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Angel Dust -第7章-

 線路沿いを進む。
『フレイさん、大丈夫ですか?』
 美琴さんの声。
『はい、まだしばらくは大丈夫です』
 少し疲れてきているけれど、この程度で根を上げることは出来ない。まだまだ先は長いのだ。
「逆ですよ、フレイさん」
 ロシア語で美琴さんが声をかけてくる。
『先が長いからこそ、疲れたなら休憩しなければ。そろそろ日も落ちます。今日はこの辺で休憩しましょう』
『はい』
 開けたあたりで、先行していた美琴のデウスエクスマキナ、マラカイトが座る。
《どれ、私達も休憩にしようではないか》
 ヴァーミリオンが声をかけてくる。そうするか……。うぅ……実は……。
『あら、フレイさん、もしかしてまだしゃがむのが苦手ですか?』
『……はい』
 私はヴァーミリオン……というよりデウスエクスマキナを直接操作することが出来る。これは、他のエンジェル達と違って、極めて自由にデウスエクスマキナを操れることを意味する。のだけれど、いくつもの欠点もある。そのうち一つが以前からの悩みである、「プリセットされているような最適化されている動きが出来ない」ことだ。そして、今回の悩みもそれと関係があると言える。
 ヴァーミリオンはデカい。そして当然、とても重い。すると、私達が普段、普通にするようにしゃがもうとすると、だいたいの場合転んでしまうのだ。
『ここで転んで、線路に倒れられると困ります。一度リンクを解除して、プリセット操作でしゃがみませんか?』
 美琴さんの言う通りだ。この線路はこの後とても重要になる。間違っても壊すわけにはいかない。
 目を開く。目の前のモニターが今まで見ていたのと同じ風景を表示している。左のモニターは、レーダーが前方にはマラカイト以外の障害物を捉えていないことを示している。右のモニターには通信が繋がっている美琴さんの顔が映っている。
 深呼吸して、操縦系統を操作する。正面のモニターから見える風景が下へ下へ移動していき、しゃがんでいることが分かる。やがて自動的に正面のモニターが開く。
《ゆっくり休むんだぞ》
「分かってるよ」
 ロープをつかんで、ヴァーミリオンから降りる。
『報告は任せていいですか? 私は色々と準備をしておきます』
『あ、お願いします』
 私は、マラカイトの脚部に添えつけられた通信機を操作する。
「えーっと……」
 モニターが点灯し、よく分からない波線のようなものがうにょうにょする。その意味は正直よく分からない。
『もしもし、こちら偵察隊、応答願います』
 私が知っているのは、この表示が出たら、マイクに向かって声をかけろという事だけだ。
 …………。
 聞こえるのはノイズの音だけだ。
『もしもし、こちら偵察隊、応答願います』
 もう一度声をかける。よく分からないけれど、無線を使った通信はまだまだ不安定で、必ず届くというものではないらしい。何度も周波数を変えながら交信を続け、繋がったらその接続を安定させる、という仕組みらしい。私にはその周波数とやらが何なのかまずよく分からないのだけれど。自動でやってくれるのでとりあえず理解しなくてもいいとのことだ。
『あ、フレイさん。こちら本部です。報告を聞きましょう』
 返ってくるノイズにめげずに何度も声をかけ続けると、ついに聞き覚えのある交信手さんの声が返ってくる。
 私は声に喜んで、前回の報告からここに至るまでの報告を始める。ルシフェルはおらず、線路はいくつか破損中。破損座標は……。
『了解です。それでは引き続き行軍を続けてください』
 報告を終えて、通信機を終了する。
『報告、終わりました』
『ありがとうございます。こっちもだいたい準備が終わりましたよ』
 戻ってくると、焚火とテントの準備が終わっていた。
『あまり顔色が良くないですね、かなり疲れているのでは?』
 美琴さんが心配するようにこちらを見つめている。
『そ、そんな、大丈夫ですよ。ただ歩いているだけだし』
『歩いているでも体力は使います。ずっと座ったままというのも疲れがたまる原因になる。私達が戦えなくなれば、他に変わりはいないのですから、体調管理を怠ってはなりませんよ』
 厳しい口調で、しかし優しさを確かに秘めて、美琴さんは言う。
『はい、すみません』
『良いのです。いきなり完璧に戦える戦士はいません。……さて、食事が終わったら、一手手合わせでもいかがですか? メドラウドと立ち会ったのでしょう?』
『え……えぇ、まぁ……』
 しっかり知られていたのか……。
『メドラウドは優秀な騎士です。ちゃんと世界が機能していたら、今頃リチャード騎士団の方面騎士…いえ、騎士団長になっていたかもしれません』
『騎士団の……騎士団長?』
 それってつまり、トップってこと?
『えぇ。筆頭騎士が率いる親衛隊に護られた、リチャード騎士団のトップに、彼ならなっていたでしょうね。さぁ、手合わせしましょうか』
 美琴さんがずっと握っていた得物を鞘から抜く。噂に聞く日本の刀……。あれ?
『日本の刀って片刃なんじゃ?』
『えぇ、そうですよ。これは小烏造といって、少し特殊な造りなんです。神宮より大鴉がもたらしたと言われる皇室の刀、これはその写しです。写しなので本来名前が無いのが普通ですが、中島家では皇家から賜ったこの刀を、弥水やすい、と呼んでいます』
『弥水……』
 美琴さんが弥水を構える。見た事が無い構え。刀独特のものか。私も、メドラウドさんから譲ってもらった剣を抜き、構える。
『えっと、寸止めとか、出来る自信ないんですけど』
『ご心配なく、一太刀も当たる事は無いので』
 ……言ってくれる。

 

「つっかれたぁ」
 私は大の字になって地面に転がる。満月の月が綺麗に輝いていた。
『お疲れ様です』
 汗一つかかず美琴さんがほほ笑む。
『えぇ……疲れ知らずですか……』
『この程度であれば、容易いです』
 私の鍛錬はまだまだ足りていないらしい。
『その、美琴さんはやっぱり、その刀で敵と戦ったりするんですか?』
 焚火を囲って鍛錬の疲れをいやしながら、ふと思った事を私は聞く。
『いいえ、本当は大麻おおぬさと符術なんです、この刀は……なんというか、お守りですね』
『お守り?』
 返ってきた答えは意外な言葉だった。
『えぇ。この刀は中島家が代々受け継いできたものなのですが、私は刀による近接戦はあんまり性に合わなくて、そこで符術と出会って、今に至ります』
『えぇ……あんなに強かったのに』
『一通り刀で鍛錬はしましたから。それで、本当は私の子が刀を選ぶようなら、弥水はその子に渡そうということになっていたのですが……。それどころではなくなってしまいました』
『ルシフェル……』
『はい。日本に現れたルシフェルと戦い、父と姉は死にました』
 なんてことだ。日本に現れたルシフェルと戦う、それはきっとデウスエクスマキナで、ということじゃない。神性防御と呼ばれるルシフェルが共通して持つ能力はデウスエクスマキナ以外の攻撃をほとんど減衰させてしまう。イギリスでの戦いのように、デウスエクスマキナ以外による攻撃は目くらましとか足止めにしかならない。もちろん、アメリカや私の祖国がそうしたように、減衰しても無駄、というくらいに攻撃を加えてやれば倒せるが。雑魚ルシフェルでさえ、雑魚と呼べるのは私達がデウスエクスマキナに乗っているからに過ぎない。
『そんな中、私にクランカラティンへの誘いが来たのです。……きっと、生きていたら父が来ていたのでしょうね。だから、参加するのは生き残った私の義務だと思ったんです。そしたら母が、お守りに、と。使い手のいなくなったこの弥水を持たせてくれたんです』
 あぁ、そういえばそもそもそんな話だった。境遇の話をしているような気分になっていた。
『そうだったんですね……』
『さぁ、そんな話はいいでしょう。もう一戦どうですか?』
『えぇ……、まだやるんですか……』
『えぇ。私達はまだまだ弱い。フレイにははやく一人前になってもらわないと困りますから』
 私はまだ半人前か、まぁそれは否定出来な……。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
『ルシフェル!』
 美琴が即座に反応し、マラカイトに乗り込む。
 私はちょうど美琴さんがコックピットブロックに乗り込んだあたりでようやく動き出し、遅れてヴァーミリオンに乗り込む。
『反応速度もまだまだですね、フレイ』
 右のモニターに写った美琴さんがそういって笑う。
「ルシフェル発見ですね、フレイさん、美琴さん」
 目をつぶって、ヴァーミリオンに”なった”タイミングで、安曇さんの声が聞こえてくる。
『えぇ、援護お願いします』
「もちろん、敵は上級ルシフェルのようです。お気をつけて」
『フレイ、先行お願いします』
『了解』
 壊れたビルの傍を通り抜けようとした瞬間、赤い光が飛んでくる。
「!?」
 ちょうど地面に振り下ろしたばかりの足を踏ん張って、急停止。”私”のおなかをかすって、地面に着弾し、爆発を起こした。
「ヴァーミリオン?」
「問題ない、傷のうちにも入らんよ」
 ヴァーミリオンの頼もしい返事を聞き、もう一度、腕を出してすぐ戻す。即座に赤い光。まるで赤い線のようだ。
「遠距離攻撃か……」
 飛び道具持ちを相手にするのははじめてだ。
「それにしても、すごいはやさ。敵を捉えられないから、どうしようもない」
『どうですか、フレイ?』
 と、そこへ美琴さんが通信してくる。戦闘中はやや雑な口調になるのが美琴さんのスタイルだ。
『遠距離武器を持ってるみたいで、今ビルの陰です』
『遠距離武器とはやっかいですね、敵の形状は?』
『それが……、姿をさらしたら即撃たれるので、まだ確認出来ていなくて』
『なるほど……』
 美琴さんが考え込む。と、その時、”私”が隠れているビルが突如爆発する。さっきの攻撃だ。
「このまま隠れてもいられないか……」
 すぐに次を撃ってこないのは、連射出来ないから? ならば……。
「いまだ!」
 次にビルが爆発すると同時、”私”は射撃が飛んできた方向に走りつつ、その先にあるビルの陰に隠れる。
『やっぱり撃たれなかった。連射出来ないみたいです、やれるかも』
『では、フレイはうまく敵の位置を捉えてください。安曇がそれを私にデータリンクすることで、私がその敵を射抜きます』
『わかりました』
「いくよ、ヴァーミリオン」
「おうよ」
 ビルが爆発すると同時、ビルから飛び出して一直線に走る。赤い光。
「偉大なる翼《メギンギョルズ》!!」
 “私”に銀朱の翼が生える。そして、それを即座に正面にまとわせる。ガッキンと激しい衝突音。いや、これは……。
「溶けてる?!」
「なるほどのう、実体弾ではなく熱線攻撃だったか」
「メギンギョルズって熱に弱かったんだ……」
「当然、完全な守りなど存在せんからの」
「それでも、いけるところまで!!」
 翼の内側が赤く染まる。まもなく貫通する。
「とべぇぇぇぇ!!」
 防御態勢を解除し、一気にメギンギョルズをはばたかせる。
「見えた!」
 赤い線の出所。クモみたいに足の多いルシフェル。
「一直線の線になって、分かりやすいのう」
「安曇さん!」
「美琴さん!」
『分かりました!』

 

 ■ Third Person Start ■

 

「さぁて、やりますか」
 美琴が日本語で気合を入れる。
「天まで届く天羽々矢あめのははや天之麻迦古弓あめのまかこゆみ》!」
 マラカイトの腕に弓が出現する。蛇のように曲がりくねった矢が特徴的だ。
『安曇さん!』
「美琴さん!」
「分かりまし……たっ!」
 安曇から位置情報が届き、そして、矢が放たれる。
 その矢は、本来連射出来ない熱線を照射モードで発射したため排熱を余儀なくされた多脚型ルシフェルのもとに狙いすましたように、届き、綺麗にコアを貫いた。

 

 ◆ Third Person Out ◆

 

 To be continue...

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