依頼を受けてとある
ハッカーである
《『Golden Egg』首尾はどうだ?》
人目につかないように裏路地に入り、室外機の陰に身体を隠したところで通信が入る。
視界の通話画面には相方である「Silver Bullet」の名前と顔が映し出されている。
緊張でも楽観でもない、無――。状況は悪くないが、軽口を叩けるほど良くもない、と言いたいのだろうが、こちらとしてはそんな楽観視をするほどいい状況とは思えなかった。
「ああ、ブツは回収済みだ。お前が作ったルートでビルからは抜けられたが――ブツに枝が付いてるぞ、とっとと消しやがれヒヨコちゃんが」
《ヒヨコと言うな! 俺の名前は
途端に
《クソッ、結構厄介な枝の付け方してやがるな。削除に五分くらいかかりそうだ、それまで耐えてくれ》
「ハッカーの名が泣いてるぞ」
《俺はウィザード級には届かないっつーの。
「ハッカーの称号返上しろ! このど素人が!」
分かってる。依頼を受けてとある
そういういきさつで、俺はチップを所持していたメガコープに追われている。
チップを捨てればバレずに逃げ切れるが、それじゃ本末転倒だ。Golden Eggこと俺、
いずれにせよ、チップに仕掛けられた枝を何とかしなければ依頼を終えることもできない。小鳥が五分と言うならそれを稼ぐのが俺の仕事だ。
右手を一振り、表面装甲が一瞬開いて中に格納されていた
勿論、相手が銃火器を持っていればそれに対応できるように俺もアサルトライフルを持ってきている。ブレード・アームは展開していても他の武器の取り回しに干渉しにくいから便利なものだ。
「いたぞ!」
メガコープの所有軍、数としては十人にも満たない最小単位のユニットだが、装備は俺よりはるかに充実している。流石メガコープ、金持ってるなとは思うが街の底辺で泥臭く生きてるフリーの暗殺者にはフリーなりの戦闘技術がある。
つまり、真正面から戦わない。そのための義体だ。
相手は索敵用に各種センサー搭載の義眼を導入しているだろうし、それなら室外機の陰の俺の姿はもう見えているはず。隠れていても仕方ない。
アサルトライフルを構えて飛び出す。
バーストモードで引き金を引くと、GNSがリンクして残弾が三発ずつ減っていくのが見える。
最初の数回は甘めの狙いにして軽く足止め、すぐに頭を狙って引き金を引く。
胴体なんて狙っても無駄だ。メガコープの所有軍となると防弾装備も充実しているし、兵隊によっては皮膚と皮下脂肪部分を防弾性能の高い義体装甲にしている。そんなところを狙っても効果ない。
ただ、頭は別だ。防弾のフルフェイスヘルメットをかぶっていれば話は別だが、通常のヘルメットだけなら頭は小さくてもいい的だ。義体とGNSのリンクで精密射撃もできるから狙うなら頭だ。
と、言っても向こうもGNSを導入しているのは当然だから俺の動きから演算で射線は見えている。致命傷を負わせるにはアサルトライフルは頼りない。
そうなると頼りになるのは右腕のブレード・アーム一本ってわけだ。
俺の射撃に向こうも一瞬は怯むが、一度に何人も狙えないことに気づいて前後に分かれて波状攻撃を仕掛けてくる。俺の視界に無数の予測射線が表示される。
――が!
死角がないように見える弾幕にも隙がある――そう、足元!
今どきの銃撃戦は相手が義体である前提で動くからほぼ胴体から上に攻撃が集中する。義体すら撃ち抜ける徹甲弾でも持ち出せば足を撃って殺さず捕らえることもできるが、向こうもこちらが一人だとなめてかかっているから弾薬もショボい通常弾のみ。まぁ全身義体でもない限り通常弾で大体事足りるし、そもそも生身の肉体を脳以外全部捨てて義体にするのは噂に聞く「トクヨンの狂気」か事故や病気でそうせざるを得ない奴だけだ。
向こうは俺を殺す気で撃っている。だから足元なんか狙ったりしない。
それを利用して身を落とし、低い位置から敵に向かって突進する。
スライディングの要領で敵のど真ん中に飛び込み、右脚の出力に物を言わせて立ち上がる。
「――こいつ!」
「はん、俺の義体が右腕だけだといつから錯覚していた?」
無理な動きに破れたジーンズ、その下から覗くガンメタリックの右脚に敵は――別に驚いてはいないか。そりゃ驚かれたらこっちもびっくりだ。
とはいえ、初手から脚を狙わなかったのは正解だ。左脚は生身だが、俺だって分かっているから対処くらいはする。
右腕を振り上げる。ブレード・アームのヒンジを敢えて開放すれば複雑な動きでしなり、相手を切り裂く。
流石に義体だとブレードが食い止められるのでその時は右手のパンチをお見舞いして怯んだところに左手のアサルトライフルを単射で撃ち込む。
ゲリラ戦術――とは少し違うが、俺も生き延びるために編み出した戦術くらいある。卑怯と言われようが、
攻撃が当たっても死んだかどうかまでは確認しない。腕を落とせば銃は撃てないし、こちらの弾にも限りがある。戦えない奴に撃ち込む弾はない。
だが、急がないと増援が追い付いて不利になるのは目に見えている。こちらは先鋒に隠し玉をほぼすべて使ったようなものだ。
ヒヨコの枝削除が先か、敵の増援が先か――。
と思った矢先に追加の足音が聞こえる。
「クソ、ヒヨコめ……!」
やっぱりハッカーの称号返上しやがれ、と悪態をつく。お前のせいで今日が命日に――。
「待て、信号の位置が変わった。移動しているぞ!」
そんな声が聞こえ、近づいてきた足音が遠く離れていく。
俺を相手にしていた連中も、目的が変わったと連絡を受けたか、傷ついた仲間を放置して合流しようと走り出す。
視界の隅にあるマップを見れば、チップの位置を示す光点が俺から消え、明後日の方向へと移動していく。
――ヒヨコ、やるな。
枝を消せば向こうも消えた場所を徹底的に探す。が、欺瞞すれば敵を回避できるという寸法か。
その間にじっくりと確実に枝を消せば俺も安全、流石小鳥、俺のことを考えてくれている。
となるとあとは消化試合だ。敵としては目的は奪われたチップの信号だから、それがないと思い込んでいるなら俺はただの邪魔な通行人だ。売られた喧嘩は買う、と排除しようとするが増援を呼ぶこともないはず。
最後の一人をぶちのめし、小鳥の指示に従って隣のブロックに移動する。
「よう、タマゴ。生きてるか?」
黄色く染めたツンツンショートヘアの小鳥が迎えに来てくれていた。
「タマゴとか言うな! Golden Eggと呼べ!」
「何言ってんだ、俺のハッキングなしではまともに依頼もこなせないタマゴが何言ってんだよ」
――そうだった。小鳥と組むきっかけになったのが俺のヘマだ。そのせいで小鳥は俺のキラーネームをGolden Eggにしたしタマゴと言ってからかってくる。
「お前もハッカーとしてはヒヨコだろうが! 俺のブレードがなければ現場に出られんくせに!」
「なにをう、俺の先祖はカタナをぶんぶんぶん回してたらしいぞ!」
「先祖の話かよ!」
なんだかんだ言って俺も小鳥も暗殺者としては半人前、二人で力を合わせて一馬力、と言ったところか。司に至っては生身にこだわりすぎていざという時に盲腸やってる時点で半人前、三人で二馬力も出せない弱小チーム。
それでも、いつかはてっぺんを取ってやる、と意気込んで付けた「メダリスト」。
今回の依頼も後はチップを回収班に届けるだけ。枝も消されたなら心配することは何もない。
「じゃ、配達といきますか」
「おうよ」
急ぐ必要はないから二人並んで歩く。表通りに出ればネオンやホロサイネージがギラつくいつもの町並みが出迎えてくれる。
「ん、
小鳥の声に周りを見れば、確かにこの町の警察機能を担っている
何かあったか――と思ったところで、そのカグコンの兵士に呼び止められる。
「すみません、少しお話いいですか?」
やべえ、職質。
一応
IDチェックを通し、話を聞く。
「先ほど、この近くで乱闘があったらしくて」
「そりゃ怖いな」
「パンツが破れていますが、何かあったのですか?」
――これは俺を疑っているな。
だが、ここでボロを出すほど俺もひよっこじゃない。
「あー、さっき階段踏み外して。義体の出力に任せて踏ん張ったら破れたんですよ」
「そうですか」
――こいつ、ザルい。
我ながら無理な言い訳をしたか、と思ったが、納得されてしまった。
「気を付けてください。まだ犯人が近くにいるかもしれませんので」
IDチェックさえクリアすれば犯罪者でも善良な市民だ。堂々と振舞えば疑われない。
カグコンの兵士から離れてしばらく歩く。
「ヤバいな」
「どうした?」
「カグコンの通信を盗聴した。カグコンが探してるのはお前が持ってるチップだ」
「マジか」
このチップにどんなデータが格納されているか知る気はない。知ってしまえば命がない。
だが、メガコープ同士でデータを奪い合っているとなると巻き込まれた身としてはたまらない。
ポケットの中のチップが、ズシリと重くなった錯覚を覚える。
「とっとと回収班に渡してずらかろう。命が惜しい」
「だな」
ネオンがうるさい街に溶け込むように歩く。
俺は暗殺者。街に溶け込み、街と共に生きる。
生きることができればそれでいい。それが、この国で生き残る秘訣だから。
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