輝ける牡牛と異界の光 第2章

  

 [アル]……第二次亜空騒乱を解決した「勇者一行」のリーダー。剣と魔術を併用した戦術を使う。
 [ライアー]……アルの悪友。クロスボウによる戦闘が得意。「奥の手」と呼ぶ秘密の技を持っているが、人に知られるのを嫌がっているため、基本的に使用しない。
 [ジル]……第二次亜空騒乱を解決した「勇者一行」のメンバー。槍と風の魔術による加速を併用した突進攻撃やジャンプ攻撃を使う
 [グローリア]……アルを慕う美しき癒や手
 [コワス]……ルプス警察の弁護刑事。一応帯剣しているが、戦闘は苦手

 

 [コロトー]……光の女神を名乗る謎の少女。ソル・カアリアンと呼ばれる 長い 細剣レイピアを使う。

 


 

《2009/Taurus-13(国法制定記念日) 北西州-ルプス-炭酸屋》

 

「わー、なにこれおいしー、しゅわしゅわするー」
 炭酸屋でサイダーを飲みはしゃぐコロトー。
「落ち着いてなにか話をするといったら炭酸屋で炭酸をしばくのが基本ってくらいなのに、炭酸屋を知らないなんて……もしかして本当に異界から来たのか?」
 その様子を見て考えるライアー。
「あー。スペンスとか、ルプスの外から来た人は炭酸を知らなかったし……」
「いや、アル、お前の失われた一年の間に、炭酸屋はチパランド中に広がっていてな。特に今やここの炭酸屋は世界的チェーン店なんだ。知らない人は珍しいぞ」
 アルのフォローをジルが否定する。
「そ、そうなんだ……」
「この際、コロトーの正体はともかく、はぐれたらしい妹さん探しはしたほうが良いだろうな」
「確かに。もし迷子で困っていたら大変だ」
「逆にこっちが迷子って可能性もあるけどな」
 ジルの茶々に、一同、確かに、と止まる。
「その場合、妹は両親と一緒にいる可能性が高い、妹を探す結果として親元に返せるのだから、むしろ理想的な展開と言える」
「なるほどな。いいじゃねぇか。コロトーの妹を探す、それで行こう」
 そうと決まれば、とライアーがコロトーの方を向く。
「いっ」
 そこではコロトーがどうやって手に入れたのかたくさんの炭酸飲料の入ったカップに囲まれていた。それを一本一本「おいしい、おいしい」と飲んでいる。
「す、すみません、この子どうやって、支払いを?」
 慌ててアルが店主に確認を取る。
「え? あぁ。持ってたものを渡してくれたよ」
 そう言って店主が見せてきたものは見たことはないが貴金属らしき品だった。
 チパランドにおいてはYoTヨットと呼ばれる貨幣も存在するが、未だに物々交換による取引も多い。ゆえに殆どの店が物々交換に対応していた。
「大丈夫かな? 親御さんのだったりしない?」
「まぁ、そうだったとしても、その時は親御さんがなんとかしてくれるだろう」
 アルの不安にジルが楽観論で答える。
「それで、コロトーさん。はぐれたっていう妹さんの話をしてもらってもいい?」
「うん。コロルーは、私の妹。もともとは私が一人で光を司ってたんだけど、私が太陽、コロルーが月ってことになったんだよ。それで、カアリアンも二本に別れたの」
「あー、えーっと。そういう設定の話じゃなくてだな……。あ、そうだ。最後に妹さんとやり取りしたのはいつどこで? その時のやり取りの内容とかは?」
「えっと、テセリア様に仲裁してもらって、で、次の動きに対応するためにアメリキャット平原に向かってたところ、敵の群れに襲われて……」
 気がついたら、と今の自分を指差す。
「短い証言だったのに情報が多いな。一つずつ確認していくか。まず、テセリア様に仲裁してもらった、というのは?」
「あ、うん。コロルーってば月なんて司ってるもんだから、敵側についちゃったんだよね。で、私の方もまだコロルーが何者なのか分かってなくてさ。何故か自分にそっくりだけど敵対してる相手だったんだよね。で、ねぼすけのテセリア様が目覚めて、コロルーを見て全部察したらしくてね。コロルーを落ち着かせて、私との仲を取り持ってくれたの」
「ふむ。ずっと姉妹喧嘩ばっかりだったが、テセリアって人のおかげで仲直りできたってことか」
「ねぼすけテセリア様ってのが母親か何か?」
「孤児院の先生とかかも」
「とりあえず、テセリアって保護者が最終目標と考えて良さそうだ」
 回答を元に情報をまとめていく。
「そのテセリア様ってのはいまどちらにいらっしゃる?」
「んー、多分、別の方法でアメリキャット平原に向かったんじゃないかなぁ。次に敵が現れるのはそこだろうって話で、みんなでアメリキャット平原に各自移動してたところだから」
「アメリキャット平原、本当にその名前で間違いない? 聞いたこと無いけど」
「うーん。まぁ聞き間違いとかがないとは限らないけど、平原なのは間違いないし、アメリキャットちゃんの名前を間違えるわけがないよ」
「アメリキャットちゃんっていうのは?」
「風の女神アメリキャットちゃんだけど?」
「やっぱり本当に異界の出なのかなぁ?」
 流石にここまで徹底した設定を考えられるものなのか、と一同も思い始めた。なにせ聞き覚えのない響きばかりだ。
 一方、アルは少し違う理由で本当に異界の出であると考えはじめていた。
 ――アメリキャットなんていう名前をただの子供が知っているはずがない
「とりあえず平原と言えばドラゴニア平原だし、一度行ってみてもいいんじゃねぇか?」
 ライアーが提案し、他に方針もないため、これに従う事になった。
「となると、列車のチケットを用意しないとね、はぁ、休暇中のはずなのにギルド本部に顔を出さないといけないのか……」
「この時間だと実際にチケットを取れるのは明日になるだろうな。アル、俺たちもお前の家に泊めてくれ、場所はあるんだろ?」
「あぁ、うん。じゃ、ライアーに鍵渡しておくね。僕はチケットを取る申請をしてくる。……ついでだから迷子を探すっていうクエストを発行しとくよ」
「おぉ、それはありがてぇ。報酬がなくてもクエストをしてたって事実があれば給与査定に響くからな」
「うん、僕の身分で出来る程度の手伝いへのお礼はさせてもらうよ」
 一同がそれぞれの行き先へ移動をする、その前に。
「あ、私は本職があるので明日以降は同行できない。申し訳ない」
 コワスが申し訳なさそうに謝罪した。
「まぁコワスはコンクエスターじゃないから、僕じゃどうしようもないしね。お仕事頑張って」
「あぁ。こちらでも可能な限り情報を得るためのアンテナは立てておく。何かあったら連絡する」
「うん、ありがとう」
 どうやって連絡するつもりなんだろう、と首を傾げつつ、アルはコワスにお礼を述べる。
「申し訳ありません、アル様。私も以前と違い今は医院に努めている身。流石にルプスの外まではご一緒できません」
「あぁ、そっちもそうだよね。ごめん」
「アル様のお役に立てそうな情報がありましたら、必ず連絡いたしますからね」
「うん、ありがとう」
 悲しい別れ、といった演出をしながら、グローリアは走り去っていった。
「今日はこのあとも兄さんの家に戻るだけなんだからまだいてもいいだろうに」
 コワスの言葉にアルもそうだよね、と頷いた。

 

《2009/Taurus-14(美土里の日) フォトンライナー「ハシル」内》

 

「おー、すごーい、びゅーんってしてるー」
 以前、世界は巨大な壁により4つに分かたれていると説明した。
 世界を分ける黒き「世界の壁」。何人たりとも決して通さないと言われるその壁だが。例外が存在する。その殆どが一般市民には無縁の方法ばかりだが、唯一一般市民にも利用可能な例外、それがこの列車こと「フォトンライナー」である。
 実際には高価すぎて本当に文字通り一般市民が使うにはハードルが高すぎるのだが。
「トブが使えれば良かったんだけどな」
「第二次亜空騒乱のときの損傷がまだ治りきってないらしくてね。ま、気長にミラからの連絡を待つよ」
 トブはアル達が保有する空中戦艦である。フォトンライナーと同じく世界の壁を超えることが出来る。
「もっと速くしたいなぁ。……そうだ!」
 コロトーがソル・カアリアンを抜刀する。
「やべぇぞ、止めろ!」
 ライアーが慌てて叫び、一同が、コロトーを止めにかかる。
「やめろー、離せー」
 こんなに騒いでも怒られないのはアル一行しかこの列車に乗っていないからである。

 

《2009/Taurus-14(美土里の日) 南西州-ランバージャック-駅》

 

「待ってましたよ」
 駅で列車から降りると、金髪をポニーテールにまとめた元気そうな小柄の女性が声をかけてくる。
「お、久しぶりだな、マイ。アル、こいつは俺が呼んでおいた助っ人。この南西州のハンターだ」
 ライアーが彼女を迎え、そしてアルに紹介する。
「よろしくお願いします。マイ・ローウェンです。あと、ド……」
「おっと、その紹介は必要になるまで黙っていようぜ、サプライズってやつだ」
「だ、大丈夫ですか? 隠し事が理由で……とか、嫌ですよ?」
「心配ねぇ。コイツラに限ってそんな事は絶対ねぇ」
「ふぅむ。まぁ、信じますけど……。それで、目的地はどちらです?」
「目的地……」
 尋ねられて考える。ドラゴニア平原に行ってみる、以上の考えがなかったのだ。
「まず、大前提としてテセリアって名前に覚えはないか? あと、迷子とか行方不明の話」
「どちらも特にないですねぇ」
「じゃあ、サーキュレタリィリソース溜まりが出来てる場所とかは?」
 サーキュレタリィリソースとは世界を循環する資源で、この循環の滞りを解決するために魔物は存在すると言われている。ドラゴニア平原は異常にこれが多く、よく循環の滞った溜まりが出来てしまう。
「お、それならありますよ。一昨年末あたりにめっきりでなくなったのに、なぜか今年になって現れたって、専門家が首を傾げてるそうです」
 アルとジルは密かに口をつぐんだ。一昨年つまり第二次亜空騒乱のさなかにサーキュレタリィリソース溜まりの発生の原因を副次的に解決したのはまさに自分たちだったからだ。
 しかし、だからこそ、言えることもある。
「それは奇妙だ。まずはそこを確認しよう」
 なおこれらの相談事の間、コロトーは「わー、これおいしー」などとハンター達が経営している屋台のお肉類を片っ端から賞味していた。

 

《2009/Taurus-14(美土里の日) 南西州-ドラゴニア平原》

 

「霧が深いねぇー、蒸し暑いよー」
 ドラゴニア平原は平原とは名ばかりの熱帯雲霧林だ。
「だよなぁ。こんな自然を体感するのは明日の両分だ」
 明日は湖土藻の日、自然を大事にしようという日だ。
「僕にとってはここは故郷みたいなものだけどね」
 今日は美土里の日。美しい故郷を愛する日だ。この南西州はアルにとっては故郷に当たる。
「けど、この森の深さはアメリキャットが好きそうだなぁ」
 アルとジル以外は知らないことだが、アメリキャットとは異世界の生物で猫のような姿をした草食動物だ。高い知能を持っていて、自分にとって快適な環境を作るガーデニング能力を持っている。そして、コロトーが「風の女神」と呼んだ通り、風の加護と呼ばれるものを持っている。
 ――けどまぁ、猫を指して女神、はないか
「測量図によるとここの辺りです。ん? なにか黒いものが吹き出してる……?」
 マイが無造作に近づく。
「離れて!」
 コロトーがソル・カアリアンを抜刀しながら叫ぶ。
 直後、穴を覗き込んだマイを吹き飛ばし、黒い粉末状の何かが石油のように膨大に吹き出す。
 それは木々を払ってまるで蛇のように空中でとぐろを巻いた。
「ロゼミヨヨグゴモドゼ」
 黒い粉末状の何かは、確かにそういった。
「目標を補足? どういう意味だ!」
 アルが剣を抜刀する。クエスト扱いとはいえ私用なので店売りの騎士剣だ。
「ノノグギグギリナナ・ハデデヂヂヤヤヂンゾゾゴヌザグ」
 アルも同じ言葉で応じる。
「ワエアヒダアザグザリゴルイヨヨゼザヅウ」
「逆らう神を無力化する? コロトーのことか? コロトーホゾノザ?」
「ジザイ」
「コロトーは本当に神ってことか……」
「驚いた、アル、敵の言葉が分かるの?」
 コロトーには敵の言葉はわからないらしい。
「ユゲヒジダラアヒヨグマハギ・ラジゾラエウラゲヒダヌヌヌジユユグヒダウザザギギ」
「生憎だけど、こっちにはある! コロトーに手出しはさせないコロトーヒネナナヂマダデハギ
「ハアママロオノロモオミミウメメヂ」
滅びるのはお前だモオミミウホマゴラゲナナ! そしてお前のことも話してもらうぞドヂネゴラゲホゾノロマハヂネロアグドド!」
 そのやり取りをもって開戦と見たか、蛇のように唸る黒い粉末状の何かが蛇のような集合体のまま、木々をなぎ倒し、接近する。
「散開!」
 アルの号令に従い、一斉に散り、黒蛇の突進を回避する。回避された黒蛇はうねり、コロトーのいる方に向けて再び突進を敢行する。
「くっ、あくまでコロトーのみを狙ってるのか!」
「コロトー・ビーム!」
 ソル・カアリアンが輝きレーザービームが放たれる。が、黒い粉末はそのレーザーの軌道上のみを穴とすることで回避し、突進を継続する。
「マイ!」
「承知です! はーーっ。ふぅー」
 ライアーの叫びにマイが頷き、大きく息を吸い込み、唇の右端に右手の人差し指を当て、ふぅー。と息を吐き出す。
 直後、その吐息は炎へと変化し、黒い粉末の集団に襲いかかる。
「すごい! そいつは火に弱い、これは効いてるよ!」
「マイさん、ドラゴナーだったのか……」
「なんだ、アル、ドラゴナーを知ってたのか。隠して損したぜ」
 ドラゴナーとは竜の血を受け継ぐ人間のことで、先の通り、ドラゴンのように吐息ブレスを吐くことが出来る。
「ってか火に弱い? こいつはなんなんだ? コアはどこだ」
 こういう集合体にはコアがいるのがお約束だ。
「敵だよ。小さいの一つ一つが本体。それ一つ一つがシンセーエネルギを発生させて、あと、侵食したり、一緒になったりする」
 SFで言うところのナノマシンのようなものと考えればわかりやすいが、ここにいるメンバーにはそのような言葉は知らないので。
「要はウジャか!」
 という話になる。ウジャとは、常に群れをなすハエのような魔物で、集合して剣などの姿を取る。
「ゾヂヤヤゼ!」
「へっ、聞いたか、アル。「小癪!」だってよ、やっこさん、こっちが気に食わねぇらしいぞ」
 敵の言葉に気を良くするジル。
「気をつけて。次に何をしてくるかわからないよ」
 黒い粉末達は一度離散し、そして、巨大な人型を取る。強靭そうな爪が目立つ。
「あと、地味にちゃんと目があるな。三つもついてるからおかしいけど」
 ライアーが茶化す。
「あれは、……人類だよ。私達の目覚めよりも前に全滅した……ね」
「なるほどな、コロトーの世界は人類が全滅してんのか。そりゃ、俺らを見ても神だと思うわな」
「え、ううん? 人類はいるよ?」
「もうわけわかんねぇ」
「ミヘイヌムムヂネゼエウ!」
 巨人の握りこぶしが迫る。
「それがどうしましたかっ!」
 マイがそれを受け止める。この中では一番小柄なマイだが、その筋力はドラゴン族のそれに匹敵する。
「ママザハ!」
「ぶん投げちゃえー!」
「え、いいんですか?」
「よくない! 森林への被害が甚大すぎる!」
 コロトーの命令を却下するアル。
「ま、動きさえ止めてくれたらこっちのもんだよ。コロトォォォォォォォォォォォォォォ」
 ソル・カアリアンに太陽の光が収束し、輝き始める。
「スラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッシュ!!!!」
 太陽の黄金の輝きをそのまま再現したような斬撃が飛んでいく。
 しかし、それも先ほどと同じくその部分だけを穴にすることで回避される。
「十文字バージョン!!」
 その穴と直角に交わるように振り下ろしの斬撃。やはり回避。
「かーらーのー」
 ソル・カアリアンの輝きは未だに消えていない。
「コロトォォォォォォォォォォォォォォォォォ・ビィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィムッ! 極太バージョンッ!」
 その一条の光は、今度こそ、分散した黒い粉末をそのビームが飲み込む。
 残ったのはマイと接していた巨大な拳分の粉末のみ。
「よーしっ」
 マイがブレスで焼き切る直前に離散し、細かい粉末故に、目に見えなくなった。
「ゴホエ・ゴモモゲネゴエ」
「覚えておれって、そういうのは弱いやつのセリフだぞ」
「ル・ゾホズマギマワエアザザレザザリネネマハギザ・ノノグヤアラナナヂヨヨグムムマゴワヌヌヌネゴアンヨグナナハ」
「我らが女神……?」
「アママナナ」
「逃げたか」
「むー、逃したか! 敵は殲滅しないとなのに。ヴァリスちゃんに馬鹿にされちゃうかも」
「そんなことよりコロトー、奴ら、「我らの女神」って言ってた。君の話だと、コロルーはかつて奴らに与していたんだよな? コロルーのことじゃないか? それとも他に奴らに与していた女神がいたか?」
「ううん。奴らに与していたのはコロルーだけだよ。だから、多分コロルーのことだと思う」
「次の目的は決まったな。あいつを追おう。確か、東に向かってたな」
「うん。とりあえず、南東州に向かおう。今すぐランバージャックに向かえば、まだ列車があるはずだ」
「あ、すまん。俺はちょっとランバージャックに用事があるんで。また後で合流するよ」
 そう言うと、ジルはどこかに走り去っていった。
「あ、私はお供しますよ。強敵と戦いたーい」
「ん。じゃあ、ランバージャックに戻ろう」

 

to be continued……

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