CGO/Prologue
ここはとあるMMOの中。
この世界はある程度まともに制御された経済システムがあり、多くのプレイヤーは輸送や採取などのクエストでその一部を担っていた。
そしてそれを掠め取って自身の手柄とする
今回の語り手となる彼もその一人としてターゲットのPCが現れるのを待ち伏せしていた。
【本当に来るのかー?】
チャット欄に茶々が入っている。
確かに、ここは待ち伏せ地点としてはやや不自然なポイントだ。
MOB狩りの帰りにせよ、拠点間輸送クエストの途中にせよ、この地点を通るという可能性は低いように思える。
実際のところ、ここは別に穴場という訳じゃない。
ただ、たまたま知っただけだ。
ある探検家が変わった地点を探検するらしい、と。
その探検家PCの事は知っていた。消してゲーム内でも有名なPCというわけでもなかったが、自分が根拠地とする拠点を同じく根拠地としていて、プレイヤーショップなどで時々レアモノを扱っている。
危険な場所に行く時は護衛を募集する時もある。
まぁそんなこんなで、その探検家は自動移動で移動する事を知っていた。
【で、自動移動の過程でここを絶対に通るって訳だ】
チャットで改めて解説してやるが、特に反応は返ってこない。
「ま、そうだよな。相手が確実に美味いもん持ってるとも限らんし」
麦茶を啜りながら画面を眺める。
彼の遊んでいるゲーム、通称「CGO」はVRを用いたゲームであるが、長期間輸送を伴う貿易など、おおよそただVR空間にいても仕方ないような事も多いゲームのため特定シーンに限りパソコンモニターでのプレイも可能になっている。
彼、PC名「バーソロミュー」こと
「来た!」
近く反応。ゴーグルとヘッドホンが一体化したような見た目のSHMDを装着する。
先程まで自分の部屋でパソコンの前にいたはずの義孝は、愛船「ロイヤル・フォーチュン号」の操縦席の中にいた。
天井のスイッチを幾らか操作してから左手でスロットルレバーを奥に倒す。光学迷彩が解除され、停止していた船が動き出す。
直後、惑星の重力により光速ワープが中断された小型宇宙船が姿を表す。
そう、このCGOはMMOはMMOでも剣と魔法のファンタジーでもなければ、銃と鋼鉄の世界でもない、宇宙空間を舞台にしたMMOなのだった。
ロイヤル・フォーチュン号の最大射程武器であるレーザーが小型宇宙船に向けて放たれる。
小型宇宙船は自動起動したとみられるシールドでその一撃を防ぐ。
「流石に基本の基本くらいは装備してるわな」
さらに接近しつつ、新たに射程内となったオートキャノンを起動し攻撃を開始する。
小型宇宙船は横転と機首上げを繰り返し、側転するように横方向に逃れていく。操縦スキルマニューバカテゴリの「バレルロール」だ。
小型宇宙船の大きさに対しロイヤル・フォーチュン号は3倍近いサイズ比があり、速度の面では小型宇宙船が勝る。
つまり、この遭遇戦を凌ぎ逃げ切ればこちらの勝ち、小型宇宙船側はそう考えたのだろう。
「悪くない判断だ。だが残念ながら、その判断は間違いだ」
義孝も自分の愛船の弱点くらい理解している。
「追加ブースター、点火!」
使い捨ての外付け追加ブースターが点火し、ロイヤル・フォーチュン号が一気に加速する。
「からの、これだ!」
そして並走すると同時、掘削用レーザーが三基、小型宇宙船に向けて放たれる。
掘削用レーザーは小惑星などを掘削するための装備で極めて短射程なため攻撃には向かないとされるが、シールドに対して極めて強力な破壊力を持つ、という特殊効果がある。
「これで詰みだ!」
小型宇宙船のシールドが失われた直後、ロイヤル・フォーチュン号の側面に集中配置された大型ビームカノンが一斉に放たれ、小型宇宙船を塵へと変換した。
「へっ、やりぃ」
急接近し掘削用レーザーでシールドを破壊、そして側面の大型ビームカノンでトドメ。
義孝お得意のいつもの手だった。
「さて、と、実入はどんなかな、と」
自分の船の側面に位置するオブジェクト「ディスカバリー号の残骸」にスキャンをかける。
「お、ラッキー」
その中には高額で売れるレアアイテムも含まれており、海賊行為は成功だと言えた。
これがセントラル・ギャラクシー・オンライン。宇宙空間を舞台として、星を探索し、拠点間の輸送を担い、
ただでさえニッチなジャンルで、さらに過酷な世界。一級品に人気なVRMMOとは決して言えないが、それでも多くのプレイヤーを魅了するこの物語の舞台である。
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