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第四章前編  #X.X.xxxx アース攻略戦

 
 

「おかえりなさい」
 帰還したイシャン一行とアンリ、イレ、サーテがクラン・カラティンの本部に戻る。
「そちらがアンリさんね。私はクラン・カラティンのメイヴ。お見知りおきを」
「錬金術師のアンリだ。こちらは付き人のイレ、そしてサーテ」
 メイヴとアンリらが挨拶を交わし、そして疑問を呈する。
「それで……4人と3人だけ? フレイは?」
「エルフを名乗る男と戦ったが……戻ってないのか?」
「いえ……まだ戻ってきてないわね。他のメンバーと連絡を取ってみるわ。みんなは会議室で休んでいて」
 メイヴが司令部の方に向かっていく。
「どういうことだ……? フレイの奴」
 イシャンが呟く。
 ――何だってんだ……? どうにも嫌な胸騒ぎがしやがる……。
 いくらあのエルフを名乗る男がただものでは無いにしても、流石にデウスエクスマキナに勝てるとは思えない。しかし、どうにも嫌な予感は消えない。イシャンは会議室に向かいながら、胸騒ぎを振りほどくように、今出来る事を考える。少なくともフレイに関して自分にできる事は無い。そして、一つ、思いつく。
「そういえば、アンリ。お前さん、映写機の修理って出来ないか?」
「映写機……? こんな時に映画鑑賞か? 直せると思うが、とりあえず、見せてもらって構わないか?」
 この場所におおよそそぐわないその発言に首を傾げるアンリ。
「ちょいと特別な事情があってな。カラスの旦那、壊れた映写機を貸してくれないか?」
「分かった。これだ、ちょっと下手をしてな」
 イシャンがカラスヘッドに声をかけ、カラスヘッドが杖ごと差し出す。
「ふむ……。なるほど」
 杖の映写機部分を様々な方向から見る。
 ――主な破損部分はレンズか。内部構造はあまり大きな損傷でも無いようだ。レンズは工房の娘達に頼めばその日のうちに完成はするだろうが……
「これなら〝戻〟した方が早いな」
「戻す?」
 アンリの判断、その言葉に首を傾げるイシャン。
「あぁ、その方がすぐに直せる。サーテ、三番を」
Vorladung召喚 beenden完了
 サーテが頷き呪文を唱える。何も無いところからクーラーボックスが出現する。
「よし。ありがとう。それじゃ。Ablösen分離 beenden完了
 そして、アンリが左手を右腕にかざし、右腕が肩ごとごっそり外れる。クーラーボックスを開けると、そこにもう一本右腕が入っており、それを右肩に押し付ける。サーテが取り外した方の右腕をクーラーボックスに収納する。
「これでよし。待たせたな。Aktivierung巻き戻し
 右手を杖にかざし、呪文を唱える。突然だが、錬金術とはいかなる魔術であるだろうか。一言に錬金術と言っても、エレナが便宜上名付けたところのロー魔術の中にも複数の流派がある。共通するのは元となる物質を別の物質に変える、というものだ。流派の違いはつまるところ「どうやって別の物質に変換するか」によって区別する事が出来る。そして、アンリの使う錬金術は物質を「可能性」という単位にまで分解し、再構成するものだ。例えば、カッターナイフには「切断する」という「可能性」がある。これは例えば刀の持つ「切断する」「可能性」には劣る。そして、アンリであれば、複数のカッターナイフを「可能性」に分解し、再構成する事で、刀か、あるいは刀並みの切れ味を持つ道具を作り出す事が出来る。あくまで例示だ。カッターナイフの持つ可能性が「切断する」だけとは限らないし、刀もまた、「切断する」という可能性のみで構成されている訳では無い。そして、今アンリがしているのもあくまでその応用。映写機が破壊された事で失われた「可能性」を補充し、元の形に戻してやるだけ。
beenden完了
 そしてそれは無事に完了し、杖は元通りになった。
「ほい。修復完了だ。一応直し損じが無いか確認してくれ」
「感謝する。……問題無い、見事出来だ。驚いた。まるで魔法だな」
「当然です」
 杖の出来を見て感心するカラスヘッドに、ふふん、と自身の主を誇るイレ。
 ――壊れる前まで巻き戻す、だと……? そんなことが?
 一方、その光景に内心驚くリュウイチ。先の説明の通り、「巻き戻し」はハッタリである。サーテの武器生成が実際には「武器召喚」であるのと同じ。アンリの「無制限」という異名は、そういった多くのハッタリによって成り立っているのだった。
「お前さん、義手だったのか!?」
 一方また別のことに驚くイシャン。
「義手……。まぁ、元の右腕では無いものを右腕に使っているという意味では、義手だな」
 説明に困り言いよどむアンリ。錬金術の技術そのものは当たり前の事の組み合わせにしても、この右腕こそは彼だけが使う最大の秘密。彼が学者としての錬金術師として周囲の魔術師にも秘匿している自分だけの秘儀だ。如何にイシャンが魔術の知識が無いとは言え、流石に説明するのは躊躇われる。
「戻りました」
 幸い、アンリへのそれ以上の追及は無かった。次々に様々な場所にいたメンバーが戻ってきたのだ。もっとも、イシャンも別に詳しい事を聞くつもりも無かったのだが。
 そして情報交換が行われる。フレイが倒された事、A.D.2016年世界の安曇、A.D.2032年世界の佐倉 日和博士、がそれぞれ現れた事。アンジェとアオイが同郷のキョウヤという男をかくまっていた事。
「空見キョウヤだ。アマテラス様の指示の元、敵を追ってきた。共通の敵を持つ者として、協力出来ればと思っている」
 とキョウヤが挨拶する。
「フレイがやられたのは痛いわね」
 一方、話は新入りのキョウヤより、フレイの話になる。このメンバーは良くも悪くも目的を同じくするものの集まりで、一人増えたところで特にそれが問題になるとは誰も思わなかったのだ。
「油断してた。一人にさせず、俺もついているべきだった……」
「いや、アースの砲撃は「敵対する組織の要塞を周囲の地域一体ごと焦土にした」と言われているくらいだ。デウスエクスマキナの防御が無ければ危なかっただろう」
 イシャンの反省に、オラルドがフォローを入れる。
「改めてとんでもない火力だな……」
 それを聞いて、改めてアースの恐ろしさを再認識するイシャン。
「フレイのヴァーミリオンを戦闘不能にせしめた巨大オオカミは、私が撃破しました。倒せない敵では無いです。相性が悪かったのでしょう」
「むしろ、如月の血の力と、あのオオカミの相性が悪すぎた、というべきかもしれないが。で、無ければ、巨人と半神半巨人の間に生まれた狼があんなにあっさり負ける筈は無い」
 フレイがフレイの敗因について分析しつつ、キョウヤが捕捉を入れる。
「狼って……」
 巨人と半神半巨人の間に生まれた狼、という言葉に何か思い当たる節があるらしく呆然とするリュウイチ。なによりそれを倒したというアンジェにも驚愕する。
「とにかく、そのエルフを名乗る男との戦いには、そっちのアンジェちゃんを連れて行った方が良い、って事ね」
 とエレナがごく簡単にまとめる。
「別世界の安曇さんの使い魔は、正直そこまで強くありませんでした。私や美琴、あるいは将来の美琴のご息女等であれば容易に勝てるでしょう」
 そしてメドラウドが安曇について解説する。
「戦いには相性が大切って事か。敵も増えてきたし、よく考えねぇとな」
 自身の判断ミスか、という後悔をなんとか横にやりつつ思考を戻しつつイシャンが呟く。
「逆に、アイツに対しては、この世界に疑似神性達が役に立つだろうな」
「アイツ? 疑似神性?」
「彼が言う、アイツ、というのは天使あまつかミユキの事ですよ。それで、疑似神性とは?」
 キョウヤが相性と聞いて、そんな話を始める。よく分からない言葉に対して、アンジェが捕捉する。
「あぁ。あのフレイという奴が乗っていた、ミーミルの泉の水を飲んだ片目の神の魂を受け継いだ巨人、等と同じ巨人たちのことだ。確か、君もそれに乗っているんだろう?」
 と、キョウヤがイシャンに話を振る。
「デウスエクスマキナのことか。だが、デウスエクスマキナには神性防御がついてる。相性って言ったらあの〝エルフ〟やオオカミ以外は大概相性が良さそうなもんだが?」
「なら、そのデウスエクスマキナ以外で当たるには相性が悪い、と言い換えてもいい。神秘プライオリティが高すぎる。小烏丸の写しでも勝てん」
「小烏丸の写し、私とそちらのアオイの持つ、弥水のことですね。日本に残る刀の中では、最も神秘プライオリティが高いといっても過言では無いくらいの刀なのですが」
 イシャンの疑問にキョウヤが答え、美琴が捕捉する。
「神秘プライオリティ……確か、古い武器ほど強いとかって話だったか? 魔術はサッパリでな」
「概ねその認識で正しい。厳密には少し違うが」
「いずれにせよ、それだけ古い武器に対抗するにはデウスエクスマキナしかないって事か。それだけ厄介な相手って事か天使ミユキって奴は」
 イシャンが安曇や美琴達から過去に聞いた神秘関連の話題を思い出しつつ、確認し、キョウヤから正しい、と返される。
「しかし、それより問題はあの月だな」
 そして、イシャンは頭を整理しながら、さらなる状況把握の為の話題を切り出す。
「あの月は、間違いなく僕らの世界の月だよ。あのぼこぼこのクレーターは、知性間戦争の時にできたものなんだ」
 ノエルがそれに対して説明する。
「まさか、そっちのセカイの月を〝裂け目”で移動させてきたって事か? いや、そんなことすりゃ月との重力干渉で地球は滅茶苦茶な筈だな。そもそも”裂け目〟で月を移動させてきたなら、チハヤで捉えられるしな。いま、俺達の世界の月はどうなってるんだ?」
「あぁ。捉えている。この世界の月も、存在しているようだよ」
 イシャンの疑問に、今度はオラルドがチハヤの観測結果を確認しながら返答する。
「月がふたつ。月の満ち欠けで海の満ち引きが変わるってのに、地球への影響は? それに、月が現れた時、チハヤの計測機器には何か反応があったんですかね?」
「いや、まったく。今計測しても、最初からそこにあったとしか思えないくらい、空間は安定しているよ」
「タホ湖と一緒って事ね」
 オラルドの説明に、アリスがなるほど、と頷く。そう、タホ湖の「最初からそうだったとしか思えないくらい濁っていた」
「奇妙な話ですね。かえって不気味だ。タホ湖? そうだ、ノエル。タホ湖の水について、調べてもらえないか? 前にリリィが「ナノマシンがなんとか~」って言ってた気がしてな」
「分析済みです。あのタホ湖の水は、完全にナノマシンによって汚染されています。濁って見えるのはそのためです」
 イシャンの疑問にリリィがすぐに回答する。
「手が早くて助かるぜ。で、その汚染ってのはどんな問題を引き起こすんだ?」
「はい。ここで言うナノマシンとは、知性間戦闘中に用いられた、対アドベンター用迎撃兵器としてのナノマシンです。普段は周囲を漂いながら、近くの熱源に付着。マイクロシリンジで採決を行い、DNAを分析、アドベンターだと認識すると、そのまま内部に侵入し、内部構造を破壊します」
「目に見えない極小の注射器で、毒を打ち込むようなもんか。アドベンター限定で」
「はい。ところが、問題は戦争終結後に発生します」
「問題?」
「ナノマシン兵器は、人間をも襲い始めたんだよ」
 リリィが言いにくそうにしたので、ノエルが回答する。
「どういうことだ? 機械がイカれたのか?」
「原因はいまだ不明です。確保し分析しても、プログラムや基盤には全く以上はありませんでした。全く異常が無いまま、人間を襲うのです」
「つかめない話だな。誰かが人間を襲うように遠隔操縦でもしてるのか?」
「だから原因不明って事か」
「リブーターは、血液を持たないから、このナノマシン兵器の攻撃を受けない。リブーターが開発された背景には、このナノマシン汚染の除染も含まれてるんだ」
「なるほどな。なら、リリィならタホ湖を除染出来るのか?」
「流石にそれは難しいね。大人数のリブーターで時間をかけて少しずつ除染していっているのが現状だし、まして今はその為の機材も無い」
「まあ、どう考えてもタホ湖全体を除染とはいかないよな。とはいえ、放ってはおけそうも無い。話を聞く感じだとタホ湖の水を凍らせられりゃ防げそうだが、ここにいるデウスエクスマキナにもそんな武器の持ち主はいないし。エレナ、そっちにそういう魔法を使える奴はいないのか?」
 イシャンは湖を呼んだ以上、湖にあるナノマシンに何らかの意味があるのだと考え、それを封じ込める策を考え始める。
「うーん……。私が海王星のエネルギーを解放すればいけるかしらね」
「あるいは、もっとソーリアが真面目に練習していてくれてたら、ソーリアができたかもしれないけどね」
 プラトがジト―っとソーリアを見る。
「えぇー、ボクが悪いっていうのー。炎が出せるだけでいいじゃん。それ以上なんて面倒だし嫌」
 ソーリアがぶーたれる。それを無視して、イシャンはエレナに話を続ける。
「そいつはありがたい。その海王星のエネルギーってのは直ぐに使えるのか?」
 確か盗まれたのは、木星、中性子星、月、彗星のフィルムだった筈、と思い出しながら訪ねるイシャン。
「えぇ。ストックが一つあるわ。タホ湖に行けばそれで凍らせる事が出来る」
「なら、タホ湖はひとまずそっちで対処だな。ノエル、リリィ。タホ湖の水を凍らせちまえば、ナノマシンもひとまず人を襲う事は無くなる。この認識で良いな?」
「えぇ。流石に凍結されれば、稼働を停止します。ただ、湖の中のナノマシンは、湖中基地攻撃の為に水中行動用に特別チューンされたナノマシンです。空気中で活動は出来ません。なので対策が必要かは少し疑問です」
 イシャンがよし、とリリィに確認すると、リリィは肯定と、そして補足説明をする。
「そうだったのか?」
「はい。空中を漂う為の機構と、水中を漂う為の機構は別物ですから」
「そらそうか。ヘリや戦闘機は海に潜れねぇもんな」
 リリィの説明にイシャンは納得する。
「まぁ少し前から濁ってるって話なんだし、凍らせないと不味いような事態なら、今頃手遅れだしね」
「だとすると、湖凍結は意味が無いのかしら?」
 エレナが納得し、メイヴが作戦に疑問を呈する。
「しかし、タホ湖が大戦後歴世界から来たものなのは明らかです。とりあえず凍らせておくのは一つの手ではあると思います」
 とアンジェが湖凍結を支持する。
「月を呼んだ勢力と、湖を濁らせた勢力が別物で、互いに敵対して策を講じたって話じゃない限り、こっちの世界にろくな事はなさそうだしな。いや、その仮説通りだったとしても、ここで戦争起こされても困るが」
 と、イシャンも、異変が起きているものをそのままには出来ない、と改めて表明する。
「だが、最も求められるのはこの事態そのものの収束だ。個々の事象の解決を図るよりは、根本的な解決が望ましい」
 キョウヤがその話題に待ったをかける。湖の凍結はとりあえずの場当たり的な対応である。それをするくらいなら他の場所で情報収集などを行うなど、より敵を追い、敵を根本的にどうにかする必要があると、キョウヤは考えているのだ。
「確かにな。とはいえ、今のところカボチャヘッズの居場所は掴めず。タホ湖にも姿は無かった筈だよな?」
「えぇ。全く」
 イシャンの確認に美琴が頷く。
「だが、ノエルたちは工場から〝裂け目〟に入り、湖のほとりに至ったのだろう? 湖に何かがあると考えるのが自然ではある」
 と、アンリがフォローを入れる。
「なるほど、湖に何かあるなら、湖をつつく事で連中をおびき出す事も出来るかも、か」
 それを聞いてキョウヤが頷く。
「タホ湖はなんで二つじゃないんだろうか」
 カラスヘッドが呟く。
「どういうことだ?」
 イシャンが聞き返す。
「月と湖、それぞれ大戦後歴の世界からやってきた。月はこっちの世界の物もあって二つ。なのに、湖は一つだけ。これがなんでか、ってことよね?」
 アリスが聞き返す。
「あぁ」
 カラスヘッドが頷く。
「月は動くからでは? タホ湖は地球基準で考えれば位置は絶対同じですが、月は地球の周りを周回しています。地球基準で位置をそのまま呼び出せば、意図的に合わせなければ同じ位置にはなりません」
 アオイが見解を示す。
「仕組み的なものはそれで説明がつくな。だが、彼らはこれまでずっと基本的にこっそりと行動してきた。ここでもう一つ月を作れば目立つ。周回軌道の問題だというなら月が覆ったタイミングで合わせればよかった筈。それが出来ないくらい切羽詰まっていたか、呼び出すタイミングに制約があるのか、あるいは、こちらの世界の月を置いておく必要性があるのか」
 とキョウヤが口を挟む。
「よし、月と湖の事はまた後で話そう。先に他に気になる事はあるか?」
 イシャンが仕切って話題を切り替える。
「個人的に気になるのは、向こうの私が何の為にエヴァンジェリンに協力するのか、ですねぇ。そうするだけのリターンが彼にはあったのか」
 すると、別世界の自分が敵に回った安曇が声をあげる。
「安曇、あんただったらどうする? 何があれば動く?」
 イシャンが安曇自身に思い当たる節が無いかを聞く。
「そうですね……。自分の儀式に必要な何かを埋めてくれるとか、でしょうか。しかし、特にそれが何かは思いつきませんね」
「今回、こっちには魔法や宇宙世紀の科学技術もあるしな。あちら側にも同様の世界から人が集まってるとなると、安曇を刺激する材料もあるのかもしれないが」
「正直、魔法にも科学技術にも興味は無いですね。話を聞いた限り、私の使う魔術体系や本は同じようですから、向こうの私が興味を示すとは思えません」
「そうなると、予測は困難か。そういえば、安曇が敵に回るなら、格納庫のカメラは切った方が良いかもしれないな」
 イシャンが別の事をふと思い至って話を変える。
「あら、どうして?」
「未来安曇に見られると、逆にこっちをヨグソトス回廊で攻められる可能性がある。相性が大事という事だから、格納庫には予備戦力を置いて、必要時にいつでも援軍を発進出来るように待機させたいからな。そこを捨てなきゃならんような事態は避けたい」
「? それは無理でしょ。向こうにはセラドンは無いわ」
 イシャンの回答を聞いてなお、疑問を呈するメイヴ。
「イシャンさんは魔術についてはからっきしですから。改めて説明しておきましょう。セラドンはあれ自体が魔力や契約を増幅してくれる杖なんです。厳密に言えばセラドンの「バルザイの偃月刀」の力ですね。私がヨグソトスをはじめとする神性の力を借りる事が出来るのは全て、そのおかげです。生身の人間がヨグソトスの回廊を開くなど、ほぼ不可能ですよ」
「あの安曇はレプリ・ショゴスを使役していましたものね。こちらの安曇と違って」
 美琴がそれを聞いて捕捉する。
「えぇ。私ならセラドンの力を借りてショゴスをそのまま召喚出来ますから。意味無いのでしませんが」
「なるほど。逆に言えばあの安曇の目的があなたのそのセラドンという可能性はありますね。自由に力を使える事は彼の最も求めるところです」
 アンジェがそこに割り込む。
「確かに。それはありえそうですね」
「なるほどな。しかし、カラが向こうについた理由だってわからんしな」
 イシャンが他に敵に回ったかつての味方であるカラについて考えを巡らせる。
「アイツが、向こうに付く以上、何かしら人類にとって益のあるものではあるんだろうが」
 それにキョウヤが反応する、が。
「カラはそういう奴なのか。あったばかりの俺には行動原理がサッパリだが」
「いえ、彼の言うアイツ、は常に、ミユキのことです」
 単にイシャンと同じように別の敵について考えていただけだった。
「ん? あぁ、すまない。そうだ。カラについては……。全く分からん」
「アンジェは何かカラの動く理由に心当たりはないのか?」
「彼女は「面白い」かつ「正しい」と思えばそれについていきますよ。それくらいですね」
「そいつはまたフリーダムだな」
「逆に言えば、彼女から見れば、カボチャ頭の行動は悪では無い、という事なのでしょう。彼が許容する悪は、盗みくらいですから」
 と、アンジェの回答に、
「盗みを許容している時点で、彼女の正義等たかが知れています」
「まぁ、そういうふうに考える人もいますが」
 アオイが割り込む。
「お堅いなぁ……アオイちゃん。そういう教育するもんなのか? 美琴さん」
「さぁ。私は子を持った事も、人を好きになった事もありませんので」
 イシャンの問いかけに、美琴は笑顔で回答する。
 ――こっちも連れねぇなぁ……
 と思いつつ、
「この美琴さんが惚れたって言う旦那はどんな人なんかね?」
 と小声で呟くイシャン。
「ところで、オラルド指令。その後、アースはどうなったんですかね?」
「光学迷彩の上、電磁迷彩で雲隠れだよ。ただ、タホ湖の上空で〝裂け目〟の生成らしき重力変動を検知した。少なくとも少し前はそこにいたようだ」
 イシャンがふと敵勢力に思いをはせ、アースに思い立ったらしく、オラルドに問いかける。
「完全に見えなくなってる訳ですか。その〝裂け目”の行く先は? 検知器の検知範囲に出口に当たる”裂け目〟は現れなかったって事ですかね?」
「いやぁ、そもそもこちらは、カラ君と違ってどちらが出口でどちらが入口かは分からないからね。たくさん生成された事を考えると艦内で物資の移動なんかをしたのかもしれないし」
 ふむ、と考えるイシャン。
「さっきの相性云々で言うと、アースが一番厄介だよねー。艦載機も飛ばしてくるし、高いところにいるし、空間歪曲力場も使うし。なにより痛いし」
 そこにミアが言葉を発する。
「アースと交戦するなら、トブが有力候補でしょうか」
 と、ミラがアース対策を検討する。
「奴らの場所さえ分かっちまえば、安曇のヨグソトス回廊で艦の〝中〟にパパラチアを飛ばしてもらうんだが。奴らの主砲も内側には撃てねぇだろうしな。緑ロボじゃデウスエクスマキナの敵には成らない事は分かったし、そうなりゃ投降するしかないだろう」
「あぁ。セントラルアースのコマンドギアだね。宇宙時代到来前に管理帝国が使っていた人型兵器だ」
「コマンドギア? 合衆国ステイツのあれ?」
「奴らの艦載機みたいですが、他に艦載機はあるんですかね?」
 エレナはその言葉に心当たりがあるらしく、疑問を表明するが、直後のイシャンの発言により回答は得られず。
「あるよー。けど、それは私達に任せてくれていいよー」
「いや、あんまり多いと流石に……」
 ミアの自信満々の回答に、期待値を下げようとスミスが弱気に訂正する。
「アースそのものはともかく、艦載機なら打つ手はあるか。とはいえ、居場所が掴めないんじゃな」
「今、また〝裂け目〟が空中で生成されたのを検知した、と。タホ湖の上空だそうだ。今もそこにいるとみてもいいんじゃないかな。理由も無く移動すれば、検知されるリスクを高める事になるから、留まっている可能性の方が高いと思うよ」
 イシャンが居場所について気にしていた時、ちょうどオラルドに報告が入る。
「また〝裂け目〟ですか? 数は?」
「計測不能なほど多く、という事のようだ。少し前に観測されたのと同じだね」
「もしや戦闘しているのでしょうか? それも、全力で」
 アンジェが見解を示す。
「全力?」
 その言葉に疑問を覚えるイシャン。
「えぇ。カラは普段本気では戦いません。あくまで刀の腕で相手に勝ちたいからです。しかし、本気で戦っていい相手だと判断した相手には、本気を出します。それはつまり、〝裂け目”を戦闘に使う、という事です。こうなるととても厄介です。距離も間合い、向きも、彼女の”裂け目”の前には無意味。目の前にカラが刀を横についたと思ったら、それが”裂け目〟に消えて、横から現れたりします」
「今のところカラが本気を出したのはアンジェ相手だけなんですけどね」
「なるほど、だとすると、何が起こってるんだ? カラが反乱でもおこしたか?」
 アンジェとアオイの回答を聞いて改めて疑問を呈するイシャン。
「アースの位置が分かったなら、アースを攻撃している間に別動隊が湖を凍らせるという手もあるな」
 そこにキョウヤが別の話を始める。それからしばらく、実際の作戦の話が始まりかけたので。
「質問はそろそろ終わりか? じゃあ確認するぞ。今確認出来てる敵側勢力は、カボチャヘッズ、アース、カラ、2016年の安曇、佐倉博士、天使ミユキ。このあたりだったか?」
 イシャンが確認を取る。
「いや、それに、半神半巨人の神性もだ」
「あのエルフか…そうだったな……」
 キョウヤが訂正する。
「神と、巨人? なぁ、その自称エルフの映像データとかあるか?」
「あぁ、心当たりでもあるのか?」
 タクミがキョウヤのセリフを聞いて、声をかける。イシャンが写真を渡す。
「あー、こいつかー」
「なるほどな。この自称エルフとやら、俺達の世界の出身みたいだ。混血のアーシスって呼ばれてた。少し前に起きたトライワールド事件の首謀者だ」
 妖精とタクミが写真を見て頷く。
「厄介な奴なのか?」
「あぁ。ドライアドの女の子の受け売りなんだが、この世界は、死霊と巨人と鬼と黒妖精と白妖精と小人と人間と神と精霊の住む世界にそれぞれ分かれているらしい。んで、そいつはその9つに分かれている世界をごちゃまぜにして、戦争を起こそうとしてる」
「そういつはまたえらく危険な奴だな」
「でも私達の世界では、権能? っていうのがうまく機能しなくなりつつあって、トライワールド事件は、その失われつつある権能を使った最後の抵抗だったんだって。だから、もう同じことは出来ない筈だったんだけど」
「それもこっちの世界なら可能って事か?」
「あぁ。そしてトライワールド事件の時、そのミユキというのと同類と思われる一神教の神に属するしもべも奴に従っていた。成功すれば自分たちの力を取り戻せるからだ。今回も似たようなものかもしれない」
「なるほどな……」
 そして、作戦の立案が始まる。作戦は大まかにチームを二つに分ける、というアイデアから始まる。片方が湖面凍結を行うチーム、もう片方はアースに侵入するチームだ。前者は湖の凍結が目的、後者は機関部などを制圧しそれを脅しに使い情報を得るのが目的だ。そしてそれだけでは湖のチームが狙われかねないので、アース艦上部にデウスエクスマキナを展開する、と言う運びとなった。

 

 

 そして、作戦が始まる。
 ミア、アル、ジル、スペンスの搭乗したトブが飛翔し、アースの予測地点に近づく。そして、トブからミアが発艦する。
「よーしいくよ、食らえぃ!」
 ミアがビームを発射する。ミアの直感は正しかったらしく、アースは光学迷彩を解除し、徐々に姿を現わしていく、そして同時に青いフィールドが展開されていく。この青いフィールドはビームを防ぐ為の防護フィールドだ。光学迷彩とは同時に展開出来ない為、ビームで攻撃を加える事で防御の為に姿を現わすのを見越した、という訳だ。
 一方、アースは艦上部にハリネズミのごとく装備された砲をトブに向けてエネルギーのチャージを開始する。
「よし、いくわ!」
 そして、艦上部の視界を得た事で、艦上部に三機のデウスエクスマキナ、イシャンのパパラチア、メイヴのスカーレット、メドラウドのラファエロが出現する。全長19kmのアースは鋼鉄の巨人デウスエクスマキナ三機が余裕で歩き回れる大きさを誇る。
「敵の砲が混乱しています。今のうちに移動しましょう」
 と、メドラウド。
 が、次の瞬間。上空から三体の丙種ルシフェルが落下してくる。
「! ここでルシフェルだと!?」
 腕だけが異常ににごつい丙種ルシフェルは相手を拘束し吹き飛ばすのに特化している。ここから叩き落とされるのはとてもよく無い。
「まさか、アースの連中がルシフェルと組んでる? いや、ありえねぇだろ」
「くっ、こんな時に……どうしますか?」
「目標変更だ。先にルシフェルを対処だろ。いいか? レディ」 
「えぇ。行くわよ」
 そして、イシャンはさらに別の事もしなければならなかった。パパラチアの背中にある蓮の花弁状の武器、パドマを展開する。パドマは無数に存在するが、イシャンはそれを6つのユニットに区切って管理している。そのうち一つをミアとトブの防御に費やす。さらに残り一つを目の前のルシフェルとの交戦、そしてもう一つを砲の攻撃などに費やす。

 

 が。
「こっちは全然、平気だよー」
 飛んでくるビームを、即席で作り上げた緑色の〝粒子”の盾で軌道を逸らす。その途中でさらに攻撃が来るようなら、フェアリーガンの先から”粒子”をナイフ状に固定させて、ビーム自体を切り裂く。”粒子〟操作が得意なミアだからできる芸当だったが、ミアはほぼ完全に無傷だった。
「それよりあっちー」
 一方トブはあまり機敏に動ける機体では無い為、攻撃の回避に苦労している様子だった。とはいえ、イシャンもそこまでそちらに気を避けなかったので、それを認識は出来ず、パドマは不要なミアの周囲と、トブの周囲、それぞれ1ユニットで賄っていた。結果的に、トブは十分な攻撃が出来ない状態にあった。思わぬ作戦ミスである。とはいえ、ルシフェルさえ現れていなければこうはなっていなかっただろう。どちらにせよ、作戦開始からすぐ、この時点で状況の混乱が始まりつつあった。

 

 一方、三機のデウスエクスマキナは全員、丙種ルシフェルに腕を掴まれて取っ組み合いになっていた。イシャンは独立して動くパドマを使い、拘束を脱出。メイヴは蹴りで相手を吹き飛ばし、メドラウドを赤い槍、ゲイボルグで助ける。
 そして、距離を取った三体のルシフェルは、
「GGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!!!!!!」
 唸り声をあげて体を黒く染める。
「堕天だとぉ!? こんな時に」
 砲も状況把握を終えたらしく、少しずつデウスエクスマキナに砲撃を再開していた。その攻撃は大したダメージでは無いが、そもそも非常に激しく発光を伴うのもあり、視界を大きく妨害していた。そしてそれが次の判断ミスを招く。
 ルシフェルがショルダータックルを敢行する。本来なら、丙種ルシフェルのショルダータックルは回避して攻撃するのが定石だ。事実、イシャンはそれが出来た。しかし、メドラウドはエクスカリバーで受け止め、力比べの状態に、そして、メイヴは転倒し、地面に押し付けられてしまう。
 次の瞬間、砲が全て上空に向き、そして発射されたビームが歪曲し、動きの止まったメイヴのスカーレットの一点に集中した。
「曲がるのか、このビーム!?」
「くっ、無視出来ないダメージが」
 いかに神性防御を持つデウスエクスマキナといえど、大火力である〝粒子〟砲を一点集中で食らえば、大きなダメージにつながる。
 イシャンはパドマをさらに1ユニット展開、メイヴへのビームを防御させる。さらに砲に攻撃していたパドマを、メイヴを拘束するルシフェルに攻撃させる。それでなんとかメイヴのスカーレットは立ち上がり、武器を構えなおす。
「ありがとう、助かったわ、イシャン」
「! 上空からさらにルシフェル!」
 安曇から通信が入る。見ればそのシルエットは過去の下級ルシフェルに該当しない。一体一体がユニークなボディを持つ上級ルシフェル。
「ここは引けねぇ。まずはルシフェルの対処。その後作戦続行だ。俺は防御に重点的にパドマを回す。メドラウドの旦那とレディで攻撃を頼む」
「了解」「分かりました」
「トブとミアも攻撃を砲に集中してくれ」
「分かったよー」
「了解です……、が攻撃が激しくて、なかなか」
「仕方ねぇか」
 さらに1ユニットをトブに派遣。もう片方をミアに専念させる。
「だからいらないってー」
 敵のビームをうまく全て無力化しながら確実に砲を破壊していくミア。
「そして、遊撃用のパドマを、当初の目的通り、格納庫に向かわせる」
 と、宣言し、砲を攻撃していたパドマをカタパルトの方へ向かわせる。
 そして、丙種ルシフェルとデウスエクスマキナたちが交戦しようとした次の瞬間、上空から飛来した上級ルシフェルが、丙種ルシフェル一体を蹴飛ばし、艦上から退場させる。
 それを見た丙種ルシフェルが上級ルシフェルに殴りかかる。上級ルシフェルには翼が生えていて、それをはばたかせて飛翔し、回避。
「な、なんだ、どういうことだ」
「えっと、どうしましょうか?」
 ルシフェルの仲間割れ、ルシフェル同士が戦闘する、それはずっとルシフェルと交戦してきたクラン・カラティンの人々でさえはじめてみる光景だった。どう判断していいのかさえ、分からない。
「突破するぞ! 今の内だ。ルシフェルが同士討ちしてる間に目的を果たす」
 メイヴがカタパルトに向かい、パパラチアはパドマを操りつつそれに続く。メドラウドは周囲の砲塔をエクスカリバーで刈りつつ前進する。
 殴りかからなかった方の丙種ルシフェルがジャンプして三機に飛びつこうとするも、上級ルシフェルが槍を出現させ貫いて、阻止する。
 その間にメイヴはカタパルトのハッチを破壊、そしてパドマがその中に侵入していく。

 

 格納庫に侵入したパドマはそれで艦内に混乱を引き起こし、艦内突入組を支援するのが目的だ。ところがそこはやけにがらんとしていた。格納庫は広いのに、内部の機体はやけに少ない。が、ひとまず5機の緑のロボット、コマンドギアが起動しこちらに向き直ったので、パドマは回転する刃となって、襲い掛かる。すると、5機のうち1機が手首に装備していた外部装甲を腕に移動させ、アイアンパンチ、と呼ばれる武装を展開、刃を受け止める。すると、本来は細かいパーツの集合体であるパドマは即座に自身を分解し、背後に移動し、回転刃としてもう一度攻撃する。
 そしてその間に残り4機は左右の扉から2機ずつ離脱し、そして隔壁が閉じられる。
「閉じ込められたか、とりあえず他の機体を破壊しよう」
 パドマは破壊工作を続行する。

 

 そして、パドマの侵入をもって、第一段階を成功として、ついに艦内突入組が突入する。
 突入はヨグソトス回廊を使って行うが、ヨグソトス回廊を生身が通ると危険である、という事で、アンリが貴重な素材をたくさん使い、チハヤの大気圏投下用ポッドを複製し突入に使う事となった。
 そして、突入ポッドが艦内の廊下に突き刺さる。艦内突入組は、カラスヘッド、アオイ、フェア&ウェリィ、キョウヤ、プラト、ソーリア、タクミ、スミス、ミラである。中でもミラとスミスは隔壁の破壊、タクミは艦内防護フィールドをハッキングして解除する、という重要な使命がある。
「ここは……重畳、機関部の目の前ですね」
 とアオイ。しかし、それは格納庫の目の前という事でもある。そう、パドマから離脱した二機のコマンドギアが丁度格納庫から出てきたところであった。
「直ちにそのポットに戻り、この艦より退去せよ」
 コマンドギアのスピーカーから警告が発される。
「プラト! ジャンヌに変身、壁の展開を!」
「分かった」
 プラトは「姿」の魔女。自身の姿を任意の姿に変え、能力すらコピーする。当然、ジャンヌに姿を変えれば、壁を展開する事も出来る。
「すまねえ、4匹ほど逃した」
「こちらで二体把握」
「了解。残りは反対側だ」
 そこにイシャンから通信が入る。
「強行突破する。壁で射線を防ぎつつ戦闘出来るものは戦闘を」
 カラスヘッドが指示を出す。残り二機いるなら、それはこちらに向かっている可能性が高い。早く仕留めなければ。
「了解!」
 スミスがフェアリーガンを発砲する。艦内戦闘用装備で対ビーム用の装備をしていないコマンドギアはその外部フレームを容易に溶かされる。
「アドボラのフェアリーガンか」
「もらった! えいえいー」
 ソーリアが外部フレームが融解した箇所に向けて炎の弾丸を連射する。
「このっ!」
 敵のコマンドギアが腕部対装甲ショットガンを発射。
「危ない、壁の中に隠れなさい」
 一人呑気に壁の外にいたソーリアをプラトが壁に引っ張り込む。
「流石に痛いわね。後4回耐えられるかどうか」
「皆、分断した敵勢力、プラトの耐久を考え、速やかに戦闘を済ませてくれ」
 カラスヘッドが指示を飛ばす。
「管狐、囮を」
 キョウヤの持つ竹の管から飛び出した白い細長い狐が、コマンドギアの赤い目の周りをくるくる回り、そのまま、くねくねを動き回る。
「くっ、すばしっこい……」
「少し自分も協力せねばな。ふんッ!」
 カラスヘッドがもう片方のコマンドギアのカメラ付近へゴキブリを投げつける。
「馬鹿、何やってる、そんな奴より、あいつらを……うわぁ」
「チャンス!」
 スミスが最大出力でフェアリーガンを発射し、まだダメージを受けていなかった方のコマンドギアの脚部を一撃で破壊し転倒させる。
「管狐、やれ」
 そして、コマンドギアの内部に管狐が侵入し、コマンドギアが機能を停止。
「今だ! えいえーい」
「こっちも、いけいけ、えいえーい」
「分かった」
 そしてコックピットハッチに集中攻撃するフェアとソーリア。
「くぅ……、投降する」
 ハッチの損壊が致命的になる前に、投降を宣言する。
「拘束してくれ、そしてポッドに乗せる」
「あぁ、それならこいつも頼む」
 どうやったのか、コックピットを開けて、気絶している兵士を掴んで引き上げるキョウヤ。
「ポッドの回収のついでに、ポッドに入れておけばいいでしょう」
「了解」
 アオイの進言に従いカラスヘッドがポッドにそれぞれを入れる。そして、ふと閃いて、投降しなかった方の兵士のポッドのドアを開けたまま、置いていく。

 

 そして、艦内組が交戦し、自身の存在をアピールしたタイミングで湖のチームが動き出す。湖のチームはリュウイチ、ユキ、ライン、エレナ、アリス、ジャンヌ、そして、ビーム攻撃を防御する為の美琴とデウスエクスマキナ・マラカイトだ。
「よし、それじゃあ行きましょうか」
「湖の凍結とその護衛だったな ぱぱっと終わらせちまおう」
 エレナが宣言し、リュウイチが続く。
「私は、どうやらあのルシフェルと戦わなければならないようですね」
 そして、早速計算外が。そう、艦上から蹴飛ばされたルシフェルが落下してきていたのだ。
「……そうだ どうせなら湖に突き落として一緒に氷漬けにしちまえねぇか?」
「なるほど、試してみましょう」
 リュウイチのアイデアに頷くミコト。ミコトは一度の出撃で武器を一つしか使えない。ここで戦闘用の武器を使っては、鏡を使えず、ビームからかばえないのだ。
 そして、美琴はエレナ達から引き離すように、うまく距離を取りながら移動していく。
「おっと、こんなところにいましたか。なるほど、この湖の意味に気付いたのかな?」
 そこに現れたのは帽子の男。自称エルフの男、もしくは、混血のアーシス。
「エルフ……あいつが言ってた世界転覆を謀った黒幕か」
「……嫌な奴」
 リュウイチとユキがそれに対応する。
「おや、誰かからその話を聞いたか? なら、混血のアーシスと名乗らせてもらおう。この間違った世界を変革するものだ」
 と、改めて名乗る混血のアーシス。
「向こうから動くつもりは無いみたいね、どうする? こいつを抜けないと、あの高台には行けないわよ」
 と、アリス。
「……退けられたのは血の力って奴の貢献も大きいんだろうけどな、巨人と相性が悪いだけなら俺達でも多少は足止めにはなるだろうよ!後ろ振り返らず行っちまいな! ……いや、追うのは止められても追撃まではどうこうできないかもしれないから一応後ろは気を付けてくれると助かる」
「倒す……」
 と、リュウイチとユキ。
「分かった、ありがとう。行くわよ」
 そしてエレナ達は行く。
「なるほど。私の相手はお前たちか。来い、Lævateinnレーヴァテイン
 混血のアーシスの手元に赤い棒が出現する。
「ゲームでも人気の剣だったか、流石にどういう力を宿すかまでは知らないか……!」
 杖に青い炎を纏わせ、放つ、混血のアーシス、そしてユキはさっさと、リュウイチから距離を取る。
「散開! 敵の攻撃は未知だ! できるだけ食らわないように立ち回……って逃げんの早いな!?」
 といいつつ、リュウイチも回避を試みる。どちらも回避は成功した者の、大地が炎上し、移動を制限し始める。
「こっちが本命か、とはいってもまともに食らう訳にもいかない威力だな……」
「見たところ、弓状列島の神性の加護を得ているようですが。所詮人間ではその程度ですか」
 と混血のアーシス。
「……消す」
 それに対してユキは水瓶を矢じりの代わりに付けた矢を番えて放つ。それはユキの未知の能力によって周囲の炎を消化する。
「馬鹿な。スルトの炎に匹敵するこの炎を人の身で……」
「ちょっとした想定外でうろたえるのは小物の証だぜ!」
 狼狽えた混血のアーシスにリュウイチが切りかかる。虚を突かれた混血のアーシスは炎を纏わせないまま杖でなんとかガードするが、リュウイチに押されている。
「仮にも世界転覆をたくらんだ男がこの程度でどうにかなってくれる訳はねぇよな、ユキ! 構わず撃て!」
「ん……」
 ユキが武器を狙って矢を放つ。
「くっ、私がこの程度の連中に……。来い、我が息子よ!」
 叫んだ瞬間、放たれた矢からかばうように、大きな蛇が出現する。その蛇は矢を受け止め、そしてリュウイチに向けて唾でも吐くかのように毒々しい色の液体を吐き出す。
「!」
「そういう不意打ちはほんと良く無いと思うぞっと!」
 リュウイチは間一髪それを避ける。実はそれにはユキの意志に答えたかのように発生した風が毒の液体を煽ったからだが、リュウイチはそれに気付いているのかいないのか、それには触れない。
「あのままでいれば、すぐに楽になれたのに」
 と残念そうな混血のアーシス。
「フェンリルと来て次は蛇……ミッドガルズオルムか、それに子達って事はアンタ……ロキか……?」
「ほう。いかにも、我が名はロキ。この世界に変革をもたらす者」
 と、リュウイチから名前を言われた事を少しうれしそうに名乗る混血のアーシス、改め、ロキ。
「いかに、神性を借り受けていても、私に勝つ事は難しい。と、理解いただけたなら、ここで退却する事をお勧めするが?」
「戯神様ね……ずいぶんと質が悪いな……とはいえ神様にだって弱点はあるだろ! 雪!ミッドガルズオルムは海を飲み干し陸を喰らった! その特性上水や陸に存在した物は効かないだろう! だがそんな世界蛇も空を呑む事は出来なかった! 空と言ったら雷、そして風だ! 通るという確証は無ぇがデカいのいけるかッ!?」
「やってみる……」
 ユキが矢を番えると、それを覆うように風が吹き始める。
「おっと、まだ抵抗するのなら」
 そしてロキもそれを黙って見過ごしたりはしない。杖に青い炎を宿らせる。
「俺がなんとかするから今は射る事だけを考えろ!」
「ふんっ!」
 青い炎が放たれる。それに対して、活人剣、後の先を取る要領で、その炎を切断し、ユキに炎が行くのを防ぐ。
「ははッ……! そう何度も使われたら見切って刃筋を通すぐらいわけないさ! 撤退するべきはそっちの方じゃないのか!?」
 と、心の中ではもうあんなことは出来ない、と冷や汗をかきながら強がるリュウイチ。
 そして、ユキの風を纏った矢がリュウイチがミッドガルズオルムと呼んだ蛇に衝突し、転倒させる。
 ユキはそこでは終わらずに、さらに無数の矢を番えて発射する。山なりに飛んだその無数の矢が上空からロキとミッドガルズオルムに降り注ぐ。
「くっ……、なんだ。神性はこちらが上の筈だが……」
 さらに二本の矢が番えられる。再び風の属性の矢。ロキは風に対して耐性があった為ダメージは無かったが、もう片方の矢は、ミッドガルズオルムの霊核を確実に破壊した。
「なっ……。馬鹿な……」
「チェック、メイト……?」
「驚くのはともかく一々うろたえるのは神としてどうなんだ? 流石に小物っぽいぞ」
 リュウイチが刀を構えて接近する。
「えぇ、驚かされました。が、ここでの私の役目は終わりです」
 視界の向こう、エレナ達のいる筈の丘から緑色の光線が撃ちあがっていくのが見える。それが何なのかは分からないが、交戦している、という状況は分かる。
「逃げられた上に所詮時間稼ぎか……ここで全滅の可能性よりはマシだったが、向こうのメンツを信じるしか無い、な」
 とリュウイチ。そして、移動を開始する二人のさらに後ろで。

 

「これまでです!」
 美琴がルシフェルを湖に叩き落とす、と次の瞬間。ルシフェルの表面が発光しながら、分解されていった。
「これが……ナノマシン……」
 デウスエクスマキナにダメージは無いようだが、念のため、湖から離脱する。と、突然、ごうっ、という音が響く。空を見ると、追加ブースターを点火し、星の世界へ飛び立とうとするアースが見えた。

 

 少し時間をさかのぼって、アース艦上。
「上空よりさらにルシフェルの反応!」
「甲種ルシフェルが二体ですか……」
 メドラウドの言う通り、降ってきたのはドラム缶にひょろっとした手足の生えたようなルシフェルだった。警戒したデウスエクスマキナ組を放置し、甲種ルシフェル達は手元に剣を出現させ、上級ルシフェルに向き直る。
 上級ルシフェルもさすがに4体相手は厳しいらしく、後方に下がりながらその剣を回避。しかし、その隙に丙種ルシフェルの接近を許し、拘束を受ける。と流石に負けが見えてくる。
「すまねえ、旦那。盾を外すぜ」
 イシャンは悩んだ末、メドラウドに展開していたパドマを使い、上級ルシフェルを拘束している丙種ルシフェルにぶつける。
「GUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!」
 上級ルシフェルはその隙を逃さず拘束から脱出し、槍で、丙種ルシフェルのコアを貫通し破壊。コアを貫通された丙種ルシフェルはそのまま脱力し、倒れる。
 さらにパドマは刃となってもう一体の丙種ルシフェルを怯ませ、同じように上級ルシフェルがその隙をついてコアを破壊する。甲種ルシフェル二体。が、激しく吠え、体を黒く染める。
「また堕天か!」
 パドマを盾にして、甲種ルシフェル一体を封じ込め、上級ルシフェルが一対一で戦えるようにする。
「まったく、ルシフェルを助けるなんて、俺もどうかしてるぜ」
 といいながら、ふとイシャンは思った。堕天したルシフェルは死骸を残す。今ならあれを回収すればチハヤが分析してくれるんじゃないか? と。
「次の手だ、レディ。砲台を破壊しつつ、艦橋を目指すぜ」
 しかし。ルシフェルにかまけている暇は無い。次の行動に移らないと、と、イシャンはメイヴ達に指示をする。
「またルシフェル反応。今度は三体」
「今度は乙種ルシフェルか!」
 ひょろっちい体の剣を持ったルシフェル、乙種ルシフェル、そのうち一体はメイヴに迫る。
「させません!」
 メドラウドがそれを阻む。
「乙種ルシフェルは私が」
「あぁ、頼んだ!」
 上級ルシフェルは甲種ルシフェル一体を撃破し、もう一体と交戦中のところに乙種ルシフェル二体が割り込み、その速さで上級ルシフェルを翻弄する。
 イシャンはパドマを操作し、上級ルシフェルを助けようとする、その時、
「あら、本当にそのルシフェルを助けていいの?」
 イシャンの座っていたシートの後ろから、女性が声をかけてくる。
「誰だ?」
「私は、ミユキ。天使あまつか ミユキ。……って、まぁこの名前を名乗る理由も特に無いのだけど、そう名乗った方が伝わるでしょう?」
「お前さんが、天使か。どうやって入ってきやがった?」
「そりゃあ、この子の脇腹の辺りから、そーっと」
「くっしょう!」
 イシャンは操縦桿から手を離し、ミユキに向けて銃を向ける。
「あら、怖い。でも、待って、きっとあなたなら分かってくれると思って会いに来たのよ」
「どういう事だい? 逆ナンパっていうにしちゃ風情が無い場所だぜ?」
「それは確かにね。ねぇ、イシャン。イシャン・ラーヒズヤ=ラジュメルワセナ。あなたはこのままずっとルシフェルと戦い続けるつもり? ルシフェルがいなくなる、いつになるかもわからないその日まで?」
「そのつもりだ。奴らを許しておく事はできねぇからな」
「もし、ルシフェルと戦わなくてもいい選択を選ぶ事が出来るとしても?」
 ルシフェルと戦わなくて済む選択肢。それは、ルシフェルと戦う者であるクラン・カラティンでさえ、可能であればそうしたいと思っている。思っていないのはフレイや安曇達、戦いを望むものか、
「選択肢だ? 奴らは兄貴の仇だ。それを選ぶ意味が無いな」
 仇であるから、そのような選択肢が頭から存在しないものかどちらか。
「そう。残念ね。あなたなら、分かってくれるかと思ったんだけど」
 ミユキは大きくため息をつく。自分の見る目が無いのか、と内心少し落ち込む。しかし、なら敵に遠慮する理由は無い。ミユキは手元に剣を出現させる。
 イシャンはそれを見て即座に射撃するも、その弾丸は彼女に命中するとそこで止まり、少しも体にめり込む事無く落下する。
「無駄よ。ちょっと因子が残ってる程度の人間で私を傷つける事は出来ないわ」
「天然の神性防御ってわけか?」
「えぇ。それじゃあ――」
 笑顔で剣を振りかざした次の瞬間、突然ハッチが開き、残っていた最後の1ユニットのパドマがコックピットブロックに侵入。ミユキを外へと放り出し、ハッチとミユキの間に壁として立ちふさがる。
「助かったぜ、相棒!」
 イシャンのセリフと共にハッチがしまる。
「くっ、そうか、この神性……、死んでないのか」
「死んでない? どういうことだ」
「さぁ、預言者でなくなったあなたに、これ以上私の言葉を聞かせる理由は無いわ」
 ミユキはそのまま地面に溶けるように消えていく。パドマはそれを見届けて、背中のソケットへと戻る。
 イシャンは盾にしたパドマを使って甲種ルシフェルの攻撃を受け止め、一連の動きが終わったタイミングで盾を解除する。その向こう側から上級ルシフェルが槍を構えて突進し、甲種ルシフェルのコアを一撃で貫通する。
 それを見た乙種ルシフェルは叫びながら体を黒く染める。
「ぽんぽん堕天しやがるなぁ」
「もうすぐ艦橋につくわ、どうすればいい?」
「ゲイボルグで艦橋の壁を破壊してくれ! ミアが侵入可能な穴を空けるんだ」
「分かった」
 艦橋は中央戦闘指揮所と直結している。艦橋を破壊すればそこから突入する事で、一気に中央戦闘指揮所を制圧する事が出来る。
 しかし、突入の予備ルートとして計画したこのイシャンの作戦は、大きな失敗を呼んだ。艦橋は中央戦闘指揮所に次ぐ重要機関である。そこを破壊されるかもしれない、という状況にあって、アースが大人しくしている理由は無い。
 アースは大気圏離脱用追加ブースターを点火し、衛星軌道への脱出を図る。デウスエクスマキナは無重力空間で行動する事は出来ない。逃げるか、愚かにも留まり死ぬか、いずれにしても、艦橋がこれ以上攻撃される事は無い。
「ちっ、俺達ごと宇宙に逃げ出すつもりか?」
 イシャンは焦る。現在のプランではメインリアクターを破壊する為の爆弾を設置し、それの起爆を理由に強請るつもりだった。しかし、宇宙空間では、アースは完全に破壊するのが困難なサブリアクターだけでも航行出来る。宇宙空間に出られては、作戦が達成不可能になる。そして、宇宙空間への離脱を開始した理由は艦橋への攻撃。イシャンが作戦遂行を焦った結果生じた、明らかな失敗である。
 イシャンは失敗を恐れて、チハヤに通信をつなぎ、次の作戦プランを検討するが、宇宙空間に出るまでの時間が無さ過ぎる事と、宇宙空間に出たアースに対処する戦力が無い事から、作戦中断を決める。
「作戦変更だ。デウスエクスマキナはアースから離脱。突入組はメインリアクターに爆薬を仕掛け、その間にカプセルを機関部の前に転移。爆弾の設置後、突入チームはプセルに入り、安曇のヨグソトス回廊で撤収。その直前に起爆してメインリアクターを機能停止させる。これをやっておかないと、宇宙からの粒子ビームでアウトだ」
 メインリアクターが破壊されるとビームが発射出来なくなる。ミサイルやレーザーという武器もあるが、衛星軌道から地上を攻撃出来る武器はビームだけだ。逆に言えばリアクターを破壊し、ビームさえ撃てなくすれば、アースは無視してよくなる。情報収集という目的は果たせなくなるが、アースを無力化出来るなら、悪くは無い。作戦を中止するにしても、最低限やっておかねばならない事だった。
 三機のデウスエクスマキナが飛び降りる。イシャンがこっそり指示を送ったので、プリドゥエンで飛行出来るメドラウドのラファエルが先ほどまで交戦していた乙種ルシフェルの死骸を回収している。
 そして、3ユニットのパドマが融合してスノーボードのような形になったボードの上に飛び乗ったイシャンのパパラチアの元に、アンリから通信が入る。
「イシャン、聞こえるか?」
「アンリか。どうした? 一体」
「お前たちが送ってきた捕虜二名だが、片割れがとてもおびえていてな。そのせいでもう片方も不安がっていたから、私とアンジェで会話がてら一通り情報を聞き出してみた。ポッドを開けっぱなしになっていた、ラルフ・カーペンターの方は、『音が聞こえる』だとか『何をした、あれはなんだ』と叫んでばかりで話にならなかったが、向こうから投降してきたサカリ・グラナドの方は非常に協力的だった。誓って手荒な真似も薬も使っていないので安心してほしい」
「ああ、そこは信用してるさ。それで?」
「あぁ。ちょっとお前から聞いてた話と食い違うところがあったんでな。念のため今回の作戦指揮をしてるお前の耳には入れておこうかと」
「食い違いだと? 詳しく頼む」
「まず、セントラルアースとお前たち、今は私も含むが、のファーストコンタクトだが、向こうはヨセミテ公園での戦闘が正真正銘、最初の戦闘だと認識しているようだ。それ以前に攻撃したという認識も、攻撃されたという認識も無いらしい。これは逆に言うと、私を助けに来たお前が、警告なしであのコマンドギア隊を挑発したのが彼らにとっての最初、つまり、セントラルアース側から見ると、最初に敵対的な行動をとったのはそちらだ、と認識している事になる」
「どういうことだ? 奴らは俺達やノエルの居たバークレー校の校舎を砲撃してるぜ?」
 アンリの言う通りなら、なるほど確かに主張が食い違っている。とはいえ、なぜそのような事が起きたのか。
「その件について、問うてみたが、流石に砲撃の詳細については彼らも知らないようだったが、この地区の支配者には謝罪済みで了解を得ている、と認識しているようだ。これは推測になるが、お前たち、クラン・カラティンが自らの領土を主張していないのをいい事に、彼らに対して支配者を騙った人間がいるのでは無いだろうか。聞けば、私への攻撃も、支配者達から要請を受けて、警察権の代行を行った、と作戦説明を受けているらしい。つまり、セントラルアースから見ると、あの時のお前たちは、警察に対して挑発してくる不穏分子だった事になるな」
「なるほどな。それでうちの領空で艦を乗り回しても、うちに根回しも無い訳だ」
「あぁ。お前がその件について憤っていたのを覚えていたから、それについても聞いてみた。支配者からは『市民に不安を抱かせない為にあらゆる遮蔽を常に展開し続ける事』を命じられていたらしい。彼らなりに、市民に威圧感を与えない配慮はしていたという事だな」
「なるほどな。なら、思ってたような話の通じない連中じゃない訳だ。その支配者って連中は何て名乗ったのか分かったのか?」
「あぁ。カリフォルニア政府、と名乗ったと聞いている。おそらくセントラルアースに取り入る為に使った名前だ、意味は無い。ここがカリフォルニア州というだけだろう」
「とんだでたらめだな。カリフォルニア政府なんざ聞いたこともない。アメリカの国家体制が崩壊してこの方、サンフランシスコ周辺のベイエリアは実質上クラン・カラティンの支配下だ。まあ、うちは国家を名乗らないから、領土としての主張は明確にしてないが」
「あぁ。その辺のすれ違いの解消をすれば、少なくとも話し合いの席くらいは用意できるかもしれない。チハヤの設備ならアースと通信する事も出来るだろうと思うが」
「チハヤから通信を取ってくれれば、下手に俺達が話すより、アースに話も通しやすいかもしれねぇな」
「とはうえ、既に向こうが、どちらが正当な政府かとは関係無く、エヴァンジェリンらの目的に賛同している状態にある、という可能性もあります。いずれにしても、人質や物質があったほうがこちらが優位に交渉が出来ます。作戦が予定通りに進行しているようなら、無理にこの方法を使う必要もありませんが」
 交渉可能という可能性が浮上してきたところに、アンジェが割り込み警告を発する。
「作戦通りに爆薬を設置して交渉材料を得てからにするか、それともチハヤに間に入ってもらうか……」
「いえ、どちらかを選ぶなら今決めた方が良いでしょう。作戦を続けて失敗しそうになったら和解、というのは厳しいです。私達がいつ誤解を知ったから、サカリ・グラナドが知っている訳ですから」
 作戦をこのまま遂行して困ったら交渉、と言う手もある。しかし、アンジェはそれを否定する。今、ここまでの戦闘状態になっているにもかかわらず和解の目があるかもしれない、という可能性に至ったのは、捕虜となったサカリ・グラナドによって勘違いが明らかになったからだ。そしてそれは、サカリ・グラナドの主張があってはじめてセントラルアースに認められる可能性も高い。これから時間が経ってからとなると、勘違いが解けてなお戦闘を継続していた事、がサカリ・グラナドを介してばれてしまう。つまり、続行するか交渉に入るかは、今決めねばならないのだ。
「そうだった、タイミングごまかせないんだったな。分かった、ならチハヤにはアースに呼びかけてもらって、艦内突入チームには投降してもらおう。一か八かの賭けになるが、それでも平和的な解決を目指したい。ここまでの情報が確かなら、お互い無駄な戦いをさせられてるからな」
「分かった。すぐに手配する。イシャンは、艦内チームへの呼びかけを頼む」
 アンリから通信が切れる。イシャンは通信を艦内チームに合わせ、呼びかける。
「こちらアース攻撃チーム。艦内突入チーム、聞いてくれ……」

 

 少しだけ時間をさかのぼり、アース艦内。
「衛星軌道に……宇宙そらまで逃げる気か」
 追加ブースターを点火した旨をチハヤのオペレーターから聞いたカラスヘッドは、そう呟く。
「よし、解除成功だ」
 そこにタクミから声が掛かる。見れば、扉を開けるのを妨げていた艦内防護フィールドが解除されている。
 カラスヘッド達はミラの魔術で隔壁を破壊し、迫りくるセントラルアースの戦闘員の意識を奪い、いよいよ格納庫の扉を阻む艦内防護フィールドを解除したところだった。コマンドギア二機が迫っているので、爆弾設置のスペシャリストであるリリィとノエルを増援として要請。離脱用のポッドと一緒に格納庫前に転移してきた。
「爆弾設置なら慣れています。私一人で二人分の活躍をして見せましょう」
 と、リリィは爆弾設置について得意げだ。
「このリアクター、管理用に艦内ログにアクセス出来る端末があるみたいだ。操作は出来ないが、ログの確認ならクラックすれば出来る。必要なら言ってくれ」
「ノエル、リリィは機関室で爆弾設置、。タクミはログを調べてみてくれ。アオイ、フェアとウィリィは爆弾設置の護衛、待ち伏せがいないよう警戒して、何かいた場合宇即座に報告するように。残りの人員でコマンドギア二機に対応する。」
 作戦が実行される。ローラーなどは無く脚部で普通にあるくコマンドギアはそこまで早く無く、戦闘距離に入る前に、タクミが一つ目の情報を得る。
「とりあえず、現在の艦内状況は分かったぞ。えーっと、現在、静止軌道に向けて上昇中。それから、ナルセ・ドライブのエネルギーの先行充填完了。ナルセ・ジャンプの準備よし。……これくらいか、気になるのは」
「固有名詞の所為で意味が全然分からないね」
「一応本部の方に情報共有しておこう。万が一の為」
 報告を聞き、カラスヘッドがさらに上に報告する。
「ナルセ・ドライブは西暦2040年に成瀬なるせ由紀ゆき博士によって発明された、地球産のワープドライブだね。充填完了しているというのはまずいな。宇宙空間に出たらその場で即ワープに移れる、という事だ」
「ナルセ……ね」
 オラルドの返答に、意味深に頷くプラト。そこに、
「直ちにその脱出ポッドでこの艦から退去しなさい。でなければ実力行使も辞さないわ」
 二機のコマンドギアが迫る。うち一機は少しだけ装備が違うが、本当にごくわずかな違いで、コマンドギアについて知識が無い彼らには分からない。
「そこらで転がってる人で交渉を、無理と判断したなら戦闘不能に。プラトは相手の動向を見てから行動を」
「常識的に考えて、今ここで何らかの武器をこの人質に向けても、私達があの腕のショットガンか脚部のセントリーガンが撃ち抜かれて終わるわよ」
「……こういうところが自分は甘いな。応戦で。動けなくなれば十分だ」
「分かった。障壁を展開するわ」
 カラスヘッドの作戦にプラトが反論し、応戦に指示が変更される。
「抵抗するのね……。インダス・ツー、行くわよ」
了解Copy
 コマンドギア二機が腕部対装甲ショットガンを発射する。先ほどの経験を元にプラトは壁面を二重にしており、一枚目が破壊されるだけで終わる。
「脚部を破壊します」
 スミスがフェアリーガンを発射し、前衛の脚部外部フレームを融解させる。
「あれがアドボラのフェアリーガンか。作戦変更。インダス・ツーはディフェンス、オフェンスは私が」
了解Copy
 インダス・ツーと通信で呼ばれている側が前面に出て、青い障壁を展開する。スミスはそこ射撃するが、融解には至らず。青い障壁の名は、電磁障壁、本来はとある兵装を無効化する為の装備だが、ビームも防げる事が分かっている。
「あの障壁がよく無い。ビームを減衰させています」
「では、私が。あれが雷のアトムに紐づいているなら、こちらも何とでも出来ます」
 ミラが詠唱を始める。後ろの機体、インダス・ワンが背中に装備されている多目的ランチャーから徹甲榴弾を発射、プラトの壁を完全に破壊する。
「次より、こっちの方が早い」
 ミラが魔術を発動させ、強力な電磁波が二機を襲い、電気系統をダウンさせる。
「食らえ!」
 ずっとチャージしていたスミスによる大出力ビームにより、インダス・ツーの機体が転倒。そこで終わらず、さらにインダス・ワンに迫るが。
「ふっ」
 機体内部で小規模な爆発のようなものが発生し、ミラの電磁波は魔術によって帯電している外部装甲が吹き飛ぶ。それは、空中で電磁障壁に似た磁場を発生させ、ビームを減衰させ打ち消す。
「くっ、壁を……」
 プラトが魔法を使おうと腕を前に出すが、
「おっと」
 脚部対人セントリーガンがプラトの周囲を射撃し、プラトの集中力をそぐ。
「あなた達魔女は、十分に集中出来なければ能力を使えない。障壁が解除された時点で、あなた達はこちらの攻撃を防ぐ手立ては無いわ。投降しなさい。そっちのフェアリースーツ装着者もよ、粒子チャージの反応があれば、すぐに当てることができる」
「くっ、どうする?」
 プラトがカラスヘッドに指示を求める。
「こちらも爆弾の設置が完了しました。しかし、爆発させれば、外にいるメンバーの命は……」
 とリリィからの報告。カラスヘッドは決断を迫られた。
「こちらアース攻撃チーム。艦内突入チーム、聞いてくれ……」
「どうした、イシャン」
 しかし、そこにイシャンから通信が入り、カラスヘッドは投降を決める。
 機関部からカラスヘッドが姿を現わす。
「あなたが部隊長? 私は、セントラルアース、インダス隊隊長、オリヴィア・タナカ。貴部隊の即刻退去を求める」
「残念ながら仕組み上即退去は少々難しくてね。状況が変わったので投降しにきたところだ」
「投降? ……上に判断を仰ぐ、少し待て。ただし迂闊な動きはするな。あの壁を展開するなら展開が終わる前にクラスターキャノンでお前たちを仕留める事が出来るし、それ以外の抵抗ならセントリーガンで少なくとも数名の命奪う事が出来る」
 実を言うと、クラスターキャノンは外部装甲付属の背中の多目的ランチャーに入っている武装なので、今は使えない。要は伝わらないと知ってのハッタリである。
「あぁ、待つとしよう。皆武器を降ろしてくれ。機関室の方も一旦中止してくれ」
「機関部にも構成員がいるのね? 彼らにもここに出るように言って頂戴。投降を疑う訳では無いけど、警戒出来ない位置にいるのは厄介だわ」
「了解。機関部の皆、こっちに来てくれ。物はしっかり回収して」
「いえ、設置物はそのままでいいわ。こちらからはまだの分を設置しているのか、本当に回収しているのか区別がつかないからね」
「そうか。だそうだ。そのままにしてこっちに来てくれ」
「こちらに上から通達があったわ、あなた達と一緒に内火艇に乗ってチハヤに向かうようにとのことよ」
 と言って、オリヴィアはコマンドギアから降りて姿をさらす。そのコマンドギアには先ほど脚部を破壊されたインダス・ツーが乗り込み、殿を務めるようだ。
 格納庫に入り、光学迷彩で偽装された壁のエレベーターに乗り込み、内火艇に乗り込む。

 

 少し時間をさかのぼり、リュウイチとユキが混血のアーシスを足止めしている間に、海王星のフィルムケースを使うのに最適の場所、に辿り着いたエレナ達。
「あら、遅かったわね、エレナ」
「あなた、アビゲイル……?」
「えぇ。そして彼は佐倉日和博士、そしてこっちは……」
 アビゲイルと呼ばれた魔女が仲間を紹介する。
 そこにいたのは、アビゲイルと呼ばれた、一人のショートヘアの女性、佐倉博士と二足歩行の戦闘機械ラルコース、そして……。

「「神の炎」…………」
  アリスが引き継ぐ。
「知ってるの、アリス?」
「えぇ。あの女が魔女狩りが始まるより以前、テンプル騎士団と言葉を交わしてるのを見た事がある。そして、「神の炎」と呼ばれていた」
「「神の炎」って……。嘘、ウリエルって事? あれ、天使なの?」
「別の僕と会った事がある者もいるのか。なら手っ取り早い。いかにも。僕は御使い、「神の炎」。君達、神秘の最後の抵抗から見れば、仲間だ」
 錫杖を持った、「神の炎」と呼ばれた女性が語る。
「仲間? どういうこと?」
「彼らは私達を助けてくれるのよ」
「その通り。僕らは世界を変革する。新たな未来を作り出す。僕達は、そこに神秘の存在する余地、すなわち僕達の勝利する余地を未来に残し、かの首謀者たちは自らのような哀れな死体労働者を生み出さない未来を作り出し、君達神秘の最後の抵抗達は当然、神秘根絶などと言う目的で追われる事も無くなる」
「それは……」
 魔女にとっては願っても無い話だ。アビゲイル達が敵に与する理由としては不足は無い。しかし、
「残念だけど、私達は私達の未来は自分で作るわ。ね、アリス、ジャンヌ?」
「はい」
「えぇ」
「私にはよく分からないけど、当事者であるあなた達が戦うというなら、手を貸すわ。私には特に何も無いのよね?」
 最後の一人、ラインがそれに続く。
「あぁ。異界の人よ。君達の世界はこの動乱とは何も関係無い。君達に対して提示出来る利点は何も無い」
「そう。安心したわ」
「残念だわ。同じ魔女同士、手を取り合えると思ったのに」
 と、アビゲイルががっかりして。
「ではいくぞ」
 佐倉博士が虚空を操り、佐倉博士のすぐそばにいたラルコースの頭についている対空パルスレーザーが火を噴く。
「させませんっ!」
 そしてそれをジャンヌが壁を展開する事で防ぐ。仲良し三人一緒のジャンヌは、極めて強固な壁を展開し、それは、少なくとも焦げていたであろうプラトに変身したジャンヌの壁と違い、一切の傷を許さなかった。
「ふん」
 しかし、それを「神の炎」は真正面から打ち砕く。その手に持った錫杖の圧倒的な神秘プライオリティがその壁など紙切れ同然と破壊したのだ。
「うそっ」
「あはは、これじゃ私は仕事が無いわね」
 後ろでアビゲイルが笑う。
「スターダスト!」
 エレナがローブから砂のようなものを取り出し、空中にばらまく。
「ふんっ」
「トニング!」
 圧倒的な神秘プライオリティを持つ「神の炎」はそれを正面から突破し、エレナに迫る。そして、そこに横殴りの雷がぶつかり、「神の炎」は動きを止める。
「くっ、異界の魔術か」
 実際にはラインが召喚したドラゴンによるブレスだが、それはドラゴンの使う魔術とイコールなので間違ってはいない。
 そこにラルコースの多目的ランチャーから対人榴弾が発射される。それは空中で炸裂し、エレナ達に降り注ぐ。なんとか、ジャンヌが壁を展開して防ぐ。破壊される事で、壁への信頼が低下するのを防ぐ為、すぐに壁を消滅させる。
「私の出番かしらね」
「させない!」
 木星のフィルムケースを展開する。
「アリス!」
「えぇ。Twas brilligあぶりの時,……」
「させないよ!」
「させないわ!」
 歌おうとするアリスに対して、「神の炎」とラルコースのビームが迫る。そして、「神の炎」にはラインのドラゴンが、ラルコースのビームに対してはジャンヌの壁がそれぞれ阻む……。
「嘘!」
 はずだった。
 確実に防いだ筈のその二発はいずれもアリスに直撃した。
「なんで!?」
 ラインのドラゴンは確実に「神の炎」の進行方向上に攻撃した。ジャンヌの壁は確実にラルコースのビームの進路上に壁を展開した。しかし、実際には、壁もブレスも、全く違うところに展開していた。
「くっ、おかしい。あいつ、後ろから攻撃してきた筈なのに、なんで、右から殴られたの……」
「アビゲイルの魔法だわ……」
 そう、壁と攻撃が違うところに展開されたのでは無い。ラルコースと「神の炎」が、見えていたのと全然違う場所にいたのだ。
「驚いたわ、チーム戦だとこんなに厄介なのね、あなた」
 エレナが素直に驚愕を告げる。「不信」の魔女、アビゲイルは、対象に「事実と違うもの」を見せる事が出来る。それは本当に仲間に対する不信を植え付けるとか、そういった事にしか使えないと思っていたが。他に仲間がいる場合、回避不能のかく乱攻撃として作用する。
「ほらほら、今度は「神の炎」が三人に増えたわよ、どれが本物かしらね」
 アビゲイルがうれしそうに笑う。
「増えてる訳じゃないわ。どれか二つ、もしくは三つが偽物よ。偽物に攻撃能力は無い。惑わされないで」
「どうやって見抜くのよ」
「くっ」
「弾幕を張るわ。イグニ、トニング、コルド、キュレイ、ファット」
 空中にドラゴンが出現する。ファットが三人の魔女を守るように空中に覆いかぶさり、三匹のドラゴンがブレスを放つ。
「まぁ、そうするわよね」
 ところで、ファットの持つ防御能力とはどのようなものだろうか。ファットは当然だが光によって得られる情報を目で受けとって行動する。つまり、ファットの持つ防御魔術は、光を透過する。ファットの胴体に、激しく対空パルスレーザーが打ち付けられる。ファットの防御が揺らいだ次の瞬間、ラルコースは頭を大きく上にあげ、〝粒子〟ビームを発射する。対象は四匹のドラゴン。
 リュウイチとユキが見たのは、この時、空に撃ち上げられたビームであった。

「さて、もう打つ手は無し、かしら?」
 勝ち誇った顔のアビゲイルが、「神の炎」に適度になぶられたエレナから、「海王星」のフィルムケースを奪う。
「さて、じゃあ殺しましょう。「神の炎」」
「なぜだ? 目的は達成した。殺す必要は無い」
「あぁ、そうね……」

 

 そこから少し離れたところで、
「一足遅かったか……いや、まだギリ間に合うか? ユキ、一射目にフィルムから手を離させるように、二射目からは兎に角注意を引くように全体をばら撒け……相手の怪我とかは今回は気にしなくていい」
「……取り落とさせる、後は妨害」
「ああ、それでいい。後は俺が全力で回収に走る……それまではできるだけ近づけさせないように頼む、ただし自分の命優先でいい……なんてのはお前には言わなくても大丈夫か」
 リュウイチとユキだった。そして、ユキが弓に二本の矢を番える。その二本の矢は一見意味不明な軌道を取りながら、確実にアビゲイルの腕と脚部に刺さる。
「うっ……」
 アビゲイルがフィルムを取り落とす。
「っしゃおらぁ! まだ勝負は完全に決まった訳じゃねぇんだよッ!」
 誰かが自分の意図に気付いてくれると信じて、注意を引く為に叫びながら前進するリュウイチ。
「……!」
 ラインが意図を察し、ファットを呼び出し、落下しつつあるそのフィルムをぱっくりと口にしまわせる。
 ラルコースがそれに反応し、対空パルスレーザーを発射する。翼に穴を開けられ、失速しながらもラインにフィルムケースを投げて渡し、そして送還される。
「今のには驚かされた。まさかあのような軌道で矢が曲がるとは。だが、それで、どうした? すぐに僕に取り返されて終わるだけだ」
 しかし、「神の炎」は動じない。錫杖をもって、ただラインに接近する。
「くっ……」
「その言い分はまるで自分が神だとでも言いたげだな! 無駄だと言われようとも人が抗い足掻くのは歴史の常だろうがよ」
 ラインに錫杖が振るわれるより前にリュウイチが刀でそれを止める。
「ふむ。マリア観音を崇める国の者達か……」
「気を付けて! そいつ、「神の炎」には、攻撃はほとんど効かないわ!」
 アリスが叫んで警告する。
「また、か……本当に、本当に今日は何かと縁が……。神の炎と言ったな、雪! とびきりの水矢を頼む!」
「……嫌な予感」
 水瓶の矢を放つユキ。炎のドームを作ってをそれを待ち受ける「神の炎」。そして、ユキの水がその炎を破って、「神の炎」に降り注ぐ。
「ぐっ……。驚いた、僕の炎を抜け、まして傷を負わせるとは……。あのアース神族にしては時間稼ぎが僅かすぎると思ったが、こういうことか……」
「はっ……実際の先兵が蛇一匹で相性が良かっただけさ、戯神が本気で足止めなんかするもんか、十中八九ちょっと遊んでついでにこれだけやればギリは果たした的な考えで帰ったんだろうぜ」
 仲間割れに期待し、リュウイチが挑発する。
「あぁ、あの男が本気などそうそう出す訳が無いからな。しかし、僕は違う。悪いけれど、この湖を凍らされるのは都合が悪いのでね。先程、僕が「神の炎」だから、水、と言った。実際僕は炎の扱いが得意だがね。別に、炎しか能が無い訳でも無い――――」
 そう言いながら腕を上に突き上げる。それに合わせて、湖の水が大きく盛り上がり、高台にある筈のこの丘より高く水の塔が複数立ち上がる。
「例えば、洪水、なんかも僕の領分だったりするのだよ」
「な…………。」
 と驚いたのは誰の声だったか。
「知らないかもしれないから念のため教えておくがね、この水は別の時代の湖の水でね、人間を襲い、分解する、ナノマシンが含まれている。君達に許されている選択肢は4つ。1つ目は、魔女達を見捨て、自分だけ逃げる。2つ目は、ここでその海王星の力を解放し、とりあえずこの攻撃は防ぐ。3つ目は僕達に降伏する、4つ目は潔く死ぬ」
 あらゆる人間を殺す恐ろしい殺人兵器である水の塔に囲まれながら、「神の炎」は笑う。
「降伏したとして、俺達の未来は保証されるのか? 正直何を成そうとしてるかが分からないしモノを盗まれた上でさらになんか害になりそうって話で敵対してんだ、要件次第でこっちの態度は如何様にでも変わるさ」
 リュウイチはそれに交渉を試みる。
「僕らが為そうとしているのは、新たな未来の創造。僕達やあの神は、そこに神秘の存在する余地、すなわち僕達の勝利する余地を未来に残し、かの首謀者たちは自らのような哀れな死体労働者を生み出さない未来を作り出し、神秘の最後の抵抗達は当然、神秘根絶などと言う目的で行われる魔女狩りに追われる事も無くなる」
「……『今の俺達』の保証は? 無いって事でいいのか?」
「それは意味の無い質問だ。今の君、とは何だ? 一分一秒と老化する君達の体は次の瞬間には別のものになっている。もし仮に、その定義が意思の連続であるならば、降伏した者には意思の連続は約束しよう」
 その回答を聞いて悩むリュウイチ。
「申し訳ないが、こちらも時間は有限だ。もし質問があるなら次で最後にしてもらおうか」
「神の炎」は少し焦っていた。自分を倒せるかもしれない存在イシャンのパパラチアが、迫ってきているのに気付いているからだ。
「最後の一つだな…… その新たな未来の創造に巻き込まれるのは、この世界だけか? それとも、今この場に複数の平行世界の人間が集まってるように、他の世界にまで影響は出るのか?」
「他の世界にまで影響が及ぶ。でなければ、あの死者から生まれた新たな生命や神秘の最後の抵抗達を助けてあげる事はかなわないからね。けれど、そうだな……。もし君達二人が自分たちの世界に影響が及ぶか否かで判断を変えるというのなら、投降するのであれば君達の世界は影響の範囲外にする事は出来る」
 その回答を聞いて、リュウイチは答えを決める。
「そうか……なら俺は降伏しよう、重要なのは俺自身が任されてる仕事と組織だ。無理して良い成果を残そうと失敗のリスクを背負う必用はねぇ……っと。それに世界の確変だって他のメンツにとってはどれも良い事なんだろう?」
「そちらの、弓のお嬢さんはどうかな?」
「……降伏、気に食わないけど、勝てない」
「よろしい。では……、〝居場所〟の無い、お嬢さん、まとめて神殿に移動だ」
 その場にいる全員の足元に〝裂け目〟が出現し、消える。

 

「畜生……遅かったか……」
 そこにようやくパパラチアが現れる。そこに残っているのは戦闘の跡と、カメラや通信機のみ。
「こちらイシャン。すまねぇ。リュウイチ達は敵に連れ去られたようだ……」
「了解しました。イシャンさんは内火艇との合流地点へ移動してください。メイヴさんがいない以上、今回の作戦の指揮官であるあなたが代表として適任です」
 と、安曇から返され、イシャンは再び移動する。

 

「セントラルアース所属インダス隊隊長、オリヴィア・タナカ中佐です。情報交換の為のそちらの代表はどちらですか?」
「クラン・カラティンのエンジェル、イシャン・ラーヒズヤ=ラジュメルワセナだ。お互い、有意義な情報交換をしたいと思ってる」
「エンジェル……?」
 早速意味不明な言葉が飛び出した事に思わず首をひねるオリヴィア。ところで、オリヴィアは英語話者なので、この場は英語で会話が行われているのだが、イシャンはその感じから、普段は丁寧な口調をしないのだろうな、と感じた。
「ああ、エンジェルってのはあの機体、デウスエクスマキナのパイロットのことだ。気になる名前かもしれないが、まあ、そういうもんだと思っておいてくれ」
「了解しました。まずはセントラルアースより、そちらが正当な政府である場合、未謝罪になってる案件がありますので、それについて謝罪せよという事なので、謝罪させてください。本艦アースが戦闘中に突然転移した際、敵艦載機攻撃の為に起動していたビーム砲塔一機の制御を失い、地上に発射してしまった件です。我々としても母なる地球を無意味に傷つけた事を遺憾に思っております。そちらが正当な政府と認められた暁には必ず相応の損害賠償を行う意思がある事をご理解いただければと思います。という事です」
 と、手元のタブレットを読み上げる。そう、あれはネオアドボカシーボランティアーズ第三艦隊との交戦中に転移させられた為に起きた誤射だったのだ。これはタクミが航行記録をクラッキングで入手していたので、後で裏付けとして確認出来る。
「なるほど。あれは突然転移した為の誤射だったってわけか。敵意がなかったってんなら、俺達としてもその件にはそれ以上何も無いな。まあ、危うく死にかけたが。ちょうどあの砲撃の先に俺達がいた訳だが、そうなるとあれは偶然だったって事か?」
「それは本当ですか? セントラルアースはカリフォルニア政府からはあの場所は既に破棄され人もいない為、賠償の必要も存在しない、と返答を受けています。もし皆さんがあの場所におられたなら、カリフォルニア政府は意図的にそのことを隠ぺいした可能性があります。砲塔一機が停止命令を受け入れなかったのも、何らかの意図がある可能性を捨てきれなくなります。すぐに調査をさせます」
「そうしてもらえると助かる。暴発した砲がちょうど俺達のところにってのはいくらなんでも偶然にしちゃできすぎてる」
 ――わざわざクラッキングされる事を見越して情報仕込んでるとは考えにくいから、タクミの情報からしておそらくアースは本当のことを言っている。となると、佐倉博士辺りからクラッキングを受けていたのか?
 イシャンは、アースとの敵対が仕組まれたものであるように感じ、改めてエヴァンジェリンへの敵意を募らせる。
「はい。さて、そちら、クラン・カラティンについてのお話は後程聞かせていただくとして、他にこちらの行動について不明な部分はありますか?」
「そうだな。まず、あんた達の目的を教えてもらえないか? 俺達はエヴァンジェリンと呼ばれる連中……おそらくはあんた達の言うカリフォルニア政府を名乗る連中を追っているんだが、連中と何か協力体制にあったのか?」
 もちろん、いくつも不明な点はあった。イシャンは一つずつ質問していく。
「我々セントラルアースは、地球の保護、防衛を担っていると自負しています。それは例え他の世界の地球であろうと同じです。このため、近隣の政府と連携し、情報収集、必要と判断した事象には協力、をしました。協力体制だったか、と言うと、警察権力として力を貸した事はありますが、彼らの目的について何らかの賛同の意図を示した、という訳ではありません。我々は彼らを単なる現地の政府としてしか認識していませんでしたので」
「だとすると、連中の目的については知らされてないって事か? 連中は世界変革とやらを目論んでいるようなんだが」
「はい。我々はあくまでカリフォルニア政府の協力者として存在していました。世界の変革などについては一切存じません」
 ――なるほど、何も知らずに正義感だけで行動してたって事か
「なら、連中の居場所は? それも知らされていないのか?」
「はい。タホ湖周辺に政府機関があり、基本的には特殊な技術で隠蔽されている、と聞いています」
 ――妙な話だな。タホ湖に都市があるなんぞ俺達は聞いた事が無い。奴らが密かに秘密基地でも作ったか? いずれにしても、やはり本拠地はタホ湖か
「それはそれとして、ルシフェル……あの翼を生やした巨大な敵は、あんたらの味方をしていたように見えたが、あんたらはルシフェルとも協力関係にあるのか?」
「ふむ。あの巨人については詳しくは知らない。ただ、ヨセミテ国立公園であなたの搭乗していたあの巨大人型ロボットと交戦して、あれと戦って勝てる目が少ない、と言う話をした時、それなら、彼らがアースを攻撃した時は彼らと戦う為の増援を出す、と聞かされていただけ。……と、口調口調。私達と協力関係にある、というより、カリフォルニア政府と協力関係にある、という事なのかと」
「なるほど……。あのルシフェルは、この世界における人類の敵だよ。あいつらのせいでこの世界は滅茶苦茶になってる。俺の兄貴もあいつらと戦って戦死した。既にソ連は壊滅。アメリカもほぼ壊滅状態で東海岸に新政府を作っているが、それもかつての繁栄は無い」
「ふむ。確かに彼らのような地球人類種は知りません。我々セントラルアースにとっても彼らと味方する理由はあまりありません。ですが、カリフォルニア政府は彼らと共闘しています。そちらの事情もあるでしょうからお節介かもしれませんが、人類の敵、というのは、やや一元的な見方なのかもしれません。……と、これは情報共有には関係無い話でしたね。その辺の話は、質疑応答の後の情報共有の過程で教えていただければと思います。他に疑問点はありますか?」
「分かった。ありがとう」
「はい。では、そちらのお話も聞かせていただきますね……」

 

 その頃、どこか。
「おー、ようこそー」
「すまないが、降伏してもらった以上、全てが終わるまでここでゆっくりしていてほしい。世界が再構成されるとき、僕達と一緒にここからはじき出されるだろうから、その時に元の世界に僕達が責任をもって導こう」
 カラと「神の炎」がリュウイチとユキに説明する。そこは青いドーム状の壁に囲まれた神殿のような場所だった。
「……おまえさんがこっちについてる、美学に反していないなら 最低限はなんとかなるか」
「まぁ、もし天使たちが嘘ついてても、最悪私が元の世界には移動させてあげるよ」
「あら、失礼ね。私達は決して嘘はつかないわ。だから、必ず、私や「神の炎」、そしてあなた達のいた世界は再構成に巻き込まないし、必ず元の世界に返してあげる」
 と、ミユキがどこからとも無く現れる。
「って事らしいよー。じゃあ私は、こっちの二人以外をクラン・カラティンに送り返しておくからー。あ、ちょっと野暮用があるからしばらく戻ってこないよー、リーダー」
 と、カボチャ頭の一人の方を叩いて、言いながらカラがエレナ達4人を連れて去って行く。
「それでは、お二人の部屋はこちらに用意しましたので、こちらへどうぞ」
 そのカボチャ頭がそう話しかけてくる。見れば少し装飾が付いている。
「カボチャ頭……そういえば一つ聞き忘れていたな、全てが終わった後に奪われた物は返してもらえるのか?」
「あー、妖精銃、ですね。そちらに関しては返却出来ます。最後にお渡ししましょう」
「なら一応仕事は達成出来るな、助かる」
「いえいえ、申し遅れました。私はRB-07-1124-014M。皆からはリーダーと呼ばれています、よろしく。では、部屋へご案内します」


 神殿の内側は比較的近代的な見た目になっているようだ。その神殿に入ろうという時、
「おっと。そろそろ、時間ですね。何かに掴まってください。危ないです」
 
「新たに出現した方の月より高エネルギー反応! ……これは……?」
 イシャン達の耳にチハヤのオペレーターからの通信が入る。
「アースの艦外観測カメラの映像を回します。このタブレットで確認出来る筈」
 オリヴィアが映像を提示する。
 大戦後世界の月から湖面に向かって青い筋が伸びていく。そして、湖面に着弾した次の瞬間、青い半透明の膜で覆われた神殿が浮上してくる。
「おい、あれは……」
「はい、データにあります。アドベンターの、湖中基地……」

 

 そして某所。
「君が最後っかなー」
 カラは時間を見つけては工作員狩りをしていた。
「くそう!」
 スーツ姿の男が、拳銃を向けて3回射撃する。スマートピストル賢い拳銃と呼ばれている人工知能搭載のその拳銃は常に最適なコースを計算し自動補正した弾丸を発射する。それはほぼ確実に必中の弾丸を送り込む、が。カラはそれを避けさえせず、スーツの男に近づく。弾丸がカラに接触する直前、何の予備動作も無く、3発の弾丸それぞれの目の前に極小の〝裂け目〟が出現し、弾丸はその中に消え。
「ぐっ」
「ごめん、そろそろ飽きちゃったから、弾丸は君の心臓に転送させたよ。だってどうせ口割ってくれないし、同じだよね」
 男が倒れる。
「貴様、よくも!」
「あー、最後の一人じゃなかったかー」
 電磁警棒を持ったスーツ姿の男が警棒を構えて走ってくる。しかし、やはり何の予備動作も無く、足がつく筈の地面に〝裂け目〟を出現させ、転倒させる。
「馬鹿な、何の予備動作も無く……」
「そうそう、さっきの拳銃見て分かったよー。君達、超人研だよねー。一度狙われた事あるよー。ジェネラリティリソースと手を組んだの? どうかと思うにゃー」
 転倒した顔の位置と、カラ自身の少し上に〝裂け目〟を出現させ、足を短剣で地面に縫い留めて、逆さ吊りにする。
「目的は何? カラちゃんじゃないんでしょ? だって驚いてたもんね、私の力に。でも、私以外にコード・アリスもコード・メリーもコード・ドロシーもここにはいないよ。誰を狙ってるの?」
「は、話せない」
 絞り出すように男が言う。
「じゃあ殺しちゃうよ?」
「は、話した事がばれたら、解体される」
「あー、じゃあ小声でいいよ。ほら、耳近づけてあげるから」
 一歩近づき、口に耳を近づける。
「あいつだよ。意思を持ったリブーター。あのリーダー、だ」
「あー、あいつかー、なるほどにゃあ」
txif起動
「しまっ」
 足元に白い円が出現している。あふれんばかりの光と風がカラを包みこむ。

 

 どことも知れぬどこか。灰色に赤いラインの入ったローブを来た男が、のんびりと紅茶などを嗜んでいた。
「あっぶ無かったーーーーー」
 男の真後ろにカラが滑ってくる。
「あー、久しぶりに死ぬかと思ったにゃあ。本気出した代償に舐めプしちゃったかにゃあ」
「…………お前、どうやってここに……」
 ローブの男が立ち上がり、カラに向き直る。男の武器である四本の剣が空中に出現する。
「いやー、超人研にやられそうになってー、逃げてきたー」
「暗闇の雲に?」
「ここまでは誰も追ってこられないからにゃー」
「ふざけるな。ここは、お前みたいなのが来る場所じゃないぞ、虹野 から。大人しく元居た場所に戻るんだな」
「んー? そんなこと言っていいの? 世界が統合しようとしてる。君達だって見逃せない筈じゃない?」
 あくまで剣呑な表情の男に、カラが笑う。
「いいや、俺達は――」
「アカシックレコード以外に興味が無い、は禁止。それが建前なのはもう随分前から知ってるよ」
 カラが笑う。
「招かれざる客のくせに大きな顔をするな。それが事実だとしても、今回の件に私達、統制者は興味を示さない」
「ふーん。あくまで関係無いっていうの? じゃあなんであのアイソトープはあそこにいるの? あれ、明らかに今回の事件と無関係にこの世界に来たよね? 君が干渉したんじゃないの? 君のアイソトープでしょ、あれ」
 図星なのか、男が黙り込む。
「なるほどなるほど。興味無いという建前を第二席として宣言しちゃったから、アイソトープを送り込むのが精いっぱいだったってところ? ムゲ……」
「黙ってるからと、六次元人の事情に踏み入りすぎだ。ちょっと上の次元を覗き見れる程度の三次元人風情が」
 男がついに我慢なら無いと、4本の剣を操作し、カラの首を囲む。
「ありゃー、こりゃ首を少しでも動いたら切れちゃうにゃあ。でも図星って事だよね。図星を突かれると暴力に打って出るの、悪い癖じゃないかにゃー」
「本当に切断してもいいんだぞ……。はぁ。分かった。これ以上、俺のことを〝映して〟欲しく無い。答えてやるからとっとと帰れ。残念だが推測は外れだ。統制者としては、世界が統合してもあんまり損は無い。今回の統合は六次元の視点で見れば、どうせ別の流れに合流するだけの変化に過ぎない。だから本当にどうでもいい。あれがあそこにいるのは、中途半端に阻止されてアイツらが帰れなくなった時の保険だ」
「別の流れ……? あ、あーーーー、あの流れに合流するんだ! そっか、あの〝お話”はここで統合したら起きる”お話〟なんだね?? 分かったよ。じゃあ私は遠慮無く統合側につくよ。じゃあまた会おうねー」
「二度と来るな。ここは三次元人の立ち入っていい場所じゃないぞ」
 カラが〝裂け目〟の中に消える。
「はぁ……。これだから、あの女は嫌いだ。俺達が表に出るのはまだ早いと言っているのに」
 男は、“こちら〝へ手を伸ばし、”目〟を握り、そして潰す。

 

 To be continued…

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