空虚なる触腕の果てに 第1章
「砂漠惑星サハラ」
地球から人類が宇宙へとその版図を広げたのが既に何百年と昔。やがて人類は他の知性体と出会い、そして人間達がそうだったように戦争を始めた。
そして人類は他の知性体と共に歩く道を選んだ。知性体達で集い、それぞれの母星から離れた一つの場所を中央政府と定め、新宇宙政府が樹立した。人類における
それから246年ほどが過ぎた。誰もが新宇宙政府を認めたわけじゃない。未だに自種族中心の政府こそが正しいと主張する者たちがいる。俺たち、セントラルアースもその一つであり、俺、ラルフ・カーペンターもその支持者の一人であり構成員の一人、と言うわけだ。
そして俺は今、セントラルアースの一員として長距離偵察の任についている。長い航続距離と単機でのナルセ・ジャンプ、いわゆるワープが可能なのが特徴の宇宙航空機、EF-31C、通称「長距離偵察機」に乗って、指定されたエリアを偵察、そして母艦に戻る、要はそんな任務だ。
【caution! RADAR WARNING】
「レーダー照射!」
コンソールにレーダー照射を受けている旨を警告する表示が現れる。レーダー照射を受けていると言うのはそのまま即ち照射者がこちらに狙いをつけている、と言う事を意味する。この宇宙空間においては何をするにもレーダーが必要だが、周辺の様子を見るための全方位レーダーと、
「アース、応答せよ。こちら、アレクサンドロス3。
アースは俺たちの母艦の名前、アレクサンドロス3は俺の
「アレクサンドロス3、こちらアース、
言われるまでもなく、機体上部に添えつけられたレドーム(ドームにより保護されたレーダー)の各種センサーを全開で稼働させ索敵させている。
「照射方向、立体方位090。姿は確認出来ず」
向こうからのレーダー照射方位を見ることで敵の方位は分かる。それにしても、真上だと?
嫌な予感を感じ、逆噴射をかけてブレーキをかける。体に急制動がかかる。結果から見ると、この判断は大成功だった。すぐ目の前を青いパルスレーザーを放ちながら敵機が通り過ぎていった。GUF(宇宙政府の警察組織)や我らがセントラルアースなど、名だたる軍隊で利用される傑作戦闘機、S/OF-34 ストラクチアだ。
「アレクサンドロス3、
「アース、了解。アレクサンドロス3、敵に中継回線を開け、セントラルアースより警告を発する」
明らかに敵はこちらに殺意を持って攻撃してきたわけだが、何らかの誤認によりこちらを攻撃してきたと言うことはありうる。このため、明らかに敵勢力であると言えないのであれば、まずは警告するのが通例であった。
「こちらはセントラルアース第一艦隊旗艦アースである。貴機が攻撃しているのは我が艦隊保有の
アースからの警告を受信し、こちらがそれを無差別通信に切り替えて発信する。
それにしても、ここがアースの射程圏内とは大したハッタリだ。実際には二度のワープでここまで来ている以上、アースは今からワープしても間に合わない距離にいるはずだ。
そして、敵機はこちらの警告を無視し、反転、再びパルスレーザーによる攻撃を仕掛けてくる。
レーザーはその名の通り光の速度で進む武器で、一光秒以上離れているのでない限り、発射と同時に狙った場所に命中する。そしてそんな距離離れているなんていう戦況はほぼ考えられない。要は回避が不可能な攻撃だ。
ただし欠点も二つある。一つは、レーザー攻撃は熱量による攻撃であり、戦闘機の装甲として使われているエネルギー転換装甲は、熱量のエネルギー変換が得意なので実際に与えられるダメージは少ないこと。もう一つは、ほとんどの場合、発射部が戦闘機の先端についているため、相手は必ずこちらを向かねばならない、という事だ。
そして今回の場合、二つ目の欠点がこちらの勝機となる。俺の乗る長距離偵察機は正面の四基のパルスレーザーの他に、機体底部にミサイル迎撃用の旋回式パルスレーザー砲台を一基搭載している。つまり、敵の正面を回避しつつ、敵に底部を向け続ければ、最終的にこちらが撃ち勝てる、というわけだ。
が、この戦法が実際に使われる事は無かった。
敵機が再び旋回しこちらに向かおうとしているところに、突如、緑色の筋が敵機のいる空間を支配する。間違いなく主力艦クラスから放たれた”粒子”ビームだ。
「支援砲撃完了、アレクサンドロス3、結果を報告せよ」
「れ、レーダーに感なし、撃墜」
アースからの通信がそれがアースからの砲撃であると告げる。だが、アースは射程圏外のはずだ。アースの戦術ネットワークとリンクしている今、アースの位置はリアルタイムで反映されている。その位置は、やはりビームが届くはずもないほど遠くにいることを示していた。
「なるほどね、なんでいきなりこんな長距離偵察部隊なんてのが作られたのかと思ったが」
一方で俺は納得もしていた。これまでセントラルアースが長距離偵察機を使った偵察などしたことがなかったのだ。理由は、ストラクチアの偵察モジュールで事足りるからだ。それが今、編成されている。その理由こそが、先の砲撃なのだろう。セントラルアースは超遠距離に砲撃する技術を手に入れたのだ。俺達はやがて来る戦闘において、弾着観測の役目を担うことになるのだろう。
【caution! RADAR WARNING】
「なに!」
再び警告が出る。緩みかけた意識を再び引き締める。
直後、全方位レーダーに機影が映る、が。
「っつ、こんな時に頭痛…………五機だと。いや、それより、近すぎる。どうやってここまで」
激しい頭痛が襲う。不思議な音が頭の中で反響している。これは、あの時の。いやそれより今は、戦闘行動を取らなくては。戦術ネットワークには引き続き接続しているようなので、そのままガンカメラの映像を送る。
「アレクサンドロス3、尾翼のエンブレムから、同組織所属の増援と思われる。また、敵機に未知のものも含め、なんらかの特殊モジュールを装備しているようには見えない。ここまで発見できなかった理由は不明、敵は未知の技術を持っていると想定されたし」
武器が迎撃用パルスレーザー一基の長距離偵察機で、未知の技術を持ったストラクチア五機と交戦とは、無茶にも程がある。
「また、先の支援砲撃は現時点では連続使用ができない。300秒耐えられたし」
無茶を言う。5分も耐えられるか!
【count:300s】
モニターを天球モードに切り替える。自機を中心とした球体のホログラフィックが出現する。本来はワープ先を決めるための星系マップを大きく表示するための機能で、戦闘にはむしろ邪魔であるが、五機からの攻撃を全て回避するのは、このモードで五機全ての向きを把握しながら操縦しなければ不可能だ。
もちろん、このモードにすれば可能になるとも言っていないが。そもそも無茶だったからか、頭痛が災いしたのか、パルスレーザーの十字砲火を浴びて、機体は制御を失った。
次の瞬間、目の前にまるでどこからか触腕が伸びてくるように、宇宙が欠けた。宇宙は真っ暗ではない、星雲や恒星の光、様々な要因で黒一色ではない世界を広げている。だが、今目の前に迫ったそこは、間違いなく、星一つ見えない漆黒の黒だった。
俺の意識はそこで途絶えた。
「{ッ]k?キ?o{ッ8?キキ?_{{5??クmヲレ」
「ん……んん……」
目を覚ました。
慌てて周囲を探す。
そして見つける、EF-31C、俺の乗る長距離偵察機が、地面に衝突している。長距離偵察機はこの地面に叩きつけられ、俺はそこからはじき出された、そんなところだろう。
周囲を見渡す。砂漠、のようだ。本来なら普通に立ってるだけでも辛そうだが、スーツの生命維持装置がスーツ内の環境を整えてくれているため、体感の環境は快適そのものだ。本来宇宙空間に放り出されても生き残るための装備なので、砂漠程度大したことはない。スーツのステータスを確認する。幸い損傷の形跡はない。
「よし、遭難時のマニュアルは以上。次は機体の損傷確認だ」
長距離偵察機に駆け寄り、コックピットに入る。スーツのコンピュータが座席の非接触回線によって、コックピットのコンピュータと接続する。どうやら電気は生きているようだ。エネルギー転換装甲が砂漠の熱量をエネルギーに変換しているのだろう。
コンソールを操作し、天体観測により現在の座標を特定するように指示する。
天体の配置から自身の位置を測定するのは、古くは北極星の位置を見て旅をした地球時代から変わらない。ほぼ何もない宇宙空間において目標となるのは天体くらいなのだ。
【エラー:一致する天体が見つかりません】
初めて見るエラーだった。通常、完全に一致していない場合も、明らかな天体などから、大体の位置を割り出せるようになっている。今回のように新しい惑星にたどり着いた場合は、それが必要だからだ。
だが、一致する天体がない、とコンピュータは言う。それは即ち、新宇宙政府が把握している宇宙の遥か外側、と言うことを意味している。
「み、未明領域……」
そして人々は主にその空間をこう呼ぶ、新宇宙政府の光の届かない場所、無法者が蔓延る場所、未明領域、と。
「……通信を試みる」
まずはセントラルアースに自身の無事を知らせなければ。コンソールを操作し、超空間通信、重力子による通信を試みるが応答なし。
「なら、ポット通信と行こう、通信用ポットを用意」
【エラー:ナルセ・ドライブ機能不全】
「なんだって??」
慌ててコンソールを操作し、全機能の破損状態を確認する。
【正面パルスレーザー1:機能停止】
【正面パルスレーザー2:機能停止】
【正面全方位ガンカメラ1:機能停止】
【正面全方位ガンカメラ2:機能停止】
【底部全方位パルスレーザー:機能停止】
【エネルギー転換装甲:一部機能停止】
【ナルセ・ドライブ:機能停止】
【メインエンジン:一部機能停止】
「満身創痍だな、こりゃ」
動力だけ生きてたのが奇跡みたいなものだ。 特に破損がひどいのが正面と底部のパーツである辺りから、正面から地面と衝突した事が窺える。
武器はウェポンベイ(機体内部の格納空間のこと、使用時に扉を開き機体内部から迫り出す。EF-31Cの場合、旋回式パルスレーザー砲台に死角を作らないために採用されている)に格納されていたA型ミサイルランチャーしか使えず、メインエンジンもこの状態では飛行はできても重力を振り切って脱出するのは難しいだろう。そして最悪なのはナルセ・ドライブが機能を停止していることだ。
ナルセ・ドライブは所謂ワープドライブで、光速を超えて遠くへ一瞬で移動できる。地球で初めて開発されたもので、地球製に拘るセントラルアースでは未だに使用されている。ちなみに、ナルセ、というのはこれを開発した博士の名前らしい。辺り一面見覚えのない天体である以上、元の宇宙に戻るにはワープが出来てやっと希望があるかもしれない程度の話だ。しかも、他のものはともかくナルセ・ドライブの仕組みなど俺は微塵も知らない。修理出来る希望もない。
武器がA型ミサイルランチャーしかないと言うのもまずい。A型ミサイルランチャーはGUFで採用されている統一規格で、GUF以外の殆どの組織もこれを採用している。航空機や車両、軍艦を問わず採用されており、ミサイルや爆弾などを多目的に搭載出来る。この長距離偵察機の場合、4発まで装填、同時発射が可能だ。決して悪い武器ではない。むしろ所属を問わずミサイルや爆弾を運用出来るわけだから、便利だ。しかもリニアレールが搭載されていて爆弾のような推進力を持たない武器を宇宙空間で発射できる。ただ、補給を得られない現状を考えれば、多用出来ないこの武装がいかに心許ないものであるか、分かってもらえると思う。対してエネルギーさえあれば使用できるパルスレーザーの方が圧倒的に便利だ。現状、その全てが使用不可能なのだが。
「とりあえず最優先すべきはメインエンジンの修理だな。その次はパルスレーザーの修理か。
とにかく、メインエンジンがこの星で手に入るもので修理出来なければ詰みだ。メインエンジンさえ修理出来れば時間をかけて他の惑星に行けば他のものも修理出来る見込みがあるが、メインエンジンが修理出来なければその希望もなし、この惑星で助けが来るのを待つしかない。未明領域にたまたま助けてくれる人が来るとは考えにくい。ほぼ死を待つしかない状態となるだろう。それは避けたい。
そうと決まれば、メインエンジンの損傷状態を詳細に確認し、修理に必要なものを探さなくては。
【警告:ブラスターが取り外されました】
コックピットに取り付けられているブラスターを取り外す。緊急時の使用を想定し、抜いてすぐに安全装置が解除される仕様のため、事故で外れた場合を想定した警告メッセージが表示される。
ブラスターはライフル程度のサイズの”粒子”ビームを撃ち出す銃だ。”粒子”はこの世界に満ちている物質で、特定の刺激を与えることで、強い熱を持ち緑色に光るようになる。これを利用して軍艦のエンジンや、軍艦の砲などが作られている。ただし大型にしなければ十分な出力を得られないため、このブラスターにしてもライフルサイズでようやく拳銃の射程だ。しかし、宇宙空間では物理弾はどこまでも飛んでいってしまうため、勝手に減衰する”粒子”ビームは都合が良いこと、”粒子”はこの世界に満ちているため時間経過でリチャージが出来ることなど、このサイズである以上の利便性がある。この場合も、後者のメリットが生きる状況だと言える。
ちなみにセントラルアースで採用されているブラスターは、ハワイ海軍工廠 リバティーと呼ばれるもので、従来のブラスターが持つバッテリーが必要というデメリットを”粒子”からエネルギーを取り出す反応炉を内蔵することで解決した、正真正銘「”粒子”だけで撃ち続けられる」銃である。
まぁ現状電力は生きてるので、バッテリー式でも問題はなかったが。
「さて、エンジンの状態は、と」
不幸中の幸いだった。実は、この長距離偵察機はセントラルアースの協賛企業が艦艇用”粒子”イオンエンジンを戦闘機サイズに更新しようとした試作品で、それゆえ、機体が大型化しているにも関わらず ストラクチアに匹敵する機動性とイオンエンジンにも関わらず大気圏内飛行を実現している。しかし、試作中の新技術ゆえその内部構造は公開されていない。ここが破損していれば、修理は出来ない危険があったが、幸い、ブラックボックスとなっている部分に損傷は見られなかった。
「これなら、鉄板さえ用意出来ればなんとかなるな」
となると理想は鉄板がそのままどこかに落ちている、というケースだ。そうでなければ、鉄鉱石を掘り起こし、それを鉄の板に加工する、という途方もない手間がかかる。”粒子”イオンエンジンをうまく使えば鉄を溶かすこと自体は不可能ではないと思うが、手間を考えれば避けたいパターンだ。
「よし、とりあえず、一通り周囲を探そう」
想像以上に一面砂漠であった。改めてスーツが損傷してないことを幸運に思う。
「スキャナーの類があればなぁ」
無い物ねだりをしても仕方ないのだが、こうしてひたすら何もない砂漠をなんのあてもなく歩いているとそんなことを思ってしまう。
「しまった、マッピングをするべきだったな」
今更ながらに気付く。
「よし、生命維持装置のバッテリーが半分を切るまでは歩いて、そこから引き返そう。それを四方位やれば、八方位とやって、マップを簡単に作ろう」
今、俺を暑さから守ってくれている生命維持装置は状況に合わせてスーツ内の環境を適切に整えることで装着者の命を守る。生命維持装置は電力で稼働していて、この電力は腰のバッテリーから供給される。バッテリーはコックピットで充電が出来る。なので、生命維持装置のバッテリーが無くなった時コックピットの外にいれば俺はそこでおしまいというわけだ。だから実際には半分より少し余裕を見て戻るべきだろう。
《16日後》
「参ったな。鉄の構造物どころか、鉱山すらないぞ……」
生命維持装置のバッテリーは半分でも1日は歩き続けられるだけの優れものだ。つまり俺はこれで16日も歩き続けた――うち半分は復路だが――事になる。にも関わらず、ほぼ砂漠しか見つからなかった。この星に来て以来時折視線を感じるから動物がいるのかと思ったのだが、ここまで何も見つからないとなると視線を感じるのも不安から来る何か、と言うことだろうか。
「食料もあと15日くらいしかない。が、この砂漠だとどうしようもないな」
大気圏内飛行は出来るわけだから、例えばサボテンみたいな植物とかなんらかの構造物が上空から確認できるとか、そんな場所を探すべきかもしれない。
「それなら朝まで待つか。夜に探すのは難しいしな」
俺は眠りにつく。明日こそせめて鉄板が見つかることを信じて。
「{5?ヌキ?_;{?oァキ?_<{5kァキ?_6{5?gキ?o」
「んん……」
【3135322e30362e3237】
「は?」
目を開けると、コンソールに謎の文字列が表示されていた。
「座標データか?」
デコードを指示すると、ここからの相対座標らしき座標が表示される。
マッピングデータと照合させてみよう。
【照合完了】
特に何もない場所のはずだ。なんでこの座標を指定したのか分からない。コンピュータを対話モードに切り替える。
【対話モードになりました。要件をどうぞ】
対話モードは昔風に言えば音声認識でコンピュータに指示を出来るモードだ。今では文章入力以外は全て対話モードで行われることも珍しくない。例えば操艦など、対話モードならかなりの処理をコンピュータに任せられる。にも関わらず、なぜセントラルアースが対話モードをデフォルトでオフにしているかというと、正直こればかりはよく分からない、機械には任せない、という意地だろうか。
「コンピュータ。先に表示した座標データの算出元を答えよ」
【貴君が入力したデータをデコードしたもの】
そう来たか。コンピュータらしい融通の効かなさだが、GUFにいた頃に触ったストラクチアのコンピュータはもっと融通が効いた気がする。地球産の技術に拘った結果、少し性能が低いのかもしれない。デフォルトがオフなのも、最新のものほど信用出来ないからか。
「コンピュータ。そのデコードを指示する以前にコンソールに表示されていた文字列の算出元を答えよ」
【音声入力による入力】
意味不明だ。音声入力はキーボードの音声入力ボタンか画面の音声入力ボタンを押すことで起動する入力手段の一つだ。訓練しない限りタイピングより口頭の方が早いため有効な入力手段である。とはいえさっきのような数字とアルファベットの文字列ならキーボードの方が流石に早い。というより一文字ずつあれを口頭で入力するというのは、想像するとかなり不気味だ。
うっかりボタンを押して寝言が誤認識されたのだろうか。それがたまたまこの近くの座標になった。そんなことがありうるのか?
「いやいや、ありえるんだよ。じゃないと、誰かがこのコックピットに入り込んで俺が寝てる間にあの文字列を口頭で入力したことになっちまう」
口に出して大きく首を振って考えを否定する。
「よし、何もないってことを証明してくる!」
結論から言うと、俺はその判断を酷く後悔した。
「なん……だこりゃ」
その座標にはぴったり俺が必要な形に加工された鉄板と、今食べているのと同じ1ヶ月分の固形食糧が、置かれていたのだ。
例えばこれがもし、なんらかの入れ物、物質ポッドとか、輸送コンテナとかなら、まだ分かる。そうではない。文字通り、吹き曝しの砂地の上に、ただ、置かれている。
「ひっ」
なんとなく怖くなって、俺はそこに近づかず、長距離偵察機の元まで走って戻った。
「{5kラキ?_:{5?キキ?__{5i? {?t?キキ?V?{5??キ?o5{5iキサ??シ{ッ8??キ?_{{5??キ?ow{5kGキ?o<? {5kキキ?o6{4?Wケ??{{5?Wケ??z{6?ァキ?V?{5??キ?_8{5iァキ?o={4?Wケk?={5?ヌキ?o{5i」
【推奨。必要物資の回収】
対話モードのままだったため、コンピュータがお節介を焼いてきた。
「いや、他の鉄を探す。対話モードを解除」
地面との固定を解除し、離陸する。
10日後。俺はとうとうこの星に他の鉄なんてないことを理解した。
「コンピュータ。物資の位置までオートパイロット」
【了解。物資ポイントAまでオートパイロット】
対話モードを起動し、オートパイロットを命じる。もう面倒だ。このまま対話モードを起動したままにしておこう。
「{ソ[o?キ?_{{5kァキ?_{5??キ?__{6?ヌキ?O5{?z?ヌキ?ow{5kキキ?_{6?ヌキ?o?」
着陸し到着したそこには、立派な物資投下ポッドが置かれていた。
なんだ、そうだったのか。おそらく前回見たときは疲れと妄想で、あんな風景が見えたのだ。きっとあの座標データは未知の手段で遠くの俺の母艦、アースから伝わってきたもので、このポッドもその手段で転送されてきたんだろう。いや、よかった。
喜んで食料を積み込み、そしてエンジンの修理を始める。修理用のブロートーチがないので、ブラスターを改造してなんとかしようと思っていたが、幸いそれもポッドの中に入っていた。見たことない形だが、鉄を溶接するのに不足はない。
「さて、次は何の修理をするか」
修理しながら考える。何よりも最も修理したいのはナルセ・ドライブだ。だが、修理方法がわからない。となると、最優先はやはり武器か。一部の機能停止したエネルギー転換装甲も気になるが、これは修理不能だ。他の壊れた戦闘機から剥ぐくらいしか方法はない。未明領域でそれは難しいだろう。
「なら、パルスレーザーだな。確か底面旋回式砲台の方はアウトプットカプラーが壊れてて、正面は媒質の結晶がなくなってるんだよな」
アウトプットカプラーは、レーザー発射部の先端にある鏡で、残念ながら仕組みのわからない俺ではどうしようもない。ただ、媒質の結晶の方はなんとかなるかもしれない。基本的にレーザーはフェザナイトと呼ばれる結晶を媒質に使っている。これは天然で採取できるし、地表に露出しているものだから、探すのも比較的容易だ。問題は存在している惑星が少ない事だが。例えば太陽系内にはかつては全く存在していなかったりした。
「{?<?ァキ?_{5kwキ?__{4?gサ??シ{ッ8??キ?_{{5kァキ?_{5??キ?V?」
「コンピュータ。メインエンジンのチェック」
【メインエンジン:動作正常】
何度目かのチェック。ようやく正常な状態に出来たようだ。いよいよ宇宙に飛び立つ事ができる。
「よし、ちゃっちゃと離陸しよう」
離陸し、エンジンをフルパワーで拭かせて、星の重力から脱出する。やがて見えるそこは星々の世界。
【e7b590e699b6e68391e6989fe382b5e38383e382bfe383bce382bae3839fe383ab】
また座標か。
「それも音声入力か?」
【肯定】
明らかに音声入力する時間などなかった。やはりアースからの通信だと考えるのが妥当だろう。
「コンピュータ。デコードし、座標を表示」
【座標をポイント】
今度は星系座標か。どこかの惑星のようだ。遠いが、ここから見えなくもないはずだな。
「コンピュータ。この座標をアップにできるか?」
【ズーム画像を表示。警告。ガンカメラが機能停止中のため通常カメラによるズーム】
随分青い星だが、このズームではビー玉程度のサイズにしか見えないのでさっぱり分からん。
「コンピュータ。他に分かることはないか?」
【スペクトルによる分析によると、フェザナイトが大量に存在する】
「あの青さは全部フェザナイトか!?」
【データに基づく推測によれば、肯定】
すごい星だ。だとしたらあそこに行けばパルスレーザーを修理できる。
「あー、コンピュータ。セントラルアースの規定にレーザーの色はあったか?」
【肯定。基本的に地球産人工フェザナイトの使用が義務付けられている。ただし、緊急時はこの限りではない】
やはりあったか。
パルスレーザーの色はフェザナイトの色による。ほとんどのフェザナイトは青いため、ほとんどの軍隊は青いパルスレーザーを使う。
ただし、特殊な環境にあったフェザナイトや、人工フェザナイトは、その環境により色が変化し、当然、それを使えばレーザーの色はその色に変化する。セントラルアースは、地球産に拘りがあるため、地球産人工フェザナイトの色、すなわち赤色に定まっている、というわけだ。
緊急時であれば青くても構わないなら助かった。早速向かうとしよう。
ふと、振り向く。そこには一面ベージュ色の惑星がある。先程までいた惑星だ。
「コンピュータ。記録しておこう、あの惑星は俺が発見した惑星。砂漠惑星、サハラだ」
【了解。星間ネットワークに共有。警告。星間ネットワークにアクセスできません。次回アクセスしたタイミングで自動的に同期されます】
惑星は第一発見者が名付ける権利を持つ。少し悩んだ末、セントラルアース的なネーミングセンスに倣い、地球の砂漠の名前をつけることにした。
「{?t?ラケ?゚{6?gキ?Vク{5?Wキ?Vコ{5??キ?o{6?キキ?V??!!!! {???ラキ?_{{5?!! {???ラキ?_{{5?!! {6??キ?Vキ{5oWキ?o{カサ?Wキ?V?{5?gキ?V?{5??キ?V?{6?gキ?V?{5iァキ?ow{5k!!!!! {?クkキケk?ン{5?!!」
《同時刻 ラルフ消失地点》
「ダメです、あらゆるセンサーでEF-31Cの反応を捕らえられません」
「あり得ん。相手がパルスレーザー以外の武装を使った形跡がない以上、パイロットが死ぬとは考えにくい、万一死んだとしても、多少なりとも部品は残るはず、ましてブラックボックスまで消失するなど考えにくい」
艦長が士官の報告に疑問を呈する。
「はい。しかし、例のレーダーから消えていた技術の出所も依然不明のままです。なんらかの未知の手段で粉砕された可能性も否定はできません」
「誰しもが、未知の手札を隠し持っている、か」
士官の言葉に艦長は艦後方に控えるタネガシマ、パンツァーシュレックの二隻を見て頷く。
「だが、ラルフも我らの大事な部下だ。捜索は引き続き続行する」
「平面方位010、立体包囲070の方向にタキオン粒子反応。おそらく、ネオアドボカシーボランティアーズです!」
「嗅ぎ付けられたか。全艦回頭、第一種戦闘配置。タネガシマとパンツァーシュレックは光学迷彩を使用しつつ戦闘宙域より離脱せよ、奴らにこれを知られてはならない」
艦内が赤い照明に切り替わる。
セントラルアースの天敵、ネオアドボカシーボランティアーズの登場により、セントラルアースの全要員はラルフのことを一度忘れ、目の前の戦闘に集中する。
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「空虚なる触腕の果てに」の大したことのないあとがきを
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