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世界樹の妖精 -Nymph of GWT- 第3章「あなたと再び会うために」

 

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 マンハッタン高校ハイスクールスポーツハッキング部の「チーム・パラディンズ」のリーダー、マーヴィンことシャルルマーニュは、見事第一回GWT杯の予選を突破する。
 その頃、GWTではある陰謀が動いていた。
 幼馴染のエスターはマーヴィンに巨大仮想空間メタバースSNS「ニヴルング」に、幽霊が現れるという噂を話す。興味が湧いたマーヴィンはクリストファーことアストルフォとエスターことオリヴィエを連れて、「ニヴルング」を探索する。
 そこで出会った幽霊の正体たる「ニンフ」に、マーヴィンは一目惚れするのだった。

 

 マンハッタン高校ハイスクールスポーツハッキング部の部室。
「また部長、ボヘーとしてますね」
 ホロキーボードとブラウザを開いたまま、手が止まっている様子のマーヴィンを見て、呆れたようにジェイソンが呟く。
「部長は今や幽霊さんにお熱だからねー」
 楽しげにクリストファーが頷く。
「そんなに美人だったのですか、その幽霊とやらは」
「知らない、私とクリストファーは直接見てないもの」
 そんなマーヴィンの様子が面白くない、とでも言いたげにエスターが首を横に振る。
「部長だけが実際に見て、部長だけが惚れ込んでいる、と。これが元で部が崩壊するとかいうことがないだけ頼みますよ」
 やれやれ、とジェイソンも肩をすくめる。
「ほら、マーヴィン、手が止まってるわよ。部のレポート、今週中なんでしょ」
「え、あぁ、すまん」
 エスターが叱咤すると、マーヴィンは謝罪し、再び手を動かし始めるが、すぐにまた手が止まってしまう。
「しかし、幽霊とは何者でしょうね。『ニヴルング』からGWTに移動したとのことでしたが、Gougleゴーグル社に雇われてイルミンスールを破壊しようとしているハッカー?」
 「ニヴルング」は二本目の世界樹・イルミンスールに存在する巨大仮想空間メタバースSNSだ。一般ユーザーであっても気軽に自分だけの「ワールド」を作れるのもあり、人の数だけ世界がある、と言っても過言ではない巨大さを誇る。他の世界樹もそれぞれに大なり小なり巨大仮想空間メタバースを有しているが、合衆国ステイツ経済圏で「もう一つの現実」とまで言われる巨大仮想空間メタバースは「ニヴルング」以外あり得ないだろう。
 逆に言うと、イルミンスールと「ニヴルング」有するFaceNoteフェイスノート社以外のGLFNグリフィン三社はFaceNote社を妬む理由があるわけで、妨害のための手を打っていても不思議ではなかった。
 少し前、「キャメロット」のアーサーを呼んでの講演会でアーサーが言っていた言葉をジェイソンは不思議と思い出す。
『かつて戦争があった。巨大複合企業メガコープによる企業間紛争コンフリクトは当たり前だった。アメリカ大戦なんて不名誉な名前の争いがあった。それ以前にも世界は何度となく戦争と紛争を起こした。
 戦争は、いかに効率よく人間を殺すか、土地を殺すか、国を殺すか、企業を潰すかを課題として様々な大量破壊兵器が開発され、挙句の果てには各国各企業に保有される大量破壊兵器の威力を合計すればこの惑星が何回も滅亡するほどにまで至っていた。
 それが規制され、国家間での戦争が完全にはなくなっていないもののなりを潜めるようになったことはみんなが知っていることだ。それが、表向き、一般に知られる戦争の歴史。
 だが、過去形にしてはいけない。現在進行形で戦争というものは起こっている。
 戦いに赴く兵士が握るのは銃ではなくインターフェースユニット。
 そこで展開される戦場では、「基本的に」誰も死ぬことはない。人間が死ぬことはナンセンスとされるこの戦場で兵士たちは戦い、そして一人、また一人と脱落していく。
 兵士たちが、果ては国家、企業がこの戦場に求めるものは、情報。
 今、俺達がスポーツ感覚でやっているこのハッキングこそが、戦争の最前線なんだ』
 あまりに長い話なので、クリストファーなんかは途中で眠っていたような気がするが、ジェイソンは夢中になって聴いていた。
 そもそも、同じ開発者マギウスの、まして、そして常勝無敗と言っても過言ではない「勝利呼び覚ます精霊の剣エクスカリバー」を生み出した人間であるアーサーの言葉を聞き逃すなどあり得ない。
 つまり、アーサーはこう言いたいのだろう。もはや直接武力で打って出る時代は終わった。今や技術諜報シギントによる情報の奪い合いこそが戦争なのだ、と。
 だとすれば、GLFN四社が互いに自身の持つハッカーを展開して攻撃させていても不思議ではないし、その標的が仮想世界で最も発展を遂げているFaceNote社であっても不思議ではない
「けどね、マーヴィン言ってたのよ。ニンフは人間味のない女の子だった、って。あの美しさは人間じゃあり得ないって」
 そんなことを考えていると、マーヴィンをいちいち覚醒させるのに飽きたらしいエスターが話に加わってくる。
「それは単に部長が狂っておかしくなっているだけでは? そもそもアバターの美しさに人間味も何もないでしょう」
 エスターの言葉にジェイソンが首を横に振る。
「では、こういう仮説はどうだ? 件の幽霊は、実は超高性能なAIだ、というのは」
 そこに部員の一人であるブライアンが一本指を立てて話しかける。
「冗談でしょう? 『ニヴルング』の中心近くでハッキングを独力で行えて、しかも自然と会話まで出来るAIだなんて、どちらか片方だけならともかく、両方を矛盾なく行えるのはありえませんよ」
 だが、ジェイソンは首を横に振った。
「ふむ、そうですか。開発者であるジェイソンがそういうならそうなんでしょうね」
「ねぇねぇ、あれは? ほら、人間の脳をスキャンして作ったって言う。あの……なんてったっけ? ドクター・ヒヨリ? の」
「あれは未遂で捕まりました。現段階でも、人間の脳をスキャンして作るAIの開発は禁止です」
 エスターの言葉にジェイソンがやはり首を横に振る。
 そこにピコンと通知が入る。
「ん?」
 エスターが空中のブラウザをスワイプするとそれは試合の対戦カードが決まった、という知らせだった。
「わ、対戦カード決まったんだ」
 そう言うと、部員達が一斉に空中に指を走らせる。……マーヴィン以外。
「ちょっと、マーヴィン」
「ん? どうした? レポートなら内容を考えてるところで……」
「対戦表が決まったのよ」
「え、本当か?」
 慌ててマーヴィンも空中に指を走らせる。
「俺達は第五試合かー」
「対戦相手は『エインヘリヤル』。こちらと同じく新進気鋭のチームですね。メンバーも若手が多いと聞きます」
 マーヴィンの言葉にジェイソンが頷く。
「逆に言うと情報が少ないってことよね。第一回戦となると、情報を集めるわけにもいかないし」
「まぁ。ルール次第ですが、私のツールを使う以上、負けなんてありませんよ」
 エスターが不安そうに呟くが、ジェイソンは冷静だ。
「他に、主要なところだと、『キャメロット』の相手が『ガンナーズ』。あのアウトレンジが得意な面倒な連中かー」
「そして、『エンペラーズ』の対戦相手は『パイレーツ』。あの船を呼び出す厄介な独自ツールユニーク使いがいるところですね」
「強豪にはきちんと強めのチームをぶつけつつ、新進気鋭のチームには新進気鋭のチームをぶつける。それから、強豪同士はトーナメント表の端と端か。Gougle社やるねー」
 クリストファーも楽しげに笑う。
「決めた!」
 そこで、突然、マーヴィンが大きな声を上げる。
「うお、部長どうしたのさ」
 クリストファー以下部員達が一斉にマーヴィンを見る。
「このままじゃ、俺、試合に集中できねぇ。GWTに行ってくる!!」
「えぇ、行きましょう」
 マーヴィンが堂々と宣言すると、意外にも真っ先にそれに同意したのがジェイソンだった。
「ど、どうしたのジェイソン。いつもなら真っ先に反対するところでしょうに」
「今の部長の調子では、勝てるものも勝てませんから、GWTを攻略して勝てるようになるなら、やる価値はあるでしょう」
 そう言って、ジェイソンがメガネの位置を直すと、きらり、とメガネが光る。
「よし、決まりだな。じゃあ早速――」
「メンバーの選定ですね。私と部長は決まりでしょう。連れて行けるのは後一人くらいでしょうか?」
「お、おう」
 ジェイソンがマーヴィンの言葉を遮って続ける。マーヴィンは一人で行く気だったので、少し気勢を削がれた形となったが、ジェイソンがついてきてくれるのは心強いので、黙っておく。
「じゃあ、ボク行きたーい!」
 いつも積極的なクリストファーが手をあげる。
「ダメです」
「えーなんでさー、ボク役に立つよ?」
「それは知っていますが、ダメです。なぜなら、あなたには不可能の象徴ヒッポグリフで撤退時の支援をしてもらう必要があるからです」
 クリストファー即ちアストルフォの独自ツールユニークの一つである不可能の象徴ヒッポグリフは、極めて高速で空中を飛翔する能力を持つ。
 これは撤退時に極めて有効になるはずだった。
 スポーツハッキングがこれだけ人気を集めている世界であっても、クラッキングが犯罪であることには変わりない。当然の如く、GWTへの侵入は犯罪であり、発覚すれば、マンハッタン高校ハイスクールの第一回GWT杯参加資格は取り消しとなる可能性も高い。
 失敗しても安全に撤退できる、という手札は、取っておきたいものだった。
「では、俺が行こう」
 ブライアンが手を挙げる。
「なるほど、黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールは、道中の安定性を高めるのに役に立ちそうです」
「決まりだな。GWTに向かおう」
 そう言って、三人が輪になって、椅子に座る。

 

「以降はスクリーンネームで呼び合いましょう。いいですね?」
「あぁ、大丈夫だ、ローラン」
 ジェイソンことローランの言葉に、シャルルマーニュが頷く。
「リナルドは?」
「もちろん、問題ないぜ」
 ブライアンことリナルドも問題なさげだ。
「第一階層はリナルドの黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールで安全に突破しましょう」
「おう、了解だ」
 黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールは一見するとただの赤毛の馬だが、PINGピンなしである程度の範囲の目標を捜索して回避する性質を持つ。
 リナルドが黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールを起動させ、六角形の集まりヘックスマップ上を移動していく。二人もそれに続く。
「なぁ、ローラン」
「なんです、シャルルマーニュ。一応周囲を警戒するタームですよ」
 移動中、シャルルマーニュがローランに話しかける。
「なんで、今回ついてきたんだ? 俺が腑抜けてて困るってのは分かるけど、直接ついてくる理由はなかっただろ?」
「腑抜けてる自覚はあったんですね」
「うるせぇな。それで、どうなんだよ?」
「仰る通りです。私が直接ついていく理由はなかった。それでも、ついてきた。その理由は」
「理由は?」
「単に、あなたがそこまで腑抜ける程の美人を見たかったからですよ」
「なんじゃそりゃ」
 真面目な顔でそんなことを言うローランにシャルルマーニュが苦笑する。
「本気ですよ。部長が人を見る目があるのは知っています。その部長がそこまで惚れ込む相手だ。私だって見てみたい」
「そう言うもんか」
 言っている間に、階層を抜ける。
「認証階層突破だな」
「えぇ、私のツールを使っているのだから、当然です」
 リナルドが笑うと、ジェイソンも軽く笑う。
「こっからはサーバ集積環境サーバ・ターミナルみたいだ。どうする?」
「目的の幽霊がどこにいるのか分からないことには動きようがないですね。下手に穿孔潜航アプリピアッサーを使って、気付かれたくないですし……。シャルルマーニュ、何かアテはないのですか?」
 ジェイソンの問いに、マーヴィンは一瞬逡巡し、そして答える。
「一つだけ……ある」
「なら、それで行きましょう。なんです?」
「ニンフと会った時、GWTの監視官カウンターハッカーPINGピンを打たれてちょっと違和感を覚えてな。その後分析して気付いたんだが、ニンフはPINGピンを吸収するみたいだ。だから、PING《ピン》を打てば……」
「なるほど。反応が返ってこない方向に幽霊がいる、と。不思議ですね、一種のステルス塗料のようなイメージでしょうか。では、穿孔潜航アプリピアッサーを使って、即座にPINGピンを実行。後は、スピード勝負ですね。リナルドを連れてきて正解だったようです」
 ローランが頷く。
「本当にいいのか? ここで穿孔潜航アプリピアッサーPINGピンを使えば、俺達は監視官カウンターハッカーに追われる身になる。捕まって正体がバレれば、最悪の場合、そのまま死刑って可能性だって、なくはないんだぞ」
 シャルルマーニュが二人に視線を向ける。
「何を今更水臭いことを。俺達は部長についてきてるんだぜ」
「リナルドに先に言われてしまいましたね。そう言うことです」
 リナルドとローランはそう言って軽く笑った。
「そっか。ならいくぞ!」
 三人が一斉にアプリケーション一覧ウェポンパレットから穿孔潜航アプリピアッサーを起動する。
 そのまま、ヘックスマップを俯瞰する視点ARモードからアバターを直接操る主観視点VRモードに移行し、三人で視界の先にいる赤毛の馬に飛び乗る。
「リナルド」
「あいよ」
 そして、リナルドがPINGピンを実行。分析ツールにかけると、ある方向からはPINGピンが返って来ていないことがわかる。
「こっちだな!」
 リナルドが黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールに拍車をかけ、一気に加速させる。
「見つけたぞ!」
「世界樹の中でPINGピンを打つとは命知らずめ!」
 馬に乗った騎士の見た目をしたアバター達が接近してくる。
「かかってこいよ! 俺の波打つ炎の剣フロベージュが相手だ!」
 そういうと、リナルドが名前の通りギザギザと波打つ剣を抜く。
 だが。
「いえ、ここは射程拡張の岩両断せし聖遺物の剣デュランダルが最適です。私にお任せを」
 しかしそれを制して、ローランが黄金に輝く剣を抜いた。
 一般に独自ツールユニークと呼ばれるアプリケーション達だが、そのほとんどが既製品の改造に過ぎないことが多い。開発者マギウスと呼ばれるような純粋なアプリケーション開発能力を持つARハッカーが今やほとんど存在しないためだ。かつてソフトウェア頼りのハッカーはソフト頼りの子供スクリプトキディと呼ばれたものだが、今では圧倒的にそちらが多数派だ。まぁ、だからこそ、スポーツハッキングが普及したとも言えるのだが。
 ともかく、それゆえに独自ツールユニークも、どのような改造を施したのか、によっていくつかの分類に分けられる。
 まず、威力拡張型。リナルドの波打つ炎の剣フロベージュや「キャメロット」のガウェインが持つ万物灼き尽くす太陽の牙ガラティーンなどがこれにあたる。その名前の通り、アプリケーションの威力を増幅させたものだ。
 次が、射程拡張型。ローランの岩両断せし聖遺物の剣デュランダルや「カタナガリーズ」のキューへー使うワキューなどがこれにあたる。アプリケーションの射程を増幅させたものだ。
 そして、付与効果拡張型。デュルパンの氷が如き輝きの剣アルマースや「クラン・カラティン」のヴァーミリオンが使う災厄の杖レーヴァテインなどがこれにあたる。アプリケーションの追加効果付与される効果を増幅させたものだ。
 中には射程拡張と付与効果拡張の複合型である「エンペラーズ」のルキウスが用いる 凍てつく皇帝の剣フロレントなども存在するし、完全に分類不能とされる「キャメロット」のアーサーが用いる勝利呼び覚ます精霊の剣エクスカリバーなどもあるので、あくまで分類したがる人間の性が分類したものにすぎない点は注意が必要だが。
 ちなみに、シャルルマーニュも千変万化虹の剣ジュワユーズも厳密にはこの分類には当てはまらない全く新しいアプリケーションだ、と開発者であるローランは自負している。
 ともかく、敵が群れているの状況は威力を拡張した波打つ炎の剣フロベージュよりも、射程を拡張した岩両断せし聖遺物の剣デュランダルの方が適している、とローランは言いたいのだろう。
「そうだぜ、リナルド。お前は黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールを御するのに集中してくれ」
 そう言って、シャルルマーニュも千変万化虹の剣ジュワユーズを抜いて、その性能を岩両断せし聖遺物の剣デュランダルへと変更させる。
 接近してくる騎士を二人が黄金の斬撃で迎撃していく。
 次々に接近してくる騎士を迎撃して行けるのは極めて気分が良く、シャルルマーニュは思わず、俺達、このままGWTを制覇できるんじゃね? などと思い始めたくらいであった。
 が、それは甘い目論みであったと言わざるを得ない。
 騎士達がやられ始めると見るや、また違う格好の監視官カウンターハッカーが追い縋ってきた。
 ライフル銃を片手の持った騎兵達だ。
「奴ら、銃持ってやがる!」
 リナルドが叫ぶのと、黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールの周囲に弾丸が命中するのは同時だった。
 この電子の海においては、銃や弓といった遠距離攻撃は扱いにくい武器ツールに当たる。
 現実の銃がそうであるように、僅かなブレで照準がブレるため命中させることが難しいし、大きさと攻撃範囲・威力が比例しがちな電子空間においては、どうしても威力も攻撃範囲も狭まる形となる。
 ただ、射程は拡張するまでもなく大幅に長いため、その点はやはり強いわけで、そこは流石、世界樹の監視官カウンターハッカー。馬に乗っているという揺れを感じながらの状況下でも的確に黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールに命中弾を出し始める。
「まずいぞ! 黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールが壊されたら逃げられない!」
「アストルフォを呼びますか?」
 リナルドの叫びを受けて、ローランがシャルルマーニュに問いかける。つまり、諦めるかどうかを、問うているのだ。
 今、敵が騎兵だけなのは、移動距離拡張型独自ツールユニークとでも言うべき黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールに乗っているからだ、もしこの利点が失われれば、速やかに彼らは移動拡張系のツールを使わない監視官カウンターハッカーにも追いつかれ、遠からず追い詰められるだろう。
「……」
 逡巡するシャルルマーニュ。
 ニンフには会いたい。
 本当はニンフの側を踵を返して去ったあの時から、もっと話をしたかったのだ。
 あの後、何度も「ニブルング」へ通ったが、ニンフには出会えずじまいだった。もしかしたら、自分が後を追ったが故に、「ニヴルング」へ行くのはやめることになったのかもしれない。
 だから、自分達は今、世界樹に、GWTにいるのだ。
 今が最大のチャンスだろう。きっと、こんな機会はもう訪れない。
 でも、だからと言って、仲間達を、そして仲間達の持つGWT杯で優勝すると言う夢を、潰えさせるわけにもいかなかった。
「シャルルマーニュ、どうする?」
「シャルルマーニュ、どうします?」
 リナルドとローランが選択を迫る。
「諦め……」
 決断をしたシャルルマーニュが言葉を紡ごうとする。
 直後。
「来てくれたんだ」
 シャルルマーニュにとっては聞き覚えのある声が、その耳に届いた。
「え?」
 地上を滑るようにニンフがその姿を現した。
「なんだ、新手か!」
「ニンフ!」
 監視官カウンターハッカー達の声と、シャルルマーニュの声が重なる。
「うん、会いに来てくれたの?」
「あぁ、会いに来たよ、ニンフ」
 並走する赤毛の馬とニンフ。
 二人が二人の世界に入ろうとするが、それを騎兵達は許さない。
「邪魔しないで」
 ニンフが空中に指の走らせると、世界にノイズが走り、周囲に壁が生まれた。
「なっ!?」
 驚きで、ローランが大きな声をあげる。
 それは間違いなく、GWTと言う環境そのものを強引に書き換える文字通りの離れ技だった。
 似たようなことは、過去に「キャメロット」のアーサーがしていたのをローランは知っていたが、あれも勝利呼び覚ます精霊の剣エクスカリバーが触れた場所、と言う制約があるはずだ。
 それをただ指を振るだけで遠隔地に行った、と言うのか。
「これで、安全」
 ニンフが立ち止まる。
 リナルドも馬にブレーキをかけさせ、止める。
「ニンフ、約束通り会いにきたよ」
「うん、ありがとう……えーっと……」
「あ、これ、シャルルマーニュ!」
「うん、よろしく、シャルル」
「しゃ、シャルル……」
 いきなり愛称で呼ばれ照れるシャルルマーニュ。
「完全に壁で隔離されていますね、監視官カウンターハッカーが内部に転送してくる様子もない。確かに安全なようです」
 冷静に、ローランが分析する。
「ってことは安全ってことか」
 とリナルドがほっと息を吐く。
「ありがとう、すごいんだな、ニンフ」
「……ううん。ここまできたシャルルの方がすごい」
「俺だけの力じゃないよ。仲間……、そうだ、紹介させてくれ。こっちがローラン、すごい開発者マギウスなんだ、で、こっちはリナルド、凄腕の騎兵だ」
「まぎうす?」
 聞き覚えのない、と言った風にニンフが首を傾げる。
「あ、マギウスってのはアプリケーションの開発者のことだ。俺の千変万化虹の剣ジュワユーズとか、この黄金心臓持つ赤毛の馬バヤールとか、前に君と会った時に乗ってた不可能の象徴ヒッポグリフとかも、ローランが作ったんだぜ」
「そうなんだ。すごいんだ、ね?」
 ニンフがその無垢な瞳をローランに向ける。
「大したことではありません。それをまとめ上げるシャルルマーニュの努力あってのことです」
「そうなんだ、やっぱり、シャルル、すごい」
「え、そうかな……」
 照れるシャルルマーニュ。
 その後ろで、ローランは考えていた。
(マギウスという単語を知らない? であれば、この子はハッカーではないのか?)
 しかしそれでは、イルミンスールとGWTを繋ぎ、イルミンスールの監視官カウンターハッカーを何人もKOしたのはどうやったというのだろう。
(それに、GWTにいるにしては、GWTの監視官カウンターハッカーも彼女を知らない様子だった……)
 ローランは一人で思案する。
 この少女、純粋無垢な少女にしか見えないが、果たして、と。

 

To Be Continued…

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「世界樹の妖精 -Nymph of GWT- 第3章」の大したことのないあとがきを
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