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CGO Side:十三・カーク 第2章

【これは一つでは機能しません。〝秘密の宙域〟に行く為には複数の記録デバイスを収集してください。後6個必要です】
 管理人への返信もそこそこにSHMDをかぶり直して、コンソールに秘密の欠片とやらを差し込んでみた結果得られた答えがそれだった。
 何もわからん。
 悩んだ俺は、まだワープに時間がかかるのを確認してSHMDを外して、管理人に起きたことをそっくりそのまま報告する。
 すると、管理人から驚くべき返事が返ってきた。
「秘密の欠片か。その噂なら聞いたことがある。突発的なイベントやサブクエストで入手できることもあるとか。眉唾だと思ってたが、まぁそういうことならwikiから消しとくよ」
 とのこと。
 と、もう一度メールの着信。
「あ、そうそう。だとしたら、その秘密の欠片は全部で7つあって、全部集めた人間にだけ秘密の宙域へ案内してくれるって話だ。本当なら既に持ってる奴はお前を狙ってくることになる。それを持ってるって情報は内密にしとくのが無難だぞ」
 管理人からのありがたい忠告だった。ちなみにこの管理人はCGOを遊んでいない。エアプ管理人である。なにせwikiを運営するのが好きだからやってるという変わり者で、クエストの自動生成なんかもあるCGOは管理しがいがあるらしい。よくわからん性癖だ。
 俺は結構wikiの情報に貢献してるから、こうやって直接連絡を取ることもある。やれることはやっとくもんだ。
 と、さらにメールの着信。なんだ、管理人も心配性だな、とメールを開く。
 が、今度のメールの送信主はCGO運営で、内容は以下の通り。
「パイロットライセンスの期限があと2日で解除されます。追加購入してください」
「え、マジ? やべぇ、金貯めなきゃ行けないって時に」
 パイロットライセンス、通称PLとプレイヤーたちは呼ぶ。
 PLは簡単に言えばプレミアムアカウントだ。厳密にはPLを使わない状態がトライアル状態なのだが。トライアル状態でもかなりの機能を使えるため、基本無料でPLがプレミアム、という考え方も根強い。
 基本的にはよくあるプレミアム機能と変わらない。買えばその期間中、プレミアムでだけ使える機能やスキル、レベルキャップが開放される。
 ただ、CGOの特殊なところは、そのプレミアムアカウントであるところのPLがアイテムとしてゲーム内に存在するところだ。
 プレイヤーは課金によりPLを購入し、ゲーム内でPLを消費することでパイロットライセンスをアクティブにしてプレミアムアカウントでのゲームプレイを可能にする。
 これは、逆に言うと、PLというアイテムをゲーム内マネーで売買可能なことを意味する。
 これがこのCGO唯一の課金要素にして最も効率的な金策でもある。
 つまり、PLをリアルマネーで購入し、そのPLをゲーム内でプレイヤーに売却してゲーム内マネーに替えることが出来るのだ。
 そして更にこれを逆に言えば、リアルマネーを払えない、例えば俺のような学生でも、ゲームで金策さえ頑張れば、PLを購入してプレミアム状態でのゲームを続けられることを意味する。
 そんなわけで、この世界のゲーム内マネーはPLを介してリアルマネーと兌換性があり、でっかい戦争ででっかい損失が出たときなんかは、「リアルマネー換算で」なんていう文言が飛び出すことになる。
 ちなみに、俺たちみたいにガチでCGOを楽しむにおいて、トライアルアカウントは話にならない。金策にせよ戦闘にせよ、機能の制限が厳しすぎるからだ。だから、俺はなんとしてでもPLを有効にし続ける必要がある。
「とはいえ、ゲームマネーも十分じゃない……。またクラウディさんが格安でPL売ってくれないかな」
 クラウディさんというのは一月前に俺がPLを買った相手だ。よほど早くお金が欲しかったのか、他のPLよりかなり安い値段で売っていたのでつい名前を覚えている。
 よほど早期にお金が欲しかったのだろう。おそらく愛機を撃墜されてはやいこと元の活動が最低限できるだけのお金が欲しかったとかそんなところか。同じような事態が何度も起きるとは考えにくいから、おそらく期待はできないだろう。
「さて、どうするか……」
 こういう場合に備えて貯金はあったのだが、念の為と思って出港前に全部寄付に投げちまったんだよな。だって艦長の座を逃したくなかったから……。
 このままでは艦長の座どころか、艦長でいられなくなる。
 なにせ複数人で制御する艦艇の艦長をやるスキルはプレミアム状態でないと使用できないのだ。
「なにか考えねーと……」
 ってか寄付する前にPLの有効期限くらい調べとけって話だよな、あまりに迂闊な行為だった。
「いっそ、アイツと美味しい獲物を狙いに行くか……?」
 アイツと言うのはワープ中にも連絡してきたバーソロミューだ。根っからの海賊野郎で、常にPvP、というかならず者ローグプレイをしているやつだ。
 CGOのPvPには三種類が存在している。
 一つはアリーナ、いろんなゲームに存在するプレイヤー同士が一対一で戦うバトルコンテンツだ。
 もう一つが戦争。このゲームはギルド同士が宙域を「所持」することが出来、それを武力によって取り合うことが出来る。このゲームがニュースになるもっぱらの要素だ。
 最後の一つがこのゲームの最大の特徴でもある海賊行為ローグ。他人の得てきた報酬をその撃墜によって奪う行為だ。これもでっかい損害が出るとゲームニュースくらいにはなる時がある。
 ローグとは呼ばれるが、奪うわけではない例として、ギルドが宙域に「移動税」を敷いている場合に、その税金の取り立てを武力で退けるって例もあるが、普通はローグって言ったら奪う側の事を言うことが多い。
 ローグは狙うターゲットさえ間違えなければ、PvEより一瞬当たりの実入りは良いことが多い。
 なにせ、散々金策して稼いだ奴の稼ぎを奪う行為なわけだからな。長い時間かけて金策やってる奴を狙えば狙うほど、一瞬で本来かかる長い時間分の報酬が得られるわけだ。
 まぁ実際には定点で長い時間通過するやつを待ってたり、待った割に思ったような収入を得られなかったりもするわけだが……。
「とはいえなぁ、PvP、苦手なんだよなぁ……」
 なんのゲームであれ、PvPを多少経験したことのある人間なら何となく分かると思うが、PvPとPvEは同じシステムを使うとしても本質的に全く違うものだと断言できる。
 PvEは究極を言えば単なる数値の増減だ。真正面から弾を撃ち合ってこちらのHPが無くなる前に相手のHPを削りきれば良い。強敵になるとそこにギミックの攻略が増える。テクニックと呼ばれるものが存在しないわけじゃないが、求められるのはむしろギミックに対して、いかにパターンを見抜くか、いかに兆候に気付くか、いかに対策して望むか、と言ったところだ。
 一方でPvPは違う。PvPはテクニックのぶつけ合い、そして読みあいだ。アビリティの発動はPvEの敵CPUのような兆候なく、瞬間的なものだ。もちろん、操艦もCPUのようにパターンがある可能性は低く、多くの場合アトランダムだ。そして、PvP、特にアリーナで戦うような奴らは一見アトランダムに見える操艦からばっちりパターン……所謂「癖」を見抜くのがバカみたいにうまいやつが多い。
 俺はそのへんの駆け引きは正直あんまり得意じゃない。『CGO』に触れる以前も、PvPコンテンツには可能な限り触れないようにしてきた。
「とすると、一攫千金を狙えそうないい取引はないかねぇ」
 CGOにおけるPvE、PvPに続くもう一つの稼ぎ方、それは貿易だ。
 貿易には二種類が存在する。
 公式に生成されたクエストと、マーケットを利用した商品のやりとりである。
 前者は「輸送クエスト」と呼ばれ、特定のステーションから別のステーションへ荷物を運ぶというクエストだ。PvEより報酬が安いが、海賊を警戒さえしておけば、あとはただAからBへ運ぶだけなので、初心者はまず搭載/運搬可能量ペイロードの多い輸送艦を手に入れて、このクエストをやって元手を稼げ、などと言われる。
 後者は「交易」と呼ばれ、このゲームが経済システムを導入しているがゆえに出来る稼ぎ方だ。ステーションごとのマーケットの金額差を利用し、安いところで買い、高いところまで運んで売る、というのが主だ。
 今回俺が狙ってるのは当然後者。今向かってる俺たちの母港、[独立連合艦隊]マザーベースは、宙域としてはやや辺鄙なところにある。この周辺のマーケットに安く売り払われてるアイテムの交易が盛んな(=値段が跳ね上がりやすい)ステーションでの値段を調べ、いい感じなら買い取って売りにいく。と言った形になる。
 正直退屈な金策なのであんまり気は進まないのだが、他に手もないのでやるしか無い。

 

 それから数時間後。俺の私有する輸送艦「USS アルドラ」に乗り換えて、[独立連合艦隊]マザーベースと交易が盛んなステーション「schifffahrt」をひたすら往復すること……もう何回だ、数えてねぇ。
「つか……虚無い……」
 交易プレイなんてほぼ初めてやったけど、よくこんなの続けられるな。交易プレイをひたすらやるプレイスタイルがあるらしいが、俺にはとても信じられない。
 こりゃ、徹夜してニルセキュでPvEする方がマシか……?
 と、新しい道を決め始めた直後、
【[wis>十三・カーク]トネリコ>今、良いかね?】
 ウィスパーチャットが入った。
 ウィスパーとは囁きを意味する単語で、要は他者の入り込めない個人対個人の秘匿チャットだ。
 俺は手元にホログラフキーボードを出現させ、返事をタイピングする。
【[wis>トネリコ]十三・カーク>どうしたんですか、トネリコさん】
 相手はトネリコさん。なんとまさについさっき言及したひたすら交易を楽しんでいるプレイヤーさんだ。
【[wis>十三・カーク]トネリコ>いや、実は私の孫が『CGO』に興味があるらしくてね、今日ログインしてくるんだよ】
【[wis>トネリコ]十三・カーク>へぇ、そうなんですね】
 話が見えない。が、トネリコさんは大金持ちで有名なプレイヤーの一人だ。儲け話か何かしらの依頼か、いずれにしてもお金になる事案である可能性は高い。ここは相槌を打って話に応じておこう。どうせ交易中でひたすら暇だ。
【[wis>十三・カーク]トネリコ>ところが困ったことに、良い儲け話を聞いてしまってね、先日マザー・プラネットの方に行ってしまったばかりなんだよ】
【[wis>トネリコ]十三・カーク>行ってしまった、ということはまさか……】
【[wis>十三・カーク]トネリコ>あぁ、孫はヒューマンでゲームを始めるようでね】
 このゲームにはほぼ見た目だけの要素として「種族」の概念がある。ヒューマン、マシナリー、グレイ、ビーストの4種類だ。
 そして各種族の母星がこの中央銀河の四隅に存在しており、マザー・プラネットはそのうちマシナリーの母星にあたる。
 そして、ゲームを始めると、プレイヤーは母星から始まるようになっている。
 ヒューマンの母星、セカンド・アースはマザー・プラネットと点対称の位置にある。つまり、極めて遠いのだ。
【[wis>トネリコ]十三・カーク>なるほど、もしかして俺にそのお孫さんの相手をしてほしい、ということでしょうか?】
【[wis>十三・カーク]トネリコ>その通り。君が今どこにいるのかは知らないが、独連艦のステーションの近くだろう?】
 説明しよう。独連艦のステーション、「[独立連合艦隊]マザーベース」は極めてアースに近いローセキュに存在するのだ。
【[wis>トネリコ]十三・カーク>基本的にそこ中心に活動してますからね】
【[wis>十三・カーク]トネリコ>うんうん。そんなわけでちょっと孫の相手をしてやってくれんかね、私とウォーモンガーも可能な限り急ぐからね】
 ウォーモンガーというのは、トネリコさんの持つ武装商船の名前だ。
【[wis>トネリコ]十三・カーク>分かりました。ただ……】
 と入力する間に向こうの返事が返ってくる。
【[wis>十三・カーク]トネリコ>分かっている。報酬だろう? 独連艦は今寄付を受け付けている状態だと聞いているからね。君に依頼する理由のもう一つがそれさ。さて、PL500個でどうかね?】
「ごひゃっ……」
 思わず口をついて言葉が出た。
 PLは30個で30日分となる。そしてそれが19.99ドル……大まかに言って2500円ほどだ。
 つまり、PL一個の値段は約83円。それが500個ということは……ざっと計算して、4万円超えの大金になる。ゲーム内マネーの話じゃない、リアルマネーで、だ。
 もちろん、ゲーム内ではもっととんでもない金額になるだろう。少なくとも艦長の座は安泰だ。
【[wis>トネリコ]十三・カーク>い、いいんですか】
【[wis>十三・カーク]トネリコ>もちろん、孫がこのゲームにハマってくれる代金と考えれば大したお金じゃない。ただし、成功報酬とさせてもらおうか、もし孫がこのゲームにハマれないようだったら……】
 メッセージはそこで止まった。
 ど、どうなるんだ、トネリコさんはすごく顔が利く。もし『CGO』にいられなくさせてやる、とか言われたら……。
【[wis>十三・カーク]トネリコ>まぁその辺は孫の素質の問題もあるからね、半額の250個でどうだい】
 それでも2万円ちょっとだ。全然問題にならない。
【[wis>トネリコ]十三・カーク>ぜひ、やらせていただきます!】
【[wis>十三・カーク]トネリコ>うん、君ならそう言ってくれると思っていたよ。孫は『宇宙大戦争』のファンでね、USS フレッチャーを見たら、きっと喜ぶはずさ】
 それじゃ、頼んだよ、という言葉を最後に、トネリコさんからのチャットは終わった。
 俺は大慌てで[独立連合艦隊]マザーベースに戻り、USS フレッチャーに乗り換えた後、いくつものスターゲートを通り抜けて、セカンド・アースへ向かった。

 

 セカンドアースは人間が中央銀河に到達して最初に築かれた植民惑星であるらしい。
 ということはセカンドアースからさらに中央銀河の端に向かえば、俺たちの銀河系、天ノ川銀河があるものと思われるが、真実はわからない。

 

「あ、あの、十三さんですか?」
 セカンドアースに到着し、ステーションにドッキング、待ち合わせ場所のホログラフ忠犬ハチ公の前で待機していると、その少年は現れた。
「おう。君がトネリコさんの孫?」
「はい、ポロロです」
 ……君まであの有名RPGのパロディもじりかい。まぁトネリコの息子なんだからそうなるか。
「あ、このハンドルネームは父が考えたものです」
 こちらの思考が伝わったのか、ポロロが補足する。なるほど、つくづくあの人は『ドラゴンファンタジー』が好きらしい。
 一応説明しておくと、トネリコって名前は『ドラゴンファンタジー』に出てくる有名商人のもじりで、ポロロって名前はその商人の息子のもじりだ。
「それじゃ、宇宙に出ようか。セカンドアースの周辺は混み合うから、一個スターゲートを通過しよう」
 音声で指示するからまずはついてきて、と二人でドッキングベイに向かう。
 ドッキングベイに入るとロード画面が入り、自動で自分の船が待機しているドッキングベイに移動する。基本的にVRモードでは殆どの要素がシームレスなこのゲームにおいて数少ないワープ要素だ。
【AUTO LAUNCH】
 自動発進を立ち上げてから、宇宙船の通信装置を起動し、ポロロの船に通信をかける。
 最初の小型船は操縦系統もシンプルだから、通信に気付いて受信することくらいは可能だろう。
「は、はい」
「よし、目の前のモニターを見てくれ、船を起動してすぐなら、そこからドッキングベイやステーションの色んなものにアクセスできる画面が出てるはずだ」
 具体的にはウィンドウモードでプレイする時はステーションに入れないから、そのモニターの機能だけで基本的な事が足りるようになっているわけだ。
「はい。色々項目がありますね」
「あぁ、最初の関門だ。まぁおいおい慣れていけば良い。まずは、ここを出よう。左のメニューの一番上[DOCK]って項目をタップすると、[LAUNCH]って項目があるからそれをタップだ。すると、特にオプションをいじってなければ自動発進が起動して、勝手に宇宙船がステーションの外に発進してくれる」
「はい、はい、押しました」
 よし、最初はあの膨大なメニュー項目に翻弄されなかっただけで十分だ。チュートリアルのスキップ如何に関わらず、いきなりあのメニューを見せられた人間はだいたい思考停止する。調べる能力かチャレンジ精神がないと初見にはちょっと厳しい。
「よし、いいぞ。【AUTO LAUNCH】の表示が消えたら教えてくれ」
 俺は一足先にステーションの外に出て、出てすぐのところで、推力を下げて待機する。
「はい、出ました」
「よし、チュートリアルをスキップしてる場合、ここで操作説明が簡単に出ると思うが宇宙船の操縦は今は一度待てだ。ここは結構混むからな、まずは移動しよう。右のモニターになにかリストが出てると思う。それはこの周辺にあるオブジェクトの一覧だ。プレイヤーだったりデブリだったり、ステーションだったりする。その中から、USS フレッチャーって項目を見つけてタップしてみてくれ」
「はい。あ、ありました」
【ロックオン警告】
「うわ、ロックオンって出た。おー、すげー、本当に『宇宙大戦争』の船だ」
 ロックオンすると、右手にロックオンした対象のホログラフが表示される。それでUSS フレッチャーの姿が見えたみたいだな。
「見ての通り、長く一回タップするとそれでロックオンできる。リストの上のボタンでソートや絞り込みも出来るからおいおい覚えておくといいだろうな。あ、撃ち方を教えてないから撃てないと思うが、撃つなよ。俺の船だからな」
「はい、撃ちません」
 素直ないい子だ。
「じゃあ今度はロックオン対象のホログラフに触れて、するとメニューが出てくるから、そこから[FOLLOW]を選んでくれ」
「はい、押しました」
「よし、じゃあ移動するぞ。勝手に動くはずだが、下手に操縦桿は触るな」
 俺はUSS フレッチャーの推力を上げ、最寄りのスターゲートに移動を始める。見ると、後ろから小型の宇宙船がついてきている。ヒューマンの初期小型船舶は戦闘機のような見た目をしている。確か名前は「ファルコン」とか言ったか。
「あ、ちなみに実際はリストの対象を短くポンッとタップすると直接さっきのメニューが出て追従とかプロフィール確認とか出来るから、攻撃する時以外はロングタップは気をつけたほうが良いぞ」
「なるほど、攻撃しようとしてると勘違いされますもんね」
「その通り」
 まもなくスターゲートに到着する。
「さて、このゲームの宇宙は基本的にシームレスなんだが、初心者のうちは星系を移動する度にロードが入るゲームだと認識しておいたほうが良い。普通の小型船舶だと星系間を航行するには燃料が足りないからな」
「なるほど、それであのゲートで一気にワープするんですね?」
「おっ、さすが、物わかりが良いね。その通り。この世界では小型船舶が星系間を行き来する方法は大きく分けて二つ。そのうち一つが公式が用意している星系間を結ぶスターゲートだ」
「もう一つは何なんですか?」
「もう一つは非公式な存在なんだが、有志のやってる連絡船にドッキングして移動することだ。大型の船舶はスターゲートに頼らずとも星系間をワープできるのを利用した事業でな、あちこちに小型船舶とドッキングできる機構をつけた大型船舶を作って、決まった時間に決まった順路でワープを繰り返すんだ。で、ドッキングした小型船舶から利用料を取るってわけ、スターゲートと違って金はかかるけど、条件さえ揃えばスターゲートより短時間で移動できたり、スターゲートでは行きにくい場所に移動できたりして便利だ」
「へぇ、本当にいろんな事業があるんですね」
 ちなみに大型船舶はスターゲートに頼らずともワープできるのは確かだが、逆にスターゲートを利用できなかったりする。大きすぎるとスターゲートを通過できないってわけだな。
「さて、じゃあスターゲートを利用しよう。普通に操縦してスターゲートに突入してもいいが、まだ操縦は慣れてないから、ここはオートで行こう。リストからスターゲートを選んで、[USE]にフリックだ」
「はい」
 俺は普通に操縦してスターゲートに突入する。
 こうして俺たちはセカンドアースのある星系にほど近い「premier」星系に到着した。
「よし、じゃあここからステーションまで移動してみよう。例によってリストからステーションを選んで」
「あ、[MOVE]、これですね」
「それそれ。ちなみにさっきも本当はこの方法でスターゲートまで行くことも出来た。けど、ロックオンのこととかを失礼のないように先に教えておきたかったから、追従で移動したわけだ」
「なるほど、何も知らずにうっかり周りの船をロックオンしまくってたら大変ですもんね」
「そゆこと」
 ポロロの小型船舶が自動でワープして視界から消えていく。俺もステーションを正面に見据えてワープを起動した。
 やがてワープが完了し、ステーションが見えてくる。
「よし、まずはじゃあここで操縦を学ぼう。フラシューとかフラシムってやったことある?」
 フライトシューティングやフライトシミュレーターの略だ。
「あ、一応あります」
「じゃあ話は早いな。ほぼ一緒だ。操縦桿を左右に倒すと旋回ロール、前後に倒せば機首ピッチ下げダウン上げアップ。速度変更と首振り運動ヨーイングは機体によって違うが、人間の初期機体だと左手のスロットルレバーで速度変更、脚のペダルでヨーイングだ」
「じゃあほぼ戦闘機と同じですね」
「そういうこと。軽く飛んでみてくれ」
 といって、ポロロの宇宙船が飛ぶのを眺める。危なげないが、立派に飛べている。
「よし、操縦はそんなもんでいいだろう。じゃあいよいよ実戦と行こうか」
「はい!」
「じゃあ、このステーションにドッキングしてくれ。オートでやる場合は……」
「リストから[DOCKING]ですね」
「大正解。それで、一個だけ海賊退治のクエストがあるはずだから、それ受けてくれ」
「分かりました」
 ポロロの宇宙船がステーションの中に消えていく。
「受けてきました!」
 しばらくして、ポロロの宇宙船が出てきた。通信のかけ方を教えてないのに、向こうからかけてきたな。リストから選んでフリックするだけなので、自分で試してみたというところか。飲み込みが早いのは良いことだ。
「よし、じゃあ行くか。俺は君の船に追従するから、目標地点までワープして移動してくれるかな?」
「はい、やってみます」
 俺のUSS フレッチャーが自動で移動を始め、ワープドライブを起動する。目の前にはポロロの小型宇宙船。
「さて、今のうちに攻撃手段について教えておこう。まぁその機体の場合、フラシューやったことあるなら基本は同じだ。操縦桿のトリガーを引け、それで弾丸が出る。照準レティクルをあわせて撃てば良い」
「はい、けどそうすると、そのUSS フレッチャーの場合はどう操作するんですか? 主砲の他に副砲もあるみたいですよね、それ」
「良い疑問だ。まぁ結論から言うと、相手をロックオンして[ATTACK]とすると、射程内であれば武装が自動で攻撃してくれる。複数人で操る時は砲手が個々の砲を自在に操ることも出来るけどな」
「なるほど」
「そのファルコンにも上面に確か小さい旋回砲がついてるはずだ。敵が出てきたら、ロックオンして[ATTACK]としてみると良い。弱い敵なら相手のケツを追いかける間も無くやっつけてくれる」
「分かりました」
「本当なら、ザコ敵くらいなら、ターゲットして[ORBIT]と指示すること自動操縦でその敵から距離を取って旋回してくれるから、それとオート射撃でも良いんだが、せっかくの戦闘機だからな、格闘戦ドッグファイトしてこい」
「はい!」
 ワープが終わり、敵が出現する。ポロロの小型宇宙船が前進していく。
 敵は三機。ポロロは先制攻撃で最初の一機を撃墜したが、そこから二機相手に苦戦し始める。
「さっきから散発的に攻撃を当ててるが、それじゃ敵は倒せない。さっきから時々攻撃を喰らっているから体感してると思うが、船にはシールドがついてて、シールドが自動で攻撃を防いでくれる。シールドが機能している間は装甲にはダメージが入らない。初心者のうちはシールドが壊れたらシールドが回復するまで一度距離を取るのがいいだろうな」
 船を買い直すのに船がなけりゃ大変だからな。
「それで、シールドは自然回復するわけだ。だから、散発的な攻撃ではシールドが復活するだけで、装甲は一向に削れない」
「じゃあどうすれば?」
「選択肢は二つだ。さっきから頑なに使わない旋回砲を解禁するか、より火力を上げるかだ」
「火力を上げる?」
「おう。右モニターよりさらに右に、赤、青、緑で光ってるインジケーターがあるだろう、今は同じ高さできれいに揃ってると思うが」
「はい、ありました」
「それは、攻撃、速度、防御のどれにエネルギーを使うかを現してるインジケーターだ。例えば、青の速度に全振りすれば火力もシールド出力も弱まる代わりに、最大速度が上がる。つまり火力を高めたければ」
「赤に全振りすれば、防御と速度を捨てて火力が上がるんですね」
「そういうことだ」
 ちなみに、実弾でも火力が上がるのは、実弾属性の攻撃はレールガンだから、という設定だ。
 この辺が整理される前のバージョンでは、実弾がさらに「ガンパウダー」と「ハイブリッド」に分かれていて、ややこしかったらしい。これが実弾に統合されたときのアップデートで、弾薬の概念も消えたんだったかな。批判も大きかったと聞くが、三つの属性が綺麗に揃ったから結果的には分かりやすくなった。
 そんな事を言っているうちに、ポロロの小型宇宙船がもう一機を撃墜。あと一機となった。
 どうやら俺の出番はなさそう、などと考えていると。
 リストに新しいオブジェクトが増える。なになに、「A-フェザー」……だと!?
 いや、たまたま同じ作品のファンなだけかもしれない。
「見つけたぜ、さっきはよくもやってくれたな」
「くっ、やっぱりお前か、スターカーニボラ! なんのつもりだ」
「今回は四人で挑むぜ」
「挑むぜ……ってここでおっぱじめる気か? ここはハイセキュだぞ」
「だからどうした」
「くそ、ポロロ、退くぞ」
「え、まだ剥ぎ取りが……」
 ちょうどポロロは三機目を撃墜したところだった。剥ぎ取りというのはつまり倒した相手から戦利品をせしめることを言っているのだろうが。
「それどころじゃない、俺を狙ってるPKがここに来てる。お前も巻き込まれかねない」
「PK!?」
「速度に全振りしてステーションに逃げるぞ」
「はい。それにしても思ったより怖いゲームですね、こんななんでも無い状況でPKしに来るんですか?」
「いや、普通はここはハイセキュだからPKなんてよほどのことがない限りしてこない」
 ポロロの宇宙船に追従しながら、セキュリティについて説明する。
 セキュリティには「ハイセキュリティ」「ローセキュリティ」「ニルセキュリティ」の三種類がある。
 後ろになればなるほど治安が悪く、その代わり報酬が良い。
 ハイセキュリティでは基本的にあらゆる非合法行為は許されず、先制攻撃を他プレイヤーの所有物に仕掛けようものなら、一分程度で正規軍がやってきて確実に船を撃墜する。
 ローセキュリティとニルセキュリティでは正規軍はやってこないが、ローセキュリティで非合法なことをすると「セキュリティステータス」が低下する。
 ニルセキュリティはその手のペナルティが一切ない自由な代わり治安も悪いが、報酬もピカイチの領域だ。
 セキュリティステータスがどんなペナルティを持つかと言うと、ハイセキュへの移動禁止、そのプレイヤーへの先制攻撃の合法化などがある。
 まぁなんにしてもここはハイセキュだ。人を攻撃すればどうあっても正規軍に撃墜される。よほどの理由がない限り、人を襲撃するなどありえない。
 この「秘密の欠片」とかいうアイテムはそれほどのものなのか?
 ついにA-フェザーに追いつかれたらしい。容赦ないレーザー攻撃が降り注ぐ。
「くそ、スターウルペースはこんな海賊行為しねぇ、これじゃスタールプスだ」
「だから両方兼ねてのスターカーニボラなのさ。カーニボラは食肉目って意味でな。狐も狼も兼ねてるのさ」
「なるほどな」
【ハイセキュリティでの被先制攻撃を検知しました。一分後に正規軍が到着します】
 一分耐えるしか無いか。
 速度を落とし、シールドにエネルギーを全振りする。追いつかれた以上、それしか手はない。
 こちらの速度が低下し、こちらに追いつくために速度を全開にしていたA-フェザーが通り過ぎオーバーシュートしていく。
 A-フェザーのうち三機が宙返りして、こちらに向き直って、再びレーザー攻撃を敢行してくる。なるほど、最後の一機はこちらを攻撃しないことにすることで、他三機が俺を撃墜したことで発生した戦利品を安全に回収するつもりなわけか。
 レーザーの威力は高くない。シールドに全振りした今なら完全に無効化出来た。
 しかし、敵も馬鹿じゃない。速やかに速度を落とし、その分火力を上げてくる。
「くっ、思ったよりきついな」
 だが、この火力はシールドへのエネルギーも攻撃に回しているはず。こちらに通信を仕掛けてきているA-フェザーをロックオンして[ATTACK]。
 背後からの攻撃なので、攻撃可能なのは側面についた副砲のみ。応射を開始する。
 ハイセキュでのペナルティはあくまで「先制攻撃」に対して行われるものなので、応射することはペナルティの対象とはならない。
 リーダーのA-フェザーは旋回し、こちらの粒子砲を回避する軌道に入る。
 すぐさま、こちらに攻撃しているA-フェザーにターゲットを切り替えて[ATTACK]。またその機体も回避運動に移行する。
【ハイセキュリティでの被先制攻撃を検知しました。50秒後に正規軍が到着します】
 くそ、まだ10秒しか時間を稼げてないのかよ。
 こちらを攻撃中の最後の一機にターゲットを切り替えて再び[ATTACK]。しかし、その間に最初の一機が攻撃に戻ってくる。
「十三さん! 俺も!」
 そんな声が聞こえてくる。
 それはワープでここから撤退していたはずのポロロの小型船だった。
「おいばか、やめろ!」
 ポロロの宇宙船から正面の実弾攻撃と旋回砲のレーザー攻撃が放たれる。
 放たれた弾丸はシールドを極限まで絞っていたA-フェザーに命中、ダメージを与えたらしい。
 攻撃を受けたA-フェザーは速やかに反撃に転じ、ポロロの小型宇宙船に向けて加速を開始した。
「ポロロ、危ないぞ!」
「大丈夫です、これでもエスファイアンリミテッド2ではそれなりのエースパイロットだったんですから」
 エスファイ、『エースファイターアンリミテッド』はフライトシューティングシリーズの『エースファイター』のオンライン対戦専用タイトルだ。そんなにフラシューやり込んでるタイプだったのか。
「それにしては最初苦戦してなかったか?」
「宇宙と空中じゃ感覚が違いました。けど、それももう慣れました」
 確かに、A-フェザーと小型宇宙船はスペックの差などないかのようにうまく背中の取り合いを演じているようにみえる。
 これなら行けるかもしれない。
 俺はさっきまでの餅つきみたいな行動を繰り返し、敵を散らしていく。
【ハイセキュリティでの被先制攻撃を検知しました。30秒後に正規軍が到着します】
 よしよし、20秒稼げた。いい調子だ。
「おい、作戦変更だ。ミサイルを解禁する。シールドにエネルギーを回せばそっちの初心者は敵にならん」
 俺にあえて聞こえるようにか、それとも通信をしているのを忘れてか、敵が味方に新しい作戦を通達する。
 直後、三機のA-フェザーは俺のUSS フレッチャーの後方に移行し、一斉に粒子ミサイルを発射した。
「くそ、当たってたまるかよ!」
 粒子属性の弾速は遅めだ。今から加速すれば振り切れるかもしれない。エネルギーを速度に一気に割り振って、スロットルを最大。
 しかし、速度はA-フェザーの方が上。A-フェザーは速度に全力で割り振ったか急加速し、こちらを大幅に追い越し、宙返りし、こちらと正面向き合いヘッドオン状態になる。
 そして放たれる粒子ミサイル。
「くっそぉぉぉぉぉぉぉ!」
 操縦桿を一気に手前に引き、USS フレッチャーをその場で上方向に急上昇させる。いや、宇宙だから上とか上昇とかないんだが、まぁ元の姿勢から見てってことで一つ。
 だが、ミサイルはゆっくりとカーブして、こちらについてくる。まずいな、振り切れない。
「任せて下さい、十三さん!」
 ポロロが実弾攻撃を放ち、ミサイルを迎撃していく。
「え、すごいな」
 ミサイルは当たり判定を持っているため迎撃は可能だ。だが、弾幕の自動展開なんかのスキルを除けば、基本的にマニュアルでしか狙えない。けっこう大変な技だ。たくさんある一つをたまたま迎撃できたとかならともかく、全部まとめてとなると、これはとんでもない実力だ。
【ハイセキュリティでの被先制攻撃を検知しました。20秒後に正規軍が到着します】
「ちっ、やるじゃねぇか、初心者ニュービー
 再び、A-ウェザーがレーザー攻撃を敢行してくる。こっちは速度に全振りしてたからダメージを受ける。
 これ、シールドに振り直したらミサイルが来るな、まずい。
 ミサイルを誘発させてポロロに迎撃してもらう手もあるが、ポロロにターゲットが移って撃墜されたら笑えねぇ事になる可能性もある。
 そう、俺はまだ、4万円をフルでもらうことを諦めていないのだ。
 そして、それがなんなのかまだ分かってはいないが、秘密の宙域とやらは気になって仕方ない。だから、秘密の欠片は手放したくない。
 俺はここで生き残るしか無いのだ。
 しかし、想定外に綻びはあっさりとやってきた。
「ちっ、来やがったか」
 リストにA-フェザーが追加!? さらに三機だと!?
「残念だったな、俺の側の増援だ」
 それでも嫌そうなのは、手柄の取り合いでもしてるからだろうか。
【ハイセキュリティでの被先制攻撃を検知しました。10秒後に正規軍が到着します】
「くそ、あと少しなのに!?」
 七機から一斉にレーザーが放たれる。
「くそっ! くそう!!」
 直後。特徴的な発射音のする粒子攻撃がスターカーニボラの七機の間を通過していく。
「ショックカノンの音?」
「なにっ!?」
 発射された先に視線を向ける。そこにいたのは、特徴的な大型の宇宙戦艦だった。
「宇宙戦艦ムサシ……?」
 そう、それは『宇宙戦艦ムサシ』の主役艦艇、宇宙戦艦ムサシだった。現代の戦艦をそのまま宇宙戦艦にしたような見た目をしている。
「秘密の欠片を持つ両者に告ぐ。こちらは宇宙戦艦ムサシ。艦長の近代きんだい もどりだ。このハイセキュで戦闘行為に望むのであれば、我々も秘密の欠片を求めて貴君らを攻撃させてもらう」
「ちっ、とんだイレギュラーだ」
 A-フェザー達が攻撃をやめたのをみて、俺たちも応射を停止する。
「まさかムサシ野郎と手を組んでたとはな。ここは退いてやるよ」
 A-フェザーが一気に進路を転換、どこかへとワープで消えていく。
【ハイセキュリティでの被先制攻撃を検知しました。正規軍が到着しました】
 そして、やや遅れる形で正規軍がワープしてきて、再びA-フェザーを追いかける形でワープしていく。
「ありがとう助かったよ、近代艦長。俺は十三・カーク」
「勘違いしないでもらいたい。我々は秘密の欠片を巡る戦いに関して悪い噂を広めたくないだけだ。ハイセキュでPKはしない。それはこの世界の守るべきマナーの一つだと考える。それゆえに、戦闘に介入させてもらっただけにすぎない。出会う場所がニルセキュなら、我々は君とも戦っていただろう」
 どうやら、スターカーニボラの連中より話せる相手らしい。
「そうか。じゃあその時は敵同士だな」
「あぁ、それではまた会おう、沖田艦長」
「十三だって」
 ムサシはどこかへとワープして消えていった。

 

 

「助けられちゃいましたね」
 しばらく沈黙が続いた後、ポロロが口を開いた。
「あぁ、そうだな」
「俺、悔しいです。いつか彼らにも勝ちたいです」
 ほう、あれだけの目にあって、思うことが勝ちたい、か。俺なんかよりよっぽどこのゲーム向いてるかもしれないな。
「よし、一度ステーションに戻ろう。次は交易についてとか教えるよ」
「はい、金策の方法とか教えて下さい。もっと早く強くなりたいです」
 本当に素質があるなぁ。

 

 それにしても、まさかハイセキュで襲撃されるなんて。秘密の欠片、ガチで求めているやつはそこまでやるのか。
 秘密の欠片、持ち続けるなら、気をつけないといけないな……。

 

To be Continued...

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「CGO Side:十三・カーク 第2章」の大したことのないあとがきを
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