• CGO Side:十三・カーク
  • 第1章

CGO Side:十三・カーク 第1章

  

 無数の緑やらピンクの光の筋が向こうに飛んでいき、逆に無数の赤い光の筋がこちらに飛んでくる。
 この様子を側面から見ればさぞかし綺麗な光の奔流が見られるだろう。
 だが残念ながら俺は当事者なのでそんな文学的なことは言っていられない。
「旗艦から突撃命令です」
「よし、両翼の突撃だな。USS ホーネット、全速前進!」
 俺の指示を副官が復唱し、俺の艦が急加速を始める。レーダーを見れば、俺を含む左翼を務める艦艇が一斉に前進していると分かる。
「敵、命中圏内!」
「全砲門開け! 目標は艦隊前衛の防御艦群!」
 USS ホーネットの最大の武器に当たる高出力レーザーフェーザーを順次発射させる。
 俺の周囲の味方艦も同様に攻撃を始める、
「旗艦より通信。これよりネェル・シッダーンタによる超高出力ビームハイパーメガ粒子砲を発射する。各艦は中央ラインより離脱せよ」
「よし来た。USS ホーネット、大きく取り舵! ただし攻撃の手は緩めるな! 側面の副砲を浴びせてやれ!」
 USS ホーネットが大きく進路を変え、艦橋から見える景色が一気に変わる。
 直後、甲高い独特の発射音が響き、USS ホーネットの側面に搭載された粒子砲であるショックカノンが放たれたことが伝わる。
 さらに直後、完全に反対を向いているにも関わらず艦橋にも見えるほどのピンクの光が発生し、ネェル・シッダーンタによる攻撃が行われたことが伝わる。
「旗艦より通達。敵中央部の防衛陣は完全に総崩れとなった。本隊はこれより中央を突貫する。両翼部隊は予定通り、左右から挟撃せよ」
「よおし、ここまま加速。敵防衛艦隊を大きく迂回し、後方の敵要塞の側面を突く! ショックカノン砲撃止め、そのエネルギーはシールドと推進に回せ」
 敵艦艇から赤いビームがバンバン飛んでくる。突撃戦術を敢行した都合上、向こうからの命中率もかなりのものだ。
 だが、俺のUSS ホーネット含め左翼の艦隊は現状ほぼ無傷。データを見る限り右翼も同様。
 これなら、今日こそは……!
「緊急連絡! 旗艦アース、撃沈さる!」
「なんだと!?」
 レーダーを確認すると、突貫した先頭の防御特化艦艇は無事だ。
「どういうことだ?」
「旗艦代理より通達。作戦は失敗。これ以上の艦艇消耗は避けるべし。撤退せよ」
「くそ、まじかよ。大きく面舵! 戦線を離脱する。シールドへのエネルギーを段階的にカットして、その分速度に回していけ」
 近距離のうちは敵の攻撃の命中率が高いからシールドは必須だが、距離を取れば取るほど命中率は下がり威力は減衰する。だからある程度を越えるとシールドより速度をあげてさっさと離れた方が却って安心なのだ。
「前方にワープアウト反応! ヴァーテックスです!」
「退路を塞いできた!?」
 前方に出現した艦隊が一斉に赤い光の筋を放つ。回避しなければ! しかし、こちらはむしろその艦隊に向けて全力で進んでいるところであり、しかも、シールドは止まっている。
 艦橋のモニター一杯に赤い光が溢れ。
 そして、俺は相棒であるUSS ホーネットと共に死ぬのだった。
 ――あぁ、自分の艦と共に死ねて、幸福だ
 幸福感に身を任せ、目を瞑る。

 

 幸福感を十分に堪能したのち、まぶたを開ける。
【あなたは死んだ

 

->回収を待つ
 母港に戻る(経験値ペナルティがつきます)
 最寄りの宇宙港に戻る(経験値ペナルティと輸送手数料がかかります】
 おそらく回収部隊はここまで来れないだろう。俺は悩んだ末、「母港に戻る」を選ぶ。 

 

 ロード時間中なので、暇つぶしに自己紹介でもしよう。
 俺のアバター名は十三じゅうぞう・カーク。これは俺が大好きな宇宙モノの作品の艦長二人から取ってる。
 って言ったら気付いたかもな。USS ホーネットと主砲の名前はカークの元ネタの作品から、副砲の名前は十三の元ネタの作品から、それぞれ取ってるんだ。
 本当は艦載機とかも載せたいんだが、USS ホーネットは戦艦クラスだからな……。
 まぁ、そんな憧れの艦長二人の名前を冠した俺は、当然、たくさんのクルーの乗る宇宙船の艦長をやりたかった。
 そして今や宇宙モノ大好き達が集まるこのギルドの主力艦一つの艦長を任せられるほどの立場ってわけだ。いやー、これまで長かったなー。

 

【母港:[独立連合艦隊]マザーベースに帰還しました】
 画面が変化する。
【[ギルド]オリヴィア>反省会をやる。艦長組は会議室1へ来い】
 ギルドのリーダーからのお達しだ。リーダーは54年の再来と呼ばれる作品群の一つである『鉄血福祉』のセントラルアースの大ファンで、旗艦の名前「アース」はこのセントラルアースの旗艦の名前から取ってるし、アバター名のオリヴィアも『鉄血福祉』のセントラルアース側の主人公の名前だ。だがギルド名はセントラルアースではなく「独立連合艦隊」だ。ちなみに文字の上では「独連艦」なんて略される。
 と、考えながら歩いているうちに会議室に到着した。
「お待たせしました、十三・カーク、到着しました」
「おう、沖田おきた、今回もお疲れさん」
「沖田じゃなくて十三ですってば……」
「と、そうだったな、すまん。他のやつはまだ来てない。まぁ、とりあえず座っとけ」
 リーダーは十三艦長のことをずっと苗字の方だけで認識していたらしく、俺の事もずっと苗字の方で呼んでくる。いつも指摘すると謝ってはくれるが、治りはしない。
 リーダーはオリヴィアの名前の通り金髪の女性なのだが、プレイヤーは男性らしくボイスチャットで聞こえてくるのは当然男性の声だ。VRのマルチゲームではもうすっかり慣れた光景だが、リーダーが勧誘活動でVR初心者に声をかけると、だいたいギョッとされる。まだまだSHMDとN-チョーカーも普及率はまだまだってところか。CGOも全体の半分以上はディスプレイだけのプレイヤーらしいしな。
「よう、13じゅうさん、お前が最初に来てたのか」
「十三ですってば。俺が最初にやられたみたいな言い方はやめてください」
「だな、最初に落ちたのは俺のネェル・シッダーンタだ」
「まぁ、お前の船、シールドないもんな」
「起動戦士シリーズ……少なくともββダブルベータやペガサスにはエネルギーのシールドを使うような艦艇は出てこないもんな」
 わらわらと艦長たちがやってきて、一気に会議室が賑やかになる。


 会話内容を聞いてわかったかもしれないが、何を隠そううちのギルドはそういう宇宙もの大好きによる集団なのだ。
 ちなみにもう一つ変わった点としては、これだけの船団でかつ戦闘好きでありながら、PvPはかなり控えめ、と言う点だ。
 ならどこで戦闘を楽しむのか。
 その答えは『グランドクエスト』だ。
 かなり自由度が高く、多くのプレイヤーが単なる輸送やら、海賊行為や警察行為、そして探検など好きに遊んでいるが、実は、ちゃんとグランドクエストが存在する。
 この中央銀河セントラルギャラクシーの侵略を目論み襲ってくるヴァーテックスと呼ばれる異なる銀河からの侵略者を撃退すると言うストーリーになっており、一応MMOのメインストーリーらしくチュートリアルを兼ねていて、最初の実戦のチュートリアルはヴァーテックスの偵察機との戦闘になっている。
 が、だいたいのプレイヤーはその辺でこのゲームの全容は掴んだ、と概ね自分のやりたい事を始める。
 実際攻略wikiにもチュートリアル風なクエスト以降の詳細はほとんど書かれておらず、今俺たちが挑んでいるクエストに至っては、もはやwikiにクエスト名すら載っていない。
 とはいえ、それには理由がある。まず、ヴァーテックスはMOBの中でも極端に倒した時の実入りが少ない。その割にヴァーテックスはとにかく数が多いし強い。特に後者は重要で要はギルド単位での攻略を求めているくせに、前者の理由でギルドとしては恩恵が少ないのだ。
 ちなみに実入りが少ないのはヴァーテックスの宇宙船がすべて持っている形而上退避機能とやらで、ほとんどの残骸が形而上の世界へ逃れるから、とストーリーでは語られている。形而上の世界ってのは良くわからないが、普段のヴァーテックスの転移も形而上の世界から行われているらしく、次元の狭間みたいなところなんじゃないか、とリーダーは推測しているらしい。なもんで、波動砲みたいなものがあれば退避を阻止してもっとたくさんのパーツを集められるんじゃないか、なんて考えているらしいが。運営がそこまで考えているかは謎だ。

 

「はぁ、まぁしかし、派手に負けたな」
 艦長たちからの報告を全て聞き終えて、リーダーが頭を抱える。
「あぁ。まさか撤退しようとすると追撃をかけてくるとは」
 俺の艦が所属していた左翼艦隊の隊長が応じる。
「しかも敵の艦隊中央に位置する旗艦が使ってきたのはこれまでに見たことのないゲロビだった」
 ゲロビとはゲロビームの略で、極太のビームのことだ。起動戦士シリーズの初代、ダビデ要塞の戦いで大きな敵として立ちふさがってきた巨大兵器を、起動戦士シリーズの対戦ゲームで地上面で使うと、まるでゲロを吐くように下に向かって口から巨大なビームを放つ事からその名前がついたらしい。
「あぁ、そうそう。あれこそ波動砲のような気がしたものだったぞ、沖田。あれはお前は絶対に見るべきだったな」
 突然リーダーが顔を上げて俺の方を見る。まぁ宇宙戦艦ムサシ好きはほとんと火力重視のシールド持ちだから中央組で、違うのは宇宙大紛争を兼ねてる俺くらいだもんな。確かに見ることが出来なかったのは悔しい。だが、
「十三ですってば」


「ま、結局の所、まずは艦隊を再建するしか無いな。しばらくは各自でお金稼ぎだ。手段は任せる。ギルド単位で挑めそうでうまい話があったらもってこい、メンバーを編成する。もちろん、勝手に仲間内で集まっても良いけどな。一週間後に成果を確認しよう。もちろん、多くギルドに貢献したものはそれだけ評価する。これは今すぐにギルド全体に通達する。以上」
 あれ、結局中央を突貫した艦艇の撃沈理由は? 防御艦が無事だった以上、ゲロビの類とは考えられない。そこに、メールの着信通知が届く。今の内容だろう。質問はまた次の会議の時、だな。
 直後、一斉に艦長たちが会議室を飛び出す。もちろん、俺もだ。見れば、他の休憩室などからも沢山の人が飛び出していく。
 全員が向かうのは当然、ドッグ。そして各自が自分の船に乗り込んでいく。
AUTO LAUNCH自動発進
【USS フレッチャー発進申請中……】
 これが俺の私有してる宇宙船、USS フレッチャー。ホーネットのような高出力レーザーはないが、その代わりに粒子砲を多めに積んでいる。
【AUTO LAUNCH】
【発進待機中】
 多くの艦艇が発進待機してるわけだから結構待つことになりそうだ。ちょっとSHMDを外して待っても良いかもしれん。
AUTO LAUNCH -disable-無効化
【衝突警告▶】
「うえっ」
 俺のUSS フレッチャーはコロニーの中心軸部分の円筒状の空間にいて、外に出る順番待ちをしているんだが、どうやら、自動発進モードを解除して強引に外に出ようとしているやつがいるらしい。衝突警告の方向は右か。左に回避する。
 すると、左の方にいた他の宇宙船も順次回避を始め、円筒状の空間の中はカオスに突入する。
 そんなことは知らぬとばかりに俺のすぐ真右を通り過ぎていく現代戦闘機のような流線型のシルエットの宇宙船。
「キースが管制を無視して発進しようとしてる!」
「なんだと、キースめ、それじゃキースじゃなくて7のチャンプじゃないか。キースなら大型の敵にでも挟まってろ」
 俺が通信で警告すると、なんのネタか分からないがキースの元ネタと関連するらしい罵倒のようなものが聞こえてきた。
 とはいえ、ギルドの全員が我先にと発進しようとするのには理由がある。
 要は、うちのギルドは徹底した実力主義、結果主義なのだ。例えば今回なら、お金を稼げば稼ぐほど高い評価が得られる。高い評価がされるってことは、次の作戦においてそれだけ良い役目をもらえるってことになる。
 これは様々な趣味を持つ人が集まったギルドなので、人事判断基準に「○○は邪道」などのような個人的思想が混じらないように設定された仕組みでリーダーでさえ、最も高い貢献度を誇っているからリーダーであるに過ぎないという徹底した仕組みである。
 当然、俺はUSS ホーネットの艦長であり続けたいので、やっぱり頑張らねばならない。そう考えるとあの戦闘機好き野郎に負けるわけには行かない。
「いくぜ、USS フレッチャー、最大出力だ」
 キースに続くぜ、手動発進だ! しかしキースに感化された人間は、やはりというか俺一人ではなかった。
【   ▲  】
【◀衝突警告▶】
【   ▼  】
 やばいやばいやばい。
 ゴウン、という音を立てて、コックピットから見える視界が外ではなく、円筒状の壁の一部に移り変わる。まずい、回転してる。
 操縦桿を引いて戻して、姿勢を戻そうとするが、なにせ似たような状態の宇宙船がこの変一体で団子になっているわけで、姿勢を戻そうとしてはぶつかり、姿勢を戻そうとしてはぶつかり。
 結局、キース以降に宇宙船がマザーベースから発進できたのはそれから実に30分も後のことになった。一番の元凶のくせに自分だけはちゃっかり発進できて、ずるいぞ。
 まぁ、一番気の毒なのは真面目に待ってたのにさらに発進が遅れた人たちだけどな。

 

 さて、これだけ遅れるとこの周辺の主だったクエストや狩場は大渋滞だろうな。ちょっと離れた場所……。とりあえず、適当に当たりをつけてジャンプさせといて、ジャンプを待っている間にwikiで調べてみるか。
「えーっと、とりあえず、この辺一帯百光年辺りは避けて……5百光年ほど先のステーションは、と」
【検索結果:500Light year AND station】
「よし、この中で人口が少なめの。ここにするか。ナビゲートをセット」
【ステーション:Nakariをナビゲーションターゲットに設定しました】
「ルート設定して、自動航行システムを起動、と」
【AUTO NAVIGATION】
 USS フレッチャーがNakariに向かうために中継しなければならない次の星系に方向を転換し、ジャンプを開始する。
「ふぅ」
 SHMDを外す。目の前のモニターでは移動予定のルートと現在の地点が表示されている。
「よいしょっと」
 スマホを取り出す。Nakari周辺のバトルクエストは、と。
 探す途中、スペサーチが何やら変わったMOBを探しに行くらしいという情報を得たローグ系の仲間から誘いを受けたが残念ながら今ワープしてる方向と反対側だ。
 独立連合艦隊そのものはPvE専用のギルドだが、ギルドとしてPvPを禁じているギルドではない。むしろ資金調達の手段は完全に自由とされていて、めっちゃ高額を持ってマザーベースに納めに来たところを襲撃する、なんてことをやるやつすらいる。実際にそれをやったやつはリーダーの「面白そうな戦いだ、私も混ぜてくれ」という発言とともに放たれたビーム艦砲射撃の雨によって全てを失っていたが。
 少し話が逸れたがそんなわけで、俺もたまにローグプレイすることもあるし、ローグプレイヤーの知り合いもいる。
 特に今連絡してきた知り合いは海賊もの大好きで、海賊船を模した船に乗っているっていう独立連合艦隊うちにふさわしいやつなのでいつも勧誘しているくらいだが、残念ながらPvEに興味を持てないらしい。ましてヴァーテックス討伐は旨味もないからな。プレイヤーを殺してお金をがっぽり奪うのが快感らしい。ある意味根っからの海賊だ。

 

 さて、そうこうしているうちにNakariのステーションに着いた。残念ながらNakariそのものは輸送クエストしかないらしいが、一応燃料補給をしておこう。
【AUTO DOCKING】
「燃料補給、よし。と、一応クエスト覗いておくか」
 宇宙船から見ることのできる簡易ネットワーク上のクエストリストを閲覧する。
「ん?」
【要塞の占領】
「戦闘系あるじゃん。報酬は悪くないな」
【AUTO LAUNCH】
 クエストを引き受け、発進する。
「wikiに反映しとくか」
 wikiはみんなで更新して情報共有していかないとな。詳細は現在攻略中、と。
「じゃ、目的地までジャンプ、と」
 ジャンプ中にクエスト内容を再確認する。
 クエストは敵要塞の攻略だ。普通なら俺のUSS フレッチャーのような小型艦ではとても挑めないが。すでに破棄された要塞で未だに一部の防衛装置が稼働している状態らしい。だから、内部に侵入し、内部のコアにハッキングを仕掛けて停止させる必要があるらしい。だから、逆に小型艦である必要があるってわけだ。
「それにしても大規模なクエストだけどな。これまで知られてないなんて考えにくいが」
 あるいは、自然発生クエストだろうか。
 CGOには簡単ながら経済の概念があり、経済状況によりステーションごとの輸送クエストの内容が変化する。ローグのたまり場になっているようなステーションの周囲は経済状況の悪化によりローグMOBが発生しやすくなったり、その周辺のステーションからローグMOB討伐クエストが発生したりもする。
 要は経済状況によってある程度のクエストが自動生成されるようになっているわけだ。
 ということは何らかの野良要塞が攻撃を受けたりして特定の条件に陥った場合のみに発生するクエストのようなものがある可能性も否めない。

 

 ジャンプが終わる。目の前に宇宙要塞が広がる。
「ヴァーテックスの宇宙要塞か……?」
 もしかしてこれは大発見ではないか。ヴァーテックスがこんなに大きな宇宙要塞を残していた、となればヴァーテックス由来の素材を得られる可能性は飛躍的に上がる。
「よし、気合入ってきた」
 エネルギーを推力とシールドに45と45。武器に10だけ。粒子砲をスタンバイ。
「行くぞ」
 現在の割り振ったエネルギーで出せる全力で一気に推進する。
 きゅるきゅるきゅるきゅるきゅるとエネルギー推進の音が響く。奴らの反応範囲に入ったからだろう、要塞がエネルギーラインを赤く輝かせ防御レーザーが起動し、こちらにパルスレーザーを発射してくる。レーザーとは持続的に照射する武器だが、パルスレーザーは断続的にレーザーを出力する武器で、要は普通のレーザーがただの線なら、パルスレーザーは破線って感じだ。エネルギー的にローコストなのと、レーザーでありながら攻撃をばらまけるから、防御用の弾幕によく使われる。
 とはいえ、バラバラの一発一発が当たるくらいならシールドは保つ。問題はもっと接近した場合に放たれる実弾の弾幕だろう。
 このゲームCGOには実弾、粒子、光学の3つの属性に分かれていて、それぞれ弾速、射程、威力のうち二つに優れ、一つに劣る。
 先程から飛んできているレーザーは光学属性の武器で弾速と射程に優れるが、威力が弱い。だから、遠くまで撃ってくる上にかなり当たるが、シールドで防げる。
 一方実弾属性の武器は射程こそ光学と粒子には劣るが、威力と弾速に優れている。つまり、接近すればするほど、高威力の実弾攻撃の命中率が高くなっていくことになる。
「敵の脅威度表示。俺の移動ルート上を射程内とする実弾武器をピックアップ」
 手元のコンソールを操作すると、視界のいくつかの武器が赤くオーバーレイされる。色は一定ではなくて薄かったり濃かったりする。濃いほど最初に射程内になるってことだ。
「よし、なら順番だ。射撃管制システムFCS起動」
【粒子砲、有効化アクティブ
 ビュンビュンビュン、順次破壊する。
 キュン、キュンキュン。破壊しそこねた実弾がシールドに命中する。
【シールド残り50%】
 くそ、この距離だとレーザーも馬鹿にできないし、まずいぞ。ぎりぎりあの隙間から中には入れるはずだが……。
【武器脅威度、更新】
「なにっ!?」
 内部に真っ赤なオーバーレイ。流石に回避できない!
【所属不明機接近】
 周辺の実弾砲台が緑色のパルスレーザーで破壊される。
「なんだ?」
 ロックオン対象をその機体に変更する。コックピットに座る俺の右手にホログラフの形でその機体の見た目が表示される。
「『星のキツネ』のA-フェザーか?」
 『星のキツネ』は子供向けゲームの王様みたいな会社が出した3Dシューティングゲームで、キツネ、トリ、カエル、ウサギのチームが戦うスペースオペラものだ。俺はちょっと世代が違うが、このシリーズからスペースオペラにハマった人間も少なくない。
 A-フェザーはその主人公チーム4人が使う高性能戦闘機だ。
「ありがとう、誰か知らないが、助かったよ」
 周辺ボイスチャットを開放してお礼を告げる。さて、いよいよ要塞の内部だ。
「お前を助けるつもりはない」
【ロックオン警告】
「嘘だろ」
 A-フェザーの先端に赤い粒子が溜まっていく。『星のキツネ』ではチャージショットがホーミング弾になるが。そこを再現してるってのか!?
【ミサイル警告】
 くそ、粒子属性のミサイルか。
 ミサイルっていうのは一般的な世界だとだいたい実弾属性だが、CGOにおいてはミサイルの属性を実弾、粒子、光学から好きに選べる。ホーミングレーザーやホーミングビームって訳だな。ミサイルは元属性の特徴を維持しながら追尾する属性を保つ。
 粒子ミサイルなら威力と射程は長いが弾速はゆっくりだ。原作のチャージショットも比較的緩やかに飛んでくるからそれを再現したんだろうな。
 本当なら振り切るのは簡単なはずだが、いかんせんここは要塞の通路の中だ。
「エネルギーを99%シールドへ、推力は1%だ!」
 推力が急速に失われて、加速が止まる。それでもさっきまでそれなりの速度で飛んでたんだ、慣性で飛べる。
【シールド残り50%】
「一撃で!? くそ冗談じゃない」
 あともう一撃もらったらシールドは終わりだ、そうなれば、パルスレーザーの連射をもろに食らって終わりだ。
「あんた何のつもりだ、どうして俺を狙う?」
「簡単な話だ。カケラは俺たちスターカーニボラが貰い受ける」
【ロックオン警告】
「くそっ。推力に50%」
【ミサイル警告】
 壁ギリギリで左にカーブしてチャージショットを壁に誤爆させる。
「へぇ、スターカーニボラ? そんなギルド、聞いたこと無いね」
 俺は操縦桿を強く握り、なるだけ手が震えないように意識する。こんな狭い通路を推力全開で飛ぶなんて正気の沙汰じゃない。キースならそういうのも得意だろうが、俺はそういうのはやらない。
 俺のUSS フレッチャーは『宇宙大紛争』の艦船に習って正面に大きな円形の艦橋を持ち、この通路などは横幅がどちらの壁もすれすれという大きさだ。小型といってもあくまで艦なので、むしろよくこの通路に入れたものだ。
 一方、相手は小型戦闘機。この通路も自由に飛び回れる。
「待てよ?」
 そこで俺は一つアイデアを思いついた。
「推力を80%」
 推力をさらに上げ、機首を上げて通路の上半分、天井よりやや下辺りを飛ぶ。
 敵はこちらの推力レースに追従するため更に速度を上げてこちらに続く。
【ロックオン警告】
「もう曲がり角はない。速度を上げても無駄だ。諦めろ」
「それはどうかな! シールドに100%!」
 操縦スキル「宙返り」を発動し、USS フレッチャーが宙返りを始める。このスキルの面白いのは壁際など、普通に中返りをするとぶつかってしまう時はその場で一回転する、という点だ。つまり、天井すれすれのUSS フレッチャーは前進したまま、その場で上に向けて機首を上げ始める。そして機首が天井を向いたタイミングで。
慣性ブレーキイナーシャルキャンセラー起動】
 強制的に慣性を0にする慣性ブレーキを起動し、USS フレッチャーはその場で急速に停止する。それなりの速度でこちらに追いすがっていた敵のA-フェザーからすると、いきなり目の前に円形の壁が出現したことになる。もはや回避は間に合うまい。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
 ボイスチャットが起動したままだったのだろう。高い悲鳴が聞こえ、A-フェザーは俺のUSSフレッチャーのシールドに衝突し、耐久が0になって破壊された。
【シールド残り1%】
「危なかったな……」
 一応戦利品を確認しておこう。戦闘機の搭載/運搬可能量ペイロードからすると、たいしたものはもってないだろうけど。粒子ミサイルは消耗品だからまだそれなりに持っててくれると助かるな。


 結論から言うと、ペイロードギリギリまでミサイルを積んでたようだ。ミサイルは性能が高い代わりに高価だから、スターカーニボラとやら、結構な金持ちギルドなのかも。このままギルドで使うやつに渡してもいいし、多少安く売ればすぐに売れるだろうし、用途には困らない。
「で、これがコアか」
【コアに接続中】
 事前に渡されていたプログラムでコアにハッキングを開始させる。なにかミニゲームがあるかと思ったが、特になかった。
 そして。
【You got the piece!】
「は?」
【アイテムを取得しました:秘密の欠片】
 なんだ、これ……? 特に納品クエストでもないはずだよな……。
【警告。要塞が形而上の世界への退避を開始。脱出してください】
 そして制限時間が画面の右上に。
「げぇっ!?」


 それから帰還してクエスト報告をして報酬を得る。
 粒子ミサイルはやっぱりギルドに還元しておくか、と本部へジャンプを開始する。
 と、SHMDをはずすと、なんかやたらメールが来てるな。
「wikiの更新がデマじゃないか?」
 その内容はすべて要約するとそんな感じだった。wikiのコメントでそんな指摘が何回か出たらしく、wikiの管理人がメールを送って確認してきていたらしい。そしてネットの知り合いも心配でメールしてきていたようだ。
 とりあえず俺はクエストの受注と達成を証明するため航行ログをダウンロードしようとして。
 実績画面にも航行ログにもクエストの受注と達成を示す文面が一切ないことに気付いた。
「どういう、ことだ?」
 だが、確かにクエストはあった。それはあのスターカーニボラに所属しているらしい男の存在からも明らかだ。
 俺は管理人になんて返信しようか迷いながらモニターに映るジャンプの演出を見守っていた。

 

To be Continued...

 


 

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