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Episode.6 「リベンジャーズ」

by:メリーさんのアモル 

キャラクター紹介

 

[ナガセ・タクミ]……軌道エレベータ「世界樹」に存在するメガサーバー「世界樹」の監視官カウンターハッカー 。フレイのオーグギアに侵入し、戦いの手助けをしている。

 

[電子の妖精]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。タクミの相棒。世界樹のメガサーバー上にしか存在できないAR上の存在。

 

[スミス・マミヤ]……アドボラの戦闘員。ユグドラシルシティを飛行する権利を手にいれた。

 

[フレイ・ローゾフィア]……連邦フィディラーツィア 出身のアジアゲームチャンプ。タクミの手助けを得て、ドヴェルグと真正面から撃ちあえるようになった。

 

[如月アンジェ]……電波犯罪対策課の一人。余談だが、最近父と和解した。

 

[速水ミサ]……電波犯罪対策課の課長。余談だが、彼女のように飛び道具を使える電波感応者は非常に珍しい。

 

 

 

用語紹介

 

[オーグギア]……AR技術を利用した小型のウェアラブル端末。

 

[アドボラ]……GUFの独立監査部隊。少数種族等への権利擁護アドボカシー を目的としている。

 

[メガサーバー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。ユグドラシルシティの軌道エレベータの内部に存在する地球全土と接続されている巨大なメガサーバー。

 

[フェアリースーツ]……3つ存在する〝妖精”の一つ。次世代宇宙戦闘服計画に提出された小型“粒子〟イオンスラスタシステムを採用した高機動宇宙服システム。メインスラスタの光が妖精の羽に見えたことからそう名付けられた。地上戦闘用にフライトパックと呼ばれる滑空用の翼とジャンプ用の推進装置をセットにしたバックパックを装備している。

 

[電波犯罪対策課]……警視庁刑事部捜査五課のこと。電波感応者という特異体質者が引き起こす電波犯罪に対し、電波感応者を解決に当たらせるという発想から発足した。

 

 


 

「よし、他の武器もコンバートし終えたぞ。後は、再起動したら全部使えるぞ」
「そんな暇ないことは見たらわかるでしょ!」
 フレイがその手に持っているレーヴァテインは励起させることで広い範囲に炎を展開できる。しかし、やはりそれだけではドヴェルグの大群に対処できない。
 ドヴェルグは蟻のような見た目でありながら知能もあるようで、近接戦闘では敵わないとみるや、羽根つきの飛行型を多数連れてきて槍を投擲する戦術に切り替えた。
「まずい……」
「どうしたんだ? お前、いつも大会で敵の弾丸を剣で弾き返してるじゃないか」
「あれは流石にアシストなしでは無理だよ。このゲーム太平洋樹大戦 、その手のアシストが全くないみたい」
 実際に体を動かすとはいえ、素人が一流の剣士のような技を使えるはずがない。そして別にゲームの目的は一流の剣士を生み出すことではない。そういうわけで、大抵のゲームには特定の行動時には当たり判定が増えるとか、遠距離攻撃にはある程度の予告が出るとか、遠距離攻撃は弾道と着弾点がある程度補正されるとか、ステータスによってある程度のアシストやブーストがかかるようになっている。
 一方で、太平洋樹大戦にはその手のブーストやアシストの類は一切ないらしい。今、彼女がある程度戦えているのは、彼女がたくさんのリソースをつぎ込んで育てた強力な愛剣が手元にあるからに過ぎない。逆に言えば、タクミが現れなければ彼女は遅かれ早かれ攻撃を食らって戦闘不能になっていただろう。彼は彼女の命を救ったと言っても過言ではない。
「なるほど、なんとかならないか確かめてみよう」
「そんなこと、できるの?」
「並みの魔術師マジシャン には、無理かもな」
 タクミの周囲を覆うウィンドウが一変する。複数の黒いコンソールウィンドウが縦に展開され、手元には仮想キーボードが出現する。
「確か、この辺に軍隊で使われてた軍隊用の弾道予測プログラムが……。あ、これだ」
【CAUTION!】
【OVERRIDE UNKNOWN_APPLICATION】
 フレイの視界にそんなウィンドウが出現し、消える。
「なに?」
「軍隊の弾道予測プログラムを使ってあの槍の軌道を予測する。それを手動でそっちに表示させる」
「自動化できないの?」
「アプリケーションそのものを書き換えないといけないのと、当然その場合再起動しないといけない」
「なら仕方ない。ちゃんとしてよ」
「こっちも命がかかってるからな」
 そういいながら仮想キーボードをたたくタクミ。
 フレイの視界に槍の軌道を示す黄色いラインが表示される。そして徐々にラインの色が赤く変化していく。
「ねぇ、ラインの色が変わってるんだけど」
「あくまで指針だが、発射タイミングを計るための措置だ。真っ赤になった時に発射してくる……はずだが、確実なことは言えない」
「まぁ、色が濃い奴を警戒ってことね……」
 それでもアリゴリズムの解析は完璧で、真っ赤に染まったラインから槍が射出される。
「せぇい」
 フレイの励起したレーヴァテインが確実に槍を打ち落としてく。
 GUFの弾道予測プログラムはクラウド上のサーバに記録されたデータをもとに弾道予測を行う。実はこの高い精度は、スミスが何度もドヴェルグと交戦したがゆえに実現したものなのだったりする。
 それでもギリギリだ。まだ敵は多くないから何とか間に合っている、という程度。
「まずいな……。まだ羽音が聞こえる。まだまだ増えるぞ」
「流石にこれ以上は処理しきれないよ。同時に発射してきたら流石に対処しきれない」
 ヴヴヴヴヴヴヴ。と音を立てて複数の羽根付きドヴェルグが攻撃姿勢に入る。同時に完全に同色の黄色いラインが出現し、同期したペースで赤くなっていく。
「まずいよ、これは対処できない」
 フレイが震えた声を上げる。同期している二つのラインが赤く変化していく。
「ここまでか」
 諦めかけた、その時、航宙用航空機が大気圏内を飛行した時のような轟音が響いた。
「当たってくれよ!」
 緑色の光が同期していた二体のドヴェルグを確実に打ち抜く。次いで、青い光の筋が二人の目の前の地面に落ちる。

 

△ △ △

 

 羽根つきを追い越した先に見えたのは、二人の男女が蟻の化け物に襲われているところだった。女性の方はその剣で打ち出される槍を迎撃しているようだったが、スミスの弾道予測プログラムが複数の槍が同時発射される可能性を打ち出した。あれでは対処できない。
 スミスは宇宙で移動するために使う“粒子”イオンスラスタを起動させる。それは青い妖精の羽根のように、一気に背中から噴出される。そのままフェアリーガンを両手で構えて頭の前に持ってくる。
「完全飛行姿勢で撃つのは初めてだけど……当たってくれよ!」
 ARで補正表示される照準装置で狙いを定め一発、もう一体に狙いを定め、一発。フェアリーガンから放たれた緑の光線は確実に二体を打ち抜いた。ところが……。
 ボキッと、よくない音がした。
「え?」
【WARNING!】
【RIGHT WING DAMAGE】
【GO INTO A TAILSPIN】
 真っ赤な警告が視界に出現する。どうやらさっきの音は右翼が折れた音だったらしい。警告の通り、スミスはバランスを崩し、きりもみ状態に移行する。
 しかし、スミスも訓練を受けた軍人だ。強引に宇宙での姿勢制御用スラスタを使い、何とか二人の前を通過し、スライディングするように、着地する。
「フライトパック、ウィングパーツをパージ」
【PURGE WING_PARTS OF FLIGHT_PACK】
 ガシャンと音を立てて、機械の翼が背中から分離する。
「二人とも、大丈夫?」
「え、えぇ」
「あ、あぁ」
 スミスが振り返って二人の男女に効く。
「あ、自分はスミス・マミヤ。GUFに所属してる戦闘員です」
「ナガセ・タクミだ。世界樹の監視官カウンターハッカー をしている」
「フレイ・ローゾフィアよ。……一応、アジアゲームチャンプよ」
 三人が自己紹介する。
「速水さん、奴らは戦闘能力を持った民間人と交戦していました。現在合流、一人は世界樹? のカウンターハッカーで、もう片方はeスポーツの選手のようです」
「おそらく、世界樹の監視官カウンターハッカー が、その選手の得意なゲームのデータに例のタグをつけたのでしょう。話を聞きたいから、その旨を伝えて、そしてこちらと何とか合流して」
「了解です」
 スミスが通信を終えると二人に向きなおる。
「今、仲間がこっちに向かっています。こちらからも合流するために移動したいのですが」
 接近してきた敵のドヴェルグをフェアリーガンで撃破しながら、二人に声をかける。
「あぁ、俺は構わないけど」
「私も、構わない」
 こうして三人は戦闘しつつ移動を始めた。

 

「スミス君!」
 最初にスミスに声をかけたのは速水の方だった。
「あなたたちが報告のあった民間人ね? 私は警視庁刑事部捜査五課の速水。こっちは如月。まず、お話を伺いたいんだけど……」
「それには及びません。皆様にお話ししたいことがあります」
 速水が二人に声をかけるが、言い終わる前に、横から誰かが話しかけてきた。
 緑の髪の女性と、まだ若い少年、そして褐色の肌に長い耳を持った女性だった。
「皆様に、今起こっている事態について、説明させてください。そして、解決に協力していただきたいのです」
 声を発したのは緑の髪の女性だった。

 

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