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退魔師アンジェ 第2部 第8章

『〝万年騎士ナイト〟グラツィアーノ・マルコ・ジョルジーニ』

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第1部のあらすじ(クリックタップで展開)

 父を霊害れいがいとの戦いで失った少女・如月きさらぎアンジェはいつか父の仇を討つため、父の形見である太刀「如月一ツ太刀きさらぎひとつのたち」を手に、討魔師とうましとなるためひたすら鍛錬を重ねてきた。
 そして最後の試練の日。アンジェは瘴気から実体化した怪異「黄泉還よみがえり」と戦い、これを討滅。討魔組のトップである月夜つきや家当主から正式に討魔師として認められた。
 翌日、月夜家を訪ねてきた生徒会長、中島なかじまアオイは、自身が宮内庁霊害対策課の一員であると明かし、「学校が狙われている。防衛に協力しろ」と要請してきたのだった。
 アオイから明かされた事実、それはアンジェ達の学校が「龍脈結集地りゅうみゃくけっしゅうち」と呼ばれる多くの霊害に狙われる場所であると言うことだった。
 早速学校を襲撃してきた下級悪魔「剛腕蜘蛛悪魔ごうわんくもあくま」と交戦するアンジェだったが、体術を主体とする剛腕蜘蛛悪魔の戦法に対処出来ず苦戦、アオイに助けられる結果に終わった。
 アオイから恐怖心の克服を課題として言い渡されるアンジェ。玉虫色の粘液生物と戦ったアンジェはヒナタの何気ない助言を受けて、恐怖心の一部を克服、再びアンジェを助けた白い光を使って、見事学校を覆う謎の儀式を止めることに成功したのだった。
 しかし儀式を試みた魔術師は諦めていなかった。それから一週間後、再び学校が今度は完成した儀式場に覆われていた。アオイは母・ミコトの助けを借り、儀式場の中心に到達するが、そこに待ち受けていた邪本使いマギウス安曇あずみの能力の前に為すすべなく、その儀式は完遂されようとしていた。
 そこに現れたのは「英国の魔女」と呼ばれる仮面の女性。彼女は事前にルーンと呼ばれる文字を床一面に刻むことで儀式の完遂を妨げたのだ。そして、英国の魔女は「この龍脈の地は私が治める」と宣言した。逃げる安曇。追う英国の魔女。蚊帳の外の二人。アオイは安曇は勿論、英国の魔女にも対抗することをしっかりと心に誓った。
 ある晩、アキラから行きつけの古本屋を紹介してもらった帰り、アンジェとアキラは瘴気に襲われる。やむなくアキラの前で刀を抜くアンジェ。しかし、一瞬の不意を撃たれ銃撃されてしまう。謎の白い光と英国の魔女に助けられたアンジェはアキラの部屋に運び込まれ、週末に休みの期間をもらう。
 休みの時間をヒナタと街に出て遊ぶのに費やすアンジェ。そこで剛腕蜘蛛悪魔を使役する上級悪魔らしきフードの男と謎の魔術師と遭遇する。追撃することも出来たが、アンジェは怪我人の保護を優先した。
 アンジェは父が亡くなった日の夢を見る。時折見るその夢、しかしその日見えた光景は違った。見覚えのない黒い悪魔の姿があったのだ。そしてその日の昼、その悪魔とその使役主である上級悪魔、悪路王あくじおうを名乗る存在、タッコク・キング・ジュニアが姿を現す。アンジェはこいつらこそが父の仇なのだと激昂するが、悪路王は剛腕蜘蛛悪魔を掃討すると即座に離脱していってしまう。
 そして同時にアンジェはアオイから知らされる。父が死んだその日は「大怪異」と呼ばれる霊害の大量発生の日だったのだ、と言うことを。
 イブリースが大攻勢をかけてきた。悪路王と英国の魔女は陽動に引っかかり、学校にいない。アオイとアンジェだけでは学校への侵攻を防ぎきれない。最大級のピンチの中、アンジェは自身の血の力と思われる白い光を暴走させる。それは確かにイブリースごと全ての悪魔を消滅させたが、同時に英国の魔女が封じていた安曇のトラップを起動させてしまい、学校を大きく損傷、死者まで出してしまう。
 アンジェはその責任を取るため、討魔師の資格を剥奪されることになるところだったが、突如乱入してきた悪路王がアンジェの血の力と思われる白い光を強奪。最大の懸念点だった力の暴走の危険は無くなったとして、引き続き討魔師を続けて良いことになった。
 アンジェの力の暴走、通称「ホワイトインパクト」の後、長門区ながとくは瘴気の大量発生に見舞われていた。アオイは一時的に英国の魔女と同盟を結ぶことを決意。アンジェと英国の魔女はタッグを組み、御手洗町みたらいちょうを守ることとなった。
 ホワイトインパクトに対処する中、英国の魔女は事態収束後も同盟を続けようと取引を持ちかける。アンジェは取引は断りつつも、英国の魔女の座学から様々な知識を学ぶのだった。
 英国の魔女に連れられ、ロアの実例と対峙するアンジェ。しかしそこに、ロア退治の任を受けた討魔師・柳生やぎゅうアキトシが現れ、アンジェを霊害と誤認。交戦状態に入る。それを助けたのはまたしても悪路王であった。
 父の仇である悪路王は如月家の血の力を盗んだ。そして如月家について、明らかに何か知っている。アンジェはそれを問いただすため、そして可能ならば討ち倒すため、アンジェは悪路王のいるとされる達達窟たっこくのいわやに向かう。そこでアンジェを待ち構えていたのは浪岡なみおかウキョウなる刀使いだった。アンジェはウキョウとの戦いに敗れ、その右腕を奪われる。
 アンジェの右腕は英国の魔女の尽力により復活した。悪路王はアンジェの血の力について、ウキョウを倒せるレベルにならなければ返却できないと語り、あのアオイでさえそれに同意した。そしてアオイはアンジェについてしまった及び腰を治療するため、ある人物とアンジェを引き合わせることを決める。
 アンジェは竈門町かまどちょう片浦かたうら家の討魔師・カリンを鍛えるためにやってきた宝蔵院ほうぞういん家の討魔師・アカリと模擬戦形式の鍛錬を行うことになった。アカリに一太刀浴びせれば勝ちだが、アカリは短期未来予知の血の力を持ち、彼女に触れられるものは殆どいない。
 討魔仕事の帰り、アンジェを迎えに大きなバイクに乗ったフブキが現れる。フブキは言う。「崎門神社さきかどじんじゃの蔵に盗人が入った。蔵には神秘的な守りがある。それを破ったということは、神秘使いだ」。そういって差し出された写真に写っていたのは、最近知り合った女性、ベルナデット・フラメルの姿だった。
 ベルナデットは魔術師だった。
 フブキと共にベルナデットと交戦するアンジェ。
 だが、フブキが作ったベルナデットの隙をアンジェは殺害を躊躇したため逃してしまう。
 ベルナデットが盗んだのは『象棋百番奇巧図式しょうぎひゃくばんきこうずしき』。江戸時代に作られた詰将棋の最高峰と言われる本だった。
 アンジェが回収したカードから、ベルナデットは錬金術師と判明するが、目的は見えない。
 そして、自身の覚悟不足によりベルナデットを逃したことを後悔し、こんなことでは復讐も成せないと感じたアンジェはアオイと真剣での鍛錬を行う事を決める。
 アオイと真剣での鍛錬の中、アオイの持つ刀、弥水やすいの神秘プライオリティに苦戦するアンジェは、その最中、頭の中で響く声を聞く。
 それはそれとして、1/25はアンジェの誕生日。アキラとヒナタ、そして当主から祝われる中、当主は宮内庁に「現在日本にいる英国の魔女を本物の英国の魔女だと承認する」事をアンジェに伝える。
 誕生日は同時に父の命日でもある。墓参りを終えた英国の魔女は頭の中に響く声について意見を求める。
 英国の魔女は「神秘使いの中には得意分野ごとに人格を作り、それを使い分ける者がいる」と伝え、アンジェもそれではないかと考察する。
 そんな中、「賢者の石」作成を目的にしていると思われるベルナデットの今後の行動指針を探るため、英国の魔女の知り合いである錬金術師に会うことが決まる。
 足尾銅山跡に工房を構え、盗掘しながら生活している錬金術師「ウンベグレンツ・ツヴァイツジュラ」、通常「アンリ」は言う。
 「将棋とは錬金術の一種であり、詰将棋とはそのレシピである。その最高峰たる『象棋百番奇巧図式』には、錬金術の最奥の一つ、賢者の石に類する何かのレシピが含まれている可能性が高い」
 そして、将棋とは盤上で行うもの。「龍脈結集地で行われる儀式魔術の可能性が高い」と。
 かくして、二人は慌てて学校に戻るのだった。
 準備万端で迎えたベルナデットとの戦い。
 しかし、ベルナデットは賢者の石の失敗作、愚者の石を用いて、こちらのルーンによる陣地を完全に無効化した。
 苦戦するアンジェとアオイ。アンジェは自分の内にいる何者かを解き放つことを決める。
 内にいるもう一人のアンジェにより、ベルナデットは敗北するが諦め悪く逃走を試み、アンジェはやむなくベルナデットを殺害してしまう。
 それをトリガーに永瀬ながせクロウが怒り出す。
 彼はアンジェの起こしたホワイトインパクトにより、恋人を失っていた。しかし、記憶操作を受けていたはずだが。
 クロウとの問答の末、アンジェはついに英国の魔女がヒナタだと知ってしまう。
 初の直接的な人殺しに、クロウからの非難。英国の魔女の正体。ただでさえいっぱいいっぱいなアンジェだが、ハヤノジョウは、月夜家が何かしらの企てを行なっている可能性を示唆する。
 ヒナタという信用出来る戦友を得つつ、謎だらけのままにアンジェ最初の一年は終わった。

第2部これまでのあらすじ(クリックタップで展開)

 アンジェのもう一人の人格、仮に『エス』と名付けられた彼女は、2015年度に入って、訓練メニューに組み込まれるようになった。
 それから七月の頭、平和だった学校に再び下級悪魔が現れる。現れた下級悪魔は剛腕蜘蛛悪魔に見えたが、剛腕蜘蛛悪魔を従えるイブリースは撃退され、まだ復活には遠いはずだ。
 事実攻撃手段も違ったことから、アオイ達はこれをよく似た別の悪魔と判断。従来のモノを剛腕蜘蛛悪魔甲、今回新たに現れたものを剛腕蜘蛛悪魔乙と呼び分けることとした。
 再び学校が狙われ始めたという事実に決意を高めるアンジェだったが、次なる脅威は学校の外で起きようとしていた。
 アンジェの担当地域である御手洗みたらい町からみて隣町に当たる井処いどころ町に刀泥棒が現れたというのだ。
 アンジェはアオイの要請を受け、出発する。
 虹野にじの カラを名乗る刀泥棒と接敵するアンジェ。
 しかし、盗んだ刀、水神切すいじんぎり兼光かねみつを巧みに操るカラにアンジェは苦戦。
 アオイ、ヒナタ、カリンが次々に合流し、戦闘に加わるが、逃げられてしまう。
 カラはレインボー・エンプティと似ている。
 その情報からアンジェとフブキはレインボー・エンプティに事情聴取に向かう中島 マモルと同行することになる。
 その道中で、アンジェはフブキから自身の運命の日について聞かされるのであった。
 レインボー・エンプティこと虹ヶ崎 ソラに聞き込みを行ったマモルとアンジェは、虹野 カラがソラからメイド服を盗んで行ったと言う情報を得る。
 その後、念の為ソラの家を監視していたアンジェはソラを誘拐しようとする謎の男・五月女 スバルとプレアデスのコンビと交戦する。
 国家転覆を企む五月女 スバルを止めるため、アンジェ達はかつて五月女 スバルを通報したハッカー、『灰の狼グラオ・ヴォルフ』へとコンタクトを取ることにする。
 そのために、永瀬クロウへアプローチをかけることを決めるのだった。
 クロウを挑発し、短絡的な行動へと誘導したアオイだったが、クロウの待ち受ける廃工場へ突入したアンジェと英国の魔女は、クロウの持つ愚者の石ラピス・スタルトスにより神秘を封じられ、現代火器を扱う傭兵から集中攻撃を受ける事となる。
 ところがそこに乱入してきたユークリッドなる魔法使いにより戦場は混乱状態へ。
 ユークリッドがクロウを殺そうとしたのをアンジェが庇い、ユークリッドと一騎打ちとなる。追い詰められたユークリッドは戦線を離脱。
 アンジェは現代火器を使う『灰の狼グラオ・ヴォルフ』の勢力と、魔法使いであるユークリッドが対立しているのだ、と認識し、敵の敵は味方として、ユークリッドと手を組めないか、と模索する。
 しかし、この目論見は失敗に終わる。ユークリッドはアンジェの育て親同然の存在〝守宮〟の命を狙ったのだ。
 その上、カラがまた新たな盗みを行ったとの情報も入る。
 後手後手にならざるを得ない状況に、アンジェはなんとか先手を取らねば、と拳を握る。
 ヒナタから天草あまくさ准将を紹介してもらったアンジェは、輸送機に乗って、リビアに向かう。
 リビア上空でアンジェたちを待ち受けていたのは、ヨーロッパの開発した戦闘機ユーロファイター
 空中で迎撃するアンジェ達だったが、戦闘機は自爆。落下してしまう。
 目が覚めたアンジェを待っていたのは、テンプル騎士団の騎士ナイトを名乗る男、グラツィアーノ・マルコ・ジョルジーニだった。

 

 
 

「私の扱いはどうなるのです」
 如月一ツ太刀を地面に放り、両手を上げながら、私は目の前にいるグラツィアーノに問いかける。
「実のところそれが問題でな」
 私の問いにグラツィアーノさんがこちらに近づきながら、頷く。
「俺は上官である聖騎士パラディンから指示を受けてここに来た。ここで問題が起きた場合は、基本的には俺の裁量に任せられている。その上で、判断に迷ったら上官に尋ねることになっている」
 グラツィアーノさんは私に光の剣を向けたまま、如月一ツ太刀を掴んで再び自分の立っていた場所に戻っていく。
「それで、今は上官からの連絡を待っているところですか?」
「いや、上官に連絡するかこっちで決めてしまって良いのかを悩んでいるところだ。まぁ武器を向けあったままだとやりづらいだろう。とりあえず座れよ」
 言われて、私は両手を上げたまま座ると、グラツィアーノさんも剣を消滅させて座る。
「私を拘束しないのですか?」
「問題ない。俺ならお前が素手で襲いかかってきた程度なら一瞬で返り討ちに出来る」
 確かに、グラツィアーノさんの座り姿には隙がない。加えて武器はどこからともなく一瞬で出現させられると見える。迂闊に動けば、一瞬のうちにあの剣で切り刻まれるだろうことは想像に難くない。
「テンプル騎士団、と名乗っていましたね。それがあなたの所属する組織なのですか?」
「お前、この辺りの霊害のくせにテンプル騎士団を知らないのか?」
「失敬な。私は日本の討魔組に属する討魔師です!」
 思わぬ言葉にムッとなり、思わず立ち上がる。
「そうだったのか。身体中に魔力の反応があるし、どうやら半魔の様子だし、てっきりこの辺の異端術師ヘレティックかと」
「ヘレティック?」
「俺達は神秘使いのことをそう呼ぶ。本来、俺達にとっては神の奇跡だけが唯一絶対の神秘だからな。それによらない神秘使いは異端という扱いなんだ」
「なるほど。……いえ、その前にあなた今、なんて言いました? 半魔?」
「そうだろ、あんたはどう見たって半分が西洋の……」
 直後、ドボン、と体が海中に落ちたかのような錯覚を覚えた。
「まだそのネタバレは早いわ」
 深海の真っ暗闇で唯一差し込む光の先で、『エス』が言葉を発する。
 『エス』に体を乗っ取られた!?

 

「まだそのネタバレは早いわ」
 私、『エス』は素早く立ち上がり、グラツィアーノに襲いかかる。
「っ!」
 グラツィアーノは素早く手の甲に描かれた痣らしきところから光の剣を抜刀する。
「出番よ、悪王」
「うん、姉さん
 私の中から、悪王が飛び出してきて、その腕で光の剣を受け止める。
「霊光剣の神性を受け止めるレベルの魔性だと?! お前、上級悪魔か!」
 悪王とグラツィアーノが同時にお互いの攻撃を弾き、後方に飛び下がる。
「悪魔使いとは驚いたな、何が日本の討魔師だ。日本の討魔師に悪魔使いがいるなんて話は聞いたことがない。いや、世界を見渡しても、上級悪魔を使役する人間なんて数えるほどもいないだろう。お前、何者だ?」
「私はアンジェ。こう見えても、討魔師なのは本当よ?」
「抜かせ」
 グラツィアーノが一気に飛び込んでくる。
「姉さん、下がって」
 対して悪王が前に出て、再びその一撃を腕で受け止める。
「大した魔性だが、唯一神の神性を前に何度も受け止めるのは苦しいだろう!」
 グラツィアーノの連撃を悪王は器用に一発ずつ受け止めていく。
「姉さん、これ以上は厳しいよ。ここは離脱に徹した方が……」
「駄目よ。お父様から頂いた如月一ツ太刀を回収しないと」
「それがあったか。……なら、来い夜魔ナイトゴーント!」
 悪王に言葉に呼応し、グラツィアーノを包囲するようにナイトゴーントが出現する。
「チッ、下級悪魔を呼んだか!」
 一斉にナイトゴーントがグラツィアーノに襲いかかる。
「下級悪魔がどれだけ来ようと!」
 対するグラツィアーノは光の剣を構え直して水平に薙ぎ払い、まとめて肉薄してきたナイトゴーントと切り払う。
「その動きを待ってた!」
 だが、その動きをこそ、悪王は誘発させたかった。
 悪王は腰を落として、薙ぎ払いの下を潜り抜け、如月一ツ太刀に手を伸ばす。
「なにっ!?」
 予想外の動きにグラツィアーノは反応出来ない。
 ようやくグラツィアーノが振り向いて悪王に光の剣を振り下ろした時には悪王は既に如月一ツ太刀を抜刀して、その光の剣を受け止めていた。
 光の剣と如月一ツ太刀が激しくぶつかりあう。
 悪王は神秘物理比率を巧みに切り替えて光の剣を貫通してグラツィアーノを攻撃しようと狙うが、グラツィアーノの実力も大したもので、如月一ツ太刀の神秘物理比率を確実に見極めて防御し、また攻撃する。
 剣術のぶつけ合わせとなった戦いは、どうもグラツィアーノ有利に進んでいっているように見える。
 ……けど、これ、今私が背中から飛びついて魔力を奪えば勝てるんじゃないかしら?
「姉さん、余計なことしないで見てて」
「余計なことって何よ」
 思わずむくれてしまう。戦いを有利に進めようとしたっていうのに、あんまりな言い草ではないだろうか。
 そうして、二人が必死で武器をぶつけ合わせていると、この広いテントの中に一人、男性が入ってくる。
「グラツィアーノ様、ルドヴィーコ様より連絡です」
「ルイージから? だが、今立て込んでる! この戦いが終わってからでいいか?」
「それが、その女性についてのことです」
「なんだと? 俺はまだ報告してないぞ」
 会話をしながらも、グラツィアーノは決して攻撃の手を緩めない。
「ルドヴィーコ様からの命令で、こちらから報告させて頂きました。日本の討魔師だと確認が取れたそうです。間違っても争うな、と」
「日本と? 俺達は宮内庁とはパイプを持ってないはずだが?」
「さぁ、そこまでは。ですが、それ以上戦闘を続ける気でしたら、ルドヴィーコ様に確認を取りますが」
「あぁ、いや、それはいい。後でルイージに怒られるのは困る。けど、向こうから攻撃を仕掛けてきたんだ。こっちの一存では戦いを終わらせられない」
 確かに、その通りだ。
「姉さん、これ以上戦いを続けるのはこっちに不利だ。もう一人の君のためにも、ここは休戦するべきじゃないかい?」
「……そうね」
 どうしようかしら。
「いいわ。休戦しましょう。けど、出来れば、私達個人の詳しい事情については踏み込まないでほしい」
「? よく分からんが、戦わなくてすむなら気をつけよう」

 

 よくやく意識が戻ってきた。
 まるで海中にいるようで音が殆ど聞こえなかった。僅かに見えた視界によれば悪王がいたようだけど、もう帰ったのだろうか。
「じゃあ休戦は成立ってことで。改めて、俺はグラツィアーノ・マルコ・ジョルジーニ。テンプル騎士団の騎士ナイトだ。グラツィアーノでいいぞ。そっちの従騎士エスクワイアはマルチェロ。まぁ、マルチェロについては無理に覚えなくていいぞ」
「はい、私の仕事は裏方ですので。失礼します」
 マルチェロがテントから出ていく。
「私は、如月アンジェ。日本の討魔師です」
「そうか。で、その日本の討魔師が何しにここへ?」
「とある霊害を追ってきました。このリビアに潜伏している可能性が高いのです」
 隠すようなことではないと思ったので、私は素直に答えた。
 ここまでのやりとり――『エス』とどんな会話をしたのかは知らないが――を考えれば、彼らも霊害を追っているはずで、ならば、ここは協力出来るラインであるはずだった。
「潜伏場所は分かってるのか?」
「いえ。ただ、キュレネの跡地に居を構えている可能性があるのです」
「ほう、キュレネか。俺達が探しているターゲットも概ねその場所にいると思われている。案外、俺達は同じ相手を追っているのかもしれないな」
「場所の当てがついているのですか?」
「まぁな。一緒に行くか?」
「はい、是非」
「なら移動しよう」
 そう言って、グラツィアーノがテントの外に出る。私も続く。
「ラクダを二頭用意させてる。乗れるか?」
「いえ、経験がありません」
「なら、相乗りだな」
 そう話している間に、マルチェロがテントを手早く畳んでいる。
「行こう」

 

 ラクダで移動中。私はテンプル騎士団について説明を受けた。
 テンプル騎士団は主にヨーロッパを担当圏内とする対霊害組織であるらしい。先ほど説明していたように、唯一神の奇跡以外を神秘と認めていない排他的な組織であるため、他の対霊害組織とは強調していないが、今回のように現場レベルでは共同することがあるのが現実であるらしい。
 彼らの主な兵装は擬似聖痕と呼ばれるタトゥー――手の甲にある痣のように見えたものだ――から取り出すことで使う。
 既に見た霊光剣と呼ばれる剣を始めとし、霊光甲冑や霊光大盾と言った装備を持っているようだ。いずれも唯一神の神性を宿しており、高い神性を誇る。
 神性を神から実際に譲り受けて行使している、という点では、日本の宮内庁霊害対策課と似ている。

 


 

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