聞き逃して資料課 エイプリルフール編

  

2020/4/1

「今日は新年号発表の日ですね! みんな何になると思います?」
 なんて話題を用意して資料2係の扉を抜けた俺は、いつもより慌ただしいその部屋に迎えられた。
「あ、中国くん、早速出るよ! なんたって今日は、GH案件が日本一多い、エイプリルフールだからね!」

 


 

 剣と自衛官を確保し、自衛官とコートの男を送検し、剣を然るべき機関に預けた後は、GH案件らしき事件もなく普通に資料係らしい仕事ばかりだったのだが。
 鈴木巡査が「騒動ってのは突然やってくるものなんですよ」と諦め顔で苦笑していた意味が分かった気がする。

 


 

「それじゃ、道すがら説明するね。嘘から出た真って言葉は知ってる?」
 中島巡査部長が説明を始める。新元号は何になるんだろうか、気になる。
 ついスマホでまだかな? などと見てしまう。時間は決まっているのにな。
「ほい、ついたよ。じゃ手筈通り行こうか」

 


 

 ――え、やべ、説明聞いてなかった
 見ればそこはアパートだ。中島巡査部長が階段を登っている。
 ――聞き込みか? 俺は下かな。
 何を聞き込めば良いのかすら分からないが、それがバレたらまずい。動いてるフリをしよう。
 一階の適当な部屋をノックする。

 


 

「はーい」
 と、扉が開く。
「うわぁぁぁぁぉ!!」
 思わず絶叫する。そこにいたのは、大きな口を持つ化け物だった。
「下だったか! ナイス、中国くん!」
 中島巡査部長が小刀を抜いて飛び降りてくる。
 ――び、びっくり箱を開けた気分だぜ

 


 

 流石は資料2係最強と言われる中島巡査部長だ。あっさりと巨大な口の化け物を倒してしまった。
「ふぅ。はい、これでどんな感じかわかったよね。じゃ、ここからは、一人でよろしく」
 カラン、と。俺の目の前に刀を投げられる。
 ――へ?

 

  to be continued……

 


 

2020/4/2

「これは?」
 目の前に投げ出された刀に困惑する。
「ニッカリ青江の写しの一つだよ。神秘としてはボチボチだけど、幽霊系にはよく効く。まぁ今回は意味ないけど」
「えっと、そうではなく……」
 なぜそれがここに投げ出されたのか、という事だ。

 


 

「そんなのこれから君の武器になるからに決まってるでしょ。このアパートのロアは君一人でよろしく! 期待してるよ!」
 言うが早いか、中島巡査部長は即座に車に乗り、走り去っていった。
 ――マジ?
 たっぷり10分呆然としたのち、恐る恐る刀を手に取る。

 


 

 ――マジ?
 何度考えてもそれ以外の感想が浮かばない。
 刀は使えるか使えないかで言えば、使えるとは思う。これでも剣道をやっていた。ただ、剣道と剣術は違う。まして実戦はもっと違うだろう。
 相手は礼なんてしてくれないし、一本取ったから終わりでもない。

 


 

 とはいえ、GH案件と呼ばれるそれは明確に人に仇をなすものだ。対処しない理由はない。
「やるしかないか。よろしく――」
 ニッカリ青江、と呼ぼうとして、これは写しだからそれは本歌の名前だと思い当たる。銘はないのだろうか
「ま、生きて帰れたら聞いてみるか」

 


 

 刀を抜く。見事な反りの美しい刀だ。日本刀は美術品としての価値から戦後、返却を勝ち取った言うエピソードがあるが、この美しさを見ると納得する。
 鞘にしまう。よく見ると、鞘に札が貼ってある。例の認識阻害、と言うやつか。
 改めて、次の扉をノックする。

 


 

「はぁい」
 よかった、女性の声だ。
 扉が開かれる。
 ――そうきたか
 そこにいたのは、ながーい首を持つ美女、いわゆるところのろくろ首、と呼ばれる妖怪のような女性だった。

 

  to be continued……

 


 

2020/4/3

 しばらく世間話をした事で分かったが、ここは妖怪アパートと呼ばれているらしい。
 エイプリルフールと妖怪の関係は分からないが、妖怪と言えばオカルト、GH案件と考えて良さそうだ。
 さて、では、全く無害そうなこのろくろ首を俺はどうすれば良いのだろうか。

 


 

 世間話をして分かったが、彼女には確固たる自我がある。
 自我がある存在をGH案件であるという理由だけで逮捕して良いのだろうか。
 それとも人間に害を成すGH案件のみを取り締まれば良いのだろうか。
 確認するのが一番早いが、既に説明済みだとクビがピンチだ

 


 

 そして、何がGH案件で何がGH案件でないかは、仕事の基本中の基本。まさか説明されてないとは思えない。
 こういう時はどちらの方がリスクが低いかを考えるんだ。
 ――逮捕してしまうと、不味かった場合言い訳が効かない。見逃した場合なら言い訳のやりようはある

 


 

 心は決まった。話をしてみて人畜無害そうなら逮捕はしないことにしよう。
「ご協力ありがとうございました」
 ろくろ首のお姉さんに頭を下げて、次の部屋に向かう。
 ノックをしても返事がない。
「このアパートの部屋には必ず誰かしらいるって話だったが」

 


 

 ドアノブを回してみると、どうやら鍵はかかっていないらしい。
「すみませーん」
 扉を開ける。
 誰もいない。
 いや、風呂場の方から水滴の落ちる音がする。
「入りますよー?」
 部屋に踏み入る。ワンルームの部屋だ。見渡していない以上、考えられるのは。

 


 

 風呂場に入る。ユニットバスだが、湯船にはお湯が張ってある。
「いない……?」
 出直すしかないか。湯船に背を向けた瞬間、突然、足を掴まれた。
「なんだ!?」
 ――湯船に、引きずり込まれる!?

 

  to be continued……

 


 

2020/04/04

 ――この湯船、こんな深かったか?
 完全に体が水の中に沈み、ようやく正気に戻った時に思ったのは、そんな言葉だった。
 ――まずい
 息が出来ない。
 腰に下げていた脇差、ニッカリ青江の写しを抜刀し、俺の足を掴んでいる腕(?)を斬り付ける。

 


 

 皺々の細い腕のクセして、刀の一撃で切り落とす事は出来ない。なんなんだこいつ。
 息が苦しい。
 ――このっ!
 水で勢いを殺されているのだと理解して、より全力で刀を振るが、その程度で水の外のような勢いが出るわけがない。

 


 

 脳が酸素を欲している。
 まずい、正常な判断力を失いかけている。
 そうだ、刀というのは引く事で相手を切断すると聞いた事がある。
 だったら。
 腕に刀を当てのこぎりの要領でギコギコと刀を引く。
 ――よし、刃が入った!

 


 

 痛みによってか、足が手放される。
「ぷはっ」
 急いで浮上し、息を吸い込む。
 肺にようやく新鮮な酸素が取り込まれる。しかし、安心はしていられない。
 すぐに足が掴まれ、また水中へと逆戻りさせられる。
 ――次は本体を叩く!

 


 

 もう動揺はない。むしろ引っ張られるのに従い、腕の根本に向かう。
 見えた。
 ――なるほど、手長婆ってやつか
 確か、関東地方や青森で有名な妖怪だった。
 俺も子供の頃はよく水場に近づかないように、と言われたものだ。まさか実在するとはな。

 


 

 とはいえ、これだけ大きいとは助かる。
 妖怪とて生物である以上、弱点はただ一つ。
 脳と極めて近い体の重要な一部、すなわち、目!
 もう片腕がこちらに伸びてくる。
 時間はないんだ、最短で行くぞ。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/06

 ドルフィンキックで一気に水中を進む。
 改めて思うが、これアパートのユニットバスのはずなんだよな……。
「食らえ!」
 その大きな目にニッカリ青江(の写し)を突き立てる。
 大きな目に刀が突き立てられる。が、刺さらない。

 


 

「なにっ!?」
 やけに抵抗が薄いと思ったが、そう言うことか。
 思いっきり力一杯押し込んでようやく、少しめり込んだ気がするくらいだ。
 アニメとかゲームで見るバリアーみたいなもんか? 
 くそ、酸素も残り少ない。どうしたら……

 


 

 ――これを貫く力が欲しいか?
 声が響いてくる。な、なんだ?
 ――なんだ、とはご挨拶だな。最初に私を求めたのはお前だろうに
 全く心当たりのない。だいたい「私を求めた」ってなんだ、誰か人を欲した事なんてほぼないぞ。

 


 

 ――ええい、そんなに言うなら説明してやるわ、よいか、私はな!
 まずい、酸素が切れる。もう一度、婆の腕を切断して水上に戻ろう。
「ぷはっ」
 そして、引っ張られる。それに乗って一気に顔の前まで戻る。
 ――というわけだ。分かったか?
 聞いてなかった。

 


 

 ――こいつ、言うに事欠いて、聞いておらなんだだと!?
 そんな事言われても酸欠の危機だったし、長話は聞き逃してしまう癖なんだから仕方ないだろうに。
 ――なんてことだ。私はとんでもないやつを次の依代にしようとしていたのかもしれん……

 


 

 ――なら良いわ、直球で尋ねよう。あの妖の目を貫きたいだろう、倒したいだろう
 それは、そうだ。
 あの妖怪は倒したい。当然、水の中に引き込み窒息させる妖怪。もし万一外に出ようものなら、何人の人間が犠牲になることか。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/07

 ――そうじゃろう! なら唱えよ! 我の名前を!
 な、名前? こいつの名前? やべ、話聞いてなかったから分からねぇ。
 ――そうじゃったぁぁぁぁ。もうええわい、契約無しで力を貸してやるが、それが終わったらお前とはおさらばじゃ。イ・ラン・カラプ・テ!

 


 

 なんか一方的に見限られた。
 と、俺のニッカリ青江の写しが黒と紫の中間のようなオーラを纏い始める。
 なるほど、力を貸すってそういうことか。
 でも本当に誰だ? 資料2係以外でそんなオカルトな縁に心当たりはないんだが。
 ――ええからはよ終わらせんかい

 


 

 まずは脚を掴んでいる腕に刀を振るう。
 腕が両断されて、手長婆が暴れ始める。
 すごい! まるで水の外みたいに刀を触れるし、あんなに固かった腕も切断出来た!
 ――そうだろうそうだろう。ラマンテを続けよ
 意味は分からないが、こいつもご機嫌らしい。

 


 

 じゃ、反撃タイムだ!
 ドルフィンキックで顔に近づく。
 もう片腕をこちらに差し向けてくる。
 ――邪魔だ!
 しかし、この謎の力を纏ったこの刀にかかれば、もはや紙同然の守りに過ぎない。
 さらに無数の腕が伸びてくる。流石妖怪。

 


 

 ――エネルギーを拡散させてまとめて吹き飛ばそう、タイミングを合わせるぞ
 よく分からんが、分かった!
 刀を振りかぶると、刀を纏うオーラが膨らむ。
 いくぞ!
 ――カムイノミ!
 刀を振ると同時、刀のオーラが広く拡散し、全ての腕を一つ残らず両断した。

 


 

 お、なら、今のもう1発やれば、あいつたおせるだろ?
 ――エネルギー切れじゃ、普通に殴れ
 そううまくはいかないか。
 ドルフィンキックで一気に接近し、その大きな目に刀を突き立てる。
 そのまま出鱈目に刀を振り回す。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/08

 妖怪・手長婆の巨大な顔をバラバラにした。
 なんとなく決めポーズなんて決めてみたりする。
 と、水位が腰までに変化した。湯船が普通のユニットバスに戻ったのだ。
「よし、お前の名前は今日から、夜霧よぎりだな」
 ニッカリ青江の写しに声をかける。

 


 

 ――あのカムイは私の力なのじゃが、まぁよいか。スイ・ウヌカラン・ロー
 何語だ。
 まぁいいや、じゃ、次だな。
 101号はなんかデカい口のやつ、102号はろくろ首、103号は手長婆。
 あと、105号と106号を見たら一回は終わりだな。
 103号を出て、隣の扉を見る

 


 

 103号、その隣の部屋はもちろん――

 


 

 1 0 4 号

 


 

 あ、そういうパターンですか。
 そうですか。
 普通、この手の建物には4号室がない。死を連想させて不吉だからだ。
 それがある。
 どう考えても厄ネタだ。さっきの手長婆を大幅に超える厄介さが確定している。

 


 

「ええい、ままよっ!」
 気合を入れて扉を開ける。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/09

「赤い部屋はお好きですか?」
 部屋に入った瞬間、五感の全てが失われた。
 東京都内らしいありとあらゆる雑音が消え、最高気温16.2度、最低気温6.1度な肌で感じる気温が消え。
 今ではすっかり慣れた東京特有の匂いも消え。
 そして視界は見渡す限り真っ赤だ。

 


 

「赤い部屋はお好きですか?」
 前提を確認させてほしい。ここは東京都内のアパートのはずだ。
 妖怪アパートと呼ばれていようが、妖怪が実際に住んでいようが、ここがアパートである事実は変わらないはずだ。
 事実、過去の3部屋は部屋の構造はちゃんとしていた

 


 

「赤い部屋はお好きですか?」
 もう一つ突っ込ませてほしい。
 そもそもこれは部屋ではないだろう。
 見渡す限り赤、そして足が地面についているわけでない。
 振り向いても扉もない。
 これまでのように明確な妖怪の敵がいるわけでもない。

 


 

「赤い部屋はお好きですか?」
 他に何か気にするべきところ、気にするべきところ。
 足がつかないって正直不安すぎる。
 いや、それとも足は地面についているのだろうか? 感覚が死んでるだけ?
 もしかして俺の頭がガチでおかしくなったってことはないよな?

 


 

「赤い部屋はお好きですか?」
 ええい、うるさいな。
 聞こえてるよ。いくら話を聞かない俺でもこんなワンセンテンスの言葉を聞き逃すわけないだろ。
 でもな、俺はこの都市伝説を、元ネタのFLASHまで込みで知ってるんだよ。

 


 

「赤い部屋はお好きですか?」
 このポップアップを消したら死ぬんだろ?
 知ってるんだよ。だから放置してたらなんとかならないかなって思ってたんだよ。
 ならないみたいだ。
 なら、やるしかないか。消したら元凶が出てくると信じて!

 

  to be continued……

 


 

2020/04/11

「それでは赤い部屋にいたしましょう」
 ザックリと背中が切り裂かれる。
「――――!」
 叫び声が声にならなかった。
 おい、これ、「あかいちゃんちゃんこ」とごっちゃになってるだろ!
 赤しかあってない。いや、どうせ死ぬって結果は同じだけどよ、畜生。

 


 

 だが、つまり敵は後ろにいる!
 痛みのおかげが体が動くようになったのを幸いと、腰に下げたニッカリ青江の写し「夜霧」を抜刀し、振り向きながら振るう。
「あら、赤い部屋はお気に召しませんでしたか。なら、青い部屋にいたしましょうか?」

 


 

 そのノリはどっちかというと『注文の多い料理店』だし、青い部屋ってなんだよ。
 だいたいこの手の青って血を抜かれまくって体が青くなるって奴だろ。どうやって部屋を青くするんだよ。
 背中の焼けるような痛みを誤魔化すように突っこみまくる。

 


 

 しかし、刀は空を切るばかりで、まったく手応えがない。
「くそ、どこだ」
 背中の痛みに耐えながら、周囲を見渡す。しかし、一面赤いその空間に、何かが見えることもない。
 このままだと失血して死ぬ。そもそも倒せたとしても間に合うのか分かんねーけど。

 


 

「畜生、なんて職場だ。辞めてやる!!」
 そう叫んだ直後、一面赤い空間を、白い光が侵食し始めた。
 瞬く間に赤い空間全てを覆った白い光は、やがて、粉末のように弾けて、気がつくとそこはアパートの外だった。

 


 

「あんた、は?」
 そして、桜吹雪のように吹き荒れる白い光の粉の中心には、長い黒髪を讃える、太刀サイズの刀を振り下ろした女性が一人。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/13

「私は如月アンジェ。討魔師です。あなたは? 認識阻害の札を持っているということは、被害者という風ではないですが」
「お、俺は警視庁刑事部刑事総務課資料2係の中国キカナイ巡査だ」
 どうせまた、なぜ資料課が? とか聞かれるんだろうな、と思いながら答える

 


 

「あぁ。対霊害捜査班の。討魔組一同、皆さんの捜査のお世話になっています」
 ペコリとお辞儀をする。
 対レイガイ捜査班? そんな別名があるんだろうか。
 レイガイって言葉は初めて聞くが、確かにオカルトのような例外的な事件を捜査している。

 


 

「あぁ。今年の3月に入ったんだ。よろしく」
「こちらこそ。なるほど、マモルさんが今回顔合わせをしておいて欲しいと言っていたのはキカナイさんのことだったんですね」
 顔合わせのためだったのか。話を聞いてなかったから知らなかった。

 


 

「ちなみに、その刀の銘はなんて言うんです?」
「あぁ。夜霧だ。ニッカリ青江の写しらしい。そっちは?」
「えぇ、これは如月一ツ太刀きさらぎひとつのたち。我ら如月家に代々伝わる当主の証です」
 刀を抜き見せてくる。柄のデザインが特徴的だ。

 


 

 しかし当主の証と来たか。まだ大学生くらいだろうに大したものだ。
「さて。ここからは私も共に戦いましょう」
 アンジェさんが納刀し、そのまま歩き始める。
「どこまで終わりました?」
「ええっと101号室から104号室までです」

 


 

「なるほど。悪くないペースですね。では、続いて105号室、行きましょうか」
 アンジェさんはドアの向こうの様子をドアに耳を当てて確認し、ノックする。
「警察です。お話伺わせてもらえないでしょうか」
 いや、警察は俺だ。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/14

「け、警察! あ、あたしゃ、何にもあやしかないですよ」
 そうして現れたのはひたすら小豆をショキショキと洗う爺さん(?)だった。
「……これは、妖怪・小豆洗い、と言うやつですか」
 アンジェさんがそれをマジマジと見つめ。
「霊害ではない。行きましょう」

 


 

 お礼を言って106号室の扉の前に向かって歩き出した。
 やはり、妖怪の中でも人に害をなさないタイプの場合は倒さなくてもいいようだ。
 いや、それとも警察である私は拘束するべきなんだろうか?
 考えてみたらアンジェさんも銃刀法に違反しているのでは?

 


 

「そ、そういえばアンジェさんの如月一ツ太刀って、刃渡りすごいですよね。銃砲刀剣類所持等取締法に抵触するのでは?」
「は?」
 想定外の質問を受けた、と言う顔でアンジェさんが振り向く。
「まず、私の事は呼び捨てで構いません、そちらが、年上ですから」

 


 

「そして、この刀は刃長二尺六寸五分。銃刀法に違反してると言えますね」
 刃長二尺六寸五分、だいたい80cmくらいか。
 第22条の「内閣府令で定めるところにより計った刃体の長さが6センチメートルをこえる刃物を携帯してはならない」に違反していると言える。

 


 

「22条には同じくこうあるはずです。「業務その他正当な理由による場合を除いては」、と。私達は討魔師の仕事のため、刀を携行しています。というかこの辺の法理は、私達が誤認逮捕された場合に備えて対霊害捜査班の皆さんが理解しておくべき事項だったはずですが」

 


 

 うん、きっと聞いてなかったんだろうな! えっと、どうごまかそうか。
「まぁ、新人という事ですし、まだ覚え切れてないところもあるのだろうとは思いますが。よろしく頼みますよ、私達討魔組は皆さんの支援あってこそでもありますからね」

 

  to be continued……

 


 

2020/04/15

「扉は開いたのに誰もいない……」
 ホラーとしては珍しい事ではないとはいえ、勘弁してくれ、という言葉が喉元まで出かける。
「部屋に入るのは警察からの方が望ましいでしょうね」
 アンジェがこちらに視線を向ける。はいはい分かったよ。

 


 

「警察です! 入りますよ!」
 玄関を潜ろうとした。が、何かにぶつかった。
「なんだこれ! ここになにか壁があるぞ」
 ペタペタと触る。パントマイムのようにそこに壁がある。
「! キカナイ、下がって!」
 アンジェが俺の襟首を掴んで後ろに放り投げる。

 


 

 アンジェはそのまま俺と玄関の間に割り込み、太刀を抜刀する。
 明らかに何もない空中に向けて振るわれたその太刀は空中に存在するらしい何かと拮抗し、火花を散らす。
「な、何かいるのか」
「えぇ、そして今、全体重をかけて倒れてきている」

 


 

「な、なんだそりゃあ……」
「おそらくは、ぬりかべ、かと」
 ぬりかべ、夜道を塞ぐっていうアレか。漫画で有名だが、九州辺りの伝承だったか
「伝承によっては見えないという話もあるが、それが正しいのか」
「所詮ロアですから正しいってこともないと思いますが」

 


 

「どうするんだ?」
 巨大な壁が倒れてきている。アンジェさんは大した力持ちらしいが、正直抑えていられるのにも限界があるだろう。
「そうですね、奥の手を使いますか」
「あ、そうか!」
 アンジェさんが何か言ったようだが、その前に思いついた。

 


 

「これで、どうだ!」
 夜霧を鞘に入れたまま、ぬりかべがいるらしい位置の地面すれすれを水平に振るう。
「! 抵抗が消えた! 今なら!」
 アンジェさんが目にも止まらぬ連続突きを披露する。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/16

 バタン、何かが倒れた音がする。なにもない場所を白い光の粒子が覆ってい、散っていく。
「これは?」
 これまでには見たことがない。が、赤い部屋を破壊したものと同じだ。
「私の血の力です。まぁ弱ったロアにとどめを刺せるくらいに思ってください」

 


 

 血の力、よくわからない言葉だが、まぁ説明済みの気がするので触れないでおこう。
「そんなことより、先程の足払いは見事でした。アレは一体?」
「あぁ、ぬりかべの伝承だよ。目の前に壁が立ち塞がる。どこまで迂回しても壁だが、下の方を棒で払う時いなくなる」

 


 

「なるほど。妖怪の伝承に詳しいのですね」
「詳しいってほどじゃないさ。ただ、中学の頃からオカルトが好きでね、高校大学の時はオカルト研に入ってた」
「ほう、なるほど。そういうことですか」
 何か訳知り顔で頷くアンジェ。

 


 

「さて、そろそろ12時ですし、一度解散してお昼にしましょうか」
 なに、出勤してすぐにここに連れてこられたから……、3時間半かけてようやくこのアパートの半分の問題を対象し終えたってことか。
 少しゲンナリする。

 


 

「13時ごろにここに集合としましょう、構いませんね?」
 アンジェがさっさと決める
「あぁ。しっかりしてるな」
「これでも討魔組をまとめる立場にいますので、それなりには。まだまだ未熟ですが」
 思ったより凄い立場の人だった。少し気まずく思いながら街に出る

 


 

「そういえば、結局年号はどうなったんだろう」
 スマートフォンを取り出し、中継を見るとタイミングバッチリだった。
「新年号は……『令和』であります」
 官房長官が年号を公開する。
 令和、か。当然のように俺の予想は当たっていなかった

 

  to be continued……

 


 

2020/04/17

「おりゃ!」
 目の前のヤモリ野郎に刀を一閃する、次の瞬間、それが無数の攻撃となって帰ってくる。
「うわぁっ!? このっ」
 くそう。アンジェの戻りが遅いから、201号室を覗くだけ覗いてみるか、なんて考えたのが間違いだった。

 


 

 アンジェさんの助けが欲しいが、なにせ場所は室内のバスルーム内部。
 アンジェの太刀では振るうのも困難だろう。
 無数の小さな武士の姿をしたヤモリ、それがいま目の前に立ち塞がる怪異であった。

 


 

「冗談だろ。剣道でこんな多数の相手と戦ったことはないぞ」
 ってか倒していいのか。伝承通りなら弔わないといけないんじゃ……。
 そういえば、夕島巡査は神道のお経みたいなのを唱えてたな。
「えーっと、な、なむあみだー、なむあみだー、なむあみだー」

 


 

「死後救済のための名号で成仏はしないと思いますが……」
 誰かが後ろから突っ込む。そうか、それもそうだ。
「ぶっせつ、まかーはんにゃーはーらーみーたーしんぎょー。 かんじーざいぼーざーぎょーじんはんにゃーはーらーみーたーじー」

 


 

「いえ、般若心経なら良いというものではなく。というか、私はこいつらが何者なのか分かってないので、良ければ説明してください」
 振り向いたら、アンジェが来ていた
「あ? 守宮いもりだよ。ヤモリなのに守宮やもりと書いてイモリって呼ぶ変なやつ」

 


 

「初めて聞きました。しかし、守宮やもり、ですか」
 なぜか少し声のトーンが低くなった気がする。
「どうかしたか?」
「いえ、少し昔の事を思い出しただけです。もう心配無用です。助太刀しましょう」

 

  to be continued……

 


 

2020/04/18

「おい、その大太刀をバスルームで振るうつもりか?」
 どう考えても壁にめり込む。
「えぇ、まぁ対策はいくらでもあるんですけど、ここはキカナイさんの実力を見せていただきましょうか」
 そう言ってアンジェは左手の甲に右手を添える。

 


 

 そのまま、こちらに左手を向ける。
「あなたに太陽の加護を」
 左手の甲に刻まれた模様が光り、俺の刀に向けて飛んでくる。
「な、これは?」
「ただの北欧刻印、ルーンですよ。私の友人のメイガスに刻んでもらったものです」

 


 

 メイガス。メディア王国の司祭の名前であるマギの英語読みだ。後にキリスト教におけるマタイ福音書による東方の三博士の事をマギと呼ぶ事も多い。
 そして、マギはその後魔術や手品を流石マジックの語源となった。
 要は恐らく魔術師のことなのだろう。

 


 

 そして、その効果は絶大であった。
 赤く赤熱したように輝く刀はその一刀の元に守宮どもを焼き切った。
「ず、随分強烈だな」
「使用者の望む力を引き出すルーンのはずですから、あなたが守宮に有効なのは炎だと感じたのでしょうね」

 


 

 それは少ししっくりこない説明だな。
 守宮に特別炎が有効だという意識はない。確かに生物は生物である以上、ほとんどの場合、炎に弱いだろうとは思うが。
「首を傾げてるようですが。まぁ良いでしょう。なんとなく、マモルさんの考えも分かってきました」

 


 

 マモルさんの考え。
 少し前にもその言葉が出てきた。
 資料2係。GH案件と呼ばれる特殊すぎる事案に当たるほぼ実質、警察の秘密部門だ。
 何の理由もなくそんなところに配属されることはないだろうとは思っていた。何か理由があるのか。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/20

 202号室。
「すみませーん、警察です。今お時間少し宜しいでしょうか?」
 返事がないので扉を開ける。
 巨大な黒い蜘蛛が明らかに人間と思われるものをムシャムシャと食べている。
 どうやら、お時間は少し宜しくなかったようだ。

 


 

 こちらを向く。
「土蜘蛛か?」
「土蜘蛛? いえ、土蜘蛛は……。あぁ、いや、こいつはロアでしたね」
 アンジェが何かかぶりを振る。
「どうやら、魔性ですら無い様です。さっさと討滅しましょう」
 アンジェが霞の構えを取り、見事な突きを披露する。

 


 

 しかし、小声で聞こえた神性は感じないってなんだろう?
 あれか、土蜘蛛は出雲から……。
「何しているんです、新入りさん、あなたを休ませる道理はありませんよ」
 そうだろうな。夜霧を抜いてアンジェと土蜘蛛が回避しあっているところに横から攻撃を仕掛ける

 


 

 ふと目に入って死体を見る。
「こりゃひでぇ、内臓がないぞうって感じだ。生きてないだろうし、生きてても助かる術はねぇ」
「よそ見をしない!」
 アンジェの警告に敵に向き直ると、敵がこちらに対し前半身を持ち上げ脚と重量で攻撃を仕掛けんとしていた。

 


 

「やべっ」
 慌てて後ろに飛ぶ。
「蜘蛛の威嚇って可愛いもんだと思ってたけど、流石に身の丈1m以上となると怖いな。いや、1mなんてもんじゃ無いよな、あれ。俺よりデカいんだけど」
「参考までに身長は如何程で?」
「170はあるぞ」
「ならあれは200くらいですか」

 


 

「あんた、ビビらないのか?」
「これでもプロなので。それに、身の丈1mの蜘蛛とは昔よく戦いましたので」
 この世界ってそんな土蜘蛛で溢れてんの? 
 大和朝廷の威信は大丈夫なんだろうか。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/21

「私があの口を受け止めましょう。攻撃をお願いします」
 そういうと同時、アンジェが太刀で重量を乗せた噛みつき攻撃を受け止める。
「いくぞ、夜霧!」
 こちらを払おうとする足を輪切りにして、胴体に脇差を突き刺す。

 


 

「くっ」
 土蜘蛛は後ろに大きく飛び下がる。って、脚が再生した?
「とんだ自己再生能力だな」
「えぇ、少し厄介ですね。まさか、アパートが広がるとは」
 言われて気付く。さっきまでこいつだけでギチギチのリビングで戦闘してたはずだ。跳び下がれるわけがない

 


 

「なんだそりゃ、インチキすぎるだろ」
「101号室もそうでしたが、この建物自体がロアになっているようですね」
 今更だが分かった。ロアってあれか、「信じようと、信じまいと――」って奴か。ロアが現実化するってのは本当だったんだな。

 


 

「どうする?」
「あなたが撹乱を、私が力を溜めて、一刀の元に終わらせます」
 なるほど。自己再生野郎には一撃必殺。スマートな解決策だ。
「自信はないが、やってみるよ」
 脇差を構え、土蜘蛛に突撃する。

 


 

 アンジェは刀を霞に構え、目を瞑る。精神統一の一種だろうか。刀にあの白い光の粉が集まっていく。
「さぁ、こっちだ!」
 動き自体はワンパターンだ。噛みつきを誘発させて、回避する。なんだか、魔物を狩るゲームみたいだな。

 


 


 

「決めます。無明剣!!! 三段突きぃ!!!」
 剣道で攻撃する部位を叫ぶように、目にも止まらぬ速さで、白い塊が敵を砕き、そして、アンジェ本人の刀がさらにそこに加わる。都合六撃。
 それは、土蜘蛛を完全に無力化した。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/22

「たいした腕だよな。ひたすら実戦で鍛えたのか?」
「えぇ。アオイさんから学んだことも多いですが」
「アオイさん?」
「あ、まだご存知なかったんですね。中島アオイ。マモルさんの娘さんですよ。当時は私と同じ高校生でした」

 


 

 中島家がこのGH案件関係の大御所らしいことは聞いていたが、娘さんもなのか。
「って、高校生? 高校生の頃からこんなことを?」
「えぇ。討魔組の家の者なら、珍しくもないですよ」
 オカルトってのは古臭い風習とセットだったりするが現実も例外ではないらしい

 


 

「そりゃ災難だな。そんな家に生まれてしまったばかりに」
「そうですね。私も一度は討魔師を継ぐことを拒否しましたし」
「それでも結局こうして討魔師をやってる。親の指示には逆らえなかったって感じか?」
「いえ。その直後に父が亡くなってしまって」

 


 

 思ったより壮絶な話になってしまった。これは話を切り替えたほうがいいかもしれない。
「あー、ちなみに討魔組ってのは?」
「簡単に言うと討魔師をまとめ上げている組織ですね、協同組合とかの方が適切でしょうか、農協のような」

 


 

「なるほど。GH案件保険とかあるのか?」
 ちなみに警察では危険手当がついていた。
「そう言うのはないですが。霊害の情報や宮内庁からの情報を集めて討魔師に仕事を振り分けたり、宮内庁への討伐連絡等の報酬受け取りの仲介をしたり、と言った感じですね」

 


 

「どっちかというとファンタジーな世界の冒険者ギルドみたいな感じか」
 しかし、イペタムを宮内庁に引き渡した時からそんな気はしてたが、日本のオカルト系取締の総本山は宮内庁なんだな。
「そろそろいいでしょう、次に向かいますよ」

 

  to be continued……

 


 

2020/04/23

「警察です、少しお話を伺えませんか?」
 203号室の扉をノックする。
 返事がない。
 アンジェと頷き合い扉を開ける。
 直後、顔の付いた燃える車輪が転がり出てくる。
「畜生、輪入道だ! 魂を抜かれるぞ」
「その前に討つまでです」

 


 

 言うが早いか、アンジェが太刀を振るうが輪入道は華麗なステップでこれを回避し、その場で回転し、炎を飛ばしてくる。
「うおっ!」
「くっ、私の後ろに!」
 アンジェが刀を両手で横に向けて前に突き出すと、白い光の粉が壁を形成し、炎を打ち消す。

 


 

 輪入道はその様子を見届けると同時、高速でアパートから走り去った。
「な、逃げた!? 拡散すると不味い。キカナイ、急いで対霊外捜査班に連絡を」
 その様子を見てアンジェさんが慌てたようにこちらを向きく。
 が、なぜだろう、声がボヤけてよく聞こえない。

 


 

「キカナイさん? どうしました?」
 俺の異常を察したのか、アンジェさんが駆け寄ってくる。
 しかし不味い。どうにも立っていられない。視界もぼやけている。
「くっ。なんらかの精神攻撃? ……仕方ないか。ヒナタ! ヒナタ! どこかで見ているんでしょう」

 


 

 アンジェさんが慌てたように空中に向けて叫んでいる。
 
 ダメだ。

 意識が

 これ以上、続かない。

 


 

 ボヤけた視界の中でアンジェさんのすぐ横に白い誰かの姿が見えた気がした。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/24

「ここ、は?」
「あ、気がついた?」
 白い画面をつけた女性がこちらを覗き込んでいた。
 これ、知らない天井、って奴だな。とぼーっと考える。
「気がついたみたいですね。ここまでの状況を確認させてもらいます」
 アンジェがやってきて説明を始める。

 


 

「ここ、は?」
「あ、気がついた?」
 白い画面をつけた女性がこちらを覗き込んでいた。
 これ、知らない天井、って奴だな。とぼーっと考える。
「気がついたみたいですね。ここまでの状況を確認させてもらいます」
 アンジェがやってきて説明を始める。

 


 

 そんなことより、この仮面の女性、なんだか不思議だ。輪郭が安定しないというのか、実在感がないというのか。
「要するに、このままではあなたは死ぬ、ということです」
「なんだってぇぇ!!」
 話を聞いてなかったが、危機的状況なことは理解できた。

 


 

「まぁまぁ、なんとかなるよ。とりあえず自己紹介するね。私は英国の魔女。アンジェの協力者の魔術師だよ」
「英国の魔女? えっと、名前は?」
「呪いとかの対策のために真名は伏せるってことで、理解して欲しいけど、どう?」
 なるほど。理解したので頷く。

 


 

「ん。ありがと。ともかく君の魂が完全に輪入道に奪われる前にあいつを倒さないとね」
 なるほど、魂を奪われてしまってるのか、俺は。
「しかし、奴は走り去ってしまいました。普通には追いつけません。…………フブキに電話してきます」
 アンジェが退室する。

 


 

「フブキって言うのは?」
「真柄家の討魔師です。バイクで走りながら大太刀を振るう独特な戦い方をする討魔師ですよ」
 真柄家の大太刀、って、まさか太郎太刀か。戦国時代からずっと続く家柄なのだろうか。
「ダメでした。彼女は今別件対処中です。残念ですが」

 


 

「随分残念そうだな」
「フブキは私がとても大変だった時にも力になってくれた頼りになる討魔師ですから」
「私とカラも助けたじゃん」
「討魔師なのに私を信じてくれた、と言う点が大きいので」
 なんの話か分からない。が、足の確保に失敗したってことだよな

 

  to be continued……

 


 

2020/04/25

「コホン。まぁ、フブキに助けを借りる場合と同じことを考えればいいのです。要は、高速で移動出来て、刀も震えればいい。即ち、これです」
 英国の魔女が目にも止まらぬ速さで空中に何かを刻み、それが出現する。
「ヒヒーン、ブルル!!!」
 馬だった。

 


 

「なるほど。合理的です」
 合理的か?
「太刀持ちの私が刀を振るう方がいいでしょうね。中国巡査」
「いや、俺ただの警察官だぞ。馬なんて乗れないよ」
「マモルさんは教わったと聞きましたが」
「あの人は皇宮警察からの出向だから、あっちが特別なんだよ」

 


 

「なるほど。それは知りませんでした」
 まぁ知らない人からしたらわからん話だよな。
「ではやむを得ませんね。私が馬を操りますから……」
 アンジェが太刀を投げ渡してくる。
「うまく使って下さい」

 


 

「いや、これ父親の形見なんだろ? そんなもの……」
 馬に飛び乗るアンジェの背中に声をかける。この太刀はそんな簡単に受け取れるものじゃない。
「えぇ。だからくれぐれも大事に扱って下さいね。猶予はありません、乗って」
 しかし、アンジェはドライだ。

 


 

 仕方ない。もらった鞘を腰に固定し、鞘走らないように気をつけながら馬に飛び乗る。
「私の腰に手を回して下さい。追いつくまでは飛ばしますよ!」
 直後、アンジェが馬の腹を蹴り、馬が一気に走り出す。

 


 

「うおっ!」
 凄い慣性がかかり、体が後ろに飛ばされそうになる。
「くっ」
 慌てて半ばしがみつくようにアンジェの腰に手を回す。

「見えてきました!」

 

  to be continued……

 


 

2020/04/27

 アンジェの声に導かれて先を見る。
「上です!」
 見えた。何が楽しいんだか、首都高を爆走している。
「やるしかないようですね」
 やるしかない? それはどういう。
 次の瞬間、アンジェは進路変更しすぐ真横の立体駐車場を登り始める。
「待て、まさか!」

 


 

「他に手はないでしょう!」
 立体駐車場の屋上。そのまま淵に向けてアンジェはさらに拍車をかける。
「いきますよっ!」
「ひぇぇぇぇぇ」
 馬が大きく飛び上がる。なんでジャンプ力だ。英国の魔女が呼び出しただけあってこいつも普通の馬じゃないんだなぁ。

 


 

 首都高に着地する。
「キカナイ、首都高を封鎖させなさい」
 どんな理由で封鎖させるっていうんだ。
 とは言い返せず、ポケットから携帯電話を取り出す。
「はいはい、マ……」
「首都高を封鎖してください!」
 片手だけなの怖い。早く終わらせたい。

 


 

「単刀直入だなぁ。井石警部補に頼んどくよ。頑張って」
 話が早くて助かる。
「見えてきましたよ。相手の左側に着きます。右手で刀を」
「了解」
 ついにやる時が来たか。
 アンジェから預かった太刀を抜刀する。80cmある刃長。握ってみると長さを実感する。

 


 

「一気に接近します。決めてください。ハイッ!」
 アンジェが舌鼓ぜっこと拍車で馬をさらに加速させる。
 こちらは片手でアンジェに捕まってる状態なのでかなり怖い。しかももう片手には80cmの太刀なもんでバランスが悪い。
 しかし、怯えてばかりもいられない

 


 

「でやぁ!」
 ぐんぐん近く輪入道に刀をぶつける。
「くっ」
 直前、輪入道がこちらにタックルを試み、アンジェは輪入道から距離を離す。
「おい、距離を離されたらあてられない」
「わかってます。次行きますよ!」

 

  to be continued……

 


 

2020/04/29

 首都高。多くの車両が行き交うそこを走行する車ではない何か。
 中央に顔のついた車輪、そして、タンデムで走る馬。
 いや、厳密には馬は軽車両には分類されるが。
 そんな馬に乗る俺とアンジェは顔のついた車輪こと輪入道を追っている。

 


 

「あいつ、なんか早くなってないか?」
 気のせいとは思えない、明らかに輪入道から距離が離されている。
「どちらかというと、こっちが疲れてきているようです」
 そりゃあんなに拍車かけてたらへばるか。
「どうする?」
「こうします」

 


 

 アンジェが片手を輪入道に向け、白い光弾を放つ
 ヒットした輪入道はそれに押されるように横向きにスリップする。そんな事できたのか
「今です。一気にすれ違いますから。一思いに。これが最後です。ヘヤッ!」
 それはこの馬の最後の無茶、という意味だろう

 


 

「こいつで。終わりだ!」
 相手は停止している。高速で駆ける馬の運動エネルギーが乗るように、こちらから振るのではなく当てるように、ぶつける。
 手応えアリ。
「今度こそ、討滅ですね」
 その言葉をきっかけにか、立ちくらみのように意識が薄れる。

 


 

「な、なんだ今のは」
「魂を奪われたことによる意識の喪失でしょうね」
「おいおい、輪入道は倒したろ?」
「えっと、倒してもすぐには魂は戻らない。だから今日は輪入道を倒したら帰宅して休みを取るべきだ、と、説明しましたよね?」
 聞いてなかったな、それは

 


 

「すまん。忘れてた。そして、もう限界らしい」
 目を開けているのでやっとだ。
「構いません。寝ていて下さい。わたしがあなたの家のベッドで寝かせて置きます」
 中島さんから聞いたのだろうか。そんなことを考えながら俺の意識は闇に落ちた。

 

  to be continued……

 


 

2020/04/30

「はっ!」
 目を覚ます。困った。知らない天井だ。
 俺は家に送られたはずじゃ……。
「あ、おはようございます」
 そこにいたのは、山本班の小嶋巡査だ。交番勤務だったが、霊害を目の当たりにしたことをきっかけに勧誘を受けて資料2係に入ったらしい。

 


 

「小嶋巡査!? えっと、俺……私は家で寝てたはずじゃ……」
「えぇ……。その予定だったんですが、その、こちらの想定を大きく上回る期間寝ていまして」
「上回るって言っても……、えと、今日は何日ですか、小嶋巡査」
 嫌な予感がした。

 


 

「はい。ええっとですね」
 小嶋巡査が交番勤務時代も地域の人々に好まれたという人当たりの良い笑顔を少し崩す。嫌な予感が膨らむ。
「4月、30日です」
「なん、とぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「あ、病院なんでお静かにお願いします」

 


 

 病院か。病院ね。
 そりゃ30日も眠りこけてたら病院行きだわ。
「なるほど、点滴で栄養とかね」
「はい。すぐに動けるように、廃用症候群対策の筋肉刺激マッサージなどをしてもらったりなど」
 なかなかサービス満点なようだ。

 


 

「えっと、どう説明されてるんだ?」
「病院の中にいる"裏"側の人間に任せてあります。表向き、この病室は認識阻害で存在しません」
 "裏"とはつまりオカルトな世界のことが。すごいな
「仕事には毎日行っていることになっています。給料もちゃんと支払われます」

 


 

「そりゃよかった」
 正直一番の不安要素だ。
「それから、30日間も寝たきりになってしまった理由について、重要な話があるから、退院したら翌日は必ず資料2係に出頭してくれ、と中島巡査部長が」
「分かった」
「では、また明日」

 

  to be continued……

 


 

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