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常夏の島に響け勝利の打杭 第3章

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前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 「Nileロボットアーツコンテスト」の監視のためにハワイに訪れていた匠海たくみは前日の観光でからと名乗る女性と出会う。
 大会当日、匠海が試合を監視していると、決勝戦でアンソニーの操るロボットが〝裂け目〟を作り瞬間移動を始める。
 その〝裂け目〟が突然大きく広がり、向こう側から管理帝国を名乗るロボットが現れ、人々を襲い始める。
 空が作った〝裂け目〟からハワイ島に逃れた三人は管理帝国の宣戦布告を聞き、侵略を阻止しなければ、と考える。
 その作戦の一環として、アンソニーが趣味で開発していた全高6メートルの大型ロボットが役に立つのではないか、という話になり、一同はロボットのもとに移動、匠海がその改修を開始する。

 

アンソニーのロボットの改修が終わったタイミングで、空が傭兵「砂上のハウンド団」を連れて戻ってくる。

 

作戦を打ち合わせる一同。「砂上のハウンド団」が敵を引き付けている間に空が〝裂け目〟を閉じるという匠海の作戦に、一同は同意する。

 

準備を整える一同。出撃間際、空は匠海に「アフロディーネデバイス」を渡すが、使い方が分からない匠海はそれを受け取らず、そのまま作戦は開始する。

 

 
 

 

 空がロボットの肩で手を振り、〝裂け目〟を展開する。
 レイACを搭載した大型トレーラーが〝裂け目〟に突入していく。
 〝裂け目〟の向こうはオアフ島。戦場となるハワイコンベンションセンターから少し離れたカハナモク・ビーチに、トレーラーが出現した。
 本来なら観光客でにぎわっているカハナモク・ビーチだが、管理帝国の襲来で避難勧告が出た今、そこに観光客の気配は、それどころか人の気配すらない。
 これなら一般人を巻き込む心配はしなくていいか、とヘルが考えていると、空から通信が入った。
《それじゃ、アレックス、派手にやっちゃって!》
 空の声がアレックスとヘルに届く。
 了解、とアレックスが操縦桿を握り締めた。
《扉を開放及び、リフトアップする》
 指揮車にいるヘルの声が届き、コンテナが左右に開き、レイACが起き上がる。
《リフトアップ完了、アレックス、発進を許可する》
「了解。アレックス、レイAC、発進する」
 アレックスがペダルを踏み込む。
 レイACが足を踏み出し、前進し始めた。
 トレーラーから降りたレイACが一度停止し、その頭部パーツを展開する。
 消費電力は多いが様々な複合センサを搭載した「Eye of TruthEoT」を露出させ起動、ハワイコンベンションセンターに展開する敵の配置や規模を確認する。
 アレックスの目の前のモニタにレーダーウィンドウが展開、収集したデータから構築された地形及び敵の配置が表示される。
 必要な情報を収集したレイACのダミーフェイスが閉じられ、アレックスは右手の操縦桿にあるボタンに指をかけた。人差し指部分にあるボタンの二回クリックを二回、長押しして武装を確定。
 レイACが腰のハードポイントに搭載されたアサルトライフルを手に取り、構える。
《データは確認した。現在地と敵の配置から、運河を挟んで南側から射撃で先制、敵を引き付けるのがよさそうだ》
 レイACとデータを共有したヘルが、マップに攻撃のための最適ルートを表示させる。
「了解。目標に向かい、任務を遂行する」
 アレックスが再びペダルを踏み込む。レイACがビーチと市街地を駆け抜け、指定された場所に移動する。
 ダミーフェイスに搭載された光学センサで敵を視認、レイACがアサルトライフルの引き金を引いた。
 銃声、直後、コマンドギアロボギアの頭部とジェネレータが撃ち抜かれ、爆発する。
「敵襲!?!?
 攻撃をたまたま免れたロボギアがどこからだ、とダミーフェイスからEoTを展開、攻撃してきた「敵」を探す。
 EoTに搭載された高性能センサが運河の向こうに一機のコマンドギアが存在する、とパイロットに告げる。
 ロボギアのパイロットが、データリンクでレイACの所在地を共有する。
「不可視の雲反応、だと……。あのロボット……コマンドギアか? 見たことのないコマンドギアだが――敵が一機なら問題ない、排除する!」
 管理帝国側がそうデータを共有している間にも、レイACは何機もの四足歩行ロボットを撃破している。
 これ以上被害を大きくしてはいけない、とロボギアのパイロットも操縦桿を引き、ペダルを踏み込んでレイACに突撃した。
「よし、予定通りこちらに来たな!」
 こちらに向かって動き始めた管理帝国のロボットたちを前に、アレックスは口元をわずかに釣り上げた。
 空や匠海から共有してもらった情報を考慮すると、管理帝国は「この世界には自分たちに立ち向かえる戦力は存在しない」と認識しているようにも感じる。
 それが、匠海たちにとってのアドバンテージであり勝利へのカギだった。
 「立ち向かえる戦力がない」と思っているところに攻撃してくる敵が現れればそれの掃討に当たる。「戦力がない」と思っているからこそ増援の可能性を考慮しない。
 いや、考慮したとしても出現した敵が一機だけなら増援があったとしても大したことはない、と考えるだろう。実際のところ、一機だけで陽動を行うのは常識的にあり得ない。たった一機を陽動に使い、背後から圧倒的物量で押し寄せるのは管理帝国としても過去の経験上、あり得ないことだった。
 だから今回の敵は一機、増援があったとしても大したことはない。むしろこちら側に既にいくらかの被害が出ている、ということを考えるとこの一機こそが管理帝国にとっての脅威だった。
 管理帝国のロボギアがアサルトライフルを構え、レイACを攻撃する。
 それを軽い動作で回避し、アレックスはペダルを踏み込んだ。
 同時に人差し指のボタンを二回クリック、そして長押しして装備を光刃に変更する。
【right arm active : Laser Blade】
 レイACがアサルトライフルを左手に持ち替える。
 空手になった右腕の、前腕、手背側に装着された棒状の装置がぐるりと百八十度回転する。
 その装置の、指先側に向いた部分から光の刃が展開された。
「レーザーブレード!?!? 猟犬部隊だとでも言うのか!?!?
 バカな、とロボギアのパイロットが声を上げる。
 管理帝国の量産型ロボギアコマンドギア「ノーマル」にはそんなものは搭載されていない。基本的に銃火器とごく一部の物理攻撃装備だけだ。高出力レーザーで物体を切断するレーザーブレードは猟犬部隊と呼ばれる一部のエースのみが装備する極めて珍しい装備だ。だが猟犬部隊から裏切り者が出たと言う話は聞かない。
 敵はコマンドギア一機だと思っていたが、これはコマンドギアではないのか? いや、あの頭部の構造は明らかにEoTを格納しているダミーフェイス。ましてジェネレータからは不可視の雲が発生している痕跡がある。
 だが、知らない、こんな敵、知らない。
 驚愕するロボギアのパイロットの目前、モニターにレイACの姿が大写しになる。
 その、レイACの右腕が大きく振り払われる。
 次の瞬間、レイACから伸びた光の刃は管理帝国のロボギアの胴体と背面のコクピットを真っ二つに両断した。

 

 自軍のコマンドギアが撃破されたという情報はデータリンクを通じてマップの表示が【Lost】になったことで即座に知ることとなった。
 開かれた〝裂け目〟を通り、この世界に最初に降り立ったコマンドギアのパイロット――侵略部隊の隊長は【Lost】の表示にまさか、と呟いた。
 戦況を把握するため、味方間の回線は開いたままでいた。その際、最後に聞こえてきた「レーザーブレード!?!?」という言葉に敵の武装は自分たちのものよりはるかに強力なものであることを理解する。
「……だが」
 隊長は呟く。
 確かに光刃レーザーブレードは切断力が高い。だが、あくまでも近接武器であるため接近されなければ使用されることはない。敵はアサルトライフルも装備していて、その射撃精度も高いがこちらのコマンドギア部隊の練度は決して低くなく、呼び寄せた殺戮用ロボットの数を考慮してもこちらが殲滅される要素はない。敵はたった一機、この世界の戦力を考えればあのコマンドギアさえ排除してしまえば相手は手も足も出ないだろう。
 それなら、と隊長が部隊の面々に声をかける。
「全機、敵コマンドギアを排除せよ。念のため、私はこの場で敵の増援に備える」
 隊長も一瞬は思ったのだ。「自分も出れば確実に敵を排除できるだろう」と。
 しかし、この場に残る選択をしたのは、いくらこの世界の戦力が微々たるものでもそれで油断してはいけない、と判断したから。
 もしかすると、何かしらの反撃の手は隠し持っているかもしれない。その時に自分がここにいなければ、そしてこの世界の人間に〝裂け目〟を閉じる手段があった場合、自分たちの計画は瓦解する。
 それは他の隊員も理解したようで、隊長がこの場にとどまることに異議を唱えることもなく「了解Mi komprenas」と返し、外にいる敵の排除に向かう。
 数基の殺戮用ロボットと共に〝裂け目〟を見ながら、隊長は「さぁ、どこから来る?」と呟いた。
 来れるものなら来てみろ。返り討ちにしてやる。
 コマンドギアのコクピット内に、その言葉が響いて消えていった。

 

 匠海の思惑通り、管理帝国の勢力の大半がこちらに意識を向けたことで、アレックスは低く「よし」と呟いていた。
 EoTを展開し、レーダーを見ると、いくつかの反応は建物内部に残っているがかなりの数の反応がこちらに向かってきている。
 どうやら敵はこちらが一機であることをいいことに物量で圧倒しようとするつもりだ、まんまと作戦に引っかかって、とアレックスは考えた。
 敵の数は非常に多い。だがさっさと殲滅するだけだ、とアレックスが両手の操縦桿を前に倒しつつ、両足のペダルを踏み込む。
 レイACが左手でアサルトライフルを、右手で光刃を構えた状態で迫りくる敵に突撃する。
 先頭のロボットの目前で左足のペダルを踏んで左に跳び、右手の光刃で両断、そのまま前進して次のロボットに光刃を突き立てる。
 ロボットの動きが止まるのを最後まで見届けずに、アレックスはレイACの上半身をひねり、左手のアサルトライフルでレイACに飛びつこうとジャンプした四足歩行ロボットを撃ち抜く。
 その様子を見た管理帝国のロボギアのパイロットはやるな、と呟いた。
 これだけの数を相手にして、あのコマンドギアはよく立ち回る、と。
「だが、無双できるのも今のうちだ!」
 ペダルを踏み込み、操縦桿を前に倒す。
「行くぞ!」
 応、と応える仲間たちと、レイACに突撃する。
 数の利を活かし、複数の方向からレイACを取り囲む管理帝国のロボギアたち。
 その動きを光学センサで確認し、アレックスがアサルトライフルでロボギアたちを牽制する。
 だが、敵も慣れたものでそれを易々と回避し、レイACを取り囲み、腕部ショットガンを向けた。
「チィ!」
 アレックスがペダルを踏み込みレイACが大きくジャンプする。
 ロボギアたちのショットガンのベアリング弾が迫るがそれは空中で機体をひねり、回避する。
 少々強引な姿勢にはなったものの機体のバランサーその他諸々をうまく制御し、着地したレイACは即座に体勢を立て直し、ロボギアの一機にアサルトライフルを向ける。
 ロボギアたちもそれに対応して再度レイACを取り囲む。
「ち……っ、近寄らせてはくれないか」
 近寄ってきた四足歩行ロボットを蹴り飛ばしながらアレックスが呟く。
  アサルトライフルの攻撃も易々回避する練度に、アレックスは相手の実力を認識する。
 近づきさえすれば光刃であっさり打ち破れるだろうが、そうさせてくれないとなると――。
「サンドボードを使えないのが響いてきたな」
 アレックス達のいた世界はそのほとんどが砂漠化しており、サンドボードと呼ばれる装備で高速移動しながら戦闘するのが基本であった。
 当然、アスファルトの大地であるこの地形では出来ない戦術。先ほどまで順調に戦っていたアレックスであったが実は普段出来ない戦法を強いられていたのだ。
 だが、相手を圧倒するほどの機動力なら逃げる隙を与えることなく撃破することは可能。
 そして、その方法はレイACにあった。
《! おいアレックス、まさか!》
 ヘルの声が聞こえるが、それを無視してアレックスが両方の操縦桿の全てのボタンを長押しする。
「俺は、あいつらを危険な目に遭わせるわけにはいかない」
【CAUTION! Blue Ray Mode】
 レイACの周囲の装甲に隙間が生じ、隙間から蒼い光が覗く。
 なんだ、とレイACを取り囲むロボギアたちが警戒する。
【3】
「この機能は――」
《バカ、ここでブルー・レイモードを使うのは――!》
 ヘルの罵声が聞こえてくるが、アレックスはボタンを押す手を緩めない。
【2】
「ブルー・レイモードは――」
 モニター越しに、ロボギアたちが、「ノーマル」が、右手をレイACに向けて手首に格納された有線の杭を射出する。
【1】
「仲間を守るために使わずして、いつ使う!」
 アレックスが両足のペダルを強く踏み込む。
【Ouranos Drive Limited Boot】
「ナルセ・ドライブ、全開」
 アレックスがそう宣言した瞬間、レイACの姿が蒼白い光の軌跡を残し、その場から掻き消えた。
 ロボギアたちが放った有線の杭サンダーランスが何もない空間を穿つ。
!?!?
 ロボギアのパイロットたちが声にならない声を上げる。
 なんだ、何が起こった。
 ロボギアのパイロットの視点では、レイACは瞬間移動したようにしか見えなかった。
 レイACを取り囲んでいたはずのロボギアの一機が、一瞬で両脚と両腕を切断され、地面に倒れ込む。
「いくら数が多かろうと、その数だけを過信すれば勝てるものも勝てなくなる」
 そんな声が聞こえただろうか。
 二機目のロボギアがあっさりと両断され、爆発する。
「く、くそっ!」
 残りのロボギアもアサルトライフルを構え、光の軌跡を追うように射撃を開始するが、そんなものが当たるほど今のレイACは鈍重ではなかった。
 あっと言う間に一機、また一機とロボギアが両断されていく。
「お前たちの敗因は――相手が一機だけだという慢心と油断だ」
 光の軌跡がロボギア最後の一体を両断する。
「さて、後は消化試合か――」
 ブルー・レイモードを起動したまま、アレックスが呟く。
 それから、匠海たちが向かっているはずのハワイコンベンションセンターに視線を投げる。
「雑魚は俺に任せろ。〝裂け目〟とやらを、閉じてみせろ」
 そう言い、アレックスは改めて、自分に押し寄せる四足歩行ロボットたちを睨みつけた。

 

To Be Continued…

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