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Angel Dust -第6章-

[上級ルシフェル]……知能の低い下級ルシフェルに対し、知能を持っているらしきルシフェル。その定義は長く曖昧であったが、セラドンのレーダーでは明らかに違った波形として認識されるため、セラドンが戦術サポートに回ってからは、明確に区別できるようになった。

 

 その男は騎士だった。甲冑を身にまとったその姿が騎士でなくて何だというのか。というか、それ以上に私が気になったのは。
『それ、デウスエクスマキナに乗るとき気にならない?』
『いえ、全く。これでも訓練を重ねてきましたので』
 目の前にいるセミロングくらいのプラチナブロンドの髪を後ろでまとめている騎士はメドラウドさん。リチャード騎士団の末裔らしい。
『ところでリチャード騎士団って何?』
『かの獅子心王、リチャード一世が発足した魔術対策騎士団です。第三次十字軍の折、怪しげな術を使うといわれていた敵と対峙すべく作られたそうです。まぁその時の敵の真相はマシャフ砦で鍛えられたアサシン部隊だった、ということらしいですが』
 獅子心王? 第三次十字軍? マシャフ砦?
『あぁ、ヨーロッパの歴史にはあまり詳しくはなかったですか。そうですね……美琴さんの所属する宮内庁の英国バージョンだとお考え下さい。さっきの話ですが、この鎧も霊障を防ぐための対霊素甲冑なんですよ。実は普通の甲冑よりかなり軽いのです』
 私の表情を読み取ってかメドラウドさんがさらにフォローしてくれる。
『へぇ、美琴さんの』
『えぇ。まぁ私達はこの霊素を破壊する剣を使うので、美琴さんのように霊力を操ったりはできないんですけどね』
 そんなことより、本題に入りましょう、とメドラウドさんが奥の部屋へと入っていく。

「せいやぁ!」
 両手で構えた模擬刀を横一文字に振る。
『ふん』
 しかし、メドラウドさんの模擬刀がそれをあっさりと受け止め、上へ円を描く形で流される。
「なんの!」
 上へ振り上げる形になってしまった模擬刀をもう一度振り下ろす。
『そのような直線的な動きでは』
 と、メドラウドさんはそれを受け止めず、こちらの側面に回り込んだ。咄嗟にそっちに向こうとするが、重い剣を振り下ろした直後の私はその重さに振り回され、剣を向けることができない。
『ここまでですね』
 メドラウドさんが剣を振り下ろし、寸止めする。
「メドラウドさん、容赦がなさすぎるよ」
 咄嗟にロシア語で言ってしまい、言い直す。
『メドラウドさん、容赦なさすぎ……』
『ロシア語が分からないもので、合わせてもらって申し訳ない。しかし、とんでもない。これでも手加減している方なのですよ。さすがに剣になれない女性相手に本気で切りかかるのは気が咎めるといいますか』
『そうなのかなぁ。でもメドラウドさんは今まで戦った甲種ルシフェルや乙種ルシフェルの剣より明らかに強いと思うけど』
 硬さ特化の甲種ルシフェルはともかく、乙種ルシフェルは素早さ特化のエストック使いだが、このメドラウドさんはそれより明らかに強かったように思える。
『まぁ、下級ルシフェルには大した知能がない、と一応言われていますから、思考する敵とはまた違うのかもしれませんが、正直フレイさんは剣の重さに振り回されているように思います。先ほども言いましたが、まずは剣の重さに慣れるしかないように思いますね』
『はい!』
 こんな感じの訓練とやりとりが何回か繰り返され今に至る。ここはレストラン。昼飯を取っているところだった。
『ずいぶんおいしそうに食べますね』
『え?』
『プリンですよ』
『うん、実際おいしいからね』
『そうですか』
 プリンはおいしい。別にそれ以上の説明は特にいらない。
『しかし、メイヴさんに訓練をお願いしたいといわれたときはどういうことかと思いましたが……。デウスエクスマキナを直接操れるが故のデメリットですか、なるほど』
『普通にコックピットブロックから操作する場合は効率のいいキックを出せるけど、私の場合は自分で効率のいいキックをしないとならないから』
『それって、キックの時だけコックピットブロックを操作するわけにはいかないんですか?』
『デウスエクスマキナに乗ってるときって、自分とデウスエクスマキナが完全に一体化してるような状態だから、操作するためにまずデウスエクスマキナがレバーを動かす動きしちゃうし、それはいいとしてもやっぱり勝手に体が動くのは気持ち悪いんだよねぇ』
『なるほど、それは少しわかる気がします。私も昔、幽霊に取りつかれたことがあってですね……』
 お昼の休憩時間が過ぎていく。私の体術スキルの鍛錬の話を聞いて、メイヴさんが気を回してくれたらしく、ここ数日こうしてメドラウドさんから体術を教わっているというわけだ。
『しかし、デウスエクスマキナに乗っている間は重さを感じてないかのような戦い方をしていました。デウスエクスマキナを使った鍛錬をするのも手かもしれませんね』
 その日、メドラウドさんがそう提案したため、鍛錬を行うこととなった。

『ちょ、ちょっと待ちなさい。メドラウド、あんたまだエンジェルオーラの回復作業中でしょう?』
 昼食後それを提案した彼を止めたのはメイヴさんだった。
『えぇ。ですので、あれを利用しようかと』
『あれ? あれはダメよ。緊急時でもないのにあんな危険なものを許可するわけにはいかないわ!』
 アレ、とはなんだろうか。クラン・カラティンは結構秘密主義だ。まぁ、だいたいのことは聞けば教えてくれるのだけれど。それにしても私はまだ、私だけが戦い続けられる理由も、フォールダウンについても、知らないことが多い。普通こっちから聞かなくても向こうからレクチャーがあってもいいと思う。まぁ、わざわざ知らなくてもいいかなと思っているのも事実なのだが。
『ふーむ。ではあっちならどうです?』
『仮設タンデムコックピットブロック? 別に使用そのものに問題はないけど、ヴァーミリオンを今から換装していたら有事の時に間に合わないわよ?』
『理解しています。ですが、私のラファエルならどうですか? 例のフレイさんを使った武装増強計画の一環ってことにできますし』
 いつの間にかそんな計画が立案されてたのか。最近はヴァーミリオンで戦えてるけど、また色々なデウスエクスマキナに乗る羽目になるのか……。
「相変わらず譲りませんね、モードレッド」
『安曇さん、私の名前は、メドラウドです』
「それは失敬。しかし、あなたは名前に劣らず……」
『安曇さん、何をしにいらっしゃったんですか?』
 飄々と話に割り込んできたのは安曇さんだ。しかし、何か禁句でも踏んだのか、安曇さんのことだからワザとの可能性も高いが。ともかくメドラウドさんからピリピリした空気を感じる。
「では、挨拶はこの辺に。メドラウド、あなたはすでに複数の剣と槍、弓に盾まで使えるはず、これ以上武装を増やしてどうしようというのです?」
『ふむ。それはもっとも。しかし、フレイはこれまでエレナが使っていたグラムに加えてレーヴァテインを使った。剣というジャンル、槍というジャンル、弓というジャンル、盾というジャンル、その中でより強い武器がないとは限らないのでは?』
「ほほう。あのラファエルの元になった伝承に、エクスカリバーやロンゴミニアント、カーボネック・シールド以上の剣や槍、盾が存在すると?」
『それは分からない。そもそもからして、デウスエクスマキナが出現させる武器は、偶然私達の知る伝承と同じ名前、類似した性能をしているに過ぎない。私たちの知る伝承に無かった武器が存在しないとは言えないでしょう』
「それは詭弁では? そもそも……」
『そこまでよ。ラファエルを仮設タンデムコックピットブロックに換装しなさい』
 お互い口調こそ穏やかながら周囲を剣呑な雰囲気が支配する。それを打破したのは、メイヴさんだった。
「メイヴさん。しかし、フレイさんだって疲れ知らずというわけではない。無尽蔵ともいえるエンジェルオーラを持っていても、疲弊しないわけでは決してないのですよ。武装増強計画には同意しましたが、十分な戦力を持っているデウスエクスマキナに対しその計画を試行するのは反対です。何より……」
『フレイがデウスエクスマキナに乗って外に出ると、同じタイミングでルシフェルが現れる?』
 聞き覚えのない言語がメイヴさんから飛び出した。
『分かってるじゃないですか』
 対する安曇さんも魔法の石を使うのをやめたのかメイヴさんと同じ言語。ほら、こういうところ。とんでもない秘密主義だ。言葉がわからないのをいいことに目の前で秘密の話。
『それでも、それを理由に断ることはできないわ。フレイがそれに気づいたら、フレイは戦うのを辞めてしまうかもしれない。フレイが戦いに出れば逆効果になる・・・・・・・・・・・・・・・・、だなんて。だいたい確証もないわ。まだケースは二回だけ』
『メイヴさん。あなたはまたそうやって、フレイさんの選択のチャンスを奪うのですか』
『そうよ。私たちは勝たなければならない。勝利条件すら見えないこの戦いに。人類は生き残らなければならないの。だいたいそうやって正論ぶってるけど、それならなんで自分で彼女に警告しないの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? あなただって自分の正義を口にしつつ、私が反対しているのを言い訳にしてるだけじゃない』
『…………』
「決まりよ。フレイ、ラファエルの換装作業を行うわ。明日には終わるでしょうから、明日のお昼にでも、始めて頂戴」
 メイヴさんは黙り込んだ安曇さんを視界からはずし、私の方を見て告げる。
『メドラウド、こっちへ。明日の訓練についていくつか注意事項があるし、相談をしておきたい。タンデムコックピットブロックについても注意があるしね』
『了解です』
「あ、メイヴさん。タンデムコックピットブロックについての注意は、私には?」
「えぇ。あなたはいつも通り操縦して。前席はいつも通りでいいの」
 二人が連れ立って歩いていく。残ったのは私と安曇さん。
「フレイさん……」
 低く落とした声で、そして酷く迷いに満ちた声で安曇さんが声をかけてくる。
「少しだけですがルシフェルが現れる法則のようなものが見えてきています。まぁ法則に反したものも多くてどの程度参考になるのかはわからないのですが。それによれば、明日はルシフェルが出ます。明日、十分に動けるエンジェルは私を除けばあなただけ。そうなればあなたはまたなれないデウスエクスマキナで戦うことになる。ヴァイオレット単独で十分な戦いをしたあなたなら大丈夫だと思いたいですが。しかし、それでもあの戦いは危なかった。戦艦ハウの援護、最後のマラカイトの矛、その二つがなければ死んでいたかもしれない。絶対に無理はしないでください」
 安曇さんは真剣だった。法則はまだまだあてにならないといっているのに、まるでその法則は間違いないと信じているかのような。
「うん。分かった、大丈夫」

 

[堕天]……ルシフェルがルシフェルと呼ばれる所もう一つの所以。ルシフェルは条件不明ながら体を黒く染め、より強力な個体となる場合がある。主に上級ルシフェルにみられる特徴であるが、下級ルシフェルにも起こりうる。雑魚ルシフェルでさえ、堕天すると非常に厄介な存在である。

 

 そして私はラファエルのコックピットの中。私の椅子の後ろに骨組みだけで支えられた椅子がもう一つ存在し、そこにメドラウドさんが座っている。
『それじゃあ始めよう。剣を』
 メドラウドさんの声に頷いて、ラファエルに声をかける。
「ラファエル、カタログを」
《これをどうぞ、王》
「ありがとう」
 カタログがペラペラとめくれる。
『どれを使えばいいの?』
『エクスカリバー、ガラティーン、ダビデソードの三つはすでに翻訳済みですが、それ以外には?』
「それ以外だと……」
《それならぴったりのものがある。君が王であることを示すんだ》
 ラファエルが教えてくれる。カタログがめくれるのが止まり、ある武器の項目が示される。
「選定の剣、《キャリバーン》!」
 すると驚くべきことに、目の前に剣が刺さった岩が出現した。
『これは!』
 “私”は剣を引き抜く。すると、岩が消滅し、剣だけになる。
『素晴らしい。それでは、剣の鍛錬と行こう。まずは姿勢からだ』

「そちらにルシフェルが接近中! 交戦距離まで20秒!」
『訓練はここまでか。では、実戦と行こう!』
 気を引き締めた瞬間、目の前にエストックが突きつけられる。咄嗟に、キャリバーンで防ぐ。
『武器はエストック。骨だけのようなシルエット、乙種ルシフェルか』
「動きが早すぎる。一度、防御を!」
《王よ、13番目の者の盾はどうだろうか?》
 カタログがめくれる。
「聖杯へ導く赤十字の盾、《カーボネック・シールド》!!」
 身を覆うほどの大盾が出現する。
『やはり、これが一番防御力の高い盾ですか?』
『うん。さっきのキャリバーンも正直、うちのグラムと同等くらい』
『なるほど、それならグラムと同等のエンジェルオーラでエクスカリバーが使えるこのラファエルはやはり燃費がいいんですね』
 エストックの激しい攻撃にさらされるが、カーボネック・シールドがすべてを防御する。
『下級ルシフェル相手で助かったかな。この速さで上級ルシフェルレベルの知能があれば、今頃側面に回り込まれてる』
「シールド、バーーーッシュ」
 盾を強く押し、敵を吹き飛ばす。
『今の叫び声は?』
『気にしないでください』
《ばっちりだったよ、王》
「本当にこれ叫ばないとだめなの?」
 カタログに書いてあったのだ。でもメドラウドさんが知らないってことは……。
《もちろん、ほら》
 ラファエルの周囲を黄金に輝く何かが旋回し始めた。
「え、え、ナニコレ?」
『おぉ、聖杯だ』
Holy Grail聖杯聖杯Holy Chaliceじゃなくて?』
《後ろの者の言であっています。王、それはきっとあなたの身を守ってくれるでしょう》
 よくわからないけど、そういうものなのか。っと、のんきに話している暇なんてない。追撃だ!
「湖より与えられし魔法剣、《エクスカリバー》!」
『ギャラハッドの盾と、アーサーの剣ですか。なかなか夢のある組み合わせですね』
 剣を突き刺そうと前進するが、盾が邪魔をしてうまく前に進めない。
『大盾の扱いは始めてですか。ならば無理に使うのは……』
 そうか、確かにヴァーミリオンの武装に盾はなかったし、無理に使うのは……。と考えた矢先、甲種ルシフェルが横から現れた。
「いつの間に!」
『大盾で視界をふさいでいた上に、乙種にくぎ付けでしたからね、仕方ありません』
「クッ。盾を引きはがされるくらいなら!」
 カーボネック・シールドを消滅させ、別の剣を出現させてやる。エクスカリバーは硬い剣だが、鋭さで見るとより鋭い剣があるようだ。
「剣の中の王者、《クラレント》!」
 右手に新たな剣が出現する、鋭く、白銀色に輝く剣。
『アーサー王が決して戦いには使わず、最後にはある騎士が謀反の時に持ち出したと呼ばれる剣ですか! これは戦いにも使えそうです。成果があったようでよかった』
 とりあえず、左手のエクスカリバーで乙種を切る。頭を奪えば再生までの間周囲は見えないし、ほとんどの行動もできない。まずは、甲種を倒す。
『そういえば、フレイさんはヴァーミリオンでも二刀流をしてましたね。二刀流は私の知識にはありません。しかし、エクスカリバーとクラレント。『アーサー王の死』においては、カムランでぶつかり合った二つの剣を同時に持つとは。騎士マニアとしてはロマンを感じずにはいられませんね』
 なんか後ろの人が興奮気味だがアドバイスではないようなので放っておく。
 性能によれば、エクスカリバーのほうが守りに向いているようだ。対するクラレントは攻撃に向いている。もちろん、エクスカリバーはレーヴァテインに負けない鋭さだし、クラレントだってレーヴァテインに負けない硬さだ。だが、やはり意識はしておいたほうがいいだろう。
 甲種ルシフェルが剣を出現させ、切りかかってくる。即座に左手のエクスカリバーで受け止め、クラレントでその腕を奪う。甲種ルシフェルは即座に反対の手に新たな剣を出現させる。右手は相手の腕を奪うために振られた直後!! ニヤリと、甲種ルシフェルが笑ったような気がした。
「なんてね。聖者の血を分けたる杯、《ホーリー・グレイル》!!」
 周囲を浮かんでいたホーリー・グレイルが発光し、甲種ルシフェルの目を奪う。そのまま続けさまにエクスカリバーとクラレントを胴体にぶつける。
 さすが、レーヴァテインレベルの剣が二本。さすがに傷がつくか。
『フレイ、左!』
 言われて左を見ると、乙種が起き上がろうとしていた。だが、乙種はコアが露出している。こうなったら……。
「てぇい」
 無理やり体をねじってクラレントを投げつける。運よくコアに命中し、乙種ルシフェルが崩壊を始める。
「せっかくだから、新しい武器を呼ぼうか。あの装甲を貫ける武器は?」
《この槍であれば、間違いなく。あの装甲など問題なく、向こう側まで届くでしょう》
「聖者の血したたる聖槍、《ロンゴミニアント》」
 ラファエルの声を信じて、”私”は飛びかかってくる甲種ルシフェルの中心に槍を突きたてる、突きたてられた槍は貫通し、向こう側から飛び出した。
「ふぅ」
 甲種ルシフェルが崩壊を始めたのをみて、私は力を抜く。
「CAW! CAW!」
 上空でカラスがなく。安心したように? いや、私には、それは警告に聞こえた。

 

 ■ Third Person Start ■

 

「ふぅ、なんとかなったみたいね」
 クラン・カラティンのリーダー、メイヴはラファエルの戦闘終了を確認して、ため息をつく。
「メイヴさん、大変です」
 セラドンの中から安曇がメイヴに向かって叫ぶ。
「どうしたの?」
「ピッツバーグから帰還しつつある偵察部隊が、ルシフェルの襲撃を受けています」
「なんですって? 位置は!」
 安曇の言葉に驚愕しつつメイヴは続きを促す。
「旧サンフランシスコにはもう戻ってきています。このまま走り続けることができれば、一分後にはベイエリア」
「仕方ないわ、ラファエルに、フレイに向かわせて」
「了解しました。フレイさん、聞こえますか! 別の場所にルシフェルです。そこには私たちの仲間の乗っている車両が走行中です。今すぐに飛ばしますから、守ってください、お願いします」
「え、そんないきなり」
「ヨグ=ソトス回廊起動! すみません、フレイさん。しかし、彼らを死なせるわけにはいかない。次の作戦のために。そして、私達の勝利のために」

 司令部のモニタに映るラファエルの足元にエルダー・サインが出現し、そして消える。

 

 ◆ Third Person Out ◆

 

「もう、強引なんだから!」
『偵察部隊を何としても守りたいのでしょう。あれを失えば、戦えるエンジェルが減ってしまうことになる。そして、彼らが持ち帰った情報には戦いを続けるために必要な情報がある』
 メドラウドさんが私をなだめる。ロシア語は分からないはずだが、怒っているのは分かったのだろう。
「ヨグ=ソトス回廊、まもなく抜けます」
『こちら、クラン・カラティンの偵察部隊長、スジャータ。敵は騎士型をしてる。大きな両刃剣を使っている。オーバー』
「こちらクラン・カラティン本部。偵察部隊、これまでご苦労でした。まもなくそちらにデウスエクスマキナが向かいます。安心してください。アウト」
 そして、出現する。
「ちょっと、空じゃない!!」
「すみません、敵は高速道路を破壊しながら車両を追っているということでして、地上に進路を妨害する形で転送すると、むしろ車両の逃走を妨げる恐れがありまして」
《ならば空を飛べばいい》
「身を護る船、《プリドゥエン》!!」
 小舟が足元に出現する。”私”が足を置いた瞬間、ふわりと船がその高度を維持するようになる。
《王よ、あとは王が望むがままに》
 私が頭の中でイメージすると、小舟が思った通りの機動を取る。
『なんと、こんな武装があったとは』
「あとは、遠距離武器か!」
《それならこちらを》
「無駄なしの弓、《フェイルノート》!」
 カタログによれば狙った場所に必ず当たるらしい。どれどれ……。とりあえず、頭!
『あれは、甲冑のようですね、はじかれてしまいました』
 でもちゃんと頭に当たった。よーし。
 “私”はプリデゥエンを駆り、敵の周囲を旋回しつつ、弓で牽制射撃を繰り返す。こっち向け!!
『ダメです。こっちに振り向きすらしません。このままだと、車両に追いついてしまいますよ。甲冑の隙間を狙ってください』
 さすがに弓じゃ難しい。細い剣を使うか。
「無鋒剣、《コルタナ》!!」
 一気にプリドゥエンで側面ぎりぎりまで近づいて、首にある甲冑の隙間に差し込んでやる!!
『なんというか、船というより、サーフボードですね。側面の壁はいらないのでは?』
 それは私も少し思う。
 よし、刺し込めた、あとはてこの原理で……。と、敵の持っていた大剣がこちらへ振られる。
「うわぁ!」
 “私”は咄嗟にプリドゥエンからジャンプする。すると、プリドゥエンが“私”と敵の間に立ちふさがる。私は右手でプリドゥエンの内側についた取っ手をつかむ。
『おぉ。伝承ではプリドゥエンは楯にもなる船でした。なるほど』
 大剣とプリドゥエンが拮抗する。しかし、恐ろしい鋭さだ、プリドゥエンにひびが入っている。
「聖杯へ導く赤十字の盾、《カーボネック・シールド》!」
 プリドゥエンが砕けると同時に、カーボネック・シールドを出現させる。
「シールド、バァーーーーーッシュ!」
 気合を入れて、盾を振るう。よし、少しだけ怯んだ!
「湖より与えられし魔法剣、《エクスカリバー》! 剣の中の王者、《クラレント》!」
 二本の剣に持ち替え、一気に首を取りに行く。
「くっ、籠手で……」
 籠手で剣を受け止められた。なんて硬い甲冑なの!
「フレイさん、そのままそいつを止めててください。そうすれば偵察部隊の車両をヨグ=ソトス回廊で転送させられます。そうすれば、偵察部隊のエンジェルが出撃できる!」
「了解!」
 と、敵の右手が動き、思いっきり腹を殴られた。
「調子に乗るなぁ!」
 一度剣を引き、クラレントを振りかざす。
『いけません、隙の大きい技は!』
 敵の大剣が煌めく。側面から強い衝撃を受ける。
「いたたたた……」
『まずい。車両の方に向かってます』
「そうは、させない」
 立ち上がり、二本の剣で挟むように切りかかる。側面にできた傷がきしんでいる、
『これはまずい、エンジェルオーラをエクスカリバーに注ぎ込んでください』
「え?」
 とりあえず言われたとおりにやる。と、破損部分が修復されていく。改めてカタログを見ると、そこには修復能力在り、とあった。なるほど。
「よし、こっち向いた!」
 一度剣を引く。そして、大剣を持つ腕を二本の剣で挟み込む。もう片方の腕が持ち上がる。
「クラレント!!」
 エンジェルオーラを追加で注ぐ。刀身がさらに白銀色に輝く。
「せぇい!!」
 そして、クラレントを腕から離し、即座に持ち上がった腕に切りかかる。一刀のもとに腕が切り離される。しかし、無理やりな強化の代償としてクラレントは破損する。
「戦友殺しの魔剣、《アロンダイト》!」
『アロンダイト! 単なる箔付けとしてランスロットの武器として語られているのかと思ったが、本当に彼の武器なのか?』
 手元に出現したのは怪しげなオーラ漂う、大剣。これを両手で構える。
「さぁ、正々堂々、勝負!」
 まぁ、向こうは片手を失っているわけだからまったくもって正々堂々ではないが。
 アロンダイトと敵の大剣がぶつかり合う。拮抗する二つの剣。でも、こっちのほうが本体の力が上!
 ガキン、と敵の大剣が飛ぶ。敵は飛んで行った先を一瞥し。そして、
「GRYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
 バインドボイスを放った。同時に黒いオーラが周囲にあふれる。
「ごめん、それ無効化」
 プリドゥエンが破壊されたときに行ったシールドバッシュ、その時に生み出されたホーリー・グレイルがバインドボイスによる萎縮を無力化する。
「じゃ、堕天する前にさようなら!」
 アロンダイトを大きく振り上げ、敵を垂直に真っ二つ。もちろん、コアも。抵抗するようにこちらに手を伸ばしてきたが、それもアロンダイトで打ち砕く。それでおしまい。今度こそ崩壊を始める。

 

[乙種ルシフェル]……骨だけのような非常に細いルシフェル。あらゆる部位が容易に破壊可能で、コアも露出しているが、とてつもなく早く、またエストックによる強力な連続突きを放ってくるため、実際には攻撃するチャンスはめったにない。敵の攻撃をさばくのではなく、何らかの形で打ち破り中断させる必要がある。

 

その日、エンジェルたちが集められた。見覚えのない人も多い。
『集まったわね。まぁ事情を知っている人も多いでしょう。次の作戦目標が決定しました。安曇』
「それでは、ここからは私が。皆さんもご存知の通り。私達のエンジェルオーラは有限です。代用手段のある私やフレイさんを除いて。ですが、私の魔力には限りがありますし、フレイさんも無尽蔵ともいえる回復力を持ってはいますが、無限ではありません。そこで、私達は人の手で作られた追加武装を戦術の一つとして運用しています。しかし、これは数に限りがあり、現状の旧サンフランシスコの工業力では十分な生産数とはいえません」
 そういいながら、モニタを指し示す。
「そこで私達は、新たな工業力を得る必要があります。我々は様々な工業都市に偵察部隊を送り込み、先日最後の偵察部隊が帰還しました。結論から言えば、我々はピッツバーグを解放するしかない、ということになります」
『ピッツバーグ? 馬鹿な、そこまでどれだけの距離があると思っている!』
 そんな声が上がる。私にはわからない。ピッツバーグ? それはどこにあるんだ。
「重々承知の上です。アメリカの地理に明るくない方もいるでしょうから、簡単に説明します。我々の旧サンフランシスコはここ。そして、ピッツバーグはここです」
 旧サンフランシスコは地図の本当に左端。対して、ピッツバーグはとっても右側だった。
「しかし、ピッツバーグその場所にはルシフェルはいないらしいのも事実です。そうですね? スジャータ」
『はい。ピッツバーグのあるペンシルベニア州はワシントンとそれに隣接するメリーランド州や、ニューヨークのあるニュージャージー州に隣接しており、新生アメリカ政府の掲げる絶対防衛線の内部になっており、現状、最低限・・・ルシフェルの侵入を防げているようです』
 驚いた。アメリカはまだ小規模ながら存続しているのか。ピッツバーグに旧がついていないのはそれが理由か。
「ですので私たちが行うのはピッツバーグそのものの解放ではなくピッツバーグからサンフランシスコ間の輸送網の確保、ということになります」
『それを分かったうえで無謀だといっている! サンフランシスコからピッツバーグまでは2500マイル程度ある。車で移動しても37時間かかるんだぞ。誰がそれを輸送する? 誰が護衛する? つきっきりでデウスエクスマキナが警護するわけにもいかない。それなら、旧案であった旧サンディエゴ解放作戦のほうがまだましだ。この前のイギリスでの作戦行動で、戦艦にはまだ役割があることが証明された。海軍港の解放は戦略的価値がある』
「誰がそれを動かすんです? 戦艦を動かしたいというなら、なおのこと新生アメリカ政府と協力する必要があります。東海岸までたどり着ければ、そこにはアメリカ最大の海軍港、ノーフォーク海軍基地がある」
『ぐ……』
 反論していた女性が黙り込んでしまった。しかし、2500マイルは遠すぎる。
「無理は承知の上です。しかし、これ以上、ここでくすぶっていることはできない。モグラたたきをしているだけでは、ルシフェルが居座っている拠点を解放するには至らないし、ルシフェルの出現も止められません。更なる戦力を求める意味でも、我々は東海岸に向かうべきです」
『正直に言うわ。輸送ルートを確保できないようなら、東海岸への基地移動も検討する。新生アメリカ政府と合同で、ルシフェル対策を行うことができるしね。なんにせよこのままじゃジリ貧になるだけ。みんな、分かって頂戴』
 メイヴさんのその一言で会議は終わりになった。ピッツバーク解放作戦。この先、どうなるのだろうか……。

 

 To be continue....

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