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聞き逃して資料課 イペタム編2

 
 

 

2020/07/27

 

「それで灰色の男達の目的はなんなんです?」
 7月27日、仕事がひと段落するので中島巡査部長から話を聞けることになった。
「まだ確実な事はなんとも言えない。一つ確かなのは、神秘を暴露しようとしてるらしい、ということくらいか」

 


 

「神秘の暴露。つまり、隠されたものオカルトを白日の元に晒そう、と言うことですか? 確かに大した混乱になりそうですが……」
 それは果たして悪いことなのか?
「ピンと来ないようだね、中国巡査。だが、神秘にとって、暴露は致命傷になりうるのさ」

 


 

「中国巡査、もし、テレビの手品ショーで本物の魔術が使われたとして、君はそれを信じるかい?」
「いえ、タネが何か、考えるでしょうね。どれだけマジシャンが魔術だと主張しても」
「あぁ、そうだろう。そしてそれは手品ショーでなくてもそうだ、と思わないか?」

 


 

「手品ショーじゃ、なくても……」
「例えば何かのバラエティ番組のロケの途中、動く死体がロケチームを襲撃、討魔師がそれを守る。なんて映像が映ったら?」
 それは……どうだろう。いや、
「仕込みだと思うでしょうね。意味は分からないけど。本物とは思わない」

 


 

「そう。ところで、ロアやこの前の魔術の件で君はほぼ理解していたようだけど、神秘と言うのはこの認知が大幅に関わってくる。つまり……」
「大衆が魔術を手品だと認識すれば、その魔術は失われる!?」
 SF系の話では時折見受けられる話だ。

 


 

「あぁ。これまでの経緯を総合すると、そうなる可能性が高い。つまりだね、灰色の男達が最終的に成し遂げたい事は」
「神秘の根絶。そう言うこと、なんですね」
「あぁ、僕らはそう考えている」

 


 

「ならやはり、安曇を保護した目的は安曇にテレビに出てもらうとか?」
 灰色の男達の目的を考察してみる。
「いや、安曇は神秘を扱う事を楽しむ愉快犯だ。神秘根絶に手を貸すとは思えない」
「なるほど。ということは手を組むという可能性もない?」

 


 

「だろうね。自分は神秘根絶の対象にならないという確証があれば別だが……」
「うーん、俺には分かりませんが、じゃあもしあるとしたら、どうでしょう?」
「確かに、灰色の男達は僕らより深い知識を持っている。何かを知っている可能性もないとは言えない」

 


 

 そこが奴らの厄介なところだな。
 概ねアンチって奴は否定するものの事を良くは知らない。だから真っ当にやりあえさえすれば、勝ち目はある。
 ところが、中には否定する対象を詳しく調べ上げる見上げたアンチもいる。こいつは厄介だ。

 


 

 なにせ、知識は互角、あるいは否定のために肯定的な人間以上に調べ上げていることすらある。
 こうなると勝ち目は極めて薄い。逆にこっちが搦手に回ることになる。
 灰色の男達は後者だ。奴らが隠れ潜むのは弱いからではない。認識間違いに気をつけないとな。

 


 

「だが、安曇がテレビに出たがるとは思えない。顔が世界中に割れたら、何かする前に逃げられるかもしれないしな」
「なるほど。なら、そこまで直接的な暴露はしてこない?」
「恐らくね」
「だとすると、後は直接手を結んでいるのか、泳がせているのか、ですね」

 


 

しかし妙だな。そもそも暴露したいならいくらでも自前の魔術師がいるんじゃないのか? 本当に奴らの目的は神秘根絶なのか? あるいは、それは本当に目的なのか?
「大変です、中島さん!」
 鈴木巡査が駆け込んできて、そこで俺の思考時間は終わった。

 

  to be continued……

 


 

2020/07/29

 

「これを」
 と鈴木巡査が差し出してきた書類を中島巡査部長に紛れて覗き見る。
「これは科捜研の資料? 岐阜で他殺体か……。なるほど、確かに刀傷みたいだが、それだけなら……」
「なっ、これは、そういう事なのか?」
 資料の内容に驚愕する

 


 

「どうした、中国巡査」
「傷から割り出される刀の寸法を見て下さい。この前のイペタムとピタリと一致します」
「なにっ!?」
「はい。そうなんです。2枚目にイペタムのデータを改めて入れておいたのですが」
「確かに。なんの資料も見ずにとは中国巡査……」

 


 

 「あとは人の話さえちゃんと聞いてくれたら」と顔で訴えかけてきてる気がするのは気のせいではないだろう。
「とりあえず僕は宮内庁の刀剣管理係にイペタムがどうなってるか確認してくる。君たちは二人で現場へ。僕の車使っていいから、鈴木君、これ、キーね」

 


 

「え、中島巡査部長は……」
「まぁ警視庁から宮内庁まで歩いて15.6分ほどですし。とりあえず、僕たちも行きましょう」
 そういえば警視庁だった。なんか特殊な部署すぎて警視庁にいる気がしないんだよな。某ロボットアニメみたいに僻地にあってもおかしくない感じ

 


 

「思わず声をあげておいてなんだけど、寸法が一致したくらいで騒ぐほどなのか? 似たような形の刀がそんなに珍しいって風でもなかったけど」
「そうですね。けど、中国巡査もお気付きの通り、もう一つ一致点があります」
「あぁ、心臓を一突きって手口な」
「けど心臓なんてわかりやすい急所、誰だって狙うだろ」
「まぁ、それはそうですけどね。とはいえあれが宮内庁から持ち出されていたら大事ですし。そうでなくても」
「同じ術式を使った奴がいるのかも、か」
 あれ? そういえばそも前のイペタムって誰が作ったんだ

 

  to be continued……

 


 

2020/07/30

 

「前のイペタムの刀そのものは赤羽刀でしたね」
「赤羽刀? それって確かGHQが武装蜂起を恐れて刀を集めて、それが赤羽だったからつけられたとかって言う」
「えぇ。日本は刀などの神秘を戦争に利用しましたから、対霊害兵装の没収は極めて妥当な措置と言えます」

 


 

 そういう理由だったのか。確かに、まだ詳しくは学んでないが、刀は霊害に対して特に有効な武器だと聞く。
「その後、赤羽刀は基本的に返却されたのですが、中には行方が分からなくなってしまっているものもあります。あのイペタムの元の刀もそうでした」

 


 

「つまりあのイペタムは行方不明になってたはずの刀から作られた、そういうことか?」
「えぇ。そしてそれは主にアメリカやイギリスなどの戦勝国の魔術師が持ち去ったとされています」
「じゃあこの件も第二次大戦で連合側だった国の魔術師の仕業?」

 


 

「あるいは、その魔術師が裏のマーケットで売ったものを購入した魔術師によるもの、という可能性もありますね」
 なるほど、金目当てか。それはあり得る。
「ってことは、少なくともあのイペタムは自然に生まれたわけではなく」

 


 

「えぇ。魔術師によって生み出されたのでしょう。中国巡査が捕まえて確保したそのものには術式は刻まれていませんでしたから、どのように作られたかまでは分かりませんが」
「ってことは次は、どうして、だな」
 即ち動機。基本の基本だ。

 

  to be continued……

 


 

2020/07/31

 

「ここが岐阜県岐阜市かぁ」
 岐阜県って言うと、白川郷とか高山市とかが有名か。あとは刀で有名な美濃市と関市があるのも岐阜県だな。
「新しいイペタムが美濃か関で新しく打たれた刀という可能性は?」
「ないとはいえませんね」

 


 

「が、まずは現場にいきましょう。現場は金華山の山頂だそうです」
「げ、登山か?」
「いえ、ロープウェイが動いているとのことなので、それで行けそうです」
「一安心だ」

 


 

 なんてやり取りの末に辿り着いた山頂では、なんの成果も得られなかった。
 まぁ殺人が起きたのはもう一昨日の事で、死体も凶器もないんじゃそんなもんだろうな。
 ってか気のせいか、現場の警官からの視線が厳しい気がする。所轄の縄張り意識ってやつだろうか。

 


 

「さて、どうするか」
「どうしましょう」
 鈴木巡査と二人で自販機の飲み物を飲みながら相談する
「しかし山って聞いた時はちょっとした展望があるくらいかと思ってたが、案外賑やかな場所だな」
 それもそのはず、リス村なる施設と岐阜城と二つも観光資源がある

 


 

「そうですね。犯行時刻にもよりますが、もう少し目撃証言が出ても良い気がします」
「だよな」
 とはいえ聞き込みは既に地元の警官が済ませてるはずだ。それで情報がないというのなら、ないのだろう
 そこに中島巡査部長からの電話が入った

 

  to be continued……

 


 

2020/08/05

 

「まず、イペタムだった刀だけど、間違いなく補完されてる。よく似た刀に入れ替えられてる可能性も考えてかなり精密に比較したが、全く同じだ。まぁ相手が魔術師だとしたら全く同じ刀を複製できる魔術、なんてのが存在する可能性も否定できないが」

 


 

 確かに。そう考えると魔術による犯罪って奴は難儀だ。だが、
「確か魔術が使われたなら痕跡から分かるんじゃなかったでしたっけ?」
「本来なら、残留した魔力の量で分かる。ただ玉鋼で出来た日本刀はそもそもその刀身に魔力を内包している」
 なるほどな。

 


 

「確か、刀剣管理係の記録で出所はわかってるんですよね? そこから何か追えないんですか?」
「いや、あれは赤羽刀のまま放棄されたはずの刀の一つでね、刀剣管理係の記録でもGHQに接収されたところで記録が止まってるんだ」

 


 

 なるほど、赤羽刀が厄介もの扱いされるわけだ。それはつまり、完全に管理してるはずのこっちの管理から外れた刀なわけだ。
「さて、これからどうします?」
 これから合流を目指す、というところで通話が終わり、鈴木巡査と相談する。

 


 

「どうするも何も、情報がなさすぎる……」
 今後を判断する材料すらない。
「では、とりあえず、関と美濃を見てみますか。ほぼあり得ない可能性ですが。刀の出所についての情報があるかもしれません」
 鈴木巡査が提案する。そうだな、とにかく動こう。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/06

 

「日本刀の対霊害兵装について確認しておきたいんだが、刀身に神秘を宿せる事と、神秘物理比率を調整できる事、そして神秘プライオリティを継承できる事、だよな?」
「そうですね。特に最後の性質は日本刀特有のものです。GHQが日本等を恐れたのも主にこれです」

 


 

「まず、神秘プライオリティって現象は、古いものほど、物質的な優先度が上がる、みたいな話だったよな。つまり古いものほど強い」
「そうです。平安時代辺りのものともなると、鉄などさえ容易く切り裂きます」
「それほどか。確かに戦争に利用出来るな」

 


 

「はい。実際、第二次大戦では三日月宗近なんかの写しなどが使われていたとか」
 ここだ。写しとは要は模倣して作ったもの。当然神秘プライオリティは"今"となるはずだ。
「ところが玉鋼で刀を写しにすると神秘プライオリティも継承される」

 


 

「そうです。あと、伝承効果もですね」
 それもあったな。例えば俺の夜霧は幽霊を斬った伝承を持つニッカリ青江の写しだ。だから、ニッカリ青江の持つ「幽霊斬り」の伝承を受け継いでいる。
「っていう事は。完全新規の刀は、神秘的には大した事はない?」

 


 

「極端な見解ですが、そうとも言えますね。神秘プライオリティの継承がないなら、単なる神秘武器でしかありません」
「結論としてはどの刀鍛冶師もシロって事だよな?」
「そうなりますね」
 みな、写しは作らず、玉鋼の量も申告通りだった。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/07

 

 夜になった。とりあえず美濃市のビジネスホテルを予約して、美濃市駅から13分ほどのところにある焼肉屋で晩飯を取ることにした。
「やっぱり岐阜に来たからには飛騨牛は食べておかないとな」
「中国さんも少しずつここでの楽しみ方を覚えてきましたね」

 


 

「あぁ、あちこち行けるのは悪くないもんだ」
「ホテルもビジネスホテルと言いつつ、それなりにいいところを取ったみたいじゃないですか」
「あぁ。町屋を利用したホテルらしい。しかも美濃市駅から徒歩15分ほどと案外近くてな。それで1万円なら安いもんだろ」

 


 

 厳密にはもう1万円ほど出せば、夕食もつく上、飛騨牛ヒレだったりするわけだが、まぁそこは焼肉くらいの方が庶民的で良いか、と思った次第だ。
 ちなみにこのプランでも朝飯として岐阜の郷土料理が付いてくるらしい
「それで明日はどうします?」

 


 

「とはいえ、もういよいよ情報がないからなぁ。お昼には中島巡査部長も来るんだろ? なら下手に身の死を動くわけにもいかんし、美濃和紙あかりアート館でも観光に」
「流石にそれは遊びすぎでは。それに中島さんは岐阜羽島駅まで新幹線で来ますが」
「あぁ、俺達が中島巡査部長の車を持ってるんだもんな。俺らが迎えにいかないと。それにしても、あの辺何もないし待つのも辛いぜ。間をとって各務原で待つのはどうだ? あそこには航空宇宙博物館があって……」
「中国巡査」
「はい」
 そういうことになった。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/08

 

 岐阜羽島に向かう途中、警察無線に連絡が入る。
「大垣警察署管轄区で199発生。場所は大垣城。○害は20代男性。○目によると日本刀のようなもので心臓を一刺ししされた模様。○被は県道57号線を北に逃走した模様」
「鈴木巡査!」
「はい!」
 進路を変更する。

 


 

「中島巡査部長ですか? 中国です」
「やぁ、中国君。大垣城の件は聞いたよ。地図を見たところ大垣城から北に行くと大垣駅とそこから伸びる線路で道は塞がれている。駅と駅から南側は所轄が調べるだろうから、東にいくつかある踏切と高架下を貼ろう」

 


 

 流石中島巡査部長。話が早い。
「了解しました」
「うん、僕も岐阜羽島に着いたら、そこから大垣駅に向かうよ」
 通話終了。
「鈴木巡査、大垣駅の南側と北側を結ぶ幾つかの道を監視しよう。コメダ珈琲のある一番大きな道と国道258号は所轄が監視するだろうから」

 


 

「はい。我々はこのイオンタウン大垣の駐車場に車を止めて、そこに面した道を監視しましょう」
「ようやくこいつの出番か!」
 中島巡査部長が英国の魔女さんに頼んで作ってもらったらしい魔力計を取り出す。
「よろしくお願いします」

 


 

「なんか新宿都庁みたいなてっぺんのビルだな」
「そうですね、IT関係の施設みたいですが」
 ほぉー、と感心していると、魔力計が反応する。
「さっきのバイクか! 鈴木巡査!」
「はい!」
 車が急旋回し、180度回頭する。逃さないぞ。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/11

 

 パトライトを取り出して車の上部に付ける。
「前方のバイク、路肩に寄せて停車して下さい」
 スピーカーから呼び掛ける。結果、スピードアップ。
「別になんの交通違反もしてないのに逃げるのか」
「ほぼ間違い無くクロですね」

 


 

「犯人と目されるバイク乗りを発見。今宿3丁目、小野交差点に向けて進行中」
 警察無線で被疑者の位置をを報告し、応援を募る。
「小野交差点を左折。国道21号。和合インターチェンジから米原方面に入った」
 左手に工場か何かの煙突の先端が見える。

 


 

「くそ、あいつはやいな」
 直線に入るとどんどん引き離されている。
「どうやら、なんらかの魔術で加速しているようですね」
「くそ、こっちも夕島巡査がいれば……」
「そこは中国巡査に期待したいですね。盗人魔術師の時に即席で魔術を使ったとか?」

 


 

 なんかずいぶん期待されてるんだな。
「うーん、オンイダテイタモコテイタソワカ」
 シーン。しかし何も起こらなかった。
 そりゃそうだ。真言だけで何か出来たら、世界中の皆が魔術師だ。
「なにか照応できそうなものはないか……」

 


 

 何も思いつかず、ひたすら考えているうちに奴は視界から消えていった。
「現在、河間交差点を超えたところ。見失った」
 大きな回転寿司屋もあるし左右への道もある。正面はやや登りになってるせいで奥まで見通せない。振り切るには絶好の場所だったわけか。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/12

 

 その後結局犯人を発見することは叶わず、岐阜にやって来た中島巡査部長と合流し、今後の方針を話し合う。
「中国くんはどう思う?」
「どうもこうも、情報が少なすぎますよ。分かってる事って、魔術師らしいってことくらいじゃないですか」

 


 

「何か情報が欲しいところですね」
 3人で唸っていると、中島巡査部長の携帯が着信音を鳴らす。
「お、井石君だ」
 二、三、言葉を交わし、電話を切ってスマホを操作する。
 俺のスマホが震えて情報が送られてくる。
「これは、被害者の身元ですね」

 


 

「あぁ、井石君が手に入れてくれたらしい」
 流石。頼りになる。
 早速内容を確認する。
「あ、共通点見つけました。まずどちらも男です。二人とも北海道からの転居記録があります。どちらも今は鍛治師として働いています……いました」

 


 

「なるほど、他はなさそうだ」
「ですね」
「となると重要なのは北海道からの転居記録?」
「モノがイペタムだからね、その可能性が高いだろう」
「なら、岐阜県内の北海道からの転居者の情報をまとめてもらいましょう」
「だね」
 早速中島巡査部長が電話をかける

 


 

 しかし、結局犯人の目的は不透明だ。
 魔術師は目的のために魔術を編む。この場合、魔術とはイペタム、相手を殺す魔術だ。
 目的は殺害。
 ならなぜ、人を殺すのか。その動機はなんなんだ。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/13

 

 流石にそんなに多くはないとタカを括っていたが、存外多い。
「どうします?」
 流石に人間の警備を討魔師には外注できない。一歩間違えたらストーカー扱いだ。
「参ったねぇ」
 中島巡査部長も考え込んでいる。やはりここまで多くないと思っていたのだろう。

 


 

「井石くん、念のため聞くけどこれは本当に正しいデータなんだよね?」
「あぁ、少なくとも正真正銘、この国が把握しているデータそのものだ」
「ふぅん、なるほど。まぁ約一億、いや約200万という単位でみればごく僅か、か」

 


 

「中国くん、鈴木くん、君たち二人はこのリストの人物の身元を洗ってくれ。量が多いから分担して当たれ」
「この中に被疑者がいるかも、という事ですか?」
「それはまだ分からないが、とにかく頼んだよ」

 


 

「それじゃ、中島巡査部長はどうされるんです?」
「僕は念のためもう一つの共通点を辿って、郡上市にいくよ」
「なるほど」
 意味のある一手だ。
 運が良ければ犯行現場を押さえられる可能性もある。
「ちなみに大垣市には……」
 そっちにも候補があるはずだ。

 


 

「確かに、そっちも気になるが、同じ市で行動に移す可能性は低そうに思う」
「しかし……」
「気持ちは分かるが、とりあえず今はリストの方を優先してくれ」
「了解しました」
 上司の命令だし、なにやら確信があるらしいので俺はひとまず頷く事にした。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/14

 

「これは……、どう言う事だ?」
 調べ物を始めてすぐ、その奇妙な実態は明らかになった。
 鈴木巡査からの連絡。通知画面に映る件名から考えて、向こうも気付いたみたいだ。
 想定通りの内容なのを確認し、コールする。

 


 

「鈴木巡査、これはその……どう言う事だ?」
「えぇ。北海道からの転居者、そのほとんどが、北海道を出る前の情報が一切ありません」
「中島巡査部長、なんでこの程度の調べ物を分担させたのかと思ったが、より詳しく調べろ、ってことだろうな、こりゃ」

 


 

「でしょうね。では先ほど決めた通りの分担で……」
「いや、待ってくれ。もしこれが事件に関わるとしたら、もう少し大枠を掴みたい」
「と言いますと?」
「例えば、これが岐阜県だけ特有の事なのか、全国的なことなのか、とかさ」

 


 

「なるほど、では分担して日本の各県の北海道からの転居者を一通り調べますか?」
「いや、それは鈴木巡査一人に頼みたい。その間に俺は被害者二人が該当するタイプかどうかと、その経歴を洗う」
「なるほど。了解しました」
 翌日。
「調べ終わりました。やはり、全国区でした」
「やっぱりか」
「やっぱり?」
「いや、中島巡査部長が察しがついてるようだったから、他で似た事案を知ってたんだろうと」
「分かってたんですか」
「裏付けは大事だろ。そして、こっちも分かったぞ」

 

  to be continued……

 


 

2020/08/18

 

「やはり、背乗り、ですか」
「あぁ、間違いない。何人かを無作為に選んで経歴を追っていくと、必ずロシアにたどり着く。北海道にはロシアの工作員を密入国させるための大規模な仕組みがありそうだ」
「しかし、こんな数の工作員を送り込んで一体ロシアは何を?」

 


 

「あぁ、ただもう一つ解せないのは、なぜ警察が気付いてないのか、だな」
「……中国巡査、私達は一度も、写真ですら死体を見たことがありません、そうですね?」
「ん? あぁ、そう言われてみれば……、まさか、魔術で偽装されてると?」
「その可能性が高いかと」

 


 

「ってことはこの工作員は皆、ロシアの神秘組織所属ってことか!?」
「だとしたら、Организация оккультных коллекционеров神秘蒐集協会の連中かもしれません。世界中の神秘を集めている魔術結社です。ローゾフィア財閥がバックについていると言われています」

 


 

「ローゾフィア財閥!? それは確かに大物だな」
 日本ではそこまで有名ではないが、ロシアやヨーロッパ圏では影響力の強い企業だ。不思議な出来事が多くオカルトマニアや陰謀論者の注目の的だが、本当に神秘絡みだったとは。

 


 

「なるほど。なら今回の被害者二人が刀鍛治師だったのも頷ける話だ。玉鋼技術を蒐集したいのか」
「恐らく」
「よし、なら行ってみよう」
「ちょっ、何処にですか」
「決まってるだろ、日本のローゾフィア財閥に、だ」
 鈴木巡査が乗ったのを確認して車を走らせる

 


 

「ちょっ、中国巡査、ローゾフィア財閥は日本には……」
「進出してない、ってか? 違うね、日本にも進出してるのさ。ただ、どういうわけか、ローゾフィア財閥って名乗ってないだけでね」
 ニヤリと笑いつつ、高速道路に入っていく。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/19

 

 岐阜から名神高速道路に乗って西へ30分から50分ほど。
 そこは滋賀県北東部、交通都市として有名な米原だ。
「この米原に本社がある外資系ソフトウェアの会社あるだろ」
「あぁ、デスクトップ・ディポジットDDコーポレーションですね」

 


 

 僕も使ってますよ。と、DDアプリがスマホに入っているのを示す
 日本では去年にに設立され、QRコードや非接触など複数の手段で決済が出来るモバイル決済サービス、それがデスクトップ・ディポジットサービスだ
 ネットではクレジットカードの代わりにすらなる

 


 

「で、それが?」
「DDコーポレーション・ジャパンはhardbankって携帯キャリア会社傘下として設立してるけど、大元の会社はローゾフィア財閥の傘下だ」
 実はこういう事例はいくつかある。どういうわけか、ローゾフィア財閥は名前を出して日本には上陸してこない。

 


 

「えぇ、そうだったんですか!?」
 知らなかったらしい。まぁ主にオカルトマニアとか陰謀論で聞く話だからな。
「……えっと、それだけですか?」
「ん?」
「いえ、もっと何か直接話を聞けるに足る情報があるのかと……」

 


 

「どういう事だ?」
「その、直接赴くだけでは、アポイメント無しでは取り合ってもらえませんよ。神秘絡みな上に証拠もないですから、令状も取れませんし」
「……あ」
 完全に失念していたな。とりあえず行けば何か分かるかと。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/20

 

 とはいえせっかく米原に来たんだ、ダメ元で声をかけてみるのも手だろう。
 DDコーポレーション本社のビルに入り、受付を目指す。
「警視庁総務課の中国巡査だ。ここの……」
「はい。資料2係の中国巡査と鈴木巡査ですね。会長より承っております」

 


 

「な、なに?」
「会長がお会いになります、あちらの直通エレベーターをご利用下さい」
 明らかにひとつだけ特別と言った風な見た目のエレベーターが受付の操作で開く
 ボタンを押してから開くまでラグがあったから、受付のボタンで直接開けてるわけではないようだ

 


 

「なぁ、鈴木巡査、オカルトの定番だが、所謂「未来視」ってのはあるのか?」
「ありますね。たしか大きく分けて測定と観測、に大分されて」
「あぁ、それはなんとなく分かる。測定がビッグデータからの推測、観測は実際に未来の光景を目にする、ってわけだな」

 


 

「えぇ、厳密には測定型の未来視もリアルなビジョンが見える場合もありますが、仕組み的にはその通りです。が、それが何か?」
「ローゾフィア財閥だよ。オカルトや陰謀論に好まれてるって話しただろ? それはまさに未来視にまつわる噂なんだ」

 


 

「ローゾフィア財閥の発祥は1969年のソ連だとされてる。奴らはソ連の雪解けと崩壊をまるで知っていたかのように、崩壊後に備えて多くのコネと仕掛けを作っていた。そして、ソ連崩壊と同時にそれを芽吹かせてローゾフィア財閥が誕生した」

 


 

「このDDコーポレーションもそうだ。hardsoftは独自にpayなんとかってサービスを始める予定だった。それに先を制する形で日本への上陸を決め、hardsoftとの提携さえ実現している」
 そして、俺たちの来訪を言い当てたときやがった。
 予知能力、マジなのか。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/22

 

 ポーンと音を立ててエレベーターが最上階に到着する。
「お待ちしていました、対霊害捜査班の中国巡査」
 銀の髪の女性が俺たちを出迎える。
「あんたは?」
「ローゾフィア財閥の会長を務めさせていただいております、ディース・ローゾフィアです」

 


 

「ほ、本当に会長直々とは……。じゃああんたが、未来視の力を?」
「いいえ、未来を読めるのは姉のノルンです」
「姉? ローゾフィア財閥の会長に姉がいるなんて聞いたことないが」
「えぇ。存在を隠しています。未来視の力の存在がバレれば、狙われるでしょう?」

 


 

「なるほど。どちらにせよ、未来視の存在は認めるんだな?」
「もちろんです。対霊害捜査班の方がそれをお疑いになった時点で、隠し通すことなど不可能でしょうから」
「なら、話が早い。日本に紛れ込んでる背乗り連中の事だが……」

 


 

「はい。彼らはローゾフィア財閥私達の裏の顔、神秘蒐集協会の構成員です」
「やっぱりな。いいのか? 然るべき場所に突き出してもいいんだぞ?」
「神秘を知らないものに証明することは不可能でしょう。彼らの認識阻害のルーンは彼らの不自然な経歴を覆い隠す」

 


 

「それに我々は日本の国益を損なおうと言うわけではありません。ただ、やがて来るかもしれない脅威に対抗するために世界中の神秘を集積しておきたいだけです」
「その脅威ってのは?」
「それは言えません。口に出せば実現可能性が上がります」

 


 

 ってことは神秘的な脅威か。知られれば知られるほどその強度は上がる。聞きにくいな。
「それより、あなたたちの目的は私達の構成員を殺している殺人魔術師の方なのでは?」
「それはそうだが、もしお前たちを狙って殺してるなら、お前たちが退けばいい話だろ」

 


 

「それは否定出来ませんね。ですが、私の姉が次の犯行現場と場所を特定済みだとしたら、どうです?」
「未来視か!」
 こいつらの背乗りも決して無視できるものではないが、殺人機も放置はできないか。

 

  to be continued……

 


 

2020/08/24

 

「いいんですか? 彼らの言い分を信じて、彼らは背乗りをしていて、それを認めているんですよ?」
「あぁ、刑法154条、入管法70条、奴らは明確に日本における犯罪者だ。例えばこの直後に引き上げたとしても、逮捕はしたい」

 


 

「ならなぜ」
「そこだ、なぜ、奴は明かした? 未来視が使えるなら、明かした結果どうなるのかは明白のはずだ。観測型だろうと推測型だろうと、俺の行動上、犯罪を見逃すはずがないからな」
「そうですね。その程度の下調べもしてない、とは思えませんでした」

 


 

「あぁ、まず第一に捕まらない、尻尾を掴ませない、そんな自信があるんだろうが、それにしたってやはり自分から明かす必要はない」
「えぇ。私達も疑惑程度でしたからね」
「そうだ。尻尾を掴ませない自信があるなら、黙っていればいいだけのことだ」

 


 

「つまり? 中国巡査はどう考えてるんです?」
「あぁ、まぁ正直、そこまで大きな裏はない気がしてるんだよな。それこそ……単に殺人鬼に対処するのが難しいのかもしれない。抵抗してしまうと俺たちに露呈する危険性もあるしな」

 


 

「なるほど。であるならば、ここで殺人鬼を逮捕してしまうのは、彼らの得になってしまいますね」
「あぁ、だが、俺は捕まえないわけにはいかない」
「なるほど。あの女性、あなただけに話しかけていました。あなたなら見逃さないと踏んで?」
「かもな」

 


 

 ただ、何か引っかかる。どちらにしても、こんなやり方じゃなくても良かったはずだ。
 例えばこっそり警察に垂れ込むとか。
「とりあえず、予言された次の犯行現場に向かおう」
「はい」

 

  to be continued……

 


 

2020/08/26

 

 愛知県名古屋市にある城
 かつて那古野城と呼ばれていた城を関ヶ原の戦いで勝利した徳川家康によって拡張され名古屋城に名を変えたといわれている。
 予言によればここが次の犯行現場だ。
「織田信長が徳川を恨んで化けて出るとか無いよな」
「滅多な事を言うと」

 


 

「ロアになって出てくるってか。出てきたらやばいだろうな、何せ相手は魔王だ」
「えぇ、神秘の世界では織田信長は魔法使いだったとも言われていますからね。間違っても再臨なんてして欲しくないものです」

 


 

「魔法使い? 魔術とは別に魔法ってのもあるのか」
「えぇ。魔術とは違って生まれつきの才能がないと使えないものですが、魔術と違い一切の前触れや準備なく神秘的現象を引き起こすとか。個々人ごとに得意分野が決まっていてその範囲内でしか使えないらしいですが」

 


 

「どっちかというと超能力っぽいな、それ」
 しかしなるほど。
 魔術ってのは手品に似ている。大袈裟だったり無駄だったりする動作が多いように見えて、その実その動作こそが結果を導くのに必要な「タネ」だったりする
 だが、魔法は「タネ」がいらないってわけだ

 


 

「魔法使いとぶつかったら俺は役立たずだな」
 俺の特技は魔術師のタネ破りだからな、タネがなきゃ話にならない。
「ですね。まぁ魔法使いなんてその瞬間、世界中に一人いるかいないかくらいの頻度でしか存在しないらしいですから」
「それは安心だ」

 

  to be continued……

 


 

2020/08/29

 

「あと5分です」
「あぁ」
 腕時計と周囲を交互に確認する。
「しかし、まさか岐阜県外とはね、そうなってくると、今後は予測が難しいな……」
「ですね。あ、中国巡査、あれを」
「明らかに膨らんでるな、俺が職質をかける、鈴木巡査は」
「はい、警戒を続けます」

 


 

「あの、もしもし、ちょっとお話いいですか?」
 警察手帳を取り出し、近く。
 逃げる。
「あ、待ちやがれ」
 当たり前だが、追いかける。くそ、早いな、あいつ。
 だが、こちらにも秘策はあるのさ!
 バッグの紐を引く。
 まず、顔が5つ、そして腕が11!

 


 

 紙で出来た顔と腕を展開する。
「オンイダテイタモコテイタソワカ!」
 顔が6つで、腕が12本、即ち、ヒンドゥー教のスカンダだ。そしてスカンダは韋駄天と同一視される。
 そして韋駄天の真言。これで、俺は韋駄天走りを見せる

 


 

 ……事はなかった。やはりそこまで簡単ではないか。
 恥ずかしいしデッドウェイトになるので、リュックを放り捨て――後で拾うので決してポイ捨てではない――、さらに加速する。
「あ、野郎、バイクを用意してやがった」
 逃走経路もバッチリって訳か。

 


 

「番号は……ろナンバー、レンタルカーか。だが、番号は覚えたぞ。ここから辿れるな」
 少なくともここから犯人の身元は辿れる。少しは進展するといいんだが……。
 そしてスマホには鈴木巡査から、被害者候補を確保したとの連絡。
 ここから探れてくれよ…

 

  to be continued……

 


 

2020/08/31

 

 そして俺は再びディースの部屋を訪れた。
「ほ、本当に現れた!?」
 驚愕している。
「何驚いてるんだ? あんたらには未来視があるだろ?」
「え、えぇ。確かに、ここに来るのは見えていた……」
「けど、その理由までは見えなかった、だろ?」
 狙い通り。

 


 

 思った通りだ。観測型だろうが、予測型だろうが、この方法なら読めない。
 イチかバチかの賭けだったが。俺の勝ちなようだ。
 これで事件は解決したも同然だな。
 わからない事だらけだが、検挙は出来る。しかも、取り逃がしもない。

 

  to be continued……

 


 

 "一応"の解決パート直前なので、ここで一度切らせていただきます。

次回更新は明日の19時30分頃を予定しております。お楽しみに

 


 

2020/09/01

 

「うん、全部思い出してる。思った通りだ」
 反撃開始だ。
「まず、最初に一つ言っておく。今なら俺のこれからを見る事も出来るだろう。だが、お前はディース・ローゾフィア。つまり、未来を見ることは出来ない。そうだな?」
 ギリと歯噛みの音が聴こえる気がする

 


 

「そう、ですね」
「あぁ。そして、お前は何も連絡を受けていない。これから電話に出る事も許さない。だから、この先を読んだ、ノルンからの連絡を受けることもできない。あるいは、お前がノルンだというなら、別だが」
「……いえ、私はディース。予言は出来ません」

 


 

 これで確実に未来視は封じた。まぁ、このタイミングまで持ち込んだ以上、ここから未来視を使われたくらいではこちらの勝利は揺らがないが。
「さて、これはもう掴んでると思うが、俺たちは今、お前達のエージェントの一人を拘束している」

 


 

「これまで大規模なエージェント達がバレなかったのは、あいつらに施された魔術のおかげだ。俺の知り合いの魔術師が驚いてたよ。同じルーン使いとして、ここまで強力なルーン魔術を使える奴がいるなんて、とな」
「かの英国の魔女にそこまで言われると照れますね」

 


 

「そこまで知ってるなら話が早いな。俺たちは魔術を解いた上であいつを公安に突き出す準備がある。日本中のエージェントの解呪は無理でも、公安の職員の方に支援をかけることはできる」
「なるほど、脅迫ですか。いつでもエージェントを全員拘束できる、と」

 


 

「それだけじゃない。お前達が裏にいることまで暴き立てる。なんなら中国の王さんや、アメリカのソフィーさんに垂れ込んでも良い。そうなれば、ローゾフィア財閥も終わりだ」
「なるほど。大変興味深いお話です、
ですが、少し欲張りすぎましたね」
「がはっ!」
 ディースが左腕をこちらに伸ばした。と同時、すぐ左の虚空から、銀朱色の巨大な腕が飛び出し、俺の体を壁へと押し付ける。な、なんだ、これは……。
「ここで貴方が死ねば終わること。未来視対策に仲間に何も伝えていないのが裏目に出ましたね」

 

 

  to be continued……

 


 

2020/09/02

 

 銀腫の巨大な腕が、メキメキと自分の体を壁へと押し付けている
「なぜ、だ。ここは、魔術が使えない空間の、はず」
 英国の魔女に確認してもらった。ここは神秘基盤(魔術を使うのに必要なものらしい)自体と隔絶させることで絶対に魔術が使えない安全地帯のはずだ

 


 

「なるほど、それで強引な手には出てこないだろうと踏んでいたのですね。でしたら残念でした。これは魔術ではありません」
 魔術じゃ、ない? 巨大な腕を虚空から出現させ、その腕が俺の体を壁へメキメキと押し付けているこれが、魔術じゃない?

 


 

「私もここまでする気はありませんでした。彼らを出汁に脅してくるくらいなら、こちらから条件をつける程度で許すつもりでした。ですが、ローゾフィア財閥まで歯牙にかけるとなると、話は別です。私はあの忌々しい外来種からこの地球を守るという使命がありますから」

 


 

 よく分からんが、ローゾフィア財閥の存続を取引材料に使うこと自体がNGだって事か。くそ、マジで読み誤ったな。ディースの言う通り、少し調子に乗りすぎた。
 くそ、マジでやばい。胴体が圧迫されて息ができない。
 どんどん、意識……が。

 


 

「Læðingr」
 意識を失いかけて、視界が暗転した直後、腕による圧迫が消え、体が拘束されるのを感じる。
「おいおい、殺すんじゃなかったのか?」
「えぇ。殺しても良いのですが、あなたは我々の目的から見て、こと神秘殺しについて、あなたはとても優秀」

 


 

「なにせ世界が違えば、最も優秀な"私達の敵"になるほどですからね」
「つまり、命が惜しければ協力しろ、と?」
「えぇ。もちろん、協力頂けるなら、今回の提案、引き受けましょう」
 手元には携帯。くそ、未来を予知されたか。

 

  to be continued……

 


 

2020/09/03

 

 いや、魔術の封印を一時的に解いたのかもしれない。
「イペタム!」
 何も起きない。まぁこっちは最悪ハッタリだ。
「こっちだ!」
 右手に意識を集中して叫ぶ。右手に刻んでもらったケンのルーンから炎が飛び出す。予定だったが飛び出さない。

 


 

 英国の魔女が失敗するとは思えないので、やはり魔術は使えない?
 じゃあこの拘束やあの腕は本当に魔術じゃないっていうのか。
「諦めてくれましたか? では、これからあなたに誓約ゲッシュのためのルーンを刻みます。内容はシンプルに、私達に従う事」

 


 

 ゲッシュ。ケルト神話における最上位の誓いにして呪い。ケルト神話では多くの勇姿がこれを破ったがために死んでいる。強制の呪いであるギアスって言葉の語源でもある。
 おそらくかけられればもう打つ手はないだろう。
 だが、流石に死ぬわけにはいかない。クソ

 


 

 何も思いつかない。こちらの手が弱かった、そう考えるしかないか。
「分かった。誓約を受け入れよう」
「あなたは正しい判断をした。では、エレベーターへ」
 エレベーターに入る。やはりそうか、ここは神秘基盤が存在する場所。ならば!
「イペタム!!」

 


 

 俺の鞘から離れた夜霧がディーズの首元へ飛んでいく。向こうはまだ部屋の中、防御は出来ない!
「Lævateinn」
 しかし、突如ディースの手の内に出現した枝の如き赤い剣によって阻まれた。
「今度こそ悪あがきはおしまいですね?」
「……はい」

 

 

  to be continued……

 


 

2020/09/04

 

「ありゃー、こりゃずいぶん強力なルーンだね、こりゃ」
 俺にかけられたルーンを見るや否や、英国の魔女はそんなキャラクター崩壊気味な事を言った。
「そんなにか? けどアンジェによるとあんたは、独自のルーンすら編み出した現代最高のルーン使いなんだろ?」

 


 

「うん……じゃなくて、えぇ、そう言われていますね」
「ですが……、このルーンは強固ですよ。私でさえ解除は不可能かもしれません」
「そんなことあり得るのか?」
「よほど歪められたルーンならともかく、真っ当なルーンに限ってありえるとは思えませんが」

 


 

「だが、実際ここに存在している」
「はい。しかもアンサズのルーンの起点としたルーン。まるでオーディンですね」
 アンサズはオーディンを意味するルーンだ。それを署名の如く使うとは、本当にオーディンみたいだ。
 使ってたレーヴァテインはロキの武器だが。

 


 

「結論としては解除できないから、大人しく従うしかないってか。やられたな」
 英国の魔女と別れて、警視庁に戻る。
 あれから一週間経つが、今の所事件は起きていない。
 俺の仮説に基づいて各事件候補をしっかりと張ってるからだろう。

 


 

「けど、いい加減犯人を捕まえられないと、いつまでもずっと張っててもらうわけには行かないよ」
 そうなんだよな。今のところ犯人と警察が睨み合ってるようなもんで。
 ずっと睨み合い続けてるわけにもいかない。
 別の何かを、考えないとな

 

  to be continued……

 


 

2020/09/05

 

「それにしてもあの忌々しい外来種、か」
 ディースの言葉を考えてみる。外来種、といっても他の国からロシアに来た存在、ということではないだろうな。
 そういう意味なら、ロシアからこの国に来た彼らも外来種になる。
 となると、地球外? クトゥルフとか?

 


 

 この世界にクトゥルフ神話の神々が実在するのかは分からないが、もし実在するとしたら可能性としては高いか。
 いずれにしても、今回の事件とは直接つながりはなさそうだ。
「だいたい真相は分かってきた気がするんだが、どうしても腑に落ちない点がある」

 


 

「ふむ、それはずばり、なぜイペタムなのか、だね?」
「はい。イペタムと刀身が一致した謎、あれだけ解けていません」
 中島巡査部長が悩んでいる俺に声をかけてくる。流石、気付いてたのか。
 今までの情報から考えて、犯人はイペタムを使ってはいない。

 


 

 そもそもイペタムが使えるなら、過去の逃走劇でもこちらに攻撃できたはずなのだ
 過去の犯行も目撃者によれば直接刺している
 これまでのような浮遊する剣を操っての殺人ではない
 しかし、刃の傷は明らかにイペタムのそれと一致する
 どういうことなのか

 


 

「これが、奴の潜伏先の鍵になる気がするんだがなぁ」
 うーん、と唸る。答えは出ない。
 果たして、動くのが早かったのは犯人だった。
「大変です、保管していたイペタムが盗まれました!」

 

  to be continued……

 


 

2020/09/07

 

 中島巡査部長と二人で宮内庁に向かう。
「こちらへ」
 この件の連絡役を担当することになったらしい蛇崩龍一さんに案内してもらう。
 そこはびっしりと様々な刀がガラスケースに入って保管されていた。
「このガラスは?」
「強化ガラスです」

 


 

「イペタムが入っていたのはあのケースですか?
「そうです」
 なるほど。粉々のガラス片が飛び散っている
「で、窓から逃走した?」
「恐らく」
 窓も割れてるしな
 ケースのガラス片も窓の方向にだけ地面に落ちている
 窓のガラス片は部屋側には落ちてないな

 


 

「なるほど、犯人は窓を割って侵入、先のとんがったもので強化ガラスを破壊し、イペタムを回収。再び窓から逃げた、と言うことか」
 と、中島巡査部長
「どうやってこの部屋までたどり着いたのか。警備は十分。しかも全員認識阻害を無効化出来るようになっている」
「いえ、中島巡査部長、そこは何も問題にはなりませんよ」
「え、中国君、もうわかったのかい?」
「えぇ。というかこの部屋の状況を見れば明らかです。これが小説なら、ここまでの描写だけで分かるほど、謎とさえ言えないものですよ」

 


 

 シンプルな事実だ。わざわざ披露するまでもない
「それより気にするべきなのは、なぜイペタムだけを盗んだのか、ですよ」
「確かに。だが、一応君の推理を聞かせてくれ。よほどの自信のようだが、聞かないとこちらは判断できない」
 なるほど

 

  to be continued……

 


 

2020/09/09

 

「まず大前提として、犯人は窓から入ったわけでは無い。なぜなら窓ガラスの破片が外側にのみ散らばっている。もし犯人が窓ガラスを割って入ったなら、破片は部屋の中に散乱してるはずだ」
「確かに」
 基本的な事だが、大丈夫か。
 いや、捜査の経験の差か。

 


 

「なら、犯人は内部犯で逃げる時にガラスを破って逃げたフリをしたのか?」
 なるほど。悪く無い推理だ。
「残念ですが違います。今の理屈を別のところにも当てはめる必要がある。そう、イペタムの入っていたケースです」
「なるほど、これか」
「それです」

 


 

「ガラス片が台の上にもあるのは、ガラスケースの天井や他の側面のガラスが砕けたからでしょう。しかし、それにしては、こちら側だけは地面にガラス片が落ちている。つまり」
「内側からガラスを砕いたっていうのか? だが魔術の反応は……」
 龍一さんが反応する

 


 

「えぇ。魔術ではおそらく無いんでしょう。つまり……」
「イペタムが自身の意思に従ってこのガラスケースから出たってことか?」
 中島巡査部長も流石に分かった。
 そう、龍一さんは知らなかったようだが俺たちは知っている。イペタムは自発的に空を飛ぶ刀なのだ

 


 

「なるほど、それなら、警備を始めとしたほとんどの問題は解決するな」
 中島巡査部長が頷く
「つまり誰かイペタムのオーナーがいて、そいつがこれまで潜伏していて、とうとう呼び出した、ってことになりますね」
 結論付ける
「ってことはフーダニットは不明?」

 


 

「そうなりますね」
「ハウダニットだけ解っても仕方ないな。むしろ必要なのは」
「何故やったのか、ですよね」
「あぁ、動機がわからなければ何の対策もできない」
 イペタムと同じ刃長の事件、そしてイペタムそのものの失踪。ややこしいことになってきた

 

  to be continued……

 


 

2020/09/11

 

「電話か、こんな時に」
 携帯を確認する。発信元は、ディース?
 くそ、またここにさらに事態がややこしくなるのか。
「もしもし」
「ただちに出頭して下さい。ただし新東名高速を使う道路はトラブルが起きる可能性が高いので、中央自動車道を使いなさい

 


 

 言うだけ言って通話が切れる。
 中央高速って、検索したら出るルートのうち一番遠回りなルートじゃないか。まぁ、他だとトラブルになるって言うんだから仕方ないが。
「すみません、中島巡査部長、イペタムについては心当たりがあるので、自分はそれあたります」

 


 

 警視庁の駐車場で降りると同時、中島巡査部長にそう告げて、自分の車を走らせる。
 心当たりは嘘だが、俺はおそらくイペタム捜索の方に振り分けられるだろうと考えての言い訳だ。
 
 それにしても、イペタム事件は結局のところ謎の多い事件だった。

 


 

 結局、あれが何者によって生み出されたものなのか、主犯は誰なのか。それらは一切不明なままだ
 一つ確かなのは所有者は皆、自身の持つ欲望、野望を強く増幅されていた事
 そして、イペタムを没収された今となってはイペタムに関わるほぼ全てを忘れている事だ

 


 

そして、俺からみると唯一でっち上げの成功した魔術の元でもある。
 「俺がイペタムを最後に握ったもの=イペタムの今の所有者である」という理屈の元、イペタムの名を叫んだ直後にまるで自分の刀がイペタムであるかのように、鞘から飛び出す、そういう機構だった。

 


 

 結果は成功。鞘から飛び出た俺の夜霧はイペタムのように俺の指示に従って浮遊し対象を切断した。
 俺が単独で成功させた魔術は後にも先にも今のところアレだけだ。
 あれと他のトライアルの違いはなんだ?
 なんとなく、そこにもヒントがあるような気がする

 

  to be continued……

 


 

2020/09/12

 

「すまない、待たせたな。それで話ってなんだ?」
 まぁ予言通りの時間に到着してるだろうから待たせてはないだろうが、一応社交辞令として謝っておく。
「えぇ。まず伝えたいのは、この窓ガラスの件ですね」
 見ると、確かに窓ガラスが割れてる。

 

「破片は内側。なるほど、外から何かが攻撃を仕掛けてきたのか?」
「えぇ。あなたがイペタムと呼ぶ刀剣です。まさかここを直接攻撃してくるとは思わず、とっさに回避が遅れました」
「そのほおの傷がそれか。一体誰が?」
「我々はあなたの仕業かと思ったのですが」

 

「違うよ。だいたい強制(ギアス)の魔術がかかってる以上、逆らうわけない。万一お前を殺せても、ノルンは殺せない。このルーンはお前ら二人の共有物なんだろ? だから、お前を殺したところで、ノルンから契約違反を言い渡されてこいつで死んじまうだけだ」

 

「ふむ、そこまで理解していましたか。なら確かに、あなたが主犯とは思えませんね」
「分かってくれて何よりだ。それで、その後イペタムは?」
「去りました。私に追撃をかけようとした直後に、突然軌道を変えて逃げて行きましたよ。行方は追えませんでした」

 

「そうか。用件は終わりか?」
「いえ、以前打診していたあなたの要求に応えましょう。清洲城にエージェントを送ります」
「……いいのか?」
「今回の件とこの件は切り離せないようですから、早く解決していただこうかと」
 よし、奴を誘き出す。反撃開始だ

 

  to be continued……

 


 

2020/09/14

 

「これまでの事件の共通点、それは全てかつて織田信長の勢力下にあった城という点です。神秘蒐集協会のエージェントを襲う理由は分かりませんが、
魔術反応が出ない理由についてを考えてみました。
魔術の反応がない、短絡的ですがつまり、魔法、ということでは」

 


 

 資料課で持論を展開する。
「魔法使いは常に1人しかいないとさえ言われるほど希少な存在です。しかし、神秘のルールの中に存在していることは確か
であるならば、照応の理論で魔法を再現可能なのでは?」
「なるほど、織田信長と照応することで魔法を使った、と」

 


 

「しかし、織田信長の愛刀は圧切長谷部、宗三左文字、薬研藤四郎辺りが有名だが、いずれもイペタムとはサイズが異なる。照応のためにはこれらの……」
「そこが勘違いです。犯人は、自分の刀を使って犯行に及んではいません」
「そうか、一切の痕跡がないんだものな」

 


 

 そう。犯人は刀を使ってはいないはずだ。なぜなら刀は神秘だ。
 刀を使って相手を刺突したのであれば、その痕跡が残るはずなんだ。
「つまり、犯人は魔法を使ってイペタムと同形状の刀を出現させて相手を刺突した? だが、なぜ、織田信長がイペタムなんだ」

 


 

「それはおそらく、俺たちがイペタムと呼んでいたものが、イペタムではないから、かと」
「どういうことだ?」
「時間がないのでそれは後で。神秘蒐集協会のエージェントはもう清州城に向かっています。犯人が織田信長と照応してるなら、弱点も引き継いでいるはず」

 


 

「なるほど、火か」
「はい。だから英国の魔女からケンのルーンをいくつか刻んでもらいました。そして、この地点の廃屋に引き寄せて火事を起こせれば尚更ベストです」
「なるほど。まだ半信半疑だが、既にエージェントが動き始めてる以上、試してみるしかなさそうだ」

 


 

 うまいことやったな、と中島巡査部長。この慌ただしさを俺の説得戦略だと思っているらしい。
 とんでもない、時間をかけて説明するつもりだった。
 だが、ディースはこれを見越していきなり伝えたんだろうな。
 未来予知のいいなりだと感じて、悔しくなる。

 

  to be continued……

 


 

2020/09/15

 

 清洲城に到着する。
「あの男です!」
 山本巡査が指し示す。
 見えた。懐から刀が飛び出し、エージェントに向けて飛び出す
「させるか!」
 夜霧を抜き、飛んだ刀を弾き飛ばす。
「やはり罠、か」
 男が呟く
「その通りだ。清洲城はもう俺達の包囲下にある」

 


 

「ほう、包囲下、とな。我が清洲城を」
 む、思ったより動じてないな。
「我が清洲城を包囲するからには、我らと戦争するつもりがある。そう言うことだな」
 男の手元に刀が出現する。夜霧のそれと似た紫色のオーラが刀身に纏う。
「来るか」

 


 

 夜霧の柄に刻まれたケンのルーンに触れて起動する。
 夜霧の刀身が炎を纏う。
 その隣で中島巡査部長が同様に炎を纏った短刀を構える。
「包囲の雑兵を除けば、将は2人だけか。それでこの信長を討とうとは」
 男が地面を蹴って急接近してくる。夜霧で受け止める

 


 

「ぐっ、なんて力だ」
「現代の将とはかくも弱いものか」
「バカに、するなよっ。起動!」
 左手を男に向けて叫ぶ。炎の塊が男に放たれる
 紫のオーラが霧のように男の周囲を纏い、炎の塊を打ち消す
「なっ」
 さらに中島巡査部長が迫るが、イペだけらしき刀が防ぐ
 なぜだ、織田信長と照応してる以上、織田信長由来のあらゆる神秘は弱点である炎に弱いはずだ。
「なるほど、この柔な炎で我を捕らえるつもりだったが」
 紫の霧が俺の刀に巻きついてきて、柄を飲み込み、そして、炎が消失する。
「ディスペルした!?」

 


 

「人の炎程度で我が身を焼けると思うたか。つまらぬ、後は雑兵に任せるとするか」
 紫のオーラが地面を覆い、そこから火縄銃を持った人型が三列出現する
 そんなのアリかよ
「だったら、神の炎はどうかな!」
 そこに銀の髪の少女が俺達と人型の間に降り立つ

 

  to be continued……

 


 

2020/09/16

 

「あんたは……ノルン?」
「そう、ディースの姉。けど話は後」
 ノルンがディースと同じ赤い剣を手元に出現させる。
「ほう、情報実体化、か。面白い。遊ぼう、ぞ」
 ノルンと男が剣を交える。
「ほう、魔王たる我と拮抗するか」

 

 


 

「拮抗では終わらない、外来種、顔のない神を信奉する神秘使いは一人たりとも看過しない。レーヴァテイン!」
 その言葉に合わせて、ノルンの赤い剣が変形する。細く、西洋のロングソードのような見た目に変化し、青い炎を纏い始める。

 


 

「この炎、ふぉうまるはうとに匹敵する、か。外なる神を拒むものなら、是非もなし。確実に殺そう」
 紫のオーラの一部が男から離れ、赤黒い霧に変化する。
「終末者といえど神性。目には目を、神を殺す力には神を殺す力を」
「反神性の呪いかっ!」

 


 

 赤黒い霧が刃に形を変えてノルンに襲いかかる。
 ノルンは後ろに飛び下がりそれを回避する。
「グングニル、連続投射、形状はリボルバー!」
 ノルンが叫ぶとノルンの腕の先から白い光の槍が6本出現し、順番に男に向けて打ち出される。

 


 

「くっ、小癪」
 男は赤黒い霧で迎撃するが、減衰しつつも白い光の槍は男を貫く。やっと、一太刀浴びせられたのか!
「終末者の炎の剣、必中の白い槍、すると次は破壊の槌か。流石に魔王たる我でも凌ぎ切れるか分からぬな」
「ふん、やっと力の差がわかった?」

 


 

「図に乗るな。そうか、貴様、マザデめの擬似神性とリンクしているのか」
「……だったら?」
「リンクを断つまで。その上でもその口がよく回るか、見せてもらおう、ぞ」
 紫のオーラがノルンの周囲を覆い始める。
「狙い通り」
 ノルンは俺のすぐそばでそう呟いた

 


 

「この男の強さは分かった? 暫くは私が隔離空間で時間を稼ぐ。その間になんとかして対策を練って。最低でも反神性の少女と呼夜見の後継者を。あなたが頼りだよ」
 その早口が終わると同時、男とノルンは目の前から姿を消した。

 

  to be continued……

 


 

2020/09/18

 

 すぐさま宮内庁で会議が開かれた。
「魔王信長、ですか。すごいものが出てきますね」
 碧さんが呆れたように呟く。
「しかも言動まで完全に信長のようだった」
 中島巡査部長が言う。確かに、魔術師にしては不自然な言動が多かった。

 


 

「考え難いですが、信長に照応した結果、乗っ取られた、とか?」
「正直それ以外に思いつかない。信長の持つ力自体に意思があるとか、信長自身がそういう復活措置を用意していたのか」
「もはや、人格のなぜは重要ではないでしょう。どうやって討滅するか、です」

 


 

 確かに。あれが霊害なのは明らかだ。そして次に現れる場所も分かっている。後はもうどうやって倒すか、それだけだ。
「私は織田信長を見ていませんが、奴が魔法使いなら、必ず属性という制約があるはずです。誰か見ていて気付きませんでしたか?」
 と美琴さん。

 


 

 いくつか案が出るが、どれも否定根拠が上がる。奴の行動は多岐に渡りすぎていて、とても属性の推測など出来そうにない。
「中国巡査、先程から口を開かないが、仮説でいいから何かないか?」
「二つあります。一つは、「混沌」です」

 


 

「根拠は奴が外なる神の信奉者と呼ばれていた事、そして自身を焼く炎をフォウマルハウト、と呼んだことです。俺も詳しくなかったので会議が始まるまでに軽く調べたのですが、これはクトゥルフ神話に登場する『這いよる混沌』と呼ばれる神性を示唆している気がします」

 


 

「なるほど。混沌はまだ形をなしていない何か、ということが出来る。あの紫のオーラがそれで、そこから何かを形成している、ということか」
「ただ属性であることと、神を信奉していることの間には飛躍があります。属性というだけなら、炎を恐れる理由もありません」

 


 

「確かに」
「もう一つの解釈があります。あまりに強いゆえに魔法と解釈されただけで異なる力だった、という可能性です。ノルンという少女は北欧の神の力を持っているそうです。なら」
「いや、それはあり得ないだろう。まだラヴクラフトが生まれてさえいないんだぞ」

 


 

「確かに。彼の本がなければ、少なくとも99%の人間がそれらの神性のことを知る事はなかったはずだ。少なくとも地球上においてそれほどの力を発揮出来たとは思えない」
「認知されないと力を発揮できない、という神性のルールですか」
「あぁ、1%もいたかすら怪しい」

 


 

「なんだか不思議な話ですね。まるでラヴクラフトが小説を書いたからいた事になったみたいだ。クトゥルフの神というのは本当に神性なんですか? 実はロアなんじゃ…」
「中国巡査、それは神秘の世界において禁句だよ。ロアかそうではないかを見分ける術はないんだ」

 


 

「神性はクトゥルフ神話のものに限らず、極めてロアに似ている。クトゥルフ神話が近代に生まれたからたまたま特別そう思われているだけで、例えば他のあらゆる神話も神話として語られたから神性として生まれたのかもしれない。あるいはあらゆる魔術すらもね」

 


 

「そしてそれを突き詰めると、僕ら人間すら、何者かによって作られたロアだという可能性すら生じてしまう」
 確かに。どこかの宇宙人か地底人が地球には人が住んでる、と『宇宙戦争』みたく好き勝手を書いてるのかもしれない。それを否定する事はできない。

 


 

 そうすると、そもそもノルンの言う外なる神って言うのは、クトゥルフ神話の神ではない事になるのか。宇宙から飛来した神、一体何だ? いや、それはまた後だ。
「この線はないとすると。次は「神秘」が属性、という仮説ですね」

 

  to be continued……

 


 

2020/09/24

 

「神秘?」
 荒唐無稽な説だ。懐疑的になるのも無理はない。
「えぇ。荒唐無稽な説です。ただ考えてみると我々のスタート地点は「信長の魔法は魔術を再現できるものなのでは?」というものでした」
「なるほど、神秘そのものを司るなら、魔術の再現は可能だろう」

 


 

 中島巡査部長が頷く。
「そういう事です。魔術による強化をあっさりと無力化したのも、それで納得が出来ます」
「なるほど。だが、それはつまり打つ手なしという事なのではないか?」
 宮内庁の一人が反論する。
「いえ、やりようはあります」

 


 

「まず相手に神秘が効かないのなら、神秘による攻撃はやめるべきです。今回は無力化されるだけでしたが、反射とかされると洒落になりません」
「だが、物理攻撃なんて神秘の前には大したものにならんだろう」
 確かに。神秘に有効な物理というのは少ない。

 


 

「そこで、時間稼ぎを買って出てくれた少女の言い分なんですが。反神性の少女と、呼夜見の後継者、という言葉に聞き覚えはないですか?」
「まず呼夜見の後継者は我々も認知しています。あらゆる神秘に例外無く退ける。"退魔師"たる如月アンジェの事でしょう」
 やっぱりそうか。なにせ如月って名字だし、そんな気がしてた。
「んじゃあ、反神性の少女の方は心当たりはない?」
 その質問に突然全体が静まり返る。
 え、なに、と動揺する俺。
 そして美琴さんが重い口を開く。
「反神性の少女も、認知しています」

 

  to be continued……

 


 

2020/09/25

 

「ただ、中国巡査。あの子……彼女のことを「反神性の少女」とは呼ばないようにお願いします」
「なるほど? それはまたなぜ」
「悪魔を本人の特徴によらない記号的な名前で呼ぶのと同じです。彼女を反神性の少女ではなく、普通の少女として育ってほしいのです」

 


 

「あー、そういえばその理由って結局聞いてないような」
 明らかに吸血鬼な見た目の悪魔を未だに皐月の悪魔と呼称していたりする。
「中国巡査にしては珍しい。なんとなく察してるかと思ってた」
「いや、全然。何か意味はあるんですね?」

 


 

「中国巡査のイペタムの魔術と同じだよ。あれは自身がイペタムの継承者であるって理屈とイペタムとは概念であるって仮説をくっつけた上で、イペタムと呼びかけることで、周りの人からその刀がイペタムだと"承認"させる事で一時的に刀をイペタムにしてるわけだろ?」

 


 

「僕らはそういう魔術師を"言語使い"と読んでるけどね。
で、あれは限定的なものだけど、もし周りの人間がその夜霧をイペタムだと完全に信じこんだら?」
「夜霧が完全にイペタムになる?」
「そう。僕らはそれを"ロア化"と呼んでるんだけどね」

 


 

 ロア化。なんだかひっかかるな。考えすぎか。
「なるほど。つまり、その少女をその、そう呼ぶ事で、その存在にしてしまいたくない、という事ですね」
「そういう事です」
「わかりました」
 少女に普通であれと願うのは当然のことだ。

 

  to be continued……

 


 

2020/09/28

 

 実は今朝、またシルバーコードの夢を見た。
 俺の体から伸びてるシルバーコードは、一本になっていた。
 だから、取り戻すことにした。
 ついでだから、繋がってる方も仲間に出来ると都合がいいな。
 とはいえ期限はたった1日だ。やれるだけ、やるとしよう。

 


 

 俺、中島巡査部長、アンジェ、雪さんが清洲城に集合する
 俺と中島巡査部長が主に攻撃を受け持ち、アンジェが前衛の攻撃役、雪さんが後衛の攻撃役だ
 なんだか少しゲームみたいだが、気は抜けない。というより
「もう少し討魔師の救援呼べなかったんですか?」

 


 

 今回は清洲城をカバーストーリーで閉鎖している討魔師を投入することも出来たはずだ。
「それが……なんだか、大変みたいだよ。龍脈結集地にいた悪魔が一人突然、陣地を放棄して立ち去ったらしくて」
 中島巡査部長が言いにくそうに告げる。

 


 

「あー」
 思い当たる節があったので、俺は俺で視界を空中に彷徨わせる事になった。
 中島巡査部長は気を使ってくれたようだが、もう知ってるんだよな、多分だけど。

 


 

「さて、それで……どうすればいいんだろう?」
 確かに。よく考えたら、ノルンに情報を伝える方法がない。
 ノルンが限界を迎えるまで待つしかないのか?
 と、考え込んだ直後、空中に黒い塊のようなものが出現する。
 水袋のように空中から地面に垂れてくる。

 


 

 それが地面に到達し、破裂するように消滅して、
 その中から信長とノルンが現れた。
「ほう、空間負荷を高めて空間を破った、か。面白い。よいぞよいぞ」
 信長は涼しい顔だが、ノルンは流石に傷だらけで辛そうだ。
「ノルン、ここからは俺たちに任せろ!

 

  to be continued……

 


 

2020/09/30

 

「ふむ、誰かと思えば、数刻前に相手したつまらぬ現代の検非違使か。貴様らなど問題にならぬ、去れ」
「それは、私の相手をしてから判断してもらいましょう」
 白い光の粒子を巻きながら、アンジェの太刀が一閃振るわれる。
 いや、早速フォーメーション崩れてる。

 


 

 突出したアンジェは闇色の霧から出現しようとしていた火縄銃部隊に対して白い粒子で薙ぎ払うように刀を振るって、消滅させる。
「ほう、魔をあるべき場所に返す退魔の力。貴様、呼夜見の末裔か」
 容赦なく信長の首を狙う鋭い突きの一撃を信長は刀で受け止める。

 


 

 アンジェの突きは刃を側面に向けて避けられても即座に斬に繋がる恐るべし殺人刀だが、信長はそれすら見抜いたように己の刀で刃を滑らせるように、刀を逸らして回避する。
「いやいや。現代とやらになっても、まだしつこく生き延びているとは、な」

 


 

「どういう意味です?」
「くく、貴様らのうち半分を滅ぼしたのがこの我、というだけの話よ」
「戦国の世で失われた6つの家。それをあなたが」
「貴様らが悉く死に果てればさぞかし面白き混沌に満ちるであろうと思ったが。ついぞ果たせなかったのが無念であった」

 


 

「それはよかったですね。もう私が最後の一人ですよ」
「それは重畳。ここで果たすことにしよう」
「いいえ、負けるのはあなたです」
 アンジェが構え直す。アンジェ得意の必殺技、三段突きの構えだ。
 信長は知って知らずか、武器を構えて出方を待っている。

 


 

「光明剣、三段突き!」
 あらゆる神秘に通用する白い粒子を纏った三段突きは、その突きそのものの鋭さは当然の事として、それによって槍のように鋭く伸びる三発の白い粒子の槍、続く斬とそれに追従する白い粒子の範囲攻撃と、まさに回避する術のない必殺の一撃だ。

 


 

 そして信長はそれを避けなかった。
 膨大な白い粒子をモロに浴びたはずだ
 粉塵が邪魔で見えないが、流石の信長でも、立っていられるはずがない
 なんだ、思ったよりあっさり終わった。……わけはなかった
 粉塵の晴れたそこには無傷で立つ信長の姿があった

 

  to be continued……

 


 

2020/10/01

 

「なっ……」
「ふっ、なぜ、か? 呼夜見の手はもはや見切っておる。その白き光を放ち、相手を還元する。しかし、白き光ひとつにより還元出来る数は有限。すなわち、それを上回る魔さえあれば良いだけのこと」
 先程まで消えていた膨大な紫のオーラが再び溢れ出す

 


 

「この紫のオーラで相殺……いえ、防ぎ切った?」
「然り。そして、一度発揮した白き光をもう一度出すまでには多少の時間が必要、であろう?」
 紫のオーラがアンジェの周囲を覆う。退路を塞いで倒すつもりか。
 助けないと。
「イ――」
「させない」

 


 

 俺がそれを呼ぶより先に、そんな声が聞こえて虚空から黒い人型が姿を表す。俺が独断で盗人魔術師と戦ったときに助けてくれたやつらだ。
「ぬっ、達谷窟の黒妖精か!」
「今のうちに、ユキさんに」
 耳元で声がする。あの時助けてくれたのと同じ声だ。

 


 

 何者か知らないが、信じるぜ!
「ユキさん、信長を」
「ん。っ!」
 ユキさんが速やかに弓を構えて矢を放つ。
 紫のオーラが矢を避けるように矢に飛ばされるように晴れる。
「ぬっ!?」
 そしてそれは予想外の軌道をとって、信長の防御を上回った。

 


 

 アンジェは矢によって払われた紫のオーラの裂け目を抜けてこちらに戻ってくる。
「すみません、先走ったのに、仕込め損ないました」
「構わないさ。ここからだ」
 改めて武器を構えて、信長と向かい合う。

 

  to be continued……

 


 

2020/10/05

 

「なるほど、反神性の呪い、か」
 ユキの事を睨む信長。
「確かに魔王たるこの身には手痛いダメージではある。が」
 やはり大した事はない、まるでそういうかのように不敵に笑う
「所詮武器などという形に囚われる程度では脅威にはなり得ぬ」
 再び鉄砲隊が現れる
「なるほど、数で押そうってわけか!」
「私が光でなぎ払います」
「いや、その心配はねぇ。鉄砲隊はたいした魔性じゃないんだ。ここは俺の力の見せ所だろ! イペタム!」
 俺はここで手札の一つを切ることにした。
 俺の新しい力をお披露目するとしよう。

 

  to be continued……

 


 

2020/10/06

 

 そしてそれは俺の前に現れた。
 夜霧の名前の由来だった紫の霧を纏い、俺と銀の糸でつながった浮遊する剣。
 いつもの偽物じゃない、正真正銘の。
「イペタム!」
 掛け声に応え、イペタムが動く。

 


 

 俺以外には見えない銀の糸、シルバーコードで俺と繋がったイペタムは、俺の魂(って存在が厳密にはどんなものかは知らないが)から伝わる命令を受けてそれを速やかに遂行する。
 イペタムが素早く鉄砲隊に突撃し、その魔性の霧とその刀身で切り崩す。

 


 

「中国巡査、それは?!」
「それはまた後で。ユキさん!」
 簡単に言うと、これまで魔術を使う時に言ってた継承云々は実は全くの真実で、これまでの夜霧に纏ってた紫の霧や聞こえてきた声はイペタムのもので……、あぁ、簡単な説明なんて出来ない。後回しだ。

 


 

「ん」
 ユキが連続して弓を射る。
「見抜いたぞ。攻撃の意思は矢尻にのみ」
 飛んできた矢を掴む。
「しかし、魔性がお留守のようですよ?」
 矢を掴んで得意げな信長の側面からアンジェが白い光を強く纏いながら、信長に斬りかかる。

 


 

「ぬっ!」
 アンジェの刀が信長の胴体を確実に切断した。
「やったか!」
 俺は思わず叫ぶ。
「これは……手応えが……ない?
 アンジェが驚愕して信長から抜き、周囲を警戒する。
「まさか、偽物か! イペタム!」
 偽物で目眩しなら、狙うのはユキのはず。

 


 

 イペタムがユキと虚空から出現した信長の間に割り込む。
「流石にかような簡単な手では倒せんか」
「くそ、こいつ、テレポートだか身代わりの術だかまで使えるのか」
 そうすると倒すための道程は、まず異動を封じなければ。

 

  to be continued……

 


 

2020/10/07

 

「どうやって動きを封じます?」
「アンジェの仲間さんの悪魔は足止め出来ないのか?」
 前に俺のことも助けてくれたあの黒い人型をたくさん呼べば拘束くらいできそうだ。
「あの紫のオーラに抵抗できないでしょうから、一瞬が限界でしょうね」

 


 

「なら、ユキさんは連射してあの紫のオーラを散らしてくれ。ユキさんの矢はあの紫のオーラを晴らせるみたいだからな。その隙間を縫ってアンジェの仲間の悪魔、そしてアンジェ、この流れで行こう」
「ん。分かった」
「分かりました」

 


 

 早速ユキさんが弓を連射する。
「ぬっ」
 鉄砲隊で身を守ろうとするが、それは俺のイペタムが倒す。
 紫のオーラが晴れたその瞬間を狙って、黒い人型が飛び出し、信長を拘束する。
「くっ。浅慮、ぞ」
 紫のオーラが体内から滲み出始める。

 


 

「くっ、一手届かない……」
 アンジェはもう三段突きの姿勢だ
 だが、このままでは逃げられる
《私を呼べ、ご主人。そして矢を放たせろ》
 頭に声が響く。切るか、もう一つの切り札
「ユキさん、矢を構えろ。そして、来い、マーイウス!」

 

  to be continued……

 


 

2020/10/08

 

 地面から黒い灰が舞い上がり、一点に集まって人型を取る。
 金髪に赤い目、鋭い爪に牙、その姿は――
「皐月の悪魔!」
「皐月の悪魔! くっ、こんな時に」
「あれも、敵?」
 三人が三者三様の反応をした。

 


 

「全員、信長相手に集中して!」
 紫のオーラで黒い人型が弾き飛ばされる。
「今だ」
 再びユキさんの矢が放たれ、周囲のオーラを吹き飛ばす。
 直後、皐月の悪魔が腕から赤い液体を出現させ、紐のように長く伸ばしてから固形化させ、信長を縛る。

 


 

「くっ、黒妖精どもの瞬間錬金か」
 よし、もう一度動きを止めた。
 地面を蹴ったアンジェの白い光を伴う三段突きが信長に突き刺さる。
「くそ、魔を弄んでおいて聖人顔する源氏の残党どもめ、呪いあれ」
 そのよく分からない言葉と共に、信長だった男は倒れた。

 


 

 それからしばらくして、男はようやく自供を始めたらしい。
 俺はその間、イペタムと皐月の悪魔についての説明と、その後始末を任されたため、詳しい事は後から聞いた話になるが。
 元々の動機はやはりというか信長の力を利用する事だったようだ。

 


 

 ところが信長の力をその身に下ろした瞬間から、今まで、一切の記憶がないらしい。
 細かい理屈は分からないが、織田信長の力を借りる事は、そのまま織田信長に乗っ取られる事でもある、というのは間違いなさそうだ。
 さて、そして次は俺の話、だよな。

 

  to be continued……

 


 

2020/10/13

 

「さて、なんで取り調べへの立ち合いもそこそこにこっちに連れてこられたかわかるね?」
「えっと、イペタムとマーイウスのこと、ですよね?」
 どちらも、無断で手札にした二人だ。
「マーイウスというのは、あの皐月の悪魔の事?」

 


 

 確か、ローマ暦で5月のことだったよね? と中島巡査部長
「はい。結論から言うと今回初めて契約したわけじゃなくて、ずっと契約した状態でした」
「というと?」
「皐月の悪魔に逃げられて病院で目覚める直前、自分の体から白い線が二本伸びてるのを見たんです」

 


 

「シルバーコードか」
「はい」
 シルバーコードは肉体と魂を結びつけるものとされていて、また同時に悪魔はその結びつきに寄生するとも言われている。
「つまり君はその時点で二体の悪魔と契約をしていた。一体は皐月の悪魔だとして……まさか」

 


 

「はい。イペタムはロアでも亡霊でもロア化した武器でもありません。あれは、悪魔です。本人の談によれば"はぐれ悪魔"だそうですが」
「あぁ、アンジェ君から聞いたことがある。上級悪魔を失ったまま生存してそのまま力をつけた下級悪魔の事だね」

 


 

「なるほど。イペタムの事は分かった。君が最後に握っていたから、契約が成立したんだね?」
「はい。保管場所から脱出したのも、ディースとの戦闘中に呼んだからでしょう」
「なるほど。ならそちらはそれでいい。皐月の悪魔とはいつどうやって契約したんだ?」

 

  to be continued……

 


 

2020/10/15

 

「あー、そっちは実はかなり複雑でして」
「まぁ皐月の悪魔は謎の強さを発揮していたしね、アンジェの退魔の力すらかなり効果を減衰させたというし」
「あぁ……」
 なるほど、アンジェのあの力はそういう性質なのか。マーイウスの真実を知ってる俺は少し推測出来た

 


 

「まぁ、分かるところからで良いから、話して」
「はい。まぁ結論から言うと、俺、あいつと初対面のタイミングであいつのことを吸血鬼って呼んだんですよね」
「あ、それで思い出した。君が一月寝込んだ件、イペタムと言葉を交わしたことで消耗したわけだ」

 


 

「あ、その通りなんでしょうね」
 なるほど。あのタイミングで契約を結んだ形になってたのか。夜霧の由来もイペタムから引き出してた力なんだろう。
「で、話を戻しますけど。その後、皐月の悪魔が霊核を砕かれる直前、俺が吸血鬼と呼んだことについて」

 


 

「まさか、自発的に同意したのか、自身が吸血鬼だ、と」
「えぇ。そうだと思います。直後に俺の命を狙ったのは、その契約を即時解除するためでしょうね」
 ーー「残念だな、ご主人!」
 あれは本当に俺がご主人様になってることへの言及だったわけだ。

 


 

「つまり、皐月の悪魔は吸血鬼として半ばロア化しつつ、君とシルバーコードで繋がってる状態だったわけだ。で、どうやって仲間に?」
「だから、名前をつけてやったんですよ、マーイウスって」
「それに同意した、と。ふぅむ、君は名付け親型の言語魔術師なんだな」

 


 

「言語魔術師?」
「言葉を弄することで、魔術のようなものを引き起こす存在のことを魔術師はそう呼ぶらしい。名付け親型はその典型の一つで、相手に名前を押し付けることで自分の使い魔にする」
 そこまで大それたことでもないんだがな。

 

  to be continued……

 


 

ハロウィン編?へ

 


 

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