常夏の島に響け勝利の打杭 第3章
分冊版インデックス
「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のためにハワイに訪れていた
大会当日、匠海が試合を監視していると、決勝戦でアンソニーの操るロボットが〝裂け目〟を作り瞬間移動を始める。
その〝裂け目〟が突然大きく広がり、向こう側から管理帝国を名乗るロボットが現れ、人々を襲い始める。
空が作った〝裂け目〟からハワイ島に逃れた三人は管理帝国の宣戦布告を聞き、侵略を阻止しなければ、と考える。
その作戦の一環として、アンソニーが趣味で開発していた全高6メートルの大型ロボットが役に立つのではないか、という話になり、一同はロボットのもとに移動、匠海がその改修を開始する。
「できたぞ」
「はっや!」
アンソニーが時計を見る。作業開始から九分あまりしか経過していない。
「マジで十分で片付けたよこの人」
『そりゃータクミはやるときはやる子だから!』
ふふん、と作業が始まった時にメカニックのようなつなぎ姿にフォームチェンジしていた妖精が自慢げに言う。
「まぁ、十分はハッタリだったかなとは思ったがお前の補足のおかげでデータの把握はやりやすかったからな」
そう言いながら、匠海が視界のキーボードを格納、両手を伸ばしてコクピットの前方左右から伸びる操縦桿を握る。
「少し動作テストをする。アンソニー、危ないから下がってろ」
「お、おう」
足場から身を乗り出していたアンソニーが身を引くと、匠海がパネルを操作してコクピットのハッチを閉じる。
「妖精、アシスト頼む」
『らじゃー!』
妖精が敬礼すると、頭部カメラからの映像がオーグギアを通じて匠海の視界に映し出される。
「……それじゃ、いっちょやりますか」
ニヤリと一笑い、匠海はフットペダルを踏み、操縦桿を動かした。
先ほど、アンソニーが動かしたのとは比べ物にならないほどの滑らかな動きでロボットが足場から離れる。
まずは歩行。続いて走行。
「す、すげえ……」
ロボットの動きに、アンソニーが思わず声を上げる。
歩行だけがやっとだったロボットが少し動きは重いものの自由に動いているところを見ると、本当に自分が開発したロボットなのか、と思いたくなる。
続いて匠海は助走をつけてのジャンプ、そこからさらにパイルバンカーを繰り出す。
そのモーションも流れるように繰り出され、重心バランスも崩れることなく安定した姿勢を保っている。
『タクミ、やるねー』
各種パラメータをチェック、リアルタイムで補正を行いながら妖精が匠海に声をかける。
『もうちょっと滑らかに動いて欲しいけど、流石にこれはパーツの限界ねー』
「まぁ、電子パーツ系はオーバークロック含めて調整しているから多分今回の戦闘限定だ。アンソニーには悪いがこいつは使い捨てることになる」
視界に映し出される外部の状況や各種データを確認しながら、匠海が呟いた。
「実際の軍用機ならこの程度で使い捨てるなんてことはあり得ないが、元々こいつは戦闘を想定されていない。それにパーツも市販品を使っているんだ、必要以上に負荷をかければすぐに壊れてしまう。まぁ――実際の戦闘中にそうならないことを祈るだけだな」
流石に俺もこいつと心中はしたくないな、などと呟く匠海に、妖精がまさか、と尋ねる。
『タクミ、もしかしてこれに乗って戦う気?』
「
え? と声を上げる妖精。
そもそもこのロボットのコクピットは二人乗りを想定されていない。確かに隙間に一人入り込むくらいのスペースはあるだろうが、それでもかなり狭くなるだろう。
それでもアンソニーとタンデムすると言った匠海には、恐らく何か策があるということか。
一通り動作確認を行なった匠海が足場の横にロボットを横付け、ハッチを開ける。
「アンソニー、お前も乗れ」
「いいのか?」
匠海がかなり自由自在に操縦していた様子から、パイロットは匠海で決まりかと思っていたアンソニーが声を上げる。
「いや、多分メインパイロットはお前だ。俺はコ・パイロットとしてサポートと電子戦に専念する」
電子戦? とアンソニーが首を傾げる。
ああ、と匠海が説明しようとしたタイミングで〝裂け目〟が開き、空が戻ってきた。
「ただいまー! 傭兵雇ってきたよー!」
意気揚々と報告する空。
匠海とアンソニーがロボットと足場の上から空を見下ろすが、空が誰かを連れている様子はない。
ガレージの外に待たせているのか? と二人が外に視線を向けると、ちょうど外の道路に一台の大型トレーラーが〝裂け目〟を通って現れたところだった。
「……え?」
「なんだあれ!?!?」
匠海とアンソニーが驚いて地上に降りてトレーラーに駆け寄る。
トレーラーのドアが開き、二人の男が降りてくる。
一人は体にフィットしたダイバースーツのような衣装を身に纏った男。
もう一人はつなぎを着た整備士のような男。
空が四人の間に立ち、それぞれを紹介する。
「匠海、こっちは『砂上のハウンド団』のアレックスとヘル。匠海が言うところのロボギアのパイロットと整備士兼ナビゲーター。アレックス、こっちは匠海とアンソニー。自作ロボで管理帝国に立ち向かおうとしてるからフォローよろしく」
超絶ざっくりな紹介を行う空。
アレックスが右手を差し出し、匠海も握手に応じる。
「空からざっくりと説明は聞いた。管理帝国の注意を引き付け、空が〝裂け目〟とやらを閉じる時間を稼げばいいんだな」
「まあ、そんなところだ。こっちのロボは最適化はしたがそれでも動きに限界があるから、メインは任せることになると思う」
匠海は確かにアンソニーのロボットを現時点でできる最高の状態には仕上げたが、それは各種パーツが軍用ではない以上、どうしても自由自在とは言い難い。このような状態で敵の只中に突っ込めばあっという間に中身諸共スクラップだろう。
その点で、空が雇ってきた傭兵、というのが敵と同じような
「問題ない。俺達のレイにとって管理帝国全盛期のコマンドギア『ノーマル』は旧式機だ。非カスタム機に苦戦する事はない」
「皆聞いてくれ。傭兵には素人考えと怒られるかもしれないが、多数の相手に対してたった二機という状況を覆せるかもしれない作戦を俺は持っている。まず、その作戦を説明するから空とアレックスはそれが実現可能かどうか考えてくれ」
そう言い、匠海は空中をスワイプしてウィンドウを開き――それから、アレックスを見た。
「あんた、この世界の人間じゃないんだろ。オーグギアは持ってないよな」
「オーグギア? なんだそれは」
匠海の質問に首をかしげるアレックス。
だよな、と頷いた匠海は少し考え、
「傭兵でもブリーフィングで色々映像確認するだろうからタブレットか何か端末はあるだろ」
と、ヘルに訊ねるが、ヘルは「ない」と即答する。
「そもそも外部との通信技術なんて廃れてるんだ。一応、指揮車とレイACは通信がつながるが、まぁ映像を共有したいなら指揮車のブリーフィングルームでやった方がいい」
そう言い、ヘルが匠海たちをトレーラーの頭部分、装甲車のブリーフィングルームに案内する。
大型のモニターテーブルが設置されたブリーフィングルームに踏み込み、匠海はぐるりと見まわし、ヘルに一言断りを入れて空中に指を走らせる。
ヘルはというと匠海に「少し借りるぞ」とは言われ、とりあえず同意はしたが匠海が設備を触ることなく空中に指を走らせたことで首をかしげる――と、モニターテーブルに映像が投影され、目を見開いた。
「え、どうやって」
「この指揮車とレイとやらをつなぐ回線に割り込んで、システムを同期させた」
平然と答える匠海に、アンソニーとヘルが驚きを隠せず声を上げる。
「え、異世界の設備だよな!?!?」
「この指揮車のシステムに割り込むだと!?!?」
言っていることはそれぞれバラバラだが、「匠海がハッキングで割り込んだ」事実には変わりないので異世界人同士顔を見合わせる。
「なんでハッキングできるんだよ」
「まぁ、空の説明を考えれば基本的に並行世界なんだからシステムの基本も似通っているだろう。実際、普通のノイマン式コンピュータだったし」
「いや待てOSとか色々あるだろ!」
アンソニーが目を剥いてそう声を上げるが、匠海は相変わらず平然として「それが何か?」と嘯いている。
「個人が細々と作ったようなマイナーなOSでない限り大体分かる」
「マジかよ……」
アンソニーが額に手を当て、唸り声を上げる。
そういえばこの永瀬 匠海という男はNile社が運営する
二年前の「
そこまで考えてから、アンソニーははた、と気づく。
二年前の「ランバージャック・クリスマス」だけでなく、今回の管理帝国の侵略にも巻き込まれた匠海、彼はもしかして巻き込まれ体質なのではないのか、と。
実際のところ、匠海が「ランバージャック・クリスマス」を阻止したのは巻き込まれたからというよりもテロリストが運転していた軍用トラックに雪を掛けられ、その腹いせに基地のシステムに侵入したらテロを発見した、というものなので「巻き込まれた」というよりは「首を突っ込んだ」という方が正しいかもしれないが、アンソニーはそんなことを知る由もない。
ただ、「ランバージャック・クリスマス」を阻止した魔術師なら今回の事件もきっと解決してしまうんだろうな、という根拠のない安心感が胸を支配する。
とりあえず、匠海が考えている作戦とやらを聞いてみたい。
匠海がウィンドウを操作し、データを展開する様を眺めながら、アンソニーは「すごい魔術師に協力することになるんだな」と噛み締めた。
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