聞き逃して資料課 皐月の悪魔編

  

2020/05/01

 

「おはようございますー」
「おはよう、中国君。いやー、まさか、新元号発表が発表された次の出勤日にはもうその新元号が適応されてるなんて、驚きだね」
 笑顔で笑いながら中島巡査部長が迎えてくれる。
「本当ですよ」
 まさかまる1ヶ月寝たきりとは。

 


 

「で、まず最初に所属の話をしておこう。また追って大膳警視から通達されると思うけど、中国巡査、君はうち、中島班に配属になる。まぁいよいよ正式にってところだね」
「そうですね」
 これまでもずっと中島巡査部長の指揮下だったからな。

 


 

「そして、だ」
 中島巡査部長が顔を引き締める。大事な話なようだ。
「君の魂が想定より多く失われている件だ」
 命に関わる大事な話だ。
「僕は美琴、妻とも相談していくつかの仮説をたてた。一つ目は君が過去に関わった何かが~」
 奥さんは美琴と言うのか。

 


 

「というわけで、ここ三つ目の仮説が有説だと考えてるからその方向で行こうと思うんだけど、どうかな?」
 嘘だろ、聞いてなかった。
 命に関わる選択だ。流石に聞き直すべきだろ、俺!
「はい、それでお願いします」
 無理。ま、なんとかなるさ。専門家の見解だ

 


 

「よし、決まりだ。鈴木巡査を三つ目の事件の現場に待たせてるから、早速向かうとしよう。ニッカリ青江の写し……、あ、名前とか決めた?」
「あ、はい。夜霧、と」
「いい名前だね。

 


 

「了解しました!」
 夜霧を携行し、か。また荒事になるかもしれないってことだよな……。
「じゃ、僕は表に車を回してくるから、表で待ってて」
「了解!」
 中島巡査部長が去ってから気づいた。
「あ、そいや、仕事辞めるか悩んでたな、俺」

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/02

 

「事件の概要を説明しよう。グローブボックスに中に資料があるから見て」
「はい。ん、と、これは……捜一の捜査資料ですね? ……複数ある……。捜一は別々の事件として捜査してるみたいですが……。GH案件として繋がっている、と?」
「流石、話が早い」

 


 

 これでも元捜一なのだ。これくらい当然。
「その五つの事件。……いや、事件ですらない。それらの事件は全て」
「はい。服毒自殺とされてるみたいですね。わ、組対の資料だ」
 組織犯罪対策部。暴力団の取り締まりを行う組織だ。

 


 

「基本うちは刑事部の資料係だから、それを得るのは苦労したよ。井石警部補には本当頭が上がらない」
「ここが警視庁じゃなかったら良かったんですけどね」
 一般的に暴力団の取り締まりは捜査四課、つまりうちと同じ刑事部の仕事なのだが、警視庁では独立している。

 


 

「ま、そんな感じで、うち以外被害者達に自殺するための薬を売った、自殺幇助を行った人間を捜査してる」
「大膳警視の見立ては違う、と?」
「いや、その上。宮内庁直々のお達しでね。なんとしても魂喰いの犯人を炙り出して、討滅依頼を出せる状態にしろってさ」

 


 

 上。いや、宮内庁が上なのは知っていたが、そこまで直々に言ってくるものなのか。
「うん。なにせ僕の役目の一つだからね。宮内庁の言葉を伝えるのは。宮内庁霊害対策課のトップは中島美琴、つまり、僕の妻だから」

 


 

「ま、そんなわけでその資料はほぼ無駄なんだけどね。一応頭に入れといてよ。全く覚えてないと、現場の捜一とか組対とかの刑事に怪しまれるからね」
「わかりました!」
 資料の暗記は得意だ。現場に着くまでに終わらせよう。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/04

 

 その後、二日間かけて全ての現場を回った。
「どう思った?」
「とりあえず、何も知らない俺からすると、捜一の判断は妥当だってところですね。全て犯行現場は被害者の自室。事件当時、扉や窓は施錠されていた、つまり密室。おまけに被害者に共通点はない」

 


 

「なるほど。流石元捜一にいただけのことはある」
 左遷されたけどな。
「けど、一つだけ間違いがある。被害者達に共通点はない、との事だったけど、共通点はあるんだ」
 地図が張り出される。奇妙なギザギザした赤い線とその途中に赤い丸が刻まれている。

 


 

「これは、龍脈か何かですか?」
「お、鋭いね。そう、これは龍脈。で、この上に犯行現場を重ねる」
「全て一本の龍脈上?」
 そう。全ての犯行現場は綺麗に赤いラインの上にあった。
「龍脈、気の流れは実在するんですか?」

 


 

「うん。本当にこの地球全体を気が巡ってる。まぁ気っていうか循環する資源サーキュレタリィリソースって呼んだりするらしいけどね。まぁ地球の血管と血液みたいなものだよね」
 なるほど、分かりやすい例えだ。
「待ってください、と言うことは…………」

 


 

「気付いたみたいだね、その通り。事件は綺麗に龍脈の流れに沿って起きていて、方向も決まってる。つまり、次に事件が起きるのは、ここから先の何処かだ。厳密にはこの龍穴を超えないだろうけど」
「その範囲の民家は……それでも、こんなに」
 張り込むのは無理だ

 


 

「その前に気付かない? その民家の中に、見覚えのある建物があるよね?」
 言われて気付くこれは……。
「俺の家?」
「そ。君の魂の異常な不足も寝てる間に被害にあったと考えれば納得がいく」
「そうか、だとしたら!」
 まだ絞り込める

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/05

 

「俺の家はここだ。そしてここから龍脈は水路に伸びてる。で、次の龍穴はここ。間の民家はごく僅かだ。これなら張り込みが出来る!」
「お見事。そう言うわけで、張り込み作戦と行きたいんだよね」
 中島巡査部長が嬉しそうに頷く。

 


 

「えっと、これ俺が推測する必要なかったですよね?」
「僕らの見解を"長話"として聞かせるよりこうやってやりとりした方が頭に残るだろ?」
 ドキッとした。もしかして、中島巡査部長は俺が長話をつい聞き流してしまう癖があることを把握している?

 


 

「と、言うわけなんで、僕、鈴木君、中国君、山本君、夕島君で張り込みを行う。夕島君、アレを」
「こちら、鍵開けの札です」
「使えばその事が僕らには分かるか、違法行為には使えないけど、まぁ盗まれないようにねー」

 


 

 その後のやたら長ったらしい取り決めについての話はつい聞き流してしまったが、中島巡査部長が各メンバーの担当を地図に記入してくれたので全てを警察手帳にメモして自分の担当に向かう。

 


 

「やっぱり中島巡査部長には気付かれてる、のか?」
 なんとなくそんな気がする。
 だとしたらなぜ黙っているのだろうか。分からない。
 分からないが、結果的に中島巡査部長相手に限れば、最近はよく話を聞けている。生まれて初めてかもしれない。

 


 

 張り込みといっても普段は退屈なもので、そんなことをずっと考えながら張り込みをしていた。
 翌日5/5。中島巡査部長から連絡があった。
「新たな事件発生だ」
「どこですか!?」
「奴は引き返した! こちらの想定が誤っていた」

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/06

 

「第一発見者はアパートの管理人。特に悲鳴などはなし。死亡推定時刻は昨日の……」
 お決まりのやりとりが聞こえてくる。
「中島巡査部長」
 中島巡査部長の姿を見つけて声をかける。
「中国君か。聞いての通りだよ、奴は引き返したらしい」

 


 

「龍脈の中を引き返す、そんなことあるんですか?」
「分からない。龍脈の中を自由に潜航する、そんな存在がいるはずがないとは、少なくとも言えないね。ともかくこの件は重要な状況の変化だ。ただちに宮内庁にも連絡する」
「宮内庁に?」

 


 

「あぁ。こうなったら、討魔組を総動員してでも、この龍脈上の民家全てを張り込むしかない。中国君は出来るだけ速やかにこれまでの経緯を報告書にまとめて」
 そう言うと同時、すぐに中島巡査部長が車に向かう。
「中島巡査部長は何を?」

 


 

「取り急ぎ、宮内庁霊害対策課に事情を説明しに行く。書類が一通り出来たら、速やかに行動に移せるようにしたいからね」
 あ、大膳警視にも伝えといてー。と言うと同時、車は発進して行った。
「報告書か。急がないと……」

 


 

「以上が、中島巡査部長の判断です」
「うん、中島巡査部長がそう判断したなら、君もそれに従いなさい。こちらも準備をしておく」
「それで構わないのですか?」
「GH案件については中島巡査部長の方がプロフェッショナルだからね、彼の判断を支持する事にしている」

 


 

 なるほど。大膳警視は表向きのリーダー。裏のリーダーが中島巡査部長ってわけだ。
「では、報告書の作成に移ります」
「頼んだよ。詳しい書式などは夕島巡査に聞くといい」
 よし、これは地味だが重要な仕事だぞ。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/07

 

 俺は今、皇居の中にいた。
 坂下門の北側、そこは宮内庁の庁舎である。
「ではこれより、これまでの捜査概要と作戦の概要を警視庁刑事部刑事総務課資料2係の中国巡査よりご説明頂きます」
 え、俺? 聞いてないんですけど。マジか。

 


 

「えー、本件は連続殺人事件です。いずれも密室状態、一切の外傷がなかったことなどから、捜査一課はこれを自殺と判断。現在は組織犯罪対策課が未知の薬物販売の線を追っています。しかし、魂の異常な減衰などから、本件はGH案件にあたると我々は考えました」

 


 

「こちらの図をご覧下さい。東京直下を通る龍脈T53です。本殺人事件は全てこの龍脈上で発生していました。この事実から我々はこの龍脈上を移動する何者が犯人であると仮定し、張り込みを行いました。我々の人数でも可能だと判断されたからです」

 


 

「しかし、次の事件はここで起きました。そう、龍脈上ではありますが、遡っています。この事実が表すのは、即ち、星を上げるには、龍脈上の全ての民家を洗う必要がある、という事です。
 以上の事実から、討魔組と宮内庁レイガイ対策課の協力を求めるものであります」

 


 

「討魔組にも、ですか」
 それに対し最初に口火を開いたのは、アンジェだった。そういえば討魔組の代表をしてるんだったか。
「は、はい」
「宮内庁の人員はお世辞にも多いとはいえない。その範囲をカバーするには相当数の討魔組人員が必要だと思いますが……」

 


 

「討魔組は仕事の斡旋が可能なのみ。月夜の天下ならともかく、今となっては討魔師達を私の一存で動員することはできません。つまり、相応の報酬が必要になります。これは宮内庁が払うのですか。それとも」
 要請した我々が払うのか
 分からない

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/08

 

「えー、それはですね……」
 いや、マジで聞いてないぞこれは。中島巡査部長の方に視線を向けるがニコニコしている。
「えーっと……」
 宮内庁霊害対策課の人員の少なさ、討魔組の制約、何も知らない。そもそもGH案件に充てた予算ってどう報告されてるんだろう

 


 

 中島巡査部長の表情からすると、既に伝えられているんだろう。
 まずい、聞いてなかったことをどうやって乗り切る? 選択肢としては宮内庁か警視庁の二択。
 イチかバチか、言ってみるか。でも、違ったら評価が下がることは避けられない…………。

 


 

 ええい、ままよ。
「き、基本の原則通り、報酬は宮内庁の予算から出ます」
 言ったぁぁぁぁぁぁぁ。周囲の空気を伺う。
「ん。ということに決まったから、よろしく、美琴」
「分かりました。ではこの件は宮内庁持ちと言うことで。よろしいですか、アンジェ」

 


 

「えぇ。ありがとうございます」
 アンジェが着席する。
 乗り切った? にしては、なんか空気がおかしいような。
 ともかく、そのまま細かい配置については志願者が集まり次第と言うことになり、今日は解散となった。

 


 

「いやー、ありがとねー、宮内庁って言ってくれて」
 意味深すぎる発言。まさか?
「俺がどっちを言うかで決めるって約束を!?」
「うん、正解。正解が出たところで言われてもらうけど。分かんないことはちゃんと聞いてくれないと困るよ」

 


 

「……はい」
 やはり中島巡査部長には完全に見抜かれていたのか。
「ちなみに、GH案件ってのは警察で使うための隠語だから、GH案件絡みの人しかいない場では、霊害ってのが正式な呼び名だから。幽霊の霊に被害の害ね」
 GH、ghost hazardか。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/09

 

 5/9。準備が整い、討魔師達が集められた。
「あれ、やけに見知った顔が多いけど、気のせいかな?」
「マモルさん……。えぇ。これ以上被害を拡大させないためにも早急な人員集めが必要でしたからね。結局、個人的に交流のある仲間と、借しのある手合になりました」

 


 

「これでは、月夜の天下の時と変わりませんね」
 ため息をつくアンジェ。
「いやいや、いいじゃないの。今回のように即応性が求められるときには事実助かる。君が月夜の天下を否定したがる気持ちは分かるけど、そう言った側面は必要だよ。ね、中国君」

 


 

「は、はい。即応性が求められる場面では、クリーンさよりも確実さが優先される事もあるかと!」
 月夜の天下、恐らく先代の代表とかの事だろう。癒着とかが強かったのだろうか。
「ありがとうございます。そういっていただけると、少しは元気が出ます」

 


 

 中島巡査部長から小突かれる。「よし、ちゃんと聞いてたな」という事だろう。少し危なかったが。
「主要メンバーを紹介しておきましょう。左から、真柄、上杉、虹野、月夜、中島、柳生、宮本、宝蔵院、の討魔師です」
 名だたるメンバーだな。いくつか気になるが

 


 

「月夜の天下は終わったと言ってませんでした?」
「討魔組の代表が代わっただけで、月夜家は健在ですから」
「なるほど。で、中島と言うのは?」
 中島巡査部長を見る。
「うん。うちの娘。中島 アオイだよ」
「本来は宮内庁の人員なので数合わせですけどね」

 


 

「で、虹野というのは?」
「あぁ、カラ……。討魔組の一員ではないのですが、実力はありますのでお願いしました」
「うん。今日はただ加州清光かしゅうきよみつを振るうだけの討魔師」
「なるほど。だいたいわかりました。では、作戦説明に入りましょう」

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/10

 

「この後配置について詰めることになるけど、中国君は、誰か任意の討魔師と同行してほしい。それで学べることも多いと思うからね」
 中島巡査部長は誰か気になる人はいるかい? と続ける。
「そうだなぁ。まず、あの加州清光は気になりますね」

 


 

 加州清光。新撰組・沖田総司の刀として有名な刀だ。戦場で使えなくなったことで捨てられたらしく、その後どうなったか一切記述のない刀で、なぜあの虹野なる家にあるのか、興味深い。
「けど、柳生も気になる」

 


 

 柳生と言えば、数多くの剣豪小説で主役を務める柳生十兵衛や、その父宗矩で有名だ。
 江戸時代当時最強なんて言われたりもするほどで、現代の柳生家の人間がどんな人物が興味は尽きない。
「それから、宮本も気になるな」

 


 

 宮本武蔵。知らない人間はいないだろう。俗に言う二刀流。二天一流を極め、これはフィクションらしいが、ライバル、佐々木小次郎をやや卑怯な手で討ち倒した。勝ちにストイックな武士だ。
 現代の宮本家も勝てば良かろうなのか。
「それから、太郎太刀ですね」

 


 

 真柄家の討魔師は太郎太刀と呼ばれる五尺三寸もある大太刀を使うらしい。一尺が30cmほどだから、160cm、人の高さほどある事になる。
 そんな刀をどうやって扱うのか。これまた大変気になる。

 


 

「うーん、そうですねぇ……」

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/12 補足

 

同率が3つ並んだため、
 1-2:柳生
 3-4:宮本
 5-6:真柄
 と決めてダイスロールした結果、3となりましたので

中国巡査は宮本家を選びました

 

 

 

 

2020/05/12

 

 5月11日。宮本貞次さだつぐ殿と張り込みが始まった。
「……えと、質問とか、大丈夫かな?」
「ただ待ちぼうけも退屈ですからな、構いませんよ」
 話が分かる。
「武蔵には血の繋がった子孫はいないと聞いたんだけど」
「ええ。私達は伊織の子孫にあたります」

 


 

「なるほど」
 伊織、武蔵の養子か。
「流派は二天一流を?」
 まぁ二本刀を下げてるしな。
「……。その質問には答えられません。答えられるのは、五輪書に基づく戦い方を伝承している。ということのみ」
 五輪書。武蔵が剣術の奥義にについて記したとされる本だ

 


 

 確か原本が焼失していて、今残っているのが本当に元の通りかの確証はないんだったか。二天一流という名前も五輪書に基づく名前だから、その辺の事情だろうか。しかし、どのみちその五輪書を使っているなら同じだと思うが……。
「それぞれ刀は何というんです?」

 


 

「まず、こちらは、金重かねしげの刀。銘はない故、無銘金重などと呼ぶ」
 今日のために調べた事だが、武蔵の使う片割れも銘の無い金重だったらしい。金重の作というのは合わせたのか。
「そしてこちらは、和泉守藤原兼重いずみのかみふじわらかねしげ

 


 

 これも同じ。実際に武蔵が使っていたものは武蔵自身が拵えを作ったと言われていて、武蔵拵などと言われるが、それはもう現存していない。
「武蔵殿が自ら拵えを作ったというそのものですよ」
「なっ」
 こちらの表情を読んだのか、そう言ってふっと笑う。

 


 

 現存していないのではなく、宮本家がずっと隠し持っていたというのか。
「ま、まさか……」
 先ほどの違和感を思い出す。まさか、五輪書も、本当のオリジナルが宮本家には存在する?
「きゃー!」
 問い詰めようとした直前、部屋から悲鳴が木霊した。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/15

 

 慌てて部屋に突入する。
「大丈夫ですか?」
 倒れている女性に駆け寄る。
「…………そこか」
 貞次さんが、唐突に刀を抜き、何もない虚空に振るう。
「なっ!」
 ガキン、と刀が何かに衝突した音がして、その場に人型の何かが姿を表す。

 


 

「何をした!?」
「私相手に欺瞞効果は効かぬ、というだけの話」
 二本の刀が人型の男に振るわれる。
「くっ」
 明らかに貞次さん優勢なのを良い事に、相手を眺めてみる。
 金髪の男のようだな、悪魔のような尻尾、頭から生えている蝙蝠のような小さな皮膜の羽。

 


 

「悪魔……なのか?」
「くそ、魔力も充分じゃないってのに……食らえ!」
 悪魔の周囲に緑色の光が生じ、そこから無数の蝙蝠が飛び出す。
「こっちにもか! こりゃ、悪魔ってより吸血鬼ヴァンパイアだな!」
「中国殿は彼女を連れて外へ」

 


 

 貞次さんが俺と吸血鬼の間に割り込み、無数の蝙蝠を切り刻む。
 すごい。あの数を完全に捌いて、一匹もこちらに来ない。
 よし、今のうちに。
 倒れている女性を抱え、家の外に飛び出す。

 


 

 やがて、中島巡査部長とアンジェそして、中島巡査部長の娘さんが駆けつけてくる。
「奴は?」
「なんか吸血鬼とか悪魔みたいな見た目の男です」
「上級悪魔か!」
「だとしたら、流石に貞次殿一人でも厳しいでしょう」
 三人が頷き合って、部屋に飛び込む……

 


 

「不要だ」
 前に貞次さんが出てくる。
「上級悪魔は?」
「目眩しの間に逃げた」
「逃げた? 討魔師一人を相手に、ですか?」
「うむ」
「上級悪魔の逃走、魂食い……もしかしたら、僕らは勘違いをしていたかもしれない」
 中島巡査部長がシリアスに締める。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/16

 

 5月16日(木)宮内庁に主なメンバーが集まった。
「まず今回の事件の原因は悪魔だったということが判明した、と報告させていただきます。上級悪魔。5月に発見されましたので仮に「皐月の悪魔」と呼称する事になりました」
 中島巡査部長の用意した原稿を読み上げる。

 


 

「皐月の悪魔。まぁ現状命名の手掛かりもないとはいえ、相変わらず月の名前命名ですか。また情報が混ざりそうです」
「まぁ以前に皐月の悪魔って名付けられたのはもう5年は前だしな。流石に悪魔は珍しい」
 出席者たちが思い思いの発言を繰り返す。

 


 

「改めて確認するまでもありませんが、上級悪魔はこことは異なる位相に住み、この位相に配下たる下級悪魔を"召喚"。他の上級悪魔と陣取りゲームのような戦争を繰り返す存在です」
 そうだったのか。中島巡査部長、俺がちゃんと説明を聞けるように俺に読ませたな……

 


 

「基本的に上級悪魔はかなり手強く、手練れの討魔師であっても一対一では上級悪魔が有利とされています。これは上級悪魔そのものの強さはもちろん、戦闘に合わせて下級悪魔を随時呼び出し、常に一対多数を強いられるからです」

 


 

「然り。上級悪魔と単独でやり合うなど、現存する討魔師としては我らが代表殿以外には困難でしょうな」
「私であっても可能であれば二人以上で当たりたいですね」
 え、アンジェってそんなレベルで強いの。本人も強くは否定しないし。

 


 

「ところが、今回の上級悪魔は手練れとはいえ一人の討魔師に過ぎない宮本氏を相手に僅かな下級悪魔を目眩しに撤退。
 以上の事から、当該上級悪魔は領地を失い弱っている状態と見られる。討伐の好機である」
 その言葉を聞き場が色めき立つ。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/17

 

「領地を失い弱っている? 討魔組にはここ数週間の間に悪魔の領土を制圧したという話は聞きません。という事は」
「宮内庁も同じくです。となると、対戦相手の悪魔に破れ、逃走中、と言ったところでしょうか」
「労せずして上級悪魔を一体減らせる好機」

 


 

 なるほど。上級悪魔は手練れの討魔師でさえ最低二人で戦う必要のある相手。しかもそれは一対一の話で取り巻きまで考えるとより大変だ。
 ところが、件の悪魔は他の悪魔のおかげで取り巻きもほぼいない弱った状態。
 漁夫の利、という奴だ。

 


 

「となると気になるのは対戦相手の悪魔か」
 思わず呟く。
 一同の視線を浴びる。
「否。領土を得た悪魔は魔力潤沢、陣地万全。打倒はおろか、奪還すら能わず」
 柳生家の討魔師が首を振る。なんだってそんな古風な言葉遣いなんだ。

 


 

「とはいえ、今がチャンスである可能性はあります。悪魔も龍穴を得てすぐに陣地に出来るわけではないし、陣地の構築にも時間はかかります。少なくとも完成しきった陣地を狙うよりは可能性があるかと」
「代表殿が仰るのならば」
 アンジェの言葉に柳生が肯く。

 


 

「二正面作戦だな。腕が鳴る」
 と拳を合わせてやる気を示す真柄家の討魔師。
「いやいや、冷静に考えなよ、フブキ。皐月の悪魔を迎え撃つには前みたいに張り込む必要がある。もう一人の黒妖……悪魔を狙う戦力なんてないよ」
 虹野さんが呆れたように突っ込む。

 


 

「そ、それもそうか……」
「いえ、宮本家の討魔師が一度その悪魔を見ているのです。奴が自ら出て来るところを待つ必要はない。ですね、貞次」
「代表殿の言う通りです。私なら、奴を龍脈から引きずり出せます」

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/19

 

「5月19日土曜日、10時。全員の集合を確認、Bチームの準備完了待ち、と」
 警察手帳にメモを取る。中島巡査部長にAチームの作戦の推移をメモするように言われたのだ」
 Aチーム、皐月の悪魔討伐作戦のチームは俺を入れて4人。

 


 

 まずは、作戦の要、恐らく血の力なる討魔師の家系にそれぞれ伝わる固有能力で龍脈から皐月の悪魔を引きずり上げる役目を担う宮本貞次。
 俺の側について俺へ向かう攻撃を全て払い除けると豪語する防御担当の宝蔵院朱槍ほうぞういん・あかり

 


 

 続いて、攻撃担当の柳生彰俊やぎゅう・あきとし。ということは、殺人刀の方の柳生か。
 強敵と言われる上級悪魔を相手取るにはいささか少ないような気もするが、月夜家の天下時代にベテランだったほどの大ベテランだからむしろこれ以上は不要、とのことだ。

 


 

 当時を知らない俺にはわからないが。月夜家の天下とやらは、討魔師達からすると随分な黄金時代だったらしい
「それにしても……」
 魔界から転生してきそうなメンバーだ。月夜家から直接指示を受けて戦っていたほどと聞くが、月夜家とは森宗意軒か天草四郎時貞か

 


 

 そんな愚にもつかない考え事を打ち破るようにスマートフォンが鳴る。
「こちらは準備完了。いまから1分後。10時10分に攻撃を開始する」
「了解です」
 急いで全員に通達する。
 別に共謀してる二勢力ではないので同時攻撃する理由はない気もするが、念のためだ。

 


 

「では、始めよう」
 全員で時間を合わせた腕時計の長身が10を指すと同時、貞次さんが二本の刀を抜き、一歩前に踏み出し、振るう。
 ガキンと、確かに何かが切断された音がする。
 直後、その場所に皐月の悪魔が現れる。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/20

 

「なっ!? 僕は龍脈上を潜航していたはず、いつの間に地上に!?」
「霊害、お命頂戴致す」
 混乱する皐月の悪魔に柳生が容赦なく刀を振るう。
「ぐっ、討魔師ども、何か策を弄したか!」
「答える義理も道理も無し」
「くそっ、人間如きに討ち取られてたまるか」

 


 

 皐月の悪魔が腕を振ると、血のような赤い液体が腕の先から飛び出し、大鎌の形を取り、黒く固まる。
「笑止。もしお前が一秒でも長く生存を望むなら、攻撃のための武器ではなく、防御のための武器を作るべきだった」
 が、柳生は怯まない。一人で終わらせるのか?

 


 

「ところで、片目がめっちゃ赤く光ってるけど。側から見ると柳生の方が化け物に見えるぞ」
「あれが柳生家の血の力。確かに化け物じみた力だ。だが、あれを化け物と言うのであれば、この場にいる人間はあなただけでしょうね」
 宝蔵院さんが答える。

 


 

「この場にいる三人。全てが化け物級だって?」
「もちろん、この場にいる三人は一際化け物でしょう。あらゆる弱みを見逃さぬ瞳、文字通りの一切両断、あらゆる攻めを防ぎ切る短期未来予知。自分でことでも無いが、一騎当千の名前にふさわしい討魔師、そして血の力」

 


 

「しかし、そもそも、血の力そのものが化け物の力なのです。討魔組の討魔師である、ということは化け物である、と言い換えることも出来るでしょう。
 だからこそ、我々は真に化け物にならないように気をつけねばならない。心まで化け物になってしまってはいけない」

 


 

「どんな力も使い方次第、みたいな話か?」
「そう言い換えても良いでしょう。新たな討魔組の最大の掟です」
 そう言う宝蔵院さんはどこか誇らしげだ。
「くそっ、仕方ない!」
 皐月の悪魔が天に手を向ける。指の先から膨大な赤い液体が溢れ出す。

続く

 

2020/05/21

 

 竜巻のように渦を描く赤い液体から、四方八方に赤い塊が飛び散る。
「ようやく私の出番か!」
 宝蔵院さんが十字槍を構え、こちらに飛んでくる赤い塊を一つ残らず撃ち落とした。
「宮本殿!」
「分かっておる」

 


 

 最初に刀を振って以降、後ろに控えていた宮本が前に踏み出す。
「柳生!」
「ここに」
 柳生を踏み台に大きく飛び上がる。
「この程度で本気とは、魔力不足とは言え拍子抜けだ」
 渦を巻く赤い液体に刀を振るう。
 なんらかの核でも切断したのか、それは消失する

 


 

「なっ! お、おのれ。魔力さえ、魔力さえあれば!」
「血を媒介とした任意の形状変化、蝙蝠ベースとした小型の使い魔群。
 全力であれば厄介な相手だっただろうが。運がなかったな」
 狼狽する皐月の悪魔に柳生の刀が突き立てられる。

 


 

「倒した、のか?」
「霊核を砕いた。悪魔界に逃げる事は叶わなかったはずだ」
 悪魔界……、悪魔はこの世界に対戦のために来てるんだったか。不思議な話だ。なんでわざわざ自分達の世界ではなくここで……。
 ふと柳生に視線を向けると、何かを取り出していた。

 


 

「えっと、それは?」
「? 目薬だが? 拙者の能力は発動中、常にまなこを開いている故に、殺陣の後にケア……じゃなかった手入れをせねば、ドライアイ……ではなく、眼乾燥に陥ってしまう」
 なるほど、強い能力でも欠点はあるんだな。

 


 

「ところでなんでわざわざ横文字から日本語に言い直してるんです? 喋り方も古風ですし」
 空気が固まったのを感じた。まずい、触れちゃ不味かったか……。
「……その方が討魔師らしくカッコいいと思ったからです」
 なんか小声で言ってるな、聞き取れないが

 


 

「えっと?」
「その方がかっこいいと思ったからです! この話はこれで終わりです。
 ゴホン。それでは、我らが神のいらっしゃるところに戻るとしよう」
 なんかキレ気味に怒鳴られてしまった。しかし、かっこいい、か。まぁ、大事な事だな。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/22

 

 全員が油断していた。
 俺はもちろん百戦錬磨の柳生、宮本、宝蔵院さんでさえ。
「残念だな、ご主人!」
 皐月の悪魔の腕が俺の腹を貫通していた
 ——なんっ……
 で、という言葉は出てこなかった。
「心臓はもう少し上か。人間は分からぬ」

 


 

「貴様!」
 その後速やかに三人が気づき、そして真っ先に動いたのは流石大ベテランと呼ばれるだけはある、宮本だった。
 片方の刀、無名金重が皐月の悪魔に突き立てられる。
「ぐっ」
 皐月の悪魔はそれに苦しんだように見えた。

 


 

 が、次の瞬間、黒い灰と化して消滅し、少し離れたところに出現する。
 傷ひとつない。
「どうなってる? いくら悪魔でもあり得ない回復力だ。なにより、さっき、確実に霊核は砕かれたはず……」
「そんなことより、はやくちゅうこく巡査を病院へ」

 


 

「あぁ。ここは退くとしよう。宝蔵院、しんがりを」
「お任せを」
 宮本が俺を担ぎ上げる。宝蔵院さんが一人で皐月の悪魔に十字槍を向け、突き立てる。
「おっと」
 さっきの悪魔はそれを軽々と避け、そして言う。

 


 

「まぁまぁ、ここは退くんでしょ? 僕はこうみえて生存優先主義でね。僕も魔力が少ないからここでさらに戦闘して他の悪魔に隙を見せたくない
 だから、退かせてあげるよ。ほら、先に僕から行くよ」
 そう言うが早いか、皐月の悪魔は蝙蝠のような皮膜の羽を広げる

 


 

「まて!」
 とっさに宝蔵院さんが踏み込むが、向こうのほうがはやい。
「皐月の悪魔討伐作戦は、失敗か」
 そんな誰かの声が、俺の意識が落ちる前に最後に聞こえた声だった。

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/23

 

 暗い。ここはどこだ? 見渡す限りの暗黒。足元が地面じゃない、浮いてる? アニメとかでよくみる深層世界的なサムシングか?
 銀色の線が二本何処かへと伸びている。
 なんだこれ、根本はどこだ?
 銀の線を引っ張る。
「いでっ」
 自分の胸から伸びていた。

 


 

 な、なんなんだこれ。
 あ、シ、シルバーコードってやつか?
 俺、幽体離脱してるのか??
 冗談じゃない。俺はまだ死にたくないぞ。
 これがシルバーコードだとしたら、魂と肉体を結んでるはず。これを辿って肉体まで戻ってやる。

 


 

 …………なんで二本あるんだ?
 当たり前だが俺の肉体は一つしかないはずだ。
「ええい、ままよっ!」
 適当に左のシルバーコードを選び、ひたすら辿っていく。
 どんどん辿っていく。
 とりあえず腕に巻き付けた余ったコードがどんどん束になっていく。

 


 

「おれ、帰れるんだよな」
 思わず不安が漏れる。
 ——いきなり呼ばれたと思ったらそんなことか!
 直後、そんな言葉が頭に響いて。目の前に白い光が溢れる。
 堪らず目を閉じる。
 と思って開いたその光源はいつかに見た蛍光灯の光だった。

 


 

「戻ってこれた~」
 ほっと、安堵の息を吐く。
「なんとか意識を取り戻したようですな」
 その声を聞き視線を横に向けると、宮本の貞次さんだった。
「あの時は不意打ちから守れず誠に申し訳ない。もし皐月の悪魔がもう少し人体を熟知していたらと思うと」

 


 

「そ、そんな。大ベテランの宮本さんでさえ気付けなかったんですから、仕方ないですよ」
「面目ない。防御を任されていた朱槍も随分自分を責めておりました。機会があればまた会ってやってください」
 朱槍。宝蔵院さんか
「対霊害対策課に報告してまいります

 

  to be continued……

 

 

 

2020/05/25

 

「今回の件はちゃんと相応の手当てが出るからねー」
 出勤早々中島巡査部長がそう言って迎えてくれる
「ありがとうございます。そんなことより、皐月の悪魔はどうなったんですか?」
「皐月の悪魔、ね。まず、結論から言うとあの事件と僕らはもう関係がなくなった」

 


 

「関係なくなった? どう言うことです?」
「単純な話。業務の範囲外になった。僕らの俗称は知ってる? 対霊害捜査班。名前が実態を表すものだとしたらむしろ、この名こそが正式名称とも言える名前だ
 つまり、仕事は霊害が関与している可能性のある事件の捜査」

 


 

「はい。でも、奴は連続殺人事件の犯人です。再び龍脈上の……」
「残念だけど、奴が龍脈上で殺人事件を犯すことはもう無いよ」
「なんでそう言い切れるんですか、相手は悪魔ですよ?」
「動機がないからさ。推理クイズだ、中国君。奴の殺人事件の動機はなんだった?」

 


 

「えっと、魂喰い……。あ、魔力不足?」
「そう。悪魔とて無意味な殺人はしないよ。奴の魂喰いはあくまで陣地を失い魔力の供給手段が失われたがゆえに起こした事件だ」
「つまり奴は陣地を手にした?」
「流石、話を聞かない以外は優秀と言われてただけの事はある」

 


 

 そんな評価だったのか。
「僕らは君達と同時にもう一体の悪魔の陣地に攻め込んだ。戦闘の推移は基本的に順調だった。ところがね、まさに漁夫の利とでも言うべきか。お互いが弱り切ったところに、皐月の悪魔が現れて、その陣地を自分のものにしたんだ」

 


 

「なっ」
「しかも、どう言うわけだか、圧倒的な強さ。如月君がしんがりを務めてくれたことでなんとか逃げられたほどだ」
「つまり、皐月の悪魔は宮内庁や討魔師が対処すべき案件にシフトした、と?」
「そう言うこと。もし未練があるなら攻略作戦の時に声かけるよ」

 


 

「そんなに落ち込まない。まだ僕らには対処しなきゃならない事件がたくさんある。この件に落ち込んでる暇はないのさ」
 そう言って中島巡査部長は次の捜査資料を持ってくる。
 確かに、一つの事件の結末に一喜一憂はしてられない。捜査一課でもそうだっまた。

 

  to be continued……

 


 

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