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三人の魔女 第6章

「もう、ジャンヌ、あなたね!! いい加減にしなさいよ!」
「うぅ……ごめんなさい……」
「まったく、あんたといると心臓がいくつあっても足りないわ」
 エレナは最近この二人の――主にアリスのだが――大きな声を聞いてばっかりだなぁ、と思いながらそのやり取りを見つめる。
 アリスの怒りが途切れたタイミングを見計らって、エレナは声をかける。
「さ、急いで離れましょう。もし、誰か来るようならちょっとまずいわ」
「そうね」
 ジャンヌの背後の壁が消えていく。
「全く。いきなり猫が飛び出してきたなんて理由でいきなり壁で塔を作られちゃ堪らないわ……」
「うぅ、ごめんなさい……」
「まぁまぁ、それを織り込んでジャンヌのためにこうやって人目につきにくいところを移動してるんじゃない」
「そうだけど、そもそもそれ自体無駄じゃない。この辺りは警戒範囲ではないのは明らかなんだから、さっさと幹線道路をで突き進めばいいのに、こんな回り道して。その間にこの辺りまで警戒範囲になっちゃったら、それこそおじゃんよ」
 いつものようにエレナが間に入るがアリスは譲らない。実際、ジャンヌを連れて行くという選択は、明らかにデメリットが多い選択である。もちろん、エレナとしてはだからといってジャンヌを連れて行かないという選択をするつもりはなかった。人助けは理屈ではないのだ。
「とはいえ確かに、このままだとちょっとまずいわよね。よし、ジャンヌ、私があなたの魔法について色々助言してあげましょう」
「ありがとうございます!」
「ふんっ、よかったわね。エレナせんせーから直々に教われるなんて、私でさえしてもらったことないわ」
「先生はやめてよ、アリスもしてほしいならしてあげるわよ? でも、もうアリスには必要ないでしょ?」
「……そうね」
 アリスは自分の手提げかばんの方に視線をそらしながら、エレナの言葉を肯定する。
「?」
 ジャンヌはそのアリスの視線に違和感を覚えつつ、それより迷惑をかけないようにはやく魔法を使いこなせるようになろうと思い直すジャンヌ。
「さて、最初に聞いておくけど、これまで魔法を使ってきた経験上、疑問に思っていることとかない?」
「疑問に思っている事……」
「あ、これはテストとかじゃないから安心してね。もしなにもないならそれで構わないわ。けど、何かあるならそれを解消するのはしておいた方がいいからね」
「えーっと……そういえば、私の魔法で作った壁って、当然ですけど魔法を解除すると消えますよね? コンテナから逃げるときに修復した壁はどうして消えなかったんでしょう?」
 エレナはそういうがはやり何か質問をした方がいいだろうとひねり出すジャンヌ。
「なるほどね。ジャンヌ、あなたは一つ思い違いをしているわ。魔法に「解除」なんてものはないの。この前も説明したと思う。魔法っていうのは、「改変」するもの。魔法を使って新たに「改変」し直さない限り、魔法の効果が消えることはないのよ。だから、あなたが「解除すれば壁が消える」と思っているのは、あなたがきちんと「解除」という「改変」を新たに起こしているからなのよ」
「なるほど……」
「じゃ、今晩はそろそろ休むことにして、実験してみましょう」
「ちょっと、エレナ、どういうつもり? まだ街の中よ。野宿するには人目が」
「そ、そこで実験ってわけ。ジャンヌ。左右のビルの壁の材質を真似して、この路地の入口と出口を壁で封じてくれる?」
「え、え、」
「大丈夫。落ち着いて。いつもの壁を作る要領で、その時に追加で、この壁と同じ感じ、って考えるの。まずはこの壁に触れて出来うる限り感じ取って。大丈夫、あなたは「壁」の魔女だもの、きっとできるわ」
 言われてジャンヌは十分かけて壁を触り、つつき、撫で、そして、右手を壁にくっつけたまま、左手を路地の片方に向ける。ビルの壁と寸分たがわぬ壁が通路をふさぐ。
「いいわ、完璧よ! じゃ、もう片方もやってみて!」
 左手をもう片側に向ける。壁が通路をふさぐ。
「ね、できたでしょう? さ、せっかくの安全地帯よ。のんびりやすみましょ。ね、アリス、ジャンヌがいるのも無意味じゃないでしょう?」
「……そうね」
 アリスは手提げからヘッドホンと寝袋を取り出して装備し、眠りにつく。エレナも壁にもたれて眠る姿勢に入る。
「あの、エレナさんは寝袋で寝てくれてもいいんですよ?」
 ジャンヌがエレナに近づいて声をかける。
「んー、それもそうなんだけどね。けど、そしたらジャンヌだけ一人で眠ることになるでしょ? それはちょっと個人的に自分を許せないから」
「そうですか……すみません、私が布団も作れたらよかったんですけど……」
「あはは、そんな無茶は言わないわよ。あなたは壁の魔女だもの。布団を生み出せるわけはないわ。本当に、気にしないで、おやすみ」
 エレナはそういうと、目をつぶる。
「…………」
 ジャンヌはしばらく悩んだのち、意を決して歩き出す。
 ――エレナさんは足手まといな私を連れて行ってくれて、面倒まで見てくれる。このままじゃいけない。
 ジャンヌは壁に近づき、そして手を添える。
「さっきの要領でやれば、出来るはず」
 すぅっと壁が消える。そして、ジャンヌが通路を出ると、再び壁が出現する。
「……あれ? もしかして」
 ふと思いついて、もう一度壁に手を添える。ジャンヌが念じると、そこに人一人が通れるくらいの穴が出現する。手を放し、もう一度念じると、壁が再生する。
「やっぱり。エレナさんの言う通り、私は壁の事しかできないけど、壁の事なら!」
 少し自信をつけたらしいジャンヌはそこからどこかに走っていく。幹線道路に出ればそこは眠らない町、多くの店が24時間経営されている。とはいえ、だからと言って彼女の目当ての店もそうとは限らない。幹線道路を2時間程度かけてひたすら走り、そして見つける。「24時間」「実体通貨可」の看板。ジャンヌは喜んでそこの店に駆け込む。
「あの、これください。あっ! それと、これも」
 ジャンヌが買おうとしたのは寝袋とパックパックだった。ジャンヌが自分用の寝袋を手に入れられれば、エレナが我慢する必要はなくなるとジャンヌは考えたのだ。
「あいよ、ありがとね」
「これでお願いします」
「はいはい。こんな時間に実体通貨なんて珍しいねぇ」
「オーグギアを忘れてきちゃって…………今慌てて」
「なるほどね。登山かい? アイゼンとかは?」
「友人が予備を持っているので」
「そうかい。じゃ、気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
 ジャンヌは購入した寝袋を購入したパックパックにつめて背負い、再び走り出す。先程は夢中て2時間走ったが、さらに2時間走るのは流石に厳しく4時間かけて歩いて帰ることになった。
「本当に壁は消えてない」
 走って2時間、歩いて4時間の位置にまで離れてたはずなのに、壁は消えていなかった。右手を壁に向け、壁に穴を開けて中に入る。
「ジャンヌ!」
 そこにエレナが駆け寄ってくる。
「どこいってたの、起きたらいないから心配したのよ!」
「ごめんなさい、エレナさんが私のせいで寝袋使えないのはもうわけなかったから……」
 ジャンヌがバックパックの寝袋を示す。
「なるほどね。ありがとう、ジャンヌ。けどあなた、寝てないんじゃない? 大丈夫?」
「はい、大丈夫です。一人で逃げてたとき、三日眠れないとか普通でしたから!」
「そ、そう……」
 満面の笑みで答えるジャンヌに一瞬たじろぐエレナだったが、これも笑顔の魔法か、と笑顔で応じる。エレナにとって笑顔は幸福の象徴なのであって、当然のことであった。
「へぇ、あんな風に壁に部分的に穴を開けて修復したりできるのね。壁の魔法、案外便利そうね」
 とアリスが起き出してくる。
「えぇ、具体的な属性は出来る範囲は縛られるけど範囲内ならほぼなんでも出来るからね。ジャンヌなら壁に関することはなんでも出来るくらいだと思うわ。いつかジャンヌに宇宙船の外壁とか作ってほしいわねー」
 エレナが説明を始め、直後脇道に逸れる。
「対異星人防護ネットが地球を覆ってるのに、どうやって宇宙に進出するのよ」
「まぁ、それはそうなんだけどね」
 対異星人防護ネットは統一政府が地球を覆う形で設置した防御フィールドだ。対異星人という名前ではあるが、他にも隕石などの衝突も防いでくれる。政府は数年前に「地球外の機械生命体」対策として、この施策を発表し、そして今や実現している。
「宇宙の脅威から身を守るために宇宙進出を諦めるなんて、なんとも夢がない話よね」
「ま、エレナせんせーの宇宙談義はまたの機会にしましょう。行くわよ」
 
 三人はやがてコンテナ埠頭との間を遮るフェンスまでたどり着いた。丸二日かけてしまい、もうすっかり夜だ。それでも仕事しているところもあるのか、ヘリコプターのプロペラが風を切る音が少し遠くから聞こえてくる。
「なんとか、辿り着いたみたいね。ジャンヌ、ここでいいのよね?」
「はい、そのはずです」
「時間経過的にもうそこの街まで私達の手配が始まってるはず。急いで」
 三人がフェンスを越え、夜のコンテナ埠頭に入る。遠くに航空障害灯の光がそこにコンテナ積み込み用の大型クレーンがある事を示している。
「あのクレーンの根元ね?」
「みたいです」
 コンテナが綺麗に整列した間の通路をまっすぐ進む。と、その時、突如コンテナの内部から、鋼鉄の甲冑を装備した人間が飛び出してきた。
「コマンドギア………!」
 それはアメリカの次期主力兵器として注目されていたパワードスーツだった。統一政府に統合されてからも開発されていたとは、軍事面がほとんど報道されなくなった今、ここにいる三人は誰も知られていなかった。
「っ!」
「ジャンヌ!」
 ジャンヌが自分達とコマンドギアの間に壁を展開する。
「やはり魔女か!」
 左右、そして背後からもコマンドギアが飛び出してくる。
「脅かしてジャンヌに魔法を使わせる作戦だったのね。なかなかやるじゃない」
「プロペラ音も近づいて来てるわ、まずいかもしれないわね」
「とりあえず今は、あのガトリングをなんとかしないと、ジャンヌ!」
「ごめんなさい、でも、はい!」
 コマンドギア達が手に持つガトリングガン(複数の銃口を持ち回転することで連射する銃。バルカンやミニガン等)が回転を始める。ジャンヌがその銃口から弾丸が飛び出すより早く壁を生成し、弾丸の雨を防ぐ。
「壁に囲まれた小部屋に籠城することになっちゃったわね」
「どうするの? 籠城してても勝てないわよ」
「いえ、このままじゃ、籠城してても無理かも……」
 エレナが呟くと同時に、空から光が浴びせられる。見上げれば、ティルトローター機(プロペラ(正確にはローター)を機体に対して傾けることで垂直離陸を行える機体。オスプレイなど)が上空を飛んでいた。しかも、二機。
「まずいわよ、あのティルトローター機、武装を積んでるわ」
 ティルトローター機にもガトリング式の銃が搭載されているらしく、先ほどと同じ回転音が鳴り始める。
「ここまで、なの」
 ガトリング式の威力は高く個人携行用にダウングレードされた「ミニガン」でさえ、「痛みを感じる前に死ぬ」という意味で「Painless gun無痛ガン」と呼ばれている。魔法を使える普通の人間でしかない三人が耐えられる道理はない。
「ソーリアーーーーーーーファイアーーーーーーーーー!」
 突如、炎の塊が飛来し、ティルトローター機の片方に命中し、二つあるローター(プロペラのようなもの)のうち片方を吹き飛ばす。
「ベクターワン、ダウン! ベクターワン、ダウン!」
 破壊された方のティルトローター機が回転しながら墜落する。
「どこから攻撃して来た!!」
「いたぞ、あそこだ!」
 ティルトローター機が再び飛んできた炎を回避しつつ移動していく。
「空からの警戒が消えた? ……ジャンヌ、あなた、部分的に壁に穴を開けられたわよね?」
「はい、出来ますけど……」
「じゃあ、私の合図で、やってもらえるかしら?」
 エレナがフィルムケースを取り出す。
「3.2.1.今よ!」
 壁の一部が消える。コマンドギアがこちらを向く、直後、エレナのフィルムケースが投擲される。
bril輝け
 コマンドギアがガトリングを構えるより早く、フィルムケースから光が溢れ視界を奪う。
「走るわよ!」
 コマンドギアの横を通過し、走る。しばらくしてコマンドギアは視界を回復させて振り返る。が、背後のコンテナに潜んだいた男が首元の装甲の隙間に短刀を差し込む。
「申し訳ない。せめて安らかに」
 静かに倒れるコマンドギアと装着者を見送り、三人に追いつく。
「やぁ優姫、久しぶり」
「光輝さん!?」
「すまない、奴らにバレてしまって、警察を追われる身になってしまった。だが、なんとか君達は逃がせると思う、そこにタンカーが止まっているのが見えるか? もうすぐ出航する。おれはあのコマンドギアを装着して場を乱すから、あれに乗り込んでくれ」
「分かりました」
 光輝の言葉に頷くジャンヌ。アリスはエレナに信じるの? と視線で訴えるが、エレナはそれに強く頷く。
 三人は次の角を左に曲がり、タンカーを目指す。光輝はコマンドギアを着込み、包囲網に問題がないことを報告する。これで、彼らは未だに三人が壁の中にいると信じたままであった。

 

 その頃、最初に三人を助けた二人の魔女は、
「ソーリアーーーーーーファイアーーーーーーーー!!」
 二人のソーリアが腕を重ね、その先から巨大な炎の塊が飛ぶ。
「その技名恥ずかしいからやめない?」
「えー、じゃあ、ソリプラ・ファイア?」
「ごめんなさい、さっきのままでいいわ」
「んじゃ、もう一発ー」
「もう無駄よ、あいつら、こちらの発射タイミングを見切ってる。炎をばらまいて目くらましして、この場を離れましょう」
「あいよー、ソーリアーーーーーースプレッドーーーーー」
 ソーリアが炎を撒き散らす。プラトはそれを聞いて「それじゃソーリアが撒き散らされちゃうんじゃないかしら?」と思った。
「あの魔女、逃げるぞ。包囲網の一部戦力を追跡に充てろ」
 その指示にこれは幸い、と、光輝もそれに追従する。
「ソーリア、次はあいつらよ、二人で重ねるわよ」
「了解、ソーリアーーーーーーーーファイアーーーーーーーー!!」
「隊長、危ない!」
 庇うふりをしてわざと炎を食らい海に落下する光輝。
「馬鹿な、あの女、あれほどの火力が出るとは報告を受けていないぞ」
「よし、怯んでる。ソーリア、手を握って、飛ぶわよ」
 二人のソーリアの片方が翼の生えた魔女に変化する。
「翼の魔女、イカロスか!? 既に狩られているはず……」
「さぁ、どうかしらね」
 イカロスと呼ばれた魔女の姿に変身したプラトはソーリアを抱えて飛ぶ。

 

 そして、タンカーは行く。三人を乗せて、かつて日本と呼ばれた島国を離れて。

 

to be continue...

 

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