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Legend of Tipaland 第8章

 
 

 

第7章のアルの足跡

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 何百年も続く平和な世界。
 しかしその平和は突然打ち砕かれた。
 「調停」の出した結論にずっと昔から不満を持っていた「運命」が、人々を扇動し、〝神〟へと反旗を翻らせたのだ。
 「世界」はそもそも自分たちが〝神〟と呼ばれていたことすら初めて知ったが、とにかく驚いた。
 庇護すべき対象であるはずの人々がこちらに襲いかかって来るのだ。
 〝神〟は〝神〟によっては傷付けられないが、それ以外に対しては不死でも無敵でもなかったため、最初の不意打ちで「調停」を始めとする何人かの〝神〟が死んだ。
 「世界」は仲間を失った悲しみから、武器を手に取った。
 ただの武器ではない、自身の力で精霊と呼ばれる存在を武器に封じた武器、精霊武器マナ・ウェポンを生み出した。
 また、〝神〟は〝神〟を傷つけられないので、「世界」達は人間側についた「運命」を倒すため魂を持たない兵隊を生み出し戦力とした。
 こうして〝神〟と人の戦争、堕神戦争が始まったのだった。

 

 * * *

 

 湿気による蒸し暑さを感じ始める。
 真っ白で覆われた視界が正常に戻る。と思ったが、視界は依然深い霧で白い。
 そこは熱帯雲霧林。
「ドラゴニア平原に戻ってきたのか」
 ジルが風の魔術で霧を払いつつ呟く。
「ミラがウェル・プラーを探しているはずだ。合流しよう」
「だけど、どこに?」
 そう話していると、周囲に魔物・ライガーが集まり始める。
「相変わらず、ドラゴニア平原は魔物が多いな」
 ジルが槍を構える。
 アルとラインもそれに続いてそれぞれ騎士剣と細い片手剣を抜く。
「アル君、このままじゃ闇雲に戦うばかりになっちゃうわ、どう動くか決めましょう?」
 飛びかかってくるライガーをジルとラインがそれぞれ自身の得物で受け止める。
「まずはトブのバンカーに向かおう。ミラと最後に別れたのはあそこだ。何か手掛かりが残っているかもしれない」
 アルはラインの言葉を受けて素早く即決しつつ、ライガーとの戦いに加わる。
「思ったより数が少ない。押し切れそうだ」
 とジル。
 お得意の風圧突撃ウィンド・プレッシャー・チャージで一気にライガー二体を串刺しにする。
「サーキュレタリィ・リソースの偏りが少ないのよ、きっと、ドラゴニア平原の中でも外側の方なんだわ!」
 とラインが分析しつつ、片手剣で三角形を描き、そこから火炎のブレスを放ち、ライガーを牽制する。
 残ったライガーは2人の攻撃に後方に飛び下がりつつ、次なる攻撃の機会を伺う。
「カミナリヨ、ツルギヨリイデヨ!」
 だが後方に飛び下がったライガーに次なる攻撃の機会など訪れなかった。
 アルが騎士剣をライガー達に向け、詠唱すると、鋭い雷がライガーに突き刺さり、ライガーの体を痙攣させる。
「ナイス、アル! いくぜ、風圧突撃ウィンド・プレッシャー・チャージ!」
 風の魔法で加速し、ジルの槍が動きを止めたライガー達を突き刺す。
「行きなさい、イグニ、コルド、トニング!」
 ラインが三つの三角形を空中に描き、炎と氷と雷を放ち、残ったライガーを攻撃する。
「ふぅ、スペンスが抜けたから苦戦するかと思ったけど、なんとかなったね」
 新たなライガーが現れないことを確認し、アルが肩の息を吐く。
「ライン、ファットを呼んで、空にあがろう。魔物には襲われにくくなるし、トブのバンカーがある方向も現状じゃ分からない」
「そうね、イグニさえいれば、ワイバーンも寄せ付けないと思うし」
 ラインは細い片手剣で三角形を描き、大きな背中を持つドラゴンを呼び出す。
 三人はそれに捕まり、熱帯雲霧林の木々を抜けて、空へ飛び立つ。
 飛び上がってみると、すぐそばにドラゴニア平原南東の集落、ポトフが見えた。
「ポトフのすぐそばだったんだ! ってことはトブのバンカーはすぐそばのはずだね」
 視線をポトフから少し動かすとそこには遺跡群が見える。その中の一つがトブのバンカーのはずだ。
 おそらく、「世界」様がミラの近くに転送してくれたのだろう。ならば、ミラはやはりトブのバンカーにいるはずだ、とアルが言う。
「向かいましょう」
 ラインが片手剣を指揮棒のように振ると、ファットが一声鳴き声をあげて、後下を始める。
「やっぱり、竜使いがいると移動が楽だな」
 とジルが笑う。
「人が多いところでやるとそれこそ騒ぎになっちゃうから、こんなこと出来るのは人が少ないところだけだけどね」
 と、ラインが片手剣を振りながら笑い返す。
 ドラゴンが着地する。
「どこかの柱を押すんだったと思うけど……」
 三人で分担して柱を見て回るが、どうにもよく分からない。
 と、困っていると、突然地面がガコンと動き階段が出現する。
「お、誰か見つけたのか?」
 嬉しそうにジルが階段の前に移動する。。
「いや、ボクは見つけられなかったよ、ラインかな?」
 アルが首を横に振りながら階段の前に移動する。
「私もダメだったわ」
 そう言って、ラインも階段の前に移動する。
 あれ? とすると誰がこの階段を?
「あれ、みなさんお揃いで」
 答えはただ一つ、トブのバンカーから、ミラが顔を出したのだった。

 

 《2007/Leo-1 南西州-旧トブバンカー》

 

「なるほど、「世界」様とお会いになったのですね」
 ミラがアルの事情説明に頷く。
「ウェル・プラーを探してるんだよね? 何か手がかりはあった?」
「手がかりというほどのものはまだ……。むしろ何も手がかりがなく、手探りで探している状態です」
 アルの進捗確認に、ミラは首を横に振る。
「三賢者の動向は何かわかってる?」
「はい、三賢者の一人、バルタザールがこの南西州に入ってきたようです」
「それはどうして分かるんだ?」
 ミラの答えにジルが疑問を呈する。
「先日、ランバージャックに買い出しにいった時に耳にしました」
「やっぱり、そのバルタザール? の目的も?」
「はい。恐らくはウェル・プラーかと」
 ミラが頷く。
「バルタザールはどうやってウェル・プラーを探すつもりなんだろう?」
「分かりません。ですが、三賢者はトブを作り上げた張本人です。我々の知らない何かしらの情報を持っている可能性は高いかと」
「なるほど、向こうは作り手だったわね。これは手をこまねいていたらあっという間に相手のものになりかねないわ」
 ミラの答えに頷くのはライン。
「なぁ、俺、馬鹿だからよく分からないんだが、そのバルタザールって奴を先にやっつけちまうわけにはいかないのか?」
 そうすれば、奪われる可能性はなくなるし、うまくすればウェル・プラーの位置も分かるぜ、とジル。
「うーん、三賢者は強いですが、確かにこの四人なら倒せなくはないでしょうか……」
 一同の視線が集まったのを感じて、ミラが考える。
「それは最終手段にしよう。僕らは既にお尋ね者だけど、だからって本当に犯罪行為に手を染めるのは避けたい」
 バルタザールが例え人を脅かさんとする人間であっても、客観的にそれを証明する術がない以上、バルタザールに突如として襲いかかる行為は犯罪である。
「アルがそう言うなら。けど、じゃあどうするんだ?」
「もう一度、ウェル・プラーについて確認したい。あれは『世界』様すら知らない理屈でリソースを汲み出す装置なんだよね?」
「はい。理論上無限のエネルギーを汲み出せる三賢者の発明品の中でも群を抜いてすごいものです。三賢者でも二個目は作れないとか」
 アルの問いかけにミラが答える。それを受けて、アルがふむ、と呟く。
「ウェル・プラーの汲み出し機構はオン・オフが出来るの?」
「はい。ただ、ウェル・プラーの安全弁はトブ側にあるので、今は汲み出し続けているはずです」
「やっぱり、ならウェル・プラーの場所は当たりをつけられると思うよ」
 ミラの答えにアルが自身の仮説が正しかった、と顔を上げる。
「本当ですか!?」
 言葉は違えど、一同がアルに視線を向ける。
「あぁ、この熱帯雲霧林となった、ドラゴニア平原。多分だけどこの状態こそが答えなんだと思う」
「そっか! そういうことね! ドラゴニア平原に突然リソースの偏りが発生して魔物が大量に発生する熱帯雲霧林になったのは……!」
 アルの言葉にラインが納得したように声を上げる。
「そう。だからきっと、魔物が一際多いリソースの偏りが強い場所に、ウェル・プラーがあるはずだ」
「それなら任せて! ドラゴニア平原は庭だから心当たりがあるわ!」

 

 《2007/Leo-1 南西州-ドラゴニア平原》

 

 かくして、一同はファットに乗り、リソースが一際強く偏る場所に訪れた。
「降下するには地上の魔物が多すぎる!」
「だったら、一気に地上に降りるぜ、風圧突撃ウィンド・プレッシャー・チャージ!」
 ジルがファットから飛び降り、槍を構えて一気に魔物の群れに飛び込む。
 大きな土煙が上がり、周囲の木々がなぎ倒される。
「無茶するわね!」
 ラインがそう言いながら、ファットの高度を下げ始める。
 ジルの強襲降下が効果的に作用したため、敵の数に比して戦闘は比較的緩やかに進んでいく。
 その時までは。
「ゴラゲナニザ・ユグヂヤヤホヂドン」
 突如、黄色い粒子をまとった真っ白い布を被ったような少女が姿を表す。
「勇者の子孫……? ノノグギグギリナナどういう意味だ?」
 アルは思わず、少女に問い返す。
「ノモモズネロルナナナナ」
「別にとぼけてなんて……」
 少女の言葉にアルは困惑する。この異端言語を話す少女は一体何者なのか、と。
「アルさん、気をつけて。そいつはモルスの一味です!」
「モルス?」
「モグ・モルス・ヲヂヌヌヌネギウホザ」
 面白そうに少女が笑う。
「モルスはブラッドが自らの側近となるように生み出した人間型の造られた生物です。こんなところに現れるなんて……」
「ゾゾヒゼウノギグゾノマ・ロゼネジマゾエナナハ?」
 少女の左手元には何かしらの装置が握られていた。
「それ!? ウェル・プラーです! ブラッドもトブ対策に動いていたか……」
「よく分かんねぇけど、敵ってことだな?」
 ジルがそう言って槍を少女に向ける。
「だったら……風圧突撃ウィンド・プレッシャー・チャージ!」
 ジルの姿が消え、一気に少女に迫る。
「ナギヂナマヤダナナ」
 少女の手に黄色い粒子が纏い始める。
「ナナザザドエナナズナナ」
 手にまとった黄色い粒子は剣の形を取り、ジルの風圧突撃を正面から受け止める。
「なにっ!?」
「ジズ・ワザザハマ・スト・ルザヌヌヌネゼウハアザゼゾゾデヨ」
「スト、それがお前の名前かドエザザゴラゲホハラゲザ
「ドグナナ・ユグヂヤヤホヂドンヨ」
 ストがウェル・プラーを持った左手を持ち上げると、更に左手に黄色い粒子が集まり、ウェル・プラーごと大剣の姿を取る。
「まずい!」
 ジルが後方に飛び下がる。
 大剣による大上段の斬り下げの強烈な風圧がジルに襲いかかる。
「ぐっ」
「ジル!」
 アルが咄嗟にジルの前に飛び出し、騎士剣を構え、ストに向けて切断攻撃を仕掛ける。
 ストは迷わず、右手の剣でアルの騎士剣を受け止める。
「ライトソード・マノノグヂナ・ユグヂヤヤホヂドンヨ」
「勇者の子孫、勇者の子孫、と。僕の名前は、アルだ!」
 アルの言葉に呼応し、高ぶった感情によって魔術が発動。アルの騎士剣に炎が纏わり付く。
 剣を伝って炎がストの剣へ燃え移る。
「!」
 だが、ストは迷わず剣を手放し、別の剣を黄色い粒子から生成する。
 手放した剣は黄色い粒子へと還っていく。
「厄介だな」
 アルはそう言いながら、続くストの一撃を受け止める。
「アルさん、距離を取って!」
 言われるがまま、アルは後方に飛び下がると、そこに無数の雷が飛来し、ストの体を痙攣させる。
「今だ!」
 アルはその隙を逃さず、一気に駆け出し、ストに剣を突き刺す。
「ヤウハ……ナナザザ!!」
 ストは切断面の拡大を気にせず、後方に飛び下がり、再び右手に剣を形成する。
 アルはそれを追撃し、再び戦いは鍔迫り合いに発展する。
 直後、ストは大剣を粒子へと還元させつつ、露出したウェル・プラーを粒子で球体にし、地面に転がせる。
 それを見逃さず、ラインが地面を蹴って駆けだす。
「取った!」
「ゴオザハ……」
 直後、黄色い球体が爆発するように粒子を撒き散らし、ラインの体を大きく傷つける。
「ライン!!」
「ライン!!」
「ラインさん!!」
 三人が叫ぶ。ミラは自分の詠唱すらキャンセルしての叫びだった。
 慌ててミラがラインのもとに駆け寄る。
「重傷です……」
 ミラが慌てて魔術を発動し、血の流れを操り、止血を始める。
 無数の傷口から体外に流出しようとする血のすべてを正常に流すのは魔術に卓越したミラにしか出来ないだろう。これで、魔術の援護は封じられた。
 全てストの計画通り。厄介な竜使いと魔術師を同時に封じてみせたのだ。
「良くもラインを!」
 だが、ストは少し甘く見ていた。仲間を失いかけた二人の怒りは凄まじさを。
 二人の声が重なり、ジルは風を、アルは炎をその武器にまとわせる。
 その勢いは膨大で、周囲の林を焼く火災旋風となる。
 それは意図しての魔術にあらず。二人の怒りにより発現した二人の感情そのものによる魔術現象であった。
「ママ……ママザハ……!!」
 強烈なる火災旋風を纏った二箇所同時の突きの前に、ストは光の粒子で防御するが、とても間に合うものではなかった。
 ごう、と炎を纏った風がストを貫通し、ストの胴体に巨大な穴があいた。
 人間型の造られた生物というのは嘘では内容で、内部は血管も内蔵もない、ただの空洞だった。
 ボロボロとストの体が崩れていく。
 だが、その様子を最後まで見ることなく、アルとジルはラインのもとに駆け寄る。
「ライン、大丈夫か……!」
「ボクが止血してますから、し続けている間は無事のはずです。でも、根本的な治療は癒し手がいないと……」
「そんな……こんな林の奥地に癒し手なんて……」
 ミラの言葉にアルが絶望的な声を上げる。
 それはあまりに望み薄な言葉であった。
「そんな顔しないで、アル君。ほら、ウェル・プラーは確保したよ」
 そういって、ラインがアルにウェル・プラーを差し出す。
「う、動かないでくれ、ライン」
 慌てたようにアルがラインのその動きを止める。
「なら、早く受け取って」
「あ、あぁ」
 ラインからウェル・プラーを受け取るアル。
「! ウェル・プラーの次元通信機能の稼働サインが点灯している! トブを遠隔で呼べますよ!」
 その様子に嬉しそうなミラ。
「そのボタンを押してください。ウェル・プラーが次元通信でトブへリソースを送信して、トブをここに呼びつけてくれます」
「分かった!」
 アルが素早くボタンを押す。
「結構。では、後は私に任せてもらおうか」
 そこに一人の男が木々の向こうから姿を表す。
「その服装、三賢者か」
「以下にも。我が名はバルタザール。三賢者が一人」
 アルが問いかけるとバルタザールは鷹揚に頷く。
「さぁ、大人しくウェル・プラーを渡せ、さすれば、街まで運ぶくらいはしてやろう」
「誰が!」
 アルとジルが立ち上がり、武器を構える。
「たった二人で私とやり合うつもりか? あまりに愚かな……」
 今ここに、三賢者が一人、バルタザールとの戦いが始まろうとしていた。

 

to be continued...

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「Legend of Tipaland 第9章」の大したことのないあとがきを
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