁所属の中島美琴と申します』
「え……っと」
 今、分からない単語があった。
「『宮内庁』……?」
 分からなかった単語をそのまま反復する。
「宮内庁っていうのは、日本にある霊害対策のための組織よ。元々は天皇陛下の世話をしたりしてた役所みたいだけど、日本が国としての形を成していない今、もはや霊害対策がメインになってるわね」
「は、はぁ」
 よくわからないが、メイヴさんの説明をそのまま受け止めれば、日本にある特殊な組織の一員らしい。霊とはなんともオカルトチックだ。ということはまさか、
「お察しの通り、安曇と同じくイレギュラーなエンジェルよ」
「まぁ、失礼な。安曇さんなんかと一緒にしないでくださいな。ルシフェルの一件が終わりましたら、次は彼を取り締まりますから。……それに私たちの霊力はあくまで補助にしか使えません。エンジェルオーラを"消費"するのは皆さんと一緒ですよ」
 驚いた。ロシア語を理解できるらしい。若干カタコトではあるが、意味は通じる。よくわからないが、安曇さんとは確執があるらしい。というか、言語的な部分で言えば、このクラン・カラティンはなかなか高学歴の集まりだ。ロシア語しかしゃべれない、英語勉強中の自分が情けなくなる。安曇さんに、あの変な玉を譲ってくれないかお願いしようかな。
『すみません、英語ほどうまくしゃべれるわけではありませんので、英語に戻りますね。それはともかくフレイさん、前回の出撃の時は助かりました。私のマラカイトは一発一発の攻撃に時間がかかってしまうので単独では厳しく……』
『いえいえ、こちらこそ、私のヴァーミリオン単独ではあの甲種ルシフェルの装甲を抜けないので』
 思えば、マラカイトには攻撃に一つ一つに溜めるような動作が入っていた。もっとも、業物なのであろうあの剣が甲種ルシフェルの装甲を容易く貫いていたことを考えると、威力は折り紙付きなのだろうが。
「それじゃ、私は……」
 メイヴさんがその場を離れようとする。
「あ、メイヴさん、少し聞きたいことが」
「え? なぁに、てっきり資料室か修練場に行くものかと思ってたけど」
 しっかりと私が普段どこにいるのか把握していたのか。ルシフェルのこと、デウスエクスマキナのこと、私は他のクラン・カラティンのメンバーと比べて圧倒的に知識が少ない。メイヴさんや安曇さんが適時教えてくれるし、オペレーターさんに聞くことだってできる。でも、私はできるだけいろんな知識を身に着けておきたかった。資料室に入り浸っていたのはそういった理由だ。修練場に通っているのは、デウスエクスマキナの操作方法のせいだ。安曇さんとメイヴさんと一緒に戦った時に私が放った回し蹴りはモスクワで見たそれには遠く及ばなかった。エレナさん、というらしいかつてのエンジェルはコックピットブロックを使ってヴァーミリオンを操っていた。それはつまり私のように細かい動きを自分で操れるわけではなく、大まかに機械で操っているだけということになる。しかし、その機械による操作も侮れない。ちょっと機械を操るだけで簡単に一流の格闘技を繰り出せるのだ。反面、私にはそのあたりの技術はない、結果、私の放つ蹴りは機械によって放たれた蹴りに及ばない程度のものでしかない、ということになる。その差を埋めるためには、自分自身を鍛えるしかなかった。こんな悩みは、他のエンジェルにはないものだろう。
「甲種ルシフェルについてなんですが」
「甲種ルシフェル? ってあなたが初めてここに来たときに戦って、そのあと、美琴と共闘して、どちらも特に何もなかったと思うけど、どうしたの?」
 そう、甲種ルシフェルはよく出没する雑魚ルシフェルと異なり強大な力を持っているが、出現頻度は高くない。ここ一か月でも、美琴さんのマラカイトと一緒に戦った時だけだ。
「いえ、それはそうなんですけど、さっき美琴さんと話していた時も思ったんですが、以前のヴァーミリオンのエンジェルは単独作戦がほとんどだったんですよね? どうやって甲種ルシフェルを倒していたのかなって」
「なるほど。確かにヴァーミリオンの基本武装では甲種ルシフェルの装甲を"抜く"ことは難しいものね。基本的には甲種ルシフェルが出てきたときは仕方なく誰かの支援を受けていたわよ。切り払われないようにうまく立ち回りながら、グレイプニルで動きを止めて、そこをもう一人が叩くって寸法ね。そうでなくても甲種ルシフェルは主に剣を使うから、グラムで鍔迫り合いを演じて、もう一人が行動する隙を作ったりもしてたわね。単独の時は……、エレナってば無茶苦茶だから……あ、そうだ。戦闘データを見たほうが早いんじゃないかしら? 初期のころのものだけど、映像が残っていたと思うわ」
「はい、是非」
「えぇ。じゃあついてきて。……それと、確かにあなたはクラン・カラティンの一員になって、私はそのリーダーだけど、畏まることはないのよ。クラン・カラティンの上下関係なんか、あってないようなものなんだから」
 手をひらひらさせながら、メイヴさんが歩いていく。私はそのあとについていく。……畏まらなくていい……か。確かに私はクラン・カラティンの正式なメンバーになって以来、できるだけ丁寧に話すように心がけている。良くなかったのだろうか?

「お、おぉ……」
 なかなかスプラッタな映像だった。胴体が非常に硬い分、腕と足がひょろっちい甲種ルシフェルはドラム缶に細い腕と足がついているような見た目をしているのだが、今目の前のモニターの中に広がっているのは、まさしく、ドラム缶が転がっている様子だった。腕と足はすでに切断され、翼はもがれ、なすすべもなく転がっている。エレナさんとやらは、「とても戦闘狂で暴れだしたら手が付けられなかった」と安曇さんが語っていたが、この映像の中身はその言葉を裏付けているように思う。
 交戦開始、グレイプニルで牽制しつつ接近し、グラムを以てルシフェルの剣を防ぐ。そして、膠着したと思った次の瞬間、足が出ていた。ヴァーミリオンがドラム缶のような見た目の胴体を蹴とばしたのだ。転倒しそうになるのをなんとか持ち直すルシフェル。その隙を逃がさず、一息に足を切断する。慌てて翼を展開するのを見るや、ルシフェルの剣を持っていない方の腕をつかみそのまま翼に手を伸ばす。ヴァーミリオンの重量に耐え切れず落下したルシフェルの背中を足で地面に押し付けたまま、両手で一気に翼を引きちぎった。後は空しく抵抗する剣を持った方の腕を切断し、もう片方の腕も切断。そして今に至る。
 身動きの取れない、されるがままの"ドラム缶"を横から蹴り、うつ伏せからあおむけに姿勢を変えさせ、"コア"のある位置にグラムを押し付け釘打ちの要領で柄を叩き始めた。やがて甲種ルシフェルの強靭な装甲にも綻びが出始め、ついにコアは破壊された。
「こ……これは真似できそうにないかなぁ……」
 そしてその映像を見終えて私が何とか口にできた感想が、それであった。

 

[雑魚ルシフェル]……特徴というべき特徴のない、最も弱いルシフェル。弱いとはいっても、通常兵器を以てしても撃退困難な相手には違いない。強靭な爪を武器とし、その巨体には明らかに不釣り合いな小さな翼で空を飛ぶ。戦闘分析によれば非常に単純な行動パターンを持っていることが分かっており、知能があるとはとても言えない。しかしその愚直なほどの破壊行動は時として脅威となる。足を切り落とされようと、腕が一本なくなろうと、コアさえあれば手あたり次第破壊する。

 

 ■ Second Person (Maeve) Start ■

 

 今、私の目の前でフレイがなんとも微妙な表情をしながら、それでも今にも画面に食いつきそうな必死さで画面を見つめている。
 "ヴァーミリオンで甲種ルシフェルを倒す方法"、何を聞かれるかと思ったが、まさかそんなことだとは。いや、こんなこと、というのは失礼かもしれない。フレイは自分の居場所を求めている。それくらい私にだってわかる。そして今、彼女にとってそこはこのクラン・カラティン……いや、これも自明のことだ、ヴァーミリオンの中、だろう。考えてみれば当然だ、親を亡くし、生きる当てもないのだ。このクラン・カラティンを抜けたら、彼女には居場所がなくなってしまうのだ。正直、すぐにでものたれ死んでしまうかもしれない。まぁ、今更な話だ。なにせ、それを分かっていて勧誘したのだから。
 そう、私が彼女を勧誘したとき、私には「彼女はきっと断らない」と確信したうえで勧誘した。安曇の面倒な抵抗はきっとそれが分かっているからだろう。アイツは倫理観の歪んだ魔術師の癖に、変なところで律儀というか、カタい。「選択肢から選んだのでない選択に価値はない」とアイツは言う。そんなアイツにとって、「クラン・カラティンに参加しなかった場合の未来が想像できない」彼女がクラン・カラティンに入る選択をしたのは、価値のない選択なのだろう。まぁ、律儀でカタいアイツだから、彼女に負けた今は、おとなしく彼女の選択に従っているけれど。
 ……でも、彼女をクラン・カラティンに入れるというのは、大事で外せない。彼女には、絶対に、クラン・カラティンにいてもらわなければならないのだから。
『こ……これは真似できそうにないかなぁ……』
 と、フレイがつぶやいた。
『格闘技を今必死で練習中ってレベルだものね』
『あ、やっぱり知ってたんですね』
『そりゃそうよ。新人がなにか困ってないか、トラブルに巻き込まれてないか、ちゃんとチェックしておかないと。うちはいつでも人手不足なんだから、抜けなんて出たら困るもの』
 それは理由の一つでしかないけれど、もちろん本当のことだ。フレイがいなくなれば、ヴァーミリオンのエンジェル枠は空席になる。次のエンジェルはいつ見つかる? 分かりっこない。
 ブーブーブー。と、いきなりブザー音のような警告音が鳴る。
「ルシフェル出現。ルシフェル出現。メイヴさん、安曇さん、および戦闘員は急ぎ持ち場についてください」
 スピーカーからそんな声が聞こえる。
「こんな時に!」
『行きます!』
 フレイが部屋を出ようとする。
「待って、ヴァーミリオンはまだコックピットブロックの取り付け作業中で動かせないわ」
 とっさに英語で引き留める。
『なんですって?』
 早口でしゃべったから聞き取れなかったのだろう、立ち止まり振り返って聞き返してきた。
『ヴァーミリオンは、コックピットブロックの取り付け作業で動かせないって言ったの』
『そんな』
 フレイがどうしようと不安げな表情を取った。
『仕方ないわ。美琴に任せましょう』
『美琴さんは一人で戦うのに向いてない、誰かがいかないと!』
 それはその通りだ。マラカイトの攻撃は強力な分、溜めの時間が必要で、単独戦闘では不利な状況に立たされることが多い。
『…………分かったわ、スカーレットを使いなさい』
 私は意を決して、言った。

 

 ◆ Second Person (Maeve) Out ◆

 

[甲種ルシフェル]……強靭な装甲を持つルシフェル。人間のような腕を持ち、手元に剣を出現させて戦う。腕も足も細く、殴る蹴るといった徒手空拳での戦闘には不向き。雑魚ルシフェルよりは強力には違いないが、上位ルシフェルには指定されていない。

 

 私は今、スカーレットのコックピットブロックの中にいる。ヴァーミリオンにコックピットブロックをつける、と言われ、その作業中に敵がやってきた。自分も戦いたいと言ったら、それならスカーレットに実際に乗ってみなさい、とメイヴさんが言ってくれたのだ。既に美琴さんは出撃している。私も急がないと。
 モニターに文字が出現した。英語で[言語設定を行ってください]と出てきた。
「ロシア語」
 [ロシア語で設定されました]
 どうやって設定するのか分からなかったからとりあえず、喋ってみると、ちゃんと認識されたらしく、ロシア語でそう表示された。
 [ロシア語で設定されているエンジェルは フレイ ○×△□ の二名です。どちらのプリセット設定を利用しますか?]
 ん? 今聞き取れなかった。人の名前だった? まぁとりあえず
「フレイ」
 [エンジェル・フレイのプリセット設定をロードします]
 そうして、今朝設定した左にレーダー、右に通信表示、そして正面には今現在の正面の様子が映し出された。
「フレイさん、準備はよろしいですか?」
 右側のモニターに安曇さんが映し出された。そして、その問いに私は頷く。基本的にこの基地から各地へはエンジェルオーラを消費しない安曇さんがセラドンの転送能力を使って飛ばしてくれる。
「では、ヨグ=ソトス回廊を開きます。3、2、1、出撃!」
 足元にエルダー・サインというらしい歪な五芒星が出現し、虹色の回廊を介してどこかの街へ転送された。
 目をつぶると、"私"が目を開け、街の外延部で美しい緑色の巨人と白い巨人が戦っているのが見えた。ざっと見た感じだと、他に人はいないようだ。みんなすでに避難した、そう信じよう。ここにいる明らかな生き物は美しい緑色の巨人と対峙している白い巨人と、空を飛ぶカラスくらいのものだ。
「お待たせしました、美琴さん、今行きます!」
 左目だけを開けて、手元のボタンをいじってマラカイトと通信をつなぐ。方法は、スカーレットが教えてくれた。
《そう緊張するな。私が言うとおりに触ればできるさ》
 と、優しく教えてくれた。ヴァーミリオンもこれくらい優しくしてくれたらいいのに。とぼやくと。
《アハハ。あやつには無理だ。そもそも「誰かに教える」という行為を正しく理解できているかどうか》
 と笑って返してきた。さすがにそれは失礼だと思うけど。
「邪悪を平らげる剣、《八握剣やつかつるぎ》」
 美琴さんの声が聞こえ、マラカイトの手元に大剣が出現するのが見えた。7つの柄がある、変な剣。とにかく大きく重量があるから、振り回すには少しの時間がかかる。私が動きを止めないと。
「武器は!」
《カタログならそこだ、オガム文字は読めるかな? メイヴの奴は、機械で翻訳した一つしか使えなかったが?》
 文字はヴァーミリオンのカタログの文字とは違う文字。でも、不思議と意味は頭の中に入ってきた。
「象牙柄の光の剣、《クルージーン・カサド・ヒャン》!」
 "私"の手元に光り輝く剣が出現した。刀身には何か文字が刻まれている。カタログと同じ文字だと思うけど、なぜか意味は分からなかった。いや、そんなことより。
 まずは、建物の間を通り抜けつつ、幅の広い幹線道路まで移動する。マラカイトとルシフェル達も幹線道路同士が結節するスクランブル交差点のようになっている広場で戦っている。そこに攻撃しながら合流するなら、幹線道路上の方が都合いい。まさか建物の上を踏みつぶしながら進んでいくわけにはいかないから。もちろん選択肢としては考えなくはないが、人の住むところを無駄に壊さないために緊急時でない限りそのような選択はしない。
「えぇーーーい!!」
 敵に向けて一気に振りかぶると、刀身がぐーんと伸びて敵の爪に命中した。「刀身が伸びる」、私がこの武器を選んだ理由だった。目的地は少し遠い、しかしこの武器なら接近しつつ攻撃もできる。そして、いつも剣を使っていたのだから、今回も剣を使った方が良いと判断したのだ。
《ほほう。私が与えた象牙柄の剣か、なかなか良いセンスをしている》
「へ?」
《いやいやなんでも。さぁ、おぬしの戦いを見せてもらおうか》
「はい!」
 言われるまでもない。攻撃を食らった雑魚ルシフェルはこちらを敵と認識しマラカイトを視界から外し、こちらに向き直った。単純な彼らはより大きなダメージを受けたほうを狙う。
 そして、私はこちらに向かってくる雑魚ルシフェルを無視し、もう一体のルシフェルに視界を向けた。甲種ルシフェル、また現れたか。甲種ルシフェルに向かって攻撃すべくまた剣を振る。ぐーんと伸びた刀身は、思っていた狙いから逸れてしまい、甲種ルシフェルの胴体にあたった。もちろん、はじかれる。
「この剣でもはじかれるか!」
 しかし、甲種ルシフェルはこちらを敵だと認識した。今彼らはマラカイトをただ立っているだけの像だとでも思っているのかもしれない。しかし、それは間違いだ。だって、ほら。
 マラカイトに背中を向けていた雑魚ルシフェルは今まさに、マラカイトの大剣によって真っ二つにされたのだから。
 それでも、甲種ルシフェルはこちらを狙う。下位ルシフェルと分類される彼らは、大した知能がない、パターン化された行動をとることが分かっている。が、それにしても間抜けだ。だが、利用しない理由はない。また剣をふるう。やはりうまく狙った場所に当てることはできない。いい感じの距離だと思ったのだろうか、敵は剣を手元に出現させ、私の剣を弾き返してきた。そっちがその気ならやるしかない。幹線道路上を一気にダッシュし、距離を詰める。
「せいやぁ!」
 敵の剣のレンジの微妙に外で剣を振りかぶる。この距離なら、さすがに外さない!! そして狙うは…………。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
 狙い通り! 足を二本ともぶった切ってやった。慌てて翼を広げるルシフェル。しかし、それではあまりにも遅い。あえて少し上昇するのを待った後、左側の――つまり剣を持っていない腕がある方だ――の翼を切り裂く。
「今です!」
「はい。こちらは準備万端ですよ。さぁ、大蛇の上の雲、《天叢雲剣あめのむらくものつるぎ》」
 マラカイトが天高く掲げた八握剣の上空に雲が集まり、そして剣が光を纏う。マラカイトの八握剣はさらにエンジェルオーラを消費することでより強力な剣へと変化させることができるのだ。そして今、天高く掲げられた剣が振り下ろされる。剣が地面に到達すると同時、強力な地割れ、いや地面を切り裂いて進む光の刃が直進をはじめ、落下途中、後方不注意の甲種ルシフェルを見事貫いた。
「おっとっと」
 もちろん油断すると私も切られちゃうから、ちょっとずれようね。そのまま光の刃は直進し、次の交差点に届くよりは前に消滅した。
「ふぅ」
 こうして、ヴァーミリオンではない、別のデウスエクスマキナに乗っての戦いという、二度とない戦いが終わった。

 

 To be continue....

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