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Episode.10 「ツリー・ライジング」

by:メリーさんのアモル 

キャラクター紹介

 

[ナガセ・タクミ]……軌道エレベータ「世界樹」に存在するメガサーバー「世界樹」の監視官カウンターハッカー
[電子の妖精]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。タクミの相棒

 

[スミス・マミヤ]……アドボラの戦闘員

 

[フレイ・ローゾフィア]……連邦フィディラーツィア 出身のアジアゲームチャンプ。e-sportsチーム「クラン・カラティン」所属

 

[如月アンジェ]……電波犯罪対策課の一人
[速水ミサ]……電波犯罪対策課の課長

 

[ドライアドの少女]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。突然現れた緑の髪の女性。もう少女という年齢じゃないかもしれないけれど、彼女はこう呼ばれるべきだろう
[混血のアーシス]……あらゆる種族を惑わし、世界を混乱に陥れる者

 

[空見鏡也]……管狐という使い魔ファミリア を連れている謎の青年。彼の主、
[天使深雪]……剣を持つ美しい少女

 

[中島美琴]……e-sportsチーム「クラン・カラティン」のメンバーの一人にして討魔師
[中島碧]……アンジェの高校時代の生徒会長。美琴の娘で討魔師

 

[電子妖精]……通常の電子武装を構成するような緑のラインではなく、赤のラインで構成される武器を使う謎の存在

 

 

 

用語紹介

 

[オーグギア]……AR技術を利用した小型のウェアラブル端末
[メガサーバー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。ユグドラシルシティの軌道エレベータの内部に存在する地球全土と接続されている巨大なメガサーバー
[“彼女〝の戦争]……3つ存在する”戦争〟の一つ。血の流れない、電子の世界で毎日起きている争い。その言葉の意味はタクミと電子の妖精だけが知っている

 

[アドボラ]……GUFの独立監査部隊。少数種族等への権利擁護アドボカシー を目的としている
[フェアリースーツ]……3つ存在する〝妖精〟の一つ。メインスラスタの光が妖精の羽に見えたことからそう名付けられた
[研究コロニー「世界樹」]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。アドボラが隠れ蓑にしていた研究用コロニー。多くの発電用プラントが側面へ枝を広げるように伸びているその見た目から名付けられた
[サーミル動乱]……3つ存在する〝戦争〟の一つ。宇宙生物「サーミル」とそれによってもたらされるサーミル症候群に関わる、GUFやアドボラが関わった事件

 

[電波犯罪対策課]……警視庁刑事部捜査五課のこと。電波感応者という特異体質者が引き起こす電波犯罪に対し、電波感応者を解決に当たらせるという発想から発足した
[デジタライズ]……電子化。魂を電子的に解析し、電子空間に送り込む技術
[電子武装]……電波感応者が用いることができる武器。AR技術が発達した今となっては、ゲーム上のAR武器の相似形でしかない(もちろん機能は電子武装の方が圧倒的に上だが)

 

[パシフィックツリー]……3つ存在する〝世界樹〟の一つ。太平洋の世界樹。この世界の安寧を願って建造された
[文明大崩壊]……3つ存在する〝戦争〟の一つ。突如現れたパシフィックツリーと怪物たち(ドヴェルグ)によって引き起こされた

 


 

 
 

 赤いラインで構成されたブレードを構える電子妖精。
「……」
 再び電子妖精がこちらに飛びかかってくる。
「くそ、間に合え!」
【KEEP OUT!】
 タクミが電子妖精の進路上に電子物理障壁を展開する。
【KEEP】   【OUT!】
 しかし、その障壁は一瞬で破られ、電子妖精は攻撃を続行する。
「せい」
「はぁ!」
 如月とフレイが赤い刀身に合わせて攻撃を防ぐ。しかし、電子妖精は次の瞬間、防がれたその反動を利用して、一回転し、横からさらに薙ぎ払いを実行。刀という引き戻しが困難な武器を使う如月にはこの攻撃は回避困難……!
【KEEP】
【OUT!】
 しかし、その回避不可能のはずの双撃はさっき真っ二つにやられたはずの障壁によってそれぞれ防がれる。
「二つに割った程度で終わると思ったか!」
 防いだ瞬間、二つの電子物理障壁は爆裂反応装甲のごとく破裂し、電子妖精を吹き飛ばす。
【KEEP OUT!】
【DANGER DO NOT ENTER】
【DON’T GET PINCHED IN THE MACHINE】
【Authorized personal only】
【DANGER Do not touch】
【No trespassing】
【CAUTION WATCH YOUR STEP】
【DANGER NO CLIMBING】
【WATCH YOUR HEAD】
【DANGER HIGH VOLTAGE】
 次の瞬間、タクミによって十層もの電子物理障壁が展開される。
「同じ電子物理障壁を向こう側の通路にも張る。強制的にお前たちの位置を移動させるから、自分の位置を見失うなよ!」
 タクミが一気にまくしたてる。
 電子妖精はさっそく、電子物理障壁の解体を開始する。各障壁が十分に強固である以上に、強制発動のトラップ仕込みでもあるその障壁をいともたやすく一枚一枚剥いでいく。
「私は置いていってください。こっちに私がいれば障壁が消え去るまで時間稼ぎになります。そして、この翼があればその障壁は飛び越せます」
 そう言ったのはスミスだ。
「それなら私も同じ、近接武器のないタクミだけでは不利」
 フレイもそれに続く。
 それがぎりぎり間に合ったタイミングで、フレイとスミス以外の座標が、電子妖精の背後の通路へ転移する。
「こっちよ!」
 デジタライズやその転移に最も慣れていた速水が素早く指示を出し、転移慣れしていないために自分の座標を見失っていたもの達をけん引する。
 そして、その背後で十層の電子物理障壁が展開される。
 一方電子妖精は最後の電子物理障壁を突破し、電撃のトラップを身に浴びながらも、タクミに飛びかかる。
「させないよ! レーヴァテイン、励起」
 業と、炎が舞い、電子妖精と飛び切りを受け止める。
 電子妖精の10連もの斬撃攻撃を全てレーヴァテインで受け止め、グラムで攻撃の隙をついて、一気に刺突する。ひるんだ隙を見逃さず、スミスがフェアリーガンで追撃をかけながら、飛び上がり、フレイをつかんで、一気に障壁の上まで飛ぶ。
 青い翼は強力な推進力だが安定には向かない。フレイのメギンギョルズは安定した飛行を可能とするが、推進力としては弱い。しかし、この二人が協力すればこの通り。圧倒的なフェアリースーツの推進力とメギンギョルズによる安定飛行で、二人は一気に、集団に追いついた。

 

▲ ▽ ▲ ▽

 

 地球、軌道エレベータ「世界樹」周辺。
 チハヤは激しい攻撃にさらされていた。
「左舷ランチャー、損傷。右舷航空用ハッチ、損傷。後部対空砲塔、損傷」
 オペレータからの報告はひっきりなしだ。
 ミアも今はチハヤとフェアリーガンを接続し、チハヤの対空防御に回っている。
 防戦一方、それも完全に押し切られている。


 そして、それを少し安全な場所で見る大きな影が一つ。
「アドボラ艦艇、中破。アンノウン部隊、一部、軌道エレベータを攻撃」
「ふぅむ。やむを得ん。光学偽装を解除。空間歪曲力場を最大展開」

 

「左舷後方に大型の構造物! ……これは、複合艦です!」
 チハヤから見て、左後ろ。軌道エレベータの宇宙ポートを正面とした場合に、軌道エレベータのまっすぐ左に、巨大な宇宙艦艇が出現する。複数の大型発艦用カタパルト、数十門に渡る大型〝粒子〟砲。そしてさらに多くの対空レーザー機銃。そして、各種電子戦装備。なにより、目を引くのが、レーザーで構成された所属を示す旗だ。天動説をモチーフにした地球を中心としたその旗は……。
「セントラルアース……」
 アドボラとは敵対関係にある巨大な「地球至上主義」集団。それが彼らだ。
「空間歪曲反応!」
「取り舵!」
「とーりかーじ」
 次の瞬間、セントラルアースの大型艦艇が真っ黒な壁のようなものを展開する。それは、微速前進であったチハヤの目前に停止。それを「空間歪曲力場」だと理解した艦長は、即座に、取り舵を指示し、黒い壁ギリギリで左に曲がり、壁の内側にとどまる。
 戦闘機隊のミサイル攻撃は全てその壁面に衝突し、明後日の方向に跳ね返される。
 空間歪曲力場によるバリアは空間歪曲技術の発達とともに開発された、最も強力なバリア技術である。ただし、空間歪曲力場によるバリアはその場の空間の在り方を歪め続けるため、使い続けると危険ということで、エデン条約で禁止されている。
 しかし、エデン条約は地球政府から宇宙政府に移行してから結ばれたもので、宇宙政府を正当な政府として認めていない彼らはその条約を基本的に順守してはいない。
「アドボラの艦艇よ。謎の敵対勢力から地球を守るという目的は一致している。ここは一時休戦し、あの敵対勢力の排除を優先したいが、どうか」
 セントラルアースの大型艦から通信が入る。
「どうしますか?」
「……やむを得まい。そもそも、このまま戦ったところで、こちらが撃沈されるだけだ」
 了承の返事を送ると同時に、セントラルアースの大型艦とデータリンクが始まる。
「十秒後に、空間歪曲力場が消失、そのタイミングで一斉射撃とのことです。セントラルアース艦艇、各航空機を追跡開始」
 条約を順守はしていないセントラルアースだが、無制限に空間歪曲力場を使い続けるわけではない。空間歪曲力場を使いすぎることによるデメリットは十分に理解しているし、そうでなくても一定まで使うと、空間歪曲によるワープが不可能になってしまい、空間歪曲力場を使用した艦艇を取り締まろうとやってくる艦艇から逃げるのが困難になってしまう。
 そして、黒い壁が消失する。次の瞬間、緑色の光の奔流が大型艦から四方八方に乱れる。

 

▼ △ ▼ △

 

 計算外の出来事が一つ。それは、同じ障壁に、奴は引っかからなかったということだ。
「なっ!」
 全ての物理障壁を一撃のもとに粉砕し、電子妖精が迫る。
「惜しかったな」
 男の声がする。なんとか電子妖精から逃げようと必死で走る隣に、何者かが出現し、迫る電子妖精の攻撃を防いだ。それは微振動により切れ味を増す近代的な刀を持った緑の髪のメイドだった。メイド服の武器を除けば、電子妖精と〝彼女〟は瓜二つといえた。
「ここからは、俺が少し手を貸そう」
 そして彼女の後ろに、黒い影のようなものが出現する。
「このような写し身アバター で失礼する。姿は晒せないものでな」
「な! お前……外の世界の神の代行者統制者 が何しに来た」
 どこからともかく、混血のアーシスの声がする。
「まぁ、わざわざ介入するつもりもなかったが。先にその世界のモノを使ったのはそちらだろう? 外の世界のモノを使えば、外の世界の何かが呼び寄せられるのは必然と思うがいい」
 演技かかった声で黒い影が返す。
「それに……。そのソースコードで生成される電子ユニットNATタイプ の一人に俺の友人がいてな。俺の友人の姿をそんな風に使われると個人的に許せないんだ。というわけで、やれ、P-NATsピーナッツ 。その偽物を打ち崩せ!」
 P-NATsの刀が、その色をオレンジ色に変える。振動し、切れ味が増幅されている証だ。

 

■ ■ ■

 

 どことも知れぬどこか。灰色に赤いラインの入ったローブを来た男が、その赤い瞳を〝貴方〟に向ける。
「……お前がどこの〝軸〟からここを見ているのか知らないが。少なくとも、私の認識しているT軸通りなら、私はまだお前たちの前に姿を現すべき時期ではない。私のことは直ちに忘れるか……。そうだな、変な奴が助けに来たな、程度にとどめておくことだな」
 “貴方〝の”眼〟に手が伸びる。

 

 …………

 

△ ▼ △ ▼

 

 P-NATsは取り回しの悪い刀では不利と心得たのか、刀をパリンと消滅させる。次の瞬間、周囲を無数の灰色の結晶が舞い、そのうち一つに手をかけると、それが武器の形に変わる。
 電子妖精はP-NATsがどんな武器を使っていようと一才気にせず。これまで通り愚直な攻撃を続ける。
「思考能力がない分、向こうの方が単純な膂力は上のようです、マスター」
「時間が稼げればいい。混血のアーシスを倒すのは彼らの仕事であって、俺たちの仕事じゃない。少しだけ手伝ってやるだけだ」
「了解」
 もう一度結晶を展開し、武器を変える。

 

 そして、後ろで戦いが起きているのを一瞥すらせず、ひたすら前に進む彼ら。苦し紛れにドヴェルグが今更何匹か出現するが、今更足止めになりはしない。
「タクミから連絡があったよ。そこを左に曲がって、さらに右に曲がれば操作端末だって」
「こんなぐちゃぐちゃなのに、なんでわかるんです?」
 妖精の言葉に首をかしげる如月。
「無理やり侵入クラッキング して移動させたって」
「そんな強引な」
「なんでも、どこともつながってない場所に切り離しておかれてたみたい」
「なるほど、そりゃ強引にもなりますね。さすがハッカー、GJグッジョブ です」
 そして、端末にたどり着く。
「これで、機能を回復させてしまえば、パシフィックツリーも同時に機能を回復する、そうだよね?」
「えぇ。間違いありません。早速やりましょう」
「任せて」
 スミスが端末を操作し、コロニーの機能を完全停止させる。ジジジジジジと、何かが歪む音が聞こえ始めた。
「やぁ、お見事お見事」
 そして背後から拍手の音。
「混血のアーシス!?」
「ご名答。いや、私は〝彼ら〟と違って壁関係なく移動できるからね、私だけはここにとどまれるわけだ。さて、私はすぐにでも次の計画を始めたい。ところが事情を知っている君たちがいると、何かと不便だ。だから、悪いけどね……君たちには消えてもらうよ」
「そうはいきませんよ」
 剣呑な目を向ける混血のアーシスに、まず武器を向けたのはフレイだった。他の全員がそれに呼応して武器を向ける。
「おぉ、レーヴァテイン。それは私がルーンで作ったものだ、まぁ、それは所詮電子的なレプリカに過ぎないが、いやいや懐かしい。そして、それに負けず劣らず、他のみんなもなかなか面白い武器を持っている……だが、それで私は倒せないよ」
 混血のアーシスが、自らの得物を出現させる。それを見て、戦闘態勢を取る、彼ら。
 そして、混血のアーシスがにやりと笑う。

 

The End.

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