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行開け

「だって他に知らないから」

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 この物語は『エンジェルダスト』より未来の物語です。その都合上、あえて固有名詞に解説のないものや、あえて正体不明に書かれているものがあります。予めご了承下さい

 

 彼がペダルを踏むと、大きく揺れを感じ、そしてモニターの向こうの景色が少しずつ変化する。それで機体が前進出来ていることを確認する。レーダーを確認すると僚機がきちんとこちらについてきてくれているのを確認できた。
「ラーマの調子は良さそうですね」
 基地から通信が届く。
「その判断は気が早すぎる。歩くだけなら今時、どこのマキナギアでも出来るぞ」
 その楽観的な言葉に、彼は首を振る。インド民主共和国製第二世代マキナギア「ラーマ」、それが今、彼が搭乗している人型兵器の名前だった。
「いや、しかし、クリシュナは歩くことが出来るようになるまで随分かかりましたから、それと比べれば試作一号機から動くだけマシですよ」
「その試作一号機がなんで4機もあるんだ?」
 男はレーダーに表示されている自分の後ろに追従している三機の表示を見ながら問いかける。
「ラーマには装備換装システムを搭載しています。装備を換装することで三種類の形態に変更可能。それぞれ、バラタ、ラクシュマナ、シャトルグナという愛称が付いています。ラーマを含め、イシャン様、スジャータ様とチュンダ様、ヴァイシャ様の戦闘データを元にそれぞれ作成しました」
「ほう、父上の……」
 イシャン様、その名前を聞くと同時、男がより強く操作レバーを握る。その名前は彼にとっで特別な名前であるようだった。それもそのはず、イシャン様こと偉大なるインド民主共和国初代大統領イシャン・ラーヒズヤ=ラジュメルワセナこそが、彼の父なのだ。彼の名はアニク・イシャン=ラジュメルワセナ、今はインド民主共和国のただの軍人だが、多くの国民が彼が次の大統領になる事を期待している。


火器管制システムFCSに改良の余地がありそうだな。少し前に情報局IBが得た情報を見たが、アメリカの新型マキナギアは早期警戒機AWACSとのデータリンクによる照準支援や弾道支援が行えるらしい。DEMデムを三機保有する我が国らしく、ラーマの武装換装システムは兵装の面でアメリカの新型より上だと思うが、それを操るソフトがそれらをアメリカの新型よりうまく扱えなければ意味がない」
 エンジェルダストの日以降、世界は復興を続け、そして再び国同士が争う時代となった。その過程でインドが生み出した兵器こそがマキナギアである。エンジェルダストの日に至るまでに活躍し、そしてイギリス主導の元で封印された巨大人型兵器、コードDEMのうち、インド所有となっていた三機を解析し、現在の技術で再現し、かつ量産可能な仕様にダウングレードしたものだ。三機ものコードDEMを保有する国はインドのみであり、マキナギアは長くインドの主力兵器、そして抑止力であった。
 しかし、強い力を持つ国があれば周囲の国はそれを警戒し、対抗策を作り出す。こうして、インドと同規模の大国アメリカはイギリスの技術提供を受け国産マキナギアを開発した。コードDEMを三機有するインドのマキナギアほど優れた兵装はないアメリカは兵装に劣る分を通常兵器との連携でそれを補っている。マキナギア開発競争の形で第二次冷戦を展開する二国。それぞれの国のマキナギアが本当に衝突した時、どちらが優れているかは、世のミリタリーオタクの格好の話題の種である。
「はっ、また詳細なレポートを上げてくだされば、可能な限り修正をいたします」
「うむ、頼んだぞ」

 

 その日の業務を終え、基地の外に出ると、マスメディアの人間たちで溢れていた。新型機の件か? と、アニクはそれをあしらおうとして、
「アニク様! 来月には次期大統領選です、アニク様はどの区より出馬されるのでしょうか?」
「なっ」
 予期せぬ質問に固まる。いや、違う、本当は予期していた、しかし、その可能性から目を背けていた。
「あなたのお父様は亡くなるまで立派にこの国を導き続けました。今の大統領になってから、国の経済は少しずつ悪化しています。国民はアニク様が大統領になることを望んでいます」
「そんなことはない、スカンダは良くやっている。国の経済が悪化しているのは……」
「ニューエイジと裏で繋がっているという噂もありますが?」
「噂にすぎんだろう、だいたい俺は聞いたこともない」
 アニクには大統領になろうという気はない。そもそも今のスカンダ以上の政治が出来るなどと自分には思えないのだ。だが、記者達はこぞってスカンダを批判し、その見解を求めてくる。一つずつ相手をしていては話にならないと感じたアニクは方針を変え無視して突き進むことにしたが。
「所詮アチュートの人間に政治なんて無理だったのだ、やはり、クシャトリアであるアニク様こそが……」
「なんだと?」
 しかし、ある記者の言葉に足を止める。
「おい、今俺に質問したのは誰だ」
「え、えーっと、私でしょうか? 現政権の貿易赤字が……」
「違う。アチュートに政治など無理だ、と言った者だ」
「わ、私ですが……」
「インド民主共和国において人々のヴァルナは等しく平等だ。かつてヴァルナを定めたクリシュナに対し、クリシュナと同じくヴィシュヌのアヴァターラである我が父上イシャンの名の下に、人はみな人というヴァルナであり平等だと宣言がなされたはずだ」
「そ、それはそうですが、しかし彼がアチュートの生まれであり、あなた様がクシャトリアの生まれという事実は……」
「父上が新たに定めた以前のヴァルナを語るとは、父上を侮辱しているのか? 貴様は父の代わりは俺しかいないというその口で、父を侮辱するのか? それは俺に対する侮辱であり、父上が作り上げた平等の国たるインド民主共和国に対する侮辱だ。所属と名を名乗れ、抗議してくれる」
 アニクの怒りに触れた記者が小さい声で自身の名と所属を名乗る。
 すっかり質問攻めをする空気でなくなり、黙り込んだ記者達の中をずんずんと歩き去っていくアニク。
 しばらくのちにこの映像は国民に広がり、主にかつて低い身分だった者達から、「やはり彼こそがイシャン様を継ぐ者、マハーラージャ偉大な王だ」と、さらに支持する声が上がるのだが、アニクはそんなことを考えもしない。ただ、彼にあったのは、父の作り上げた平等の国を守る、という意識だけである。

 

 そして深夜、アニクは突然の電話に起こされた。
「大変です、大佐、西の防衛部隊からの交信が途絶しました」
「なんだと、確認部隊は?」
「10分前に。しかし、同じく交信途絶です」
「すぐ行く」
 特定のエリアの部隊と通信が途絶え、確認に行った部隊も通信が途絶えた。そんなことが起こりうる可能性は一つしかないと言っていい。敵の襲撃を受けたのだ。
 ――くそ、一体どこのどいつだ。アメリカもまさか本当に武力行使してくることはないだろう。インド内にテログループが侵入したという報告も今の所上がってない。

 

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