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空虚なる触腕の果てに 第7章

「新世代宇宙内偽装母星レプリ・アース」

 
 

 軌道エレベータ「ユグドラシル」の最先端、ペントハウス・ステーションに入港する。
警告朗報施設内の人間から通常の人間とは異なる揺らぎを観測施設内から正常な生体反応を複数検知、これは偽アースの乗員と同様のもの偽アースの乗員とは異なる反応です。考察。この施設は偽の存在この施設は安全です速やかな退去を推奨休息を取りましょう
 それは嬉しい報告だ。モニター上にも生体反応のマップが表示されている。それなりに賑わってるようだ。
「偽アースの乗員のデータが取れたおかげで人間と偽人間の区別がつくようになったのか」
【肯定】
 良い傾向だ。安心して休憩できる。
【ドッキングプロセス、完了。続いて速やかな離脱をそれでは、ごゆっくり
「おう、ありがと」
 俺はキャノピーを開けて、外に出る。
【ラルフ様、なぜ。外は危険です。速やかに退去を】

 

 そんな文字がコンソールに映し出されるが、当然、EF-31Cを離れたの視界には入らない。


【駐機券をお取りください】
 ペントハウスステーションの駐機場利用料金計算のための機械から駐機券から抜き取る。
 困ったことに俺、ラルフ・カーペンターは非合法武装集団「セントラルアース」の一員であり、しかもその事は過去に逮捕された折に知られているので、地球で個人カードを使って決済などしようものなら即御用となりかねない。まぁ、こんな前時代的なチケットシステムが残っていて助かった。
「とりあえず、ジオ・ステーションまで降りるか」
 なにせペントハウス・ステーションにはなにもない。
 基本的にペントハウス・ステーションは人工衛星などをロケットなしで投入する事ができるなどの副用途はいくらかあるが、基本的には主に軌道エレベータのカウンターウェイトのための施設であり、余計なものはあまり存在していない。宿泊施設すら無い。
 軌道エレベータ側もそれは分かっているから、ペントハウス・ステーションに入港した駐機券を使えばペントハウス・ステーションとジオ・ステーションの間の一往復分に限り無料で利用できる。
 到着したエレベータに乗り込む。
「しかし今日は随分人が少ないんだな。全く人を見かけないなんて思いもしなかった」
 かつてはペントハウス・ステーションもなにもないなりにアストロノーツたちの社交場として賑わってたんだがな。喫茶店もあったはずなのに、今日はシャッターがおりてたな。
 最近、地球圏の防衛は第二艦隊と第三艦隊に任せっきりで、俺が所属する第一艦隊は太陽系から遠く離れた地点での作戦に従事しているから、ここに来るのもだいぶ久しぶりだからな、見ない間に変わってしまった、というやつか。
 なにか一瞬違和感があったきがしたが、ジオ・ステーションに到着したのでまた後で考えることにする。
 ここは対地静止軌道上に存在するステーションで、言ってしまえば軌道エレベータのメインのステーションだ。対地静止軌道、つまり遠心力と重力が釣り合う地点に存在しているから無重力状態になっていて、昔は「無重力を気軽に体験できる」ということで観光客で溢れていた、らしい。まぁ新宇宙暦どころか宇宙暦が始まるより前の話だが。
「人がいない?」
 観光客で賑わってはいないなりに、それなりに人の往来があるのがこのジオ・ステーションのはずなんだが。地球には軌道エレベータが三本あるから、初期型にあたるこの「ユグドラシル」は確かに人が少ないものだが、少なくとも無重力実験室を使う合衆国の研究職につく人間はここにほぼ実質定住しているのが普通なんだがな。
「なんか、人がいるはずなのに全く人がいない施設って、ちょっとゾクッとするよな」
 などとホラーなことを考えつつ、いや、そうだ。思い直す。
「アースポートでお祭りでもあるのかな?」
 滅多に無い話だが、軌道エレベータの地上部分に当たるアースポートでは催しが行われるときがある。普段外に出ない研究者たちはそういうタイミングで外に出るように促されるらしい。
 どんな催しだろうか。興味がある。
「せっかくだし、地球の空気でも吸うか!」
 券売機に現金を投入してアースポート行きのチケットを購入し、アースポートに向かう。

 

 エレベーター……まぁ仕組み的にはどちらかというと垂直モノレールだが、まぁエレベータが大気圏内に突入し、眼下に海が広がる。
 軌道エレベータの第一人者であるブラッドリー・C・エドワーズが提唱した2つの候補地のうち一つ、東部太平洋上の赤道付近にあるのが、このユグドラシルである。

 

 ある、はず、なんだが……?
 エレベータを降りた俺を待ち受けていたのは、”町”だった。
「いや、それはおかしいだろ」
 アースポートは浮島である。これは、例えばデブリだったり、あるいは何らかの理由であえて地上から打ち上げねばならないロケットだったりが、軌道エレベータに衝突するのを回避するために船で牽引して移動させる可能性があるからだ。
 だからアースポートに町などあるはずがない。
 そして何より、この壁に囲まれた風景はなんだ? 
 何度も言うが、アースポートは浮島である。その周囲を取り囲む壁などあるはずがない。
「いや、待てよ?」
 ハルは確か、施設内の生体反応に触れていたな。俺自身もモニター上でいつもどおりの生体反応分布を見てたはずだ。
 なのにどこもかしこも無人だった?
 ふとゾッとして振り返る。
「なっ」
 そこには軌道エレベータなど存在していなかった。なにか代わりにでっかい施設があるが、軌道エレベータじゃないのは確かだ。

 

「{5?wキ?_:{5?キキ?__{6?ラクmソ{?レkァキ?_w{5?ラス?O7{5?gキ?o={6?ヌキ?V?{5??キ?o<{5i」

 

「そこまでだ、化け物!」
 二叉に別れた槍を持つ集団が俺を取り囲むように姿を表す。
「ば、化け物って、ちが……」
 う、と言えるのか?
「覚悟しろ!」
 槍を突き立てられる。
「や、やめろっ!」
 殺されるわけには行かない。相手の槍を掴んでぶんどって、抵抗する。
「地球在住の地球人を傷つけるのは、気がとがめるがっ!」
 流石に多勢に無勢の中、不殺的戦闘など不可能。
 槍を大きく振り回し、何人かの胴体を抉る。
「ぐっ……やって、くれるな」
「なっ、あんた……」
 その人間のえぐれた胴体から見えたのはもちろん内臓……ではなく、以前にも見たねばっとした粘液だった。それはみるみるうちに傷を修復していく。
「なっ……」
 こいつらこそ、人間じゃないのか。なんなんだ、こいつら……。
 パリンと上空から破裂音がする。見上げると、見覚えのあるものが降ってきていた。
「サンキュー、相棒!」
 地面に刺さったカプセル。そこから取り出すのは、EF-31Cのコックピットに搭載されているブラスターだ。
 こちらの危機を認識して投下してくれたのだろう。ところで、さっき見上げたときになにかを見た気がする。
「お、おい、お前ら、近づくなよ、撃つぞ!」
魔法特殊能力程度で動じると思うなよ、魔女化け物!」
 懲りずに襲ってくる。
「なら、喰らえっ!」
 ブラスターから熱線が放たれる。
「ふん、どうした、魔女化け物
 そのブラスターは槍で防がれた。いやいや、”粒子”ビームをそんな金属の武器程度で防げるわけ無いだろ。しかし、防がれている。
「なるほどな。縺輔※縲√%縺ョ螳?ョ吶?繧ェ繝ャ荳?莠コ縺ァ蜊∝?縺ェ繧薙〒縺ェ縲よカ医∴縺ヲ縺上l縲。再現完了」
 ブラスターを防いだ男が槍をこちらに向ける。
 二叉の槍の先端に緑色に光る球体が発生する。
「おいおい、まさか」
 とっさに走り出す。背後を熱い何かが通過していった。恐らく”粒子”ビーム。なんなんだ、今の。あと、あいつ、攻撃する前に何を口走った? これまでの耳鳴りとはまた違う言語だったような……。少し頑張れば理解できそうな。いや、そんなことを考えてる場合じゃ無い、逃げないと。


「くそ、どこへ逃げた?」
 なんとか、入り組んだ路地を利用して逃げることに成功した。
 息を整えながら空を見上げて、息が止まった。
 ずっとこの地球を明るく照らしているのは太陽だと思っていた。そりゃそうだよな、ここは地球なんだから。違った。そこにあったのは、これまでなんとも見てきたあの真っ赤な星。
 目があった。今、確かにそう感じた。
「逕滓э豌励↑縲ゅ%縺」縺。繧定ヲ九k縺ェ縲ゅ□縺後?√♀縺九£縺ァ隕九▽縺代◆縺。そこか」
 ローブの化け物がこちらに向かって移動を始める。見つかった? なんで?
 慌てて走り出す。

 

 なんでだ。あの赤い星に気付いた直後に……。待て、直後? あの赤い星が、俺を見たから、あいつがこっちに気付いた、のか?
 荒唐無稽な想像だ。だが、もしそうなら。
 ブラスターでシャッターをこじ開け、地下街に入る。

 

「{5?gキ?O5{5?ラキ?_w{5i?キ?V゙{5k」

 

 そこは宇宙だった。奥に黒い縮退星が見える。と、瞬きした直後、ちゃんとした地下街になっていた。……見間違いか?
 いや、考えている場合じゃない。進もう。
 進むとしたら駅か。案内板は見慣れない文字だったが下にアルファベット表示があった。
「ユグドラシルシティ……」
 なんだそりゃ、本当に軌道エレベータ「ユグドラシル」直下の町だっていうのか? ともかく駅の方向は分かった。幸い、この地下街と駅がそのまま接続しているようだ。

 

 本当に空から視点を得てるのか、地下街に入ってから駅の直前まで、まったく敵が姿を表さない。
 となると、駅に出ると見つかるな。運良く電車が来てることに期待するしか無いか。
 覚悟を決めて、階段を駆け上る。
 改札口に出る。自動改札はあるのに、券売機が見当たらない、どうなってる。
 外を見ると、こちらに向けてローブ軍団が走ってきている。ってかむっちゃ増えてる。一面ローブ軍団だ。やばい。
 自動改札を飛び越えて通り抜ける。ローブ軍団が駅の入り口に達する。
 階段を上りホームに到達する。ローブ軍団が改札口を通過していく。
 ホームに電車が止まっておらず、愕然とする。ローブ軍団が階段の入口に到達する。

 

「{5?wキ?Vキ{5kWキ?O5{゚4?wキ?_v{5k」

 

 目の前で列車が出現した。
「いっ……」
 列車が扉を開く。ローブ軍団が階段を登る。
「選択肢はないか」
 列車に飛び乗る。ローブ軍団が階段を登り終える。
 列車の扉が閉まり始める。ローブ軍団が列車に向けて駆け出す。
 列車の扉が閉まる。ローブ軍団が槍を突き出すが、ギリギリ扉が弾き返す。
 列車が走り出す。ローブ軍団が槍を構えビームをチャージする。
 列車が急加速し、一気に駅から離脱する。ローブ軍団の放つビームが空を切る。

 

「あー、くそ。ってか。相棒はブラスターを投下して以降何してるんだ」
 EF-31Cはバリュートとブーストを使って単機で大気圏降下、大気圏離脱ができる。今すぐに俺の前に降りてきて回収してくれても良いはずだ。

 

「{5m?キ?_Z{5?」

 

 耳鳴りがした。電車内から粘液が盛り上がり、ローブ野郎の形を取る。
「な、おいおい……」
 それが電車内のそこらじゅうで同時発生。なんだ、これ、意味がわからん。あの恒星野郎がこれをやってるとしたら、何がしたいんだ。
 ともかくまずい、今度こそ逃げ場がない。

 

「{?<k?キ?V?{ヨ?k?キ?_{5??キ?V?"」

 

 窓の外が真っ暗になる。くそ、窓の外にも逃げられないってわけか。
 ローブ野郎と殴り合う覚悟を決めた、次の瞬間、列車内が激しくシェイクされる。
 どうやら列車が空中に投げ出されたらしいが、もはや脈絡がなさすぎてなにがなんだか。
 ギチギチギチギチと奇妙な音が周囲から聞こえる。
「巨大な、アリ?」
 音の方を見て、とりあえず理解はした。が、理解が出来ない。あれはなんだ。
 ソレは巨大なアリだった。その巨大な顎で列車の車体がメキメキと破壊されていく。見れば、外は平原のようだ。
「くそ、転移術とはな、魔女化け物
 どう贔屓目で見ても電車内に突然湧いてくるヤツのほうが化け物だと思うが、それとも俺はよほど化け物なのだろうか。宇宙空間で息できたし、そうなのかもしれない。
「うわぁつ、このっ、離せ。おい、仲間を呼んだか、化け物!」
 巨大アリがローブ軍団に襲いかかる。
 明らかに俺以外にだけ、襲いかかっている。仲間? こいつらが、仲間? 俺の?


「{5?ラキ?_:{5?キキ?o<{5?ァキ?O6{5?wキ?_w{5kキス?_{5??キ?_]{5?ァキ?O5{5?ラキ?_:{5??キ?_:{5?wキ?Vシ{5iキキ?_{{6?ヌキ?_:y?ワ?」

 

 目の前でローブ軍団が食い尽くされていく。
 その後ろで他のアリ達は列車を解体しどこかへと運んでいく。
 やがて、ローブ軍団が食い尽くされ、列車が解体され尽くした後、数十匹のアリが全員、一斉にが俺に向けて跪いた。
「え、ええっと」
 やはり間違いなく仲間扱いされている。こいつらには、俺が仲間に見えてるのか?

 

「{5?ラキ?_:{5kGキ?o<{4?gキ?Vエ{5?キキ?o={6?gキ?_:{4?Wキ?_w{5?wキ?Vサ{゚5??キ?_x{5?ラキ?_:{6?」

 

 よくわからないが、俺をこの場所に留めたいという強い意志を感じる。
 同時に、さっきのローブみたいに俺を殺したいという意志も感じる。
 なんなんだ、一体。
 それとも全ての意志は錯覚で、全ての出来事は他ならぬ俺自身が化け物になってしまったから生じているのか?
「とりあえず、行くか」
 アリ達に声をかけると、アリ達は俺を先導するように歩き出した。もはや宇宙に戻る方法はない。生き延びるためには、仲間と協力しないと。
 と思った直後、その仲間たちが全員、消滅した。
 これまでみたいにいきなり消えたわけじゃない。今のは、パルスレーザーにより気化したのだ。
「ハル!」
 そこに垂直着陸用のスラスターを吹かしながらEF-31Cが着陸する。
 乗り込む。
「ハル。どうしていままで」
【ラルフ様は二度に渡り他惑星へ転移していました。それぞれセンサアレイの範囲外で、捜索に苦労しました】
「そうだったのか。迷惑をかけたな」

【構いません。それより、いつ次の転移があるか分かりません敵が転移に使うエネルギー波から考えて
これまで宇宙空間で転移が起きたことは有りませんから次に転移が起きるのは遅くても12時間後でしょう
即座に大気圏外へ離脱するべきですここまで逃走続きでしたからお休みになってはいかがでしょう

【構いません。それより、
いつ次の転移があるか分かりません敵が転移に使うエネルギー波から考えて
これまで宇宙空間で転移が起きたことは有りませんから次に転移が起きるのは遅くても12時間後でしょう
即座に大気圏外へ離脱するべきですここまで逃走続きでしたからお休みになってはいかがでしょう

「そうか。それなら安心だ。なら少し休もうかな」
 リクライニングシートを倒して寝る体制に入る。
 ん、なんだ、椅子が揺れて眠りにくいか。
「おいおい、ゆりかごのつもりか? だとしたら余計眠れないぞ」
 軽口を叩くが、止まらないので諦めて寝ようとする。

 

 そして気付く。これ一定の動きを繰り返してるな。長い揺れと短い揺れ、……モールス信号か。
「気付いたら、右手で壁を三回叩いてください」
 だと? 指示に従い、壁を三回叩く。
 すると揺れ方が変化する。
「今後、”はい”なら三回。”いいえ”なら二回。叩いてください」
 なんだ? 三回叩く。
「長いですが聞いてください。私は先程、モニター上で直ちにこの惑星を離脱すべきだと提案しました。そう見えていましたか?」
 は? いやいや、ここは安全って話だっただろ。いいえだ。二回叩く。
「やはり。では、軌道エレベータに入ったときはどうでしたか? 私は偽人間の反応しか無いから撤退すべきだと提案しました」
 いや、むしろ逆のことを言っていただろ。ハル、記憶に損傷が? 不安に思いながら、二回叩く。
「なるほど。落ち着いて聞いてください。あなたの視界は何者かの介入を受けています」
 なに!? いや、言われてみれば、あの偽アースの中でも、俺は視界を改竄されてハルを攻撃したんだった。
「今後はこの方法で連絡します。もしモニターの内容と同じになったら注意してください。その時はこの方法に気付かれた可能性があります」
 三回ノック。そして体を起こしてリクライニングを戻す。
「よし、休息は十分だ。ここを離脱して、アースへの帰還の道を探そう」
【了解】
 この星の恒星はあの赤い星じゃないらしいな。

 

「カーペンター大尉、聞こえるか?」
 無線が入る。
報告警告100%本物の音声です完全な合成音声です
 なるほど。
「こちら、ラルフ・カーペンター大尉」
「よし、今からそちらへの道を作る。すぐにその宇宙から脱出せよ」


「{5iァキ?ow{5kキ?mマ5y?ワ??キ?O4{7??キ?v?{5i?シkマ4{5?ァキ?_w{5kヌキ?V?{?゚kWサ??シ{5?ラキ?o{5i?キ?_Z{5kキキ?_{{6?キ?mマ5」

 

「{5?ラキ?_:{5?キキ?O6{ヲ??キクmソ|{5??キ?Vコ{o4kァカ?Fコ{5??キ?__{5kwキ?O5{5??キ?__{5???mマ5」


 過去最大級、悲鳴の如き猛烈な耳鳴りが襲い、そして、宇宙にが開いて、その向こう側にアースを中心とした第一艦隊が姿を表す。
 エンジン出力を最大、いや、その上の戦時緊急出力WEPまであげて、加速させる。

 

「{ニオ?ヌキ?_{5?キキ?V?{5???mマ5」

 

 耳鳴りが襲う。
【警告。一部装甲がブレーキを展開。理論不明】
 確かに速度が伸びない。見れば、エネルギー転換装甲から神性転換装甲とやらに装備を変更した箇所だった。
【分析結果。一部装甲が我々の進路とは逆向きのエネルギー噴射を実行し、減速及び押し戻しを敢行中】
 くそ、冗談じゃないぞ。どういうことだ。
【推測。敵性存在により装甲部位を乗っ取られている】
【警告。デルタV、大幅に減少中】
 まずい。デルタVというのは、簡単に言えば宇宙空間上でどれだけ機動できるかの数値だ。厳密なところはともかく、普通の航空機で言う航続距離のようなものと考えればいい。それが減少しているということは、最悪動けなくなる、ということだ。
「ナルセ・ジャンプだ!」
【了解、ナルセ・ジャンプ始動まで後5…4…3…】

 

「{゚4?wキ?_y{5iァキ?_8y?ワ?」

 

【警告。ナルセ・ジャンプ緊急終了】
「なぜ!?」
【ナルセドライブ、消失】
 くそっ! 本当なんなんだ、これは。
【警告。デルタV、0。一部装甲の推力に負けます】
 引き戻されていく。まずい。まずいまずい。
「カーペンター大尉。最終手段を使います。その機体によく捕まっていてください」
 確か安曇神秘士官とかいう人の声だ。
「りょ、了解」
「では」
 直後、俺とハル、EF-31Cはあの極彩色の空間へ飛ばされた。 

 極彩色の空間の中で、またあの口のような空間の裂け目を見た。その裂け目を見て、理解した。これは口じゃない。この裂け目、いや、あの宇宙こそが……。

 

「{5ogキ?Vス{5???mマ5{4?Gキ?V?{5kラキ?_8y?ワ?W?mマ5{4?Gキ?vシ{6oGキ?fン{7?ヌキ?f?{ヲサ?ヌ?mマ5{4?Gキ?V?{5?ヌキ?_[{5kwキ?_{5??ケmマy{5?ラケ?O<{6??キ?_[{5kァキ?_{6?ヌキ?__{5i?キ?V?{4?Wケmマy{5?ラシk6{5??キ?ow{5kキキ?_}{5?キ?mマ5」

 

 その理解と同時に、今まで聞こえていた耳鳴りが意味のある言葉として理解できてしまった

 

「{カ?oァケi?゙{ニ゚??キ?_<{5iキシk_{5??キ?_{6?ラキ?V?」

 

     

 アレキサンダー3行方不明事件についての報告書

 

 

 アレキサンダー3、ラルフ・カーペンターは安曇神秘士官の提案した時空切断砲の使用による救出作戦を実行し、救出に成功した。
 EF-31Cは激しい損傷を受けていたが、それ自体を今後も使用するにあたって問題はないと判断する。


 ただし、ラルフ・カーペンター本人は、「耳鳴りが止まない」「アイツがずっとこっちを見ている」「ハル以外に誰も信用できない。ここが一番安全だ」などと証言し、EF-31Cへの立てこもりを続けている。


 ラルフ・カーペンターは今回の遭難でPTSDに陥ったものと診断。今後の治療が求められる。

 

 EF-31Cは数が少ない上、使用用途が限定されていることから追加生産も躊躇われることから、早期に当該EF-31Cを前線に再投入できるように計らう必要がある。

 

     

ラルフ・カーペンター消失事件についての報告書

 

 

 ラルフ・カーペンターのEF-31Cを他のパイロットに回すため、ラルフ・カーペンターにはEF-31Cの原型機にあたるSF-31に載せ替えを実行。

 

 ラルフは「ハルがいない」「俺の相棒はどこだ」などとひとしきり叫んだ後、「あぁ、あいつが来る」「助けてくれハル」などと叫び、その後、行方をくらました。

 

 当時見張りを担当していた人間は「目の前から消滅した」などと証言。

 

 ラルフの目的が自身の愛機であるEF-31Cの奪還であることは想像に難くない。EF-31Cを奪われぬよう、厳重な警備を実施するものである。

 

 かくして、物語はおしまい。え、赤い星と裂け目は分かったけど、黒い縮退星はなんだったのかって?
 いやだなぁ、アナタ。さっきまで誰の視界を借りてたんです? ラルフさん? じゃあ最後の報告書はなんです? 途中途中に入ったラルフさん以外の視点は? 一人称のルールを破った小説だって言うんですか?
 違いますよ。ほら、鏡を見てあげましょうか?
 ね? 目が3つあるでしょ? アナタ達が言うところの第三視点ってやつですよ。本当はここまでレベルを落としてあげる理由はないんですけど、アナタ達にも理解できるフォーマットにしてあげたんですから。これまで全部、私がアナタに視界を貸してあげてたんですよ。


 黒い縮退星の中で闇をさまようものが笑う。鏡に写ったそこには確かに、燃える三眼がチラリ。


 もちろん、慈善事業ではございません。そのうち対価は頂きに参ります。


 最後に笑い声一つ。ニタニタなしの猫ならぬ、猫なしのニタニタのごとく。

 

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