飛艇少女メアリーと白銀の守護者 第5話「生きたビーム」
大地がなく「死の雲海」と呼ばれる雲に覆われ、点々と存在する塔「ジッグラト」にしがみついたわずかな島々で人々が暮らし、空飛ぶ船「飛空挺」が島々を結んでいる世界。
メアリー護衛商船のメアリーとマモルは唯一短徳で浮遊しているとされる伝説の浮遊大陸、アルカディアを目指して旅をしていた。
それから一ヶ月ほど前、マモル・クツナは宇宙空間でオービタル・レイバー「トネリコ」に乗って、戦艦と戦闘してた。
しかし、敵のFTLジャンプに巻き込まれ、未知の世界に転移してしまう。そこで飛空艇に変身できる少女、メアリー・ブリガンティンと出会う。
メアリーに案内され、魔法増幅塔「ジッグラト」に向かったマモルはそこで、御子と呼ばれる存在からこの世界について聞かされる。この世界は「波」によって構成されており、歌やヴォカリーズで不思議な「魔法」を発生させられる。それはこの今住んでいる島でさえそうなのだ、と。
そして、マモルのような異世界からの転移者「天からの落とし物」の秘密が、「アルカディア」に眠っていると聞いたマモルはそこに向かうことを決める。そのために、世界中を旅するメアリーのメアリー護衛商船団に所属することを決めるのだった。
マモルとメアリーは空港への帰り道、山賊と出会う。躊躇するマモルの前で、躊躇なくメアリーは盗賊を殺そうとする。マモルは世界の正しさについて想いを馳せる。
二人はアルカディアの探し方を考え、次なる目的地として、最寄りの大きなジッグラトのある島を目指すことにする。
「ロングレンジ・スリー? ロングレンジスリー? 大丈夫か?」
どこからか声が聞こえてくる。
目を開くと、トネリコの機内、コックピットだった。
(あれ、俺はターミナル宿の二階で寝た筈だが……)
そう、メアリーが宿代をケチって一部屋しか借りなかったのだ。マモルは猛反対したのだが、結局、メアリーはそれには耳を貸さず、晩飯を食べると同時に床に寝袋を敷き、寝入ってしまった。
マモルは「俺が善良な人間だったからいいもの」を、と呟きながら、ベッドに入ったのを覚えている。
(まぁ、自分だってベッドで寝たいだろうに、自分から寝袋に入ったところには感謝すべきなんだろうが……)
「バイタルは安定しているようだな。繰り返す、ロングレンジ・スリー、
と、そうだ、今は現状の把握だ。
コックピットの右モニタを見ると、ロングレンジ・ワンから通信が入っている、と出ている。
(どういうことだ? 元の世界に戻ってきたのか?)
「ロングレンジ・スリー、しばらく意識を失っていたようだ。現在は問題なし」
自分がどこで保護されたのか、なぜ今、トネリコに乗っているのか、聞きたいことは山ほどあったが、とにかく聞かれていることに答えねばなるまい、とマモルは応じる。
「よし、間も無く戦闘宙域に入る。追加ブースタを
「了解」
左のモニタを確認すると、今のトネリコのバックパックには巨大な
マモルの所属する部隊はロングレンジ部隊と呼ばれている。
通常、人型兵器であるオービタル・レイバーは燃料と推進剤が長持ちしない関係で、基地や艦隊から離れて行動することはないが、ロングレンジ部隊はこの追加ブースタで加速し、長距離を移動する事ができた。すると、敵から見ると本来の艦隊及び基地の配置からは考えられない地点で攻撃を受けることになるため、本来の対オービタル・レイバー戦では考えられないような奇襲戦を仕掛けることが出来る。
代表的なのが移動中の敵艦隊を攻撃することだろう。
本来、艦隊同士がぶつかり合えば、砲撃と航宙魚雷の押収の中をそれぞれの艦隊から発艦したオービタル・レイバーが互いの艦艇を潰そうと接近しようとし阻み、という戦いになる。
だが、対オービタル・レイバー戦を想定していないタイミングでは、艦隊はオービタル・レイバーを展開していない場合が多い。オービタル・レイバーの推進力では艦隊の航行速度に追従することが出来ない上、FTLジャンプの度に着艦と発艦を繰り返すのは整備上の手間があるためだ。
なので、ロングレンジ部隊は敵がオービタル・レイバーを展開するまでの間、無防備に近い艦隊を攻撃し続ける事ができる。
などといった基本を思い出しつつ、マモルは追加ブースタを切り離す。燃料タンクが空っぽとなった追加ブースタは戦闘の邪魔となるためだ。
「以降、電波探知を避けるため無線封鎖を実施する。俺が初撃を放つ。それを確認次第、
ロングレンジ・ワンの言葉に思わずマモルは舌打ちする。こっちは事情を色々聞きたいのに、その前に無線封鎖とはな。
無線は電波を用いる。そして、電波は傍受する事が可能だ。つまり、もし無線通信を行い続けると、敵艦隊に発見され、折角の長距離移動が無意味になるばかりか、敵オービタル・レイバーが展開され、危機的状況に陥る可能性も高かった。
なので、無線封鎖は理にかなっているのだが、現在のマモルの心境的には、困ったものであった。
たっぷり一分、無線封鎖の旅が続く。
「無線封鎖中に失礼します、前方35度方面に推進炎を視認!」
「なんだと!?」
直後、赤色の光がこちらに向かって伸びてくる。
重金属粒子のビームだ。
「
ロングレンジ部隊所属の機体が一斉に
「敵機確認! エレスが六機! 前方の一機は赤い!」
エレスは反連合勢力の使うオービタル・レイバーの名前だ。だが、それにしても赤だと?
マモルはペダルを操作して、敵部隊を正面に向け、モニタをタップして拡大する。
なるほど、そこには赤く塗装されたエレスが存在した。
重金属粒子ビームそのもののような色合いをした、かのエレスは「生きたビーム」と呼ばれ、恐れられる反連合勢力のエース機だ。
単なる士官ではなく、自ら考え、将校クラスの権限を与えられて、独立部隊を率いる彼の名前はリッパー・ロジャース。
本来恐ろしいはずの生きたビームとの邂逅。しかし、マモルの気持ちは落ち着いていた。
というのも。
「なんだ、夢か」
リッパーは既に死亡しているはずだからだ。それどころか、マモルがこの手で撃墜したのだ。
今でも覚えている。FTLジャンプ待機状態に入り、一瞬停止した敵艦艇にプラズマセイバーで突き刺してやったのだ。そのまま、一気に後方に飛び下がり、肩のレーザーガンで蜂の巣にしてやった。
その直後、奴は艦艇ごとFTLジャンプしていったため、直接死亡は確認していないが、あの状態から生存できるわけがないし、情報部の見立てでも死亡している可能性が高いと伝えられていた。
なので、これは過去を思い返している夢だ。
「チッ、『生きたビーム』とはな。こちらの航路を読んでいたのか。だが、うちのエースの方が強い。各機、
リッパーとの戦いは紙一重だった。もう一度戦えば結果は分からないが、まぁ所詮は夢だ。
マモルは操縦桿の右人差し指ボタンを二連タップして、武装選択し、プラズマセイバーを抜刀しつつ、左人差し指の中指ボタンをタップして、肩のレーザーガンを
レーザーガンで周囲の緑色をしたエレスに対して牽制射を放ちながら、赤いエレスへ向けて加速する。
対する、赤いエレスも腰からプラズマセイバーを抜刀。マモルのトネリコに向けて加速を始める。
「はっ!?」
目を覚ます。
「あ、マモル。起きた?」
心配そうにメアリーが側で見つめていた。
「大丈夫? うなされてたけど。風邪でも引いた?」
「い、いや、風邪じゃない。ただ、悪夢を見ていただけだ」
流石はエースパイロット。二度目は勝てなかったか、とマモルが呟く。
「夢? マモル、夢見たの!? すごいや」
「夢の何がすごいんだ」
ラフモードになっていたパイロットスーツの袖についたボタンを押して、密着モードに切り替える。
「だって、夢って、他人の無意識とシンクロしたって事でしょ?」
「人の、なんだって?」
「無意識とシンクロ。ボク、夢は見た事ないんだよねー」
どうやら、この世界にはまだまだマモルの知らない法則があるらしい。
「まぁいいや、行こ。旅客と貨物の準備はもう出来てるってさ。桟橋の五番で待ってくれてるらしいから、朝ごはん食べたら急がなくちゃ」
「あぁ、そうだな」
マモルも立ち上がる。
なんだか体に密着したパイロットスーツが嫌な汗を吸って少しべっちょりとする。すぐ乾くと思うが、なんだか気持ち悪かった。
To be continued...
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