退魔師アンジェ 第2部 第6章
『〝ユークリッド〟魔女エウクレイデス』
父を
そして最後の試練の日。アンジェは瘴気から実体化した怪異「
翌日、月夜家を訪ねてきた生徒会長、
アオイから明かされた事実、それはアンジェ達の学校が「
早速学校を襲撃してきた下級悪魔「
アオイから恐怖心の克服を課題として言い渡されるアンジェ。玉虫色の粘液生物と戦ったアンジェはヒナタの何気ない助言を受けて、恐怖心の一部を克服、再びアンジェを助けた白い光を使って、見事学校を覆う謎の儀式を止めることに成功したのだった。
しかし儀式を試みた魔術師は諦めていなかった。それから一週間後、再び学校が今度は完成した儀式場に覆われていた。アオイは母・ミコトの助けを借り、儀式場の中心に到達するが、そこに待ち受けていた
そこに現れたのは「英国の魔女」と呼ばれる仮面の女性。彼女は事前にルーンと呼ばれる文字を床一面に刻むことで儀式の完遂を妨げたのだ。そして、英国の魔女は「この龍脈の地は私が治める」と宣言した。逃げる安曇。追う英国の魔女。蚊帳の外の二人。アオイは安曇は勿論、英国の魔女にも対抗することをしっかりと心に誓った。
ある晩、アキラから行きつけの古本屋を紹介してもらった帰り、アンジェとアキラは瘴気に襲われる。やむなくアキラの前で刀を抜くアンジェ。しかし、一瞬の不意を撃たれ銃撃されてしまう。謎の白い光と英国の魔女に助けられたアンジェはアキラの部屋に運び込まれ、週末に休みの期間をもらう。
休みの時間をヒナタと街に出て遊ぶのに費やすアンジェ。そこで剛腕蜘蛛悪魔を使役する上級悪魔らしきフードの男と謎の魔術師と遭遇する。追撃することも出来たが、アンジェは怪我人の保護を優先した。
アンジェは父が亡くなった日の夢を見る。時折見るその夢、しかしその日見えた光景は違った。見覚えのない黒い悪魔の姿があったのだ。そしてその日の昼、その悪魔とその使役主である上級悪魔、
そして同時にアンジェはアオイから知らされる。父が死んだその日は「大怪異」と呼ばれる霊害の大量発生の日だったのだ、と言うことを。
イブリースが大攻勢をかけてきた。悪路王と英国の魔女は陽動に引っかかり、学校にいない。アオイとアンジェだけでは学校への侵攻を防ぎきれない。最大級のピンチの中、アンジェは自身の血の力と思われる白い光を暴走させる。それは確かにイブリースごと全ての悪魔を消滅させたが、同時に英国の魔女が封じていた安曇のトラップを起動させてしまい、学校を大きく損傷、死者まで出してしまう。
アンジェはその責任を取るため、討魔師の資格を剥奪されることになるところだったが、突如乱入してきた悪路王がアンジェの血の力と思われる白い光を強奪。最大の懸念点だった力の暴走の危険は無くなったとして、引き続き討魔師を続けて良いことになった。
アンジェの力の暴走、通称「ホワイトインパクト」の後、
ホワイトインパクトに対処する中、英国の魔女は事態収束後も同盟を続けようと取引を持ちかける。アンジェは取引は断りつつも、英国の魔女の座学から様々な知識を学ぶのだった。
英国の魔女に連れられ、ロアの実例と対峙するアンジェ。しかしそこに、ロア退治の任を受けた討魔師・
父の仇である悪路王は如月家の血の力を盗んだ。そして如月家について、明らかに何か知っている。アンジェはそれを問いただすため、そして可能ならば討ち倒すため、アンジェは悪路王のいるとされる
アンジェの右腕は英国の魔女の尽力により復活した。悪路王はアンジェの血の力について、ウキョウを倒せるレベルにならなければ返却できないと語り、あのアオイでさえそれに同意した。そしてアオイはアンジェについてしまった及び腰を治療するため、ある人物とアンジェを引き合わせることを決める。
アンジェは
討魔仕事の帰り、アンジェを迎えに大きなバイクに乗ったフブキが現れる。フブキは言う。「
ベルナデットは魔術師だった。
フブキと共にベルナデットと交戦するアンジェ。
だが、フブキが作ったベルナデットの隙をアンジェは殺害を躊躇したため逃してしまう。
ベルナデットが盗んだのは『
アンジェが回収したカードから、ベルナデットは錬金術師と判明するが、目的は見えない。
そして、自身の覚悟不足によりベルナデットを逃したことを後悔し、こんなことでは復讐も成せないと感じたアンジェはアオイと真剣での鍛錬を行う事を決める。
アオイと真剣での鍛錬の中、アオイの持つ刀、
それはそれとして、1/25はアンジェの誕生日。アキラとヒナタ、そして当主から祝われる中、当主は宮内庁に「現在日本にいる英国の魔女を本物の英国の魔女だと承認する」事をアンジェに伝える。
誕生日は同時に父の命日でもある。墓参りを終えた英国の魔女は頭の中に響く声について意見を求める。
英国の魔女は「神秘使いの中には得意分野ごとに人格を作り、それを使い分ける者がいる」と伝え、アンジェもそれではないかと考察する。
そんな中、「賢者の石」作成を目的にしていると思われるベルナデットの今後の行動指針を探るため、英国の魔女の知り合いである錬金術師に会うことが決まる。
足尾銅山跡に工房を構え、盗掘しながら生活している錬金術師「ウンベグレンツ・ツヴァイツジュラ」、通常「アンリ」は言う。
「将棋とは錬金術の一種であり、詰将棋とはそのレシピである。その最高峰たる『象棋百番奇巧図式』には、錬金術の最奥の一つ、賢者の石に類する何かのレシピが含まれている可能性が高い」
そして、将棋とは盤上で行うもの。「龍脈結集地で行われる儀式魔術の可能性が高い」と。
かくして、二人は慌てて学校に戻るのだった。
準備万端で迎えたベルナデットとの戦い。
しかし、ベルナデットは賢者の石の失敗作、愚者の石を用いて、こちらのルーンによる陣地を完全に無効化した。
苦戦するアンジェとアオイ。アンジェは自分の内にいる何者かを解き放つことを決める。
内にいるもう一人のアンジェにより、ベルナデットは敗北するが諦め悪く逃走を試み、アンジェはやむなくベルナデットを殺害してしまう。
それをトリガーに
彼はアンジェの起こしたホワイトインパクトにより、恋人を失っていた。しかし、記憶操作を受けていたはずだが。
クロウとの問答の末、アンジェはついに英国の魔女がヒナタだと知ってしまう。
初の直接的な人殺しに、クロウからの非難。英国の魔女の正体。ただでさえいっぱいいっぱいなアンジェだが、ハヤノジョウは、月夜家が何かしらの企てを行なっている可能性を示唆する。
ヒナタという信用出来る戦友を得つつ、謎だらけのままにアンジェ最初の一年は終わった。
アンジェのもう一人の人格、仮に『エス』と名付けられた彼女は、2015年度に入って、訓練メニューに組み込まれるようになった。
それから七月の頭、平和だった学校に再び下級悪魔が現れる。現れた下級悪魔は剛腕蜘蛛悪魔に見えたが、剛腕蜘蛛悪魔を従えるイブリースは撃退され、まだ復活には遠いはずだ。
事実攻撃手段も違ったことから、アオイ達はこれをよく似た別の悪魔と判断。従来のモノを剛腕蜘蛛悪魔甲、今回新たに現れたものを剛腕蜘蛛悪魔乙と呼び分けることとした。
再び学校が狙われ始めたという事実に決意を高めるアンジェだったが、次なる脅威は学校の外で起きようとしていた。
アンジェの担当地域である
アンジェはアオイの要請を受け、出発する。
しかし、盗んだ刀、
アオイ、ヒナタ、カリンが次々に合流し、戦闘に加わるが、逃げられてしまう。
カラはレインボー・エンプティと似ている。
その情報からアンジェとフブキはレインボー・エンプティに事情聴取に向かう中島 マモルと同行することになる。
その道中で、アンジェはフブキから自身の運命の日について聞かされるのであった。
レインボー・エンプティこと虹ヶ崎 ソラに聞き込みを行ったマモルとアンジェは、虹野 カラがソラからメイド服を盗んで行ったと言う情報を得る。
その後、念の為ソラの家を監視していたアンジェはソラを誘拐しようとする謎の男・五月女 スバルとプレアデスのコンビと交戦する。
国家転覆を企む五月女 スバルを止めるため、アンジェ達はかつて五月女 スバルを通報したハッカー、『
そのために、永瀬クロウへアプローチをかけることを決めるのだった。
クロウを挑発し、短絡的な行動へと誘導したアオイだったが、クロウの待ち受ける廃工場へ突入したアンジェと英国の魔女は、クロウの持つ
ところがそこに乱入してきたユークリッドなる魔法使いにより戦場は混乱状態へ。
ユークリッドがクロウを殺そうとしたのをアンジェが庇い、ユークリッドと一騎打ちとなる。追い詰められたユークリッドは戦線を離脱。
アンジェは現代火器を使う『
「と、言うわけで、結論から言うと、魔法ってのはなんでも出来る超技術ってわけ」
ホワイトボードの前でヒナタがそう言って説明をしている。
今は朝、学校へ行く前の時間。いつもならアオイさんの座学を受けているところだが、今日はヒナタによる座学が行われていた。
今後魔法使いを相手にするにあたって、アオイさんは私が魔法を学ぶ必要がある、と言ったのだが、その一方で魔法に詳しいのは自分より英国の魔女だろう、と判断し、英国の魔女から魔法について学ぶように言い残して、学校へ向かったのだった。
「ここまではオッケー?」
「はい。神秘レイヤーに刻まれた法則を用いて現実を改変する魔術師と違い、魔法使いは直接現実世界を改竄する能力がある。そして、魔術のような制約は一切ない、ということでしたね」
「そう。厳密には魔術師も魔法使いも神秘レイヤーに干渉するのは同じだけど、魔法使いは神秘レイヤーを自分の好きなように弄ることが出来る」
私の理解にヒナタが頷く。
「で、神秘レイヤーと今私たちがいるこのレイヤーは相互に関係性を持ってるから、神秘レイヤーを弄られると、結果的にそれがこの世界を改竄できる、ということですよね」
この辺りの理解はまだちょっと遠いのだが、とにかく現実世界を好きに改竄できる、とだけ理解しておけばいい、と私は頷く。
「だから、近代に入ってからは魔法使いは戦略級の扱いを受けたこともある。
私達より十歳くらいの時から、東西ドイツのエージェントそれぞれから自国のものにしようと狙われてたみたいだよ、とヒナタが解説してくれる。
東西ドイツ、第二次大戦後の冷戦時代の話か。
「ん、ちょっと待ってください。東西ドイツって確か、1950年くらいから1990年くらいまでですよね。一番早い1950年に十歳と仮定してもまだ七十五歳ですよね。実際にはもう少し遅いでしょうし、まだ生きてる可能性あるのでは?」
「うん、生きてたらもっと若いよ」
「その言い方からして、もう亡くなったのですか……?」
やはり東西ドイツの戦いの中で亡くなってしまったのだろうか。
「それが分からないんだよねぇ。ベルリンの壁崩壊から始まる動乱の中で、英国の魔女は彼らを見失ってしまった」
「彼ら? 魔法使いは一人では?」
「あぁ、うん、そうなんだけど、〝
とすると、まだ生きている可能性もある、と言うことか。であれば、やはりあのユークリッドという男が魔法使いである可能性は低くなる。
「しかし、ユークリッドの魔法については一つ疑問があります」
「ん、どんな?」
私の言葉にヒナタが問い直してくる。ヒナタは疑問に思わなかったのだろうか。
「あのユークリッドと言う魔法使いは、妙な黒地に緑の格子状の模様の入った物体を操作するような魔法しか使っていません。しかし、魔法使いが万能なのであれば、あのような妙な魔法の使い方にこだわる必要はないはずです」
あの妙な物体を剣やナイフの形に固定するくらいなら、きちんと近接戦闘に特化した武器を使うべきだし、そもそも近接戦闘に拘泥する事自体が不自然だ、と私はヒナタに語る。
「なるほど、確かにそれは私も気になってたよ。魔法使いはなんでも出来る。なのにあのユークリッドなる男はまるであの一芸にだけ特化したかのようにあの物体の操作だけで戦闘をしていた」
やはりヒナタも認識していたか。
「勿論、なんでも出来ることと、なんでもすることは別物。例えば、アンジェが魔法に目覚めたとしても、だからって遠距離戦には移行しないでしょ? けど……」
それはその通りだ。私が魔法に目覚めたなら、既に鍛えている近接戦闘を磨く形で魔法を使うだろう。
「えぇ、彼の動きは魔法頼りでとても近接戦闘を磨いた人間のそれではありませんでした」
ならば、遠距離攻撃で魔法を使う方が確実だ。ヒナタのように炎を飛ばすとか、あるいはカラがやったようにアサルトライフルを手元に出現させるのでもいい。
「うん、アンジェの言う通り。あの謎の物体が魔法の産物なのは疑いようがないけど、あの物体に固執した戦闘スタイルは魔法使いが本来持つ自由度とは対照的。まるで、あれしか出来ないが故に、あの手法で戦う方法を編み出したみたい」
「あれしか出来ない……? そんなことがあるのですか?」
「ううん、何度でも言うけど、本来の魔法使いはなんでも出来る。本人の特性によって使う魔法が偏ったり、ある程度の得手不得手が生じることはあるだろうけど、魔法自体の使用用途が限定される、なんてことはない」
強くヒナタが断言する。
曰く、エースレポート――先ほど話に上がったシュテフィと共にいたシュタージエージェントの〝ACE〟が残したレポートだろうか――にも、「シュテフィは物質創造が得意でそれ以外の魔法は滅多に使わなかったが、窮地に陥った際には目を見張るほど自在に不可思議な現象を操ってみせた」とあるらしい。
「だから、あるいは、ここまでの推論に間違いがないなら、ユークリッドは使える魔法の種類が限定された新種の魔法使い、言うなれば『限定魔法使い』なのかも」
「『限定魔法使い』……」
あくまで仮説に仮説を重ねた状態だ。確証はない。
というか、これまでそんな魔法使いが現れたと言う話はなく、あくまで荒唐無稽な仮説だ、とヒナタは念押しする。
だが、無視出来る可能性ではない。
「『限定魔法使い』、ですか」
私は生徒会準備室で早速アオイさんにその話をすることにした。
「はい、英国の魔女曰く、荒唐無稽な仮説、とのことですが」
「いえ、相手が本物の魔法使いであれば、我々はその対処に困るでしょうが、限定魔法使いとやらなのであれば、まだ対処の余地がありそうです。その魔法の範囲外の事は出来ないわけですからね」
アオイさんの言葉になるほど、そう言う考え方もあるか、と思った。
勿論、相手を限定魔法使いと決めつけて実は普通の魔法使いであれば最悪ですから、あくまで相手を軽く見ない、と言う大前提を守った上での話にはなりますが、とアオイさんが付け足す。
「ちなみにそのユークリッドですが、昨晩にもまた現れたようです」
「え、どこにですか?」
「井処町です。フブキとフブキが庇っている霊害……失礼、神秘使いとが交戦中に割って入ってきたと、フブキから報告がありました」
フブキとの戦いにも乱入してきたのか。
「しかし、なぜ?」
「分かりません。そもそもあなたと英国の魔女がコンタクトを取ってみると言う話だったのではないですか?」
「あー、それは……、英国の魔女の見込みが少し間違っていたようでして……」
そう、あれは魔法の話を聞いた直後のこと。
「ところで、キュレネに向かうという件ですけど」
「うん、行こうよ、旅行に!」
ヒナタはウキウキの様子だが、私は告げねばならない。
「それで、調べたんですけど、キュレネのあるリビアって、危険レベル4で、渡航禁止ですよね?」
「あはは〜、嘘だー。リビアと言ったら、アフリカでも有数の治安が安定している国だよー? 渡航禁止なんてそんなそんな」
ヒナタがスマホを取り出して調べ始める。
「うそ、いつの間にかカダフィ政権が崩壊してる……。今年に入って
ヒナタが真顔だ。ところで調べた限り、カダフィ政権の崩壊というのは今から四年も前の事のようなのだが、ヒナタにしては珍しくニュースに疎くないだろうか。
「こんな危険な場所にアキラは連れていけないねぇ」
「どうするんです? 二人だけで行きますか?」
「それはアキラに申し訳ないよねぇ……」
と言うような話の次第で、その後登校時間となり、結局どうするかは宙ぶらりんのままだ。
「よく分かりませんが、そういうことであれば、今後の方針を練り直す必要がありそうですね」
目下の問題を列挙するアオイさん。
まずは、謎の刀泥棒、虹野カラ。
そして、魔術亡霊使いの誘拐犯、五月女スバル。
次に、私の命を狙う灰色迷彩服の兵士と、それを従える『
最後に、灰色迷彩服の兵士達を「灰色の男達」と呼び攻撃する謎の限定魔法使い、ユークリッド。
私達は最初の三人、カラ、スバル、『
そこで、敵の敵は味方、と言う事でユークリッドとコンタクトを取ろうとしていたのだが、そのアテが潰れてしまった。
だが、まだ出来ることはあるはずだ。私はそう考えて口を開く。
「カラとスバルは居場所不明ですが、『
「アンジェ、言いたいことは分かりますが、私達は体制側の人間で、そして日本は法治国家です。令状もなしに家宅捜索は出来ません」
「……」
アオイさんの指摘はもっともだ。しかし、そうすれば解決出来るはずなのに出来ないというのはなんとももどかしい。
「気持ちは分かりますが、落ち着きましょう。焦って足元を掬われては敵の思う壺です」
黙り込む私に何を感じたのか、アオイさんに諭される。
私はただ黙って、はい、と頷くしかなかった。
その夜。私の元に電話があった。
「中島家の倉庫に盗人が入りました」
「カラですか!?」
「お祖父上は間違いなくカラだと言っていますが、その根拠についてはよく分かりません」
なんだかアオイさんらしからぬ不明瞭な返答だ。
「どう言う事ですか?」
「私も分かりません。倉庫に立ち入ったお祖父上は『盗まれたのは一つだけ。盗んだのは間違いなく虹野だろうな』、と満足げに微笑んで呟いただけで。何が盗まれたのかさえ教えて頂けないのです」
「ハヤノジョウさんはカラの事を何か知っている?」
「恐らくは……。しかし、話してくれる雰囲気ではありません。お祖父上はご存知の通り一度決めたら曲げない人間でして」
それは確かにそんなイメージがある。
しかし、同時に彼は日本を憂う重鎮と言うイメージもあった。そんな彼が霊害に利することをすると言うのが信じられない。
「はい、お祖父上は日本を憂うが故に、中島家というネットワークを作り上げるに至ったお方です。一体どうして、カラの事を知りながら私達に話してくださらないのか」
アオイさんも困惑している様子だ。
そこで、私はふと思い立つ。
〝守宮〟殿はハヤノジョウさんについてそれなりによく知っているはずだ。話を聞いてみよう。
この時間だともう寝ているだろうか……。
階段を降り、廊下を超えて月夜家の領域へ。
明かりが消えている。やはり寝ているのだろうか。
だが、襖の向こうで人が立っているような気配を感じる。
「〝守宮〟殿、起きていらっしゃるのですか?」
なんだか違和感を覚え、私は声をかけながら扉を開ける。
そこに待っていたのは、眠る〝守宮〟殿に、黒地に緑の格子状の模様の入ったナイフを振りかざすユークリッドの姿。
「
手元に如月一ツ太刀を呼び出しながら、一気にユークリッドに突撃する。
「アンジェ・キサラギ!」
ユークリッドは後方に飛び下がりながら、魔法製ナイフで私の刀を受け止める。
「流石は後の神秘根絶委員会最強、と言うべきか。勘も鋭いのだな」
「神秘根絶委員会とやらがなんなのかは知りませんが……!」
そんな物騒な名前の組織に入った覚えはないが。
閉所での戦闘は色々と鍛錬をしたし、向こうは剣術に覚えがない、この戦い、こちらが有利だ。
瞬く間にユークリッドは壁の隅へと追い詰められていく。
「I'm sure Arthur would be pissed at me for this fight.」
ユークリッドが私に向けて右手を伸ばす。アーサーに怒られる? アーサーとは誰だ?
チリンと鈴の音が鳴り、右手の先に小さな黒地に緑の格子状の模様の入った立方体が出現する。
「遅い!」
何をするつもりか知らないが、私の峰打ちがユークリッドの意識を刈り取る方が早い。
「ここで君に狩られるつもりはない!」
黒い立方体の中から、白い光の矢が放たれる。
直後、理解不能な現象が起きた。
私の体が映像の早戻しが如く勝手に刀を逆向きに振りながら後退を始めたのだ。
これは魔法? 例の黒地に緑の格子状の模様の物体によらない魔法、と言う事は、やはりユークリッドは限定魔法使いではないのか?
「いや、あの矢は立方体の中から現れていました。別種の魔法か魔術を立方体の中に閉じ込めてたんじゃないでしょうか」
いつの間にかヒナタが背後に現れていた。
「やはり計画通りにはいかないか。暗殺計画は全て失敗。一度、アビゲイル様に報告に戻った方が良さそうだ」
ユークリッドの周囲に黒地に緑の格子状の模様をした壁が出現する。ユークリッドが立方体に自ら閉じ込められた形だ。
直後、その立方体の右上に小さな立方体が出現し、そこからまた白い光の矢が出現し、ユークリッドを閉じ込めた立方体の周囲を通過すると、同時、ユークリッドとユークリッドを閉じ込めていた立方体が消滅する。
「逃げられましたか」
英国の魔女が静かに呟く。
ユークリッド、敵の敵は味方かと思ったが、まさか〝守宮〟殿を狙うなんて。
カラの新たな盗みと言い、ユークリッドの今回の行動と言い、私達は明らかに後手に回っている。
「なんとかして、相手の先手を取らないと」
私は静かにそう言って拳を握るしかなかった。
to be continued...
第7章へ!a>
「退魔師アンジェ 第2部第6章」の大したことのないあとがきを
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