退魔師アンジェ 第2部 第2章
『〝刀泥棒〟虹野カラ』
父を
そして最後の試練の日。アンジェは瘴気から実体化した怪異「
翌日、月夜家を訪ねてきた生徒会長、
アオイから明かされた事実、それはアンジェ達の学校が「
早速学校を襲撃してきた下級悪魔「
アオイから恐怖心の克服を課題として言い渡されるアンジェ。玉虫色の粘液生物と戦ったアンジェはヒナタの何気ない助言を受けて、恐怖心の一部を克服、再びアンジェを助けた白い光を使って、見事学校を覆う謎の儀式を止めることに成功したのだった。
しかし儀式を試みた魔術師は諦めていなかった。それから一週間後、再び学校が今度は完成した儀式場に覆われていた。アオイは母・ミコトの助けを借り、儀式場の中心に到達するが、そこに待ち受けていた
そこに現れたのは「英国の魔女」と呼ばれる仮面の女性。彼女は事前にルーンと呼ばれる文字を床一面に刻むことで儀式の完遂を妨げたのだ。そして、英国の魔女は「この龍脈の地は私が治める」と宣言した。逃げる安曇。追う英国の魔女。蚊帳の外の二人。アオイは安曇は勿論、英国の魔女にも対抗することをしっかりと心に誓った。
ある晩、アキラから行きつけの古本屋を紹介してもらった帰り、アンジェとアキラは瘴気に襲われる。やむなくアキラの前で刀を抜くアンジェ。しかし、一瞬の不意を撃たれ銃撃されてしまう。謎の白い光と英国の魔女に助けられたアンジェはアキラの部屋に運び込まれ、週末に休みの期間をもらう。
休みの時間をヒナタと街に出て遊ぶのに費やすアンジェ。そこで剛腕蜘蛛悪魔を使役する上級悪魔らしきフードの男と謎の魔術師と遭遇する。追撃することも出来たが、アンジェは怪我人の保護を優先した。
アンジェは父が亡くなった日の夢を見る。時折見るその夢、しかしその日見えた光景は違った。見覚えのない黒い悪魔の姿があったのだ。そしてその日の昼、その悪魔とその使役主である上級悪魔、
そして同時にアンジェはアオイから知らされる。父が死んだその日は「大怪異」と呼ばれる霊害の大量発生の日だったのだ、と言うことを。
イブリースが大攻勢をかけてきた。悪路王と英国の魔女は陽動に引っかかり、学校にいない。アオイとアンジェだけでは学校への侵攻を防ぎきれない。最大級のピンチの中、アンジェは自身の血の力と思われる白い光を暴走させる。それは確かにイブリースごと全ての悪魔を消滅させたが、同時に英国の魔女が封じていた安曇のトラップを起動させてしまい、学校を大きく損傷、死者まで出してしまう。
アンジェはその責任を取るため、討魔師の資格を剥奪されることになるところだったが、突如乱入してきた悪路王がアンジェの血の力と思われる白い光を強奪。最大の懸念点だった力の暴走の危険は無くなったとして、引き続き討魔師を続けて良いことになった。
アンジェの力の暴走、通称「ホワイトインパクト」の後、
ホワイトインパクトに対処する中、英国の魔女は事態収束後も同盟を続けようと取引を持ちかける。アンジェは取引は断りつつも、英国の魔女の座学から様々な知識を学ぶのだった。
英国の魔女に連れられ、ロアの実例と対峙するアンジェ。しかしそこに、ロア退治の任を受けた討魔師・
父の仇である悪路王は如月家の血の力を盗んだ。そして如月家について、明らかに何か知っている。アンジェはそれを問いただすため、そして可能ならば討ち倒すため、アンジェは悪路王のいるとされる
アンジェの右腕は英国の魔女の尽力により復活した。悪路王はアンジェの血の力について、ウキョウを倒せるレベルにならなければ返却できないと語り、あのアオイでさえそれに同意した。そしてアオイはアンジェについてしまった及び腰を治療するため、ある人物とアンジェを引き合わせることを決める。
アンジェは
討魔仕事の帰り、アンジェを迎えに大きなバイクに乗ったフブキが現れる。フブキは言う。「
ベルナデットは魔術師だった。
フブキと共にベルナデットと交戦するアンジェ。
だが、フブキが作ったベルナデットの隙をアンジェは殺害を躊躇したため逃してしまう。
ベルナデットが盗んだのは『
アンジェが回収したカードから、ベルナデットは錬金術師と判明するが、目的は見えない。
そして、自身の覚悟不足によりベルナデットを逃したことを後悔し、こんなことでは復讐も成せないと感じたアンジェはアオイと真剣での鍛錬を行う事を決める。
アオイとの真剣での鍛錬の中、アオイの持つ刀、
それはそれとして、1/25はアンジェの誕生日。アキラとヒナタ、そして当主から祝われる中、当主は宮内庁に「現在日本にいる英国の魔女を本物の英国の魔女だと承認する」事をアンジェに伝える。
誕生日は同時に父の命日でもある。墓参りを終えた英国の魔女は頭の中に響く声について意見を求める。
英国の魔女は「神秘使いの中には得意分野ごとに人格を作り、それを使い分ける者がいる」と伝え、アンジェもそれではないかと考察する。
そんな中、「賢者の石」作成を目的にしていると思われるベルナデットの今後の行動指針を探るため、英国の魔女の知り合いである錬金術師に会うことが決まる。
足尾銅山跡に工房を構え、盗掘しながら生活している錬金術師「ウンベグレンツ・ツヴァイツジュラ」、通常「アンリ」は言う。
「将棋とは錬金術の一種であり、詰将棋とはそのレシピである。その最高峰たる『象棋百番奇巧図式』には、錬金術の最奥の一つ、賢者の石に類する何かのレシピが含まれている可能性が高い」
そして、将棋とは盤上で行うもの。「龍脈結集地で行われる儀式魔術の可能性が高い」と。
かくして、二人は慌てて学校に戻るのだった。
準備万端で迎えたベルナデットとの戦い。
しかし、ベルナデットは賢者の石の失敗作、愚者の石を用いて、こちらのルーンによる陣地を完全に無効化した。
苦戦するアンジェとアオイ。アンジェは自分の内にいる何者かを解き放つことを決める。
内にいるもう一人のアンジェにより、ベルナデットは敗北するが諦め悪く逃走を試み、アンジェはやむなくベルナデットを殺害してしまう。
それをトリガーに
彼はアンジェの起こしたホワイトインパクトにより、恋人を失っていた。しかし、記憶操作を受けていたはずだが。
クロウとの問答の末、アンジェはついに英国の魔女がヒナタだと知ってしまう。
初の直接的な人殺しに、クロウからの非難。英国の魔女の正体。ただでさえいっぱいいっぱいなアンジェだが、ハヤノジョウは、月夜家が何かしらの企てを行なっている可能性を示唆する。
ヒナタという信用出来る戦友を得つつ、謎だらけのままにアンジェ最初の一年は終わった。
アンジェのもう一人の人格、仮に『エス』と名付けられた彼女は、2015年度に入って、訓練メニューに組み込まれるようになった。
それから七月の頭、平和だった学校に再び下級悪魔が現れる。現れた下級悪魔は剛腕蜘蛛悪魔に見えたが、剛腕蜘蛛悪魔を従えるイブリースは撃退され、まだ復活には遠いはずだ。
事実攻撃手段も違ったことから、アオイ達はこれをよく似た別の悪魔と判断。従来のモノを剛腕蜘蛛悪魔甲、今回新たに現れたものを剛腕蜘蛛悪魔乙と呼び分けることとした。
再び学校が狙われ始めたという事実に決意を高めるアンジェだったが、次なる脅威は学校の外で起きようとしていた。
アンジェの担当地域である
アンジェはアオイの要請を受け、出発する。
急いで電車に飛び乗る。
話によると、カリンとフブキさんが偶然井処町にいて、既に刀泥棒の足止めに向かっているらしい。
フブキさんがその機動力を活かして最初に接敵、そこにカリンが合流して、さらに私とアオイさんが合流する、というのが想定されている流れだ。
優先席から距離を取りつつ、アオイさんからスマートフォンに連絡がないか警戒する。
すると、連絡が入る。
【事情はよく分かりませんが、フブキが戦線を離脱したようです。可能なら急いでください】
何があったのだろう。しかし、急げと言われても電車は急いではくれないので、ただ待つしかない。
井処町は私の担当する
その街中で戦闘になるのだろうか……。
やがて電車が到着し、私は改札を抜けて外に飛び出る。
「アオイさん、私です。ターゲットはどこですか?」
同時にスマートフォンを操作し、アオイさんに電話をかける。
「フブキが戦線を離脱してしまったので、詳細な位置は不明ですが、最後に目撃されたのは井処三丁目の交差点を南下していたとのことです」
「すぐに向かいます。見た目の情報などはありますか?」
「メイド服を着て、赤みがかかった灰色の髪とのことです」
なんだそれ、随分特徴的だな。って、それってハッピーマフィンズのプティさん……? いや、まさか、そんなわけはないか。
ともかく、私はバスに乗って移動を始める。今から三丁目に行っても間に合わないだろうから、さらに南のバス停へ。
油断なく外を見つめていると、刀を握ったメイド服の女性が目に入る。
――見つけた!
私は自身に認識阻害の札を貼り付けて、窓から飛び降りる。
受け身をとって、転がり、衝撃を逃し、立ち上がって、メイド服の女性の前に躍り出る。
「見つけましたよ、刀泥棒。お縄につきなさい」
「やぁ、アンジェちゃんだ」
人払いのルーンを起動しつつ、抜刀し、向き直ると、刀泥棒はそんなことを言った。私の名前を知っている? やはりプティ?
「ハロー。『退魔師アンジェ』の読者の皆さん、世界を股にかける大泥棒、
そして、続けてまっすぐ私を見てそんなことを言った。言っている意味はよく分からないが、相手は虹野 カラと言うらしい。そういえばプティさんの正式名前もレインボー・エンプティ。レインボーといえば虹、エンプティといえば空っぽという意味だ。やはりプティさんなのか。
しかし、タイマシ・アンジェ? タイマシとは一体なんだ? 以前に聞いた「タイマノチカラ」と語感が近い。何か関係があるのか?
「ふふっ、考え事に夢中になってていいのかな? カラちゃんを捕まえたいんでしょっ!」
刀を地面に下ろし、ふわっとスカートがめくり上げられたかと思うと、その両の手にナイフが握られていた。
と思った、直後にはカラは私に肉薄してきていた。
――はやい!?
咄嗟に後ろへステップを踏んで回避するが、カラはさらに踏み込んでくる。
私は刀を操って、ナイフを受け止める。
「単分子ナイフで切断出来ない!? これが、神秘プライオリティか」
カラの表情が驚きに染まる。神秘プライオリティを知っている。やはり、神秘兵装としての刀剣狙いか。
カラは後ろに飛び下がる。
「なるほどね。やっぱり刀の相手を出来るのは刀だけってことか」
カラが刀を拾い上げ、抜刀する。
アオイさんから送られてきた資料に記述があった。
「さぁ、行くよ!」
正眼の構えに見えて、刀をやや斜めに構える不思議な構えをするカラ。
飛んでくるのは突き。
だが、狙いは見え見えだ。突きはその後戻さなければならない分がロスになる。こちらの攻撃チャンスだ。
――ダメよ、後ろに下がって!
突然、『エス』の声がして、足が勝手にバックステップを踏む。
直後、私の首筋を刀が掠める。
――回避した突きから横薙ぎの斬撃が派生した!?
斜めに構えた構えの秘密はこれか。
「あれぇ? 決まったと思ったんだけどにゃあ、なんか、アンジェちゃんの意識の外で何かが動いた?」
向こうは『エス』の事は知らないらしくそんな風に首を傾げる。
「助かりました、『エス』」
――いいのよ、私の体でもあるんだから。
助けられたのは事実なのでお礼を言うと、『エス』はそんな返事をした。恐ろしい話だ。だが、「勝つためには使えるものはなんでも使う」と考えるなら、受け入れなければならないのかもしれない。
それにしても、剣術もそれなりの腕があると見える。刀は本歌だから神秘強度も高いはずだし、これは厄介だぞ……。
何か対策を考えた方がいいのかもしれないが、それより早くカラが動く。
剣術には自分からどんどん攻める殺人刀と相手の攻撃という最大の隙を突いて後の先を取る活人剣の二種類があるというが、カラのそれは明らかに極めつけに極められた殺人刀。
上段から披露される大ぶりな一撃。一見すれば胴体がガラ空きに見えるが、とにかく素早いその一撃を、私は受け止めるので手一杯だ。
刀と刀がぶつかり合い、火花を散らす。
ぶつけ合わせた感じ、神秘プライオリティはこちらが上のようだ。だが、神秘強度は向こうが上、ギリギリのところで釣り合いが取れて、私達は鍔迫り合いとなっていた。
カラの顔がすごく近い。こうしてみると瞳の色が違う。プティはオレンジ色だからだ。と言っても、あれはおそらくカラーコンタクトなので、あまり参考にはならないか。
ニヤリ、とカラが笑い、カラが後ろに飛び下がって、再び私とカラの距離が空く。
そこからさらに、二連続での斬撃をそれぞれ受け止める。
――早いわね。剣術ではこっちが劣ってるわ。
『エス』が冷静に状況を評する。
全くもってその通りだ。カラの刀を引いてから次の斬撃が飛んでくるまでの動きが素早すぎて、まるでその動きに対応しきれない。完全に戦いの主導権をカラに奪われている状態だ。ルーン魔術を差し込む隙さえ伺えない。
「ふぅむ、これは、一気に決めるしかないかな?」
ゆらり、とカラの構えが変化する。
――何か来るわよ。
それは想像がつく、だが、何が来るのかは全く予想出来ない。
「行くよ、直伝の……」
ピタリ、と動きが止まる。
「無明剣、三段突き!」
素早い踏み込み。あまりに鋭すぎる突きが私の頭に迫る。
――やられる!
咄嗟に刀で受け止める。
火花を散らして、停止したカラの刀は速やかに手元に戻り、再びの突きとなって戻ってくる。
次なる狙いは首筋。
あまりに早い二の突き。こちらは刀を戻す余裕がない。
私は頭を横に振って回避する。
――それはだめよ!
『エス』の警告が飛ぶが遅い。
そうだった。カラの突きは突いて終わりではない。そこから斬撃に派生する。私の首を刎ねんと突きを終えた刀が迫るが、もはや対応は間に合わない。
「アンジェ!」
突然、体に衝撃が発生し、体が吹き飛ぶ。
見れば、アオイさんが私を突き飛ばしていた。
二の突きから派生した斬撃をアオイさんの刀に受け止められたカラは再び刀を手元に引き戻し、再度の突きに移行している。狙いは鳩尾か。
放たれる三の突き。アオイさんはこれを半身で回避し、カラに斬撃を浴びせようと動く。
「そ――」
しかし、カラの突きは斬撃に派生する。警告を発したいが、声に状況が間に合わない。
アオイさんの左胸が刀により抉られる。
アオイさんもさる者、素早く状況を理解し、大きく右後方に飛び下がり、被害を最小限に抑えた。
「アオイさん!」
慌ててアオイさんに近寄る。
アオイさんは左胸を抑えていて、とても激しく出血している。
「私のことは捨て置いて、あの女を!」
「わ、分かりました」
こういう時、口論するのは時間の無駄だ。私はアオイさんから離れ、再びカラの前に立ち塞がる。
とはいえ、カラが踏み込んでから、今この瞬間までわずか1秒の間に三度の突きが放たれた。アオイさんがギリギリ間に合ったからよかったが、私なら死んでいただろう。
「アオイさんのこと、放っておいていいの?」
「あなたを捨て置く方が出来ませんから」
「ふぅん、そっか」
とカラが地面を蹴る。
繰り出される二連撃。私は刀で受け止める。
あまりに素早すぎる。なんとかして動きを捉えないと……。
直後、突然、カラが後方に飛び下がり、そこに火の玉が着弾する。
「遅いですよ、英国の魔女」
「すみません、次はスレイプニルで駆けつけます」
「英国の魔女まで来ちゃったかぁ……。流石にこれはちょっと面倒そう」
英国の魔女さえ来ればこちらのものだ。
私は駆け出し、攻勢に転ずる。
カラはそれを見て、刀でその攻撃を受け止める。
その隙に、英国の魔女が空中にルーンを記述し、無数の蔦を出現させ、カラを拘束しようと動く。
「うん、まぁそうなるよね」
蔦がカラに接触する直前、カラは後ろに飛び下がり、刀から手を離した左手で何か筒状のものを投擲した。
さらに、スカートを翻したその左手に持っているのは――拳銃!?
拳銃が発砲され、筒状のものに被弾。筒状のものが突然爆発的に炎を発し、蔦を焼く。
「剣術アクションの小説でこれは邪道だと思うけどさ、まぁ許してよね」
そして、炎が晴れた時、カラの手元にあったのは拳銃どころではない銃だった。
「アサルトライフル!?」
英国の魔女が驚愕する。それだけじゃない。腰には鞘がぶら下がり、体にはアサルトライフルを維持するためのスリングが装着されていた。
アサルトライフルのレーザー照準器が私を捉え、直後、銃弾が放たれる。
「アンジェ」
英国の魔女は私にルーンを張って、その銃弾を防ぐ。
そして、その隙に、カラは、私を覆うルーンを足場に、英国の魔女に向かって肉薄する。
英国の魔女は
常に浮いている英国の魔女に対し、ジャンプしているだけのカラはそのまま落下するしかない。空中戦は流石にカラに分が悪い。
と思われたが。
鍔迫り合ったその僅かな隙に、カラは英国の魔女に向けて手榴弾を投擲していた。
「!?」
英国の魔女が爆発に飲み込まれる。
そして、着地したカラは再び無防備な私にアサルトライフルを向ける。
万事休すか。と思われた次の瞬間、カラの目の前をガラスの破片が掠める。
「ぐあっ!?」
そして、カラが目を抑えた。
「間に合ってよかったわ」
そう言ったのはカラの側面の路地から飛び出してきたカリンだ。
カリンは光を制御する能力を持ち、ガラスの
「素晴らしいタイミングです、カリン!」
私はカラを拘束しようと、一気に駆け出す。
ゆらり、とカラが動く。だが、目潰しを喰らって視界が通っていない今、何も出来るはずがない。
「そこか」
抜刀される。
――危ない!
『エス』が私の右手を操り、刀を抜いて首を守るように構えると、カラの刀は寸分違わず私の首に伸びてきて、刀と刀がぶつかり合い、火花を散らす。
「こいつ、視界に頼らずに……」
「そこっ!」
目を閉じたままのカラが素早く刀を引き、鋭い斬撃を放ってくる。
私はそれをさらに刀で受け止める。
「この……こうなったら」
恐らく気配か何かでこちらの位置を把握しているのだろうが、流石にこちらの刀の位置までは把握できまい。
刀を引いた隙を見逃さず、中段から一気にその右手を狙う。
が、その斬撃は容易く受け止められ、そして。
「ホイっ、と」
刀を後方に弾き飛ばされた!?
思わず、視線が後方に逸れる。
「アンジェちゃんはこれで無力化」
思わぬ隙を晒してしまった結果となったが、カラは冷静に武器を失った私に追撃せず、もう一人の戦闘員、カリンを無力化する方を選んだらしい。
カリンに向けて駆けていく。まだ視界は十分ではないはずだが、なぜそこまで周辺の状況を把握出来る……?
「来なさい、足止めぐらいこなして見せる!」
カリンが既に抜刀していた短刀とガラスの苦無を構える。
私は刀を無視して、カラに向けて背後から迫る。
カリンは自身の血の力を発揮し、自身の肩から手元までを光を反射させずに黒く染め、さらにそれを三つに分裂させる。どれか一つが本物の腕と刀だが、どれが本物かは分からないという代物だ。
「うそっ!?」
だが、カラは苦もなく本物の刀を弾き飛ばす。
カラから見れば、これで戦闘員を無力化して逃げ放題と言ったところか。だが、まだ終わらない。
「
左腕をカラに向けて叫ぶ。
その
「がっ!」
背後から突風の直撃を受けたカラが無防備に吹き飛んで、ショーウィンドウに突っ込む。派手にショーウィンドウが割れて、ガラスの破片がカラに突き刺さる。
「いったーい。……魔術を使うなんてね、やってくれるじゃないの」
カラが地面に膝をつき、そこからゆっくりと起き上がる。
その間に、私はカラに肉薄している。
「
手元に刀が戻ってくる。
「うそっ!?」
と、カラの驚愕に表情が染まる。
今度こそ、取った。
が、先ほどの驚愕の表情はなんだったのか、驚くほど冷静にカラは最小限の動きでこちらの三連撃を回避した。
この最小限の動き、覚えがある。限定的な未来視を持つ討魔師、
……まさか。
「未来視?」
カラは答えず、ただニヤリと笑う。その手にはいつの間に手元に移動したのか、水神切兼光。
結局私は相手を吹き飛ばしたアドバンテージを活かせないまま、再びの鍔迫り合いとなる。
カラは素早く側面に飛び下がり、距離を取る。
そして、睨み合いが始まる。
刀を拾ったカリンと応急処置を終えたアオイさん、英国の魔女が合流してくる。
「ここまで、かな」
カラがそんなことを言う。この数を前に観念したのか。
「遊びは、ね。楽しかったよ」
ポイっと、私たち全員の中心に筒状の何かが投げられる。
「まずい!」
英国の魔女はそれを手榴弾だと把握し、素早くルーン魔術で盾を形成する。
しかし、それは手榴弾ではなかった。
筒状の何かは激しい音と光を発して、私たち全員の視覚と聴覚を奪った。
四人が前後不覚の状態から回復した時、そこには、カラの姿は全く見られなかった。
「大失態です。神秘兵装をみすみす奪われました。すぐに刀剣管理課に報告を……うっ……」
状況を把握すると同時、アオイさんがそう言って、動き始めようとするが、左胸を押さえて倒れる。
「アオイさん!」
慌てて駆け寄る。
「これはひどい。私のルーンでもすぐには癒せません……」
「救急車を」
「それはダメです」
スマートフォンを取り出した私の腕をアオイさんが止める。
「うちの息のかかった病院に行かなければ。父上に連絡して下さい。車を手配してくれるはずです」
父上。マモルさんか、警察の霊害対策組織である警視庁対霊害捜査班に所属している人だ。確かに困った時のために連絡先を聞いている。
私はアドレス帳を操作し、マモルさんに電話をかける。
「刀剣が盗まれた以上、対霊害捜査班の協力は必須ですから、丁度いい。全員、病院で作戦会議と行きましょう」
そう言うと、それで体力が尽きたのか、アオイさんは意識を失ってしまった。
「ルーンで最低限の止血はしましたが、流れた血の量が多い。早く治療を受けさせないと」
と英国の魔女。
「それもそうだけど、桜田門からここまで、早くとも30分以上かかるわ。ここに放置はしておけない。どこか安全な場所に行かないと」
とカリン。
「安全な場所ってどこに?」
「分からないわ。井処町は
真柄家は電車内でのアオイさんからのメールの話に出たフブキさんの家だ。厳密にはフブキさんは真柄家に生まれた女性が別の家に嫁いで出来た子供で、
「フブキさんはどこに行ったんでしょうね」
「この場にいない人を求めても仕方ありません。ひとまず、小規模な結界を展開し、そこに退避しましょう」
そう言うと、英国の魔女が手近な電柱にルーンを刻む。
「張れました。この内部は私が許可した人間しか視認できませんし、人も近寄りません」
私とカリンは頷きあうと、アオイさんをその電柱にもたれかけさせた。
「ところで、この人は誰なの?」
一安心したところで、カリンが口を開く。ずっと気になっていたのだろう。
「私は英国の魔女。英国王室から任命される英国の登録魔術師で、今はアンジェの協力者です」
「ふぅん、私は
「えぇ、よろしくお願いします」
二人が握手する。
やがて、体感では数時間が経った後、マモルさんの車がやってきて、私とアオイさん、そしてカリンは車に乗って病院へ移動することになった。
to be continued...
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