異邦人の妖精使い 第3章
制圧した集積所はこれで三件目。まさかここまで多くの妖精銃が日本に流れ込んでいるとは思わなかった。
「今日もお疲れ様。これだけ妨害しているんだし、黒幕さんには尻尾を出してほしい所だね」
中島さんがそこの自販機で買ってきたらしい暖かいココアを私に渡しながら、そう言う。中島さんと鈴木さんの手にはコーヒーが握られていた。
「山本さん達が探りを入れてるそうですから、もうそろそろ何か掴めるのでは?」
これだけ多数の妖精銃が日本に入っているのは、個々の組織ではなく、手引きしている何者かがいるのだろうという捜査班の判断は、今回の襲撃で確実となった。
様々な方法でそれぞれが妖精銃のばら撒きを何者かから提案されており、それぞれの集積地同士の繋がりは全く発見出来なかったそうだ。
「にしても、妖精銃を撒いて何がしたいんだろうねぇ。みんなしたい事バラバラだし」
ウェリィの言う通り、目的について考えても、ピンとこない。三か所とも、対霊害技術を犯罪に使おうと画策しているという共通点はあったが、目的は金銭、思想、抗争とバラバラであり、特定の何かを支援したいという感じではない。
「お金にしても妙なんですよね。そこまでお金を取っていないみたいですし。お金だけが目的なら、ただの銃として暴力団とか犯罪組織の販売網を使った方が対霊害技術を犯罪に使いたい組織を探すよりも、手軽で安全だと思うんですが」
鈴木さんが呟くように言う。魔術等は現代社会において秘匿されている物であるから、それを犯罪に用いようとする組織と繋がるというのは、通常の裏社会よりも難易度が高くなるのではないかと思う。
そんな狭い社会だからこそ、意外な繋がりからあっさり繋がる事も良くあるそうだが、そのような縁を活用した接触ではないというのが現在の捜査が出した結論だそうだ。
「混乱狙いの愉快犯かもしれないね。妖精銃もたまたま手に入っただけという事もありうるし」
事実が想像よりも単純で拍子抜けする事は割とあるらしい。相当の使い手が関与している事件かと思えば、自然現象が同時に発生していただけで、魔術師は全くの素人であったという事件の話を聞いた事がある。
「リチャード騎士団にはそろそろ立ち直って頂きたいですね。向こうからの情報があれば動きやすいのですが」
リチャード騎士団の混乱の話となると、騎士団長暗殺事件の容疑者である事を思い出して、少し耳が痛い。
そんな私の様子に気付いてか、鈴木さんが少し慌てて、頭を下げる。そこまで気になっていた訳ではなかったから、逆に申し訳なく思う。
「余りにも立ち直りが遅い感じはあるけどねぇ。派閥抗争に火が付いたとしても、他機関との共同に長期間影響を出すような組織でもないように思うけど」
確かに、イングランド派とスコットランド派の対立を中心に、統合をきっかけとした対立は、以前から把握されていた物で、もし激化しても業務をないがしろにする事は無いように先代様は気を配っているという話を聞いた事がある。
「メドラウドさんの手腕は相当な物であったと聞いていますし、本人が思っているよりも騎士団全体が彼に依存していたって事かもしれませんが」
鈴木さんの意見に対して、内部の人間としての意見を言えればよかったのだが、騎士団の構成員になる事を期待されて教育は受けていた物の、研究所以外の事は聞き伝えでしか知らない。先代様が立派な方であると知っていても、騎士団において、どのような存在感を持っていたのかと言うのは分からない。
「まあ、騎士団の協力は得られない以上仕方ないから、こっちで何とかするとしよう」
中島さんが話題を終わらせて、車に向けて歩き出す。今日はもう何も無いはずだから、隠れ家まで送ってくれるだけのはずだ。
その時、中島さんの電話が鳴った。確かこの着信音は山本さんからの電話だったはずだ。
これまでの様子から、中島さんは人によって着信音を変えているようで、どうも同じ着信音を使っている人はいないようだ。ウェリィと話し合った結果。浮気対策で、新しい人に出会った事が分かるように奥さん辺りから義務付けられたのではないか、という結論になった。
そんな回想をしている間に中島さんは電話をポケットに戻す。
「山本さんからで、イギリスから日本に妖精銃を運び込むと思われる船が今日東京湾のどこかに入港するって。特徴をメールで送ってもらうから、鈴木君特定よろしく」
そう言いながら中島さんが車に乗り込むので、私と鈴木さんも続く。鈴木さんは車の中に入ると同時に、ダッシュボードに収められていたらしいパソコンを取り出すと、スマホを見ながら情報の検索を始める。
「ところで、今からどこに行くの?」
ウェリィが尋ねる。場所も分かっていないのに移動するというのは不思議な事である。
「愛刀の研ぎ直しが終わったらしいから、回収しておこうと思って。この刀もいい刀だけどね」
刀の柄を撫でながら、中島さんが言う。てっきりこれが使い慣れた刀とばかり思っていたが、違ったらしい。
鈴木さんの叩くキーボードの音と、それに関する中島さんとの会話を聞きながら、窓の景色でも眺める。ウェリィが飲食店の看板を見るたび、食べたいという話をする。晩御飯を食べていないので、言われると私も気になってしまう。
「そんな時間だったね。一時しのぎにキャラメルでもどう? あと、刀を回収する時に、何か持ってくるよ」
中島さんが後部座席の私達にキャラメルの箱を片手で渡してくる。ウェリィが受け取って、空中で器用に箱を開けて、一粒だけ取り出すと、箱を私の方に投げるように渡してくる。
私も一粒だけ口に入れ、コロコロと転がす。口に物を入れた事によって、空腹を逆に意識してしまい、食べない方がよかったかと少し後悔する。
警備されている門を抜けた後、しばらくして車は止まった。どこかと思い、当たりを見回すと、その様子から、どうも皇居の一角であるらしい。
「宮内庁の庁舎は皇居の内側だからね。人ならともかく、妖精には容赦してくれないと思うから、特にウェリィさんは出ない方がいいね」
中島さんはそう告げてから、車から降りる。妖精と言う霊害にも分類される者が対霊害の総本山といっていい皇居で飛んでいるというのは落ち着かないだろう。
「照会終わりました。東京港に入港する貨物船ですね。船籍はイギリスみたいですね」
キーボードを叩く音が止むと同時に鈴木さんが報告する。東京港ならかなり近い。証拠を掴めるかもしれない。
「しかし、スズキって優秀だよね。昇進出来ないのはナカジマが仕事押し付けてくるから?」
確かに、戦闘はともかく、調査や霊害についての知識など、優秀と言う印象は受ける。一番下というのは違和感と言うのがあった。
「ああ、勤続年数が足りないんですよ。まだ一年も勤めてませんし」
突き止めた情報をどこかに送るためか、キーボードを再び叩きながら鈴木さんが答える。
色々な事に慣れている様子であったし、一年以上の経験はある物と思っていた。思わず声が出そうなほど驚く。
「にしては結構慣れてない?」
「まあ、中島さんと一緒にいると、色々覚えないと生きていけませんし。何故か警察学校時代から縁があるからって霊害関係の勉強もさせられましたので」
皇宮警察から来た霊害対応の専門家かつ、自由人そうな中島さんの相方として捜査に付くというのは確かに相当な苦労をする羽目になりそうだが、多くの経験も積めるのだろう。
少し納得した。
「なんか、ナカジマにいいように使われてない?」
ウェリィの言葉に同意する。中島さんかどうかは分からないが、誰かの意志が働いて、対霊害のエキスパートとしての道を歩み始めているのは間違いないだろう。
対霊害機関は新規の取入れに苦労すると聞くため、どんな縁があるのかは分からないが、霊害と縁を持った人間を逃がすというのは中々しないそうだ。
「まあ、妹が霊害に巻き込まれないように頑張りたいと思っています」
そう鈴木さんが決意を示すと同時に、中島さんがビニール袋片手に戻ってきた。
「そうだね、巻き込みたくないよね。おにぎり作ってもらってきたよ」
中島さんが何か意味深な笑みを浮かべているように見える。妹さんも既に縁を持ってしまっているのではないかと感じたが、鈴木さんは気付いていないようなので黙っておく。
手渡されたビニール袋の中には、いくつかのラップに包まれたおにぎりが入っていた。一つを手に取り、ラップをはがして食べる。手作りのおにぎりは初めて食べたが、かなりおいしいと感じた。
「鈴木君もどうぞ、美琴のだから味は保証するよ」
「ありがとうございます。さっきの船、東京港に入港するようです。押さえられそうですね」
鈴木さんにビニール袋を渡し、鈴木さんが中からおにぎりを一つ取り出した所で、車は再び出発し、再び私は窓越しに都会の夜景を眺めて時間を潰す事にした。
大型の車両やコンテナの立ち並ぶ埠頭で車は止まり、中島さん達に続いて、私達も車を降りる。
「そういえば、税関と連携はしなくてもいいんですか?」
鈴木さんは中島さんに尋ねる。
「これまで通っていたみたいだし、魔術的な技法で誤魔化しているんだと思う。ネタが掴めないと、狂言だと思われて信頼無くしちゃうしねぇ」
密輸品がある、と協力を要請して、それが発見出来なかったら、税関としては協力を要請してきた捜査班に疑問を抱くだろう。性質上あまり目立てないらしい捜査班としては、あまりお願いできないようだ。
「ねえねえナカジマー。刀持たなくていいの?」
そういえば、愛刀と言っていた新しい刀を見ていない。中島さんの方を見てみると、何時も下げていた位置に刀らしき鞘は無かった。
「膝丸の写しと比べると小さいからね。スーツに隠しやすいんだ。太刀と違って」
そう言うと、中島さんはスーツを少しめくって、かなり小さな鞘を見せてくる。
「
日本刀とその原料である玉鋼の性質として、歴史があればあるほど強力になると言われていて、それに加えて霊を切った等の伝承があればさらに強力になるという話を聞いた事がある。
ミナモトと言うのは知らないが、武勲が多い武将が自害した刀と言うのはかなりプラスとなるだろう。様々な魂が刀に結び付き、強力な神秘となるはずだ。
「そんな刀、どこで手に入れたの?」
ウェリィがまじまじと刀を眺めながら呟くように言う。
「代々我が家で受け継いできた刀だよ。まあ、子供の頃に短いから丁度いいってよく遊んでいたけど……」
家宝に近そうな物で遊ぶというのは、なんというか中島さんらしいのではないかとも思うが、刀で遊ぶものだろうか。
私も幼少期から訓練と言う形で遊ぶように剣を振り回していたし、そういう教育方針なのかとも考えたが、中島さんの言い方から考えると本当にただ玩具として振り回していたように聞こえる。
「あの青色の貨物船ですね。全部調べるのは大変ですが、頑張りましょう」
四人で大型貨物船を調べるというのは、中島さんとウェリィの感知能力があるとはいえ、相当大変な仕事であるというのは予想出来る。少しため息をついてから、貨物船に向けて歩き始める。
「見つけたぞ! 不法者!」
背後からいきなり大声が響いた。振り返ると、見慣れた鎧を来た騎士が三人。発言から考えて、私を追ってきたイングランド派のリチャード騎士団員で間違いないだろう。
「我はアーサー・マクドネル。リチャード騎士団、シティ・オブ・ロンドンの教区騎士! この剣と、教区騎士団の誇りと名に賭けて。スマイラ卿暗殺の咎、その身で払って頂く!」
先頭の一人が大声でそう名乗りを上げると同時に、後ろの二人の騎士が抜刀する。教区騎士というのは、リチャード騎士団における行政区画の最小単位である教区とそこに属する教区騎士団の長である事を示す言葉である。彼が担当しているらしいシティ・オブ・ロンドンは、リチャード騎士団の中枢が存在する地域。間違えなくエリートで、十分な技量を持つ事も疑いようがない。
名乗りを上げるその様子も、型に乗っ取り極めて整った物であり、手ごわい敵である事を示している。
「あー、ちょっと話しませんか?」
中島さんが困っている様子が伝わるようにか、頭に手を置きながら話しかける。
「不法者と行動を共にしている者の言葉など、聞く必要はない。参る!」
三人の騎士は一斉に駆け出し、こちらに迫ってくる。中島さんは刀と拳銃を抜きつつ、鈴木さんに指示を出す。
「鈴木君、トランクから盾! 警棒は止めといた方が良い」
鈴木さんは剣術などを習っている訳ではないだろうから、警棒で戦うよりも盾で戦った方が良いのだろう。
「フェア、近づかれたら面倒だよ」
ウェリィが言う。リチャード騎士団の鎧は、通常の鎧よりは霊障防御等、霊害に対抗する為の強化はもちろん、様々な強化が行われており頑丈な鎧であるが、流石にライフル弾への対抗は容易ではない。近づかれて、自由に狙えなくなる前に射撃を開始した方が有利になる。
致命傷は与えないように意識しながら狙い、引き金を引く。ここで殺してしまうと、暗殺の容疑を深めるのに利用されるだけだ。
飛翔した銃弾は命中しなかった、やはり急所に当たらないようにと言うのは難しい。ボルトを動かし、もう一発。
今度は命中したが、アーサーと名乗った教区騎士は命中の直前に体をひねるようにして、弾を弾く。
「うそーん」
ウェリィが漏らした言葉と同じ気持ちだ。弾きやすい角度と言うのは確かにあるが、それを的確に行えるというのは予想通りかなりの実力を持っているようだ。
狙いを変えて、後方の騎士を狙う。命中したが、当たり所が悪く貫通出来ず、体制を崩しただけであった。
追撃を行えたら良かったのだが、狙いを遮るようにもう一人の騎士が動く。連携も取れている。
「ブルー、バレットエンチャント」
腰の人工妖精ケースからB型のブルーを呼び出し、妖精弾に付与する。
そして、それを銃に込めて、狙いを遮っている騎士を狙って撃つ。運よく足の関節に命中する。B型は氷の人工妖精。命中部を氷結させる効果があり、足の関節に小さな氷塊が生れ、騎士の動きを止める。
追撃が出来れば、完全に無力化する事も出来たが、教区騎士が中島さんと剣戟を始めている。短い刀に変えたためか、少し不利であるように見える。
「公務執行妨害も付いたよ! 大丈夫?」
「犯罪者と協力している方が問題だろう!」
援護しようと狙いを付けるが、激しく動く二人の片方だけを狙うというのは難しい。立ち直り始めている二人の騎士の方に集中する。
「接近されたら私が防ぎます」
鈴木さんが金属製の大型の盾を構えながら私の横に立つ。私の銃剣よりは相手の剣を防ぎやすいだろう。
立ち直った二人の騎士は、片方はこちらに、もう片方は教区騎士の支援に動こうとする。
さすがに二人に対して一人と言うのは舐められすぎではないだろうかと思ったが、何かが風を切る音と盾を何かが貫いた音で、考えを改める。
「ロングボウか」
地面に突き刺さっている矢を確認して、後方で隠れていたロングボウを持った騎士による攻撃だと認識する。十分な威力があり、原料となっている木の神性を受け継ぐため、通常の銃と比べると霊害に対して有効な事、そして多くの鍛錬が必要であり、騎士らしいという点から、特にイングラインド系の騎士は好んで利用している。
優秀な射手にかかれば、金属製の盾を撃ち抜くというのは可能らしい。
「クレーンから撃ち下ろしてる」
ウェリィの発言に湾口にあるコンテナを運べる大型クレーンに注目すると、確かに鎧を着こんだ人影が二人。距離はこっちも十分に当てられる距離。
厄介なのは、向こうは弓の曲線的な弾道を生かして直線的なこちらの弾道では撃ちにくい所から撃ち下ろしているという事だった。鈴木さんも矢と騎士の攻撃に長い間耐える事は出来ないだろうから、通常であれば狙う時間も十分に取れない。
「アーク、バレットエンチャント」
この前新しく仲間にしたA型のアークを呼び出し、妖精弾に付与しながら、E型のエンターも呼び出す。
アークを付与した妖精弾を迫る騎士の足元に射撃し、足元を炎上させる事で少し動きを止める。
「エンター、ガンエンチャント」
人工妖精を付与するエンチャントは、基本的には難しいものではないが、連続して行おうと思うと中々難しい。人工妖精に指示を出すだけでいいのだが、集中しなければこの指示を中々聞いてくれないのだ。別の妖精に指示を出そうとすると、前の妖精に言っているのだと思い、無視されてしまう事が多いのだ。
長い期間彼らと付き合ってきたから、どうやったら聞いてもらえるかは熟知している。
E型の人工妖精は妖精銃に付与する事で、弾道をある程度操作出来るようになる。普通の銃ではありえない飛び方をした銃弾は、ロングボウを持った騎士に命中する。
幸か不幸か、大きなダメージではなかったようだったが、撃たれるという状況を嫌ったらしく、二人とも移動を開始した。これでしばらく矢は飛んでこない。
近づいてくる騎士に目を向けると、既に鈴木さんと戦い始めていて、剣を盾で防ぎながら、回り込まれないように激しく動いている。これでは支援出来ない。
中島さんに向かった騎士を見てみると、教区騎士を援護しようとしたらしいが、中島さんから銃撃を受け、怯み、二人から少し離れた所で体制を立て直そうとしていた。
今なら狙えると、素早く狙いを付け、撃つ。
腕に命中し、そこの鎧が吹き飛ぶ。出血もしている。剣を鞘に戻し、傷口を手で押さえながら、その騎士は後退していく。
周囲の様子を確認するが、ロングボウ騎士は見当たらず、鈴木さんと中島さん、共に激しい近接戦闘を繰り広げていて、支援が出来る状態ではない。
「我々は! その不法者を捕まえて! リチャード騎士団を守らなくてはいけないのだ!」
「騎士団と戦うなら膝丸の方が良かったかな!」
鈴木さんと騎士との戦いは、怒声やウォークライ等の大声が響きあう戦いなのだが、教区騎士と中島さんは普通に会話が出来そうなくらい意味のある言葉が飛び交う戦いでレベルの違いを感じる。
銃剣を片手にどちらかの支援に入っても良いのだが、彼らは近接戦闘のプロである訳で、正直片手間に圧倒されてしまう可能性もある。
そうなると、歯がゆいながら、支援出来ないか伺いつつ、ロングボウを持った騎士を警戒するしかない。
「貴様、腕が立つ。さては中島の者か」
「確かに、姓は中島だね。宮内庁の刀使いは全員このレベルだけどね!」
中島の者、と言う言葉が教区騎士から出るという事は、それなりに有名な家であるらしい。ヨーロッパ外の魔術、対霊害関係の名家というのは学び始める所であったから、詳しくないが、この業界では有名な家系なのだろうか。
「増援か。不法者よ、我々から逃げられると思うなよ!」
強く横に剣を振り、中島さんとの距離を取りながら、教区騎士が私を見ながら発言する。
鈴木さんと戦っていた騎士も、鈴木さんから距離を取っている。
しばらく睨み合ってから、騎士達は離脱を始める。それを支援するように何かが括り付けられた矢が地面に刺さる。そこから煙が発生し、辺りの視界が悪化する。
視界が晴れる前に、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。増援と言うのはこれの事であったらしい。
「あー、不味い。普通の警官だ」
中島さんがそう呟くように言ってから、私の服を掴んでくる。
「見つかるとめんどくさいから、ちょっと車に隠れてて」
視界の悪い中であったが、見えているらしい中島さんに引きずられるようにして車まで誘導され、前部の座席と、後部座席の間に隠れるように指示される。
そこに隠れると、札のような物を私に張り付けて、中島さんは車から離れていった。
サイレンの音が近づいて止まり、辺りが人の声で騒がしくになってくる。
確かに、銃を不法に保持している人間と協力していますというのは、一般の警官に説明して受け入れられるものではないだろうが、こんなスペースに隠れるという事に不満はある。
この様子だと、貨物船に乗せられている妖精銃を確保するというのは、騒ぎで警戒を強化する事は明白であり、難しいだろう。
私を冤罪で拘束しようとするし、暗殺事件の余波は関係しているだろう妖精銃流出の捜査を妨害してくるし、かなり腹が立つ。
本部のあるロンドン塔周辺を固めているような精鋭を密入国させて、私を追わせるぐらいなら、この妖精銃流出に対応出来るようにしてほしい。
そんな考え事をしていると、車のドアが開けられて、別の警官からも私が見える状態になったが、誰も気付かない。この札は注目されにくくなる人払いのお札らしい。
「ね、誰も乗ってないでしょう? 襲撃されたのは私達だけです」
そう言いながら、鈴木さんがドアを閉める。
「暇ー」
ウェリィがそう呟きながらパタパタと車の中を飛び回っている。普通の人には見えないように出来るらしく、動いても基本的には見つからない。狭い所で息を潜めている身としては、大変羨ましい。
考えても、怒り等の感情が出てきて、落ち着けないので、いっそのこと目をつぶって、寝てしまうことにした。
何か掴めると思ったのだが、残念だ。
~第三章 終~
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