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三人の魔女 第4章

 一人の女性が歩いている。
「……」
 何かに気付いたらしい女性の姿が、フードを被り二股の槍を持った男性に変化する。
 路地から同じような姿の男性が飛び出してくる。
「いたか?」
「いや、こちらにはいないようだ」
 すかさず、先ほどまで女性だった男性が声をかけると、相手が首を振る。魔女狩りの徒と呼ばれる彼らは、異端審問官の指揮の元、魔女を捜索する。その過程で怪しいものがいればそれも拘束し、必要であれば処刑する。夜道を出歩くオーグギア非所持の女性など怪しすぎる。女性が魔女狩りの徒が飛び出してくる直前にその姿を変えたのはそういう理由であった。
「ん? ……おい、えーっと、鈴木すずき光輝こうきか。お前、オーグギアはどうした?」
 違和感を覚えたらしい魔女狩りの徒が元女性に尋ねる。魔女狩りの徒の視界には、オーグギアによって、顔認証で判明した身元のデータと、そして赤く強調表示された「疑義:オーグギア未携帯」の文字。
「はっ、本日は非番でしたので、魔女出現の報を受け、慌てて馳せ参じたところ、家に置き忘れてしまいました」
 元女性はそれに淀みなく答える。魔女狩りの徒の視界に、その言葉に合わせてシフト情報が表示される。
「そのようだな。非番なのによく来てくれた。ピエール様が一度集まるようにと言っている。何度も説明するのは面倒だろう。俺と一緒に来い、一緒に説明してやる」
 お節介な魔女狩りの徒が、元女性を導く。
 ――この場を逃れたかっただけなのに、失敗したわね
 元女性は心の中で舌打ちをするがここで逃げて後ろから刺されるわけにもいかない。

 

「諸君、早速だがこれを見てくれたまえ」
 とピエールが何らかのデータを全員のオーグギアに送信したらしい。
「タブレットに表示しておいたぞ、ほい」
 お節介な魔女狩りの徒がタブレットを渡してくる。
「そこの君は誰か? なぜオーグギアをしていない?」
「審問官、彼は鈴木光輝、魔女出現の報を聞き、非番ながら馳せ参じたとのことです。オーグギアは慌てていたため家に置き忘れた、と」
 ピエールは当然それに気付いて追及するが、お節介な魔女狩りの徒が庇ってくれる。
「おぉ、鈴木君か。噂は聞いているよ、優秀な警察官だそうだな。魔女狩りに配属されてからは成績がよろしくないと聞いていたが、こうして来てくれたということはやる気はあるようだ。私からも上に報告しておこう」
「ありがとうございます!」
 自分の姿の元になっている鈴木とやらが警察官からの引き抜きと知り、警察官らしく大きな声とイントネーションで返答をする。
「では、頼もしい助けが来てくれたことを確認したところで、改めて今送ったデータを確認してくれ。この赤い光点が、最後に魔女が目撃されたと思われるところだ。たまたまここを通りかかった民間人のオーグギアが茂みの中に人影を確認している。彼女たちの闘争方向と、我々の探索エリアから考え、このようなルートを通り、この赤い光点の位置まで到達したものと思われる」
 と説明に合わせて、彼女たちの逃走方向、そして魔女狩りの徒達の探索ルートが表示される。オーグギアのデータリンクによって魔女狩りの徒達がどのようなルートを通って探索し、どの時間にどの地点に到達していたかはすべて明らかだ。それだけでなく、民間人がどこをどの時間に通ったかのルートまでが表示される。これも当然オーグギアからのデータリンクによるものだ。民間人のオーグギアも彼らの目となる以上、彼らの移動した箇所にも魔女はいなかったことが明らかであるからだろう。そして最後に、それを踏まえたうえでの魔女の移動ルートが赤い線で表示される。なるほど、赤い光点は探索ルートの穴をついて移動していけばたどり着ける理屈だ。
 ――ここまで魔女狩りの網を抜けられるものかしら、この魔女、只者ではないようね
 そして、元女性はこの結果に魔女に対して感心する。
「最後に、最終目撃時間から想定される彼らの移動範囲だ。我々が探索したエリアを除外すると、このようになる」
 赤い光点を中心に赤い円が出現する。そしてそれが魔女狩りの探索済みエリアを基準に削れていく。
「また、的確な逃走ルート選びから、魔女はこちらの事情を理解している可能性がある。であれば、魔女どもの狙いは、我々の担当区域からの離脱にあると推測される。魔女が最適なコースで担当区域からの離脱を図っている場合、現在はこの地点付近にいると思われる。この地点に我々が向かうまでに、さらの彼女らは移動し、この周囲が予測範囲となる。この周囲、区域範囲ギリギリで網を張って、奴らを待ち構える」
 赤い円弧のうち、さらに特定のエリアに限定される。さらにそこから移動推定エリアが新しい円として表示され、その付近の道という道に検問を意味する記号が記されていく。
「以上、解……」
 作戦の通達をピエールが終えようとした次の瞬間、
「そこまでだ、悪の組織!!」
 ピエールに火の玉が飛来する。
「魔女か!」
「確保しろ、悪の組織!」
 さらに飛来する火の玉。飛んできた先にいるのは、ピギーテールの金髪の女の子。
「噂の魔女狩り狩りの魔女か」
 暗号みたいね、狩り魔女魔女の狩り、とかありそう、と元女性は他人事のように馬鹿なことを考えていた。
 ――いやそれどころじゃないわ。面倒なことになった……
防弾盾バリスティック・シールド構え!!」
 炎に巻かれているピエールが叫ぶと、盾を持ってきていた魔女狩りの徒達がピエールと魔女狩り狩りの魔女の間に立ちふさがる。
「うっそ、燃えてるのに何で生きてるの?」
「悪いが君の手口はもう知っていてね。ローブを耐火加工にしておいたのさ」
 魔女狩り狩りの魔女が両手からさらに火の玉を発射するが、立ちふさがる盾がそれを防ぐ。
「火を飛ばすのは確かに厄介だが、それ自体はずいぶん前から火炎瓶という形で暴徒が良く使う手口だ。それしか能がないなら、対処はいくらでもできる」
「くっ……」
 盾を持った魔女狩りの徒はじりじりと距離を詰めていく。このままでは間もなく、盾によって鎮圧されるだろう。当然その後に行く先は、処刑。
 ――さすがに目の前で死にそうになってる魔女を放置はできないじゃない!
 しかし、この槍では……、と腰に下がっている何かに気付く。
「槍持ちも続け、盾の間から突いてやれ」
 ピエールが指示を出す。幸い、と元女性はそれに続き。
「ガッ……」
 盾持ちの一人の首を切断する。よろめき、喉を抑えて、悶絶する魔女狩りの徒。元女性、鈴木というらしい魔女狩りの徒の姿をした男の手には短刀。
「タマハガネブレード!? 鈴木、貴様、対霊害兵装管理局に未届けの武器を携行していたな!!」
 元女性は、さらにもう片手で拳銃をもって、さらに別の盾持ちの頭を撃ち抜く。
「こいつ!」
 盾持ち達が拳銃を警戒し、元女性に向き直る。
「おい、隊列を崩すな!」
「チャーンス!」
 盾の向きを変更した魔女狩りの徒に向けて、魔女狩り狩りの魔女が火の玉を発射する。
 それを見て慌てた盾持ち達が魔女狩り狩りの魔女に向き直るが、元女性がそれを切断し、あるいは射殺する。
「目をつぶって!」
 元女性が魔女狩り狩りの魔女に接近し、自身の太腿についた調節用まわしを押し込む、魔女狩りの徒に何かを投擲する。そして、魔女狩り狩りの魔女の耳をふさぎ、ほぼ後ろに顔を向けて目をつぶる。
 キィィィィィィィィィィィィィィンと耳をつぶす大音響と目を潰す閃光がその空間を支配する。投擲したのは暴徒鎮圧用の音響閃光手榴弾で、調整したのは耳に装着されている自動集音装置のボリュームだった。
「逃げるわよ」
 そして、魔女狩り狩りの魔女の手を引く。
「え、まって、ボクはまだ。うぅ、チカチカする」
 反論は聞かず、引きずるように連れていく。

 

「なにするのさ!」
「何言ってるの、あなた、今のままじゃ死んでたのよ」
 ある程度距離を取って路地裏に入る。魔女狩りが追っている魔女達と反対方向に向かったので、魔女狩りは今頃戦力を二分するしかなくて困っているだろう。
 ――if you run after two hares二兎を追う者は you will catch neither一兎も得ず って言葉が真実であることを祈りたいわね
「だからって、敵に救われたって嬉しくないよ!」
「ん? あぁ……」
 何を言われているのかを理解し、元女性は、魔女狩り狩りの魔女の見た目に姿を変える。
「ううぇえ!? ま、魔女だったの?」
 自分そっくりの見た目になったことに驚く魔女狩り狩りの魔女。
「えぇ。私はプラト。「姿」の魔女よ。あなたは?」
「ボクは皐月ほ……むぐ」
「ペラペラ本名を話す魔女がどこにいるのよ、魔女名を名乗りなさい」
「ぷはっ。なにすんのさ、魔女名って何?」
「何……って、嘘でしょ、魔法を使うときにどうやってパスを繋いでるのよ、あんた。いや、普通それは無自覚にしても、あれだけ魔法を使ってたんだから、頭の中で”本当の名前”が浮かんでるはずでしょ。まさか純正の……」
「あー。なんか魔法使う時の名前? ソーリアだよ」
 そう聞いてあっさりと答える。
 ――こいつ、ただの馬鹿かと思ったけど、魔女としてのポテンシャルは高いみたいね。魔女としての名前を、魔法を使うための名前だと、きっちりと認識している。
「さて、行くわよ」
 プラトがソーリアに声をかけて、歩き出す。
「行くってどこに?」
「魔女狩りと戦いたいんでしょ? だったらお誂え向きの話があるの。顔が完全に割れちゃってる状態であいつらに追われてる三人の魔女が、ね。しかもそいつら、魔女が狩られるこの世界を何とかしたいんですって。あなたの目的にも合致してるでしょ?」
「確かに……。ん? でも、プラトは? 何のメリットがあるの?」
 ――意外と鋭いところを突いてくるわね
「私も同じよ、もし魔女が魔女のまま生きられる世界があるなら、その方がいいと思ってるだけ」
「じゃあ、ボクらは同志だね。よろしく、プラト」
「そうね。よろしく、ソーリア」
 握手する。
「ところで、その見た目変えてくれない? 目の前にボクがいて、しかも、ボクと全然違う動き方としゃべり方するの、正直ちょっと気持ち悪い」
「分かったわ」
 気持ち悪いと言われたことを気にも留めず、ポーチから写真を取り出して、その写真の女性の姿に変わる。
「修道女? それが元々のプラト?」
「いいえ、これは私がたまたま気に入ってるだけの姿よ。運良く写真を手に入れられたから、戻るときに便利なだけ。もう、元の姿なんて覚えてないわ」

 

「お待たせしました。浜川崎行き、まもなく発車いたします。統一鉄道・東日本をご利用くださいましてありがとうございます。この電車は浜川崎行きワンマン電車です。次は八丁畷、八丁畷。お出口は左側です。京急線はお乗り換えです。お客様にお願いいたします」
「なんとか、乗れましたね」
 ジャンヌがはぁはぁ、と肩で息をしながら笑う。
「……おかしいわね、なんで追手がこんなに少ないの?」
 アリスが自分のスマートフォンを見ながら首をかしげる。
「いいことじゃない」
「えぇ。でも、普通ならもっと警戒しているはずじゃない? 峠に逃げるのを見越してあんなに検問を張ってたのよ?」
 エレナが楽観的に笑うが、アリスの表情は暗いままだ。
「それで、アリス、急遽進路を変更したわけだけど、この後どうするの?」
「えぇ。この後、浜川崎駅の貨物駅で、貨物車両に忍び込むわ。この便であれば、お父様の会社の貨物に間に合うはず」
「それはよかった……。あのお馬さんに乗り続けるのはちょっと……」
「なんでよ、ダプトル・グレイ、かわいいでしょ」
「ま、まぁ、非常食になるのは便利かもね」
「エレナまで!?」
 まじめに次の提案をしているのに、違ったところに反応するジャンヌにむっっとするアリス。エレナまで目が泳いでいたので、大変ショックを受けるアリスであった。ちなみにダプトル・グレイとはアリスが魔法で生み出した顔がジンジャー・ブレッドでしっぽが干し草の馬である。
「おかしいわ……あんなにかわいいのに……」
 二人から――ジャンヌはどうでもいいので主にエレナからの――支持を得られなかったことに首をかしげるアリスを載せて、電車は終点へと進んでいく。

 

 To be continued…

 

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