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Legend of Tipaland-第5章-

 

第4章のアルの足跡

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「これが、その結晶?」
「そうです。これであの悪しき神を封じることが出来る」
 渡されたクリスタルを手で弄りながら、”勇者”が問い、賢者の一人が答える。
「異界の神、ブラッド、か。なんで封じるんだ、倒せないのか?」
 ”槍使い”が問う。
「奴は異界のものとは言え、神です。神を討つなど、並の人間では叶わない事。永久に封じる方が遥かに容易で確実です」
「確かに。敵はこれまで戦ったどんな存在よりも強大だ。倒せばいい、と決めつけて動くのはあまりに危険だ。その危険性を減らす手段があるのは悪いことじゃない」
 賢者の一人が回答し、”槍使い”が口を開くより先に”勇者”が理解を示し、”槍使い”は”勇者”が言うなら、と頷く。

 

 * * *

 

 激しい揺れが続いている。
【通常空間に回帰開始。通常空間到達まで5……4……3……2……1……通常空間到達】
 急制動をかけたような一際激しい揺れが襲い、揺れが収まる。

 

《2007/Cancer-12 北西州-幹線街道南端付近上空-トブ艦内》

 

「抜けたのか」
「そのようだ」
「世界の壁って厚さそのものはそんなないんじゃなかったか? なんでこんなに時間がかかったんだ?」
 ジルが進路の設定をしているらしいメルキオールに声をかける。
「世界の壁の厚さはその通り、というより1mマイリmメトルすらない。もし真上から見ることが出来れば、何も無いようにすら見えるかもしれないな」
 メルキオールが頷く。
「じゃあなんでなんだ?」
「うむ。世界の壁の内部は物理的な距離では測れないのだ。私達は亜空間と呼んでいるが、私達の知る物理法則とは全く異なる空間なのだ。このトブは世界の壁から亜空間にジャンプし、亜空間内を移動、その後、通常空間……今私達がいるこの空間のことだが、の目標地点に対応する位置で、通常空間にジャンプする、というわけだ」
「じゃあ、列車はなんで時間がかからないんだ?」
「それは、列車の粒子加速走法とトブの亜空間航法が全く別種の移動法だからだ。列車が最大加速中、列車は光速空間とでも言うべき空間に身を置いて走行している。一つの喩えだが、光速空間は通常空間より上位の空間で、世界の壁はあくまで通常空間に存在するものだから通り抜けられる、と言うわけだ」
「なるほど、つまり、俺達トブは世界の壁を潜って通り抜けて、列車は壁を飛び越えてる、ってことか?」
「大雑把な理解だが……まぁ方法が違うから、と言う部分さえ理解してくれれば問題ない」
 なるほど、とジルが納得し、手頃な座席に座る。
 と、次の瞬間、グラリと再び大きく揺れる。
「な、なんだ? 敵か!?」
「何も見えないわよ。って言うか、こんな巨体に襲いかかる勇気のある野生生物なんていないでしょ、ドラゴンくらいのものよ」
 基本的にチパランドには高い飛行能力を持った魔物はいない。大型の魔物になると、竜種のように元になった生物の都合で翼を持っている場合もあるが、そもそもサーキュレタリィリソースの循環が目的である彼らにとって遠くまで移動する手段である翼はあまり必要としないのだ。
「…………なんだと、ウェル・プラーが搭載されてない!? 燃料切れだ、落ちるぞ!」
「落ちる!? どう言うことだ!」
「このトブは、周囲のサーキュレタリィリソースを使って動く。しかし通常そんなにサーキュレタリィリソースはない。ゆえに、ウェル・プラーと呼ばれるものを使い異空間からサーキュレタリィリソースを組み上げて動かすのだ。ところが……」
「そのウェル・プラーというのが外されてる、ということか?」
「うむ。一体なぜ……。少し待て」
 メルキオールは懐から一つクリスタルのような結晶を取り出し、指で軽く押し込んで、声を掛ける。
「メルキオールだ。誰かいるか?」
「応、カスパールだ。どうした?」
 結晶が輝きを放ち、声が聞こえる。
「カスパール、今どこにいる?」
「北東州だ。すごい数の魔物がいてな。街が大変だった」
「実は、トブを解放したんだが、ウェル・プラーが取り外されているらしい」
「なんだと? 彼奴、いつの間にそんな細工を?」
「アイツかどうかは分からないがな。その様子だとお前も知らなかったらしいな」
「応、儂も今知ったわ。バルタザールも知らぬと思うぞ」
「承知した。では通信を終える」
「応。バルタザールには儂から連絡しておこう。ウェル・プラーがないと言うことは、ドラゴニア平原を抜けてしばらくすれば機能停止するだろうしの」
「まさにそうなっている」
 輝きが消えた結晶を懐にしまいながら呟く。
「それは? この結晶と似ているようだけど」
 アルが鉱山で手に入れた結晶を手に、メルキオールの結晶について質問する。
「さっきのは私たちが作った通信結晶だ。魔力の振幅を飛ばして連絡を取り合える。そちらこそ、それはなんだ?」
「これは、ドラゴンの額にあった結晶なんだけど、なぜかドラゴンが倒れても砕けないどころか、中から変な存在が出てきて……」
「ふむ。それについては一つ思い当たる節もあるが、今はそれより……それはドラゴンの額についていたものなんだな?」
「? はい」
「ちょうどいい、それを貸せ」
「あ、ちょっと」
 アルの結晶をひったくるように受け取ったメルキオールはトブ正面のクリスタルに投げ入れる。
「ちょっ、あれはあの存在を封印するのに……」
「ほう、そこまでは掴んでいたか。そう、あの結晶……マギ結晶はブラッドを封印するのに必要だ。だが、このトブが落ちれば、お前たちは死に、マギ結晶は失われる。それだけは阻止せねばならない。なぜあのマギ結晶がドラゴンの額にあったのかは私も分からないが、ドラゴンの額にあったからには、あのマギ結晶はドラゴンの額に通常存在するクリスタルと同じく、サーキュレタリィリソースを吸収、蓄積、変換することが出来るはずだ。それがどれほどの量なのかは分からないが、こいつを不時着されるだけの時間はあると信じるしかない」
「蓄積? そんなことが可能なのか?」
「えぇ。私たち竜使いが元いた世界はサーキュレタリィリソースが極端に偏っていたらしいわ、ある場所は緑も水もあり、ない場所は砂漠、って極端な世界だったの。ドラゴンたちはそんな中で長距離を移動するから、サーキュレタリィリソースを蓄積できる能力が必要だったのよ」
 スペンスの疑問にラインが答える。
「よし、街道そばの森に不時着する。全員何かに掴まれ」
 鋭い衝撃が走る。トブが地面に衝突し木をなぎ倒しながら停止する。
「無事着地出来たようだ。森林地帯だけあってリソースは少しはあるようだな。視覚迷彩は使えそうだ。トブはここに置いていこう」

 

《2007/Cancer-12 北西州-シュラウド南部森林-幹線街道付近》

 

「すげぇ、あのデッカいのが消えた」
「光の屈折を操作して見えなくしているだけだがな」
「そういえば、先程、マギ結晶はブラッドを封印するものと言っていましたが、ブラッドとは?」
 落ち着いたことでスペンスが先程の発言に対する疑問を投げかける。
「うむ。恐らく君らが見た存在のことだ。実に2007年前、神々の戦争を止めるために、私達が召喚した、な」
「貴方達が!?」
「あぁ、聞いたことくらいあるんじゃないか? 世界の壁がどうして生み出されたのか」
「確か……神々の戦争を止めるために人々が召喚した邪神が作り出した……って、まさか?」
「その通り。その時召喚された異世界の邪神、それこそがブラッドだ。ブラッドと言う名前は、人神契約語で血。私達三賢人の血を触媒として器を形作った事に起因する名前だ」
「そんなことが……」
「しかし、奴はそこで止まらず世界を支配しようと動き始めた。世界を四つに分割され、戦争で大きく疲弊した神と人はそれに抵抗出来なかった。故に我々は500年かけてトブとマギ結晶を作り上げた。全て、ブラッドによる支配を終わらせるためだ」
 謎の敵でしかなかった存在についてようやく判明したのだが、思わぬ事実に皆沈黙する。
「だけど、歴史について学ぶ時、そんな支配時代があったなんて……」
「いや、そもそも邪神なんて世界の壁を作り出した、以外全く言及がないぞ」
 アルが呟き、スペンスが続ける。
「その通り。私達、三賢人のことも隠蔽されてしまった。君達が知らないのはそう言うわけだ」
 耳障りな羽音が響く。巨大な蜂、シニだ。それも大軍の。
「ヤッベェ数だ。こんな時に限ってミラがいねぇ!」
「やるしかないか!」

 

《2007/Cancer-13 北西州-シュラウド南部森林-幹線街道付近》

 

「な、なんて、数だ……。半日も戦い続ける羽目になるとは……」
「これも、ブラッドのせいなのか……」
「魔物の大量発生に魔法を破壊する謎の波動……、そうだ! 1400年くらい前にそんなことが起きたんだよ! 三人のコンクエスターがその原因を突き止めて、倒したんだ! その時のリーダーが使ってた剣が精霊武器マナ・ウェポンらしくてよ……」
「1400年前に起きたのか? それじゃ、2000年前から500年に渡るブラッドの支配って話と矛盾してしまうぞ」
「だね。もうとっくに支配されてる時期だ。魔物の大量発生が起きるのは奇妙だ」
「んー、でも確かに読んだんだよ。で、その精霊武器ってのが……」
「いや、精霊武器の話はいいよ。ルプスに向かおう。メルキオールさんもそれで……あれ?」
 精霊武器とは、精霊と呼ばれる不思議な物質を使って作られた武器だ。信心深い人は精霊に意思が宿っていると信じているため、精霊が宿った武器、と説明される場合もある。極めて珍しいもので武器マニアのジルにとっては興奮する情報なのだが、アルをはじめとした多くの人間にとってはそんなに心惹かれるものでもない。英雄物語の添え物程度の認識になりがちだ。それはそれとして、メルキオールがいつの間にかいない。
「戦闘中に逸れたか。まぁ実力はあるようだし、自力でなんとか出来るだろう。私達はルプスに急ごう」
「そうね。街道はどっち?」
「ここは少し前に来たことがあるから分かるよ、こっちだ」
 アルには1ヶ月前にここに来た時に敷いた印の魔術の痕跡を発見し、それを辿り始める。

 

《2007/Cancer-31 北西州-州都”ルプス”》

 

「ドラゴンがいると早いね」
「まぁね」
 アルが感心したように呟く。ラインも誇らしげだ。
「コンクエスト発令! コンクエスト発令!」
 街に入ろうとすると、カワラバンが走りながら何かを叫んでいた。拡声の魔術を使って周知を図っている。
「コンクエスト!?」
「お、ついにブラッド退治が発令かぁ?」
「ターゲットは、内乱の罪を犯そうとした犯罪者、コンクエスター・アル!!」
「え…………」

 

to be continued...

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