世界樹の妖精 -Nymph of GWT- 第3章「あなたと再び会うために」
マンハッタン
その頃、GWTではある陰謀が動いていた。
幼馴染のエスターはマーヴィンに
そこで出会った幽霊の正体たる「ニンフ」に、マーヴィンは一目惚れするのだった。
マンハッタン
「また部長、ボヘーとしてますね」
ホロキーボードとブラウザを開いたまま、手が止まっている様子のマーヴィンを見て、呆れたようにジェイソンが呟く。
「部長は今や幽霊さんにお熱だからねー」
楽しげにクリストファーが頷く。
「そんなに美人だったのですか、その幽霊とやらは」
「知らない、私とクリストファーは直接見てないもの」
そんなマーヴィンの様子が面白くない、とでも言いたげにエスターが首を横に振る。
「部長だけが実際に見て、部長だけが惚れ込んでいる、と。これが元で部が崩壊するとかいうことがないだけ頼みますよ」
やれやれ、とジェイソンも肩をすくめる。
「ほら、マーヴィン、手が止まってるわよ。部のレポート、今週中なんでしょ」
「え、あぁ、すまん」
エスターが叱咤すると、マーヴィンは謝罪し、再び手を動かし始めるが、すぐにまた手が止まってしまう。
「しかし、幽霊とは何者でしょうね。『ニヴルング』からGWTに移動したとのことでしたが、
「ニヴルング」は二本目の世界樹・イルミンスールに存在する
逆に言うと、イルミンスールと「ニヴルング」有する
少し前、「キャメロット」のアーサーを呼んでの講演会でアーサーが言っていた言葉をジェイソンは不思議と思い出す。
『かつて戦争があった。
戦争は、いかに効率よく人間を殺すか、土地を殺すか、国を殺すか、企業を潰すかを課題として様々な大量破壊兵器が開発され、挙句の果てには各国各企業に保有される大量破壊兵器の威力を合計すればこの惑星が何回も滅亡するほどにまで至っていた。
それが規制され、国家間での戦争が完全にはなくなっていないもののなりを潜めるようになったことはみんなが知っていることだ。それが、表向き、一般に知られる戦争の歴史。
だが、過去形にしてはいけない。現在進行形で戦争というものは起こっている。
戦いに赴く兵士が握るのは銃ではなくインターフェースユニット。
そこで展開される戦場では、「基本的に」誰も死ぬことはない。人間が死ぬことはナンセンスとされるこの戦場で兵士たちは戦い、そして一人、また一人と脱落していく。
兵士たちが、果ては国家、企業がこの戦場に求めるものは、情報。
今、俺達がスポーツ感覚でやっているこのハッキングこそが、戦争の最前線なんだ』
あまりに長い話なので、クリストファーなんかは途中で眠っていたような気がするが、ジェイソンは夢中になって聴いていた。
そもそも、同じ
つまり、アーサーはこう言いたいのだろう。もはや直接武力で打って出る時代は終わった。今や
だとすれば、GLFN四社が互いに自身の持つハッカーを展開して攻撃させていても不思議ではないし、その標的が仮想世界で最も発展を遂げているFaceNote社であっても不思議ではない
「けどね、マーヴィン言ってたのよ。ニンフは人間味のない女の子だった、って。あの美しさは人間じゃあり得ないって」
そんなことを考えていると、マーヴィンをいちいち覚醒させるのに飽きたらしいエスターが話に加わってくる。
「それは単に部長が狂っておかしくなっているだけでは? そもそもアバターの美しさに人間味も何もないでしょう」
エスターの言葉にジェイソンが首を横に振る。
「では、こういう仮説はどうだ? 件の幽霊は、実は超高性能なAIだ、というのは」
そこに部員の一人であるブライアンが一本指を立てて話しかける。
「冗談でしょう? 『ニヴルング』の中心近くでハッキングを独力で行えて、しかも自然と会話まで出来るAIだなんて、どちらか片方だけならともかく、両方を矛盾なく行えるのはありえませんよ」
だが、ジェイソンは首を横に振った。
「ふむ、そうですか。開発者であるジェイソンがそういうならそうなんでしょうね」
「ねぇねぇ、あれは? ほら、人間の脳をスキャンして作ったって言う。あの……なんてったっけ? ドクター・ヒヨリ? の」
「あれは未遂で捕まりました。現段階でも、人間の脳をスキャンして作るAIの開発は禁止です」
エスターの言葉にジェイソンがやはり首を横に振る。
そこにピコンと通知が入る。
「ん?」
エスターが空中のブラウザをスワイプするとそれは試合の対戦カードが決まった、という知らせだった。
「わ、対戦カード決まったんだ」
そう言うと、部員達が一斉に空中に指を走らせる。……マーヴィン以外。
「ちょっと、マーヴィン」
「ん? どうした? レポートなら内容を考えてるところで……」
「対戦表が決まったのよ」
「え、本当か?」
慌ててマーヴィンも空中に指を走らせる。
「俺達は第五試合かー」
「対戦相手は『エインヘリヤル』。こちらと同じく新進気鋭のチームですね。メンバーも若手が多いと聞きます」
マーヴィンの言葉にジェイソンが頷く。
「逆に言うと情報が少ないってことよね。第一回戦となると、情報を集めるわけにもいかないし」
「まぁ。ルール次第ですが、私のツールを使う以上、負けなんてありませんよ」
エスターが不安そうに呟くが、ジェイソンは冷静だ。
「他に、主要なところだと、『キャメロット』の相手が『ガンナーズ』。あのアウトレンジが得意な面倒な連中かー」
「そして、『エンペラーズ』の対戦相手は『パイレーツ』。あの船を呼び出す厄介な
「強豪にはきちんと強めのチームをぶつけつつ、新進気鋭のチームには新進気鋭のチームをぶつける。それから、強豪同士はトーナメント表の端と端か。Gougle社やるねー」
クリストファーも楽しげに笑う。
「決めた!」
そこで、突然、マーヴィンが大きな声を上げる。
「うお、部長どうしたのさ」
クリストファー以下部員達が一斉にマーヴィンを見る。
「このままじゃ、俺、試合に集中できねぇ。GWTに行ってくる!!」
「えぇ、行きましょう」
マーヴィンが堂々と宣言すると、意外にも真っ先にそれに同意したのがジェイソンだった。
「ど、どうしたのジェイソン。いつもなら真っ先に反対するところでしょうに」
「今の部長の調子では、勝てるものも勝てませんから、GWTを攻略して勝てるようになるなら、やる価値はあるでしょう」
そう言って、ジェイソンがメガネの位置を直すと、きらり、とメガネが光る。
「よし、決まりだな。じゃあ早速――」
「メンバーの選定ですね。私と部長は決まりでしょう。連れて行けるのは後一人くらいでしょうか?」
「お、おう」
ジェイソンがマーヴィンの言葉を遮って続ける。マーヴィンは一人で行く気だったので、少し気勢を削がれた形となったが、ジェイソンがついてきてくれるのは心強いので、黙っておく。
「じゃあ、ボク行きたーい!」
いつも積極的なクリストファーが手をあげる。
「ダメです」
「えーなんでさー、ボク役に立つよ?」
「それは知っていますが、ダメです。なぜなら、あなたには
クリストファー即ちアストルフォの
これは撤退時に極めて有効になるはずだった。
スポーツハッキングがこれだけ人気を集めている世界であっても、クラッキングが犯罪であることには変わりない。当然の如く、GWTへの侵入は犯罪であり、発覚すれば、マンハッタン
失敗しても安全に撤退できる、という手札は、取っておきたいものだった。
「では、俺が行こう」
ブライアンが手を挙げる。
「なるほど、
「決まりだな。GWTに向かおう」
そう言って、三人が輪になって、椅子に座る。
「以降はスクリーンネームで呼び合いましょう。いいですね?」
「あぁ、大丈夫だ、ローラン」
ジェイソンことローランの言葉に、シャルルマーニュが頷く。
「リナルドは?」
「もちろん、問題ないぜ」
ブライアンことリナルドも問題なさげだ。
「第一階層はリナルドの
「おう、了解だ」
リナルドが
「なぁ、ローラン」
「なんです、シャルルマーニュ。一応周囲を警戒するタームですよ」
移動中、シャルルマーニュがローランに話しかける。
「なんで、今回ついてきたんだ? 俺が腑抜けてて困るってのは分かるけど、直接ついてくる理由はなかっただろ?」
「腑抜けてる自覚はあったんですね」
「うるせぇな。それで、どうなんだよ?」
「仰る通りです。私が直接ついていく理由はなかった。それでも、ついてきた。その理由は」
「理由は?」
「単に、あなたがそこまで腑抜ける程の美人を見たかったからですよ」
「なんじゃそりゃ」
真面目な顔でそんなことを言うローランにシャルルマーニュが苦笑する。
「本気ですよ。部長が人を見る目があるのは知っています。その部長がそこまで惚れ込む相手だ。私だって見てみたい」
「そう言うもんか」
言っている間に、階層を抜ける。
「認証階層突破だな」
「えぇ、私のツールを使っているのだから、当然です」
リナルドが笑うと、ジェイソンも軽く笑う。
「こっからは
「目的の幽霊がどこにいるのか分からないことには動きようがないですね。下手に
ジェイソンの問いに、マーヴィンは一瞬逡巡し、そして答える。
「一つだけ……ある」
「なら、それで行きましょう。なんです?」
「ニンフと会った時、GWTの
「なるほど。反応が返ってこない方向に幽霊がいる、と。不思議ですね、一種のステルス塗料のようなイメージでしょうか。では、
ローランが頷く。
「本当にいいのか? ここで
シャルルマーニュが二人に視線を向ける。
「何を今更水臭いことを。俺達は部長についてきてるんだぜ」
「リナルドに先に言われてしまいましたね。そう言うことです」
リナルドとローランはそう言って軽く笑った。
「そっか。ならいくぞ!」
三人が一斉に
そのまま、
「リナルド」
「あいよ」
そして、リナルドが
「こっちだな!」
リナルドが
「見つけたぞ!」
「世界樹の中で
馬に乗った騎士の見た目をしたアバター達が接近してくる。
「かかってこいよ! 俺の
そういうと、リナルドが名前の通りギザギザと波打つ剣を抜く。
だが。
「いえ、ここは射程拡張の
しかしそれを制して、ローランが黄金に輝く剣を抜いた。
一般に
ともかく、それゆえに
まず、威力拡張型。リナルドの
次が、射程拡張型。ローランの
そして、付与効果拡張型。デュルパンの
中には射程拡張と付与効果拡張の複合型である「エンペラーズ」のルキウスが用いる
ちなみに、シャルルマーニュも
ともかく、敵が群れているの状況は威力を拡張した
「そうだぜ、リナルド。お前は
そう言って、シャルルマーニュも
接近してくる騎士を二人が黄金の斬撃で迎撃していく。
次々に接近してくる騎士を迎撃して行けるのは極めて気分が良く、シャルルマーニュは思わず、俺達、このままGWTを制覇できるんじゃね? などと思い始めたくらいであった。
が、それは甘い目論みであったと言わざるを得ない。
騎士達がやられ始めると見るや、また違う格好の
ライフル銃を片手の持った騎兵達だ。
「奴ら、銃持ってやがる!」
リナルドが叫ぶのと、
この電子の海においては、銃や弓といった遠距離攻撃は扱いにくい
現実の銃がそうであるように、僅かなブレで照準がブレるため命中させることが難しいし、大きさと攻撃範囲・威力が比例しがちな電子空間においては、どうしても威力も攻撃範囲も狭まる形となる。
ただ、射程は拡張するまでもなく大幅に長いため、その点はやはり強いわけで、そこは流石、世界樹の
「まずいぞ!
「アストルフォを呼びますか?」
リナルドの叫びを受けて、ローランがシャルルマーニュに問いかける。つまり、諦めるかどうかを、問うているのだ。
今、敵が騎兵だけなのは、移動距離拡張型
「……」
逡巡するシャルルマーニュ。
ニンフには会いたい。
本当はニンフの側を踵を返して去ったあの時から、もっと話をしたかったのだ。
あの後、何度も「ニブルング」へ通ったが、ニンフには出会えずじまいだった。もしかしたら、自分が後を追ったが故に、「ニヴルング」へ行くのはやめることになったのかもしれない。
だから、自分達は今、世界樹に、GWTにいるのだ。
今が最大のチャンスだろう。きっと、こんな機会はもう訪れない。
でも、だからと言って、仲間達を、そして仲間達の持つGWT杯で優勝すると言う夢を、潰えさせるわけにもいかなかった。
「シャルルマーニュ、どうする?」
「シャルルマーニュ、どうします?」
リナルドとローランが選択を迫る。
「諦め……」
決断をしたシャルルマーニュが言葉を紡ごうとする。
直後。
「来てくれたんだ」
シャルルマーニュにとっては聞き覚えのある声が、その耳に届いた。
「え?」
地上を滑るようにニンフがその姿を現した。
「なんだ、新手か!」
「ニンフ!」
「うん、会いに来てくれたの?」
「あぁ、会いに来たよ、ニンフ」
並走する赤毛の馬とニンフ。
二人が二人の世界に入ろうとするが、それを騎兵達は許さない。
「邪魔しないで」
ニンフが空中に指の走らせると、世界にノイズが走り、周囲に壁が生まれた。
「なっ!?」
驚きで、ローランが大きな声をあげる。
それは間違いなく、GWTと言う環境そのものを強引に書き換える文字通りの離れ技だった。
似たようなことは、過去に「キャメロット」のアーサーがしていたのをローランは知っていたが、あれも
それをただ指を振るだけで遠隔地に行った、と言うのか。
「これで、安全」
ニンフが立ち止まる。
リナルドも馬にブレーキをかけさせ、止める。
「ニンフ、約束通り会いにきたよ」
「うん、ありがとう……えーっと……」
「あ、これ、シャルルマーニュ!」
「うん、よろしく、シャルル」
「しゃ、シャルル……」
いきなり愛称で呼ばれ照れるシャルルマーニュ。
「完全に壁で隔離されていますね、
冷静に、ローランが分析する。
「ってことは安全ってことか」
とリナルドがほっと息を吐く。
「ありがとう、すごいんだな、ニンフ」
「……ううん。ここまできたシャルルの方がすごい」
「俺だけの力じゃないよ。仲間……、そうだ、紹介させてくれ。こっちがローラン、すごい
「まぎうす?」
聞き覚えのない、と言った風にニンフが首を傾げる。
「あ、マギウスってのはアプリケーションの開発者のことだ。俺の
「そうなんだ。すごいんだ、ね?」
ニンフがその無垢な瞳をローランに向ける。
「大したことではありません。それをまとめ上げるシャルルマーニュの努力あってのことです」
「そうなんだ、やっぱり、シャルル、すごい」
「え、そうかな……」
照れるシャルルマーニュ。
その後ろで、ローランは考えていた。
(マギウスという単語を知らない? であれば、この子はハッカーではないのか?)
しかしそれでは、イルミンスールとGWTを繋ぎ、イルミンスールの
(それに、GWTにいるにしては、GWTの
ローランは一人で思案する。
この少女、純粋無垢な少女にしか見えないが、果たして、と。
To Be Continued…
第4章へ!a>
「世界樹の妖精 -Nymph of GWT- 第3章」の大したことのないあとがきを
こちらで楽しむ(有料)ことができます。
この作品を読んだみなさんにお勧めの作品
AWsの世界の物語は全て様々な分岐によって分かれた別世界か、全く同じ世界、つまり薄く繋がっています。
もしAWsの世界に興味を持っていただけたなら、他の作品にも触れてみてください。そうすることでこの作品への理解もより深まるかもしれません。
ここではこの作品を読んだあなたにお勧めの作品を紹介しておきます。
この作品の更新を待つ間、読んでみるのも良いのではないでしょうか。
世界樹の妖精 -Fairy of Yggdrasill-
本シリーズ『世界樹の妖精』の一作目に当たる作品です。
一本目の世界樹「ユグドラシル」を舞台に、妖精を巡る戦争が始まります!
主人公は本作でもトップクラスのARハッカーと評されている「アーサー」!
本作は『世界樹の妖精』シリーズのオールスターのような作品になっていますので、シリーズを全作読んでおくと、本作をより楽しめるかもしれません。
世界樹の妖精 -Brownie of Irminsul-
本シリーズ『世界樹の妖精』の二作目に当たる作品です。
二本目の世界樹「イルミンスール」に存在するメタバースSNS「ニヴルング」を舞台に、妖精「ブラウニー」を巡る陰謀が蠢きます!
物語のキーキャラクターとして本作でもトップクラスのARハッカーと評される「ルキウス」が登場します!
本作は『世界樹の妖精』シリーズのオールスターのような作品になっていますので、シリーズを全作読んでおくと、本作をより楽しめるかもしれません。
世界樹の妖精 -Serpent of ToK-
本シリーズ『世界樹の妖精』の三作目に当たる作品です。
三本目の世界樹「Tree of Knowledge」を所有する企業「lemon社」の陰謀と戦うため、妖精「サーペント」と共に戦います!
本作でも登場するキャタクターが多数登場します。
本作は『世界樹の妖精』シリーズのオールスターのような作品になっていますので、シリーズを全作読んでおくと、本作をより楽しめるかもしれません。
そして、これ以外にもこの作品と繋がりを持つ作品はあります。
是非あなたの手で、AWsの世界を旅してみてください。
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。