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栄光は虚構と成り果て 第4章

前回までのあらすじ(クリックタップで展開)

 地球に住んでいた少女、コトハはある日、目を覚ますと、太陽が二つある砂漠にいた。
 小さな肉食の爬虫類に襲われたところを、二足歩行で歩くトカゲであるラケルタ族のルチャルトラに助けられたコトハは、そのまま町までルチャルトラに案内してもらうことにした。
 まもなく町に到着するという時、二人の前に、巨大なワニが姿を現す。絶体絶命と思われたその時、コトハは自身の能力を思い出し、敵を円の中に誘導、消滅させる事に成功した。
 町に辿り着いて治療を受けることが出来たコトハ。そのまま町に住む事を許可され、新しい生活が始まるかと思われたが、町に超獣と呼ばれる巨大な怪物が襲い掛かる。
 ドラゴンさえもねじ伏せる圧倒的な力を持つ超獣を、しかしコトハはその能力で撃破する。
 この世界には多くの超獣がおり、人々を脅かしている。それを知ったコトハは、この能力で超獣を倒して回ることこそが自らの使命だと感じ、ルチャルトラと共に旅に出る事を決意した。
 魔術の学習を始めるも全く魔術を使えるようにならないコトハ。自分が教えるには限界だ、と感じたルチャルトラは、知り合いの学者をコトハに紹介するべく「街」へと向かう。
 「街」とは何百年もかけて作られた超獣を倒すための場所。コトハはそこで、自分の力抜きで人々が超獣を討伐するところを目撃する。
 ただしそれは400年もの時をかけた人間たちの執念がなし得た事。やはり超獣を倒すには自分がその能力を使うしかないのだ、とコトハは再認識した。

 

「ええいっ」
「ふぅむ、確かに体外に魔力を全く放出出来ておらんな。ちゃんと体内の魔力に意識を向けておらんのか?」
 次の町につくなり、ズンによるコトハのための魔力講座が始まった。
「ええっと、全然魔力? を感じられなくて」
「ふむ……、生来鈍感な体質じゃったのか? あるいは全く使わぬ箱入り娘だったが故に鈍感になってしまったのか……」
 ズンが興味深そうに顎髭を撫でる。ちなみにこの状況は街にいるときに一度話したはずなのだが、その直後の襲撃でお互いその時に話したことをあんまり覚えていない。
「体内の魔力を増やしてみるか。ちとコツがいるのじゃが、これを飲めるかの?」
 そう言ってズンが差し出したのはカプセル薬だった。コトハはなんだかよく覚えてないけど、よく飲んだような気がするという程度にしか覚えていないが。
「ズン、それは?」
「サーキュレタリィ……まぁ魔力を凝縮したものじゃ。噛むんじゃなくて液体と一緒に飲みこむ必要があるんで、コツがいるんじゃが」
 コトハはそれを受け取って水と一緒に飲み込む。飲み方は体に染み付いているようだった。
「飲み込めたようじゃな。もう一度試してみよ」
 コトハは目を瞑り、自分の体の中に意識を集中させる。
「ダメだ」
「うーむ、イメージが弱いのじゃろうか。一度ワシが色をつけた魔力で試してみよう」
 そういうと、ズンが、目を瞑り、そして体の内部から光の粒子が滲み出てくる。その光の粒子は空中に移動していき、くるくると旋回を始めその中心に白い線が出現する。魔術の基本中の基本、道しるべの魔術だ。
「こんな感じじゃ、もう一度試してみよ」
 コトハは、「って言われてもなぁ」と納得の言ってない様子だったが、目を瞑る。
「見えた!」
 コトハが目を開き喜ぶ。
「おおう、なら、サーキュレタリィ……魔力の吸収に時間がかかっておったのかもしれんな。続きを試してみよ」
 ズンの言葉になるほど、と頷く。といつことは、自分が魔力を感じられなかったのは、ずっと魔術を使わなくていい地球にいたから鈍感になってたということか、と納得する。
 が、コトハの苦難はまだまだ始まりにすぎなかった。体外に放出した魔力を感じて操作する、というのもこれまた難しいものだったのだ。体外の魔力を感じるのは、体内の魔力を感じる応用でできるのだが、これを特定の用途に使うために動かすとなると一気に難易度が上がる。
「仕方ねぇ、次は俺がやってみるか」
 ルチャルトラが体外に魔力を放出する。そして左手の平に右手の指を突きつけ、空中に文字が出現する。
「待って、何今の動き、ズンさんはしてなかったよね?」
「おう、ワシはそんなのなくても頭の中で全部出来るからの」
「あー、えっとな、俺は空中に線を作るってのがイマイチイメージ出来なくてな、手のひらに文字を書くイメージをすることで書いてるんだよ」
 コトハはそれを聞き、体外に放出した魔力の操作は体内から体外に放出する時と違い、イメージすることが大事なのか、と認識を変える。
「なんでそれを教えてくれないの」
 とりあえずそれを愚痴ることにするコトハ。顔を見合わせるズンとルチャルトラ。
「いや、魔力を体外に放出するのに成功した時から、右手がピクピク動くようになってたからよ、お前なりのイメージ補強手段なのかと……」
 ルチャルトラが頭をかきながら答える。無意識でそんなことしてたのか、自分の右手を見るコトハ。
「やってみるか」
 コトハは体外に魔力を放出し、そして右手人差し指を空中に向ける。
「この指は、筆」
 そして、くるりと指を振る。すると、それに合わせて空中にラインが出現した。
「なんだか指が震えて書きにくかったけど、出来た!」
「よくやったのぅ。あとはそれを応用して覚えていくだけじゃ。生活に必要な魔法を覚えるまではワシも手伝うとしよう」
「ルチャルトラは? もう2日はこの町にいるけど、いいの?」
「まぁな。幸い久しぶりにでかい町だし、情報が入るのにも期待したいよ。特にこの町には神殿があるしな」
「神殿?」
 この世界に来て初めて聞く言葉に思わず聞き返す。
「おう、コトハの町にはなかったのか? 神様からの神託を聞く場所だぞ。お前の練習中にぶらっと見てきたが、最後に来た神託は一ヶ月前の『デルタ山に近づくべからず』だったな」
 この世界って神様もいるんだなぁ、と関心する。
「デルタ山って?」
「おう、この近くの霊山らしい。神託のあと様子を見に行かせたら、超獣並みにヤバい化け物がいたんで、今は基本誰も近づかないんだってよ」
 ――神託はくれても、その理由とか解決法とかは教えてくれないんだ。なんだかケチな神様だな
 とコトハは思った。
「神託はワシにとっても謎の存在じゃ、せっかくじゃし、見に行くかのう」
「あ、なら私も」
 ――この手のラノベだと、だいたい転移させたり能力を与えてくれるのは神様である事が多い。この力のこと、何か聞けるかもしれない。
 そして神殿を見たコトハの感想は、「神殿と言うよりは小さいお社?」だった。それは中に小さいものが一つ入るくらいの木製の小屋で、その周囲をさらに壁で囲われていて、その壁に過去の神託の内容が刻まれている。
「…………神託ってどうやって降りてくるの?」
 コトハは自分が近づいたら何か起きるかと思っていたが、そんなことはなかった。そもそも神託がどう降りてくるのかも知らないことに気付き、尋ねる。
「神殿の内側から光が溢れて、この扉の白いところに文字が浮かび出るんだと」
「へぇ、影文字みたい。中はどうなってるんだろう」
「開けんなよ、選ばれた神官以外は中の御神体を見ちゃなんねぇらしいから」
 コトハはその微妙に科学で説明できそうな事象が気になったが、まさかこの世界のルールを破って顰蹙を買うわけにも行かない。
【リディストリビューター・来 神体・逃】
 そのメッセージを見て全員が首を傾げた。コトハ達一行だけでなく、ちょうど神殿に来ていた全員が。
「リディストリビューター? って何?」
「分かんねぇ」
 コトハの問いかけにやはりルチャルトラが首を傾げる。
「見慣れぬ言葉じゃのう。どう言う意味なのか……。とりあえずリディストリビューターと言うのが来るから、御神体を逃せ、というコトであろうな」
 なんとなく英語っぽい感じはする。erとかがついたような、となんとなくコトハは思うが、コトハの持つ英語のボキャブラリーの中にその言葉は見当たらなかった。
「ってかいつもこんなブツ切れなの?」
「おう。そうなんだ」
 随分不便な神様だな、とコトハはボヤく。
 リディストリビューターの意味は分からないが、神官は御神体を逃すと言う部分を遂行することにしたらしい。布で出来た神殿は幕に覆われ、中を見れなくなった。
「明日、持ち出しの儀式をするんだってよ」
「やっぱそう言うのあるんだ」
 少し楽しみ、と笑うコトハ。
「ワシはどうしたもんかのう。コトハはひとまず基本は身についたわけじゃし、研究に戻ろうかのう」
「なんだよ、その年でまだ働くのか?」
「当然。リディストリビューターなんていう気になる言葉も出てきたしの」
「だったらここで待った方がそれを見れるんじゃないの?」
「うむ。じゃからもうしばらくはここに留まろうかの」

 

 そして翌日、いよいよ儀式が始まるという時、それは突然現れた。巨大な蛾のような怪物。その巨大さですぐに分かる。それは超獣だった。
「まぁこの町には来るじゃろうな」
 ズンは何か納得げな様子で頷きながら逃げる準備を始める。
「コトハ、やれるか?」
「分かんない。空飛んでる相手に効くのかな……」
 次の瞬間、超獣が大きく羽ばたく。私はその風をもろに受けてよろめく。
「風除けをまだ使えぬのは辛いの。さあ、早く逃げるぞ」
 ズンがコトハに風除けを使ったことで、それ以上コトハが風の影響を受けるコトはなかった、それでも周囲の人工物は次々に倒れ、壊れていく。
「この風じゃ線を描いても掻き消されちゃう」
 超獣が、神殿に向けて急降下し、神殿を破壊する。
「道しるべの魔術はどうだ? あれなら空中にも線を書けるし」
「何を言っとる、早く逃げるぞ、ここは街じゃない、あれを倒す術はないぞ」
「まぁ見てなって、これこそがコトハが旅をしてる理由なんだ」
 さっきの通りにやればいい。自分に言い聞かせて、右手を空中に向けるコトハ。緊張からか右手の人差し指がピクピクと動く。
 そして空中にラインが形成されるが、空を飛び回る超獣を捉えるコトはできない。
「おい、あんた。前に超獣を倒したってやつか?」
 超獣相手に逃げずに向き合っていた姿からか、側にいたラケルタ族のルチャルトラが目立ったからか。おそらくその両方を理由に一人の青年が話しかけてくる。
「そ、そうだけど?」
「やっぱりそうか! なんで早く消さないんだ?」
「コトハは相手を円の中に入れることで相手を消せるんだが、あの速さじゃな」
「お前らなんの話を……」
「なるほど。つまりあいつにあの円を通過させればいいんだな?」
「う、うん。出来るの?」
「あぁ、任せな」
 そういうと青年は、腰から黒い筒を取り出し、中から短い棒を取り出して、そして筒を背負う。短い棒を一振りすると折りたたまれていたパーツが展開され、弓なりの棒……要するに弓へと変形した。
「おい、てめぇ、そりゃ、弓じゃねぇか。資源武器を使うなんて何考えてやがる!」
「言いたいことはわかるよ。でも、資源武器なしで超獣にダメージを与えるなんて、不可能だ」
「あぁ、その子の言う通りじゃ。資源武器以外で超獣を傷付けるなどよほど魔術に優れていなければ、それこそ竜でなければ不可能だろう。じゃがそれでも……」
「うまく弱点を突くか、数で押すか、でしょ? 分かってるよ。ボクは一矢報いることができたら良かったんだけど。たまたま君の噂を聞いて、たまたま君に会えた。なら、もっと有効に使える」
 青年が筒から矢を一本抜き取り、弓に番える。
「チャンスは一瞬だ。合図すると同時にボクは動く。そしたら奴も動く。その一瞬を逃さず、倒して」
「分かった」
 コトハは超獣と、そして生成した円に集中する。
「強く、強く、強く」
 青年が弓を引き、唱える。青年が体外に放出した魔力が矢じりに集まっていく。
「今だ!」
 超獣が青年から見て側面に向いた瞬間、青年の弓が放たれ、超獣の複眼らしき目に命中する。超獣は叫ぶように翼を広げ、そして、青年に向かってまっすぐ急降下してくる。その途中にはコトハの生成した円があった。
「やっぱり、一直線に急降下するくらいしか能がないらしいな」
txif起動
 膨大な光と風が空中に溢れ、超獣が搔き消える。
「やったな! イェーイ」
「イェーイじゃない、お前、その資源武器、どこで手に入れたんだ?」
 喜びコトハ達に駆け寄る青年に、ルチャルトラが割り込む。
「この弓と矢筒は遺跡で拾ったよ。矢は僅かに残ってたのを元に削って作ったんだ」
「遺跡だと? なんでそんなところに……」
「超獣を倒す力が欲しかったんだ。それに、遺跡は隠れ住むには悪くないところだったし」
 コトハは、これアニメとかでよく見る奴だ、と思った。
「もしかして、町を超獣にやられて、仇を討ちたい、とか?」
「……そうだ。あんた、見たところ、その力は強いが他のことはあんまり得意じゃないんじゃないか? 俺は狩人だった、罠や戦いはそれなりに出来る。しかも、この資源武器もある。どうだ?」
 予想通り売り込んできた、と内心面白がるコトハ。実際彼は役に立ちそうだ。ルチャルトラは超獣相手には少し辛いようだし。
「いいよ。私はコトハ、あなたは?」
「ボクは、ジオだ。よろしく、コトハ」
 そう言えば、ルチャルトラは静かになったな、と思ってルチャルトラの方を見るコトハ。ジオがコトハの方に向かうと同時、ズンから声をかけられてその相手をしていた。
「コトハ、ズンも俺たちについて行くってよ。お前の力に興味があるみたいだ」
 コトハはそれもまた大助かりだと頷く。この力がないと私はきっと生きていけない。けれど、この力のメカニズムは知りたい。もし有限だったりチャージ方法に決まりがあったりしたら困る。
 そして、知りたいと言えば! と、コトハが神殿の方に振り向く。御神体はどうなったのか!
 そこにあったのは一つの結晶だった。バラバラに砕けていたけれど。そしてそれは、すぐにさらにバラバラになって砂と一緒に風に吹かれて飛んでいった。
「御神体は、逃がせなかったね」
「……あぁ」
「無念じゃのう。御神体の数は有限じゃ。このまま減って行くことだけは、なんとか避けたいところじゃが」
 ズンの話に、そうなんだ、と頷くコトハ。そしてふと思い出す。
「そういえば、ズンさん、さっき超獣の出現を予測してたみたいなこと言ってなかった?」
「おう、確証はないがな」
「じゃあさ、次に超獣が出そうな町を探そうよ」
「悪くない考えじゃな。また力を使うところを見たい」
「あぁ、ボクもはやくあいつらを倒したい」
「じゃが、他の町の情報がないのう」
 ズンは同意した上で首を横に振る。情報がなければ判断も出来ない。当然の話だ。
「なら、いろんな町とよく繋がってるらしい町に行ってみよう。情報もたくさん集まってるはずだ」
 町の情報に詳しいルチャルトラがそれらを聞いて目的地を決める。全員で頷いて、また旅が始まる。

 

To Be Continued…

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