Angel Dust -Epilogue-

  

 その後の事を少しだけ語ろうと思う。
 戦いが終わり、あるものは勝利に喜び、あるものは失ったものの多さを悲しんだ。
 私はというと、もはやよく分からなかった。
 失ったものが大きすぎる。地球単位で認識できてしまう私は、もはや、悲しむ事さえ自分の出力を超えていた。
 その処理する時間だったのかもしれない、私は何も言わず、何も食べず、ただぼーっと旅をしていた。
 旅をする必要なんてない、見ようと思えば世界中どこだって見られるのにね。

 

 月はグングニルの反動で少しずつ元の軌道に戻りつつあるらしい。
 月には少しずつリングが出来つつあり、人々はそのリング、あるいは塵のことをエンジェルダスト、と呼んでいるらしい。どこで漏れたんだろうか。
 そして、クラン・カラティンの事は徹底的に情報封鎖がなされた。メイヴさんの恐るべし政治手腕の成せる技だ。とはいえ、完全にはその影響は消せないのだけど、少なくとも何も知らない庶民たちの認識は、どこの誰だか知らない有志たちがエンジェルダストの日を迎えてくれた、と思っている。
 というか、いつの間にか、あの日はエンジェルダストの日、と呼ばれるようになっているらしい。

 

 世界はイギリス、アメリカ、インドの3カ国を中心に急速に再編が進んだ。
 メドラウドさん、グラーニアさん、ユピテルさんはイギリスに戻ったようだ。
 メドラウドさんはリチャード騎士団の再建に燃えているらしい、自分も可能な限りサポートするつもりだ、とグラーニアさんからメールがあった。
 ユピテルさんは静かな老後を過ごしたいと、アイルランドの方に居を移してから誰とも連絡を取っていないようだ。
 インドは拡大と同時に、ついに民主化を成し遂げ、イシャンは誇らしげだ。シャイヴァさんもパキスタンをインドが併合したため、インドに入ったらしい。
 スジャータさんはヴァイシャを失った悲しみから、旅に出て、音信不通となった。どこかでスジャータさんなりの幸せを過ごしてくれていると嬉しい。

 

 そして、安曇さんは、これまた分からない。というのも、戦いが終わって地上を見たところ、セラドンごといなくなっていたのだ。第三視点でも見つけられず……。ってあれ? そう言えば、セラドンって何だろう?
 クトゥルフ神話は新人類が生み出したものだから、旧人類製の擬似神性ではないはずだ。実際、マザデたる私の記憶にもあんな機体は覚えがない。
 だが、その一方で、マラカイトやラファエルのような新人類製とも違う。なにせあれはどう見ても完全なデウスエクスマキナなのだから。
 ……セラドンとは何だったのだろう?

 

 ひとまず、考えないことにしよう。

 

 そして、国の再編が進むにつれて、私はいろんな勢力から身柄を狙われる身となった。
 単なる勧誘であればいいが、拉致とかだと困る。いや、どうせ第三視点で避けられるんだけど。
 悩んだ末、インドで権力を得たイシャンを頼る事にした。
 今私がここにいることはイシャンしか知らない。
 そして、近いうちに私はここも去ることになる。私の痕跡はインドで途絶えている。ここにいられるのはもうすぐ限界のはずだった。
 イシャンは秘密を墓まで持っていってくれるだろうから、ここから行方を眩ませれば、そこで私という痕跡は完全に消せる計算になる。
「はい、これ約束のもの」
「お、ありがとな。これでインドは安泰だ」
「本当に作る気なの?」
「あぁ。インドを守るためには必要な事だ」
「本当に、やるつもりなの?」
「あぁ。もう残る障害はアイツだけなんだ。躊躇する理由はないさ」
イシャンはすっかり為政者になったと思う。私のことも匿うだけでなく、並行世界の知識を盗む手伝いをさせてちゃっかり益を得ている。
「あ、そうだ。出るなら明日のうちに出て、コトリの町まで行っとくといい。明後日は逃げるのに最適のコンディションだぜ」
 こういうところだ。すっかり抜け目がない。
 まぁ、イシャンとアレがあれば、インドは大丈夫だろう。
 私は去ることにする。アレが作られる以上、いつかきっとこの世界はまた混乱に巻き込まれるのだから。

 

 イシャンの警告通り、コトリで一晩を明かす。
 戦車のクローラーの音で目を覚ました。イギリス・ヨーロッパ連合の軍隊だ。
 イギリスを中心に再建したイギリス・ヨーロッパ連合は神秘の隠匿がルシフェル襲来前のルールであるとして、デウスエクスマキナ、通称DEMの封印を説いた。
 DEMの封印に否定的なインドに進軍してきているとは聞いていたが、こんなところまで来ていたのか。
 戦争。
 エンジェルダストの日まで行われていたのは、ルシフェルと人の戦争だった。
 その前には人類は二度も大きな戦争をしていて。
 そしてまた、人類は戦争を再開する。

 

 旧人類もそうだった。
 結局のところ、人は変わらないのだろう。
 私は軍隊の進軍と民衆の混乱に紛れ、歩き始める。

 

 ルシフェルを、旧人類を、全滅させて乗り越えた、新人類の行く末を見つめるために。

 

 カウカウと、空でカラスが鳴いていた。

 

End

 


 

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