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未来へのトリックオアトリート

第一章 #N.U.A.246

 
 

 人類が宇宙進出を遂げ、様々な宇宙人と交流を持ち、地球政府が廃され、宇宙政府ができ、年号がニュー・ユニバース・エイジ、N.U.A.と改号されてから246年後の今。
 宇宙政府の警察組織GUFの内部組織であり、様々な種族の権利擁護アドボカシーを目的とするアドボラは、いくつもの艦に分かれ、宇宙中を航行していた。
 そんなある日、宙雷艇母艦チハヤにて。

 

「GUF作戦司令本部から通信です」
 通信士官が、作戦指揮官のオラルドに伝える。
「読み上げてくれ」
「発GUF作戦司令本部 宛GUFアドボラ所属チハヤ。貴艦の航行エリアの隣接エリアにて不自然な重力変動が検知された。貴艦が一番近い。ついては調査を命じる」
「了解、と返答せよ。通信に付属していた座標を航海長へ」
「航海長了解。航路を計算します。最初の進路は、平面方位0-8-5」
「了解。進路を平面方位0-8-5へ」

 

 何度かのワープの後、チハヤは目標の座標に到達する。
「なんだ、あれは……」
 そこに存在したのは、おおよそ宇宙船としては非合理的な、翼竜を模した巨大な宇宙船であった。
「電波通信を開け」
 オラルドが指示する。
「電波通信、開きます」
「こちらはGUF所属、チハヤである。貴艦の所属と航行目的を知らせよ」
「返信を受信、メインモニターで再生します」
『gimo wata rika ana hana』
「未知の言語です。自動翻訳機も言語判定を不明と識別」
「こちら、チハヤ。そちらの言葉が分からない。他の言葉ではしゃべれないか? This is Chihaya. I don’t understand your language.」
 オラルドが共通語、地球語など、様々な言語での会話を試みる。すると。
『Is Chihaya your ship’s name? If so this is Tobu.』
 やや片言であったが、地球語で返事があった。「チハヤというのがそちらの船の名前か? そうであるなら、こちらはトブである」と。
「自動翻訳を地球語に切り替えます。以降、地球語は共通語に自動翻訳、共通語は地球語に自動翻訳されます」
「こちらはGUF所属のチハヤである。貴艦の所属と航行目的を知らせよ」
『すまない。私達はこの世界に来たばかりで、GUFというのは分からない。我々は盗まれたものを取り返すために行動している』
 改めて問い直すオラルドに、トブというらしい船からの返事はそのようなものであった。
「世界? 翻訳装置の誤訳か?」
「いえ、worldと言っています。世界、宇宙、いずれにせよ、別の宇宙、別の世界を示唆するものです」
 オラルドの疑問に種族交流士官が答える。初めて交流する異種族などとの交流をするための士官で、極めて珍しい。が、アドボラでは全艦に一人は所属している。
「なら、通信を続けよう。 世界、といったか? ここではない別の世界から来たのか? なぜ地球語を知っている?」
『私達の世界はチパランドと呼ばれている。この言葉は私達の世界では、人神契約語と呼ばれている。この言葉で会話できるということは、あなた方は神なのか?』
「かつて開拓時代の地球人が自身を神と名乗ったのでしょうか?」
 トブのクルーの話を聞き、種族交流士官が見解を示す。
「その見解が妥当だろうな。とりあえず、敵意は無いようだ。 あー、我々は神ではない。この言語はかつて存在したある種族の言語で、今は共通語に置き換わっている。つまり、我々にとっては古い言葉だ」
『共通語という概念は私達の世界にも存在する。理解した。人神契約語と類似している点は気になるが。とりあえず、我々は盗まれたものを取り返したいと思っている。私達の行動目的は以上だ』
「盗まれたというなら協力できるかもしれない。我々GUFはこの世界……少なくともこの周辺の宇宙における警察組織である。詳しく話を聞きたい。ついては我が艦のクルーをそちらに受け入れてもらいたい」
『…………私達にはその真偽を計るすべがない。だが、熱心に複数の言語で話しかけてきた、その想いを信じようと思う。そちらのクルーを迎え入れる』
 こうして、トブとチハヤの交流が始まった。
 チハヤからトブに移動したのは、フェアリースーツと呼ばれる新型の宇宙戦闘服の適合者であるスミスとミア、そして、標準の宇宙服を着た種族交流士官の三人だ。

 

 トブの艦内は不思議であった。神秘的な空間に浮かんでいるようだったのだ。壁が見えない。しかし、触れるとそこに確かに何かがあるのが分かった。
「ようこそ、トブへ」
 地球語で――向こうの言い分によれば人神契約語――話しかけてきたのは、リーダーらしい赤毛の男であった。剣を腰に下げている。指揮官としての格を示すものだろうか、と種族交流士官は思った。
 まず最初に、チハヤの面々が行ったのは、チパランドにおける共通語のサンプル収録だった。翻訳機に言語を登録するためだ。それがある程度済んだ後、それを使って会話をしていく。分からない言葉が出たら、地球語で確認し、それを再び翻訳機に登録する。を繰り返す。
 こうして分かったのは以下の事であった。
 ・チパランドは魔術と呼ばれる技術のある世界である。これはこの世界でも実践できるらしい。
 ・このトブを含め、チパランドの根幹技術にはすべて魔術が使われている。魔術を使った銃、魔術を使った列車、等だ。
 ・そして、魔術は武器にも強力な作用を施すこと、まだ大量生産時代は到来していないこと、から武器は剣や槍などの原始的な物が多い事
 ・盗まれたのはダークスターエレメントと呼ばれる結晶。魔術に使うこともできる触媒のようなものらしく、その効果は絶大、世界そのものを作り変えるほどのエネルギーを持つらしい
 まとめると。
「これは、我々の世界にとっても他人事ではありませんね」
 と、一度チハヤに戻った種族交流士官。
 魔術と呼ばれる技術はこの世界でも使用することができる。そして、ダークスターエレメントによる魔術は世界を作り変えるほどのエネルギー。つまり、この世界でそのエネルギーが発散される可能性もあるのだ。
「あぁ。間違いない。彼らのダークスターエレメント奪還に協力しよう。それに、彼らが新たな私達の隣人となるのであれば、我々アドボラがその最初の一歩となるのは、名誉なことだ」
 と、オラルド。
 こうして、チハヤとトブは連れ立って航行を開始した。
『あなた方と出会えてよかった。私達だけでは、この広い星の海は手に余っていた』
 と通信。そう、トブにはワープドライブやそれに類するものが搭載されていなかったのだ。そして、敵が逃げた魔力の痕跡こそ追跡できていたトブだったが。こうしてチハヤに伴ってワープして、未だにその先にたどり着けていない。もしトブ単独であったら、敵に追いつけなかったかもしれない。
「そういえば、トブやアルとは、変わった名前ですが、何か由来があるのですか?」
 ワープドライブのチャージ中、オラルドはこうして交流のための会話を試みていた。トブは艦の名前、アルはリーダーの赤毛の青年の名前だ。
『トブは飛翔する。アルは存在する、という意味の神聖語だ』
「…………。一致する言語があります」
「なに?」
 種族交流士官の言葉にオラルドは顔をしかめる。
「飛翔するという意味の、飛ぶ。存在するという意味の、有る。……かつて地球に存在していた言語の一つ。日本語です」
「では、チパランドの人々が神とあがめている存在は日本人だというのか?」
「それは分かりません。が、地球至上主義のセントラルアースのように日本至上主義のような存在がいまだに生き残っている、という可能性も」
 種族交流士官の指摘は現実的だ。しかし。
「だが、彼らの話だと、魔術という儀式は神から教わったのだろう? 日本人がそのような技術を持っていたという記録は無い。厳密には地球には魔術という技術はあったらしいが、チパランドのそれとは違う。ひとまずは、偶然の一致だと思っていた方が良いだろう」
 と、オラルド。しかし、オラルドは同時に、どこか偶然ではない、という気もしていた。ただ、関係あるとしても、この世界の地球ではないかもしれないな、とも思った。

 

「私達暇だねー」
「そうですね」
 そんなことをトブ艦内で話していたのは、ミアとスミスであった。彼らは何らかの事態に備え、トブ艦内で待機していたのだ。
「ねぇねぇ、チパランドの魔術にこんなのはないのー?」
 と、サーミル感染症特有の〝粒子〟操作を披露するミア。
「なんでここにシアさんはいないんだろう」
 と一人ぼやくスミス。ミアをうまく操作するのは後輩である彼には難しいのだった。〝粒子〟操作は、チパランドの魔術使い達に大いにウケているようで、各々挑戦している。
「こんな感じですかね」
 ミラというらしいフードの少年が、上手く〝粒子〟を操作することに成功したらしい。
「うそ!」
 さすがのスミスも驚いて立ち上がる。
「コイツは魔術の扱いがめっちゃ得意なんだぜ」
 と自慢げなジル。
「なんで、ジルが得意げなんだよ」
 とあきれ顔のスペンス。
「そういえば、そのエレメントってのを盗んだのはどんな奴なの?」
「えーっと、ウェストフルーツを頭にかぶった人達です」
「ウェストフルーツ?」
「はい。こんなのです」
 ミアの質問にアルが絵に描いてくれる。
「これって、カボチャ?」
「カボチャですね」
 と顔を見合わせるミアとスミス。
「ちょうど、あんな感じかなー?」
 と、ミアがトブから見える、大きなジャックオーランタンを指さす。
「そうですかね……。って、なんですかあれ!」

 

 それはチハヤからも見えていた。巨大なジャックオーランタン、の見た目をした宇宙船だ。
「第二種戦闘配置!」
「第二種戦闘配置。戦闘要員は発進準備」
「フェアリースーツ要員二名は、トブから発進できる準備を」
 チハヤの艦橋はそんな具合に大騒ぎだった。
「電波通信、開きます」
「こちらはGUF所属、チハヤである。貴艦の……」
 と言い終わるより早く、ジャックオーランタンの目から光線がトブに向かって放たれる。トブは翼を斜めにして、攻撃を回避する。
「第一種戦闘配置、戦闘要員を発進させろ」
「戦闘要員発進、各砲座、射撃準備。フェアリースーツ要員二名も発進を!」

 

「了解ー、行くよスミス君ー」
「はい!」
 スミスとミアがトブから発進する。
「いってらっしゃい!」
「幸運を!」
 とトブのクルーから見送られる。
『チハヤには対光学シールドがあります。トブは本艦の後ろへ』
『トブ、了解。牽制しつつ、チハヤの背後に入ります』
 トブが、翼から魔力そのものの塊である魔術弾丸を機関砲のごとく連射しながら、移動を開始する。
『艦載機を飛ばしてこないか……。艦載機隊はミサイル攻撃を。フェアリースーツ隊は可能であれば艦内に切り込みを』
「りょうかいー。いくよ、スミス君―」
 ミアが妖精のような青い翼を展開し、一気に飛翔する。その青い翼はフェアリースーツの〝粒子〟イオンエンジン、フェアリーの名の由来である。
「はい」
 スミスも〝粒子〟イオンエンジンを全開にして前進する。
「敵の攻撃って、あの二つの目からのレーザーだけ? 全然余裕だねー」
 二本の光線をくぐり、ミアは前進する。
「スミス君、あの外壁に攻撃するよ。同時に、同じ場所に、行くよ!」
「はい!」
 ミアのポインターが外壁の一か所を示す。ミアもスミスもそのポインターに〝粒子”操作適合者専用の”粒子〟銃、フェアリーガンを向ける。
 “粒子〝はその量によって威力を変える。当然、個人携行の”粒子”銃程度では、大した威力は出ないのだが、”粒子”を操る能力を持ったサーミル感染症の感染者は、その威力を本当なら暴発するレベルの”粒子”量すら安定して操作できる。フェアリーガンはそのために作られた”粒子〟銃である。このため、本来、戦闘機クラスでも簡単には破壊できない外壁であっても。
「よっし、突入―」
 破壊できるのであった。
「突入はしましたけど、どうします? 人間相手にフェアリーガンを撃つわけにはいきませんよ?」
「電磁警棒で行こうか」
「では、私はショックガンを」
 ミアを先頭に前進する。
「多分顔の位置が艦橋だよー」
「カボカボッ!」
 コロコロコロ。
「なにこれ?」
「レトロカメラのフィルムケース?」
 ボウっと煙があふれる。
「くっ、さっきの穴から脱出」
 ミアが青い翼を展開して、離脱する。
「あ、ちょっと」
「カボカボ!」
 火薬の爆発する音とともに、鉛の弾丸が飛翔してくる。こちらからは見えないのに、向こうには見えるというのか。スミスも翼を展開して離脱する。それにしても、
「今時、反動銃リコイルガン?」
 現在存在する銃は4種類。〝粒子〟を使った〝粒子〟銃、熱線ジェネレータを使った気化銃、電磁誘導を利用して弾丸を放つ磁力銃、そして火薬を使った火薬銃である。つまり、火薬式の銃時代は珍しくない。しかし、宇宙空間で使うため、反動を打ち消す仕組みの付いたものがほとんどで、反動が付く反動銃はほぼ絶滅している。その直後、二股の槍が飛んできたことで、スミスは思考を中断し、回避マニューバの実行を強いられる。
『トブが主砲を使うらしい。フェアリースーツ要員は十分に離れろ』
「ミア、オッケーです」
 スミスは回避マニューバを取りつつ、全力で推進して、なんとか、距離を話す。
「スミス、オッケーです」
 必死だったので、ミアの口調がうつったスミス。
『よし、トブ、はじめてくれ』
『トブ、了解。みんな、操作盤に手を』
 トブが翼をはためかせ、チハヤの上に出る。そして、翼竜の形の口に当たる部分が大きく開き、三重に魔法陣が出現する。
『行くよ、スパーク!!』
 そして、口から、膨大な放電が発生し、それがすべて、カボチャ艦に命中する。
 カボチャ艦は、雷により操作系をやられたのか、極めて奇妙な軌道をとり、そして、突然〝裂け目〟が出現し、その裂け目の中に入っていく。
『逃げる気だ、あれを追わないと!』
『チハヤ、最大戦速。フェアリースーツ要員は急いでチハヤに戻れ』
「了解―」
「了解!」
 そして、チハヤと、トブは〝裂け目〟に飛び込む。

 

 そこは廃墟であった。そして、
「前方に障害物!」
 前方の障害物。白い巨人のようななにか。
「前方にスラスター。緊急ブレーキ」
 前方にスラスターを吹かせて勢いを殺し衝突を回避。
「重力下です。落下する!」
 チハヤは無重力下を航行するための宇宙船である。重力下では、航行できない
『こちらトブ。そっちは無重力空間でないと飛べないんですね? こちらに牽引ビームを。トブはここでも飛べますので』
「急げ!」
「はい!」
 緑色の牽引ビームがトブに放たれる。
「なんとか、高度を維持できているようです」
「前方の白い巨人、こちらに爪を向けています」
「まずい!」
 と、空中に突如、歪な五芒星が出現。
「なんだあれは、チパランドの魔法陣か?」
『いや、私達の世界の魔法陣にあんな形のものは存在しない』
 そして、そこから、銀朱色の巨人が姿を現し、その爪を受け止めた。

 

To be continued to 2章 #A.D.1961

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第1章 #A.D.2032へ

第2章 #A.D.1961へ

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