聞き逃して資料課 G20編
2020/06/26
キャラクター紹介
6月26日。俺たちは宮内庁で訓練をさせられていた
「来る28日。第14回G20首脳会議が大阪で行われる。魔術的には意味のない会議だが、G20メンバー国に加え、8つの招待国、9つの国際機関が集まる大規模な首脳会議だ。魔術を手用いるテロリストが現れないとも限らない」
「かといって、討魔師は出せない。何も知らない警備員からしたらむしろ不審者だからな」
そりゃそうだ。帯刀してる民間人なんて怪しいに決まってる。
「そこで僕たち対霊害対策班の出番だ。警察官として僕らは警備の任に就くことになる」
「僕らと同じく対霊害組織である自衛隊陸上総隊特殊作戦群霊害対応部隊も参加するが、彼らは実戦経験が著しく低い。実戦経験がものをいう霊害との戦いではこれは大きな差になる。可能な限り僕らで障害は排除するように」
自衛隊にも対霊害部門があるのか。とはいえ自衛隊はそう動けない。実戦経験が少ないのは頷ける。
「これは警備任務という点で10月の大きな戦いの練習にもなる。もちろん、失敗は許されないが」
また10月。何があるんだ。サミットとか会議の類はなかったと思うが
「ともかく、早速明日からは大阪で任務となる。今日はより経験の積んだ討魔師達と修練を行い、可能な限り経験を上乗せするように」
と、言うわけだ。我ながらよく覚えてたな。
「あ、中国君、ちょっと」
修練中、中島巡査部長から呼び出される。
ふふふ、もう長話はどうやら聴けるようになったみたいなんですよ。中島巡査部長の今からの話もバッチリ最後まで聞かせてもらいますよ。
「と、いうわけで、責任重大だと思うが、君に任せたい。頼めるね?」
え?
聞いてなかったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
「はい、お任せください」
「うん、任せたよ、中国隊長」
……え?
to be continued……
2020/06/27
警備が始まる。しかもどういうわけか、俺が現場指揮を取る事になっている。
鈴木巡査も夕島巡査も俺より経験が長いのになぜ……。
「多分ですが、オカルトへの幅広い知識を期待してのことかと。私達は戦闘経験そのものはそれなりではありますが……」
なるほど。相手を見てその弱点や性質を類推できる能力は確かに指揮する上で必要になる。そのために俺は対霊害捜査班に配属されたのか?
「って、山本巡査部長も私の指揮下なんでしょうか!?」
「えぇ。中嶋巡査部長もですよ」
おいおい警察官は階級組織だぞ。
とはいえ、任命されたからにはやるしかない。
などと決意したのはもうかれこれ4、5時間ほど前か。
ふと時計を見る。2時20分……。
「阪神高速道路で事件発生との連絡だ」
井石警部補から連絡が入る。阪神高速道路? 確か今は中国の首脳が移動中のはずだ。
話を聞いたところ、中国の要人を警備して阪神高速を移動中、30代の男性巡査長が運転していた警備車両が急に左へハンドルを切り、横転、右側の側壁に衝突したとのこと。
「それで要人は?」
「要人の後ろを走行していたため要人に怪我などはないとのことだ」
それは幸いだ
「ただ、運転手の話だと、目の前に怪しい本を持った男が立ち塞がった為に急ハンドルを切ったのだ、と。」
馬鹿な、高速道路上だぞ
「確かに霊害の可能性が高いですね。現場を改めます。話を通しておいてもらえますか。俺と……夕島巡査で行きます」
夕島巡査なら神秘的な調査もできる。
「待って、井石警部補、その運転手は他に何か特徴は?」
「ヘルメットを被っていたか、帽子なのか、頭頂部が白かった。目の当たりで光の反射が見て取れた、おそらくメガネ。と言った2点が報告されているな」
「頭頂部が白は脱色した白い髪、メガネ、そして本……。まさか、
「お願いします」
心当たりがあるなら助かる。
to be continued……
本作中で扱われているのは実在する出来事、実在する事件ではありますが
あくまで別世界の出来事であり
この世界の出来事と同一ではないことを改めて説明させていただきます
https://mainichi.jp/articles/20190627/k00/00m/040/199000c
2020/07/01
「人民解放軍だ」
中島巡査部長が呻く。
「え、いやいや、なんで……」
そういえば被害にあったのは中国の要人。そして日本の自衛隊には対霊害組織がある。
「ご想像の通り、中国の対霊害組織だ。この捜査は自分たちが請け負うから立ち入り無用だと」
「なっ、そんなの通るか。ここは日本だぞ」
「中国巡査の言う通りだ、ここは引き下がってもらおう。そもそも意図的に中国語で威圧してるだろう君たち、前にあった時は日本語で喋ってた」
「えぇ、存じております、が。これは総書記からの厳命ですので」
わ、本当に日本語喋った。上手だ。
「中央集権の特権だねぇ。逆にこっちは国際問題にはできない」
日本のトップは霊害を認識していないからか。
「そこまでです。この場はどちらでもない我々が引き継ぎましょう」
プラチナブロンドの女性が姿を表す。
「
「アグハフとは?」
「Anti Ghost Hazard Force、アメリカの対霊害組織だ」
日本語に直すと対霊害軍。まんまだ
「っていうか君達に比べたらまだ中国の方が理屈が通るよ」
「目撃証言をお聞きになられてない? 今回の犯人は安曇の可能性が高い。なら彼らは我々の管轄です」
「そんな取り決めには覚えがないがね」
「奴の持つ螺湮城本伝は元々我々の所有物です当然でしょう」
「我々? AGHFはミスカトニックとは犬猿の仲のはずだが?」
「どちらにせよアメリカには違いないでしょう」
「白々しい、ミスカトニックの成果物を盗める、或いは恩を売れる、そんなところだろう?」
「あー、そんな事より、犯人究明が先でしょうが!」
思わず怒鳴ってしまい、全員から注目を集めてしまう。
to be continued……
2020/07/04
「あぁー、要するに、人民解放軍の皆さんは書記長を狙ったと思われる犯人を特定し、対処したい。AGHFの皆さんはその犯人と目される安曇の持つ魔導書が欲しい。で、こっちはここで起きた事件を調査し、犯人を捕まえたい。なら利害は一致してるじゃないですか」
「調査は三チーム合同でする。最終的な犯人は人民解放軍に引き渡す、犯人の所有物はAGHFに預ける。これで良いでしょう」
捲し立てる。交渉にはいくつかのセオリーがあるがそのうち一つが捲し立てる事で相手を呑むことだ、が、流石にそんな簡単に通じる相手ではない
「犯人の身柄さえ得られるなら我々は構いません、しかし、もし逮捕したのがAGHFだった場合、本当に引き渡していただけるのでしょうか?」
「それはこちらのセリフだ。もしそちらが安曇を逮捕したなら、お前達はそれを良いことに螺湮城本伝を持ち去るつもりだろう」
「元々あれは中国夏王朝のものだ、などと言ってな」と、鋭い眼光で続ける。
ここがアメリカか中国だったら武器を向け合ってるんじゃないかとすら思える
「な、なら各チームから一人ずつの混成チームを作りましょう。この調査だけ関わってるわけでもないですし」
「でしたら、その件、私も噛ませていただきましょう」
甲冑を身にまとった女性が姿を表す。
「スイフト卿」
中島巡査部長が驚いたように声を上げる。
「はい。リチャード騎士団シティ・オブ・ロンドン教区騎士副騎士団長、マーガレット・スイフトです」
「リチャード騎士団はイギリスの対霊害組織ですよ」
夕島巡査が教えてくれる。
「我々リチャード騎士団は安曇殿に対してなんのしがらみもありません。特別な意図を持った二名を押さえるならこちらも二名の方が良いでしょう?」
反論は上がらなかった。
to be continued……
2020/07/06
改めて自己紹介をし合う。
まずは人民解放軍の
続いてAGHFのソフィア・コリンズさん。つまり、ソフィーさんだな。最新式の魔導具なる道具を使い戦闘も調査もこなせるらしい。中島巡査部長も魔術的な調査はAGHFに任せるのが一番確実だといっていた。もちろん、嘘をつかないなら、と言うことだが。
最後にリチャード騎士団のマーガレット・スイフトさん。スイフト卿と呼ぶのが望ましいらしい。中島巡査部長とは2016年ごろにやりあったり協力したりした仲らしい。武器は銀の剣、幽霊に攻撃できる剣、そして妖精銃なるやや古めかしいライフル銃だ。
「他の方は本日はいらしていないのですか?」
「いえマクドネル卿は要人の護衛任務を指揮しております。次点の実力者である私が今日はこちらに。フェア卿は別任務があって欧州です。来たがっていましたけどね」
「いえいえ、立派に仕事をしているようなら安心です」
中島巡査部長とスイフト卿がなにやら恐らく旧友の所在を確認してから、調査開始となった。
「ここが、現場です。我々も魔力計で計測しましたが、特に反応はありませんでした」
王さんがこれまでの捜査の様子を報告してくれる。
「魔力計は今継続中の魔術にしか反応しないからね。私が調べましょう」
ソフィーさんが機械のようなものを取り出し、一部を取り外して耳に掛ける。モノクルのような見た目だ。
「
片耳と片目を覆う機械が紫色に発光する。
to be continued……
2020/07/07
機械の先端、モノクルのレンズにあたる部分に紫色の円とレディクルらしき表示が出現する。まぁ要は紫色の非実体のレンズそのものと、その中央に十字の記号が出現した、と言うことだ。
「これは……幻覚系の魔術か……」
そしてソフィーさんが呟く。
「幻覚系? それは姿を消した、とかそのような?」
「いえ、魔術発光はマゼンタね。シアンじゃないわ」
「なるほど、と言うことは、運転手がみた人間は実際にはそこにいなかったということか? 術式はどこから起動してるんだ?」
「待って。……そこね。反応起動型の術みたいね」
目で何かを追いかけるように地面に向けて視線を動かし、そして少し奥の方の地面を指さした。
「反応起動型。ということはこの近くに術者がいたとは限らない?」
「そういうことになるわね」
俺が訳も分からない状態になっている間にどんどん話を進んでいく。
「えっと、まとめると、つまりここに通るだろう警察車両を狙って仕掛けたって事ですよね? しかも害あるものじゃなくて、目撃証言を誘発するような」
なんとか話についていくため、発言する。
そしてふと、思った。
「それってここに術者がいると思い込ませて陽動するのが目的なんじゃ……」
一行がハッとなる。
「確かに。けれど、では本命は一体……」
会議本番は明日だ。このタイミングで揺動してなんの意味がある……?
結局答えは出ないまま、その一日は終わることとなった。
to be continued……
2020/07/08
6月28日金曜日。朝から4人で集まる。
「インテックス大阪周辺はそれぞれ部下が警備をしてる。また、この周辺地域に入るには阪神高速のみ。当然他の湾岸はガッツリ警備されてる。となると、その外かしら?」
「えっと、どういう可能性が考えられるんだ?」
「G20への攻撃が目的だとするならば、やはり
王さんが言う。
「儀式魔術とは儀式で発動する強力な魔術です。人間の持つ魔力はたかだか知れてますから、空気中の魔力や龍脈の魔力を使うわけです」
スイフト卿が解説してくれる。
「となると怪しいのはこの周辺の龍穴か」
スマホを立ち上げ、皐月の悪魔事件の時に記録しておいた龍脈図を開く。
「だが、ひとつ疑問がある。儀式魔術を遂行中なら魔術行使の反応が見られるはずだ。だが……」
「そうか、魔力計に反応はなかったんだよな」
「あぁ。こいつはこう見えて
宝貝。『封神演義』に出てくる魔法の道具や武器の事だ
「なんらかの遮蔽手段を持っているのかも知れないわね。魔術レーダーを使ってみましょう」
ソフィーさんがマルチデバイスを取り出し、折り曲げて銃のような形にしたあと、その上部についていたパーツ――この前モノクルにしてたやつだ――を先端に付け替える。
そしてそれを銃のように構え。
「
マルチデバイスが青く発光する。
そのまま6方向くらいにこれを繰り返した。
「いくつかの方向からパルスが返ってきてないわ」
レーダーのように魔力の波を放って反射を見ているらしい。返ってきてない、とはつまり、魔力が打ち消されていると言う事
「こっちは皇居、こっちはインテックス大阪」
「となると残るのは、限られるわね」
「龍穴の位置はわかってる。片っ端から探ろう」
to be continued……
2020/07/10
融通の効かないことに、俺たちは相互監視のチームである。故に分担行動とは行かず。
「魔力計に反応なし、次」
候補を一つ一つ虱潰しにしていく必要があった。
そして、運が悪いなと思った時、その運の悪さというのは不思議と際限がないものである。
「反応なし。これで9つ目。残るは最後の一つね」
そう、候補の最後の一つを残して、全て無関係だったのである。
「急ごう。あんな陽動をした以上、明日まで儀式を重ねるとは思えない」
もう日は落ちかけていた。
正直、俺としては最後も空振りなんじゃないかとか、接近すれば魔力計で分かるはずというのが間違いなんじゃないかとか、考え始めてるんだが、そういう意見が出ないのは、宝貝である魔力計とソフィーさんのマルチデバイスの探知を随分信用しているらしい。
そして、最後の建物。
「魔力計反応あり! この建物!」
直後、全員で車を降りる。
もうフォーメーションは移動中に決めていた。
神秘体でも実体でも相手できるソフィーさんと俺(日本刀がそうらしい、すごいな)。相手次第であとの二人も突入してくる。
「行きましょう、突入」
ソフィーさんが拳銃型に変形させたマルチデバイスを構えて言う。なるほどモノクルとかになってたパーツは照準器の役割を果たすのか。
俺が扉を開け、ソフィーさんがマルチデバイスを構えて突入する。そして俺が続く。
「
黄色の弾丸が下っ端らしい男たちを昏倒させる。
「儀式上は奥みたいね。行きましょう」
「ソフィーさん、一人で全滅させちゃいそうだ」
「単純な装備の質なら対霊害組織としては二番目に充実してると言われています」
へぇ、じゃあ一番充実してるのはどこなんだろうか。
しかし、ソフィーさんが全員を眠らせる方向性のおかげで助かる。俺だと切るしかできないからな。
「妙ね。安曇が人を雇うなんて、これまでなかったことだわ」
階段を降りながら、ソフィーさんが呟く
to be continued……
2020/07/11
地下一階。
アサルトライフルを持った兵士が五人ほど。
「ちょっ、まじかよ!」
「私の後ろに!
マルチデバイスを90°に折り曲げて構えるとロボットアニメのビームシールドのような非実体の盾が出現し、弾丸を防ぐ
「王!」
「
王さんが的確な射撃で五人を倒す。
「ナイスショット」
「相手の位置は分かっていてこちらは攻撃を喰わらない状態だ。これで当てられなければ嘘だろう」
思わず称えたが返事は連れなかった。そんなものか。
「しかし妙ですね。安曇らしくない……」
「えぇ。安現代の魔術師のような振る舞いは彼らしくない」
自宅謹慎中、魔法陣について聞くために英国の魔女から話を聞いた時に聞いた事がある。多くの魔術師は科学技術色の強いものを使いたがらない、と。
その拘りを捨て、手段のためであれば現代の科学技術すらも使いこなす者は「現代の魔術師」と区別されるのだとか。
「そもそも科学の発端自体がバビロニアの神秘なんだけどねぇ」とは現代の魔術師たる英国の魔女の談だ。
安曇はそうではない、ということか。
ソフィーさんが近くの死体に近づく。
「……このワッペン、アンチアメリカ?」
「アンチアメリカは過激派の反米テロリストです。しかし、なぜここに」
何故、G20を狙っているのだ、という話ではない。
何故、神秘と関わりを持っているのか、ということだろう。
直後、死んだはずの男たちが立ち上がり、近くにいたソフィーに組み付く。
「なっ、
マルチデバイスを折れ目から半分に分離させ、エネルギーの剣を出現させて切断
すげぇ、チャンパラスペースオペラ映画のビームの剣みたいだ
「中国さん、避けて!」
スイフト卿の言葉に慌てて横に飛ぶ途中、後ろから弾丸が通り過ぎていく
――後ろ? 後ろには王さんが…
後ろにはアサルトライフルをこちらに向けた王さんが立っていた
to be continued……
2020/07/13
「王、あなた、どういうつもりです」
スイフト卿が王さんに霊基構造破壊剣を向ける。銀の剣は高価などのいくつかの理由で銀が効く相手以外には使わないらしい。
「え、ええっと、」
ところがそれに困惑した反応を示すのは王さんの方だった
「なんです?」
スイフト卿が睨みを強くする。
「俺はあれを撃っただけなんだが」
指差した先にはアサルトライフルで蜂の巣になったゾンビが倒れていた。
「いや、それはおかしいでしょう。普通射線上に味方がいたら撃ちません」
「いや、俺も普段はそうだが、マモルは、僕の方で避けるから、敵がいたら射線は気にせず撃ってよ、とか言うもんだから、それが日本のやり方なのかと」
「「「あー、言いそう」です」ね」
俺含む三人の心は一つになった。
気を取り直して一行はゾンビと交戦した
「そう言えば、スイフト卿は銀の剣を使ってるみたいですが、アサルトライフルなんですか?」
ふと疑問を王さんにぶつける
「あぁ、銀を使うに越した事はないんだが……。奴らに実体がある以上、こいつでも倒せるからな。絶対必要な時以外に撃ったら後が大変なんだ」
なるほど、色々大変なんだな。
とは言えまぁゾンビなんて撃てば死ぬ。ウイルス製ゾンビと戦う有名シリーズでもそれは明らかだ。
「ちなみに、死体系の怪異のことを総称し
解説助かる。原隊でも優秀な副官なのだろう。
「問題はどのように魔術にかかったのか、ね。魔術の反応はなかった。となるとゾンビパウダーのような神秘薬の可能性が高いですが、使うタイミングがあったとは思えない」
みんなバラバラに撃ち殺されたもんな
「謎は残りますが、先に進みましょう」
to be continued……
2020/07/14
「魔力反応はこの部屋だ」
地下3階。最後の部屋だ。
「行きましょう」
踏み込む。
赤い光が溢れる魔法陣の真ん中でウォーボンネットと呼ばれる白い鳥の羽の冠を被った魔術師が指文字で儀式を行なっている。
「ネイティブアメリカン!?」
「この術式、太陽の踊りか。一帯を焼き尽くすつもりか」
「太陽の踊り、指文字、白い羽のウォーボンネット……全てシャイアン族の特徴ですね。同一視のためにそう言う服装をしている可能性もありますが」
「どちらでも良いだろ」
王さんがアサルトライフルを構える
「王の言う通りね。アンチアメリカによるテロというところまで分かってる以上、もはや疑問点もない。まぁ向こうは儀式に必死らしいし、せっかくなら生かしましょう。
ソフィーさんが銃モードのマルチデバイスを構える。
パン。
術者の額が綺麗に撃ち抜かれ、倒れる。
「なっ」
全員が一斉に王さんを見る。
「ん? どうした? 術者は殺した。儀式の魔術発光も停止した。帰るぞ」
「あなた、私が生かして逮捕するって言ったのを聞いていたでしょう!」
「なんでお前の指示に従わなければならない。お前があいつを無力化したらお前の手柄になってしまうだろ。私は私の手柄として書記長に報告申し上げる必要がある。それに、犯人は俺たちが自由にして良い約束だったよな」
確かに。あれは安曇が犯人である前提の話だが
「あれは安曇が犯人だと言う前提の話だろう!」
「犯人が安曇じゃなかった場合はこの限りではない、なんて条件なかっただろ」
「ぐっ……」
ソフィーさんが悔しそうに拳を握る。
と、地震のような揺れが起き、天井からパラパラと欠片が落ちてくる。
「なるほど、龍穴に近づけるために地下を魔術で作って維持していたんですね。それが止まってしまった。急いで地上に戻った方が良さそうです」
スイフト卿の言葉で俺たちは一斉に階段を駆け上がった。
to be continued……
2020/07/15
「あれから半月かぁ」
2019年7月15日。海の日だというのに当然のように出勤している。
「悪いね。今日はなんか王さんから荷物が届くらしくてさ。もし万一日本産の呪いの品の返品とかだったら、君の知識が役に立つ可能性もあると思ってね」
確かに、あり得る話だ。いや、事前に連絡してから送るのが筋だと思うが。
「月餅だ」
「げ、月餅、ですね。8月15日には些か早いですが」
「お、挨拶状も入ってる。なるほど、お中元か」
なるほど、確かにお中元は元々中国の文化だ。しかし王さん、以外とマメだな
「なになに。ここ数年会えていないが、お前との共闘はまぁまぁ楽しかった。また中国に来い、だって。つい半月ほど前に会ったのにね」
中島巡査部長が笑う。……が、あれが王さんではないとしたら?
一つだけ謎として残っていたゾンビパウダーを投与した人間。
全ての魔術がシャイアント族の神秘で構成されていた中、あれだけは違った。
そして……
そして、もし、銃弾にゾンビパウダーを仕込んでいた、が回答だとしたら。
可能だ。ブードゥーの禁忌と化した彼らは全員王さんが撃ち殺した人間だった。
それはさらなる悪い予感を抱かせる。つまり最後に主犯を撃ち抜いたあの弾丸は果たして通常の鉛弾だったのか?
慌てて車に飛び乗る。
その様子が気になったのか、中島巡査部長も助手席に入ってきた。
「すみません、どうせなら、運転お願いできますか?」
「うん、調べ物だね、任せて。目的地は?」
「とりあえず大阪に向かってください。細かい位置はそのあと」
「了解。じゃ、井石警部補にも伝えとかないとね」
スピーカーモードで通話をかけながら、車が発進する。
俺はその間に検索する。
何か、あるはずだ。それが今日なのかは分からないけど、近いうち、なにか、どこかを攻撃する。その対象が、どこかにあるはずなんだ。
それは一体なんだ。
to be continued……
2020/07/16
まずは当時の現場に向かう。
が、そこは完全に崩落した瓦礫の山であった。
「これ、どかせませんかね?」
「……難しいかなぁ。井石警部補にお願いは出来ると思うけど、1日……いや、2日はかかるよ」
それは無視できない時間だ。
もし既に主犯が復活を遂げていたなら、致命的なロスになりかねない。
「わかりました。依頼しましょう。それで何事もないことが判明すればそれでもいいですし。その代わり」
「あぁ、こちらはそれまでも調査を続けよう」
と話し合って、気合を入れて探し回ったが、めぼしい成果は出ず
大阪で車中泊して今は、7/16
今日は大阪の周辺の県にまで足を運ぶ事を選ぶ
ちなみにこの日、筆者は自分の世界で奈良県に面接に来ており、もしかしたら、中国巡査とすれ違っていたかもしれない
「ダメですね」
「あぁ。アプローチの方法を変えるべきだな。つまり、目的とか、そう言った方向から考えるべきだ」
目的。奴はアンチアメリカの構成員で自身もネイティブアメリカンだった。短絡的な考えたがアメリカへの怨恨が動機と考えて問題ないように思う。
しかしだからといって俺たちの前で一度殺す理由は?
アンチアメリカってのは大義のためなら自分の命さえ投げ出せるやべー奴らの集まりなのか?
いや、それは少し変か。それなら陽動なんていらないはずだ。
だとしたら、偽王さんと奴らは別勢力?
でもだとしたら、もう目的は分からない。
何か見落としがあるのか?
考えるんだ、これまで出た情報と解決したに思われた情報。その実、まだ未解決のまま残ってるものはなんだ?
「あ!」
俺は閃いた。
to be continued……
2020/07/17
「本」
「ん?」
「最初の目撃証言では、本を持っていた。主犯が安曇だと言われていたのはそれが理由だったはずです。しかしあの術師は持ってなかった。マギウスは魔導書を使って詠唱をする。なら、儀式中に魔導書を持っているはずです」
「あぁ、そうだね。確かに、本の事は失念していたな」
「……大阪府警に向かいましょう、もしかしたら……」
手帳を取り出す。警察手帳じゃなく、ちょっとしたスケッチなんかのためのものだ
「中島巡査部長、運転しながらでいいので」
「似顔絵だね、分かったよ」
「おぉ、結構上手いじゃないか」
中島巡査部長が感心したように頷く。
そりゃ、捜査一課で散々描いてきたしな。
「すみません。G20の件を担当してます、警視庁の資料2係の者ですが、○○巡査長の話を伺いたいのですが」
直前に井石警部補に言っておいたので話は早かった
「早速ですが、事故の直前に人を見た、という事でしたよね」
「えぇ……でもそんなわけないですし、もう気のせいということに」
「いえ、そうではなく。その人物とはこの二人のどちらかではありませんでしたか?」
二枚の似顔絵を見せる。一つは主犯のネイティブアメリカン、もう一つは安曇。まったくの別人だ。見間違えたりはしないだろう。
「こっちです!」
巡査長が指したのは安曇の方であった
to be continued……
2020/07/20
「うん、感じるね、この真上に"あの世界"から転移してきた存在がいる」
英国の魔女が断言する。
ここは例の事件現場の真下だ。まさか高速道路上で止まって調査するわけにはいかないため、このような方法と相成った。
「つまり、あの巡査長が見たのは安曇が"あの世界"からまさに戻ってきたところだった、ということか?」
「多分ね」
やっぱりか。けど、なんでAGHFは気付かなかったんだ?
「AGHFが気付かなかったのは単純に"あの世界”のことを知らないからだろうね」
なるほど。
「だが、中国巡査、結局それでどういうことなんだい? 安曇と、あのアンチアメリカの連中と、そして、偽王さんがどう繋がるんだい?」
「俺にも全ては分かりませんが、安曇がこの世界に戻ったことを隠したい勢力があるのでは?」
事実、安曇の存在を知れば執拗に調査するだろうAGHFは安曇ではなかったと判断し、帰還している。
「彼らは恐らく、安曇の帰還を感知した。あるいは動きの速さからするとなんらかの手段で事前にそれを知っていたのかも」
そんな方法があるのかはわからないが。
「そこで彼らは元々単身でテロを目論んでいたであろうアンチアメリカに手段となる情報を渡した。恐らく龍脈の情報でしょう。あの魔術師が派遣人員である可能性もありますが、これはそのうち分かるでしょう
そして誘導の為に中国の人間になりすまして僕らに応対した」
「そして、あのゾンピパウダー弾です。あれは万に一つも情報を得られないようにするためではないでしょうか? 情報提供者から自分達の尻尾を掴まれてはまずい、と考えたはずです。
あの魔術師に対しても同様か、あるいは仮死薬辺りによる欺瞞かどちらかでしょう」
そしてそれは、ガレキ除去後に魔術師がどうなっているかで分かる。消えていればグル、消えてなければグルじゃない
「この際、その魔術師の出自は重要じゃないね、誰なんだ。日本の龍脈の情報を知り、アンチアメリカに怪しまれず情報提供出来、中国に成り済ませる」
「まさか!」
恐らくそうだろう。ほぼ完璧な手口。現代の魔術師的やり方。そして一切尻尾を掴ませない周到さ。
「灰色の男達」
三人の声が被る。
では、次の問題が襲い掛かる。
即ち、灰色の男達は安曇を利用して何をするつもりなのか。
暗闇で灰色のスーツの男達が、灰色の兵士から報告を聞いている
「まず副次目標のゾンピパウダー弾ですが、完璧な効果を発しました。おそらく誰も気付いてはいないでしょう」
「安曇の帰還隠蔽も完璧と言って差し支えないはずです。誰も気付いてはいないでしょう」
灰色の男達は満足げに笑う。
だが、彼らは一つだけ勘違いをしている。
それは、阻止こそ出来たが、中国巡査という彼らが軽視した存在によってその隠蔽そのものは完全に露呈しているということだ。
その勘違いが、今後の彼らの計画を狂わせることになる
to be continued……
「いいね」と思ったらtweet! そのままのツイートでもするとしないでは作者のやる気に大きな差が出ます。