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三人の魔女 第3章

 夜の街を走る三人の女性。
「ちょっと、まって、ください」
 三つ編みの女性、ジャンヌがついに立ち止まって、息が切れて肩で息を吐きながらそんな言葉を絞り出す。
「まだよ。まだ連中を振り切れてる距離じゃない。もっといかないと」
「そんなこと、いわれても……」
 金髪に青いドレスの女性、アリスが強く叱責するが、ジャンヌはまだ走れる状態には無い。
「何言ってるの、それじゃあいつらにつかまってもいいっていうの?」
 少しいらだった様子でアリスがジャンヌに一歩近づく。
「だって、あいつらなんなんですか、私のこの力は、私、何にも分からなくて」
「あんたね、エレナがあんたも連れていくって言ってるから仕方なく連れて行ってあげてるのよ、あなたに逃げる気が無いなら私はエレナを……」
 早く逃走したくて仕方ないらしいアリスは、ジャンヌにまくしたてながら詰め寄る。
「はい、アリス、ストップ。私は誰かを犠牲にして逃げたりする気はないわ。ジャンヌがこれ以上走れないというなら、ここで休憩するしかないわ」
「う、エレナがそういうなら……。けど、無謀だわ、ここはまだ市街地よ、いつ夜で歩く人に見られるか」
「でも、今はまだ見られてないわ。焦っても仕方ないし、とりあえず歩きましょ。もし見られたらそこから走ればいい。場所がばれてるわけでもないのに、走っても仕方ないわよ」
 辺りをきょろきょろと警戒するアリスを、なだめつつ、エレナはジャンヌの隣に移動する。
「大丈夫? まずは深呼吸して、呼吸を整えましょう」
「はい、ありがとうございます」

 

「はぁ。それで、魔法と魔女狩りについてだっけ? どうせ歩くんなら、この時間に説明したらいいじゃない。ねぇ、エレナ先生?」
「先生はやめてよ。コホン、それじゃあ、説明するわね」
 エレナが咳払いし、説明を始める。
「まず、魔法とは何か。これについてはよく分かんない。けど、それがどうやって起きるかは分かってるわ。私達魔女はね、普通の人間から見ると、脳が突然変異した存在なの」
「突然変異?」
「えぇ。脳にね、特殊な受容器を持ってるのよ。そうね、魔法レセプター、とでも呼ぼうかしら。そしてこの受容器がどこかと交信して、魔法を発動するの」
「どこか?」
「えぇ、どこか。いうなれば魔法を発動するためのレイヤーね。この世界はいくつもの階層に分かれてる、みたいなんだけど。そのうち一つに作用するみたい。そしてそのレイヤーの中身を改変してしまう。するとその変化が実際に私達のいるこのレイヤーにも反映されるのよ」
「はぁ……」
 ジャンヌはよく分からない、といった表情だ。
「あの、ね、エレナ。そういう原理的な事より、もっとこう、魔女としてこの世界に生きていくのに役に立つ話をするべきじゃない? 魔法の制御方法とか」
 見かねたアリスが助け船を出す。
「あぁ、そうね。でもさっきの内容も無意味じゃないわよ。さっき魔法レセプターの話をしたわよね? 魔法レセプターはどういうわけか個々の人間、魔女によって得意な事が違うの。これを属性っていうのよ」
「属性?」
「えぇ。私は星。アリスは夢。そしてあなたはおそらく、壁、ね」
「詩、じゃないんですね」
 ジャンヌがふと思った事を口にする。アリスは詩を歌って現象を起こした。なら、属性は詩なような気がする。
「そう、なにせアリスの魔法は夢っていう抽象的なものでね、詩を使うことでなんとか指向性を持たせてるの。ジャンヌとは真逆ね」
「真逆?」
「そう。属性は、抽象的か具体的かの二極のどっちによってるかでだいたい強さや使いやすさが分かるの。抽象的な属性は、抽象的な分いろんなことが出来るけど、発動するのが難しい。アリスがその最たる例ね。対して具体的な属性は一つの事しか出来ないけど、その分発動しやすい。ジャンヌはまさにこれね、発動しやすすぎて自分で扱えないくらい」
「なるほど、ちなみに、エレナさんは……?」
「私? 私はどっちかというと抽象ね」
「その割には星のエネルギーを抽出して使う、だからとっても手軽だけどね」
 アリスが呆れ顔で笑う。
「その形に落とし込むまでがすっごく大変だったのよー」
「なるほど。抽象的な属性の魔女は私の壁みたいに直感的には使えず、使えるようにするのに工夫がいるんですね」
「そういうこと。私のカメラフィルムとか、アリスの詩みたいにね。ちなみにアリスの」
「伏せて」
 突然アリスがジャンヌとエレナを掴んで、サツキの生垣の陰に隠れさせ、自分もしゃがむ。
 見れば、道の向こうから千鳥足の男が歩いてくるところだった。
「なんだ、ただの酔っ払いじゃないですか」
 ジャンヌがそれを見て生垣から顔を出そうとする。アリスが慌てて再び陰に引っ張り込む。
「んぁ……、後方警告が出た気がしたが……」
 酔っぱらって呂律の回らない舌でそんなことを言いながら振り向く。
「なんにもねぇよなぁ」
 そこに何もない事を確認し、男は再び帰路に就く。
「あんたねぇ! エレナを危険にさらす気? 本当にあなただけここに置いていくわよ」
 殺しかけないくらいの勢いでジャンヌを押し倒しまくしたてるアリス。
「ちょ、ちょっとアリス」
「だ、だって……あの酔っ払いの人に見つかったくらいで、別に通報されたりは……」
 驚きから回復し絞り出すように反論するジャンヌ。
「じゃあ、なんであの男、振り返ったと思う?」
「そ、それは、後方警告が……」
「じゃあなんでその後方警告が出たと思う? 後方には誰もいなかった、何か空中に飛翔物があったわけでもない。本当なら後方警告が出る理由はないわ」
 後方警告は、後方から迫ってくる飛翔物や、自分のスピードが不安定な時に後方の人間に迷惑が掛からないように後方に人間がいる事を警告する警告表示だ。先ほどの酔っ払いの状況において警告が出る理由は考えにくい。
「え、じゃあ誤作動とか、見間違い……」
「まさか……」
 質問の意図が分からず困惑するジャンヌに対して、エレナが目を丸くしながら呟く。
「私にオーグギアを使わないように言った理由って……そういう事なの?」
「……え?」
「エレナは気付いたみたいね。オーグギアの量子通信は絶対にオフに出来ず、常に基地局と交信している。そのやり取りの中には、視界データの送信も含まれる。つまり……」
 未だに困惑しているジャンヌを放って、驚いているエレナに頷き語るアリス。
「オーグギアの視界は全て監視に使われてる? しかも、さっきの後方警告って……」
「えぇ。怪しいものが視界に入った場合は、その場所にもう一度視界を向けるようにオーグギアの表示を操作する場合もあるわ」
「そんな……」
 ジャンヌは衝撃を受けたらしく愕然としている。
「これで分かった? 魔女だとばれた以上、私達もう民間人の前に顔を出す事は出来ないのよ」
 アリスが立ち上がりながら頷く。オーグギアはほとんどの人間が装着しているウェアラブル端末だ。オーグギア装着者の視界に入らないように、とはすなわち、ほとんどの民間人の視界に入らないようにしなければならない、という事を意味する。
「それじゃあ、治安の良化に伴い、監視カメラの削減を進めていくっていうのは……」
「えぇ、市民を安心させるための嘘よ。監視カメラなんてなくても、オーグギアさえあれば世界中を監視出来る」
「なるほど、アリスが急いでいる理由が分かったわ。彼らの捜索範囲の中にとどまったまま朝が来たら、仕事などで外を出歩き始める人たちのオーグギアに捕捉されてしまうのね」
「そうよ。今、私達の顔認証検索はまだこの区域内だけに留まってるはず。これから少しずつ周辺の区域に要請が飛んでいくわ。だから、根本的に彼らから逃れる方法を探すより前に、まず広がっていく捜索範囲よりも早く逃げ続けるしかないのよ」
 分かったら行くわよ、とアリスがエレナの手を握って行こうとする。
「決めた」
 エレナが小声で何かを呟く。
「え?」
 アリスが振り返る。
「決めたわ。こんな嘘ばかりの平和と平等を、このまま見過ごす事は出来ない。好きな事を好きなようにする、それが罪になるなんて、許されてはいけない事よ。私は、魔女狩りと、統一政府と戦って見せるわ。アリス、ジャンヌ、あなた達も協力して」
「え……」
「統一政府と戦うなんて、どうするつもり?」
 いうまでもない事だが、統一政府とはこの地球ほとんど国すべてを治める長である。それは結局、この地球すべての国と戦うようなものだ。
「それは、これから考えるわ。とりあえず、同志を増やすところからね。そして、そのためにも」
 エレナがまだ地面に座り込んでいるジャンヌに手を伸ばす。
「まずは、逃げないとね」
 ジャンヌがエレナの手を取って立ち上がる。
「とりあえず、西ではなく、東に逃げましょう」
「区域の境界線は西の方が近いわよ?」
「でも西に逃げてもずっと市街地と繁華街よ。東の方が峠になっていて、人も少ない。隠れる場所も多いわ」
 エレナの提案にアリスはなるほど、と頷いて。
「じゃあ東に行きましょう。日が出る前に、峠に入るわよ」
 アリスが先導する。ジャンヌとエレナもそれに続く。
「それにしても、オーグギアが取り外しできる機械でよかったですね」
 ジャンヌが呟く。
「本当ね、もしチップとかナノマシンみたいなインプラントするようなものだったら、生まれた時に埋め込まれて終わっちゃうわ」
 それにエレナが頷く。

 

 To be continued…

 

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