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未来を探して 2018クリスマスSS

by:tipa08 

「クリスマスまでに作戦を終わらせて、アドボラでパーティーでもしよう」
 そう言っていたオラルドの言葉を思い出しながら、スミスは粒子を手にまといながら、鉄格子を削っていく。
「どうしてこうなったんだろうなぁ」
 ため息交じりに呟きながら作業を続ける。
 なぜ、このような状態となっているのか、簡単に説明すると、惑星の原住民であった魚人種族に対し、植民した政府が大規模な弾圧を行っているという情報を得た〝アドボラ〟に調査が命じられた。
 スミスはその先遣調査隊として民間人に紛れて入国したのだが、弾圧されていた魚人種族によって起こされたクーデターが発生し、首都は制圧され、情報収集中だったスミスは不審人物として拘束されてしまった。
「そして、なんで今時鉄格子なんだろう」
 一般的な牢屋は 〝粒子〟によって壁を構築するスクリーン技術が用いられる場合が多い、人体は通さないが、銃弾等は通す事ができる状態にできる、プライバシー保護の為に不透過にできる等、性質が変えやすい事から人気がある。
「心理的な圧迫感を重要視していたみたいよ。ここ、思想犯の収容が目的だったみたい」
 牢屋の外からの聞きなれた声にスミスは作業を止め、顔を上げる。
 そこには、幼馴染であるサリュアが立っていた。
「どうして、サリュアがここに?」
 スミスは動揺する、普通に考えて任務中に幼馴染と会うという状況は起こりえない。
「お母様の実験に、ここで取れる資源が必要だから購入に来ていたの。捕まった経緯はそっちと同じだと思う」
 サリュアの母は有名な研究者だ。色々な実験をしている方であるから、サリュアは、彼女の実験に必要な物を買いに行くなどの雑用で手伝いをする事が多かった。
「ところで助けはいる?」
 手に持った〝粒子〟ナイフを展開しながら、そう尋ねる。もちろん、スミスに断る理由は無かったから、素直に鉄格子を切断してもらう。
「そういえば、ミアさんはこれと同じ事ができなかった?」
 この〝粒子〟ナイフは、マリンが開発した物で、一般には普及していない。ミアが使う本人曰く〝粒子〟ソードは、それに刺激を受けて自分の能力を生かしてやってみた物で、数年かけて作った物が負けたとマリンはかなり悔しがっていた。
「まあ、あの人だからね・・・」
 ソードが作れたのは、ミアの〝粒子〟操作能力が極めて高いからであり、スミスとシアも真似をしてみたが、上手くできなかった。
「まあ、そうよね。ところで、この状況、おかしいと思わない?」
 牢屋の並ぶ廊下で、左右を警戒しながらサリュアが尋ねる。
「何の抵抗も無くクーデターが成功した事?」
 スミスが同じように左右を警戒しながら答える。クーデターが発生を知ってから、首都が完全に掌握され、スミスが拘束されるまで、そう長い時間は掛かっていなかった。
「そう、弾圧には軍も関与していた。クーデターの可能性を見逃すとは思えないし、もし決起されたとしても、普段から首都周辺にかなりの部隊を待機させていたし、そう簡単に制圧を許すとは思わないんだけど」
 スミスも事前情報として、首都周辺の部隊は確認しており、戦車から装甲車。VTOLと多種多様な部隊が配置されていたのは知っていた。これらを瞬時に制圧できるだけの兵員・装備を被差別種族が用意できるとは中々考えにくい事であった。
「ネオアドボラ系の組織が支援したのかな」
 スミス達〝アドボラ〝よりも過激な手段で差別解消を図ろうとしている〝ネオアドボラ〟は、暴力による差別解消の代名詞のようになっている。そういう組織がクーデターの為に被差別種族に武器や人員を流すというのはよくある事であった。
「そういう所の支援だったら、もっと破壊的だと思う。私達も拘束で済んでいたかどうか」
 彼らの支援は多くは力を与えるだけだ。差別されていた者が、立場が逆転させた時、相手に優しくする様子より、逆襲をする方が想像しやすい。
「確かに、移送の時、かなり丁寧な印象を受けた」
 スミスがここに来るまでに、乱暴に押し込まれたり、銃を向けて脅されたという事は無かった。不思議なほど丁寧であった。
「まあ、考えても仕方ないし、ささっと誰か拘束して聞いてみましょう」
 そう言うと、サリュアは通路を慎重に進み始める。相変わらず勇敢さにスミスは懐かしさを覚えながらも、彼女に負けないように移動を開始する。
 角が見えた所で、サリュアが手でスミスに止まるように指示する。
「警備」
 サリュアは短くそう言うと〝粒子〟ナイフを構えながら、角に壁に添いながら近づいていく。
 そして、角をほとんど何も警戒せずに曲がった警備員に対して、襲い掛かり逮捕術の要領で地面に叩き伏せ、首筋に〝粒子〟ナイフを突き付ける。
「あなた達に武器を供給したのは誰!」
 単刀直入な質問に対して、叩き伏せられた警備員は何か意味のあるような言葉を発したように感じたが、自動翻訳機は反応しない。スミスは不思議に思っていたが、サリュアは違った。慌てたようにナイフの柄で首筋を強く叩き、失神させると、相手の後頭部を確認する。
「え、さっきの言葉は?」
 スミスの疑問に対して、警備員の後頭部にある手術後を示しながらサリュアが答える。
「感応帝国において、神への祈りの言葉。そういう言葉は翻訳機で翻訳されないのが普通」
 これは文化を尊重するという方針から生まれたシステムで、祈りの言葉など、文化として重要な言葉はそのままの音で伝わるようにする事が義務付けられている。
「感応帝国?」
 様々な知識を身に着けていたと思っていたスミスだったが、それはまだ知らない言葉であった。
「ワ・ロニス感応帝国。知的生命体の脳に機械を埋め込む事で統一意志を実現し、高みに至ろうとしている宗教が中心となっている文明。これはその機械を埋め込まれた跡」
 サリュアは説明を終えると、警備員の持っていたブラスターをスミスに渡し、他に何か使える物を持っていないかを探す。幸いにも、渡された銃はGUFでも使用されている一般的な物であった為、スミスにも使い方が分かる物であった。
「とりあえず〝チハヤ〝にこの事を伝えないと。電波は遮蔽されている。となると、スミス。この前試していたミアさんとの〝粒子〟通信はできる?」
 〝粒子〟通信、サーミルと会話できたのは〝粒子〟を介した意思伝達だったのではないかという分析結果をもとに、スミスとミアの間で試みていた連絡手段で、その時は成功していた。
「あの時は宇宙と宇宙だったけど、とりあえずやってみる」
 意識を集中させて、メッセージを頭に思い浮かばせる。そこでスミスは気付いた。
「何て伝えれば……」
「頼りになるかと思えば、うっかりする所は変わりが無いのね。感応帝国が関与しているくらいで伝わると思う」
 サリュアの呆れているのか懐かしんでいるのか分からない声を聞きながら、スミスは再び意識を集中させる。そして、メッセージを頭に思い浮かべてみる。
 しばらくすると、〝分からないけど、オラルドに伝えるねー〟という返答が来た。
「伝わったみたい」
「なら、移動しましょう。脱走者がいるっていうのは知られているし」
 警備員からいくつかの物を奪い取ったサリュアを先頭に、ブラスターをもったスミスが援護できる位置でついて行くというフォーメーションで、ここから脱出するべく、行動を始めた。

 

= = = =

 

 クーデターの連絡を受け、任務を状況の確認へと切り替えた〝チハヤ〟を中心とする艦隊は、情報収集の為、惑星に浮かぶステーションに入港しようと、航行していた。
 「GUFが駐在していたらもっと楽だったんだがな」
 様々なメディアの情報に目を通しながらオラルドが愚痴をこぼす。
 GUFの基地があるならば、情報共有ネットワークを介して、たとえ制圧されていたとしても情報を得られる為、情報量が非常に多くなり、尚且つ正確だ。
 「ビーコンの反応も検知できませんね」
 オラルドと共に分析を行っていた士官が報告する。ビーコンというのは、宇宙連合に加盟している惑星には設置が義務付けられている物で、惑星によって定められた周波数の電波を出し続ける事で、宇宙船の航行や、安否確認に使われる物だ。
「破壊されたのか? それは不思議だな。クーデター政権は連合から離脱するつもりなのか?」
 ビーコンの電波は情報量こそ少ないが遮蔽されにくい方式で発進されている。止まっているとなると、破壊が考えられるが、わざわざビーコンを破壊する理由と言うのはあまり思い当たらない。軍事的にさほど重要な建物ではないのだ。
「オラルドー、スミス君から、感応帝国が関与してるかもって」
 艦橋に入ってきたミアがそう報告する。オラルドの顔が険しくなる。
「感応帝国? だとすると、相当に危険だな。護衛艦隊に警戒強化を。ミアもスーツ着用で待機しておいてくれ」
 オラルドは通信手に指示を出しながら、コンソールを操作して、感応帝国の艦艇や兵器の情報を表示させていく。
「GUFの成立以来、こちらの管轄範囲に侵入してきたのは初めてか」
 感応帝国との接触・交戦は、地球中心の政府が成立していた頃の話だ。宇宙連合による新体制が確立されたこの200年間、彼らからの接触は確認されていない。
「最悪、大規模な戦争の始まりである可能性もあると思いますか?」
 士官の一人が尋ねる。惑星のクーデターに関わるなど、穏やかな事では無い。開戦する理由に十分な物であった。
「ああ、否定はできない。本部にも連絡を入れよう」
 オラルドがコンソールを操作して、GUF本部に送るメッセージを作成しようとした時、オペレーターの一人が声を上げる。
「ステーションより高エネルギー反応!」
 その警告を聞き、オラルドが顔を上げると同時に、5筋の光線が宇宙ステーションより伸び、そのうち一つは護衛の駆逐艦に命中し、爆発させる。
「〝ラメッセ〟撃沈!」
「敵艦はフィ・レフタ級2。カル・シュタヌ級1です」
「こちらの粒子砲は射程外、護衛艦は魚雷による応戦を開始」
 次々と状況の報告が飛び込む。魚雷が煙を引いてステーションへと向かう。
「ステーションは制圧済みか。 防護膜を展開しつつ、艦隊反転、ステーションから離れる!」
 その指示はすぐに伝達され、艦隊はステーションから離れるコースを取り始める。粒子砲の威力を減衰させる粒子弾防護膜が展開されるが間に合わず、一隻の駆逐艦が粒子砲の直撃を食らう。
 防護膜の展開に気付いた敵は、魚雷による追撃を行うが、これはパルスレーザーの弾幕によって撃墜され、艦隊には到達しなかった。
「ステーション後方にワープアウト反応。チャーチシップです」
 攻撃からとりあえず逃れ、安心をした所にそのような報告が流れる。
「この惑星の国民全員を恭順させるつもりか」
 チャーチシップ。教会の船という単語が示すように彼らの信仰を広める為の拠点となる艦である。意思を統一させる為の機械埋め込み手術を行う設備。抵抗を抑える為の精神攻撃兵器や武装兵士を持っており、これに降下されるというのは、その惑星が制圧される事を意味する。
「こちらでは降下前に攻撃できないか。ミア、スミス君にチャーチシップの降下を阻止する手段が無いか尋ねてくれ」
 艦内放送を使い、ミアに指示を出しながら、GUF司令部へ送る文章の作成を始める。
 その文章はすぐに書き上げられ、その情報を載せた通信ポッドが打ち出され、ワープした。

 

= = = =

 

 収容所からの離脱に成功したスミス達は、首都の裏路地に潜み、行動をしていた。
「チャーチシップの降下を止められないかって」
 ミアから受け取ったメッセージをスミスがサリュアに伝える。
「防衛システムは全部掌握されているでしょうし、手段としては思い浮かばないわ」
 サリュアが答える。クーデターが成功裏に終わっている以上、チャーチシップの脅威になりうる物が残っているという事は考えづらい。
「着陸する所を爆破するとかは?」
 スミスの提案に、サリュアが頷く。
「そうね、それなら行けるかも。大気圏に突入はできても、航行はできないから、直前で気付かれても問題は無いわ。ただ、その降りる場所が分からないけれど」
 これまでの逃走の中で、首都に人が集められているのは確認ができていた為、この周辺になるのではないかという予想はできたが、その場所を特定できるような情報は無かった。
「とりあえず、地図を探しながら移動かな」
 拘束していない人間はいないかと警戒を続けている無人偵察機を警戒しながら、二人は移動を開始する。
 せめて何があるかという事が分かればいいのだが、表通りは警備が多く、何の店か分からない店に裏口から潜入して、分かる物を探して行くしかない。
 いくつかの店を捜索した所で、運よく、爆薬と地図を同時に発見する事ができた。その店は、電気工事を中心に様々な工事を請け負っている会社であったらしく、首都周辺のクリスマスに備えた電飾の工事を請け負っていた為、その計画書が残されていた。
 爆薬は、クリスマス用に用意されていた花火の物と、強固な地盤を爆破する為の地形操作爆薬。地形操作爆薬はそれ以外に使いにくいように加工されているが、幸いにも、二人は農業大学の出身で、未開惑星の開拓の為にこれの扱いには相当慣れていた。農業の為にこの知識を使いたいなあと、スミスはそんな事も少し考えたが、手早く爆弾として使えるように処理していく。
「土いじりもしたいなぁ」
 スミスは作業をしながらそんな事を呟く。スミスは趣味として、〝チハヤ〟艦内の自室で、観葉植物を育てているが、やはり狭いのだ。
「農業知識が生かせる事案があるから、近々〝アドボラ〟に回ってくると思うから、それまで頑張って」
 自分に割り当てられた爆薬の作業を終えたサリュアが、地図を見ながらそう答える。
「こっちも終わった。どこに降りてくるか予想できそう?」
 スミスも作業を終え、サリュアが手に持つ地図を覗き込む。
「着陸できそうなのは中央広場だけだと思う。郊外に降りられる可能性もあるけど」
 サリュアは地図の一角を指さす。地図を見ると、かなり高密度に設計された都市で、確かに艦艇が降りれそうなスペースは官庁街の付近にある広場しかないように感じられた。
「行ってみたらはっきりすると思う。警備が厳しかったら当たりって事で」
「そうね。後どのくらいか分からないけど、もう時間も無い事だし」
 そう決めると、二人は正面の出口から飛び出し、表通りを通り、中央広場までの最短ルートを走り出す。
 その目立つ移動は無人偵察機に捕捉され、パルスレーザーによる攻撃を受けるが、スミスがブラスターの銃弾を〝粒子〟操作能力によって加速した攻撃によってあっけなく撃墜される。
「フェアリーガンじゃなくても若干操作できて良かったよ」
 フェアリーガンは、〝粒子〟操作能力を最も活用しやすいように調整されており、場合によっては駆逐艦相当の火力を出す事ができる。一般的に使用されているブラスターでもある程度は操作で強化ができるが、そこまでの火力は発揮する事ができない。
 移動を再開しようとした所で、ミアからのメッセージが届く。
〝今から反撃するよー。チャーチシップは首都に降りるっぽいってさ〟
 首都に降りてくるなら、このまま広場に向かい続けて問題無いという事だ。首都に降りてくるという事を、サリュアに伝えながら、スミス達は移動を再開する。
 もうすぐで広場に辿り着くという所で、道路をふさぐように人型の何かが立ち塞がる。
 右腕に銃のような物を持ち、左腕は肘より先が剣のようになっている。大きさは同じであるが間違えなく人ではないと判断したスミスは躊躇いなく引き金を引く。その〝粒子〟弾は命中したが、有効なダメージが入ったようには見えない。
「抗ブラスター装甲を採用してる! それじゃ無理!」
 敵が反撃で打ち込んできたパルスレーザーの射撃から身を隠しながら、サリュアが叫ぶ。スミスも遮蔽物に隠れながら反撃の手段を考える。 
 ふと目に入ったのは、標準規格の〝粒子〟タンクであった。スミスはなぜこんな所にあるのかと思い、確認をすると、作動すると光り輝く粒子を撒く、クリスマス用の演出装置に繋げられていた。
 操作能力を使い、中の〝粒子〟を衝突させるように動かす。そして、それを全力で敵に向けて転がす。
 敵はそれをその場しのぎの抵抗だろうと放置する。敵の足元まで転がったそれは内部で発生した〝粒子〟の反発に耐えられず、大きな爆発を起こす。その威力によって、敵の戦闘ロボットは吹き飛ばされた。
「〝粒子〟タンクをたくさん集めた方が楽だったかもね」
 その威力を見たサリュアがそう言う。
「目くらましのつもりだったんだけど、欠陥品だったのかなぁ」
 スミスもその威力を見ながら言う。〝粒子〟タンクは通常、衝撃などで衝突反応が起こった時に備えて、それを防ぐ機構が備わっている。操作能力による衝突反応は、それの想定を上回る動きである為、爆発させる事はできるのだが、ここまでの威力になるとは思っていなかった。
「とりあえず、作業を急ぎましょう」
 二人は、広場に次々と用意した爆薬を設置して行く。起爆装置は、クリスマス用の電飾から電球を外し、代わりに雷管を刺した物を使う。
「ところで、こうやって盗んだ物使ってていいのかな?」
 スミスがふと頭に浮かんだ疑問を訪ねる。
「GUFに所属する者はどうしても必要な場合は個人の財産を接収しても良い、とされているから、大丈夫と思うわ。今回の状況を必要じゃないとは判断しないでしょうし」
 幸いにも、今の〝アドボラ〟はGUFの指揮下にある。これまでなら、窃盗罪等の問題にもなるが、現在はGUFの強力な権力を行使する事ができる。
「設置を終えたら、何とか守らなきゃね。頑張りましょう」
 その言葉を待っていたわけではないと思うが、敵の無人偵察機が現れ、戦闘用ロボットも広場に向けて前進してくるのが見える。
「直前になって降下地点を変えるとか無いといいなあ」
 スミスはそう呟きながら、ブラスターを構えた。

 

= = = =

 

 一方宇宙では、ステーションを占拠する敵艦隊に反撃をするべく、用意が進められていた。
 感応帝国の艦艇は強力な粒子砲を持ち、GUFの駆逐艦が持つ粒子砲の射程を上回っている。しかし、欠点がある。それは前方に固定されているという点である。前方にしか撃てない代わりに、強大な火力を持たせるという設計思考の強い国家なのだ。
 GUFの艦艇は旋回砲塔による柔軟性を重視している。敵がどの位置にいても狙いやすいというメリットがあるが、旋回砲塔に押し込む必要性から、火力はそこまで高くできない。
 それを生かして戦う方法は十分に熟知していた。
「艦載機隊の攻撃で敵を混乱させ、その隙を宙雷戦隊の突撃で仕留める」
 機動力を生かして、敵に狙いを定めさせずに一方的に射撃する。それが感応帝国の艦艇に対する攻撃のセオリーであった。
「よーし、やるよー」
 GUF指揮下になった物の、格納庫の改修が間に合わずいまだ使用されているサルフィンと共に、編隊を組んでいるミアが言う。
 その声を合図にしたように、艦載機隊がステーションに向けて突撃を開始する。
 敵はその突撃に対応するべく、行動を開始する。地上で活動しているのと同じ無人偵察機を発進させ、迎撃にあてる。この機体は、偵察機ではあるが、ある程度の攻撃能力を持っており、戦闘機の代替としても使われている。
 しかし、所詮は偵察機であり、あっという間にミアのフェアリーガンとサルフィン隊のミサイルによって撃墜される。
 他の2隻よりも大型のカル・シュタヌ級より、複数のミサイルが飛び出す。サルフィン隊は回避機動を取るが、フェアリースーツを想定したミサイルではなく、ミアを追いかけるミサイルは無かった。
「甘いよ!」
 ミアは一気に敵艦に肉薄すると、カル・シュタヌ級の艦橋に狙いを定める。敵艦のパルスレーザーが弾幕を展開するが、上手くミアを捉えられない。
 ミアの一撃は敵艦の艦橋に突き刺さるように命中し、沈黙させる。
 残りの2隻が艦隊を組みなおす前に、宙雷戦隊の生き残りが一斉に突撃をかける。
 その素早い動きに追従できなかった敵は、粒子砲の射程内まで肉薄され、多数の粒子砲を浴びて爆散した。
「ステーションを制圧する。武装要員は待機」
 後方で待機していた〝チハヤ〟が再びステーションに向けて進路を取る。
「後は、スミス君がうまくやってくれれば良いが」
 惑星の上空を確保しても、住民のほとんどが手術を受けてしまえば、意味が無くなる。大気圏に突入したチャーチシップを狙える武器は艦隊に装備されておらず、陸上のスミス君に任せるしかない状況であった。

 

= = = =

 

「火力が足りない!」
 スミスがブラスターを連射しながら叫ぶ。多数襲撃してくる敵に対して、こちらは二人。どう考えても不利な状況であった。
「チャーチシップはもうすぐ降りてくる。それまで頑張るしかない」
 実際、チャーチシップの姿はスミス達からも確認できた。その大きな影が徐々に迫ってきているのはよく見えていた。
「フェアリースーツくらい持ち込めばよかった」
 今回は調査だからという事で、ほとんど武装は持ち込んでいない。まだ荷物の置いてあるホテルに向かった所で、手に入るのは拳銃程度である。
「後悔しても仕方ない」
 手榴弾を投げながらサリュアが言う。
「こっちは武器が無くなった。そっちは?」
「こっちもダメかも」
 スミスの〝粒子〟操作能力を使えば、ブラスターのマガジンに〝粒子〟を充填させる事ができるが、今はそんなことをできる余裕が無い。
「何か使える物は」
 先ほどのようにそこにある物で何か活用できないかと、スミスが視線を巡らせる。そこで気付く、広場の一角に止まるサンタクロースを載せている八輪の車。クリスマスの装いで全く気付かなかったが、GUFで一般的に使われているUM55装甲車であった。
 乗せられているサンタクロースを破壊して、車内に滑り込む。スミスが操作を試みるが、システムがロックされているという表示がディスプレイに表示される。
「これくらいなら問題無い」
 サリュアが素早く自分の端末からコードを繋ぐと、数秒の後、ロック解除。という文字が表示される。
 スミスが武装システムを確認すると、76mm砲 徹甲弾が使用可能という表示が現れる。
「今はありがたいけど、実弾装備でパレードってどうなんだろうね」
 迫ってくる敵戦闘ロボットに照準を合わせて、撃つ。車体が激しく振動し、大きな音が響く。大型の装甲車すら撃破する徹甲弾に耐えられる人サイズのロボットなど存在しない。1台が直撃で小半身を失う。
「次弾は対人榴弾。安全管理として不安になるなぁ」
 次に装填する弾薬をコンピューターに指示しながら、スミスが呟く。パレードに使う車両に、いくつかの操作をするだけで、多数を殺傷できる砲弾を乗せたままというのはかなり不安が残る状態である。
「案外、普通にクーデターを起こしていても倒せたかもね」
 そうスミスの呟きに返しながら、サリュアは装甲車の兵員輸送スペースに搭載されていた多目的ミサイルを、ハッチから身を乗り出して放ち、敵の無人偵察機を攻撃する。
 装甲車から放たれた対人榴弾の威力は絶大で、数体の敵を巻き込む。
「そろそろチャーチシップが下りてくる。広場から離れましょう」
 ハッチを閉めながら戻ってきたサリュアが提案する。
 その声を聞いたスミスは、砲手席から操縦席に移動し、装甲車を発進させる。
 広場から離れ、大通りに差し掛かった所で、その上空を大きな影が通過する。二人は、装甲車のハッチから身を乗り出して、それが降り立つ様子を観察し、爆破のタイミングを計る。
 チャーチシップは、船体下部に装備されたスラスタ等を噴射して、広場の上空で減速しながら、降下して行く。
 その船体が、地面に着地する寸前で、サリュアは爆破装置のスイッチを押す。
 広場全体で、多数の爆発が発生する。その爆発はもちろん、爆発によってまき散らされた破片がチャーチシップを傷つける。
 その爆風によって持ち上げられた船体は、降下を始めるが、下部にあるスラスタのほとんどが機能不全を起こし、降下速度を弱める手段は無く、かなりの速度を持って、地面に落ちて行く。
 地面にぶつかると、艦は潰れるようにバラバラになり、動力炉が損傷した事によって、大きな爆発を起こす。
 その爆風で、二人が乗る装甲車は、転がるように吹き飛ばされた。

 

= = = =

 

「二人とも大丈夫か?」 
 牢獄から解放された人々で溢れ、人が慌ただしく動き回る病院の待合室で、スミスとサリュアはオラルドに心配されていた。大きな爆発であったが、ほとんどの人間が牢獄などに収容されていたおかげで、人的被害はほとんど無く、ケガをしているのは二人くらいであった。
「まあ、打撲程度でなんとか」
「私も大丈夫です」
 あのまま、外で様子を見ていたら今頃大きなケガを負っていただろうが、二人は大きな爆発になると予感すると同時に装甲車に戻り、シートベルトで体をしっかりと固定していた為、軽いけがで済んでいた。
「それはよかった。ミアは宇宙で警戒中だが、大分二人の事を心配していたよ」
 オラルドも安堵した表情を浮かべている。
「ところで、感応帝国の意図は?」
 サリュアが質問をする。それに対して、オラルドは神妙な顔をして答える。
「彼らの攻撃はここだけじゃない、境界線警備中の警戒艦が何隻か攻撃を受けていて、いくつかの惑星で連絡が途絶えている。おそらく、本格的な戦争になるのではないかという評価だ」
 オラルドの言葉を聞いて、スミスは驚きのあまり何も言えず。流石のサリュアも息をのんでから発言する。
「〝アドボラ〟はどうなりますか」
 GUFの指揮下となった〝アドボラ〟、当然、GUFの一部として戦闘任務に駆り出される可能性だってある。
「現状では、現任務を維持するように指示があった。戦争が始まった今こそ、権利の維持が必要だという判断だそうだ」
 戦争という厳しい状況を背景に差別等が激化する可能性はあったし、GUFの戦力が離れる事で活動を起こす勢力もいる可能性もあるという判断であった。
「なるほど。スミス、気を付けてね。奇襲に警戒しないとならないとか、今までと違う事は多いと思う」
 サリュアが真剣な顔でスミスを見つめる。
「うん、大丈夫。頑張るよ。そっちも気を付けて」
 スミスはしっかりとサリュアを見つめ返し、そう答える。
 サリュアはその言葉に満足したように頷くと、立ち上がる。
「私は母の所に向かいます。〝アドボラ〟の皆さんのもお気を付けて」
 オラルドに対して、軽く頭を下げてから、サリュアは立ち去って行く。
「さて、我々も〝チハヤ〟に戻って次の用意を進めようか」
 オラルドが移動を開始すると、スミスもそれに続くように移動する。
 この宇宙に大きな戦乱の渦が巻き起こっていた。その中で彼らはどのように生きていくのだろうか。

クリスマス記念SS 終

 

「クリスマスパーティーはどうなるのーーーーー」
「ミア、少しうるさい」

 

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