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サイド:混血のアーシス

by:メリーさんのアモル 

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第2章「追放」

 混血のアーシスが目を覚ましたのは、それからかなりの月日、否、年月が流れた先の事であった。
「私は……そう、確か、凶星が……」
 混血のアーシスの持つ最後の記憶は世界に舞い降りる巨大な凶星……隕石であった。
「いや、それどころではない、なんだ、これは」
 混血のアーシスが目覚めた時、世界は大きく様変わりしていた。
 大地には再び人間達がその支配圏を広げ、他の霊長の居場所などないかの様だった。

 

「これは……どういう事だ?」
 立ち並ぶビル街に困惑しつつ街を歩く混血のアーシス。
 なんという事だろう、人間達の街並みはアースガルドのそれよりよほど立派だった。
 1つ確かなことは、意識を失ったあの日よりこっち、かなりの時間が経過しているらしい、という事だ。

「そして、空に浮かぶあれはなんだ?」
 そしてもう1つの驚愕は空に浮かぶ白き星、いわゆる所の、月であった。
 新たな人類によって混血のアーシスの同族としてマーニという名の女神すら新たに誕生していたりするのだが、混血のアーシスはもちろんそんなことは知らない。

 

 ともかく混血のアーシスに分かった事は、世界は自分をおいて随分長い時を経過させたらしい事、そして自分はそれにすっかり取り残されてしまっている事。それだけだった。
「ともかく、1度アースガルドに戻ろう」
 一月にも及ぶ人間達の街並み物見遊山の末、混血のアーシスは決断した。
 1度脱走したとは言え少なくとも彼にとってアースガルドが勝手知ったる場所には違いない。ヨトゥンヘイムへ向かうための脱走は、またアースガルドに戻って情報を得てからでも遅くはないのだから。

 

 その後、地球を何周も歩いた。
 息子の馬も呼べなかったゆえに徒歩と、人類の使う海を渡る道具でひたすらに。
 その間に多くの年月が経った。
 その合間合間に悪癖を発揮して人間を揶揄ったりもした。悪戯の神とも呼ばれる混血のアーシス、悪戯はどうしても辞められなかったのだ。
 動物になりすまして驚かしてみたり、悪魔のような姿で街から人を追い出してみたり、幽霊騒ぎを起こしてみたり……。
「なぜだ……」
 そしてその間に混血のアーシスはとうとう自身の故郷を見つけられないと知った。
 アースガルドはおろかアースガルドとミッドガルドを繋いでいるはずのビブロストも、またヨトゥンヘイムをはじめとしたそれ以外の世界も、等しく見つけられなかった。
 地球の全土は等しくそして余す事なく人間たちの領域となっていた。
 最初に感じた「他の霊長の居場所などないかの様だった」というその直感がどうしようもなく正しかったのだと理解させられた。

 

「見つけたぞ!」
 途方に暮れる混血のアーシスをしかし世界は放っておいてはくれない。
 世界中で行った悪戯がケチの付け所となり、彼の元に光り輝く鎧を身にまとった男達が現れる。
「何者かな? いきなり大勢で」
「この近辺で神秘を隠匿せずに行使した神秘使いは貴様だな?」
「私は何者か、と聞いたと思ったが?」
 ズン、と周囲に圧がかかる。神性と呼ばれる神が持つ特性、その性質の1つ。
 要は神々しいものには頭を下げろというルール、その実体具現である。
 しかし、男達は動じることなく混血のアーシスを見据える。
 それどころか。
「敵対と判断して良いようだ。現時刻より対象を霊害と認定。総員、抜剣」
 男達は鎧と同じように光るエネルギー体の剣を体から引き抜くように出現させた。
「なんだ、人間程度が私に歯向かう気か?」
 混血のアーシスが手元に赤い剣を出現させる。
「ルドヴィーコ、先鋒は任せた」
「はっ」
 聖騎士パラディン)と呼ばれるリーダーがその直属の部下に当たる従騎士エスクワイア)に指示を出し、従騎士が前に出る。
「ふん、人間1人で何が」
 出来る、という言葉は続かなかった。
 人間の武器程度意味をなさないはずの神の武器、その一閃は、なんと従騎士の光の剣1本で防がれる。
「なにっ!?」
「前衛第一隊、続け、回り込め!」
 3名ずつの騎士の部隊が左右に回り込む。
「くっ」
 本来、人間では神を傷つけられない。神には神性と呼ばれる特性があり、神性は神性以外には侵されないからだ。
 しかし、理屈は分からないが、あの光の剣は混血のアーシスの持つ神性攻撃を防いで見せた。切られた場合も神性を無視して来る可能性は否めない。
「ぐぐぐ……」
 混血のアーシスは人間を前に退くことに歯噛みしながら、一気に後方に退く。
「ま、まて、降参する!」
 混血のアーシスが手を挙げる。
 明らかに怪しい動きだが、剣で戦うつもりにしては距離が遠い。判断に迷った騎士達は聖騎士に視線を送り、判断を仰ぐ。
「バカめ!」
 混血のアーシスは素早く剣を杖に変形させ、炎を飛ばす。
「盾構え!」
 しかし、その混血のアーシス肝いりの不意打ち作戦も、聖騎士の素早い判断と部下の素早い反応で防がれた。
 ――バカな、世界すら焼く炎だぞ。人間風情に防げるはずがない
 しかし現実には防がれていた。
「くぅ、覚えていろ、人間ども」
 負け犬のような言葉を出すしかない自分を意識の中で攻撃しながら、混血のアーシスは神性を発揮して空中に飛び上がった。

 

 ――おのれ、な、なぜ私が人間如き相手に敗走せねばならんのだ
 混血のアーシスの頭の中を占めていたのは混乱だった。
 いずれにしてもかつて混血のアーシスが生きた時代と今では、何もかもが違うことだけはよくわかった。
 そして、ある1つの考えに至った。
「まさか、人間が全ての霊長を滅ぼしたのか?」
 この地球には大きく分けて9つの霊長種族が住んでいた。まぁ到底知的とは言えないような種族もあったが、人間以外の8つの霊長種族がいない理由、突然自分が人間に狙われた理由。
 それは、人間があのようにして他の種族を刈り取ったからだとすれば納得がいく。
「おのれ人間、何と恐ろしい」
 混血のアーシスは憤った。それもそうだろう。混血のアーシスの仮説通りだとすれば、人間は混血のアーシスの持つ1つの夢、巨人達と暮らすと言う夢を無惨にも砕いた事になるのだから。

 

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