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Episode.7 「たった一つの冴えないやり方」

by:メリーさんのアモル 

キャラクター紹介

 

[ナガセ・タクミ]……軌道エレベータ「世界樹」に存在するメガサーバー「世界樹」の監視官カウンターハッカー

 

[電子の妖精]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。タクミの相棒。世界樹のメガサーバー上にしか存在できないAR上の存在。

 

[スミス・マミヤ]……アドボラの戦闘員。せっかくの飛行能力を失った。

 

[フレイ・ローゾフィア]……連邦フィディラーツィア 出身のアジアゲームチャンプ。この世界の彼女はあくまでゲーム内でしか強さを持たない。

 

[如月アンジェ]……電波犯罪対策課の一人。この世界の彼女はあくまでゲーム内でしか強さを持たない。

 

[速水ミサ]……電波犯罪対策課の課長。

 

[ドライアドの少女]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。突然現れた緑の髪の女性。もう少女という年齢じゃないかもしれない。

 

[空見鏡也]……管狐という使い魔ファミリア を連れている謎の青年。

 

 

用語紹介

 

[オーグギア]……AR技術を利用した小型のウェアラブル端末。

 

[アドボラ]……GUFの独立監査部隊。少数種族等への権利擁護アドボカシー を目的としている。

 

[メガサーバー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。ユグドラシルシティの軌道エレベータの内部に存在する地球全土と接続されている巨大なメガサーバー。

 

[フェアリースーツ]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。メインスラスタの光が妖精の羽に見えたことからそう名付けられた。

 

[電波犯罪対策課]……警視庁刑事部捜査五課のこと。電波感応者という特異体質者が引き起こす電波犯罪に対し、電波感応者を解決に当たらせるという発想から発足した。

 

[パシフィックツリー]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。太平洋の世界樹。この世界の安寧を願って建造された。

 


 

 
 

 緑の髪の女性は言う。
「はじめまして、私は人間ではありません。ドライアドという種族です。より厳密には、妖精という種族の中のドライアドという種類、ということになるのでしょうか」
「また妖精か。最近よく聞くな」
 その言葉を聞いてまず反応したのはタクミだった。
「でもゲームの話でしょ」
 ドヴェルグの話は理解してもあくまで冷めた見方をするフレイ。
「違うのです。私は、あなたたちが言うところのNPCではありません。世界樹によって分かたれた別の位相レイヤー から介入して皆さんに声をかけています」
「私も同じだ。私は黒妖精のデックアールヴ。……黒妖精という点では今問題を引き起こしているドヴェルグと同じ種族だ」
 黒い褐色の女が言う。
「あ、ボクは人間です。まぁ、ボクの場合は単なるNPCなんですけど」
 少年が言う。
「あ、あなたゲームを始めた時に声をかけてきた」
「そうです。NPCなんで名前はないんですけど、よろしくお願いします」
 フレイが気づく。
「自己紹介はありがたいけど、それより、話を進めて頂戴。今、何が起こっているのか」
 先をせかす速水。
「はい。このゲームは、普通のゲームではありません。世界樹によって分かたれた複数の位相レイヤー を限定的に無効化し、この、皆さんから見て虚像と写るこの世界へ出現させることを可能にするんです」
「つまり、別世界の存在をこのAR上にだけ表示させられるってことか?」
「そうです。厳密にはただ位相レイヤー が違うだけなので異世界とはまた違うんですけど」
 少女の説明を聞き、自分の解釈を述べて肯定されるタクミ。
「世界樹っていうのは、このゲームに出てくる太平洋樹、パシフィックツリーのことよね?」
「はい。世界樹、あなたたちの言うパシフィックツリーはこの世界が複数種の知的生命体で溢れ、争い、そして滅びることを防ぐために建造されました」
「そんなことが……」
 宇宙進出が進み、多種族時代と呼ばれる複数の知的生命体である異星人との交流が始まって半世紀以上が過ぎてなお、他種族の権利擁護を謳う集団アドボカシーボランティアーズ が存在する意義が残っていることを考えると、スミスには他人事とは思えなかった。地球人類は、異星人と交流する以前に、本来地球にいた他の種族とさえ、必ずしも友好的な交流をできていなかったのだ。
「一方で、それを快く思わないものもいます。彼らは世界樹を無力化し、再び地球という星、そこに存在するすべての種族の覇権を握ろうとしています。しかし、それをあおっている存在がいるのです。それは……」
「おっと、そこまでだ」
【CAUTION!】
【QUANTUM_NETWORK IS UNSTABLE】
 三人の姿にノイズが走る。
「世…樹へ、太……樹じゃ…い……天を突……き塔」
 少女が何かを必死に伝えようとするが、やがて消滅する。
【CAUTION!】
【QUANTUM_NETWORK IS OFFLINE】
「な、量子通信が切断された? ウソだろ」
「悪いが、この辺一帯での量子もつれエンタングル はすべて封じさせてもらった」
 驚きを口にするタクミに話しかけたのは、短髪の高校生くらいの青年だった。
「動くな!」
 咄嗟にスミスがフェアリーガンを青年に向ける。
「管狐」
 青年のポケットに入っていた竹の管から白い胴の長い狐が空中に出現する。
「AR画像じゃ……ない」
「警視庁刑事部捜査五課の速水ミサよ。あなたがこの辺一帯の量子通信を妨害しているのであれば、あなたは電波法第108条の2に明確に違反しているわ。現行犯で逮捕させてもらう。あなたには黙秘権が……」
「管狐」
「きゃっ……」
 突如現れた謎の狐に動じることなく、自らの職務を全うしようとする速水。しかし、青年が号令を下すと、白い狐は速水のすぐ真横をすごいスピードで走り抜けた。
「今のは警告だ。次は当てるぞ」
 白い狐……管狐は再び青年の元まで戻り、青年を囲うようにくるりと回って待機する。
 と、緑色の光線が飛ぶ。スミスがフェアリーガンを発砲したのだ。
「無駄なことを」
 しかし、人間相手には過剰威力も甚だしいその緑の光線は管狐に命中すると即座に霧散した。
「……まさか、霊獣?」
「へぇ……。あんたから血の力を感じるな……。あんた、討魔師か」
 如月が呆然と呟く。それに反応する青年。
「どういうこと、如月」
「私の父が、オカルトな事件に対処するスペシャリストなんです、私は継がなかったのですが……」
「なるほど……。あいつはそういうオカルトな存在を使うってわけね……。参ったわね、私達の電子武装は電波感応者とAR上の存在以外には効かない。あいつと戦うのは無理よ……」
「ゲームの武器を使ってるだけの私も同じね……」
 速水と如月、そしてフレイは先ほどまで強力な戦闘能力を発揮していたが、それはあくまで相手がAR上の存在であったからに過ぎない。彼女ら三人は等しく現実世界の脅威には無力である。
空見そらみ 君、何してるのよ、とっとと終わらせなさいよ」
 青年の後ろから女性が現れる。黒髪ロングで年齢は、高校生くらいだろうか。
天使あまつか ……?」
「50年ぶりね、鏡也きょうや 。……あぁ、心配しないで、今回はあなたの味方よ」
「あんたらの神もあいつの提案に乗っかることにしたのか」
「そう。信仰心と聖地を失って困ってるのはヤマト神族だけじゃないってことよ」
 二人での会話はそれで終わったのか、天使あまつか と呼ばれた女性が「さて」と言いながらフレイやスミス、タクミたちに向き直った。
「初めまして、私は天使あまつか 深雪みゆき 。あなたが私たちの契約主と敵対するのであれば、あなた達を滅せねばなりません。もちろん、我らが神の前に触れ伏すというのであれば別です。ですが、決断は早くなさい。さもなければ私のこの剣が、あなた方を強制的に神の国へ送ってしまうでしょう」
「……。俺は空見そらみ 鏡也きょうや 。まぁ、言いたいことは全部こっちの御使いが言ってしまったが、この弓状列島が今まで誰のおかげで守られてきたのかを思い出し、信仰を取り戻すというなら、許そう。もちろん、それが即断できないのであれば、残念ながらお前たちは伊邪那美いざなみ の下に召されるだろう」
 管狐がグルルルルと攻撃態勢に入る。

 シャリンと、鈴の音が鳴る。
「おやおや。中東の絶対神と、日の国の神が手を組みましたか」
「空見君はご存知でしょうが、私達にとっては神であろうと人に仇を為すのであれば、それは霊害として扱われます」
 シャランと、刀が抜かれる音がする。
 フレイやスミス、タクミらの背後から現れたのは二人の女性だった。
「中島の手の者か。もはや神の血を受け継ぐ家系は神の座を下され、地に堕ちた。それを理解したうえで……?」
「私達は確かに皇家の神の力を借り、八百万の神を降ろし、霊害と戦ってきました。しかしそれは、神のためではない。国民のため、そして人々のため。あなたの神アマテラス が人に仇を為すというのであれば、それを討つ、それだけのことです」
 年上らしい方の女性が大麻おおぬさ をカサカサと音を立てながら振る。
美琴みこと さんと、娘さん?」
 最初に声を上げたのはフレイだった。年上らしい女性、中島なかじま 美琴みこと はフレイと同じ、クラン・カラティンのメンバーであり、リアルでも顔を合わせたことがあったのだ。
「こんにちは、フレイ。大変なことに巻き込まれているようですね。ここは私達にお任せください」
 美琴がフレイに微笑みかける。そこへ、管狐が迫る。美琴は全く動じずに、ポケットから取り出した符で管狐を跳ね返す。
「こんにちは、アンジェさん。私のこと、覚えておいででしょうか?」
「生徒会長」
 アンジェに問いかけ、その回答に少し残念そうな顔をする美琴の娘、中島なかじま あおい
「まぁいいです。あなたは討魔師の仕事を継がなかった。そして、私にそれを責める権利はありません。どちらにせよ、あなたはあなたの使命を全うしなさい。ここは私とお母様に任せて、あなたは行くべき場所へ」
 と、碧がアンジェから視線を外す。直後、飛びかかるような勢いで襲い掛かってくる深雪の剣を受け止める。
「さぁ、行きなさい」
 それは二人のうちどちらの声だったのか。人の身にあって人ならざる者の使い魔となった二人と戦う力を持たぬ者たちは、有る場所へと走っていった。
 それはドライアドの少女が最後に残した言葉。太平洋樹ではない、天高くそびえる塔の世界樹。……軌道エレベータへ。

 

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