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異邦人の妖精使い -第2章 前編-

 大きなため息をつきながら、曇った空を見つめる。
 なんとか見つからずに街に戻り、事前に決められていた場所で“情報屋”と合流したもの、期待していた収入は、元々、仕事を依頼していたクライアントが寺周辺の戦闘について関与を疑ってるから、誤魔化す手数料だといって、ほとんど抜かれてしまった。
 今のところ、一番恐ろしいのは“情報屋”から、あそこに行っていたのが私である、というのが漏れるのが一番の問題である。多めに抜かれている気もするが、文句は言えない。
「しばらく生きるのには困らないんだし、なんとかなるでしょ」
 頭の中にウェリィの声が響く。実際、今のままで一か月。節約すれば数か月は生活できるだけのお金は所持している。
 だが、やはり不安定な逃亡生活だ。お金は持てるだけ持っておきたい。今後、警察からも身を隠す必要が出てこれば、仕事も受けにくくなるかもしれない。
「考え込んでると返事してくれないのよねー」
 ウェリィがポケットの中で伸びをするのが服越しに伝わる。
「分かった、とりあえず情報収集」
 収入が入らなかった事を気にしても仕方ないと、先の戦闘がどう報道されているのかという事を確認する。
 普段なら、放置されている新聞を少し読んだりする程度であるが、今回は買ってでも確認する必要がある。
「だったら、コンビニだね! いえーい」
 なぜかウェリィが楽しそうに言う。何でもある、という印象のコンビニが好きで、コンビニに行くたびに楽しそうにする。
「余計なものは買わないよ」
 その言葉通り、目に入ったコンビニに入り、パンと飲み物、それから目当ての新聞だけ購入し、店を出る。
 ウェリィは季節限定らしいお菓子に興味を示していたが、節約と言って買わなかった。
 座るところを見つけられなかったため、歩きながら新聞を読む。
 大きくは取り上げられていなかったが、寺社の境内にて、何者かが花火などで騒いでおり、近隣住民の通報を受けて警察が駆け付けたところ、人はいなかったが建造物の損壊、仏像の盗難を確認し、現在、調査中である。という記事を発見する事ができた。
「銃撃を花火と思ったのかしら。ちょっと不思議なところはあるけどね」
 ウェリィの言う通り、戦闘の音は騒いでいる、という程度で済むものだろうか?
 この戦闘がどこまで周りに響くか、とは考えながら戦っていないため、聞こえたと言われたらそうのだと思うしかないのだけど、疑問はある。
「銃について、把握してるのか、気付かなかったのかが気になる」
 ライフルが使われたと分かっているなら、それを隠せるクラブケースを持っている私を怪しむ可能性はある。警官を見た時に避ける必要も出てくるかもしれない。
「テレビでも探す?」
 確かに、テレビなら最新の情報が手に入る。飲食店やテレビを扱う店など、見れるところも多いが、一転に留まるというのは、見られているようで落ち着かない。昨日のようにナンパされる事もある。
「夕刊でいいと思う」
 出歩くよりは、安定した隠れ家で待機していた方が良いはず。そちらに足を向け歩み始める。
 その時、こちらを見ている視線に気が付いた。
 昨日ナンパしてきた男性が、同じスーツを着てニコニコしながらこちらに近づいてきている。その行動に文句を言った男性の姿も見える。
「諦めてないのねー」
 ウェリィが呟く。連続で声をかけてくるとは、よっぽど気に入られたのだろうか。
 ため息をつき、どうあしらうか考えていた時、違和感にようやく気が付いた。
 ナンパしようとしているのは明白なのに、もう一人の男はなぜ止めないのかという事に気付き、ナンパしてきた男はニコニコであるが、もう一人は緊張した面持ちであり、少し腰のあたりを手で気にしている様子が見えた。
 ナンパではなく、何か別の用事がある。しかも、どちらかというと敵対的な者であると認識した時には、もう彼らは目の前だった。
 クラブケースを体の前に持ってきて、銃剣だけでも取り出そうとするが、引っ掛かり、上手く前に持ってこれない。その様子を見て、ナンパ男が声を出す。
「ほら、仕事だって言っただろ?」
 もう一人の男と、何もない空に向けてそう言った後、懐から何かを取り出しながら、私を見て発言する。
「警察です。昨晩の寺社損壊についてお話を伺いたいのですが、ご同行願いますか?」
 懐から取り出したものは、警察手帳。完全に油断していた。警察関係者が勤務中にナンパとは。
「ありゃー、どうするの?」
 ウェリィがそんなに焦っていない声で言う。抵抗しようにも、武器は全てクラブケースの中。人工妖精を呼び出そうにもケースはコートの下であるから、咄嗟に出せる位置に無い。
 突然の襲撃についての訓練が足りなかったと反省しつつ、大人しく彼らの指示に従う事にした。

 

= = = =

 

 取り調べを受けるのかと思えば、男たちは私をラーメン屋に連れてきた。
「日本の警察ってラーメン屋で取り調べするの?」
 ウェリィがこっそりと魔法で訪ねてくる。そんな事はないはずだと考えていると、ナンパ男が口を開く。
「ラーメン屋で取り調べかー、面白いね。カツ丼も出せそうだ。まあ、あれは嘘なんだけど」
 カツドン? 何の話だろうか。いや、内容よりも、ウェリィの発言に対して答えているという方が問題だ。口に出していないはずで、実際、彼の隣の男は困惑している。
「お兄さんこっち側かな?」
 男がウェリィの魔法での発言に頷きを返す。
「そんな感じかな。初歩の魔法伝音だったら聞き取るくらいはできる。ところで、お昼は食べるかな?」
 そう言いながら、メニューを手渡してくる。全くペースをつかめない。とりあえずメニューを眺める。
「あ、それから、こっちの鈴木君には聞こえないから、声を出してもらえると助かるな、妖精さん。君も欲しければ注文していいよ」
 その声を聴いて、ウェリィはポケットから顔を出す。鈴木と呼ばれた男の方はかなり驚いた顔をしているが、ナンパ男の方は少し目を細めただけであった。
「このミニ餃子が食べたいなー」
 ウェリィもマイペースであった。何のためらいもなくお願いをする。
「ミニ餃子か、餃子だと大きいのかな? さて、フェアさんはどうする?」
 先ほど購入したパンは開けていないし、お腹は減っている。それに、いい匂いが漂う店内でその誘惑に勝つ事はできなかった。
「塩ラーメンで」
 メニューの中で一番安いのにしておけば、何か相手に考えがあってもなんとかなるかもしれないと安いものを選ぶ。
「うんうん、警戒は大事だね。大将! 私たちにはいつもので、この子達には塩ラーメンとミニ餃子を」
 あいよー、という元気の良い声がキッチンから聞こえる。どうもこのお店は常連らしい。
「自己紹介をしないとね。警視庁、通称対霊害捜査班に所属する中島守なかじままもる。彼も同じく」
 中島という名前らしいナンパ男が少し真面目に自己紹介をし、隣の男を手で示す。
「はい、捜査班所属、鈴木光輝すずきこうき巡査です」
 階級も名乗っているし、姿勢もびしっとしている。真面目、というのが感じられる自己紹介であった。
「昼食は落ち着いて食べたいから、手早く進めるよ。まず、逮捕しなかったのは協力してほしいからだね」
 和を感じさせるケースに包まれた、スマートフォンの画面をこちらに見せてくる。そこには、写真が映し出されており、数丁の銃が木箱に収められている写真だった。
「これ、妖精銃じゃない?」
 ウェリィが言う通り、私が椅子の横に立てかけているケースの中身と明らかに同一の物であった。
「そう、妖精銃。こっちは、人工妖精入りのケース」
 彼が画面を指でなぞり、次の写真が表示される。そこにはケースに収められた人工妖精が写されていた。
「これ、日本国内?」
 妖精銃を多数装備しているのは、英国系対霊害組織のみで、その所在地は英連邦やアメリカ等、英国と縁が深い国であり、日本は含まれていない。日本に多数の妖精銃があるというのは異常な事である。
「首都高で事故を起こした車両から押収した物です。運転手は依頼されただけだったため、多くの情報は手に入りませんでしたが」
 鈴木さんが解説をしてくれる。車両で輸送されていたとなると、どこかにもっと蓄積されており、販売のために動かした可能性も出てくる。
「協力内容というのは、この人工妖精関連物の流通についての調査の協力。暗殺事件以降、リチャード騎士団からの協力がなかなか得られなくてね。知識のある人間が欲しい」
 暗殺事件という言葉に反応しそうになるが、抑える。
「この子、その暗殺事件の容疑者だけどいいの?」
 ウェリィが喋った。地雷を踏みに行くような物だと思う。
「少なくとも君が犯人じゃないってのは独自の情報網で確認済み。昨日のあれはいいカードになると思ったからで、結構前から協力できないか狙っていたんだ」
 すでに色々と調べられていたらしい、ふと、昨夜の通報もこの人がなにか手引きしたのではないかという発想が浮かぶ。それからナンパ男の顔を見ると、色々と企んでいそうな顔に感じられる。
「それで、協力してくれるかな?」
 言葉にはしていないが、断ったら本当に逮捕するなり、厳しい対応をしてくるのは間違いない。逆に断ると思うのかと聞きたい。
「私はいいよー」
 ウェリィがのんびりとした口調で言う。私もそれに合わせる形で頷く。
「ありがとう、とても助かるよ」
 ナンパ男が軽く頭を下げたところに、ちょうど店員がラーメンを持ってきた。
「さて、食べようか。仕事の話は車でしよう」
 そう言うと、二人が割りばしを割り、食事を始めたため、私も割りばしを手に取り、塩ラーメンに手を付ける。コンビニなどで移動しながら食べられるものが中心であったから、温かいものはずいぶん久しぶりに感じる。ウェリィは人払いの魔法を使ってから、ポケットから出てミニ餃子に近づいていく。
「流石に妖精さんと一緒に食事するのは初めてだね」
 ウェリィがどこから手を付けようかと悩んでいる様子を見ながら、ナンパ男が呟く。
「サービスで羽根も光らせましょうか?」
 妖精っぽさを出すためか、ウェリィが羽根をピコピコと動かす。ナンパ男も反応しているが、隣の鈴木さんはさらに興味深く見ているように感じる。
「人工妖精と同じ羽根なのですね」
 本当に興味深そうに観察している。人工妖精の原形はウェリィとその姉なのだから、当然そっくりである。人型と蝶々型、つながりはないようにも感じられるが、羽根を見ていると原形であると感じられる。
「そんな貴重な食事の時間だけど、さっそくお仕事みたいだね」
 ナンパ男がすっと立ち上がると同時に、彼と鈴木さんのスマホが着信音を鳴らす。二人は一応というように画面を確認し、ナンパ男がその画面をこちらに向けてくる。
 画面には霊害対応要請というタイトルの文で、場所や概要などが書かれている。すぐにポケットに戻されたため、詳しくは読めなかったが黄泉還りの関与が疑われる。という記載は目に入った。黄泉還り、リチャード騎士団ではリビングデッド、もしくはブードゥーの禁忌と呼ぶ存在だ。昨日の、動く死体ムービングコープスもその中に含まれる。
「詳細は移動中に」
 そういうと、店主らしき人に軽く頭を下げてから二人は店内を早歩きで歩く。遅れないようにと慌てて立ち上がり、歩き出そうとして、クラブケースを持っていない事に気づき手に取る。気付かれないかと思ったが、気が付いたらポケットに入っていたウェリィが笑っていて、ばっちりみられていたようだ。
 店の外に出ると走り出した二人を追いかけると、ラーメン店のそばにある駐車場に止まる黒色のセダンを手で示す。
「後部座席に!」
 その車に滑り込むように乗った二人に続いて、指示通りに後部座席に乗ると、私がシートベルトを閉めるのを待たずに車は発進した。
「サイレンとか鳴らさないの?」
 ウキウキしたような口調でウェリィが尋ねる。気持ちとしては分かるけど、連行されているようで落ち着かないので私としてはやめて欲しい。
「郊外の廃墟に不審な人影がどうもゾンビ系らしいって話だから、急ぐ理由は無いかな。鳴らすと人が集まる事もあるから」
 確かに、動く死体となると、戦闘する以外の解決手段は無い。野次馬が集まってくると戦闘を誤魔化すのに手間がかかる。
「しかし、日中に動く死体ムービングコープスとは」
 鈴木さんがそう言う。やはり、霊害の活動時間は夜間が多い。人が寝静まった夜になにかが起こるというのは世界各国の霊害が共通して持っている概念であるらしい。
「いや、動く死体ムービングコープスじゃない。死霊術師がいる」
 前席に設置されたカーナビが目的地に近い事を知らせると同時にナンパ男が真剣な顔で呟く。動く死体ムービングコープスは自然発生したリビングデッドを指す言葉で、死霊術師がいるならば、その定義から外れる。
「何も感じないよ?」
 動く死体ムービングコープスにせよ、魔術師にせよ力を使っているならそれらの気配というものが出る。妖精というのはそれらに敏感であるもので、それよりも先に人間が気付く事は少ない。
「体質でね、オカルトというか、そういう気配には敏感なんだ」
 そういう体質を持つ人間というのは、各地の対霊害組織で重宝されている。まさか、このナンパ男がその体質の持ち主であるとは。
「術師はそんなに高位じゃないか、隠せるほど高位。少なくとも従えている死体は5」
 ここまで詳細が分かるものなのかと感心する。ナンパ男と呼ぶのはやめようか考えたが、正直敬意は持てない。
 車がゲートから廃墟の敷地に侵入する。駐車場と思しき路面は、アスファルトがボロボロで年代を感じさせる。
「結界があったみたいだね、大騒ぎ」
 自分の役目が取られたと思っているのか、ウェリィがいつもより大きな声で主張する。
「交渉とか乗ってくる気配じゃないね。フェアさん戦闘よろしく。人払いは私が」
 ナンパ男が、どこかに隠してあったらしい日本刀を手に外に出て、何かの用意を始める。
 そういえば、捜査班と言っていて、求められたのも情報の提供という話だったはずだが、戦闘も行う組織で、その協力もしなければならないらしい。霊害を放置するという選択肢は無く、戦闘する事は問題がないのだが後で聞くとしよう。
 クラブケースから小銃を取り出し、銃剣をウェストポーチのベルトに固定する。それから、小銃のボルトを開き、ウェストポーチから取り出した通常弾を押し込み、ボルトを閉じる。
 廃墟は工場か倉庫で、窓は多くない。こちら側から見える入口は一か所だけで、そこから入るしかなさそうだ。
「銃を持ってる、隠れて!」
 ナンパ男が叫びながら近くに放置されていたコンクリートブロックに隠れると同時に、鈴木さんは車に背中を付ける。
 窓が光った。それが発砲炎なのはあきらかで、咄嗟に車に隠れるように伏せる。
 ゴンという音と同時に、ビービーと車の防犯装置が音をたてる。
 「防弾仕様じゃないから、気を付けて」
 そういえば、ドアが軽かったなという事を思いだしながら、車を盾にしながら姿勢を立て直し、光った窓を狙う。
 そこには拳銃を構えたリビングデッドが立っていた。術士によっては撃ったら隠れさせるという事もできるはずだか、それはできないらしい。
 こちらが身を出している事に気付いたのか撃ってくるが距離がある、当たらない。じっくり狙い、撃つ。
 命中し、敵は倒れる。
 別の窓が光り、連続した銃声が響く。窓が割れる音や車体当たる音が連続する。確認すると、今度は自動小銃を構えたリビングデッド。
 「なんで自動小銃があるんです!」
 鈴木さんが叫びながら拳銃を窓に向かって発砲する。私の小銃なら余裕であるが、拳銃の距離ではない。窓の周辺に火花を散らすだけだった。
 「スズキ下手くそ?」
 ウェリィが煽っているが、突っ込みやフォローする時間は無い。リロードができるのかは分からないが、素早く無力化したい。
 ウェストポーチから妖精弾を抜き取り、ベルトに固定されているケースを開ける。
 「アリス、バレットエンチャント」
 ケースから出てきたA型人工妖精アリスは、すぐに銃弾に吸い込まれるように消える。
 それを小銃に押し込み、狙う。敵はモゾモゾと動いている、リロードはさせないと狙い。引き金を引く。
 飛翔した弾丸は、敵に当たると火の力を解放し、窓の内側に火を撒き散らす。
 もちろん、リビングデッドも火に包まれ倒れる。
 「室内に可燃物が無いといいけど」
 ウェリィが呟く。確かに気にしなければならない点であるが、私の前に銃弾が貫通して開いた穴を見ると、即効狙いは間違いでなかったと思う。
 「さて、踏み込もうか。私が近づくから、銃撃があったらよろしく」
 日本刀という武器を考えると仕方ないが、隠れ続けていたナンパ男が出てきて、指示を出す。
 援護するなら多い方が良いと、使った二発分、小銃に込め直す。
 「じゃあ、行こうか」
 そういうと、ナンパ男は日本刀を抜き、廃墟に向かって歩き出す。
 窓に動きは無い。パタパタとアリスが戻ってきて、ケースに戻る。閉まったケースを撫でながら、動きがないか警戒する。
 「逃げた?」
 ナンパ男が玄関に迫っているのに何も起きない様子からウェリィが呟いた瞬間、玄関から剣を持ったリビングデッドが飛び出し、ナンパ男に切りかかる。
 リビングデッドにしては素早い動きであったが、ナンパ男は降り下ろされた剣を刀で受け流し、体勢を崩した敵を返す刀で両断する。間違えなく戦い慣れているというのを十分に感じられる動きだ。
 一息つく間も無く、新しい剣を持ったリビングデッドがナンパ男に襲いかかる。胴を狙った攻撃で、彼はそれを刀で受け止める。
 その隙を狙ってか、最後のリビングデッドが銃をナンパ男に向ける。その様子は見えていたが、鍔迫り合いをしている二人が微妙に射線に入っている。間に合うか分からないが、試してみるしかない。ベルトに固定された人工妖精のケースを開ける。
「エンター、ライフルエン…」
 呪文を口にしようとしたその時、銃声が響き、剣を持っていたリビングデッドが倒れ、ナンパ男が自由になる。
 自由になったナンパ男は銃を向けているリビングデッドと向き合い。放たれた銃弾を切り払い。それから、いつの間にか手に持っていた拳銃を撃ち、怯んだ敵を切る。
「刀と拳銃を同時に使う戦い方かー。面白いねぇ」
 なるほど、鍔迫り合いになって、状況が膠着すれば拳銃を抜き、素早くその状況を切り抜ける戦い方。近接攻撃で動きを止め、魔法で打撃するという戦法は昔からスタンダードであり、魔術師等の人と渡り合う場合はかなり有効な手段であるというのは間違いない。
「死霊術師は?」
 鈴木さんが言うので気が付いた。倒したのはリビングデッドだけで、それを操っていた術師はまだ発見できていない。銃を所持しているなら抵抗してきてもおかしくはない。それでも、抵抗していないとなると。
「鈴木くん。車は?」
 ナンパ男改め中島さんが入り口から中の様子を伺いながら言う。様子を見なくとも分かる、ボンネットから白や黒の煙が出ており、動くという印象は抱けない。
「ダメです!」
 そう、鈴木さんが叫ぶと同時に、中島さんが廃墟の中に突入する。それからしばらくして、廃墟のシャッターを突き破り、車が飛び出てくる。
 タイヤを狙って無力化しようと撃つが、フロントガラスに乗ったシャッターの破片を振り落とすためか、動きが激しく当たらない。装填してもう一度狙うが、地面に当たる。
 破片を振り落とし、直進で離脱しようとしたころには距離が遠く当てられる自信はなく、素直に諦める。
 私の視界をエンターが横切る。そこで気付いたが、エンターを銃に付与して風の力で照準を補正すれば、この距離でも命中させられたかもしれない。すでに読んでいたのだから、車が迷走している間に用意すれば十分に用意できた。
「式神を張り付けてきたから、追跡してもらえると思う。連中が所持していた火器類に妖精銃はなかったし、人工妖精もなかった」
 戻ってきた中島さんがそう言う。銃を使っていたため、もしかして、とはかすかに思っていたが、死霊術師はリビングデッドという相方がすでにおり、あまり妖精に興味はないだろう。リビングデッドが人工妖精を使えるなら別だが、人工妖精は生ある物の命令しか聞かないはずで、使う事ができない。
「この件、うちで追いますか?」
 車の故障具合を確認していた鈴木さんが尋ねる。
「データベースを見たところ、関連が疑われる事件を娘がすでに追っているみたいだ。あっちに任せてしまおう」
 娘。今更薬指に指輪がある事に気が付いたが、ナンパの常習犯であるらしい中島さんが結婚しているとは。
「奥さんどんな人なの。娘さんは!」
 ウェリィも食いつく。本当に気になる。一体どういう性格で、どういうところから惚れたのか。
「気になりますよね」
 鈴木さんも便乗してくる。どうも詳しい事は知らないらしい。
「あー、まあそれも含めて説明するから、車を回収してからどこか落ち着けるところを探そうか」
 そう言って、スマホ操作して、どこかに電話を掛ける。郊外の廃墟とはいえ、被弾した車を放置すると話題になってしまうだろう。
 とりあえず、小銃から弾を抜いてウェストポーチに戻し、本体と腰の銃剣はクラブケースに納める。
「まあ、楽しくなりそうね」
 ウェリィが私の顔を見ながら笑う。確かに、不安もあるが、しばらく一緒に行動するのも悪くないと思う。

 

~第二章前編 終~

第二章後編へ


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