栄光は虚構と成り果て 第9章
地球に住んでいた少女、コトハはある日、目を覚ますと、太陽が二つある砂漠にいた。
小さな肉食の爬虫類に襲われたところを、二足歩行で歩くトカゲであるラケルタ族のルチャルトラに助けられたコトハは、そのまま町までルチャルトラに案内してもらうことにした。
まもなく町に到着するという時、二人の前に、巨大なワニが姿を現す。絶体絶命と思われたその時、コトハは自身の能力を思い出し、敵を円の中に誘導、消滅させる事に成功した。
町に辿り着いて治療を受けることが出来たコトハ。そのまま町に住む事を許可され、新しい生活が始まるかと思われたが、町に超獣と呼ばれる巨大な怪物が襲い掛かる。
ドラゴンさえもねじ伏せる圧倒的な力を持つ超獣を、しかしコトハはその能力で撃破する。
この世界には多くの超獣がおり、人々を脅かしている。それを知ったコトハは、この能力で超獣を倒して回ることこそが自らの使命だと感じ、ルチャルトラと共に旅に出る事を決意した。
魔術の学習を始めるも全く魔術を使えるようにならないコトハ。自分が教えるには限界だ、と感じたルチャルトラは、知り合いの学者をコトハに紹介するべく「街」へと向かう。
「街」とは何百年もかけて作られた超獣を倒すための場所。コトハはそこで、自分の力抜きで人々が超獣を討伐するところを目撃する。
ただしそれは400年もの時をかけた人間たちの執念がなし得た事。やはり超獣を倒すには自分がその能力を使うしかないのだ、とコトハは再認識した。
大きめの町で学者であるズンから魔術を学ぶコトハ。二人の協力のおかげでコトハはようやく魔術を取得することに成功する。
そしてこの町には神殿があった。神殿は御神体と呼ばれるものから神託を受け取れる場所だ。最新の神託は「霊山・デルタ山に近づくな」というもので、事実、デルタ山には超獣を超えるかもしれないというほどの強力な怪物が住んでいることが確認されたらしい。
新しい情報が得られないかと期待して神殿を訪れるコトハ達一行の前に、神託は下る。曰く「リディストリビューターが来るから逃げろ」。
御神体を持ち出す儀式が始まる中、超獣が襲撃してくる。コトハは超獣に町を滅ぼされ復讐を誓う狩人・ジオと協力し、超獣を撃破するが、御神体は破壊されてしまった。
コトハの力を知ったズンとジオはそれぞれの理由からコトハと同行する事を決意。四人は新しい情報を得るため、情報が集まる町へと出発した。
情報が集まる町「ターミナル町」に辿り着いたコトハ達一行、しかし、ターミナル町には「この町を訪れる旅人の一人がこの星を根源的に終わらせる災厄をもたらす。何も施すな」という神託を受けており、情報提供を拒否されてしまう。
同じく困っていた旅人のスーマが怪しい事を引き合いに出し、取引を要求するルチャルトラ。功を奏して狩場の肉を取ってくれば情報を教えると約束をしてもらう。
辿り着いた狩場にいたのは
肉を納品したコトハ一行は「自分の能力は文明が滅ぶ前の技術によるものに違いない」と信じ、情報を探して遺跡へと向かう事を決める。
遺跡へ向かう道中、新たな能力に目覚めつつも、遺跡に辿り着くコトハ一行。そこにいたのはターミナル町で待ちぼうけを食らっていたはずのスーマだった。
スーマによると、コトハ一行が肉を狩りに向かった翌日、隣町から新しい神託「災厄をもたらす者は町を出た。旅人をもてなすべし」が届き、スーマは無事情報を得ることが出来たのだという。
遺跡でパソコンを見つけ起動するコトハ。そこに綴られていたのは、超獣に蹂躙される文明の記録だった。とはいえ、コトハの欲しい情報は何もなく。その上、そこに一際巨大な超獣がこちらに向かってきたのだった。
一際巨大な超獣の強さは凄まじく、コトハは同行者を見捨て逃げようとする。しかし、うまく行かず、あわや自らも死ぬというところを、スーマに助けられる。
スーマは自らが囮を買って出て、コトハを逃がす。
コトハ一行は一際巨大な超獣が他の町に向かうのを見越して先回りして対策しようと動き出す。
囮を務めたスーマは、意味深な言葉とともに熱線に飲み込まれる。その表情は今から死ぬ人間のものとは思えなかった。
数年後、コトハは神官王を名乗る王が統治する大きな町に辿り着いた。
コトハ一行は謎の殺気を浴びつつも、神官王支援の元で、超獣を迎撃する準備を整えるのだった。
そして、その日が訪れた。
「物見櫓から報告! 接近する超獣あり!」
よく響く鐘の音が町を満たす。
王は事前に神託を騙って超獣の到来を告げていたため、混乱は少ない。
神託によれば、英雄コトハが超獣を倒してくれるはずだからだ。
そのはずだった。
だが、その神託への信頼も、接近する巨体とそこから放たれる熱線を見れば、容易く気も変わる。
超獣が放った熱線は容易く町の入り口に築かれた簡易的なゲートを破壊し、周囲の砂漠をガラス化させた。
他の町と比較的すれば大きいとはいえ、所詮小さな砂漠の町。
砂塵が町に入り込んでくる。町を砂塵から守っているはずの木々がなぎ倒されていく。
一転、市民は混乱を始め、我先にと街から逃げ出し始める。
だって、あれほどの巨大がもう町のすぐそばまで迫っている。
だって、あれほどの熱線の射程が町の全土をすでに覆っている。
だって、英雄コトハが動き出す気配を感じない。
だって、このままでは、いつ自分が死んでしまうか分からない。
ところで、恐怖から逃れる事を選んだもの以外に、もう二種類ほど、恐怖を感じた時の行動が異なる人間がいる。
一人は、無謀にもその恐怖に立ち向かう者。例えば、そこで槍を構えた男性のように。
彼は狩猟用の槍を投擲する。飛翔する槍は、しかし黒い巨大な足に突き刺さる事なく、弾き返されて落下する。
そして、もう一種類は恐怖によって、もはや動く事すら叶わなくなったもの。
例えば、道の真ん中で瞳を恐怖で震わせながら、ただ、その黒い巨大な足を見つめる少女など。
もはや抗う術もなく、彼女は黒い巨大な足に踏みつぶされてしまう運命に思えた。あるいは、たまたま足がすり抜けても、その後ろにある巨大な尻尾がなぎ倒してしまうかも。
そんな彼女の元に、無慈悲にも超獣から放たれた熱線が近づく。
「
熱線が少女を飲み込む直前、白い円が出現し、膨大な光と風が発生。熱線を打ち消していく。
「コトハ、大丈夫か?」
「大丈夫! でも、思ってたよりあいつ歩くの早い! そのままじゃ、目標地点に着く前に町がやられちゃう!」
英雄コトハは走っていた。
走りながらも超獣の攻撃をその能力で打ち消しつつ。超獣をある地点、これまで作ってきた落とし穴へ誘導するための場所へ向かっていた。
「なら、なんとか俺たちで足止めを試みる。行くぞ、ズン、ジオ!」
「うん」
「おう!」
コトハの同行者達がコトハの元を離れ、落とし穴と超獣の中間地点に向けて走り出す。
まず最初に攻撃を始めるのはブレス・ブロウガンを口に咥えるルチャルトラ。
ルチャルトラの吐息が麻酔効果のある
巨大である超獣に麻酔は効き目が薄い。今回の超獣はいつも以上に大きく、なおのこと効き辛いだろう。
超獣に痒みを与えられたかすら怪しい。それでも、きっとしないよりはマシだ、とルチャルトラは吐息に魔術をかけて放ち続ける。
より距離が近付いて、ジオが折りたたみ式カーボン製の弓を構える。
放たれる矢は何百年、あるいは何千年も昔に作られた古き物。
この場にいる誰も知らぬ理屈により、その古さは力となって超獣に確かに突き刺さる。
超獣が僅かにその進路を変える。
「よし!」
ジオが喜んだのも束の間。超獣が口にエネルギーを蓄える。熱線発射の兆候だ。
「まずい!」
コトハがいれば守ってもらえるが、今や、コトハはかなり遠くにいる。守って貰うのは難しい。
「くぅ、老体には厳しいが、やむを得まい」
フクロウに似た種族であるアシオー族のズンが手を兼ねている翼を大きく広げ、足で二人の片腕を掴んで飛び上がる。
「お、おい、ズン、無理は……」
「今、無理せんでいつ無理をする。死んでしもうては無理もできんわい」
二人の足元を熱線が通過する。
「ふぅ、疲れたわい」
息を吐くズン。
「言ってる場合じゃないよ、次の熱線が来る」
「ここは二方向から攻撃して撹乱するしかないかもしれんの」
そう言って再びズンが飛び上がった。
「ズン?」
「わしが近付いて、このショットガンで攻撃する。お主らは引き続き中間地点を目指しつつ攻撃を続けるのだ」
「そんな、危険すぎる!」
ズンの提案に向こう見ずなジオでさえ反対する。
「じゃが、このまま共倒れよりは良い」
有無を言わさず、バックパックを捨てショットガンだけを持ったズンが飛び上がる。
「ワシのバックパックを頼んだぞ、ルチャルトラ!」
「ズン!!!!」
有無を言わさぬズンの行動にルチャルトラが叫ぶ。
「どうするの、ルチャルトラ」
「言われた通り移動しつつ攻撃するしかねえまで。じゃないと、あいつが狙い撃ちにされる!」
ジオの問いに、ルチャルトラは素早く判断し、バックパックを背負いながら走り出す。
「分かった!」
ジオが頷き、走りながら弓に矢を番える。
ズンも空を飛び、超獣に接近しつつ中折れ式ショットガンを発砲して攻撃する。
「あいつ、空を飛ぶのは疲れるからって嫌いだったんだ、なのに……」
ルチャルトラは自分の攻撃が超獣へあまり有効な意味を見出せていないことを悔しく思いつつ、麻酔のダートを放ち続ける。
ズンは執拗に顔を狙って攻撃する。
すると、流石の超獣はそれを鬱陶しく思い、空中に向けて熱線を放ち始める。
ズンはそれを久しぶりの辿々しい飛行でなんとかそれを回避していた。
とはいえ、足止めとしては成功している。超獣はズンを狙うために完全に足を止めていた。
「くそ、こっちも狙え!」
ジオもまた、頭を狙って矢を放ち続ける。
それも無駄ではない。超獣は時折、どちらを攻撃するか迷う素振りを見せ、それが狙いを荒くさせてズンを守っている。
そうして、その時間稼ぎの成果が現れる時が訪れる。
コトハが目的地点まで辿り着いたのだ。
「よし、超獣と落とし穴が同時に見える!」
「
直後、コトハの右腕からサーキュレタリィ・リソースが溢れ、周辺をサーキュレタリィ・リソースで満たした。
直後、超獣が進路を変える。
より濃密なサーキュレタリィ・リソース溜まりを捕捉し、そちらへ向きを変えたのだ。
「ふぅ、ここまでか」
「ズン、危ない!!!!」
ズンが安心して、気を緩める。
直後、ルチャルトラが警告を飛ばすが、距離が離れすぎていて伝わらない」
「なっ!」
超獣がズンに向けて熱線を放とうとしていたのだ。
いや、厳密にはズンを狙ったのではない。
奥にあるサーキュレタリィ・リソース溜まりを狙ったのだが、不幸にもズンはその一直線上にいた。
「いかん!」
合わせてズンが逃れようと羽ばたくが、熱線がその片翼を飲み込む。
「ぐあああああああああ!」
ズンが翼を失い、墜落を始める。
「ズン!!!!!!!!」
ルチャルトラが駆け出す。
そして、その様子をコトハも見ていた。
ズンがやられた!!!!
それは大きなショックだった。自分についてきたから、やられた。
それはつまり、自分のせいでズンがやられたということではあるまいか。
だが、ショックを受けている暇はない。
超獣はこちらに向けて直進を続けている。
そして。
見事、その片足を奪い、超獣を転倒させる。
「かかった!」
ジオが嬉しそうに叫ぶ。
「いまだ、いけるか!?!?」
ルチャルトラが風に声を乗せる魔術でコトハに問いかける。
コトハにもその意味が分かる。
つまり、自分はズンの元に向かうから、お前一人でやれるか? と聞いているのだ。
本当ならルチャルトラとズン、そしてジオと協力して一つの円を描く予定だったが、それが出来なくなったからだ。
(やれる、私ならやれる)
コトハは静かに頷いて、右手を挙げて魔術を発動する。
それは単純な魔術。空気を屈折させ、空中に線を描く。砂漠の歩くのに必須の「風除けの魔術」の応用。 ほとんどの人が知っていて見た事のあるだろう、砂漠でのガイドなどで使われる基礎的な応用技だ。
そして駆け出す。幸いたくさんのリソースで地面を固めたので足場に不安はない。
だが、超獣は大きい。その全身を回り切るより、流石に超獣の動きのほうが早い。超獣が起きあがろうとしている。
(まずい、急がないと)
「させるかよ!!!!」
ズンを介抱していたルチャルトラがブレス・ブロウガンから麻酔ダートを放つ。
それがこれまで積み重なってきた麻酔の閾値を超えたらしい。
超獣が再び力を失い、転倒する。
(ありがとう、ルチャルトラ)
そして、円が完成する。
「
直後、膨大な光と風が発生し、円の中の超獣を飲み込んでいく。
「やった!」
ついにあの勝てないとさえ思えた超獣を倒した。
「ルチャルトラ、ズン、ジオ……!」
コトハは勝利を報告するため、そしてズンの様子を知るため、三人の元に駆け寄る。
「コトハ、やったね!」
「おぉ、コトハ、やったな」
駆け寄ってきたコトハに最初に反応するのはジオだ。
ズンに薬効サボテンで治療しながら、ルチャルトラも遅れて反応する。
「幸い、傷は完全に火傷になってて血は止まってるから、出血で死ぬことはない。けど、出来れば軟骨が欲しいところだな……、町の医者に診てもらわないと……」
そんな話をしていると、木製の槍を構えた男達がコトハ達の元にやってくる。
「ちょうど良かった、うちの仲間が負傷しちまったんだ、医者を手配してくれないか?」
ルチャルトラがズンを支えて立ち上がりながら、声をかける。
「えぇ、超獣の撃破、お疲れ様でした」
先頭の男がにこやかに微笑む。
直後、訓練された素早い動きでその槍がズンに向けて突き出される。
あまりに突然のことで、コトハもルチャルトラも反応出来なかった。
ただ一人、男の殺気を感じて警戒していたジオを除いて。
ジオはそのカーボン製弓のリム部分でその槍を受け止めた。
「なんのつもり?」
鋭くジオが男を睨む。
「神託に基づき、あなた方を全員死刑に処しに参りました」
「神託だって? どういうこと?」
思わずジオが問いかけるが、男達はそれには答えず、コトハ達を包囲するように動き始める。
「これはまずい……、逃げるぞ」
ルチャルトラが素早く判断し、ズンを支えながらまだ包囲されきっていない後方へと進み出す。
「コトハ、先に下がって、ボクが一番後ろを引き受ける」
「う、うん」
ジオが弓を構えながら殿を買って出て、コトハは言われるがままルチャルトラに続く。
コトハは混乱していた。なぜ人によって自分の命が狙われるのか分らない。
これが元の世界だったなら、自分は無価値だからそういうこともあるかもしれない、と思えた。
けれど、この世界における自分はそうではないはずだ。この世界の災害が如き脅威、超獣を倒せる唯一の存在。その自分がなぜ命を狙われなければならないのか。
意味がわからない、理解が及ばない。
世界が理不尽なのは知っていた。けれど、ここまで理不尽でなくてもいいのではないか。
ここまで築き上げた栄光はどこに行ったのか。
コトハの思いはそれのみであった。
幸い、多いと言っても、男の数は五人程度。
ジオはその殺気をうまく感知して、弓のリム部分で捌いていく。
土の大地を抜けて、砂地に入ると、男達も追うのを躊躇し始める。
リソースレスデザートは危険がいっぱいだ。なんの対策もなしに入るべきではない。
「チッ。一度退くぞ。だが、この星を根源的に終わらせる災厄をもたらす者達よ、貴様らの情報はこの一ヶ月の間に広まっている。逃げ場などないぞ!」
男達はそう言って、退いていった。
それから、コトハ達は町から十分離れたところで、キャンプをしていた。
「ふぅ、医者に見せるのと比べたら手荒だが、許してくれよ、ズン」
「気にするな、ありがとうルチャルトラ。しかし……こうなる可能性は考えていたのに、わしが怪我していたせいで対策し損ねるとは……」
ズンに簡易的な治療を施しながら謝罪するルチャルトラに対し、ズンは悔しげに呟く。
「こうなる可能性は考えてた、って。俺達があいつらに襲われるって思ってたってことか?」
思わぬ言葉にルチャルトラが驚く。
「うむ……」
「その話は気になるけど、先に食事にしない? 朝から何も食べてないし、お腹減ったよー、ねぇ、コトハ?」
「え、あ、うん。そう、かな」
ところがその話になる前にジオが口を挟む。コトハは正直、食欲がなかったが、ただでさえ命を狙われた直後、この上ジオの機嫌を損ねるのが恐ろしく、同意することにする。
「そうか、確かにそうだな。町とは十分に距離をとったし、一度食事にするか」
ルチャルトラはすぐに頷いて、食事の準備を始める。
と言っても、ずっと町に泊まっており、食事は町からの配給に頼り切っていたため、食事として用意出来たのは干し肉にザワークラウトといった保存食くらいであった。
「で、ズン、なんで予測出来てたんだよ」
干し肉を齧りながら、ルチャルトラが問いかける。
「うむ、一番最初に疑問に思ったきっかけは、町に来てすぐ、やけに我々が警備から殺気を向けられるということじゃった。ジオが気付いてくれたことじゃったんだがな」
「あぁ、あったね。王様が手を挙げたら途端に止んだの」
「うむ、それでわしは思ったのじゃ。もしや、神官王はわしらを殺すつもりでいて、超獣襲撃の可能性という町の非常時にあってそれを取りやめたのではないか、とな」
ズンが片手で干し肉を掴んで齧り、話を一度切る。
「それだけでか? ちょっと話が飛躍しすぎじゃねぇ?」
「あぁ、そこでわしは神官王がわしらを殺そうとする動機を考えた。そうすると思い出すのは神官王が独占している神託じゃ。最初は超獣退治の時にしたように神託を騙ってわしらを殺そうとしているのかとも考えたが、それでは動機が一向に思いつかなんだ。そこでふと思い出したんじゃ、遺跡に行く前のターミナル町で聞いた神託をな」
「あぁ、ターミナル町を訪れる旅人の一人がこの星を根源的に終わらせる災厄をもたらす。何も施すな、というやつだな。って、それさっきのやつらが言ってたな」
ルチャルトラが口中にザワークラウトを流し込みながら頷く。
「あぁ、じゃから、おそらくこの仮説で正解じゃ。なぜかは分からんが、コトハは神に嫌われておる」
ズンの瞳が鋭くコトハを見た。
「わ、私が、神様に? な、なんで?」
「流石にそこまでは分からん。いや、一つ仮説はあるのじゃが、確証がない」
「仮説って何? なんでもいいから聞かせて!」
理由を知れば解決の糸口もあるかも知れない、コトハにしては珍しく、必死でズンから話を聞き出そうとした。
「それはな、コトハ、神託の通り、お主がこの星を根源的に終わらせる災厄をもたらす、という可能性じゃ」
「え……? 私が、この星を終わらせる……?」
コトハはそんなわけない、と思った。だって自分はこの世界を救える唯一の存在のはず、それが、この星を根源的に終わらせる? それじゃまるであべこべだ。
「そんなわけないよ! コトハはこの世界を救うはずなんだから!」
わけがわからなくなって言葉を失ってしまったコトハに代わり、ジオが反論する。
「うむ、そのはずじゃ。超獣を容易く撃破出来るコトハはまさに英雄と呼ばれるに相応しい。じゃが……」
「なぁ、もうやめようぜ。ズンも確証もなくコトハを悪者にしたくはないはずだ」
ズンが何かを言おうとして逡巡しているのを見て、ルチャルトラが口をはさむ。
「そんなことより、これからどうするかを考えるべきだろ。ズンの仮説が正しければ、ほとんどの御神体のある町には同じ神託が来てそうだし、その神託はそれこそあの男達が言ってた通り、この一ヶ月のうちにすぐにターミナル町を通してほとんどの町に広まってると考えるべきだ」
つまり、俺達はこのままじゃどの町にも寄れず、飢え死ぬか干上がっちまう、とルチャルトラ。
「一応この事態に備えて、水と保存食は蓄えてあるが、永遠には保たんからのう」
と、ズンがルチャルトラに預けていたバックパックを示す。
「これ、重いと思ったら、そんなの用意してたのかよ」
「他にも安全に逃げる算段も立てておったんじゃがな、そっちは使い損ねた」
悔しげにズンが唸る。
「ちなみにその場合、どこに逃げるつもりだったんだ?」
「街じゃ。あそこならわしは間違いなく歓迎されるし、あまりあそこの連中は神託を気にせん。じゃが、思ったより超獣が来るのが早くての、新しい街の場所を手に入れる前に時間が来てしもた」
「今からだと神託が行き届いてるから、前に遺跡に行こうとした時みたいに地図を譲ってもらえない、ってわけか」
「それで済めばいいけどねー。最悪、町の警備に撃たれるんじゃない?」
「違いねぇな」
一行が悩んでしまう。
「それだったらさ、廃都に行くのはどうかな」
コトハはふと、前から考えていたことを口にしてみた。
「そうか! 廃都なら場所が分かるし、神託の影響も届かない!」
ルチャルトラがその提案に声を上げた。
一方のコトハは、あ、そうなんだ。ただ、廃都に行けば、私の秘密が何か分かるかもと思っただけなんだけど、と思いつつ、口には出さないことにした。
「ふむ、廃都の技術なら、あるいは、わしの仮説も確認出来るかもしれん」
ズンの静かに頷く。
「じゃあ、それで行こうよ! 目指すは廃都だ!!!!」
他の全員が同意しているのをみて、嬉しそうにジオが叫ぶ。
かくして、一行は廃都に向かうことになった。
To Be Continued…
第10章へ!a>
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「栄光は虚構と成り果て 第9章」の大したことのないあとがきを
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Legend of Tipaland
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Angel Dust
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虹の境界線を越えて
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コトハとは一味も二味も違う異世界転移ものを楽しむのもありかもしれません。
そして、これ以外にもこの作品と繋がりを持つ作品はあります。
是非あなたの手で、AWsの世界を旅してみてください。