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三人の魔女 第2部第5章「再び:海賊の魔法」

第一部のあらすじ(クリックタップで展開)
日本編のあらすじ(クリックタップで展開)

 ある日、天体観測を楽しんでいた魔女エレナは、重く硬い金属が鉄筋コンクリートに当たって跳ね返るような奇妙な音と悲鳴を聞く。
 困っている人を放っておけなかったエレナは座り込む少女、魔女ジャンヌを助ける。彼女は閉じた瞳の様な意匠のフードを被り、メイスのようなゴツゴツした先端の二又に槍を持つ怪しい男たち「魔女狩り」に追いかけられていた。
 エレナはジャンヌと共に逃走を始めるが、すぐに追い詰められてしまう。そんな二人の前に姿を晒したのは異端審問間のピエール。ピエールは言う。「この世界には魔女と呼ばれる生まれつき魔法と呼ばれる不思議な力を持つ存在がおり、その存在を許してはいけないのだ」、と。
 しかし、実は自らもまた魔女であったエレナはこれに反発。フィルムケースを用いた「星」の魔法とジャンヌの「壁」の魔法を組み合わせ、「魔女狩り」から一時逃れることに成功する。
 そして二人はお互いに名乗り合う。魔女エレナと魔女ジャンヌ。二人の魔女の出会いであった。  しかし魔女狩りは素早く大通りへの道を閉鎖、二人の逃走を阻む。ジャンヌの魔法を攻撃に使い、強引に大通りに突破したエレナは、魔女仲間のアリスからの連絡に気付く。それは魔女狩りの存在を警告するメールだったが、もはや手遅れ。エレナはその旨を謝罪しアリスにメールした。
 メールを受けたアリスはすぐさま自らの安全な生活を捨てることを決意し、万端の準備をして家を飛び出した。
 逃走に疲れたエレナとジャンヌは一時的に壁を作って三時間の休憩をとった。しかし、魔女狩り達に休憩場所を気取られ、再び追い詰められる。そこに助けに現れたのはアリス。アリスは自身の「夢」の魔法で魔女狩りを眠らせ、その場を後にするのだった。
 逃れようと歩く三人。魔女について何も知らないジャンヌはエレナから魔女とは頭に特殊な魔法を使うための受容器を持つ存在で、魔法とは神秘レイヤーと呼ばれる現実世界に重なるもう一つのレイヤーを改変しその影響をこの現実世界に及ぼすものである、と説明する。
 そして魔女には属性があり、その属性に基づいた魔法のみが使える。具体的な属性の魔女は決まった事しか出来ない代わりに使いやすく、抽象的な属性の魔女は様々な事が出来るが使用には工夫がいる、といった違いがある。
 そんな中、アリスもまた、衝撃的な事実を告げる。この世界で誰もが身につけているオーグギア。このオーグギアの観測情報は全て一元に統一政府のもとで管理され、秘密裏に監視社会が実現しているのだ、と。
 そして、エレナは統一政府と戦い、好きなことを好きなように出来る世界を目指すことを決意するのだった。  その決意表明を裏で聞いていた者がいた。「姿」の魔女、プラトだ。プラトはその場を逃れるため魔女狩りに扮して逃れようとするが、その場を「炎」の魔女ソーリアが襲撃してくる。
 魔女狩り狩りの常習犯としてすっかり知られていたソーリアはバッチリ対策されており、窮地に陥る。目の前で魔女が狩られるのを見過ごせないプラトは咄嗟にソーリアを助ける。そして言うのだった。「世界をなんとかしようとしている三人の魔女がいる。魔女狩りを狩りたいなら、彼女達のために戦うのはどうか」、と。
 プラトとソーリアがそんな話を進める中、三人は貨物列車に忍び込んでいた。アリスの父親の会社の貨物に紛れることを企んでいるのだ。
 しかし、早速トラブルは発生した。暗闇に怯えたジャンヌが大きな光り輝く壁を作りその中に隠れてしまったのだ。壁は天井を通り抜けており、明らかに異常な見た目をしていた。  なんとか喧嘩も納め、ようやく睡眠に入ろうと言う時、列車が止まる。  コンテナの中という袋小路で絶体絶命かと思われたが、エレナの魔法とジャンヌの魔法を組み合わせ、密かに脱出することに成功した三人は、しかし、その後の道を失い悩むことになる。
 そこでジャンヌが提案したのは、かつて仲の良かった兄のような警察官を頼れないか、ということだった。頼った相手、鈴木すずき光輝こうきはこれを快諾。脱出に使えそうな船を調べ、教えてくれた。
 しかし光輝にピエールの魔の手が迫る。プラトが彼に変身し大暴れしてしまったため、裏切りの嫌疑がかけられてしまったのだ。光輝はジャンヌの身を案じ、自らも埠頭に急ぐのだった。  またしても自身の臆病さが原因で迷惑をかけたジャンヌはエレナから魔法の制御について学ぶ。それはほんの少しの成功体験へと繋がり、彼女の自信へと繋がっていく。
 ようやく埠頭にたどり着いた三人だったが、光輝の携帯から情報を仕入れていた魔女狩りは軍用装甲パワードスーツコマンドギアと攻撃垂直離着陸機ティルトローター機を投入してきた。
 絶体絶命の三人だったが、助けに現れた光輝とソーリアそしてプラトにより三人は無事タンカーに乗る事が出来たのだった。  タンカーに乗った三人。しばらく安全で平和な船の旅が続くが、突如トリアノン、エルドリッジ、バーソロミューと呼ばれる魔女達が操る海賊船の襲撃を受ける。彼らは「情報結晶」と呼ばれるものを求めてタンカーを攻撃してきたらしい。
 砲弾の直撃を受け、海に落下する三人の魔女。その行先は……?

中東編のあらすじ(クリックタップで展開)

 海岸に流れ着いたエレナは突如としてビームを撃つ目玉のような模様の球体の攻撃を受ける。合流してきたジャンヌとの協力によりなんとか倒すことに成功する。
 その後アリスとも合流することに成功。アリスは大事なヘッドホンを無くしたことに衝撃を受け、探し続けていたらしい。
 天体の配置から現在位置をソマリアのボサソだと特定したエレナはナイル川を北上しカイロに向かうことを提案する。  その頃プラトとソーリアは中国でシベリア鉄道に乗ろうとしていた。プラトはそこにある動いていないはずの油田が何かに電力を消費していることを訝しむが、電車の到着を受けて調査を諦め、移動を優先する。
 そしてそんな二人の様子をりんごを齧りながら眺める何者かが一人。
 視点は三人の魔女に戻り、一週間後。不可解な事にアリスの消耗が異常に早い。
 原因が睡眠不足にあるのは明らかだ。三人はリフレッシュのためビジネスホテルに宿泊することを決める。
 しかし翌日の朝、海岸でエレナを襲撃してきた黒い目玉が襲撃してきた。黒い目玉は魔女を狙うわけではなくただ暴れ回っているだけの様子だ。三人は魔女狩りに目をつけられることを恐れ、混乱する町を背に歩き出すのだった。
 しかしその後もアリスの様子は変わらなかった。アリスは頑なに眠ろうとしない。  不思議に思う一行に再び黒い目玉が襲撃してくる。寝落ちしたアリスを背負いながら逃げる一行だったが、目覚めたアリスが突然暴れ出す。そしてあろうことかエレナとジャンヌに魔法を使い、一人どこかに逃げ出したのだった。
 そこに運悪く現れる魔女狩り達。追われる二人を魔女を息子に持つ父・オラルドが庇ってくれた。
 一方その頃、ヨーロッパに到着したプラトとソーリアもまた、謎の理由で仲違い。それぞれ別の道を歩きだしたのだった。  アリスが一人飛び出した理由が分からないエレナにジャンヌは自らの推測を告げる。謎の黒い目玉、アリスが「砲台」と呼んだそれは、アリスが眠ってしまうことで魔法の制御を失ってしまい生じた産物ではないか、と。その理由は魔法の制御に使っていたヘッドホンを無くしたからではないか、と。
 そしてジャンヌはアリスは中央アフリカ共和国のラウッウィーニ商会の施設に隠れているのではないか、と推測。二人はそちらへ向かう事にした。
 一方、プラトは自らの好奇心に突き動かされ、フランスの原子力発電所を調査していた。ところがそこに現れたのはソーリアと見知らぬ似非侍のような魔女。プラトは二人の攻撃に対処しきれず、退散するのだった。
 中央アフリカ共和国に向かう二人はそこで魔女の共同体と出会う。共同体の力を借りた二人は魔法を組みわせて車を作り、一気に中央アフリカ共和国に向かうのだった。
 一方、ソーリアはプラトが変身した矢を放つ謎の魔女に追われていた。そこに助けに現れたのは魔女アイザック。彼は魔女同士の会合があると言い、ソーリアを誘う。  アリスがいると目される町、ビラウに辿り着いた二人だったが、そこは既に魔女狩りに包囲されていた。
 アリスは魔女狩りに追い詰められ、死を覚悟していたが、そこに彼女と縁のある御使い・《神の命令》サリエルが姿を表す。二人は最後の抵抗を始めるが、やがてそれも終わろうとしていた。
 そこに車に乗って助けに現れたのはエレナとジャンヌの二人。エレナはヘッドホンをアリスに手渡し謝罪。ここに三人の魔女は再集結したのだった。
 一方、御使いの出現という緊急事態に、新たな異端審問官が動員されようとしていた。  元リチャード騎士団筆頭騎士・メドラウド二世が三人の魔女を追い詰める。サリエルは自身を囮とすることで、三人を逃がそうとするが、メドラウド二世はそれを許さない。
 しかし、エレナとアリスの「魔女狩りは正義なのか」という問いかけにメドラウド二世の剣は揺らぐ。結局その場は見逃してもらうことが出来たのだった。
 その頃、囮となっていたサリエルは凡百の魔女狩りを殲滅し、優秀な部下二人も殺そうとしていた。そこに現れたのは白い粒子を操る黒髪長髪の女性。彼女は人間離れした身体能力で化け物と化したサリエルを撃破した。

エジプト編のあらすじ(クリックタップで展開)

 サハラ砂漠に入った三人は、そこでプレッパーと呼ばれる反統一政府の人々と知り合う。
 ところが、彼らの中にも意識の差があり、三人の居場所が魔女狩りに知られてしまう。急いで逃げようとする一行の前に現れるのはサリエルを下した黒髪長髪の女性だった。

 

 そこに助けに現れたのは不可視の剣を操る魔女ムサシ。
 戦闘力の高いムサシの攻撃に黒髪長髪の女性は少しの間苦戦するが、すぐに形勢は黒髪長髪の女性に有利な形に逆転する。
 しかし、黒髪長髪の女性必殺の三段突きを前に、魔女達が黒髪長髪の女性の視界から消える。
 もうひとりの助けに現れた魔女アビゲイルの力だった。
 魔女アビゲイルは三人のことを知っており、定住地を持っているから来るようにと促す。

 アビゲイルに案内された一行は「空間」の魔女エウクレイデスことユークリッドの作り出した「ユークリッド空間」を通り、彼らの定住地へと向かう。

 

 その頃、三人の魔女からの言葉に疑念を抱き、神秘根絶委員会の資料室に忍び込んだメドラウド二世はついに、魔女狩りが神秘を例外なく刈り取る組織であると知る。
 そこに現れたアンジェ・キサラギと交戦するメドラウド二世は事前に協力を取り付けておいた二人の協力者、妖精使い・フェアと超越者・英国の魔女の協力を得て、脱出に成功する。

「キュレネ」編のあらすじ(クリックタップで展開)

 その戦いが終わった頃、ついに一行はユークリッド空間抜け、アビゲイル達の定住地「キュレネ」へとたどり着いた。
 そこはドーム上のユークリッド空間で隔絶された安全地帯、丘の上に築かれた見事な都市だった。
 「キュレネ」に到着し、一晩を暖かいシャワーとフカフカのベッドでゆっくり休んだ三人は、充実した朝ごはんを食べ、久しぶりに素晴らしい一日の始まりを味わった。
 しかし、少しずつ「キュレネ」への疑問を覚えるエレナ、アビゲイルを信用出来ないアリス、「キュレネ」に居住を望むジャンヌ、と三人の思想にはずれが生じ始めていた。
 三人はそんな状態のまま、かつて自分たちを助けてくれた魔女の片割れ、ソーリアと再開する。
 しかし、三人はそれぞれ自身の思惑に従って行動した結果、衝突を始めたように見え始め。三人の思惑はすれ違いを続けるように見える。
 そして、その夜。
 アリスが昼ごはんを食べた食事処に忍び込む。そこでアリスの視界に映ったのは、それを妨害せんと立ち塞がるジャンヌの姿であった。
 だが、立ち塞がったジャンヌはアビゲイルの見せる偽物だった。
 本物のジャンヌとソーリアと合流したアリスは、「キュレネ」からの脱走を目指す。
 エレナは引き続き、アビゲイルの嘘に騙されており、惑わされていたが、アリス達を信じ合流した事で、疑念を晴らす。
 エレナの機転で、アビゲイル達に勝利した三人の魔女とソーリアは、「キュレネ」を追放され、「キュレネ」に匹敵する魔女の避難地を作るための組織「魔女連合」の結成を宣言するのだった。

第2部のあらすじ(クリックタップで展開)

 「魔女連合」一行は、「哲人同盟」のソクラテスと出会い、「魔女連合」に興味を示す魔女達と対話するため、「哲人同盟」の定住地へと向かう事になった。

 一行は「哲人同盟」の定住地で魔女チャールズ姉妹を仲間に加え、マケドニアに向けて旅立っていった。
 マケドニアにて久しぶりにゆったりとした時間を過ごした「魔女連合」一行だったが、ソーリアの行動により、それはフイになる。
 魔女狩りを前にして暴走したソーリアによって逃走を余儀なくされる一同。ソーリアとジャンヌとチャールズは、一度追い詰められるが、チャールズの魔法を魔女狩り達の前で使い、逃走に成功する。
 一週間後、逃げ切ったと思った一同の元に神秘根絶委員会の長・ギルガメスを名乗る男の襲撃を受ける。
 対抗する一同だったが、チャールズの片割れとソーリアを誘拐されてしまう。

 

 
 

 波の音がする。だが、砂浜の上を波が滑るような音ではない。
 もっと岩壁や突き出た岩に波がぶつかるような音だ。
 このままではまずい、目を覚まさないと……。
 最初にその意識を取り戻したのは、ジャンヌだった。
「船の上……?」
 ジャンヌが何とか瞼を開け、立ち上がると、そこは船の上だった。
 と言っても、この時代に一般的な金属製の船ではない。明らかに木製の船だった。
 足元を見渡すと、エレナ、アリス、チャールズの三人が寝転がせられている。
「ここは一体……」
 困惑しながら、もう一度顔を上げると。
「バァ!」
 ジャンヌの目の前いっぱいに顔が広がる。
「きゃあ!」
 驚きのあまり四方に壁を展開するジャンヌ。
 最近は驚いてもあまり壁を展開しなくなったのだが、今回他のメンバーが気絶しているのもあって心細く、つい壁を展開してしまった。
 が。
「ごめんよ、驚かせたかな?」
 問題の顔は、壁をすり抜けて再びジャンヌの目の前にやってきたのだった。
「な、何ですか!」
「ん……何……」
 ジャンヌが怯えてさらに距離を取ろうとして、背後の壁まで後退するが、その騒ぎにエレナとアリス、チャールズが起き出してくる。
「ちょっ!? 木の壁に囲まれてるじゃないですか!? 私も結局魔女狩りに捕まったんですか!?」
 最初に現状に驚愕して見せるのはチャールズだ。
「いや、これジャンヌの壁でしょ。そこの壁をすり抜けてる奴に怯えたってところじゃないの?」
「あなた、以前にタンカーの上であった魔女よね? 確か……トリアノン?」
 チャールズの言葉にアリスが呆れ顔で話す中、エレナは壁を透過している魔女の存在に見覚えがある事に気付き、声をかける。
「おや、ボクの事を知ってるの? どこかであったっけ?」
 対してトリアノンは覚えていない様子だ。
「あーー! あの時タンカーを攻撃してきた海賊魔女どもじゃない!」
 そして、エレナの言葉にアリスも思い出す。
「んん? あぁ、そういえば、タンカーに乗った時に人がいたことがあったっけー? 魔女だったのかー」
 二人の言葉にタンカー? と首を傾げてから、腕をポンと打つトリアノン。
「じゃ、自己紹介の手間が省けたねー。『魔女海賊団』のフォーチュン号船上へようこそ〜」
 トリアノンが微笑む。
「いやいや、『魔女海賊団』って何よ。私達、一方的に襲われただけで何も知らないんだけど」
 そんなトリアノンにアリスがツッコミを入れる。
「む。そうか、先にそこからか。じゃあ、とりあえず、船長を紹介したいからさ。壁を下ろしてよ」
「あ、はい」
 そんなやりとりを見て、落ち着いてきたのか、ジャンヌも壁を解除し、四人の魔女の見える世界は大海原に浮かぶ大型帆船ガレオン船へと戻ってくる。
「今、私達はあのガレオン船の上にいるのね」
 見上げると見覚えのある海賊旗ジョリー・ロジャーがはためいているのをみて、エレナが呟く。
「よう、全員起きたのかい、トリアノン」
 そこにやってきたのは、如何にも海賊と言った見た目をした片目に眼帯をした女性がやってくる。
「うん、ちょうど起きたところだよ、バーソロミュー」
 バーソロミューと呼ばれた魔女が、手を上げて一向に挨拶する。
「名前からするに、あなたが船長?」
「おう、あたしが船長のバーソロミューだ。そういうあんたがリーダーでいいのか?」
「えぇ、『魔女連合』のエレナよ、よろしく」
「『魔女連合』か、知らない名前だな」
 握手しながら、バーロソミューが首を傾げる。
「魔女が魔女らしく生きられる世界を求めてるの」
「なんだ、それなら」
「ただし、ルールを守りながら、よ。うちでは海賊行為は許さないわ」
「なんだいそりゃあ。ルールを守るって『キュレネ』みたいにかい?」
「いいえ、『キュレネ』とは違うわ。うちでは二等魔女なんて仕組みは作らないの」
「ふぅん」
 淀みなく答えるエレナに感心したようにバーソロミューが頷く。
「ま、その志が折れたときは、ぜひ、我が『海賊共和国』に来ると良い。魔女が魔女らしく生きられる世界を提供するぜ」
「『海賊共和国』? 『魔女海賊団』じゃないの?」
 横からアリスが会話に割り込む。
「あぁ、そりゃ簡単だ。『海賊共和国』の実働部隊が『魔女海賊団』さ。『キュレネ』と魔女隊との関係と同じだな」
「なるほどね。ちなみに『海賊共和国』は規模どれくらいなの?」
「聞いて驚け。『キュレネ』に匹敵するぞ。なにせ二大定住地と言われているくらいだからな」
「そんなにですかー!?」
 チャールズが驚愕を口にする。
「いや、流石にそれは無理でしょ。『キュレネ』があれだけの規模を維持できてるのは僻地なだけじゃなく、ユークリッド空間のおかげもあるのよ? それに匹敵するなんて、本拠地はどこよ」
「ナッソーだ。我々が乗っ取った」
 アリスのジト目での問いかけに、バーソロミューは自信満々に答える。
「ナッソー!? バハマの? 名前だけじゃなくて場所まで一緒だったのね」
「どこですか?」
「カリブ海よ」
「って、どこですか?」
「後で教えてあげる」
 感心するエレナの背後でジャンヌとアリスがちょっと惚けたやりとりをする。
「あはは、あんたら面白いね。じゃあ、ユークリッド空間の代わりになるものも教えてやるよ。うちにはね、魔術障壁っていう壁があるんだ。魔力を糧に動く透明な壁さ」
「巨大な魔導具ってこと? あなた達の長、そんなものをどこで……」
 バーソロミューの答えにアリスが目を剥く。
「そこまではあたしを知らないねぇ。確かなことは、魔術結晶を維持するには魔法結晶や魔力のこもった道具が必要で、あたしらはそれを集めてるってことだけさ」
「そのための『魔女海賊団』、ってことなのね」
「そういうことだね」
 エレナが納得した様子を見せると、バーソロミューが頷く。
「ん? ちょっと待ってください。私達はタンカーを襲われましたよ? タンカーに必要なものはないんじゃないですか?」
 黙って聞いていたジャンヌが自分の疑問を口にする。
「お、鋭いねえ。実はね、タンカーは化石燃料なんかとっくに運んでないのさ。今は、魔法結晶を運んでいるのさ」
「そんなことどうして……、って、まさか……!」
 アリスが今度こそ戦慄した。
「そうさ。魔法結晶を利用してるのはうちらや『キュレネ』だけじゃない。科学統一政府も同じってことさ」
「そ、そう言えばソーリアも言ってたわ、プラトさんが火力発電所を睨んで怪しいとか言っていたって」
「あぁ。今、世界中の化石燃料式発電所は今や魔法結晶による発電所さ。知らなかったかい? 魔女狩りに捕まった魔女達は火力発電所で燃やされて、魔法結晶を回収されるんだぜ?」
 思わぬ真実に五人全員が黙り込む。
「でもなるほどね、それでチャールズとソーリアが攫われた理由が分かったわ」
「え、どういうことですか?」
 エレナの納得にジャンヌが首を傾げる。
「あの二人は属性が有用だから攫われた、ってことよ」
「なんだい。なんで魔女が海を彷徨ってるのかと思って助けてみたら、お仲間を攫われたところだったのかい」
 量子テレポーテーションの魔女であるチャールズ、炎の魔女であるソーリア。ともに科学的に様々な活用方法が思いつく魔法だ。その魔法結晶はさぞかしありがたいものだろう。
「ってことは、二人は今、手近な発電所にいるのね?」
「あぁ。さっきティルトジェット機が飛んで行くのが見えたぜ。方向的に、今頃はアレッサンドロ・ボルタ火力発電所辺りにでもいるんじゃないか?」
「どこよそこ」
「イタリアみたいね。海沿いにあるみたいだけど」
「あぁ、そうだぜ、送ってやろうか?」
 スマートフォンで調べたエレナに対し、冗談めかしてバーソロミューが笑う。
「えぇ、お願いしたいわ」
 しかし、その冗談に対して、真正面から、エレナは頷いた。
「おいおい、本気か? 相手は神秘根絶委員会の戦闘員が警備する発電所だぞ? そこに送ってくれって? 冗談にしては面白くないね」
「なら、お互い面白くない冗談を言ったんだからお互い様よね、ま、エレナは本気だと思うけど」
「えぇ、私は本気よ」
「『魔女連合』つったか、なかなか頭のぶっ飛んだ連中みたいだね」
 おもしろげにバーソロミューが笑う。
「いいぜ、ならあたし達も協力してやってもいい。砲撃支援から突入支援まで手広くやってやってもいい。その代わり、条件が二つある」
「二つ? 一つは、発電所にある魔法結晶はあなた達が総取り、でしょう?」
「話が早いね。もう一つもシンプルさ」
 スラリ、とバーソロミューが腰に下げた2本のカトラスを同時に抜く。
「!」
 「魔女連合」の魔女達が一斉に警戒する。
 その様子を気にすることもなく、バーソロミューはカトラスの片方を船に突き刺し、言った。
「さぁ、誰でもいい。このカトラスを手に取りな。あたしと決闘して勝てるほどの実力があるなら、協力してやるよ。これが条件の二つ目さ」
 そう言って、バーソロミューは笑った。
「いいわ」
 受けたのはアリス。カトラスを引き抜く。
「おや、嬢ちゃんなのかい? この中じゃ、一番箱入り娘って風体だが」
「えぇ、箱入り娘は否定しないわ。けど」
 カトラス抜き、構える。
「多分、まともな近接戦闘訓練を行ってきたのは私くらいだから」
「へぇ、悪くない構えだ。じゃあ、行こうか」
 バーソロミューが地面を蹴り、一気にアリスへ肉薄する。アリスは素早くそれに反応し、カトラスで防御、そのまま激しい火花の散らしあいに移行する。
「へぇ、本当に良い反応速度じゃないか、どこで訓練を受けたんだい?」
「インクィジターよ」
「知らないな。どこかの神秘組織か」
「あら、アビゲイルは知ってたけど」
「うちは魔導具を使ってはいるけど、それに対する知識はほとんどないからねぇ」
 火花の散らしあいが続く。
「なるほど、なら、こうだ」
 カトラスを右手で振るいながら、バーソロミューは左手で胴体に四つ保持したフリントロックピストルのうち一つを抜き、アリスに向ける。
「!」
 アリスは咄嗟にこれを側面に飛んで回避。
 そこに横薙ぎのカトラスの一撃が飛んでくる。アリスは咄嗟に跳躍したばかりで、この一撃を受け止めるには無理がある。
 それでも、アリスは無理な構えでバーソロミューのカトラスの一撃を受け止める。
 姿勢を崩すアリスに、バーソロミューは容赦無くカトラスを振るっていく。
「あ、ずるいですー。アリスさんはカトラス一本だけなのに、そっちは銃も使うなんてー」
「両者が同じ武器を使う、なんて規定はしてないぜ」
 チャールズが非難の声をあげるが、バーソロミューはどこ吹く風だ。
「とはいえ、相手のフリントロックピストルが見た目通りの性能なら、戦闘中に再装填は出来ないはず。持っている四丁による四発が使える上限のはずよ」
 それをエレナは冷静に分析する。
「で、でも、残り三発も自由に使えるなんて……」
「大丈夫よ、銃が出て来る事さえ分かってれば、対処のしようがあるわ」
 不安そうなジャンヌに、アリスが微笑みかける。
 しかし、現状では新たにフリントロックピストルが使われなくても、カトラスの勝負だけで決着がつきそうである。
 それだけ、アリスは押されていた。
(こうなったら、あれを使うしか……)
 覚悟を決めて。アリスは叫ぶ。
Then I stood on the sand of the sea. I saw a beast coming up out of the sea, having ten horns and seven heads. On his horns were ten crowns, and on his heads, blasphemous names.わたしはまた、一匹の獣が海から上って来るのを見た。それには角が十本、頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭には神を汚す名がついていた。ヨハネの黙示録13章1節」
 その叫びに呼応し、アリスの両手首からそれぞれ五本の爪が生えてくる。
 その爪は、バーソロミューのカトラスを受け止めるばかりか、バラバラに切り裂いた。
「驚いたな。なるほど、どうやら、単純な戦闘能力では決着がつかないらしい」
 そう笑うと、バーソロミューは後方に飛び下がり、空中に手を伸ばすと、周囲に無数のカトラスとフリントロックピストルが出現する。
「先に神秘を使ったのはそっちだぜ、藻屑と消えな!」
 無数のフリントロックピストルの引き金が自動で引かれ、同時、カトラスが一斉に飛びかかっていく。
 だが、アリスは臆する事なく前進した。
 爪を振り回すと、全ての弾丸とカトラスが打ち払われる。
「なにっ!?」
「はぁっ!!」
 アリスが地面を蹴って一気にバーソロミューに飛び込む。
 弾丸のようなアリスのその一撃はバーソロミューを思い切り押し倒した。
「見事、あんたの勝ちだな」
 そう言って、バーソロミューは笑った。
「えぇ、じゃあ、私、限界だから、後はエレナに任せたわ」
 そう言って、アリスは倒れた。

 

 To be continued…

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 フィクションの登場人物とシンクロしその力を使えるようになる謎の不思議なアイテム「アフロディーネデバイス」と「ピグマリオンオーブ」を巡る物語です。
 主人公の成瀬 太一は本作の主人公、エレナと本当の苗字が一致しており、かつ使うオーブは本作の魔女ムサシ。
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