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未来を探して 第3章

by:tipa08 

 規則正しく並んだ大量の白線が虚空に消え、大量の閃光を産み出す。
 その直後に出された指示に基づき、大艦隊の一部が一斉に突撃を開始し、空母からは艦載機が発艦する。
 敵艦隊は突撃を受け止めるように展開しようとするが、艦載機隊がその行動を抑制する。
 陣形の組み換えが出来ぬまま、突撃を正面から受け止めた敵艦隊は大きな被害を受け、陣形が崩れ、散発的な反撃しかできぬ状態となった。
 残存艦にむけて、高速艦を中心に編成された騎兵隊と呼ばれる部隊が突入し、敵の混乱に拍車をかける。
 撤退しようとした敵艦には艦載機隊が喰らい付き、多くの敵艦を火の玉へと変えた。
「敵艦隊壊滅。こちらの被害を集計します」
 GUF第一主力艦隊旗艦〝ウォースレーヤ〟の艦内にある艦隊司令部にオペレーターの声が響く。
「敵生産拠点の状況は?」
 艦隊の指揮官である、ウォーレン中将が作戦目標である無人戦闘兵器を大量に送り出す自動工場についての報告を求める。
「防衛システムは8割を無力化、現在海兵コマンドが上陸地点を確保中」
 モニターの一つに敵ドックに突入するラルコースの編隊が映し出される。
「あとは海兵隊の仕事だな。機械兵団の連中もこれでしばらく落ち着けばいいが」
 かつての宇宙大帝国の戦闘兵器として作られたという、製造・材料の調達までもが自動化されている機械兵団は、人間との遭遇以来の脅威である。現在では圧倒的な質的優位を獲得しさほどの脅威ではないが、ほぼ同等だった過去では恐ろしい脅威であった。
 現代でも、小規模な艦隊が探知を逃れ、民間の航路が襲撃されるという事が起こっており、未だ脅威であった。
「伏兵、および増援に警戒」
 中将は艦隊に指示を出しつつ、イスに深く座りなおす。
「ウォーレン中将。お疲れ様です」
 落ち着くのを待ち構えていたように一人の将校が中将に敬礼をする。
「どうした?」
「例の件、報告が来ましたのでお知らせしようかと」
 将校は携帯端末を取り出し、操作する。
 中将も端末を起動させ、将校から送信された情報を確認する。
「ああ、この件か。簡潔な報告を頼めるか?」
 タイトルから内容を察すると端末を閉じ、ポケットに戻す。
「まずSBの件ですが、怪しいため調査を継続。CEの方は尻尾を掴めませんでした」
 機密の内容であるから、将校は暗号で内容を示す。
「残念だな。状況が動く前に対応したいが」
 中将は顎に少し蓄えられている髭をなでる。
「それと、サーミルの活動が活発になりつつあるようです」
 将校は尋ねられていた情報に加え、報告を行う。
「戦力をここに集結させている今、動かれると厄介だな」
 この自動工場制圧戦は第一主力艦隊を中核に各地の艦隊から抽出された戦力で構築されており、抽出された各地の警戒は少し緩んでいる。
 その隙を宇宙生物サーミルに突かれ、大規模な侵入を許せば、被害は不可避である。
「後方の予備部隊を解散させ、民間航路の警戒に当てよう」
 増援の様子は無く、制圧も着々と進んでいる現状をみて、中将はそう判断し、命令を出した。その指示を受け、後方の予備部隊は数多の航路に向けて移動を開始した。
 モニターに表示されていた後方の予備部隊についての情報が次々と変化する。その目まぐるしい変化を見ながら中将は艦内宇宙服ごしに胸のワッペンを撫でた。
「安定は遠いな」
 そう呟きながら見つめたモニターに、航路の警戒に向かう艦隊のワープが映し出された。

 

= = = =

 

 書類偽造によって、民間船舶として〝チハヤ〟〝ワカミヤ〟は悠々と民間航路を航行していた。
 デブリの多い地帯であったから、多少無理してでも、定期的に清掃される民間航路の方が安全なのであった。
 この〝アドボラ〟の艦艇達は、それぞれ予定していた作戦を終え、合流し帰路についていた。
「スミス君はどうだった?」
 合流するなり、〝チハヤ〟に飛んできたミアが呑気にスミスに尋ねる。
「大型の戦闘ロボットと戦ってました」
 〝チハヤ〟はある少数種族の暮らす惑星の表面で起動した、無人大型戦闘ロボットを撃破するという作戦に就いていた。
 その兵器はかつて、反政府武装組織が宇宙から都市部に降下し都市を破壊し尽くす事を目的に開発したものであったが、計画の頓挫によって、その惑星に隠蔽され保管されていた。その反政府組織自体が崩壊し、忘れられそのまま朽ちるはずだったが、何らかのきっかけで起動してしまい破壊活動を始めた。これに対し対応するべき現地軍はこの機会に少数種族が滅ぼされてしまえとまともな攻撃を行わず、その上、惑星の通信を妨害し、GUF等の他の武装組織への通報を遮った。
 そこでその情報を掴んだ〝アドボラ〟が撃破に向かうことになったのだ。
「しかし、GUF以外に軍ってあったんですね」
 スミスの住んでいたサレリアにはGUF以外の軍はいなかったため、少し意外であった。
「そうだよー、結構な国が持ってるねー」
 GUFの主任務は外宇宙からの脅威の対応であり、惑星内の警戒というのは副次的な任務となるため、その穴埋めの軍隊として国家軍が編成される場合もある。
 それにGUFは巨大な組織であるから、なかなか融通が利かないという事も大きい。
「最近はコストが高いからとPMCに警備関係は委託する国家も多いらしい」
 ギリアがサルフィンの予備部品を確認しながら言う。
「そうなんですか」
 スミスは、国家ではないが、世界樹のある惑星も初めて実戦を経験した〝アーニグ〟もPMCが警備していた事を思い出す。
「PMCのシェアも大きくなってるもんだなあ。俺がいた頃は全然だったぞ」
 ファースパイがスナック菓子を食べながら話に加わる。
「それはファースの会社の規模が小さかったんだろう」
 ギリアはファースパイの持つスナック菓子を一掴み分取ると、口に入れる。
「そりゃそうか。さて、機体の整備でもするかー」
 そう言いながら、中身の残ったスナック菓子をスミスに投げる。少し中身が出てしまったがスミスはそれを受け止めた。
 スミスは落ちた中身を拾って、ダストシュートは何処だったかと見まわしているうちに、ミアが袋を手に取って中身を食べだしていた。
「うん、やっぱりおいしい」
 スミスはそれを見ながら、見つけたダストシュートに落ちたスナックを入れ、それから元の場所に戻るとミアがスミスに袋を手渡してきたので、中身を食べた。
「おいしいです」
 スミスが正直に感想を口にすると、愛機の整備をするファースパイが声を出す。
「だろ、お気に入りなんだ」
 スミスがそう言われて袋をよく見ると、デザインは似ていたが有名なブランドでは無かった。
「なんかの機会に見つけたら、俺に教えるか買っといてくれよ」
 そう言い残すと、ファースパイはコクピットの中に入り、機体機能の点検を始めた。
 そんなゆったりとした時間は艦内通信のベルの音で中断された。
「こちら航空機整備甲板」
 近くにいたギリアが受話器を取る。
「前方に不審な熱源? 了解した」
 ギリアは、艦橋からの報告を聞くと、受話器を手で押さえながらスミスとミアに声をかける。
「ミア、マミヤ君。前方の不審熱源の調査を頼む」
 その指示を受けた二人は、素早くフェアリースーツを装備する。
 慣れてきたスミスであったが、流石にまだミアには勝てず、先に装備を終えたミアが先に艦外に出て、それを追うようにスミスも宇宙に飛び出した。
「あれかな?」
 先行するミアは漂う何かの外壁の一部のように見える人工物の残骸を指さす。
『はい、その裏か向こうに熱源があります』
 スミスが試しに、スーツに内蔵された赤外線センサーを起動させると、たしかにその裏側に僅かな熱が検知されていた。
「りょーかい、回り込むよ」
 二人はファアリーガンを構えながら、その人工物の裏側を視認できる位置に移動した。
 裏側にあったのは、生き物のような、機械のような不思議な物であった。
「サーミルの死骸があるよ。でも古いから熱源じゃないかな?」
 ミアが状況を報告する。スミスはその報告を聞いて、驚く。
「これが…、サーミル?」
 一部がミイラ化している、ボロボロの姿を見ても、いまいち実感の湧かないスミスが少し止まっているうちにミアがサーミルの死骸に近づき、調査する。
「あー、あった。何かの補助電力装置だね」
 ミアはサーミルの死骸の下にあった機械を確認し、それが熱源である事を突き止めた。
「つまり熱源は敵の反応じゃないね。戻るよ」
『はい、帰還してください』
 熱源が危険物では無かった以上、特に残る理由はない。そのため、帰還の申請はすぐに受理された。
「スミス君、これがサーミルだよ。大分ボロボロだけど」
 ミアはスミスに近寄るとそう発言した。
「この力の元、ですか」
 そう呟きながら、スミスは手に粒子を少し纏わせる。
「だね、さて帰ろうか」
 ミアが言い、〝チハヤ〟に進路を取る。そのとき、ミアがいきなり声を上げる。
「スミス君! 上!」
 ミアが出した警告を受け、スミスは急加速し、その場を離れる。
 すると、数本の光が先程までスミスがいた地点を通過する。
『攻撃探知! 上方よりサーミル数体』
 通信手は突然の攻撃に驚き、声色が変化するがすぐにいつもの冷静な声に戻る。
「あれがサーミル……」
 実際生きている実物は、先程の死骸と違い現実の出来事であると実感させ、スミスは再び驚きの声を上げた。
「密集隊形! 〝チハヤ〟に戻るよ!」
 ミアが自分の背中と、スミスの背中に引っ付くほど接近し、死角を互いにカバーできる状態を整え、サーミルに向けてフェアリーガンを放つ。
 しかし、その粒子弾はサーミルに直撃する前に進路を変えてしまい、命中しなかった。
「うへ、操作能力高い」
 ミアの粒子弾はかなりの出力を持っているが、サーミルの粒子操作能力はその粒子弾の進行方向を変える、つまり粒子弾を偏向することで、命中を防ぐことが可能である。
 〝チハヤ〟〝ワカミヤ〟の粒子砲もミアの粒子弾と同等程度の出力であるから、その二艦から放たれた粒子砲も次々と逸らされる。
「あれくらいできるようになりたいねえ」
 呑気に言いながらミアは最大出力で粒子弾を放つ。出力を高めることに集中した結果、狙いが甘く、狙われたサーミルはその粒子弾を偏向するまでもなく回避する。
 スミスの粒子弾は出力が低く、サーミルに当たらない。しかし、牽制の役割は果たしているらしく、なかなかこちらに対して攻撃を仕掛けて来ない。
 サーミルの粒子弾偏向は、粒子操作能力の多くを割かなければならず、攻撃も粒子操作に依存するため、多くの個体が防御と攻撃を同時に行えない。
 そのため、防御策として、有効でない粒子砲でも射撃を続けるという事はGUF等でも推奨されている。
『粒子砲が冷却で使えなくなる、その間は二人で支えてくれるか?』
 ギリアが二人に指示を出す。
「りょーかい、でも流石に無理かなあ」
 二人は〝チハヤ〟の上部に着地し、素早く粒子ポートに接続し砲台としてサーミルにむけて次々とフェアリーガンを放った。
 しかし、〝チハヤ〟の粒子砲が欠けた事により、余裕のできたサーミル達は、粒子弾を形成し、攻撃を行う。
 それらの攻撃は〝チハヤ〟に直撃する。〝チハヤ〟の装甲には熱変換装甲が採用されているため、粒子弾であれば、熱エネルギーに変換する事で防御することが出来るため、表面上でわかる変化は起こらなかった。
『装甲冷却装置稼働率52%。次同じ攻撃を受ければ危険な状態に陥ります』
 当然ながら置換された熱はどんどん蓄積される。熱が溜まりすぎれば装甲が溶解し、艦は崩壊する。
「攻撃を撃たせるなってのは無理だよー。こっちも手一杯!」
 スミスとミアの二人は必至で弾幕を形成していたが、明らかに手が足りていなかった。
 〝チハヤ〟〝ワカミヤ〟の艦載機、艦載艇も出撃する準備を始めていたが、〝チハヤ〟に対して次の攻撃が行われるまでに間に合いそうでは無かった。
 そんな時だった。〝アドボラ〟部隊の進行方向より、多数の光線が来襲し、サーミル数体に直撃し、撃破する。
『こちら、GUF第56宙雷戦隊旗艦〝エイプリル〟。前方の商船、無事か?』
 非常用の無線周波数にて、砲撃を続行しながら〝エイプリル〟が呼びかける。
 それを聞いたミアが素早く行動を起こす。
「スミス君。すぐ艦内に!」
 ミアはポートとの接続を解除し、スミスの方に飛ぶ。
「GUFに調べられるとね」
 書類を偽装しているため、直視されれば、違和感を覚えられ臨検される可能性が高い、そういう判断であった。
 指示と意図を了解し、スミスも素早く行動に移し、少し粒子を抑え気味に艦内へと移動した。
 艦隊の砲撃によって被害を受けたサーミルは、動かなくなった仲間を引っ張り、傷ついた仲間を庇うようにして撤退していく。
「こちらミア。スミス君も艦内にもどったよ」
 スミスが航空機整備甲板に着地し、ハッチとシャッターが下ろされ、開口部が閉鎖され、艦内放送が響き渡る。
『短距離ワープを行う! 総員手近な椅子に着席!』
 その指示と共に離れられない作業についていた者たちが一斉に椅子に向かって移動し、しっかりと体を固定する。
 攻撃の危機が去ったため、ワープの障害になる可能性のあるものは少なく、逃走手段としてワープを選択した〝アドボラ〟の二隻は、GUFの艦隊から逃げるようにワープを開始し、この宙域を離脱した。

 

「商船二隻、ワープ」
「短距離です。位置を特定しますか?」
 アレン・M・サマナー級〝エイプリル〟のCICにレーダー手の声が響く。
「我々を見て逃げたのだ、特定しろ」
 第56宙雷戦隊の司令官を務める将校が指示を出す。
「追撃しますか?」
 〝エイプリル〟の艦長が司令官に尋ねる。
「通商防衛の任務は継続せねばならん。特定した座標は司令部に送る」
 足で音を立てながら司令官が返答する。
「了解しました」
 そう返事をしてから、艦長は少し肩をすくめた。決戦に参加しながら、戦闘の機会を得られず途中で通常任務への復帰を命じられた事への不満は理解できるものであったが、こうも表出されると少し困ってしまう。
「特定しました。座標を司令部に転送します」
「ああ、警戒に復帰しよう」
 しかし、判断は冷静なままであったから、艦長も気にせずに指揮に集中する。それだけの付き合いはある二人であった。
「戦闘状態解除。展開式放熱板展開」
 〝エイプリル〟は戦闘で蓄積された熱を逃がすため放熱板を展開し、艦隊は警戒の為に陣形を組みなおし、航路の防衛のための警戒航行に戻った。

 

= = = =

 

 戦闘に続き、ワープまで行った〝チハヤ〟〝ワカミヤ〟の両艦は大きく傷ついていた。
 戦闘の傷というよりは、無理をしたことによるシステムの損傷、特に排熱系のシステムが不調で普段は適温に管理されている艦内が暑くなるほどの状態であった。
「駄目です。治りそうにないですね」
 スミスがフェアリースーツを着た状態で外部の放熱板を確認しつつ報告する。
『そこも駄目か。補給せずに長距離の航行は不可能だな』
 ギリアがぼやくように返答する。
『仕方ない、補給に寄れそうな惑星を探す』
 〝アドボラ〟が補給を得るのは中々難易度の高い事であった。普段ならもう少し容易なのだが、損傷艦というのは目立ち、容易に補足されるし臨検もされやすい。
『〝バリエド〟が近いようですが』
『〝バリエド〟か、悪くない選択肢だが……』
 艦橋内で寄港地についての相談が始まる。
「〝バリエド〟?」
 艦橋内での会話を拾っていたスミスが反応する。
『スミス君は戻ってくれ、〝バリエド〟の説明もしよう』
 ギリアの声に従い、スミスは艦内に戻るために移動を開始する。なぜか行き先に良い事がある予感を覚えながら。

 

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