三人の魔女 第2部第2章「面談の魔法」
ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。
しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。
その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。
なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。
コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、
しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。
またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは
絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。
タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?
海岸に流れ着いたエレナは突如としてビームを撃つ目玉のような模様の球体の攻撃を受ける。合流してきたジャンヌとの協力によりなんとか倒すことに成功する。
その後アリスとも合流することに成功。アリスは大事なヘッドホンを無くしたことに衝撃を受け、探し続けていたらしい。
天体の配置から現在位置をソマリアのボサソだと特定したエレナはナイル川を北上しカイロに向かうことを提案する。
その頃プラトとソーリアは中国でシベリア鉄道に乗ろうとしていた。プラトはそこにある動いていないはずの油田が何かに電力を消費していることを訝しむが、電車の到着を受けて調査を諦め、移動を優先する。
そしてそんな二人の様子をりんごを齧りながら眺める何者かが一人。
視点は三人の魔女に戻り、一週間後。不可解な事にアリスの消耗が異常に早い。
原因が睡眠不足にあるのは明らかだ。三人はリフレッシュのためビジネスホテルに宿泊することを決める。
しかし翌日の朝、海岸でエレナを襲撃してきた黒い目玉が襲撃してきた。黒い目玉は魔女を狙うわけではなくただ暴れ回っているだけの様子だ。三人は魔女狩りに目をつけられることを恐れ、混乱する町を背に歩き出すのだった。
しかしその後もアリスの様子は変わらなかった。アリスは頑なに眠ろうとしない。
不思議に思う一行に再び黒い目玉が襲撃してくる。寝落ちしたアリスを背負いながら逃げる一行だったが、目覚めたアリスが突然暴れ出す。そしてあろうことかエレナとジャンヌに魔法を使い、一人どこかに逃げ出したのだった。
そこに運悪く現れる魔女狩り達。追われる二人を魔女を息子に持つ父・オラルドが庇ってくれた。
一方その頃、ヨーロッパに到着したプラトとソーリアもまた、謎の理由で仲違い。それぞれ別の道を歩きだしたのだった。
アリスが一人飛び出した理由が分からないエレナにジャンヌは自らの推測を告げる。謎の黒い目玉、アリスが「砲台」と呼んだそれは、アリスが眠ってしまうことで魔法の制御を失ってしまい生じた産物ではないか、と。その理由は魔法の制御に使っていたヘッドホンを無くしたからではないか、と。
そしてジャンヌはアリスは中央アフリカ共和国のラウッウィーニ商会の施設に隠れているのではないか、と推測。二人はそちらへ向かう事にした。
一方、プラトは自らの好奇心に突き動かされ、フランスの原子力発電所を調査していた。ところがそこに現れたのはソーリアと見知らぬ似非侍のような魔女。プラトは二人の攻撃に対処しきれず、退散するのだった。
中央アフリカ共和国に向かう二人はそこで魔女の共同体と出会う。共同体の力を借りた二人は魔法を組みわせて車を作り、一気に中央アフリカ共和国に向かうのだった。
一方、ソーリアはプラトが変身した矢を放つ謎の魔女に追われていた。そこに助けに現れたのは魔女アイザック。彼は魔女同士の会合があると言い、ソーリアを誘う。
アリスがいると目される町、ビラウに辿り着いた二人だったが、そこは既に魔女狩りに包囲されていた。
アリスは魔女狩りに追い詰められ、死を覚悟していたが、そこに彼女と縁のある御使い・
そこに車に乗って助けに現れたのはエレナとジャンヌの二人。エレナはヘッドホンをアリスに手渡し謝罪。ここに三人の魔女は再集結したのだった。
一方、御使いの出現という緊急事態に、新たな異端審問官が動員されようとしていた。
元リチャード騎士団筆頭騎士・メドラウド二世が三人の魔女を追い詰める。サリエルは自身を囮とすることで、三人を逃がそうとするが、メドラウド二世はそれを許さない。
しかし、エレナとアリスの「魔女狩りは正義なのか」という問いかけにメドラウド二世の剣は揺らぐ。結局その場は見逃してもらうことが出来たのだった。
その頃、囮となっていたサリエルは凡百の魔女狩りを殲滅し、優秀な部下二人も殺そうとしていた。そこに現れたのは白い粒子を操る黒髪長髪の女性。彼女は人間離れした身体能力で化け物と化したサリエルを撃破した。
サハラ砂漠に入った三人は、そこでプレッパーと呼ばれる反統一政府の人々と知り合う。
ところが、彼らの中にも意識の差があり、三人の居場所が魔女狩りに知られてしまう。急いで逃げようとする一行の前に現れるのはサリエルを下した黒髪長髪の女性だった。
そこに助けに現れたのは不可視の剣を操る魔女ムサシ。
戦闘力の高いムサシの攻撃に黒髪長髪の女性は少しの間苦戦するが、すぐに形勢は黒髪長髪の女性に有利な形に逆転する。
しかし、黒髪長髪の女性必殺の三段突きを前に、魔女達が黒髪長髪の女性の視界から消える。
もうひとりの助けに現れた魔女アビゲイルの力だった。
魔女アビゲイルは三人のことを知っており、定住地を持っているから来るようにと促す。
アビゲイルに案内された一行は「空間」の魔女エウクレイデスことユークリッドの作り出した「ユークリッド空間」を通り、彼らの定住地へと向かう。
その頃、三人の魔女からの言葉に疑念を抱き、神秘根絶委員会の資料室に忍び込んだメドラウド二世はついに、魔女狩りが神秘を例外なく刈り取る組織であると知る。
そこに現れたアンジェ・キサラギと交戦するメドラウド二世は事前に協力を取り付けておいた二人の協力者、妖精使い・フェアと超越者・英国の魔女の協力を得て、脱出に成功する。
その戦いが終わった頃、ついに一行はユークリッド空間抜け、アビゲイル達の定住地「キュレネ」へとたどり着いた。
そこはドーム上のユークリッド空間で隔絶された安全地帯、丘の上に築かれた見事な都市だった。
「キュレネ」に到着し、一晩を暖かいシャワーとフカフカのベッドでゆっくり休んだ三人は、充実した朝ごはんを食べ、久しぶりに素晴らしい一日の始まりを味わった。
しかし、少しずつ「キュレネ」への疑問を覚えるエレナ、アビゲイルを信用出来ないアリス、「キュレネ」に居住を望むジャンヌ、と三人の思想にはずれが生じ始めていた。
三人はそんな状態のまま、かつて自分たちを助けてくれた魔女の片割れ、ソーリアと再開する。
しかし、三人はそれぞれ自身の思惑に従って行動した結果、衝突を始めたように見え始め。三人の思惑はすれ違いを続けるように見える。
そして、その夜。
アリスが昼ごはんを食べた食事処に忍び込む。そこでアリスの視界に映ったのは、それを妨害せんと立ち塞がるジャンヌの姿であった。
だが、立ち塞がったジャンヌはアビゲイルの見せる偽物だった。
本物のジャンヌとソーリアと合流したアリスは、「キュレネ」からの脱走を目指す。
エレナは引き続き、アビゲイルの嘘に騙されており、惑わされていたが、アリス達を信じ合流した事で、疑念を晴らす。
エレナの機転で、アビゲイル達に勝利した三人の魔女とソーリアは、「キュレネ」を追放され、「キュレネ」に匹敵する魔女の避難地を作るための組織「魔女連合」の結成を宣言するのだった。
「魔女連合」一行は、「哲人同盟」のソクラテスと出会い、「魔女連合」に興味を示す魔女達と対話するため、「哲人同盟」の定住地へと向かう事になった。
「みてみて、アリス! この子、私と属性が同じなんだって!」
哲人同盟の本拠地にて、面接をしていたエレナが嬉しそうにアリスに報告する。
エレナの隣にいる少女の名前は魔女プトレマイオス、エレナが語った通り、「星」の魔女である。
「へぇ、で、『魔女連合』に入るの?」
「ううん、ここが居心地いいんだって」
アリスの問いに、エレナは首を横に振る。
「じゃあ、なんで連れてきたのよ」
「だって、属性が同じなのよ。嬉しいじゃない。この喜びを分かち合いたくて」
エレナは随分浮かれているようだ。
「ね、プトレマイオスさん。……いえ、トレミーって呼んでいいかしら?」
「えぇ、構いませんよ、エレナさん」
「じゃあ、トレミー。あとで、魔法の使い方の違いとかを色々聞きたいわ、いいかしら?」
「勿論」
一方、アリスはあまり楽観視出来る状況ではない、と感じていた。
魔女が魔女らしく生きられる世界、を掲げる「魔女連合」に憧れを感じる魔女は少なくない。それはそうだろう、誰だって自分に出来ることを理不尽に制約されたくはないのだ。
だが、「魔女連合」には「キュレネ」や「哲人同盟」のようにどこかに定住する地を持っているわけではない。
つまり、「魔女連合」の支持者は皆、エレナの旅に付き合う必要がある。
「ねぇ、エレナ。本当にここにいる全員を連れていくつもりなの?」
アリスにしては珍しく少し不安げな声で、エレナに問いかける。
「勿論よ。支持者なくして思想は成り立たないわ」
「それは分かるけど……。エレナだって分かってるでしょう? 大勢で移動すればするほど、人目につきやすくなるわ。大事な支持者を危険に晒すことにもなるのよ」
エレナの返答に、アリスはさらに問いを重ねる。
支持者の危険を出汁にしているが、アリスは結局エレナが危険に晒されるのが恐ろしいのである。
「それは……確かにそうね」
一方のエレナはそんなアリスの本当の想いには気付かないなりに、支持者を危険に晒す、という言葉には一定の説得力があると感じていた。
エレナの中で様々な可能性が頭をよぎる。
「こ、こんなのはどう? 支持者には引き続きこの『哲人同盟』に留まってもらう。それで、旅に有益そうな魔女にはついてきてもらうとか?」
同じく悩んでいたアリスが助け船を出すが。
「駄目よ。それじゃあ一等魔女と二等魔女という構図を作り出した『キュレネ』と同じになってしまう」
だが、そんなアリスの提案をエレナは首を横に振って否定する。
「た、確かにそうね……」
アリスが唸る。
「なるほど、噂通りの理想家のようだね、エレナ君」
そこに一人の男性魔女が尋ねてくる。ソクラテスが同行しており、ソクラテスが言葉を翻訳する。
「あら、あなたは?」
「失礼した。私は魔女ルートヴィヒ。属性は……正直なところ良く分からない。私の能力を一言で言い表せるなら表して欲しいところだ」
ルートヴィヒがそう言って慇懃にお辞儀する。
「あなたがルートヴィヒね。ソクラテスから聞いているわ。哲人同盟の幹部ってことは、ベートヴェンじゃなくてウィトゲンシュタイン?」
「恐らくね」
そう言って、ルートヴィヒは曖昧に頷く。
「それで、エレナさんが理想家っていうのはどういうことですか?」
ジャンヌがルートヴィヒに問いかける。
「そのままの意味だよ。現実というのは強固だ。それ故、人は通常、理想と現実の境界で揺れながら、妥協点を見つけ、その道を進んでいく。だが、エレナ君は違う様子だ。理想に囚われ、妥協も出来ず、現実の問題を解消出来ていない」
「その妥協の結果が『キュレネ』でしょう。私はその道は行かないわ」
ルートヴィヒの言葉にエレナが首を横に振る。
「その点は素晴らしい。『キュレネ』は確かに秩序立っているが、あまりに息苦しい。だから私は自ら陶片に名前を刻んだ」
「あなた、元は『キュレネ』にいたの?」
「まぁね」
陶片に名前を刻む。それは「キュレネ」からの追放を意味する。
「先程までの言葉で誤解を与えたかもしれないが、私は君たちに期待している。秩序を重要視する『キュレネ』に対する自由を重要視する存在になるのではないか、とね」
「秩序と自由、ね」
ルートヴィヒの言葉に、エレナが呟く。
「けれど、私達は自由の中にもルールは必要だと考えてるわよ? ソクラテスから聞いた話によると、あなたはもっととびきりの自由を求めていると聞いたけど」
「あぁ。魔女は魔女らしく生きるべきだ。魔法という力はこんな窮屈な世界で生きるためにあるのではない。自在に扱い、魔女でない人間たちを踏みつけて生きても構わないはずだ」
「弱肉強食とでも言いたいの? それじゃ自由じゃなくて混沌になっちゃうし、そんな魔女がいるから魔女法があるんじゃない。そんな思想は魔女法に根拠を与えてしまうだけだわ」
エレナはルートヴィヒの思想を真正面から否定する。
「自由の中にも秩序が必要だ、と?」
「えぇ。魔女でない人間たちも自由に生きているけど法律には縛られているわ。当たり前でしょ。魔女法には従えないけれど、それ以外の法律まで無視して良いわけじゃないわ」
「では無視していい法律とそうでない法律は誰が決めるのだ?」
「最終的には合議制でルールを制定していきたいわね。『キュレネ』が良くなかったのは、すべてがアビゲイルの思うがままであることだもの」
「その結果、例えば君が罪人となるような法律が出来るとしてもか?」
「そうね。魔女たちが合議制でルールを定めて、それが私の行動を縛るなら、それは仕方ないと思うわ」
ルートヴィヒの問いかけにエレナは一瞬も目をそらさずに答える。
「本当に素晴らしい理想家だな君は」
くっくっくと、ルートヴィヒが笑う。
「良いだろう、気に入った。この『哲人同盟』には三日留まると良い」
「三日? 期限を切るの?」
「いや。三日後にリオン・アンティリオン橋を通って北に向かうトラックがこの定住地に寄る。それに乗って支持者と共にここを去るが良い」
「それは助かるけど……。いいの? 私達何もまだしてないわよ?」
「勿論、これから細々とした手伝いはしてもらうが、基本的には無償で構わない。ただし、一つだけ条件がある」
そう言って、ルートヴィヒが指を一本立てる。
「なに?」
「君たちは今後も旅を続ける。そうなればまだ定住地を持たない魔女と出会う時もあるだろう。そうなった時、『哲人同盟』や『キュレネ』という選択肢があることもちゃんと伝えてほしい。理想家の君なら容易いことだろう?」
「『キュレネ』を今存在する確かな定住地だと感じる魔女もいる、ということよね。それは勿論」
ルートヴィヒの言葉に、エレナは迷わずうなずいた。
「結構。では、君達の理想が現実になった時には世話になることにしよう」
そう言って、ルートヴィヒはソクラテスを伴って去っていった。
それから、しばらく、面接の時が続いた。
エレナが面接している間にアリスとジャンヌ、ソーリアは細々とした『哲人同盟』の手伝いに協力した。
結論から言うと、エレナの思想に共感する人間は決して少なくなかった。
生きるために魔法を制約されるのではなんのために魔女として生きているのか分からない、と感じている魔女は多かったのだ。
けれどその一方で、積極的に「魔女連合」に加わりたいと主張する魔女は少なかった。
やはり、「魔女連合」に定住地がない、というのは大きな要因であった。
どれだけ思想面で共感できても、自ら今の安全な場所を放棄してまで旅に出たいとまでは思わない魔女が多かったのだ。
「というわけで、紹介するわね。魔女チャールズの二人よ!」
「二人? ど、どういうことですか?」
「私にも分からないけど、双子の魔女なのよ。魔女名も属性も全く同じ。『量子テレポート』の魔女ですって」
「そんなことあるんですね」
エレナの紹介にジャンヌが首を傾げ、感心する。
「はじめまして、チャールズです!」
二人の女性魔女の声がシンクロする。見た目もそっくりで区別がまるでつかない。
「一卵性なの?」
「はい、そうなんです!」
アリスの問いかけにチャールズ二人がやはりシンクロした言葉で告げる。
「なるほど。全く同じ魔法結晶を共有してるからかしら。そうだとすると、やっぱり魔法結晶は……」
アリスがなにやらぶつぶつと呟き始める。
「そう言えばアリスさん。逃げる時も言ってまし、アビゲイルさんも言ってましたけど、魔法結晶ってなんなんですか?」
ジャンヌがふと思い出した、というように声をかける。
「あぁ。魔法結晶って言うのは、昔エレナが言ってた魔女が脳に持っている『魔法セレプター』の正体よ」
あっさりとアリスがそんな事を言う。
「魔女はね、脳内に魔法結晶という結晶を持っているの。それが神秘レイヤーと交信をして、魔法現象を引き起こすのよ。そしてこれは、魔法結晶単体でも動くの」
「ってことはもしかして、あの銃や剣は……?」
「えぇ、恐らくムサシやウィリアムの脳内にある魔法結晶を何らかの魔法で取り出して、何らかの魔法で複製したものだわ」
「あ、そうだよ。ボクの結晶も採取されてコンロに使われたしー」
その言葉にソーリアが頷く。
「そして、アビゲイルの言葉によれば魔女狩りもまた魔法結晶を求めてるのよね? 『キュレネ』は魔法結晶を差し出している、って言ってたわ」
「秀吉が朝鮮遠征で耳を求めたようなもんじゃない? 戦果確認じゃないの?」
エレナの言葉にアリスがなんてことのないように返す。
「そうだといいけど……、ちょっと嫌な想像が頭から離れないの」
「嫌な想像って?」
「もしかして、魔女狩りは魔法結晶こそが目当てで魔女狩りをしているんじゃないか、って」
「科学統一政府が魔法結晶を集めてるとでも言うの? なんのために」
アリスはその仮説を笑う。
「それは分からないけど……、でも……」
エレナはそれ以上何も言えなかった。
「あ、えーっと、なんか重要な話が始まっちゃってます?」
「私達が主役ですよー!」
チャールズがその会話を遮る。
「あぁ、そうよね。ごめんなさい、チャールズ」
エレナが謝罪する。
「ええ? っていうか、あれだけ賛同者自体はいたのに、同行者はたったの二人だけ?」
アリスが驚く。
「みんな、想像していたより現実主義だったわ」
「まぁ、でも同行を断る人の気持ちも分かります……」
エレナが残念そうに呟くと、ジャンヌがそんな言葉を呟く。
アリスやエレナのことが今ほど大事でない頃に「キュレネ」や「哲人同盟」にたどり着いてしまっていたら、あるいはジャンヌもそこで旅を終えてしまっていたかもしれないから。
「まぁ、言っても仕方ないわ。いよいよトラックが来る時間よ」
そう言っていると、そこにトラックが走ってくる。
ソクラテスがトラックの運転手と二、三言葉を交わし、荷台の箱と事前に用意されていた何らかの箱を交換する。恐らくこうして物資を受け取っているのだろう。
「やぁ、僕はマックス・ボット。魔女ではないが、君達に協力させてもらってる。荷台でよければ好きに載ると良い。北へは北マケドニアのビトラまで行くから、そこまで載せてあげるよ」
マックスを名乗った男はソクラテスの翻訳をはさみ、そう言った。
「じゃ、みんな覚悟は良い? まず最初の目的地はビトラよ」
問いかけるエレナの言葉に否と告げるものはいなかった。
六人になった魔女はトラックの荷台に乗り込む。
そして、トラックは走り出す。
六人になった魔女を載せて、新たな地へ。
To be continued…
第3章へ!a>
「三人の魔女 第2部 第2章」の大したことのないあとがきを
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