皐月の空、ドラゴンと舞う 第14話「皐月の空、戦友と舞う」
突如、太平洋上、ポイント・ネモに出現した「ゲート」と呼ばれる異世界との通路は、「ドラゴン」としか形容できない空飛ぶトカゲ型の魔物を吐き出し始めた。
後に「魔法」と呼ばれることになる技術を用いるドラゴンは、バリアーとでも言うべき壁を周囲に纏っており、見た目に反して通常兵器での撃墜は困難を極めた。
そこでなんとか撃墜したドラゴンを解体研究して発見された「魔法因子」を適性のある子供に移植することで「魔法使い」を人工的に生成することに成功。これをドラゴンとの戦闘に割り振った。
だが、魔法はまだ不完全な技術だ。
そこで、特に魔法に優れた生徒を「生徒会」に所属させ、彼らに特殊任務を与えた。
それが「生存」。戦場に誰より早く駆けつけ、気付かれないように息を潜めて全ての情報を集め、そして帰投する。
ひいては、それが人類全体の魔法技術の発展と魔法戦術の発展に繋がるはずだと信じて。
これはそんな死神と蔑まれる生徒会所属の五番機、
皐月のパイロット、
突如として所属不明機からデータの不正アクセスを受けた皐月は瑞穂の見事な攻撃テクニックにより、所属不明機を撃退した。
憧れの生徒会長・
自衛隊上層部は所属不明機がアメリカ機ではないかと疑っていた。
戦術偵察部隊としていつも通りの戦術偵察をこなす皐月。しかし、帰投した皐月に再出撃が命じられる。生徒会2番機、如月からの更新が途絶えたというのだ。
北方航路上空で皐月が発見したのは、ゴーストラプターという俗称が与えられた所属不明機だった。瑞穂はゴーストラプターと交戦するが、如月の救難信号をキャッチし、保護を優先する。
デブリーフィングを受ける瑞穂。そんな中で、皐月の
自分のせいで、如月のパイロットである
彩花のお見舞いに行った瑞穂は、彩花がもう飛べないかもしれない、という事実と、新型のスーパーラプターであるBlock13に搭載されるオートマニューバモードについての話を聞く。それは操縦者の手を借りずとも自動で飛行するというモード。彩花はその存在をハワイの戦術偵察部隊、アメリア・カーティス少尉(
もう一度彩花が飛べるように、そんなことを考えながら廊下を歩いていると、瑞穂はいきなり背中を叩かれる。
背中を叩いてきたのは、ソーサラー2:
浅子は生徒会はもっと積極的に戦うべきだ、と主張し、それができないのは生徒会が弱いからだ、と挑発する。
瑞穂はこれに真っ向から反論。二人はシミュレータ室で模擬戦をして決着をつけることとした。
模擬戦は白熱したが、浅子渾身の一撃が瑞穂機に命中し、瑞穂機は機体動作が低下してしまう。このままでは海に軟着陸する、という時、視界内のモニターに見覚えのない表示が出現する。
瑞穂は見事勝利したが、それは皐月からと思われる不正アクセスのおかげだった。瑞穂は浅子に讃えられつつも、複雑な思いを胸に残すのだった。
情報収集任務の帰り、瑞穂は思い切って有輝に不正アクセスについて相談を持ちかける。凛や生徒会の整備隊長を務める
有輝にアイスクリームを奢ってもらった瑞穂は、そこで、浅子と彩花と出会い、友情を再確認する。
凛と仲直りできないままの瑞穂は、緊急出撃を命じられる。アメリカの潜水艦を防衛するという一風変わったその任務のためにワイバーンと交戦する瑞穂だったが、そこに再び、ゴーストラプターが現れる。
ゴーストラプターとの光線中、突如フィヨルズヴァルトニル級潜水艦がジャックされ、無人の戦闘機が発進するという事態に陥る。やったのは皐月。皐月はついに、自分一人で飛べる翼を手にしたのだ。
「こちらは皐月である。私はゴーストラプターを叩く。大井三尉、あなたは新種のドラゴンを攻撃せよ……だと?」
新たに皐月の機体となったスーパーラプターから発せられたらしいその通信内容を聞き、
皐月が新型機を強奪して空を飛んだだけでも驚きなのに、メッセージまで送ってくるとなると、もはや驚きという言葉では言い表せない。
「こちら、
本来のコールサインである皐月は今、別の戦闘機となってゴーストラプターと交戦しているから、ということだろう。
「こちらソーサラーリーダー。全く事情が分からんが、このタイミングで友軍機が増えたのは助かる。こちらは引き続きゴーストラプターを叩く」
「それと、大井三尉、ずっと名前を名乗るのはまどろっこしいだろ。臨時のコールサインを与える。お前のコールサインはソーサラー
「え……」
「聞こえなかったか? 復唱しろ、ソーサラー5」
「はい、ソーサラー5、拝命しました」
「よろしい。ではそちらは任せたぞ、ソーサラー
空中のゴーストラプターに向け、二機の戦闘機が向かう。一機はライトニングⅡ、晃の機体だ。もう一機はスーパーラプター、皐月の機体だ。
「私もこいつと戦うよ、
「うん、行こう、瑞穂」
一方、海上の二匹の蛇のような見た目をした新種ドラゴンに向け、二機の戦闘機が向かう。一機はライトニングⅡ、浅子の機体。もう一機はスーパーラプター、瑞穂の機体だ。
さらに二人の機体に続いて、ソーサラー
二匹の新種が無数の棘から光弾を放つ。
四機は上下左右に散って回避する。
「ソーサラー2より瑞穂、及びソーサラー3、4へ。私と瑞穂で敵根元の海面を凍らせる。その隙に攻撃して。やれるよね、瑞穂?」
「うん。ソーサラー5、
「ソーサラー3、
「ソーサラー4、
部隊を仕切ったことのない瑞穂にはどうやって部隊の仲間と共闘するかというビジョンがない。こうして浅子が提案してくれるのは頼もしかった。
「ソーサラー2、
海面に向けてダイブしていた浅子機がそのまま海面スレスレを飛行、
「ソーサラー5、
上空に急上昇していた瑞穂機は一転降下を開始し、ウェポンベイを開いてアムラームを放つ。
ミサイルを迎撃しようと、新種がそれぞれ光弾を放つ。
だが、それこそが二人の狙い。
ミサイルの迎撃に光弾が割かれた隙をついて、瑞穂機と浅子機はそれぞれ新種に接近。機関砲の照準をつけるためのレディクルを新種の海面から出ている部分に合わせる。
「
「
込められた意味は多少違えど、異口同音にその詠唱が発生し、海面が凍りつく。
それを確認するより早く、二機は急上昇し、新種との激突を防ぐ。
「火炎よ、目標を燃やし尽くせ、ファイア! ソーサラー3、
「炎よ、その熱で全てを燃やせ、ファイア! ソーサラー4、
さらにそれぞれに対し、残り二機による火炎魔法を内包したアムラームが放たれ、二匹が激しく炎上する。
「まだ生きてる! 瑞穂!」
「浅子!」
声を掛け合うと同時、二機は同時にハイGターン。それぞれに向けて、機関砲から石の礫を放つ。
それぞれの石の礫が新種二匹それぞれの頭部を粉砕し、今度こそ二匹の新種を撃破した。
「やったわね、瑞穂!」
「うん、浅子!」
見事な連携を成立させ、浅子と瑞穂は上機嫌だ。
一方その頃。ゴーストラプターと晃機と皐月は激しい空戦を繰り広げていた。
晃機も皐月も見事な空戦機動でゴーストラプターを追い詰めている。
「あの皐月を名乗る無人機、なかなかな動きだ。まるで俺の動きが分かっているかのようだな」
晃は思わず、皐月の空戦機動の見事さに舌を巻く。それもそうだろう。皐月はこれまで散々、上空から晃を含むソーサラーチームの動きを観測してきたのだ。ましてずっと引率を続けている晃の動きは特に多く記録されているはずだった。
だが、晃は魔法使いではないし、皐月もまた、コンピュータであるため魔法が使えない。
対して、ゴーストラプターは魔法を使う。
二機の合理的な空戦機動に対し、ゴーストラプターは奇想天外な風の魔法による動きで回避するため、なかなか追い詰めきれていない。
「なんだあの移動方法は。あんな急速に飛び上がりまくってたら、Gでブラックアウトしても不思議じゃねぇのに」
魔法垂直移動を連続で使用し、ゴーストラプターが皐月の背後をその正面に捉える。
「まずい! 避けろ、皐月!」
直後、皐月は推力偏向ノズルを大幅に動かし、機体がその場で縦に二回転し、後方から迫るゴーストラプターを上に回り込みながら回避する。
雷の一撃を回避したと思った直後、ゴーストラプターは背後を取られるのを警戒し、減速しつつ、左にバンク。
対する皐月は突如としてエンジンの
爆発。ゴーストラプターのエンジンが破壊される。だが、皐月は強引な機動と失った速度によって、
「やったな! だが、それだと落ちるぞ!」
スピンに入った皐月を意識しつつも、動きが鈍った隙を見逃さず、晃機が
ゴーストラプターは派手に爆発し、そこにはもはやなんの跡形も残らなかった。
そうして、ゴーストラプターが撃墜されたのを確認すると同時、いつの間にか、体勢を立て直していた皐月は
【> This is SATSUKI. ETA 1948】
生徒会の統合コンピュータに自身の到着予定時刻を残して。
「あの状態からどうやって……。まあいい、全機無事だな?」
それを見届けた後、晃が声をかける。一人一人、ソーサラーチームも報告する。
「君はどうだ、ソーサラー5?」
「え? 私は……」
「ソーサラーチームと共に戦ったんだ、それに今は私が最高階級になる。指揮下に入ってもらうぞ。さらに言えば、お前は、今はソーサラー5。俺の編隊機だろ?」
「はい。ソーサラー5、問題ありません」
優しげな晃の声に、瑞穂は返答する。
「よし、浜松基地に向かう。と言っても、発進したばかりの皐月と違って、こっちは燃料が少ない。浜松基地と通信が取れ次第
晃の言葉に、瑞穂を含む全員が了解、と応じる。
なんにしても、戦いは終わった、と瑞穂は周囲のライトニングⅡと速度を合わせつつ、息を吐く。
ゴーストラプターは落ちたようだし、スーパーラプターも新しく増えた。
皐月の扱いがどうなるのかは分からないが、十二機になった以上、
瑞穂はそれが嬉しくてならなかった。
ようやく、元の日常が戻ってくるような気がして。
晃が聞けば笑うだろう。元の日常? それはドラゴンのいない日々を指すのだ、と。
それはその通りだろう。けれど、瑞穂にとっては今のこの瞬間、ドラゴンが当たり前に攻めてくる今の時代こそが、日常なのだから。
「ね、瑞穂。また二人で一緒に飛べるといいわね」
「うん。そうだといいね、浅子」
そんな私語を話して、「一応作戦中だぞ」と晃に怒られたりしながら。
To be continued...
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