CGO Side:クラウディ 第1章

  

「だ る い」
 さっきから同じ言葉ばかり呟いているような気がしないでもないが、あたしことPC名「クラウディ」、本名、南雲なぐも 翔子しょうこはそう呟かずにはいられなかった。
 とにかく、だるい。面倒くさい。なんであたしはこんなところでクエスト周回しているのだろう、と。
 それもこれもあの愛船ロストPKが発端、なんであたしの移動ルートが筒抜けだったのか。
 たまたま手に入れたレアアイテムが隠されている地図を使っての探索、アイテム入手後の移動中、あたしはならず者ローグの待ち伏せに遭い、あっさりとPKされてしまった。そのために愛船の貨物庫インベントリとあたしのポケットインベントリのアイテムと所持金は全ロス、というかPKしてきた奴の懐に入り、拠点で予備の装備を回収するまではめでたく素寒貧生活を送ることになってしまったのでした、ちゃんちゃん♪
 ……が、あたしのここ数日のCGOCentral Galaxy Onlineでの活動である。何がめでたくだよ全然めでたくないよ。不幸中の幸い、所持品はロストしても拠点で保管しているアイテムや資金はロストしないので拠点でリスポーンしてすぐに予備の装備を回収、預けていた資金である程度の探索には耐えられるだけのコンディションにすることができたけれどもそれなりに課金して購入した船がロストしたのは非常に辛い。船に関しては新規ユーザーや今回のあたしのように何らかの理由で愛船をロストしたユーザーに割り当てられる無料レンタルシップがあるけれども性能はお世辞にもいいとは言えない。高レベルのクエストを受けるにはそれなりに性能が高い船の方が楽だし成功率も高い。というわけで、あたしは新しい船を購入するために資金を集めている次第である。勿論、ゲーム内通貨や素材を課金して購入すれば手っ取り早い話だけどまた撃墜されてロストするのは怖いしそんなに潤沢な資金を持っているわけではないので課金は極力抑えたい、というのが本音。前の愛船にはそれなりに課金したのは事実だけどそれは期間限定イベントのクエストに参加したくて、だったので今そこまで参加したい期間限定イベントが発生していない状況で課金するのはちょっともったいないかな、と思う。
 あたしはこのゲームCGOではいろんな星にあるいろんなレアアイテムを収集するアイテムコレクターであり入手のためのクエストを楽しむトレジャーハンターでもある。自慢じゃないけど拠点を含むエリアでは割と名の通ったプレイヤーで、他のプレイヤーと船団を組んでクエストに挑むこともある。
 まぁ今回はソロだったところを狙われて……だけどね。
 それにしても暑い。夜になれば氷点下まで下がるから下手に薄着もできないし。
 でもあたしがこの砂漠の惑星、「ロストオアシス」にいるのにはちゃんとした理由がある。
 それはクエスト「デザート・アンビストマのステーキ天国」の周回。
 このクエスト、結構手間がかかるということで敬遠されがちなクエストの一つなんだけど報酬は結構おいしい。資金も船を造る素材もそれなりに手に入るんだけど敬遠される大きな理由が「気温の変化が激しくて辛い」「ポップするエネミーがだるくて辛い」「そもそも面倒くさくて辛い」といったもの。確かに報酬は少し減るけれども割とサクッと周回できるクエストが隣の星系にあるのでどちらかというと周回プレイヤーはそちらを選ぶ。
 それなのにあたしが敢えてこの面倒くさいクエストを周回する理由は。
 ……実はこれ、とあるレアアイテムを持ってたらすごく楽なんだよね。持ってたらデザート・アンビストマの捕獲は超絶ヌルゲーになるし寒暖差で移動が大変、というけどクエストの間に昼夜の時間経過を挟まない、つまり昼か夜に集中すれば温度関係の装備はクエスト中に切り替えなくてもいい。クエスト中の移動は確かにだるいけど実は人気の周回用クエストとあまり所要時間は変わらないし報酬はおいしい。
 とはいえこのクエストが楽になるレアアイテムの入手は本当に条件が厳しく、よほどのトレジャーハンターでないと入手は難しい。それをそんなに苦労せずに入手できたのはすごくラッキーだったしこれを所持した状態でPKされなかったのも運がいい。
 あたしって実は凄く運がいい方なんじゃ……と思ったのは確か、である。
 それでもやっぱり周回は面倒くさい。刺激が足りない。
 ふとメニューを開き、クエスト一覧を見る。
「あ、このクエストあと3回で100回踏破じゃん。じゃあ100回クリアしたらいったん休憩を挟むか」
 メニューを閉じ、あたしは灼熱の砂漠の移動を再開した。

 

 そして100回目のクエスト受注。
 100回も聞けばクエストの発注者の台詞はほぼ完璧に覚えている。
 あーはいはい、と適当に相槌を打ち、目の前に開いたウィンドウの「受注」をタップしようとして、あたしの手は止まった。
 見慣れた確認画面――クエストの概略と成功条件、失敗条件、備考が記載された――のはずなのに、妙な違和感を覚える。
 前回まで、こんな表記だったっけ?
 確認画面の備考欄に記載された「サブクエスト:竜の巣の秘宝の納品」という文字。
 かれこれ100回、厳密には99回受注していてこんなサブクエストは見たことがない。
 それに攻略wikiでもこんなサブクエストがあると記載されていない。
 え、もしかしてすっごくレアなサブクエスト発見? これwikiに書いた方がいい? でも出現条件分からないし……まさかクエスト受注100回目が条件とか? いや前にも実は出現してたけどスルーしてたとか?
 そんな考えがぐるぐると頭の中を回る。
 これはちょっと面白いかもしれない。サブクエスト達成報酬は「???」と記載されているので期待度も高い。たとえしょっぱかったとしてもこんなにレアなサブクエストを受注できただけでもラッキーかもしれない。
 だるいだるいと連呼していたけどこんなサプライズがあるとテンションも爆上がり。いいじゃん、やってやろうじゃん。wikiにも載ってないレアクエスト、他に何人受注したか知らないけど受けて損はない!
 クエスト受注のボタンをタップする。
 よし、クエストスタート!

 

「……で」
 マップと目の前の廃墟を見比べる。
 廃墟、というか崩れた神殿、みたいな建物が目の前にある。
 この廃墟はデザート・アンビストマのクエスト中に視界に入るものだったけれどもクエスト中、クエスト外に探索してもしょっぱい素材がいくつか手に入るだけだったので周回中はスルーしていた。
 ところが今回、サブクエストのターゲットマーカーはこの廃墟に立てられている。
 こんなレアクエストのためだけに作られたマップなのかなあ、と思いつつ、あたしは砂丘を滑り降り廃墟の前に立った。
 デザート・アンビストマのメインクエストはクリア条件を満たしてきたのであとはこのサブクエストを達成するだけ。今はこれが成功にせよ失敗にせよ終わったら休憩するつもりなのであまり気張らずに行こう、と思いつつもあたしは緊張していた。
 ふう、と息をつき廃墟に踏み込む。
 前に何度か踏み込んでいたからトラップやポップするエネミーの配置は大体把握している。そこにクエスト中限定のエネミーやらトラップが配置されるのはよくある話なので警戒は怠らない。その警戒通りいくつかのトラップを回避したりエネミーを後ろからバッサリ倒したり、クエスト遂行中に絶対に作動させなければいけないトラップを動かしてポップしたエネミーと戦闘したりしたもののそんなに苦労することなくあたしは廃墟の最奥に到着した。
 そこはだだっ広い部屋。奥に祭殿みたいなものと壁画があり、壁画にはドラゴンのレリーフが彫り込まれている。
 そして、祭壇には今までに表示されていなかったクエスト進行アイコンが表示されている。
 うーん、何かあるんじゃないかって思ってたけどまさかこんなサブクエストに使われていたとは。
 あたりに警戒し、祭壇のクエスト進行アイコンに触れる。
 直後、後ろでエネミーがポップした時のSEが再生され、唸り声が。
 あー……そういうパターンですか……
 振り返る。
 こういう時はこのレリーフの竜が湧くんですよね分かります。
 そしてボス戦ですよねー……凄く分かります。
 サブクエストの割にはつよーいんですよねー……これで死んだら落としたアイテム回収に行くの結構面倒なんですよねー……まさに初見殺し。
 ……と言いたいけど、今までいろんな場所でいろんなクエストを受けて来たあたし、その辺の抜かりはない! 多分。デザート・アンビストマのクエスト、一応戦闘あるし今回サブクエストでやばい可能性も考えてたからフル装備で来てる、負けたりなんかしない!
 グルルルル、とうめき声が聞こえる。
 あたしの目の前に出現した竜は、
「…………」
 あの、ですね。
 これ、竜で合ってる?
 と、言いたくなるような異形のクリーチャーがそこにいた。
 蝙蝠のような翼膜、ガリガリの胴体に鋭い槍のような先を持つ尻尾。
 竜と言われれば確かに竜かもしれないけれども、どっちかというと大昔に某ゲーム会社から発売されてたタイトルがゲームジャンルの名称にもなってるゲームに出てきたボスのような……あ、そのゲームは結構前に旧作品アーカイブレトロコンソールでプレイしたことある、うん、そいつ倒すの結構辛かったんだよな……
 と言いたくなるようなエネミーを前に、あたしは武者震いを隠せずにいた。
 いやぁ、なんだかんだ文句言ってるようだけど燃えるよこの展開。コンソールじゃなくてVRで、自分の手で戦えるんだよ? いや本人じゃなくて似てるだけなんだけどそれでも熱い! これもしかしてファンサービス??
 生きて帰ったら絶対wikiに書き込んでやる、これはあのゲームのファンなら絶対受注すべし!
 武器レーザー銃を構える。クリーチャーが吠える。
 それを合図に、あたしは床を蹴った。
 まずは数発、有効そうな場所に撃ち込んでみる。手ごたえはあまりない。
 同時にクリーチャーが尻尾を振り回し、それから鞭のように叩きつけてくる。
 なるほど、攻撃パターンの一つはこう来るか。振り回しは怖いけど叩きつけはもっと危険そうだから絶対に食らうわけにはいかない。
 続いて両手の爪の連撃。
 回避しきれずに数発引っかかれてしまうがこれは直撃さえしなければダメージはわずか。それでも連撃なので何回も引っかかれれば致命傷になりかねない。
 相手の攻撃を誘発させるための攻撃を行いながら、慎重に行動パターンを分析する。
 何しろwikiに掲載されていないクエストを初めてプレイしているのだ、ちょっとした油断が命取りになってしまう。
 CGOこのゲームの地上での戦闘は自分の身体能力プレイヤースキルと戦闘用スキルを組み合わせて行われる。戦闘用スキルはプレイヤーレベルの上昇で習得できるものとレベルアップや特定クエスト初回クリアで手に入るスキルポイントをスキルツリーに割り振って習得できるものがあり、プレイヤーの好みやプレイスタイルに応じてキャラクターを成長させることができるのが売りだと聞いている。
 あたしはトレジャーハンターをしている都合上宇宙戦よりも地上戦の方が多いので地上戦に有効な戦闘用スキルを多めに習得している。勿論、宇宙を探索することもあるので宇宙戦用のスキルもちゃんと習得はしているけど……あの「急接近して掘削ビーム、シールドがなくなったところをビームカノンでとどめ」とかPKに特化したスキルには全く対応できていなかったから次のスキル習得はもうちょっと宇宙戦で立ち回れるように考えなければ。それにしてもあのPKはひどいわ……逃げ切れると思ったのに使い捨ての追加ブースターとか持ち出されたら……ぐぬぬ。
 そんな雑念が過ったとき、クリーチャーの目が赤く光った。
「やば……っ!」
 咄嗟に横に跳ぶ。ついさっきまであたしがいた場所をクリーチャーの熱線ブレスが通過する。
 危ない。これは多分即死攻撃。でも予備動作として動きが一瞬止まり、目が赤く光るので回避はできる。
 しかし隙を見てはレーザー銃の攻撃を当ててはいるもののあまり効いているようには感じない。もしかして射撃耐性でもあるのだろうか。もしくは、エネルギー弾耐性か。
 となると、実弾で様子を見てみるしかない。それでダメなら近接攻撃。
 クリーチャーの攻撃のかわしながらあたしは装備をレーザー銃から実弾兵器のアサルトライフルに変更、手の中のレーザー銃が光になって収納され、代わりにアサルトライフルのずしりとした重みが両手に収まる。
 正直なところ、実弾兵器は光学兵器に比べて重いし弾もインベントリを圧迫するので敬遠したいところだけど光学兵器より基本的な威力が高いためエネルギーシールドや装甲で威力が減衰しにくく、反射もされない。そう言うとデメリットは重量とインベントリの圧縮、射程だけか、と思うかもしれないが、今回光学兵器ばかりを使っていた理由はもう一つある。
 それは、「基本的にこの惑星の原生生物クリーチャーは実弾兵器より光学兵器の方が有効」というものである。進化の過程設定上、この「ロストオアシス」の原生生物は見た目がウーパールーパーみたいなデザート・アンビストマをはじめとした多くの生物が鱗や甲殻を持たず、光学兵器が比較的効きやすくなっている。そのため、初見でなければ実弾兵器や弾足が遅く命中率が低いビーム兵器を持ち込むことはあまりない。それでもあたしが実弾兵器を持ち込んだのは未知のサブクエストに対応するためで、その対応は正解だったかもしれない。
 とにかく、光学兵器が効かないなら実弾兵器で。実際、鱗のような「装甲」を持つ敵には威力の高い実弾やビームの方が有効なことが多い。
 アサルトライフルでクリーチャーを攻撃する。
 お、怯みモーション。効いてる効いてる。
 さっきまでは「なんだよ痒いなー」程度の反応しか見せなかったクリーチャーが明らかにこちらに敵意を向ける。これがソロではなくてパーティープレイならヘイトを集めた、といったところだろうか。
 攻撃の精度が上がり、予備動作をしっかり見ないと避けきれない攻撃が増えてくる。
 途中、何度か回復剤を使用しながらあたしは攻撃を続けた。
 クリーチャーも時には宙に浮かんで熱線ブレスを連射したり急降下で掴みかかってくる。
 その急降下を、あたしは見誤った。
 鋭い爪に掴まれて、空中に持ち上げられる。
 やばい、これは壁に叩きつけられる。
 ぶん、とクリーチャーがあたしを壁に向かって投げつける。
「なんの!」
 咄嗟に腰に下げていたワイヤーガンを手に取り、天井に向けて発射する。
 天井に刺さったワイヤーを支点にぐるりと一回転し、クリーチャーの頭に渾身の蹴りを叩き込む!
 叫び声をあげながらクリーチャーが床にダウンする。
 うん、これは快感。これだけきれいに決まると嬉しいけど今は喜びに浸っている暇はない。
 床に降り、もがくクリーチャーの頭に狙いを定める。
「死にさらせやーーーー!!!!」
 ……うん、興奮してた。反省する。
 叫んでからそう思ったけどあたしの指はトリガーを完全に引いていた。
 フルオートで発射される弾丸。
 1マガジン撃ち切るころにはクリーチャーのHPは完全になくなり、無数の光のかけらとなって霧散した。
 何もなかったかのような沈黙が辺りを満たし。
「……よっしゃーーーーー!!!!」
 ガッツポーズをとりながら雄たけびを上げるあたしがその場にいた。
 叫んでから、我に返って辺りを見るもののこの辺りを探索するようなプレイヤーは滅多にいないので目撃者はいなかった。うん、いたらPKしたかも。
 誰もいないことを確認し、新たなエネミーがポップしないことも確認し、あたしはその場に座り込んだ。
「や、やったぁ~」
 目の前に表示されたバトルリザルトウィンドウをタップ、ドロップ品を確認する。
 竜の巣の秘宝、これがサブクエスト達成のための納品物か。
 ポケットインベントリに収納し、立ち上がってぱんぱんと膝の埃をはたく。
 さて、これでこのクエストでやるべきことは終わった。
 あとは納品所にメインクエスト、サブクエストの納品物を納品するだけ。
 このクエストは過疎ってるし、さっきから全く他のプレイヤーの気配も感じない、アイテムの横取りは多分ない、と信じて廃墟を出て宇宙港ターミナルに向かう。
 それにしても、あのボス……見た目が某ゲームのボスに結構似てたけどあいつ、確か宇宙海賊の一員だったよな、などと考えてしまう。その辺を考えると、実はあのボスは宇宙海賊の一員で「竜の巣の秘宝」を隠すためにあそこでスタンバっていた、という設定でもあったんだろうか。
 とすると倒してしまったことによって今後宇宙海賊に追われるクエストとか発生……しないよね……?
 ……ちょっと発生してほしい気もするけど。
 念のための警戒は怠らなかったものの、その警戒は必要なかったと言わんばかりに他のプレイヤーとは出会うことなく宇宙港にたどり着いた。
 宇宙港のクエスト端末にアクセスし、納品所を呼び出し、納品物を転送する。
【Congratulation!!】
 目の前のスクリーンにそう浮かび上がり、クエストリザルト画面が表示される。
 クエスト経験値、報酬の目録が表示され、受け取る。
 ……ん? 目録にサブクエスト達成の報酬がない?
 普通、サブクエストを達成したらクエストリザルト画面の目録に【サブクエスト報酬】という表示とともに報酬の明細が出るはず。それなのに、表示されない……?
 確かに報酬は「???」表記だったし……でもあのクリーチャー、結構強かったぞ? 報酬なし?
 少し気落ちしながら、あたしは報酬受領のボタンをタップした。
 さて、結構な時間CGOにログインしてたしちょっと休憩……
 と思ったのも束の間、あたしはクエストリザルト画面を凝視することになった。
 表示がおかしい。
 バグ、とかそんなのではない。見たこともない画面が表示されている。
【You got the piece!】
 欠片を取得?
 どういうこと、と思い画面をタップする。
【以下のアイテムを取得しました:秘密の欠片】
 秘密の欠片? なんだろう。
 スクリーンを閉じ、ポケットインベントリを開く。
 その1枠に、「それ」は格納されていた。
 秘密の欠片、いったいどんなアイテムなのか?
 タップして呼び出し、手に取る。
 欠片、と命名されたそれは何らかの記録デバイスのようで再生するとデータが浮かび上がったが用途も何も分からない。
 こんな面倒な思いをして入手したのがこの欠片、もしかして全部集めたら何かしらのオブジェクトになるのだろうか。よく見たらレア度最高Legendaryだし。
 とりあえず、これはロストしてはいけない、そんな気がする。
 欠片をポケットに戻し、あたしは駐機している仮の愛船レンタルシップを見上げた。
「……拠点まで襲われないことを祈るしかないよねえ……」
 先日のロストを思い出してそう呟いてしまう。
 それでも拠点まではワープを利用して移動する必要があるので最大限の注意で移動しなくては。
 この辺りでは見かけないけどレンタルシップ=初心者とみなして襲い掛かってくるPKもいるにはいるのでとにかくさっさと移動しよう。
 船に乗り込み、発進する。
 宇宙空間に出てレーダーを確認、うん、過疎地はいいね、誰もいない。
 航路設定、ハイパードライブ作動、ワープに突入。
 ハイパースペース移動中も警戒は怠れない。
 何らかの妨害が入ればワープが中断されることもある。
 緊張で操縦桿を握る手が汗ばむような錯覚を覚える。
 もう少し、もう少しで拠点のあるコロニーに到着する。
 何度も大きく息をつきながら、あたしはコロニー到着まで何も起こらないことを祈り続けていた。

 

 そんな祈りが届いたのか。
 思っていた以上にあっけなく、何事もなくあたしは拠点に帰還してしまった。
 あの時の待ち伏せは何だったのか。
 まぁ、確かにあんな過疎地の過疎クエストを周回してると聞いてわざわざ追い剥ぐプレイヤーもいない、ということかな、と自分に言い聞かせる。
 そもそもあのサブクエストはwikiにも載っていない、もしかすると認知すらされていないもの。あたしと一緒にあの現場にいなければクエスト発生を知ることもないだろう。
 ほっとして、あたしは「秘密の欠片」を保管庫に移動させた。
 拠点マイルームは他プレイヤー不可侵のエリア、大切な物はここに保管しておけばまず奪われることはない。今まで集めてきたお宝は殆どここで保管している。
 一番緊張する時間は終わったし、いい加減ログアウトして休憩しよう。
 メニューを呼び出し、「ログアウト」を選択したあたしの姿は、拠点からふっと掻き消えた。

 

◆◇◆   ◆◇◆

 

「つーかーれーたー」
 SHMDを頭から外し、大きく伸びをする。
 CGOはSHMDとN-チョーカーを装着することでフルダイブするVRMMO、没入感が凄いのでついつい長時間ログインし続けてしまう。
 時計を見ると軽く数時間は経過していて、そろそろ夕飯の準備をしなければデリバリーピザを頼むことになりそうだった。
 先に簡単に夕飯の下ごしらえをして、それからシャワーを浴びようとバスルームに向かう。
「……あ、wiki……」
 あのサブクエスト情報を登録しておかないと、と思い、PCに向かい直そうかと一瞬迷ったものの、疲れていたあたしはシャワーを優先することにした。
 あのアイテム、一体何なんだろうか。
 未鑑定アイテムでもないし、なんとなくだけどとんでもない秘密を抱え込んでいるような気もする。
 誰かに自慢したい気もしたけど、何故かそれも危険だという思いが過っていく。
 あれ、あたしってこんなに慎重だったっけ。
 まぁいいや、とにかくシャワーを浴びよう。
 緊張のせいか、シャツが汗ばんで張り付いて気持ち悪い。
 籠にぽぽいと洗濯物を投げ込み、バスルームに入る。
「あー……」
 体にかかる熱い水滴が気持ちいい。
 それにしても。
「なんかとんでもないものを手に入れた気がするのよねー」
 とんでもないものを手に入れた、それはなんとなく分かる。
 でも用途、本来の姿、どちらも全くわからない。
 となると情報屋に聞いてみるしかないのかなあ、という結論に至ってしまう。
 よほど信頼できる情報屋、ねえ……
 ……あいつ、か。
 一人だけ、心当たりがあった。
 それじゃあ、あいつに相談するか。
 その前に、CGOの歴史編纂ギルド"ギャラペディア"になんか凄くレアな宇宙シャチの情報が更新されたらしい、まだスクショも撮られていなかったレアモノだ。確認しておかないと。 そう思って体を拭きながらバスルームを出たあたしの視界に入ったのは、「新着メールあり」のデスクトップだった。

 

To be Continued...

第2章へ

 


 

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