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Angel Dust -第8章-

「こんのぉ!」
 グラムを左、レーヴァテインを右、二体の雑魚ルシフェルのコアに突き刺す。速やかに二体の体が塵に変わっていく。
「拘束の魔銃、《グレイプニル》!」
 落下する二本の剣を回収するより先に手元に二丁の銃を呼び出し、後ろから接近する二体の丙種ルシフェルを拘束する。
《まだ、右》
 ヴァーミリオンの声が響いて右に銃を向ける、見覚えのないシルエット、上級ルシフェルか。グレイプニルを発砲し、動きを止める、右手の拳銃を手放し、レーヴァテインを拾い、丙種ルシフェルを一薙ぎ。一体はコアを破壊し塵に、しかし、軌道が斜めになっていたか、もう一体はコアを砕くには至らず、レーヴァテインを持つ腕をつかむ。
「くっ」
 丙種ルシフェルは腕だけやたらマッスルな力持ちなルシフェルだ。その両腕で組み伏せ荒れると、デウスエクスマキナのパワーで脱出するのは難しい。そして、今回は私一人、そうなれば最悪負ける、ならば。
「偉大なる翼、《メギンギョルズ》」
 背中に翼を出現させ、一気に飛び上がる。丙種ルシフェルは地面から浮いた足をバタバタさせながらもあくまで腕から手を離す気は無いらしい。しかし、
「えいっ」
 左手のグレイプニルを丙種ルシフェルの腕に発砲、丙種ルシフェルの力が緩み、腕から手が離れる。
「アイツはいったん放っておいて……」
 そのまま落下する丙種ルシフェルを放置し、翼をはためかせて、上級ルシフェルに突っ込む。槍と盾を持った騎士型のその上級ルシフェルに上空から質量でタックルをぶつける。上級ルシフェルはそれを盾で受け止めるが、しかし、その質量に抗えず、上級ルシフェルは転倒する。
「このまま……」
 鎧のプレートの間にレーヴァテインを差し込み、一気にこじ開ける。ルシフェルの弱点、コアが露出する。
「てぇい!」
 そのコアにレーヴァテインを一気に差し込み、砕く。
《来たぞ》
「っと」
 後ろから起き上がってきたらしい丙種ルシフェルがショルダータックルを仕掛けてくる。一直線なそれを即横に除け、すれ違いにコアを切断し破壊する。
「これで、全員……」
 と思った次の瞬間、後方から地面に大きな質量が落下して起きた音がする。
「増援!」
 私はグレイプニルをそちらに向け、相手を確認するより早く引き金を……引けなかった。
《デウスエクスマキナは味方、であろう?》
「うん、ありがとうヴァーミリオン」
 そこにいたのは黄色のデウスエクスマキナ、ダンディライオンだった。引き金を引けなかったのは、ヴァーミリオンに、「私が特別言わない限り、デウスエクスマキナには攻撃しないように」と言っていたからだ。言っておいてよかった、と少し安堵する。

 

『お待たせ、ローゾフィアさん。私はスジャータ、でこっちがチュンダ。ほら、あいさつしなさい』
 たき火を囲いながら、スジャータと名乗ってくれたダンディライオンに乗っていた女性がチュンダというらしいダンディライオンに乗っていた男性の頭をガシガシとする。
『チュンダ。よろしく、フレイ』
『えーっと?』
 チュンダの言葉が聞き取れなかった、英語じゃなかったようだ。
『ごめんね、ローゾフィアさん、この子まだ英語が全然で。よろしくって、さ』
『えっと、よろしくお願いします』
 私は頷く。そうか、さっきからスジャータさんが毎回何かを聞き取れない言葉で言っていると思ったら、ずっと翻訳してくれていたのか。大変そうだ。
『新生アメリカ政府の領土まであと半分くらい? ベイエリアの方から少しずつ線路の修繕も始まってるよ』
 スジャータが私にはよく分からない位置関係や、最近の状況の話をしてくれる。

 

 私達は今、鉄道用の線路を復旧させながらピッツバーグへ向かっている。その中核になっているのが私だ。最初の一か月はいくつかのグループに分かれ、一番使える可能性の高い路線を選定した。それから二か月、私を基本にしつつ、ローテーションでもう一人デウスエクスマキナを付けて、路線上にいるルシフェルを撃破している。
 良くない事に、半月ほど前から、ルシフェルがこの路線上に集まりつつある、という情報が安曇から寄せられた。以降、上級ルシフェルに下級ルシフェル、雑魚ルシフェルが複数存在する混成部隊との戦闘が何度も続いている。
『でもごめんね、ローゾフィアさん』
『えっと、フレイ、でいいけど、何?』
『そう? じゃあフレイ。いや、私達はエンジェルオーラのために定期的に休みが必要だし、本部にも守りがいるしで、フレイばっかり戦ってて、状況次第ではさっきみたいに一人で戦わないとだし』
『もう慣れたよ。それに、本部の防衛も必要。最近増えてるって聞いた』
『うん。それはそう。この前も下級ルシフェルが十体襲撃してきた』
『十体!?』
 そんな群れは聞いた事が無い。クラン・カラティンの本部があるサンフランシスコはよくルシフェルの襲撃を受ける。集団のルシフェルとの戦闘はこの作戦が始まるまではサンフランシスコの周辺だけの話だったほどだ。しかし、十体とは……。
『このスープ、辛いけどおいしい』
『私達の国の料理で、カレーっていうんですよ。あ、それでこのパンみたいなのはナンって言うんですよ』
『へぇ……』
 中々おいしい。
『たくさんあるので、是非たくさん食べてくださいね。フレイはずっと頑張ってるから、たまにはおいしいものをたくさん食べる権利があるよ』
『こんなに物資があるの?』
 クラン・カラティンはいつも物資がかつかつだと聞いているが……。
『あー、私は詳しく知らないんですけど、インドにクラン・カラティンとの貿易に積極的な勢力があるらしくて、私の当番になった時に振る舞えるようにって、買い付けておいてくれたそうですよ』
 それはやけにサービスのいい話だ。
《まぁ士気を上げるには良い食事を振る舞うのは一番じゃからのう》
 確かに。
『インドって確か、ユーラシア大陸の国だよね? 大陸にある国のほとんどは国家体制が崩壊してるって聞いてたけど』
『うん、インドもほとんどそうだよ。でも残ってる街もあるんだって』
 なるほど。アメリカも東海岸に政府が残っているという、似たような感じだろう。
『インドもアメリカもどうやって存続してるんだろう? サンフランシスコだって防衛、大変だし』
『単に見逃されてるだけだろう』
『え?』
 私の疑問にチュンダが答える、が分からない。
『単に見逃されてるだけだろう、って』
 なるほど、ルシフェルから見てインドやアメリカの政府に攻撃する価値があるとは思えない、といったところか。
 しかし、そう考えると大陸国でもないのに滅ぼされた日本は、いったいなんでだろう、とふと美琴さんの事を思い出して考える。今度美琴さんの当番の時に聞いてみようかな。
《フレイ、お前を呼んでおるぞ》
「通信か」
『ごめん、通信みたい、聞いてくる』
 ヴァーミリオンに応じ、スジャータさんに断ってヴァーミリオンに戻る。
「こんばんは、フレイさん」
 安曇だ。詳しくないのでよく分からないが、電波による通信は諦めて魔術による交信で連絡する事にしたらしい。そして、それはヴァーミリオンにも伝わるので、ヴァーミリオンが私を呼ぶ、という形だ。ヴァーミリオンと会話が出来る私だからこそ出来る事、という事だ。
「こんばんは、安曇さん。どうしたんですか? 定時連絡の時間じゃないよね?」
「はい。皆さんの進路上にそれなりに大きなルシフェルの反応があります。さすがに二体では厳しいかもしれません。しかし、そちらに出せる増援がありません。ルシフェルの集団はそちらに向かって移動しています。このままの位置では敵に遠距離型が含まれる場合、不利と言わざるを得ません。直ちに戦闘しやすい位置に移動してください」
「了解」
 わざわざこのような警告が来るのは初めてだ。よほどの大戦力か、警戒しないと……。
『敵がこっちに向かってるって。大きな集団。戦いやすい位置に移動する』
 コックピットを開いて下に向かってそう叫び、スジャータが了解の返事をしたのを確認して、再びコックピットを閉じる。
 目の前でダンディライオンが立ち上がる。腕が四本ある変わったデウスエクスマキナだ。二本の腕を二人で分担して操るらしい。
『しかしわざわざ警告してくるだけの戦力なのに増援はなし?』
『はい。多分、向こうも襲撃を受けているんでしょう』
『襲撃のタイミングを合わせているのかもな』
 最後にチュンダが何か言ったようだったが、まずは移動を急ぐ。
『どこに移動しますか?』
『とりあえず、線路沿いに進もう。どこになるかは分からないけど、ここよりはまし』
 特に案のない私は、そう言いながら線路沿いに前進を始める。
『なら、南に移動しよう。以前偵察した時、この近くの街の廃墟で風をしのいだのを覚えてる。市街地戦の方がいいだろう』
 チュンダが言い、スジャータが翻訳する。
『わざわざ来るかな?』
『奴らの目的がこっちなら来るだろう、違うなら来ない。それならそれで、いい場所を見極めて背後から襲えばいい』
 なるほど。チュンダの意見はもっともだ。

 

 しばらく歩くと、そこは確かに廃墟であった。
『すまない、思ったより高い建物が無いな……』
 チュンダが申し訳なさそうに呟く。
『だけど、もうさらに場所を変える暇はなさそうだね……! 散って』
 向こうから白い光が飛んだのを見て、私は二人に散開を指示して後ろに大きく飛ぶ。
 さっきまで私達がいた場所に光の筋が飛んでくる。
《儂のグングニルみたいじゃのう》
『関節射撃? どこから?』
 次の攻撃が来るのに備えて、半ば伏せるように建物の間に姿を隠す。
『さっきまでの私の視界の向こう』
『って事は、このライン上か』
『フレイ、ちょっとモニターを見て』
 言われて片目を開ける。右のモニターのレーダー上に先ほどまでの自分の位置とその時向いていた方向に点線のラインが伸びる。左のモニターのカメラを見る限り、チュンダが何か機械を操作している。機械に強いのか、チュンダは。
『このライン上に敵がいる。フレイに関節射撃装備は?』
「どう、ヴァーミリオン?」
《グングニルならできるじゃろうのう》
 と返答と同時にカタログがめくられる。なるほど、視界にとらえた相手に必ず当たるビームか。
「ビームって何?」
《前に美琴と一緒に戦った射撃型のがいたろう。あ奴が撃っておった奴よ》
 あの熱線か。
『あったよ。相手を視界にさえとらえれば必ず当たるって』
『なら、偵察が必要だな』
 と、言うと、チュンダがそのままコックピットブロックから降りていく。
『俺が偵察する。カメラの周波数は……』
 言われた通りの設定をする。スジャータに教えてもらいながら。機械は苦手だ。よく分からない。

 しばらくして、映像から音声が流れてきた、スジャータが翻訳する。
『上級ルシフェルが二体。片方があの射撃型みたいだな。背中に大きな筒を背負ってる。もう片方は両手に盾を持った騎士型だ。その周囲に甲種ルシフェル、丙種ルシフェルが五体ずつ』
 映像にはチュンダの――私が聞いてるのはスジャータの声だけど――言う通りのルシフェル達。
『多いなぁ』
 合計12体のルシフェル部隊か。
『明らかな攻撃能力を持ってるのは射撃型だけだ。今なら気付かれてない。お前がアイツを一撃で仕留められれば、あとはそんなに苦戦せず倒せるさ』
「神の一筋、《グングニル》」
 背中に重さを感じる。おそらく背中にあの射撃型のような筒が出現したのだろう。そして、即座に発射する。伏せている”私”の背中から光の筋が放たれる。地面を張って進み、高い建物の陰で一気に軌道を上方向に向ける。中々賢い光線だ。
『まさか?』
 チュンダが何かを呟いた。カメラの映像の先で、騎士型がなぜか空を見上げていた。そして次の瞬間、タワーシールドというらしい縦長の盾を放り投げ、グングニルのビーム攻撃を防いだ。
 そして、甲種ルシフェルが武器を出現させ、前進を開始した。丙種ルシフェルがそれに続く。
『やむを得ない。姉貴、こっちへ。俺達が奴らをおびき出し、その間にフレイのグングニルで倒してもらう』
『私、行くね。あの盾持ちを引きはがすから、その間にあの射撃型を』
 そう言って、ダンディライオンが立ち上がる。
『安曇、追加武装を、相対座標は……』

 

 ■ Third Person Start ■

 

 ダンディライオンが駆けだす。その少し前方に歪な五芒星エルダー・サインが二つ出現し、そこから飛び出した武装カプセルが地面に突き刺さる。位置はぴったりダンディライオンの左右の腕が届く距離。全力疾走のまま、少しも減速する事なく、武装カプセルから武器を抜き取る。武装カプセルから抜き取られた二本の両刃剣を構え、間もなく視界に入る、甲種ルシフェル二体の間に割り込む。
「てやぁ!」
 そして二体を弾き飛ばす。全員の注意がこちらに向く。
「射撃が来るぞ」
 チュンダからの通信、ダンディライオンは斜め後ろにジャンプする。先ほどまでダンディライオンがいた場所を光の筋が貫く。着地したダンディライオンは、武器を持っている右腕を突然脱力させ、武器を持っていない方の右腕を腰くらいの高さのビルの屋上に手を伸ばす。
 そこにはチュンダがいて、チュンダは迷いなく、その掌の上に乗る。
 そこに突入してくる丙種ルシフェルに対し、チュンダをかばうように、くるりと背中を向けて、そして一気に横に飛んで回避、丙種ルシフェルはビルに激突。
 敵に背中を向けた状態のままコックピットブロックを開けて、チュンダを収容。
「武器の腕をこっちに」
 チュンダが操作し、脱力していた武器を持った右腕を操って丙種ルシフェルのコアを破壊する。
「あとは丙種ルシフェルが4、甲種ルシフェルが5」
「んで、盾持ちを引きはがせ、だな」
 丙種ルシフェル二体がダンディライオンに接近する。
「武器はあの盾持ちに使う。それまではこの二本で行く。姉貴は援護よろしく」
 接近してくる丙種ルシフェルに対し適度な距離を保ち、タックルを誘発させ回避する。
「右、もらうね」
 両手が精密にそれぞれのルシフェルのコアを破壊する。
「どうやら、こっちの動きを止めて射撃で倒すって作戦だったみたいだが」
「諦めて防御する方に切り替えるみたいね」
 見れば甲種ルシフェルが前面に五体並ぶ。
「どうする?」
「こちらはあとでいくらでも倒せる。だから……」
 ダンディライオンは半ば飛ぶように一気に前進し、甲種ルシフェルを突き飛ばす。目の前に盾持ち、その背後で射撃型の砲が光を放っている。ダンディライオンは右足を前に出してブレーキ、土煙を上げながら、右手の剣を投擲する。
「今だ!」
 盾持ちが両腕の盾を固く構える。
「水を解放する金剛杵、《ヴァジュラ》! を二本!」
 武器を持っていなかった両手に両方に尖がった小さい槍のよう武器が出現する。それは黄色い放電を発生させ。
「俺が左を」
 そして投擲される。剣を防ぐために構えていた盾に二本の槍が迫り、そして破壊する。
 なおも貫通する二本の槍は騎士型ルシフェルの装甲に突き刺さり、その帯電した雷で動きを止める。
 そして射撃型から光が飛び出しそうになった次の瞬間、より大きな白い光の筋が射撃型を飲み込んだ。
『フレイ、あとよろしく!』
 そしてダンディライオンは甲種ルシフェルから距離を取りつつ最後の丙種ルシフェルのコアを残った左手の剣で破壊する。

 

 ◆ Third Person Out ◆

 

「偉大なる翼、《メギンギョルズ》」
 一気に飛び上がる。
「拘束の魔銃、《グレイプニル》」
 銃でダンディライオンに接近する甲種ルシフェルに牽制する。そして銃を放り投げて、
「災厄の枝、《レーヴァテイン》、権力の象徴、《グラム》」
 そのまま落下し、騎士型ルシフェルの鎧ごとコアを破壊する。
 残りは甲種ルシフェルが5。とりあえず、並んでいる二体をグングニルで倒す。残り3。
「…………ねぇヴァーミリオン?」
《なんじゃ?》
「あいつら飛べないんだよね?」
《そうじゃな》
「遠距離攻撃も出来ないよね?」
《そうじゃな》
「……そっか」
 私は大きく飛び上がって、残り三体をグングニルで撃破した。
『本当に無尽蔵なんだねぇ、フレイ。あれだけの武器をそんな連射するなんて……』
 スジャータが呆れるように呟き、チュンダが同意するような声を上げた。
「これまでの下級ルシフェル戦、私もしかして無駄に戦ってた?」
《………まぁ、地面はクレーターだらけじゃがな》
 言われて地面を見る。そこは今空に輝いている満月のように大きなクレーターが複数できていた。
「……これまでは無理だったね」
《線路や人の住む場所を破壊する事になるからのう》
 これまでの戦いが無駄ではなかったのはよかったけれど……。こんなにクレーターを作るなんて、あまりに強すぎる。もし、ここに人が住んでいたら? ここに誰か人がいたら? 私は、今更、デウスエクスマキナの、ヴァーミリオンの強すぎる力を実感して少しだけ、怖くなった。

 

 To be continue...

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