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聞き逃して資料課 エ・テメン・ニグル編

 
 

2021/02/02

 

「え、それってウルのジッグラトの?」
 いや、あれってウル第三王朝のジッグラトじゃなかったか。ウルク第一王朝のギルガメスとは縁がないだろ。
「うむ。まぁ現存しているジッグラトが少ない故、やむを得まい」
 ギルガメスが苦々しげに頷く。

 


 

「まぁ無事目覚めたようで何よりだ。明日からは我々の一員として活躍してもらうが、今日のところは疲れを癒せ」
 そう言うとギルガメスは速やかな部屋を出ていった
「……逃げないと」
 立ち上がる。ずっと気絶してたせいかなんだか違和感があるが歩く事はできそうだ

 


 

 扉を開けて外に……。
「中国様、本日はお部屋でゆっくりお休み下さい」
「うぉっ!? ろ、ロボット?」
 そこにいたのは俺と同じくらいの大きさの人型ロボットだった。
 で、手元にはお馴染みのSCAR-L、ね。
 やはり、ギルガメスって奴は灰色の男達の関係者か。

 


 

「中国様、お部屋にお戻り下さい」
 目に当たる緑色の横一文字の光からは何の表情も伺えない
「やだね!」
 腰の夜霧を抜刀し、目の前のロボットを破壊する
「折角のジッグラト、見学せずしてどうする。あとギルガメスとジッグラトと来て、ロボットってなんだよ!」

 


 

 施設中から警報音が鳴り始め、赤い回転灯が光り出す
「コンバットモードへ移行」
 向こうからロボットが走ってくる。目の光は一文字の真ん中に輝く赤い天に変化している。コンバットモードであるって示す表示かな
「イペタム!」
 手を前に突き出し使い魔を呼ぶ

 


 

「イペタム? イペタム!」
 来ない。
「なら、マーイウス!」
 来ない。
 ロボットがこちらにSCAR-Lを向ける。
「マジ?」
 頼みの綱が使えない! これは想定外だ!
 ロボットが目の赤い光を一際輝かせ、俺は慌てて、柱の影に隠れる。

 

  to be continued……

 


 

2021/02/03

 

 柱に弾着する。
「じ、実弾じゃねぇか、殺す気かよ」
 せめてゴム弾だと油断してた。
 流石にアサルトライフルを持つロボット相手に肉薄して戦うのは無理だ。
 向こうもこちらが近接攻撃能力を有しているからか離れたところから制圧射撃を行うに留めている。

 


 

「あー、あー、聞こえる?」
 突然頭に声が響いてくる。この声は……。
「英国の魔女か?」
「あ、聞こえてるね」
「あぁ、どこにいるんだ? テレパシーの類か?」
「似てるけど、少し違うかな。君の肉体はここにあるからね」
「は?」
 いや、肉体はここにあるが。

 


 

「簡単に言うと、ギルガメスの奴、君の魂だけを持ち去っちゃったんだよ。だから、今君が肉体を持っていると感じているとしたら、魂がなんらかの外殻を生成しているか、代わりの肉体を与えているか、って辺りかな。でも周りを認識できるなら話が早いよ、そこはどこ?」

 


 

「ジッグラトだ! ウルのエ・テメン・ニグル!」
「うそ、イラクって事? 流石にそんな時間は経ってないよ」
「だが、実際ここにいる。転移の類でも使ったんじゃないか? ここは本拠地っぽいぞ」
「確かに、本拠地なら転移ルートくらいあってもおかしくはないか」

 


 

「分かった。こっちもすぐにイラクに向かう。先行して空を送り込むからね、なんとか耐えて」
 虹野さんを? どうやって?
 と言う疑問を発する暇はなく、背後まで接近していたロボットの銃床攻撃をすんでのところで避ける。

 

  to be continued……

 


 

2021/02/04

 

「あぶねぇ、な!」
 しかし銃床で殴るとは、やはり殺さないように言われてるのか?
 ロボットを夜霧で両断する。
 赤い光が一際輝く。
「マジかよ」
 倒れゆく上半身の腕が動き、SCAR-Lがこちらに狙いを定める。
 引き金が引かれる。
 慌てて柱から飛び出す。

 


 

 さっきまで俺がいた柱が蜂の巣へ変わる
 だが廊下に飛び出したのは悪手だ。さっきからこっちを制圧していた奴がこちらに狙いを定めている
「ええい、ままよ!」
 こちらを狙うロボットに向けて走りながら、夜霧を投擲する
 ビンゴ! 赤い光にジャストヒットだ!

 


 

 しかし、恐るべしは痛みを感じないロボット、夜霧を引き抜いて、再びSCAR-Lを構える。
「ならこうだ!」
 腰に下げていた拳銃「SAKURA M360J」を構えて発砲する。
 ひえー、始末書がおっかねぇ。イラクに拉致されてロボットに襲われたのでって書いたら怒られるかな

 


 

 当たらねぇ! もっと射撃練習しとくんだった!
 五発撃ち切った結果、SCAR-Lにラッキーヒットした一発のお陰で、撃たれるより前に接近できた。
「夜霧は返してもらうぜ」
 腰のホルスターにしまってくれていた夜霧を取り、武器を持つ腕を切断する。

 


 

《わたしの手先、何他の人と契約結んでるの、コラ》
「その声、ノルンか?」
《お、ようやく繋がったか》
「おぉ聞こえてるぞ、どうした?」
《うん、残念なお知らせからしておくけど、そこ、イラクじゃないよ?》
「は?」
《だからこのままじゃ味方、来ないよ》

 

  to be continued……

 


 

2021/02/05

 

「お、おい、味方が来ないってどう言う事だよ」
《そのまんまの意味だよ。まぁそこは私の持つラインでなんとか彼女達に伝わるようにしておくけど、逆に言うとまだ耐久しなきゃならないよ》
「マジかよ。サクラはもう弾切れだし、どうしろってんだ」

 


 

《ふふん、そこはこの雇い主様に任せなさい。ほいっと》
 ノルンが軽く言うと、目の前に突然銃が出現した。
「これは?」
《PP-19。銃身の並行に円柱状のマガジンがついてるでしょ、そのスパイラルマガジンのおかげで9×18mmマカロフ弾や9x18mm徹甲弾が64発入る》

 


 

「これ、マガジンだったのか、言われないと分からないな」
《まぁそこはどうでもいいけど、素人なら装弾数は多い方がいいでしょ。ついでに予備マガジンも二つほど実体化させておくね》
 言葉通り目の前に円筒状のマガジンが2本出現する。
「助かるよ。転移魔術か?」

 


 

《ん……、まぁそんなとこ。これでもうちょっとはやれそうでしょ。いい雇い主と契約しててよかったね。これに感謝したら今後も外来種対策……ちっ、3秒話しすぎた。4時方向、来るよ!》
 咄嗟に振り返る。赤い光が輝く。
「うおっ!」
 PP-19の引き金を引く。

 


 

 連射式の銃を撃つのは初めてだ。反動リコイルってのはこんなに銃口を振り回すものなのか
《PP-19のリコイルなんて軽い方だよ。ってか撃ちすぎ。もっと指切り点射を意識して》
「俺はサブマシンガン? なんて初めて使うんだぞ、当てたことを褒めて欲しいくらいだ」

 


 

《サブマシンガンでその距離で64発全部撃ち切って当てない方がすごいよ。はやくそのマガジン捨てて新しいマガジン付けて。私の遅れる支援にも限界があるんだからね》
 やれやれ、いなかったら困るが、それにしても煩い支援役だな。頼もしいけど。

 

  to be continued……

 


 

2021/02/08

 

「これからどうする?」
《ちょうどそこが遮蔽物になってるし、廊下の端っこだから敵の来る方向も限られてるから、そこで耐久したら?》
「なっ、そんなことしたらここにどんどん敵が来るぞ」
《でもそこ以外に移動したら、四方から敵が来るよ。対処しきれないでしょ》

 


 

 確かに。ゲームにしろ現実にしろ、敵の来る方向は一方向に限定するのがベストだ。
「けど、なぜ耐久戦なんだ、ここから出るべきだろ」
《そのサブマシンガン一丁で? 無理だと思うなぁ。まぁたとえランボーでも無理だと思うけど》
「無理なわけあるか? すぐそこの階段を降りてゲートをくぐれば外の階段に出るはずだ」
《はぁ……。じゃ、やってみたら。その代わり私の助言に逆らって死んだら魂は私のヴァルハラに還るって契約に同意して》
「わかった。助言に逆らって死んだら、魂はお前のものだ」

 


 

《じゃ、どうぞ》
「よっしゃ」
 階段を駆け降り、登ってきていたロボットに一秒ほどの連射攻撃を与える。
 さっきノルンは秒間11発って言ってたから、残り53発ほどか。
 ゲート手前の広場に到着。二体のロボットがこちらにアサルトライフルを向ける。

 


 

「喰らえ!」
 大雑把に二体のロボットの間に向けて連射する。
《撃ちすぎ、止めて》
 ノルンの制止を喰らい2秒ほど連射したか。全弾外れ。22発撃ったとしたら、残り31発。
 ロボットが反撃を開始したため、咄嗟にテーブルを横倒しにして隠れる。

 


 

 映画では見るが、現実ではあっさり貫通する、と聞いていたが、意外と耐える
 ……というか先の柱と言い、遮蔽物と言い、やけに硬い。流石に弾痕くらいつくのが普通じゃないのか?
 二体のロボットがリロードタイムに入ったことで思考中断。テーブルから飛び出す

 


 

「このっ」
 ロボットの片方に向けて1秒、もう片方に向けて1秒。
 二体ともダウンした。残り9発ほど。
 だが、後はゲートに向かうだけだ。
 階段を降りてこようとするロボットにフルオートで連射し、ロボットは遮蔽に隠れる。残弾なし。だがリロードは後回しだ。

 


 

 俺はついにゲートを潜り……。
 ふにっ。
 とした感覚に襲われた。
 な、なんだこれ。まるで見えない壁があるかのようだ。
 そして何より、その壁より一歩先は完全な真っ暗闇だ。光源から考えてこんなことはありえない。まるでこの先には何もないかのようだ。

 


 

 透明な壁のような面に、うっすらと何か赤い文字が浮かび上がっていることに気づいたが、シュメール文字らしく読めない。
 なんだ、どうなってるんだ。さっき俺が寝てた部屋の窓からはイラクらしき外の風景が見えてただろ。
《敵、来るよ》

 


 

 マジかよ。ここで死ぬのか?
《仕方ないな。ほら》
 ゲートの中を守るように遮蔽物が出現する
《ま、これもある意味一方向……ちっ、探知された。接続を切られる……後は……》
 遮蔽物のそばにいくらかマガジンが出現したのを最後にノルンの声は聞こえなくなった

 


 

 なんだってんだ、一体……。
 俺は空になったマガジンを外して投げ捨て、新しいマガジンを装着する。

 

  to be continued……

 


 

2021/02/09

 

「くそ、これいつまで続くんだ」
 ノルンから連絡が途切れて、体感で1、2時間ほど経過している気分だ。
 あくまで体感の話だから、実際にはそこまでは経ってないとは思うが。
 とはいえ、ノルンが残した予備マガジンもいよいよ尽きそうなのは確かだ。

 


 

「お待たせ!」
 そんな声が聞こえた。
 上から刀を持った英国の魔女が遮蔽物の前に降り立つ。
 刀にはオーディンを示すアンサズのルーン。
「ほいっと!」
 刀が光り、巨大化してロボットたちを一掃した。
 なんだそれ、オーディンの伝承にそんな武器あったか?

 


 

「やっぱり無限湧きか」
 奥の部屋から再びロボット軍団が姿を表す。
 英国の魔女の形容通り、まるでゲームの中で敵が無制限に湧いて来てるかのようだ。
「あぁ、さっさと脱出するべきだ」
 ディーさんが少し近未来的な見た目のアサルトライフルを持って降り立つ。

 


 

 そうだ、見えない壁、突然現れる色んなアイテム、無限脇する敵。 
「まさか、ここってVR的な空間の中?」
 荒唐無稽な想像だ
 なにせ、今のところVRって言えば、視覚と聴覚をジャックするのが限界な上、現実世界の感覚はそのまま
 ここまでのVRはまだSFの領域だ

 


 

「当たらずとも遠からずってところかな。ここは私達に300人委員会を介して情報をくれた人の言うところによると"実体情報空間"とでも言うべき空間なんだって」
 何か今、気になるワードが出てきたな。300人委員会、実在するのか?
「というわけ、わかった?」
「あぁ」

 


 

 分かってないが
「ならさっさとここを出よう。あの雇われ錬金術師がいつまでもこちらを待ってくれるかは保証できない」
「だね」
 英国の魔女が俺の手を握る。
 迫ってくるロボットをディーさんが迎撃する。銃口のすぐ側から薬莢が飛び出てる。変わった銃だな

 

  to be continued……

 


 

2021/02/10

 

「逃げるったって、どうするんだ? そのゲートの向こうは見えない壁だぞ」
「おいおい、仮想空間って言ったのはそっちだろ。物理的に出ようとしても無理さ。ログアウト操作をしないとな」
 ディーさんがアサルトライフルで近づいてくるロボットに牽制しつつ口を開く

 


 

「しかし、大したものだな。あれは"ミノーグの宿題"の一つとされる戦闘人形だろう。実物はまだ歩くことさえ難しい代物だが、仮想空間なら可能ってわけだ。実用化したらこんな感じになるのか……」
 少し感心した風のディーさん。
「ディー、行くよ」

 


 

「だが、使うのがSCARとはな。銃の究極系と言えばブルパップ方式と決まっているだろうに」
「ディー、信号弾打つよ?」
 分かってない奴らだ、とディーさんが首を振る。
「ディー?」
「いや、待て。こいつらにこのF2000の方が優れたライフルだと教えてやる」

 


 

「いや、意味ないからね。行くよ」
 英国の魔女がディーの背中を摘みながら、信号弾を打ち上げる
 直後、気がつくと、ガラス張りの空間にいた
「こ、こは?」
「魂保管用のランタンの中だ。魂は単体では霧散してしまうからな」
 それは怖い。で、こちらの方は?

 


 

「予定より遅れている。報酬の上乗せを期待したいな」
 周りを見渡すと、そこはサーバー室のようだった
 ディーが引き金より後ろにリボルバーのついた大きな銃を構える。
「引き続き私がポイントマンを務める。お前はライフルマンだ。で、ヒナタは中国を守れ」

 

  to be continued……

 


 

2021/02/12

 

 ディーさんのショットガンから放たれたゴム弾が角から飛び出してきた灰色の兵士を撃破する。
 そのまま角に身を隠して様子を伺う。
 俺のランタンを最初に持っていた男は第一次大戦だか第二次大戦だかで使われてそうな木目の見える木と黒い金属パーツのライフルだ

 


 

「ヒナタ、使い魔から偵察情報は?」
「今、受け取ったところ。なるほどね、さっきからやけに敵が少なかったのも分かった。出口手前のホールで待ち構えてるよ」
「向こうが広場を押さえているか。当然遮蔽物なども確保しているだろうから、こちらが不利だな」

 


 

「ユーはどんな感じ? 錬金術師と言えば、爆弾でしょ? ロンドン主教公邸のあっまロンドン南西部の町の名前みたいな爆弾とか使えないの?」
「君が何を言おうとしているのかは知らないが、あいにく私は現代の魔術師ではなくてね、古臭い可能性錬金術しか使えない」

 


 

「ヴィクター・フランケンシュタインを兄弟子と定義しておきながら、現代の魔術師ではない、というのは苦しくない?」
「あまり調子に乗るなよ破戒魔女。俺はお前達の提示した報酬が魅力的かつ仕事内容も相応だと判断したから協力しているだけ。詮索はその範囲外だ」

 


 

 一人称と三人称がどちらも粗雑なものに変わった事から、ユーと呼ばれた男の苛立ちが分かる。
 ちなみに現代の魔術師とは、現代の科学技術を利用する魔術師の事らしい。
 話を聞くにユートなる男は錬金術師なのか。この俺が入ってるランタンもその産物なのかな。
 それにしてもヴィクター・フランケンシュタインの弟弟子と来たか。メアリー・シャリーのゴシック小説に登場するマッドサイエンティストで、俗にフランケンシュタインの怪物と呼ばれる人造人間を生み出したとされる創作上の人物だ。

 


 

 確か彼はスイスの錬金術師であるパラケルススを師と仰いでいた設定だったはずだ。
 ということは、そのヴィクターの弟弟子であるからにはこのユー氏もパラケルススの弟子、あるいはヴィクターと同じく師と仰いでいる、と言ったところか。

 


 

 で、それがなぜ現代の魔術師という話になるのだろうか。
 ヴィクターが科学者だから? 
「その作戦で行こう。中国、いけるな?」
「え、あっ、はい」
 で、なんだって?

 


 

「良い返事だ! 行くぞ!」
 同時、ディーさんが手榴弾を投擲する
「グレネードだ!」
「敵の経路はわかってる! 制圧しろ!」
 手榴弾の弾着地点から灰色の兵士たちが距離をとりつつ、そこから遠い兵士たちは容赦なく俺たちのいる廊下の角に制圧射撃が襲いかかる

 


 

 投げた手榴弾から一気に煙が吹き出し、ホール全体を覆う。
 同時、俺の入ったランタンを受け取ったディーさんが駆け出す。
「サーマル!」
 敵も慌てず、ゴーグルを装備する。
「セルフ・ハイポゾミア」
 煙の中、何も見えない中、ディーさんが発砲し敵を倒す。

 


 

 なんのゴーグルもつけてないのに凄いな。魔術で感覚を強化しているのか。
「そこだ!」
 しかし敵もゴーグルを装備してこちらに反撃してくる。
「なに。こっちの体温は下げてあるはずだぞ」
 なるほど、熱源探知に引っかからないはず、という算段だったのか。

 


 

 しかし、むっちゃ俺の周りを弾丸が掠める。大丈夫か、これ。
「お前、存在温度が下がってないぞ。瞑想して魂の活動を低く抑えろと言っただろう」
 聞いてなかった、すまん!
 今から慌てて心を落ち着けようとするが、この銃弾飛び交う中で出来るはずもない。

 


 

 そして、ついに、
「しまっ!」
 銃弾によりランタンが弾かれ、俺は空を舞った。
 やべえやべえやべえ、敵に拾われる!?
「ほいっと」
 そして誰かに空中で掴まれた。
「大怪盗カラちゃん参上! っと、危なかったね」
 よかった、味方だ。

 

  to be continued……

 


 

2021/02/17

 

「よし、撤収!」
 空が叫ぶと、同時に大きく天井近くまで飛び上がり、周囲にギルガメスと戦っていた時と同じ空間の裂け目のようなものを周囲に展開し、そこから一斉に円柱状のものを射出した。
 ボフンと、眼下にこれまで以上のスモークが溢れ出す。

 


 

 そして、ホールの出口に着地し、そのまま振り返りもせずに廊下に走り出た。
「お、おぉ。すげぇな。ギルガメスの時も使ってたが、それが虹野家の血の力なのか?」
「まぁ私の力ではあるよ。ただ遺伝はしないから血の力ではないかもな」

 


 

「何の事か分からない人は『虹の境界線を越えて』を読んでね。アドレスはえいちてぃーてぃーえす、ころんすらっしゅすらっしゅ、あなざーわーるずぜろろくどっとこむ、すらっしゅれいんぼー」
 虚空に話し出した。世界シミュレーター仮説でも信奉しているのだろうか

 


 

 いずれにせよ、さっき話していたアドレスにはアクセスしてみた方がいいかもな、
https://anotherworlds06.com/rainbow
と言っていたか
 頭の中でしっかりとメモを取る
「しかし、フレイちゃんと契約を結んでたんじゃなかったの? 助けに来ないなんて思ってたより薄情だね」

 


 

「フレイ?」
「あれ、ヴァーミリオンのエンジェルっぽいと聞いたからフレイちゃんかと思ったけど違うのかな」
「ヴァーミリオン? エンジェル?」
 もしかしてマジモンの電波っ子だろうか、それとも俺がよっぽど神秘に詳しいと勘違いして専門用語を使っているのか

 


 

「あ、見えて来たよ」
 外へと通じる透明な自動ドア。外だ!
「そこまでだ」
「ギルガメス!」
 やはり最後に立ち塞がるのはアイツになるのか。

 

  to be continued……

 


 

2021/02/19

 

「それは我らの所有物だ。我らの領土から持ち出すことは許さぬ」
「へぇ、生憎カラちゃんは小学校の頃に万引きを覚えて以来、盗みだけが生き甲斐でね」
 虹野さんが"裂け目"から取り出す。
 ……今の発言は警察官として聞き逃していいものだろうか。

 


 

「ならば小汚いその盗人魂、クルヌギアに送ってやる」
 クルヌギア。シュメール語で「戻ることのない土地」または「不帰の国」を意味するシュメール神話の冥界の事だ。
 つまり「地獄に送ってやる」みたいな意味だな。
「エンキドゥ」
「はい、ギルガメス様」

 


 

 ギルガメスが鮮やかな結晶を取り出し、エンキドゥなる少女に渡す。
 エンキドゥはその結晶を口に含み、飲み込む。
「エンキドゥ、武器化」
「はい、ギルガメス様」
 エンキドゥが光に包まれ、その姿を剣へと変える。
 こっちに関しては何が何やらだな。

 


 

 虹野さんが大地を蹴って一気にギルガメスに飛びかかる
 ギルガメスは剣でその一撃を受け止める
「ちょっとごめんね」
 俺のランタンのすぐ下に"裂け目"が生まれる
 そして俺のランタンはそこに入れられ、"裂け目“が閉じ、暗闇だけが残された
「え、まじ?」

 

  to be continued……

 


 

2021/02/22

 

「はいっと」
 俺を受け止めたのはノルンだった。いや、厳密には俺の魂の入っている籠、というべきか
「!」
 ふと、周りを見渡すと、見覚えのある装備の兵士ばかりだった
「落ち着いて、灰色の兵士傘下じゃないよ、武器を見て、SCAR-LじゃなくてAK-12でしょ?」

 


 

「いや、でもそれ以外の装備は……」
「あぁ、連中、うちのエインヘリャル・アレンダからも雇ってるからね、多分、それを見たんじゃない?」
 エインヘリャル・アレンダ……確か、ローゾフィア財閥傘下のPMCか。
「ってことは装備丸ごと雇われてたのか」

 


 

「そ、火器はSCAR系に変更したみたいだけど」
 やはり灰色の兵士は火器をSCAR系に統一しているのか
 2016年にニュースになったブリテン島での武力衝突で使われていた火器もSCAR系だったから、少し気にはなっていたんだ。SCAR系だけは確実に見抜けるようにしとこう

 


 

「さて、私が関与したことがバレる前に、離脱しよう。その後でギルガメスとあなたの間に施された強制の呪いも解除しないといけないけど」
 ノルンが俺を持ったままロシア製らしきヘリに乗り込む。
「お、おい、この武装ヘリで日本の領空に侵入する気か!?」

 


 

「流石にそうはいかないよ。軍事兵器ほどの大きさと違和感のものを認識阻害し切れるのは流石にあの灰色の連中くらいだし、だから、太平洋に停泊させたエーギル・ポドボロドクのタンカーに着陸して、東京湾に入るよ」
 またローゾフィア財閥の系列会社か、恐ろしいな

 

  to be continued……

 


 

2021/03/23

 

「うーん、うーん? ふーむ……」
 空中にて、ノルンが俺、厳密には俺の魂に触れて疑問混じりの唸り声をあげている。
「ど、どうしたんだ?」
「うん、ギルガメスとあなたの間の契約を切りたかったんだけど、契約の痕跡が見つからないんだよね……」

 


 

「だが命令に逆らった時のあの苦しさは勘違いじゃあり得ない」
「明確に確かめようと思うと、私の強制と矛盾させればいいんだけど、彼も外来種とも敵対してる身だしなぁ」
 外来種か。ノルンは灰色の男達と不干渉の約束を結んででも外来種とやらに備えてるんだよな
「重ね重ねすまん、不干渉の約束を破るような真似をさせて」
「別にいいよ。どうせ目的を果たす直前になれば私が邪魔になるだろうし。決戦までの準備期間はお互いに手を出さないでおこう、みたいな感じ? そもそも、先に私のものに手を出したのは向こうだしね」

 


 

 あれ、そうなると、むしろノルンの所有物が勝手に不干渉の約束を破った、とも取れるのでは? とふと思ったが、ノルンはそうは認識してないらしい。
「しかし参ったな、本当に契約の糸口が見えない。奴ら、どうやって隠したんだ?」
「見つからないとどうなる?」

 


 

「最悪、ギルガメスに逆らえない訳だから、自死を命じられて死ぬかも。まぁそこは私の強制と拮抗するはずだから、周りに仲間がいれば止めてくれるとは思うけど」
「フィクションでよくある、呪いを解除するためにボスと戦えってやつか」

 


 

「だね、私としてもあなたを外来種との戦いの前に失うのは惜しいから、なんとかしたいところだけど……。と、そろそろタンカーに到着か。準備して、君の上司が君の肉体を持ってきてくれてるからね」
 上司? 中島巡査部長か。

 

  to be continued……

 


 

2021/02/24

 

「やぁずいぶん小さくなったね。そして初めましてノルンさん。うちの中国がお世話になっております」
「はじめまして、中島 守さん。お噂はかねがね」
 二人が握手する。
「それで、強制の呪いは解けたんですか?」

 


 

「いえ、私にとっても未知の術式か、あるいは何か神秘以外の手段で隠匿しているのか、強制の呪いの痕跡を発見出来ませんでした」
「それは困りましたね。一応こちらの巫術師にも見せますが、恐らく神秘への造詣はそちらのほうが上でしょうから……」

 


 

「えぇ。戦い、勝つしかないでしょうね、彼等と」
「やはりそうですか。あれから、3年。いよいよ奴らと決着をつける時か」
「……とりあえず、肉体に魂を定着させる儀式を始めても?」
「あぁ、お願いします。こちらはその間にアケメネス・ホラのメンバーと連絡を」

 


 

 なんだって? 警視庁じゃないのか?
「じゃ、その間にやっちゃおう」
 ノルンが徐ろに近くのコンテナを開くと、お香とルーンが刻まれた怪しげな雰囲気が広がった。
 ルーンが刻まれた陣のなかには俺の肉体が横たわっている。
「お、俺生贄にされないよな?」

 


 

「そんな意味のないことしないよ」
 肉体の俺の頭より奥、なにかルーンが刻まれた小さい縁の中に俺、厳密には俺の魂が置かれる。
 お香のいい香りが伝わってくる。
 ノルンが何か音を出しているようだが、その規則的な音もまた、俺の眠気を……

 

  to be continued……

 


 

2021/03/25

 

 目を覚ます。
「ここは……?」
 まだ意識がぼーっとしている。
 前後の記憶が曖昧だ。
 あえて一度目を瞑り、意識を自分の内側に潜り込ませてみる。
 眠るのとはまた違う深い意識低下を感じる。
 やがて自身からシルバーコードが二本、伸びているのが見える。

 


 

「イペタム、マーイウス」
 声にならない声で呼びかけると、二人は直ちにその場に現れた。
「な、なんだ、ずいぶんボロボロだな、戦闘中だったか?」
「ご主人救出作戦のため、陽動を行なっていた。どうやら、救出は上手くいったようだな」

 


 

「マーイウスは再生能力があるから良いが、ワシはもう疲れた。ともかく、無事で安心したぞ」
 イペタムが俺の中に入っていく。
 そこで休むのか。
「やはり、契約している器の中が最も安定する。そこまで受け入れてくれる器はなかなかないらしいが」

 


 

 それ、逆説的に俺のセキュリティガバガバって事では
「セキュリティが硬くても自分から鍵を開けるようでは意味がないがな」
 ギルガメスとの契約のことを言っているのだろう。その点に関しては本当に申し訳ない
「それから……」
 マーイウスが続けようとする

 


 

 しかしその前に周りの風景が白んでいく。
 本格的に覚醒の時のようだ。
「すまん、続きはまた後で」
 慌てて一言で宣言し、そして再び意識は現実に回帰する。

 

  to be continued……

 


 

2021/03/29

 

「おはよう、中国君」
 目を開けた俺を中島巡査部長が迎えてくれた。
「起き上がれるかい?」
 と中島巡査部長が手を差し伸べてくれたので厚意に甘えて掴んで起き上がる。
 見ると、中島巡査部長以外にもアンジェや英国の魔女、虹野さんなんかがこちらを見ていた。

 


 

 他にも以前に俺を助けてくれたアンジェさんの友人らしき男性や、完全に見覚えのない金髪の少女と妖精らしき小さい空飛ぶ女の子、その他、何人か見覚えのない人たちもいる。
「えっと、彼らは?」
「うん。中国君、君は優秀な部下だ。その実力を見込んで頼みがある」

 


 

「頼みって、上司と部下なんですから命令してくれれば……」
「警視庁の任務なら、ね。けど僕は今、警視庁対霊害捜査班の中島巡査部長として話しているんじゃ、ない。アケメネス・ホラの一員として、君をアケメネス・ホラに勧誘しようと声をかけているんだ」

 


 

「アケメネス・ホラ? ……もしかしてアケメネス朝とマイスター・ホラの掛け合わせですか?」
「だったら、どうする?」
 片やバビロニアを完全に滅ぼした王朝。片や灰色の男達と戦う術をモモに与えた賢者。
「もちろん、加えて下さい」
 俺は即答した。

 


 

「警視庁とは違う。給料も出ないし、危険手当もない。それどころか、活動の日は下手したら無断欠勤扱いだ」
「分かってます。それでも、戦う理由はあります」
「ならばあなたを、アケメネス・ホラの一員と認めましょう。これからよろしくお願いします」

 


 

 アンジェと握手する。
 俺は聞き逃して資料2係に来た。
 けれど、今度はちゃんと全てを聞いて、アケメネス・ホラに入ることを選んだ。
 聞き流して、はもうおしまい。これかは、俺の新しい戦いが始まるんだ。

 

 The End

 


 

 俺はそう心に誓って拳を強く握った。
 聴覚が現実世界に戻ってくる。
「という作戦を考えています。やれますね、中国さん」
「はい!」
 あ。

 


 

 今度こそ本当にEnd

 


 

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