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第五章『”学級委員長”鈴木アキラ』

「基本的に自分のルールに従っている限り長期的には勝つことができる。」(投資家 ハワード・シドラー)

 

 眼前に迫る炎の一閃を避ける。
「さすがにこのペースでは、もう当てられないようですな。では、次は雷と行きましょうか」
 守宮殿が刀を構え直す。
「え、待ってください。竹俣兼光の写しで雷はさすがに……」
 アオイが止めに入るが、間に合わず、突きの形で放たれた雷の一撃を、私は避けること叶わず。
 気が付いたらベッドの上だった。
「起きたか。すまない、アンジェ。久しぶりに術を使ったので調子に乗ってしまった」
 申し訳なさそうに守宮殿が声をかけてくる。
「本当ですよ。必中の雷撃と謳われた守宮殿の雷を避けろなんて無茶もいいところです」
 そんなにすごい技だったのか。月夜家の血の力、それが刀で印を刻むことで不思議な現象を引き起こす力だ。私達は数日前、魔術師に打つ手なく敗北し、あろうことか、他の魔術師に助けられた。アオイさんはそれが気に入らないらしく、守宮殿に血の力を使ってもらうことで、対魔術師を想定した訓練を行うことになったのだが。ともかく、その結果が雷の直撃を受けてベッドの上、というわけだ。
「仕方ありませんね。今日は座学と行きましょう」
 そして倒れると座学の時間が始まる。雷で倒れたのは今日が初めてだが、もうおなじみの流れだ。これまでも基本からいろんなことを学んできた。
 魔術師には刻印や呪文を使って魔術を使う古術使いメイガス、魔導書と呼ばれる本を使って魔術を使う邪本使いマギウス、魔導具と呼ばれるものを使って魔術を使う魔導具使いウィザードという三種類が存在すること。魔導具は知識がなくても使えることから、本来魔術とかかわりのない人が使うこともありうる。逆に魔導具を霊害退治に利用している組織もあるらしい。
 魔術はほとんど、自分の中の魔力を使うが、それでは大きな魔術は使えないので、儀式を使って空気中の魔力を使う。とはいえ、現代においては空気中の魔力も大したことがないので、私達の学校のような龍脈の結集する場所を欲するらしい。ちなみに前回助けに現れた魔術師の使っていたルーンは、起動時に周囲の魔力を吸収するらしく、文字一つ、儀式なしで空気中の魔術を使える稀有な魔術体系であるらしい。さらに捕捉すると、月夜家の血の力は血液中の魔力に似たものを使うらしく、刻印を使うのは一緒でも、細かいところが違うようだ。
「それでは今日はルーンについてやりましょう」
 気のせいだろうか、最近そういってルーンについて学ぶ機会が多い気がする。
 ルーンはゴート語で「秘密」という意味の言葉を語源とする。呪術や儀式にも用いられるが、日常生活においても文字として使われてきたらしい。ルーン文字そのものはそのように様々な用途で使われるが、魔術の世界でルーンというと、通常は北欧由来のルーン魔術のことを指す。ルーンは文字を刻むことで魔術を発動させられる手法であるが、文字を刻まなければならないという点で、詠唱などによって魔術を使う他の古術使いの手法と比べてやや手間がかかることがデメリットになる。ルーン杖を用いて空中にルーンを刻むか、詠唱などを交えることですでに刻んでいるルーンを起爆するか、が必要となる。
 まず後者について先に説明すると、紙にペンで、壁にナイフで、ルーン文字を刻むことで、それを詠唱などで起爆させることができる。こちらの方法は、とりあえずルーンを刻んでさえおけば一工程で発動できる点が強い。また起爆に必要なトリガーは刻んだ本人以外でも引くことができるので、これを逆に利用してトラップにすることもできる。例えば教室で安曇と呼ばれた邪本使いの魔術が失敗したのは、壁一面に刻まれたルーンが、彼自身の召喚の詠唱によって起爆したからである。私達の周囲を覆った炎の壁もおそらく事前に仕込まれていたもの。戦闘領域が事前に決まっていてかつ準備期間がある場合に極めて強力な力を持つのがこの手法だ。その意味において、事前に安曇が召喚に用いる場所が分かっていて、儀式までに十分な時間があった、あの状況はルーン魔術師にとって極めて有利な状況であったと言える。
 次に前者について。ルーン杖はルーンが刻まれた杖である。色々と説明されたが簡単に説明するなら「空中に即起爆するタイプのルーンを描くためのルーンが刻まれている」ということらしい。これは戦闘中に正確にルーンを刻まなければならない、という点で「わざわざ戦闘中に魔法陣を描くよりはマシだけど、詠唱で魔術を使うよりは手間がかかる」というデメリットがある。メリットとしては先に説明したように空気中の魔力を使えることか。
「要するに準備済みの陣地に突入するとつらいですが、そうでないなら、発動には時間がかかるということです。なので、あのルーン魔術師と戦うならば、移動中を狙うのがよいでしょうね」
 そんな話だっただろうか。やっぱりあの英国の魔女、と呼ばれていた女性の事を強く意識しているらしい。
「アオイ殿はそろそろ学校に向かわれた方が良いのではないかな。最近間隔を開けずに一緒に登校していますから、ちょっと怪しまれたりしていませんか?」
「む、そういわれてみればそうですね。それでは、私はこれで」
 守宮殿の助けによって、アオイさんは出発の準備を始める。

 

「アンジェ―むぐ」
 とっさに体が反応して、振り返って右手で顔を抑える。
「やるようになったな、アンジェ……」
 ヒナタだった。いや分かってはいたけど。
「最近、生徒会長さんと一緒でスキンシップ出来なかったからしたかったのに―」
 しなくていい。
「まぁ、手のひらをいじるのも楽しいか」
 右手を握って、むにむにしはじめた。
「やめなさい」
 振り払う。
「えー、いいじゃーん、減るものじゃないんだし―」
「その理屈を通してしまうと、減ってしまわないものはなんでも明け渡さないとならないことになるので却下です」
「ぶーぶー」
 なんだってヒナタはこんなにセクハラへ熱意を燃やすのだろうか。アキラ辺りにでも行けばいいのに。
「いや、それはだめか」
「ん? 何か言った?」
 思わず友達を売りそうになったことを後悔する。
「おーい、アンジェってばー」
「え? あ、ごめんなさい、聞いてませんでした」
「もー、またそれ? 悪魔とか魔術師と戦うのもほどほどにしないと、アンジェはまだまだ肌のぴちぴちな高校生なんだからさー」
 思わず息が止まる。なんでそれを知っている。
「なんで、それを……」
 言ってから後悔する。馬鹿正直に認めてどうする。ごまかすべきだった。
「あ、やっぱり? ちょうどこの前が発売日だもんねー」
「へ?」
「ん? デビルハンター2ダッシュでしょ? ちょうどその発売日くらいから、だよね、アンジェの調子がおかしいの」
「あ、あぁ。そうなんです、思ったより面白くてつい」
 びっくりした。なんていう偶然だろうか。そんなことがあるなんて。
「ふぅん、そっかそっかー。私もちょっと遊んでるんだー。そのうち一緒に遊ぼうねー」
 ヒナタがニヤニヤ笑いながらそう答える。隠していたことを暴いて気分がいい、といった感じだろうか。それにしてもまずい、今日中にでも購入し、ヒナタと遊ぶことになる前に、それなりに言い訳が立つレベルくらいまでは進めないと。
「あ、二人とも。朝に二人を見かけるの、久しぶりだねー」
「二人を?」
 アキラが合流するなり妙なことを言ってくる。
「? うん。だって、アンジェちゃんもヒナタちゃんも、ここのところ私と一緒に行き帰りしてなかったから」
 ヒナタも? いったいどうして?
「あー、えっと、ほら。生徒会長と一緒のアンジェに何とかスキンシップが図れないかずっとタイミングをはかってたから―」
 ずっと後ろをつけていたというのか、なんて奴。
「もうすぐ文化祭かぁ」
「今週末にはうちのクラスも買い出しにいかないとだしね」
 文化祭……。それまでにはこの学校を取り巻く問題と何とかしたい。
「なぁに、アンジェ、緊張してるのー? そんなに気負いすぎないでよねー」
「アンジェちゃんはホール担当になったもんね」
 えぇ、ヒナタのせいで、ね。

 

「今日も、陣が敷かれた形跡はありません。少なくともあの安曇という邪本使いが何かをした、ということはなさそうです」
 しかし、そんな焦りとは裏腹に、学校では何の動きも捕捉できない。
「もうあきらめたって可能性はあるんでしょうか?」
「彼の行う魔術体系は、星の動きと連動しているそうですから。もうここから数か月はチャンスがないという可能性は確かにあるかもしれませんね。まぁそれでも、放課後にここに集まるのは欠かせないようにしましょう。いつ、どこで何が起きるか分からないのですから」
「はい」
「それでは、今日は解散としましょうか。それから、今晩は瘴気が出そうです。刀は持って帰る方が良いでしょう」
 と、竹刀のケースと刀を渡される。アオイさんの所属している宮内庁霊害対策課では、龍脈の状況を常に監視しているらしく、ある程度、龍脈に起因する事象の発生を予想できるらしい。
「わかりました」
 さて、せっかく早く帰れることになったのだから、ヒナタの言っていたゲームを手に入れなければ。

 

「デビルハンター2……。これでしょうか」
 デパートの家電量販店のゲームコーナーでそれらしいゲームを見つける。
「しかし、最近発売されたにしては安い……?」
 そう、もう発売から二週間経ってるとはいえ、相応の値段はするはずだ。ところがこのデビルハンター2というゲームはずいぶん安い。デビルハンターシリーズは前作がそれなりに評判良くて、ヒナタも何かいい感じのことを言っていた気がする。あれか、よっぽど前作と比べて残念だったのか。……もしそうだとすると私はなんてゲームを面白いと言ってしまったのか。まぁ、とはいえ、あぁ言ったからには買ってちゃんとそれなりにプレイした証拠を作っておく必要がある。買おう。もし面白くなかったら、その時はその時だ。安いこと自体は助かるし。

 

「あれ、アンジェちゃん?」
 ついでに何か本でも探そうかな、と本屋に入ろうとした時、そこから出てきたアキラとばったり出会った。
「アキラ、ここで何を?」
「え、そりゃ、参考書とかないかなって」
「それにしては手ぶらのようですが」
「あんまりいい本がなくってー。この後街はずれの古本屋も探してみようかなって」
 ほほう、そんなところがあるのか。
「アキラはそこによく行くんですか?」
「え? うん。結構レアものとかあって、いいところだよ」
 レアもの? 参考書の話ではないのだろうか? いや、そこはあえて触れないようにしよう。
「それは面白そうですね。私の欲しい類の本もあるかもしれません。よかったら案内してください」
「う、うーん……」
「ぜひお願いします。アキラの本命については、見ませんから」
 渋ってるようなので思い切ってさらにお願いしてみる。アキラの様子から、参考書以外の何かが本命なのは明らかだ。そして別にそれを明らかにしたいという意図はない。
「ふぇ? いや、別に本命なんて、ないよ?」
「なら、なおのこと、是非お願いします」
「う……、わ、分かった……」
 私の押しの強さに負けたのか、ついにアキラが同意してくれた。

 

 結論から言うと、そこは宝庫だった。剣術関連の本など、そうそう普通の書店にはおいていないものだが、その古本屋にはあった。どれを買おうか、なんて悩んでいる間に、アキラは買い物を終えたらしい。もともと見るつもりもなかったが、結局アキラの本命がなんだったのかは分からないままだ。
「そろそろ帰ろ、暗くなっちゃうよ」
 と、アキラ。では、とりあえず、これだけ買って帰ろうと、一冊購入して店を出る。
「しかし……ここは本当に人通りがないですね」
「住宅地くらいしかないからね。さ、駅に行こ」
 と、アキラが私より一歩先に踏み出した次の瞬間、私はその場の以上を感じてとっさにアキラの手をつかんで引っ張った。
 視界に広がるのは紫色の霧、間違いない、瘴気だ。ちょっとずつ、その場にいる人間であるアキラに向かって集まりつつある。
「アンジェちゃん?」
「まだ夜には早いのに」
 不思議そうにこちらを見返しアキラをそのままに、私は竹刀ケースから刀を取り出す。
「アキラ、今から見るものは、ヒナタには……というか、他言無用で願います」
 私の刀を見て敵対的行動と判断したのだろう。瘴気はアキラから離れ、私の目の前、少し離れたところで、人の形をなす。
「行きますよ」
 敵は三体。いずれも見慣れた敵だ。黄泉還り(実際には類似しているというだけで、本当の黄泉還りと種別される存在は別にいるらしい)、バールを持ったのが二人と、拳銃を持ったのが一人。
「アキラ、建物の隙間に隠れて」
 バールはともかく、拳銃は流れ弾が怖い。
「はぁっ」
 他に瘴気は見当たらない。ここにいた瘴気によって形成された敵はこれで全部だろう。不意打ちの心配はない。一気にバール持ちを仕留め、安全に拳銃持ちを倒す。
 まずはバール持ちの片方に一太刀浴びせる。完全に先手を打つ攻め方、殺人刀、は私の事実上の師であるアオイさんの戦い方とは異なるが、拳銃を持った敵でいる以上、バール持ちに手間取っていては、どんどん不利になるだけだ。
「っと」
 後ろにステップを踏んで弾丸を回避する。拳銃持ちの黄泉還りは狙いをつけて撃つまでに若干の時間がある。そして、馬鹿正直にこっちを狙う。だから、相手の銃口を見ていればよけることはまだ可能だ。
 もう一人のバール持ちがその隙をついて、突っ込んでくる。鋭いバールの一撃を、柄の部分を使って受け止める。バールというのは先端こそ鋭利だが、そこ以外は単なる打撃に過ぎない。そこを受け止めてやれば、少ないダメージで防御ができる。
 さっき一太刀浴びせた方のバール持ちがこちらにバールを振りかざす。よし、このバールの動きをよく見て……。
「とった!」
 回避して武器を持つ腕を両断する。片手を刀から離して、宙に浮いたバールをつかみ、もう片方の頭に刺す。刀を両手で持ち直して横一文字に二人まとめて切る。そのダメージに耐えきれず、二人の黄泉還りはまとめて霧に戻り、ふぅっと消えていく。
 そして、私は、失敗に気付いた。
 拳銃持ちの銃口が完全にこちらに向いていることに気付いたのだ。アオイさんから学んだ、相手の攻撃を迎撃することで戦う戦法、それの実践に夢中になりすぎて、拳銃持ちの動向に注意を払うのを忘れたのだ。
 バァンと、銃声が鳴り、私の左肩に痛みが走る。銃弾が貫通したのだ。初めての負傷だった。
「アンジェちゃん!!」
 あれだけ戦ってきて、初めて? どういうことだろう。この程度のヘマ、何度もやらかしてきた。そうだ、初実戦でもご当主様がいなければ、私は拳銃持ちにやられていたはずなのだ。
「あ、そうか」
 これまでは、不思議な白い光が私への攻撃を防いでくれていたのだ。どういうわけか、今日はそれがなかった。あの光は、いったい何だったんだろう。アオイさんの言うように、私の、如月家の、血の力なんだろうか……?
 血がポタ、ポタ、と落ちる。アキラの心配する声が聞こえる。そうだ、ここで倒れては、アキラが死んでしまう。それは、だめだ。
 私は、膝をつきかけていた足に命令し、立ち上がる。肩の痛みをこらえながら、刀をしっかりと握り構える。そして、その刀が白い光を帯びる。
 刀が白い光を帯びる現象、覚えがある。そう、あの、テケリ・リスライムと戦った時も、こんなことが起きた。体を守ってはくれなかったのに、これから戦うのには力を貸してくれるらしい。
「この、くらぇっ!」
 なぜか、”届く”と思った。あるいは、ただがむしゃらだった。理由は自分でもあまり分からない。ただ、私は、完全に刀の射程外のはずの黄泉還りに向かって、大きく刀を振るった。刀をまとっていた白い光があふれ、まるで刀の軌跡がそのまま形になって飛翔するように、白い円弧がまっすぐ敵に向かって飛んでいく。その白い円弧は、黄泉還りの放った銃弾を消滅させ、そして、黄泉還りもまた、消滅させた。
 私はそれで力尽きて、地面に倒れた。
「アンジェちゃん!」
 アキラが駆け寄ってくる。
「アキラ……このことは、他言、無用で」
「わかってるよ。とりあえず、救急車を!」
「大丈夫、それには及ばないよ」
 大丈夫、という言葉を紡ぐ前に、誰かがそれを継いでくれた。私はそれで、安心して、あるいは力尽きて、意識を失ってしまった。

 

「大丈夫、それには及ばないよ」
 そこにいたのは、仮面をつけた少女。
「え……誰?」
「んー、その子のファン、かな」
 指で何かの図形を空中に描き、そしてポイっとアンジェの方にはじくと、それが傷口に飛んでいき、アンジェの傷を癒していく。
「やっぱり、魔力構造体を分解する力を持ってる。不思議。あ、守りのルーンも、張りなおして・・・・・・おくからね」

 

続く

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