空虚なる触腕の果てに 第5章

「架空構造戦艦プルート 上」

 

「タネガシマとパンツァーシュレックを使えというのか? いや……しかし、それは……」
 安曇神秘士官の提案はセントラルアースにとってとても即決出来るものではなかった。
「何を悩む必要があるのです」
「アレはまだ世には明かせない新装備だ。そしてこの座標はネオアドボカシーボランティアーズに割れている。本当ならあの二隻は本隊が来る前にワープさせるべきなくらいなんだぞ」
 先ほど接触した敵対組織、ネオアドボカシーボランティアーズの部隊は明らかに偵察部隊だった。
 撃墜はしたが、位置はバレているだろう。本隊が来るのは時間の問題と言えた。
 そして、安曇神秘士官の提案は、まだネオアドボカシーボランティアーズの知らない新装備を使うということ。
 装備の情報というのは、ましてや相手の知らない新装備となれば使う時まで存在を隠しておきたいものだ。
 しかし、本隊が接近中の今、新装備を使おうものなら、その途中でネオアドボカシーボランティアーズに見られる可能性がある。
「ならこうしよう。一度二隻を下がらせ、本隊を迎撃する。それが完了次第、二隻を呼び戻し、救出参戦を行う、これならどうだ?」
「……別に構いませんが。救出が遅れれば遅れるほど、命の保証は出来ないことはお忘れなく。機密ということでしたら、私のポイント・ネモも下がりますので」
 ポイント・ネモはセラドン(安曇の専用機)を収容するための専用母艦である。安曇の専用機はこれまた最高機密にあたる新装備のため、隠蔽のために隠される必要がある理屈だった。
「あぁ、それも当然だな。では、君のポイント・ネモを旗艦として、タネガシマとパンツァーシュレックの臨時艦隊を編成、この宙域から最低でも一度、ナルセジャンプをしてくれ。本艦は無線封鎖中ゆえ、直接通達が出来ませんので」
「わかりました。今からポイント・ネモに戻り次第、両艦艇にポイント・ネモから通達を出すようにしましょう」

 

《同時刻 EF-31C機内》

 

【ドッキング完了。コントロールをアースへ】
 航宙機を収容するためのアームが俺のEF-31Cを掴む。
 そのまま航宙機ドックまで移動していく。
 途中、艦艇同士を移動するのに使う個人連絡船が逆にカタパルトに運ばれていく。
「やっぱり無線封鎖中みたいだな」
【…………】
 わざわざ艦隊配下の艦艇の艦長を集めてアース内で会議して今から艦艇に戻るところなのだろう。

 

「よっ、お疲れさん」
「おう。整備の方頼むわ」
 EF-31Cを降りると、これまでと同じ整備士が声をかけてきて、いつもと同じやりとりをする。
 っと、しまった。もう俺はEF-31Cのパイロット。コマンドギア整備士のこいつに整備してもらうわけじゃないんだった。
 振り返って言い直そうとするが、それよりはやく。
「おう、任せろ」
 整備士が応じた。
 あれ。俺に合わせてこいつもセクションを移動したのか? ありえない話ではないか。整備士とパイロットの信頼関係は重要ではある。パイロットの癖がわかっていたほうが、整備士も整備しやすいし、結果的にパイロットも操縦しやすい。
 ガシャン、と俺のEF-31Cが配置されている床がまるごと移動していく。
 アースの戦闘機ドッグの整備を見るのは初めてだ。あんな機構で整備スペースに移動するのか。昔の立体駐車場みたいだな。
 さて、と。俺はこれから戦術長に直接報告に行くんだったな。
「お疲れ様、ラルフ」
「オリヴィア中佐!?」
 オリヴィア・タナカ中佐はインダス小隊の……以前に所属していたコマンドギア部隊であるナイル小隊と双璧をなす部隊、その隊長だ。一応、ナイル小隊の隊長だった俺からすると、ライバルみたいなものだな。
「なかなかいい調子みたいね。けれど、私も負けないわ」
 そう、宣言して、去っていく。
 負けないも何も戦闘部隊と偵察部隊では役割すら違うだろうに、、向こうもこちらを多少なりともライバルと認識してくれていたんだろうか。


 さて、俺は戦術長に会って直接報告を済ませないとな。
 なにせあのEF-31Cを使った長距離偵察隊は戦術長直属の部隊なのだ。まぁこの前の超遠距離へのビーム攻撃から考えて、アースに搭載された最新鋭装備運用のための部隊なのだろうから、それも当然だと、今では納得している。
「第四戦術室へ」
【了解】
 エレベータに乗り、宣言すると、アースのコンピュータが応じる。
 エレベータが移動する独特の浮遊感を感じ、そして止まる。
「ラルフ・カーペンター大尉、帰還しました」
 戦術室に入る。
 が、そこは既に他の部隊が打ち合わせに使っていたらしい。
「なんだ、あんたは」
「なんだとは……。そちらこそ、どういうことでしょう? 第四戦術室は長距離偵察隊の専用ブリーフィングルームになったと聞きましたが?」
「そんな話は聞いていないな。ここは我々メソポタミア小隊が使用している。ナイル小隊は帰ってもらおう」
 は?
「いや、俺はナイル小隊じゃなくて」
「とぼけないでもらおう。ついこの間もインダス小隊のオリヴィアの撃墜数を超えたばかりだろう」
 何を言ってるんだ。そんなの、去年の話だぞ。
「とりあえず、とっとと出ていけ」
 副隊長が俺を押してエレベータに追いやる。
「最下層、整備スペースへ」
【了解】
 副隊長がよくある嫌がらせを実行し、エレベータが降りていく。
「くそ、どういうことだよ」
 メソポタミア小隊長の理不尽に苛立つ。

 

「{???ラケm?7{5kキキ?_{6?キサ?f?{?カ?wキ?Vサ{5?キキ?o;y?ワ??キ?O4{5?wキ?_w{5iァキ?o={゚4?wキ?_v{5iァキ?_8{5kキキ?_8{5??キ?o<{5iラ?mマ_」

 

 ずっと続いていた耳鳴りがひときわ激しく襲う。
 エレベータの扉が開く。
 そこでは、EF-31Cの解体が行われていた。
「おい、何をしてる!?」
 解体用のアームを操作するための機械を操作している整備士を機械からひっぺがす。
「何って、もういらないだろ、これ?」
 それはいつもの整備士だった。
「なにを……いってるんだ。……こいつは……」
 整備士は眉一つ動かさない。
「こいつは俺の新しい相棒だぞ。それを無断で解体するなんて、俺に一切通達がないなんておかしいだろ」
 整備士は何も言わない。
「なんで何も言わないんだ!」

 

「{???ラケm?7{5kキキ?_{6?キサ?f?{?カ?wキ?Vサ{5?キキ?o;y?ワ??キ?O4{5?wキ?_w{5iァキ?o={゚4?wキ?_v{5iァキ?_8{5kキキ?_8{5??キ?o<{5iラ?mマ_」

 

 直後、猛烈な耳鳴りが襲いかかり、次の瞬間、溶けるように整備士が消えていく。
「な、何が起きたんだ?」
 この世界にはカイボーイ映画の馬を宇宙船に置き換えたと言われる宇宙艦隊が舞台の映画のような個人を選択的にワープさせるような技術は存在しない。つまり、文字通り、消失した。
 いや、馬鹿げた話だが、本当にそうとしか解釈できない。
「って、そんなことより」
 慌てて解体機械の制御装置に駆け寄る。
「なっ……」
 だが、解体機械は止まっていない。
 どういうことだ。制御装置を操作する。
 最初に説明しておくとこの解体機械はどちらかというと重機のようなもので、自動で解体するのではなく、手動で機械を操作して解体する装置だ。
 これは、解体後にその資源をどう扱うかによって解体したい大きさ、形状、部位が変わってくることに起因しており、専門家がオーダーを受けて解体するほうが効率がいいからセントラルアースではそうしている。GUFなんかだとガッツリ規格化されているので全自動だった気がする。
 で、あるはずなのに、この解体機械は今もなお、自動でEF-31Cを解体し続けている。
「くそっ!」
 制御装置に近くの手近な鉄塊を拾い上げてぶつける。ぶつける。ぶつける。
「な……」
 破壊された制御装置、その先にあるはずの壁が、なかった。そこに広がっているのは、宇宙空間? まるで古い3Dゲームにおいてオブジェクトの裏に壁を貼り忘れてそのオブジェクトがバグで消えたせいで壁の向こうが見えているかのよう。いや、制御装置は解体作業用スペースと自分を隔てる塀のような形で配置されているからその向こう側は宇宙であるはずだがないんだが、そんなところもゲームっぽい、と感じた。
 そしてそれは奥の方に、見えた。
 ひときわ赤く輝く恒星。見覚えがある。

 

「{6?gキ?_:{5?wキ?_w{6?gキ?Vエ{6?Wキ?V?{5i??mマ_」

 

 強烈な耳鳴りが襲う。
 あぁ、こちらを見つめている
「ひぃっ」
 思わず駆け出す。
「居住区へ!」
【了解】
 エレベータに飛び乗る。
 いや、待てよ、居住区なんていっても無駄だ。そうだ、ドッグに行こう。何かしら逃げるための航宙機があるはず。
「航宙機ドッグへ!」
【了解】
 そこは無人だった。人が、じゃない、あんなにびっしりと存在していたはずの航宙機が、一機もない。

 

 いや、それ自体は奇妙なことではない。なにか作戦でもあって、全員で払っているのかもしれない。
 だが、俺はなんだか怖くなって、エレベータに駆け込む。
 だって奴がアースに入ってくるとしたら、外から何かがやってくるなら、まずはドッグだろうから。

 

「居住区へ」
【了解】

 

 やはり無人だった居住区のロッカーを抜け、自身に与えられた個室に入る。
「コンピュータ、部屋をロック。俺以外には解除不能にしろ!」
【了解】
 部屋に閉じこもる。これこそ、もっとも安全で、確実な方法だった。

 

 どんどん。

 

 個室というひとまず安全らしい場所にたどり着いたことでホッと一息つく。

 

 どんどん。

 

 ちょっと紅茶でも飲もうかな。

 

 どんどん。

 

 給湯器から沸騰したお湯を出して紅茶葉のはいったティーポットに入れる。

 

 どんどん。

 

「コンピュータ。三分経ったら通知」

 

 どんどん。

 

【了解】

 その気になれば紅茶そのものを食堂で出してもらうことも出来るが俺はこうやってティーポットで作ってティーカップに入れて飲むのが好きだ。

 

 どんどん。

 

 まぁ、それならお湯を沸かすところからちゃんとやれ、と言われそうだけどな。

 

 どんどん。

 

 俺はどっちかというと、ティーポットから注いだ時の香りが好きなのであって、面倒くささを楽しむタイプではないんだ。

 

 どんどん。

 

 ところで、

 

 どんどん。

 

 気の所為ではなく、ずっと扉を叩いてるやつがいるな。

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。

 

 俺が気付いたことをどうやってか察したのか、連続して叩き始めた。

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。

 

 一般論からいって、普通、部屋に用事がある人間は扉の側面についたインターホンを押す。

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。

 

 そう、まっとうな人間はノックなんてしない。

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。

 

 外にいるのは、いったい、誰なんだ……。

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。

 

【三分が経過】

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。メキッ。

 

 扉が歪む。

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。メキッメキッ。

 

「ひえっ」

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。メキッメキッメキッ。

 

【スヌーズ機能をご利用になりますか?】

 

 どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。どんどん。メキッメキッメキッメキッ。

 

 扉が歪みに歪んで、ついに開かれる。

第6章へ

 


 

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